2006年に高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(平成6年法律第44号)(通称「旧ハートビル法」。)と高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(平成12年法律第68号)(通称「旧交通バリアフリー法」。)が統合・拡充され、高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号)(通称「バリアフリー法」。)が制定されて以来、10年以上が経過した。
こうした中、2020年に東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会が開催されることとなり、これを契機として、全ての国民が共生する社会、いわゆる「共生社会」の実現を目指し、全国において更にバリアフリー化を推進するとともに、「一億総活躍社会」の実現に向けた取組を進めることが必要となっている。
具体的には、公共交通機関についての既存施設を含む更なるハード対策や旅客支援等のソフト対策の一体的な取組や地域の面的なバリアフリー化、ユニバーサル・ツーリズムの推進等が必要となっている。
このような趣旨を踏まえ、高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を改正する法律(平成30年法律第32号)(以下「改正バリアフリー法」という。)が2018年5月に成立した。加えて、改正バリアフリー法の施行に向けて、必要な政省令等を公布した (2018年11月1日施行。ただし、一部の規定は2019年4月1日施行。)。
2017年3月に、障害当事者も参画した「バリアフリー法及び関連施策のあり方に関する検討会」を設置し、高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号)(以下「バリアフリー法」という。)及び関連施策の見直しに着手した。同年6月に国土交通省2020年オリンピック・パラリンピック東京大会準備本部「バリアフリーワーキンググループ」において、バリアフリー法及び関連施策の見直しの方向性についてとりまとめ、バリアフリー法の改正に向けた準備を進めた。
当該とりまとめを踏まえ、交通事業者によるハード対策・ソフト対策一体となった取組の推進、バリアフリーのまちづくりに向けた地域における取組強化、バリアフリー法の適用対象の拡大、利用者へのバリアフリー情報の提供の推進等の措置を講ずること等を内容とした、高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を改正する法律(平成30年法律第32号)が2018年5月に成立した。
また、旅客施設、車両等に関して2018年3月に移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の構造及び設備に関する基準を定める省令(平成18年国土交通省令第111号)(以下「公共交通移動等円滑化基準」という。)及びガイドラインを改正し、駅等のバリアフリールートの最短化や大規模駅における複数化の義務付け、利用状況に応じたエレベーターの複数化又は大型化の義務付けなどを行うこととしたほか、2018年9月に公共交通移動等円滑化基準を改正し、航空機に乗降するためのタラップ等の基準を新たに設けた。
国土交通省としては、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「東京大会」という。)を契機に、共生社会の実現を東京大会の最大のレガシーの一つとすべく、ユニバーサルデザインのまちづくり、心のバリアフリーをはじめとする諸施策に省をあげて取り組んでいくとともに、大会後も見据え、全国各地における高い水準のバリアフリー化を進めていくこととしている。
「どこでも、だれでも、自由に、使いやすく」というユニバーサルデザインの考え方を踏まえた、高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号)(以下「バリアフリー法」という。)に基づき、施設等(旅客施設、車両等、道路、路外駐車場、都市公園、建築物等)の新設等の際の「移動等円滑化基準」への適合義務、既存の施設等に対する適合努力義務を定めるとともに、「移動等円滑化の促進に関する基本方針」において、2020年度末までの整備目標を定めている。交通政策基本法(平成25年法律第92号)に基づく交通政策基本計画(平成27年2月閣議決定)においても、バリアフリーをより一層身近なものにすることを目標の1つとして掲げており、これらを踏まえながらバリアフリー化の推進を図っている。
また、市町村が作成する移動等円滑化促進方針及び基本構想に基づき、移動等円滑化促進地区及び重点整備地区において面的かつ一体的なバリアフリー化を推進しているとともに、バリアフリー化の促進に関する国民の理解を深め協力を求める「心のバリアフリー」を推進するため、高齢者、障害のある人等の介助体験や擬似体験を行う「バリアフリー教室」等を開催しているほか、バリアフリー施策のスパイラルアップ(段階的・継続的な発展)を図っている。
2020年度末までの目標 | |||
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鉄軌道 | 鉄軌道駅 | 3,000人/日以上を原則100% | |
ホームドア | 約800駅 | ||
鉄軌道車両 | 約70% | ||
バス | バスターミナル | 3,000人/日以上を原則100% | |
乗合バス車両 | ノンステップバス | 約70% | |
リフト付きバス等 | 約25% | ||
貸切バス車両 | 約2,100台 | ||
船舶 | 旅客船ターミナル | 3,000人/日以上を原則100% | |
旅客船(旅客不定期航路事業の用に供する船舶を含む。) | 約50% | ||
航空 | 航空旅客ターミナル | 3,000人/日以上を原則100% | |
航空機 | 原則100% | ||
タクシー | 福祉タクシー車両 | 約44,000台 | |
道路 | 重点整備地区内の主要な生活関連経路を構成する道路 | 原則100% | |
都市公園 | 移動等円滑化園路 | 約60% | |
駐車場 | 約60% | ||
便所 | 約45% | ||
路外駐車場 | 特定路外駐車場 | 約70% | |
建築物 | 2,000㎡以上の特別特定建築物の総ストック | 約60% | |
信号機等 | 主要な生活関連経路を構成する道路に設置している信号機等 | 原則100% |
高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を改正する法律(平成30年法律第32号)(以下「改正バリアフリー法」という。)において、バリアフリー法に基づく措置は、「共生社会の実現」、「社会的障壁の除去」に資することを旨として行わなければならないことが基本理念として新たに明記された。
バリアフリー法では、公共交通機関・建築物・道路・路外駐車場・都市公園について、バリアフリー化基準に適合するように求め、高齢者や障害のある人などが日常生活や社会生活において利用する施設の整備の促進によって、生活空間におけるバリアフリー化を進めることとしている。
なお、公共交通機関には、鉄軌道、バス、福祉タクシー、旅客船、航空機が含まれ、これらの車両等を新たに導入する際には、基準に適合させることとしている。さらに、改正バリアフリー法においては、公共交通事業者等によるハード・ソフト一体的な取組を推進するため、一定の要件を満たす公共交通事業者等が、施設整備、旅客支援、情報提供、教育訓練、推進体制等を盛り込んだハード・ソフト取組計画を毎年度作成し、国土交通大臣に提出するとともに、その取組状況の報告・公表を行うよう義務付ける制度を新たに設けた。
改正バリアフリー法において、市町村は、重点的かつ一体的に移動等円滑化のための事業を実施する必要がある地区を重点整備地区とし、移動等の円滑化に係る事業の重点的かつ一体的な推進に関する基本構想を作成するよう努めることとされた。また、移動等円滑化を促進する必要がある地区を移動等円滑化促進地区とし、移動等円滑化促進方針を作成するよう努めることと新たに明記された。
移動等円滑化促進方針及び基本構想の作成に当たっては、利用者の視点を反映するよう、以下の制度を設けている。
移動等円滑化促進方針及び基本構想の作成の際、高齢者や障害のある人などの計画段階からの参加の促進を図るため、作成に関する協議等を行う協議会制度を法律に位置づけている。この協議会は、高齢者や障害のある人、学識経験者その他市町村が必要と認める者で構成され、基本構想の作成の際は、特定事業の実施主体も構成員として必要となる。
加えて、協議会の構成員として市町村から通知を受けた場合に、正当な理由がある場合を除き、必ず協議会に参加することとしており、協議の場の設定を法的に担保することで、調整プロセスの促進を図ることとしている。
移動等円滑化促進方針及び基本構想を作成する市町村の取組を促す観点から、移動等円滑化促進方針及び基本構想の内容を、高齢者や障害のある人などが市町村に対し具体的に提案できる提案制度を設けている。
バリアフリー法では、バリアフリー化の促進に関する国民の理解を深め、バリアフリー化の実施に関する国民の協力を求めるよう努めることを国の責務として定めるとともに、高齢者や障害のある人などが円滑に移動し施設を利用できるようにすることへの協力だけではなく、高齢者や障害のある人などの自立した日常生活や社会生活を確保することの重要性についての理解を深めることが、国民の責務として定められている。さらに、改正バリアフリー法においては、「心のバリアフリー」の推進のため、国及び国民の責務として、高齢者、障害者等に対する支援(鉄道利用者による声かけ等)を明記した。
高齢化やユニバーサルデザインの考え方が進展する中、バリアフリー化を進めるためには、具体的な施策や措置の内容について、施策に関係する当事者の参加の下、検証し、その結果に基づいて新たな施策や措置を講じることによって段階的・継続的な発展を図っていく「スパイラルアップ」の考え方が重要であり、バリアフリー法では、これを国の果たすべき責務として位置づけている。この考え方を踏まえ、改正バリアフリー法では、国が関係行政機関及び障害のある人を含む関係者で構成する会議を設け、定期的に移動等円滑化の進展状況を把握し、評価するよう努める旨が規定された。これを受け、国土交通省では、2019年2月に「移動等円滑化評価会議」として第1回目の会議を開催した。
高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号)(以下「バリアフリー法」という。)に基づき、駅などのハードの整備に加え、高齢者、障害のある人等の移動等円滑化の促進に関する国民の理解及び協力を求めること、いわゆる「心のバリアフリー」を国の責務として推進している。これまでも、介助の擬似体験等を通じバリアフリーに対する国民の理解増進を図る「バリアフリー教室」の全国各地での開催や、鉄道利用者への声かけキャンペーン等の啓発活動の推進を行っている。
2018年5月に成立した高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を改正する法律(平成30年法律第32号)において、国及び国民の責務として、「高齢者、障害者等が公共交通機関を利用して移動するために必要となる支援」を新たに明記している。
この改正を踏まえ、バリアフリー教室の開催を一層充実させること、2020年東京大会に向けて、鉄道の利用に当たり、高齢者、障害のある人等に対するサポートを行っていただくよう、呼びかけるキャンペーンを行うこと、障害のある人等への接遇を的確に行うため、交通事業者向けのガイドラインを新たに作成し、より実践的な研修が行われるようモデルとなる研修プログラムを作成し、交通事業者等による実施の推進を図ることとしている。また、観光事業者向けでは、「高齢の方・障害のある方などをお迎えするための接遇マニュアル(宿泊施設編/旅行業編/観光地域編)」を作成し、観光関係団体による研修等で活用されているところである。
新設される全ての公営住宅、都市再生機構賃貸住宅、改良住宅及び公社賃貸住宅について、原則として障害のある人の心身の特性に応じた設備等の設置に配慮し、バリアフリーを標準仕様としている。また、既設のものについても、建替えや改善を行うことによりバリアフリー化を進めている。
なお、障害のある人向けの公営住宅の建設に当たっては、規模の大きなものや特別の設備を設置するものに対しては、工事費に係る助成の限度額を特例的に引き上げている。
障害のある人等の利用に配慮した住宅ストックを形成するため、「高齢者が居住する住宅の設計に係る指針」により、身体機能が低下した場合にも住み続けられるような住宅の設計上の配慮事項を示している。
独立行政法人住宅金融支援機構の証券化支援事業におけるフラット35Sでは、バリアフリー性等が優れた住宅について、融資金利の引下げを行っている。
障害のある人等が安心して快適に自立した生活を送ることのできる環境の整備を促進し、障害のある人等の居住の安定の確保を図るため、障害のある人等が居住する住宅について、一定のバリアフリー改修工事を行った場合に、所得税額や固定資産税額を軽減する特例措置を設けている。
また、長期優良住宅化リフォーム推進事業において、住宅の長期優良化に資するリフォームと併せて行うバリアフリーリフォームについても支援を行っている。
既存住宅ストックを障害のある人の生活や家族の介護に配慮した住みやすいものへと改修することが可能となるよう、公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターにおいて、バリアフリーリフォーム及び介護保険における住宅改修に関するテキストを作成し、増改築相談員の研修カリキュラムに盛り込んでいる。
住宅リフォームを行うに当たっては、住宅分野と保健福祉分野の連携による適切な相談体制の確立が必要である。このため、関係省庁間の密接な連携の下、国及び地方公共団体において、障害のある人が住みやすい住宅増改築、介護機器についての相談体制を整備している。
年度 | 公営住宅建設戸数 | 都市再生機構(旧公団)賃貸住宅の優遇措置戸数 |
---|---|---|
2004年 | 132 | 2,157 |
2005年 | 128 | 1,282 |
2006年 | 107 | 1,663 |
2007年 | 66 | 686 |
2008年 | 70 | 537 |
2009年 | 102 | 674 |
2010年 | 97 | 387 |
2011年 | 83 | 144 |
2012年 | 36 | 213 |
2013年 | 20 | 103 |
2014年 | 59 | 67 |
2015年 | 54 | 183 |
2016年 | 49 | 36 |
2017年 | 31 | 32 |
官庁施設の整備においては、窓口業務を行う官署が入居する官庁施設について、バリアフリー法に基づく建築物移動等円滑化誘導基準に規定された整備水準の確保など、障害のある人をはじめ全ての人が、安全に、安心して、円滑かつ快適に利用できる施設を目指した整備を推進している。
すべての人に利用しやすい建築物を社会全体で整備していくことが望まれており、デパート、ホテル等の多数の人々が利用する建築物を、障害のある人等が利用しやすくするためには、段差の解消、障害のある人等の利用に配慮したトイレの設置、各種設備の充実等を図る必要がある。
建築物のバリアフリー化を推進するため、バリアフリー法においては、出入口、通路、トイレ等に関する基準(建築物移動等円滑化基準)を定め、不特定多数の者が利用し、又は主として障害のある人等が利用する建築物(特別特定建築物)で一定の規模以上のものに対して基準適合を義務付けるとともに、多数の者が利用する建築物(特定建築物)に対しては基準適合の努力義務を課している。(2,000㎡以上の特別特定建築物の総ストックのうち、移動等円滑化基準に適合しているものの割合:約59%(2017年度末時点))
また、障害のある人等がより円滑に建築物を利用できるようにするため、誘導すべき基準(建築物移動等円滑化誘導基準)を定めており、同基準を満たし、所管行政庁により認定を受けた優良な建築物(認定特定建築物)に対して支援措置等を講じている。
建築物のバリアフリー化を推進するため、上述の建築物移動等円滑化基準に基づき特定建築物の建築主等への指導・助言を行っている。
また、認定特定建築物等のうち一定のものについては、障害のある人等の利用に配慮したエレベーター、幅の広い廊下等の施設整備に対する助成制度(バリアフリー環境整備促進事業)により支援している。
地方公共団体が行う、公共施設等のバリアフリー化についても支援している。
総務省では、地方公共団体が実施する公共施設等のユニバーサルデザイン化のための改修事業等について、2018年度から公共施設等適正管理推進事業債にユニバーサルデザイン化事業を追加し、地方財政措置を講じている。
多くの公共施設等で、点字による情報提供において、表示方法の混乱を避けつつ更なる普及を図るため、「高齢者・障害者配慮設計指針-点字の表示原則及び点字表示方法-公共施設・設備(JIS T0921)」を2006年に制定した。また、2009年には消費生活製品に関して、「高齢者・障害者配慮設計指針-点字の表示原則及び点字表示方法-消費生活製品の操作部(JIS T0923)」を制定したが、規格を利用する際の利便性を向上させるため、2016年度にJIS T0923をJIS T0921に統合し、JIS T0921を「アクセシブルデザイン-標識、設備及び機器への点字の適用方法」へと改正した。
不特定多数の人々が利用する交通施設、観光施設、スポーツ文化施設、商業施設などの公共施設や企業内の施設において、文字や言語によらず対象物、概念又は状態に関する情報を提供する図形(案内用図記号)は、一見してその表現内容を理解できる、遠方からの視認性に優れている、言語の知識を要しないといった利点があり、一般の人だけでなく、視力の低下した高齢者や障害のある人、さらに外国人等でも容易に理解することができ、文字や言語に比べて優れた情報提供手段である。
JIS Z8210について、2015年5月には「ベビーカーが利用できる施設を表示する図記号」及び、「ベビーカーの使用を禁止する場合に表示する図記号」を追加し、併せて、当該図記号の使用方法を参考に記載するための改正を行った。また、2016年3月にも改正し、「土石流注意」等、2つの注意図記号及び「洪水/内水氾濫」等、5つの災害種別一般図記号を追加した。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを契機に外国人観光客の増加が見込まれることから、外国人観光客などにも、より分かりやすい図記号にするため、2017年7月にも改正し、国際規格との整合化の観点から7つの図記号について変更するとともに、15種類の図記号及び外見からは障害があることが分かりにくい人が周囲に支援が求めやすくする「ヘルプマーク」の図記号を新たに追加した。
災害種別避難誘導標識システムについては、2014年9月に制定した「津波避難誘導標識システム」のJIS Z9097を基に、洪水、内水氾濫、高潮、土石流、崖崩れ・地滑り及び大規模な火事にも素早く安全な場所に避難することが可能になるように、避難場所までの道順や距離についての情報を含んだ標識を、避難場所に至るまでの道のりに一連のものとして設置する場合に考慮すべき事項について規定したJIS Z9098を2016年3月に制定した。また、同年10月にこれらをISO(国際標準化機構)に提案した。
視覚障害のある人が、鉄道駅、公園、病院、百貨店などの不特定多数の人が利用する施設・設備等を安全で、かつ、円滑に利用できるようにするため、「高齢者・障害者配慮設計指針-公共トイレにおける便房内操作部の形状、色、配置及び器具の配置(JIS S0026)」、「高齢者・障害者配慮設計指針-触知案内図の情報内容及び形状並びにその表示方法(JIS T0922)」及び「高齢者・障害者配慮設計指針-触覚情報-触知図形の基本設計方法(JIS S0052)」を制定している。
本改正においては、車いす使用者用客室だけでなく、一般客室におけるバリアフリー化も促進するため、バリアフリーに配慮した一般客室の設計標準を追加するとともに、既存客室の様々な制約を解決しながら改修を進めるため、合理的・効果的なバリアフリー改修方法を提示した。また、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を契機に、障害のある人等がより円滑にホテル・旅館を利用できる環境を整備するため、ホテル等のバリアフリー客室数の基準の見直しについて、2017年12月に設置した検討会において検討を開始し、2018年6月の取りまとめを踏まえ、2018年10月、ホテル・旅館のバリアフリー客室基準を改正した。さらに、ホテル・旅館におけるバリアフリー化を促進するため、2018年9月に建築設計標準の改正に向けた検討会を設置し、2019年3月に建築設計標準の改正を行った。また、2018年8月に「宿泊施設におけるバリアフリー情報発信のためのマニュアル」を作成・公表した。
さらに2017年度補正予算において、旅館・ホテル等におけるバリアフリー化への改修の支援制度を創設した。
観光地のバリアフリー化については、観光地のバリアフリー情報の提供促進に向けて、バリアフリー指標の評価を行うマニュアルの作成を進め、利用者が各観光地のバリアフリー評価結果を手軽に比較できるように、2019年度からポータルサイト等による一元的な情報提供を実現することを目指している。
高齢者、障害のある人等の社会参加や外出等の機会をさらに促進するためには、高齢者、障害のある人等が支障なくトイレを利用できる環境を整備することが重要である。このため、「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準(以下「建築設計標準」という。)」では多機能トイレへの利用集中を避けるため、施設の用途や利用状況を勘案し、必要な各設備(オストメイト用設備や乳幼児連れに配慮した設備等)を個別機能トイレへ分散することを促進する「建築設計標準」の改正を2017年3月に行ったところである。
また、公共交通機関のトイレについても多機能トイレの機能分散を進めるため、移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の構造及び設備に関する基準(平成18年国土交通省令第111号)の改正及び公共交通機関の移動等円滑化整備ガイドライン(旅客施設編)の改訂を2018年3月に行った。さらに、多機能トイレについて、真に必要な人が必要なときに使用できるように、多機能トイレ利用マナー啓発キャンペーンを実施し、公共交通事業者、空港ターミナル会社、高速道路会社、地方公共団体等の協力の下、ポスターの一斉掲示及びチラシの配布、また、公式ツイッター等を活用し、キャンペーンの周知やマナー啓発の声かけを行った。
公共交通機関のバリアフリー化については、2000年11月に施行された高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(平成12年法律第68号)に基づく取組が行われてきたが、高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号)(以下「バリアフリー法」という。)においても、公共交通事業者等に対して、鉄道駅等の旅客施設の新設、大改良及び車両等の新規導入に際し、移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の構造及び設備に関する基準を定める省令(平成18年国土交通省令第111号)(以下「公共交通移動等円滑化基準」という。)への適合を義務付けている。また、既設の旅客施設・車両等についても公共交通移動等円滑化基準に適合させるよう努めなければならないこととしている。なお、この公共交通移動等円滑化基準については2018年9月に航空機に乗降するためのタラップ等の基準を新たに規定する改正を行うとともに、2018年5月に改正したバリアフリー法により、2019年4月からは新たに貸切バス及び遊覧船等が公共交通移動等円滑化基準への適合義務の対象となることから、2019年3月にこれらの基準を規定するための改正を行った。
公共交通機関の旅客施設のバリアフリー整備内容等を示した「公共交通機関の移動等円滑化整備ガイドライン」(旅客施設編)を2018年7月に改訂版を公表し、整備のあり方を具体的に示すことで、利用者にとって望ましい旅客施設のバリアフリー化を推進している。
公共交通機関の車両等のバリアフリー整備内容等を示した「公共交通機関の移動等円滑化整備ガイドライン」(車両等編)を2018年7月に改訂版を公表し、整備のあり方を具体的に示すことで、利用者にとってより望ましい車両等のバリアフリー化を推進している。
また、2007年8月、「旅客船バリアフリーガイドライン」を策定し、障害のある人等を始めとした多様な利用者の多彩なニーズに応え、全ての利用者がより円滑に旅客船を利用できるようなバリアフリー化の指針として、その望ましい整備内容等を示している。
都市鉄道整備事業及び地域公共交通確保維持改善事業などにおいて、鉄軌道駅等のバリアフリー化に要する経費の一部補助を実施している。
また、地方公営企業の交通事業のうち、地下鉄事業のバリアフリー化を含む建設改良事業に対する財政融資及び地方公共団体金融機構の融資制度が設けられている。
ノンステップバス、リフト付きバス、福祉タクシー、低床式路面電車(LRV)等の導入に対して、訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業などにおいて経費の一部補助を行っている。
障害のある人のための車両整備に対する低利融資制度として、地方公営企業の交通事業のうち、バス事業及び路面電車事業のバリアフリー化を含む建設改良事業に対する財政融資及び地方公共団体金融機構の融資制度が設けられている。また、ノンステップバス、リフト付きバス及びユニバーサルデザインタクシーに係る自動車重量税及び自動車取得税の特例措置が講じられているほか、低床式路面電車(LRV)に対する固定資産税の特例措置が講じられている。
バリアフリーの高度化・多様化に資する船舶(車いす対応トイレ、エレベーター等障害のある人等の利便性及び安全性の向上に資する設備を有する船舶)を建造する場合に、「独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構」の共有建造制度が活用されている。
なお、地方公営企業の交通事業のうち、船舶事業のバリアフリー化を含む建設改良事業に対する財政融資及び地方公共団体金融機構の融資制度が設けられている。
障害のある人が自立して生活し、積極的に社会参加していく上で、まち全体を障害のある人にとって利用しやすいものへと変えていくことの重要性が、近年、広く認識されるようになっている。このため、幅の広い歩道の整備や建築物の出入口の段差の解消、鉄道駅舎のエレベーターの設置やホームドア等の転落防止設備の導入、音響式信号機等の整備等による障害のある人の円滑な移動の確保、公園整備等による憩いと交流の場の確保等、福祉の観点も踏まえた総合的なまちづくりが各地で進められている。
国土交通省においては、バリアフリー法に基づき、公共交通機関、建築物、道路等の一体的・連続的なバリアフリー化を推進している。
このほか、福祉のまちづくりへの取組を支援するため、以下のような施策を実施している。
障害のある人が介助なしに外出し、公共交通機関を利用できるようにするためには、歩行者交通、自動車交通、公共交通が連携し、一連の円滑な交通手段を確保することが必要である。このため、駅等の交通結節点において道路・街路事業等により駅前広場やペデストリアンデッキ、自由通路等を整備するとともに、エレベーター、エスカレーター等の歩行支援施設の整備や沿道の建築物との直接接続を行っている。
さらに、障害のある人等に配慮した活動空間の形成を図り、障害のある人等が積極的に社会参加できるようにするために、快適かつ安全な移動を確保するための動く通路、エレベーター等の施設の整備や障害のある人等の利用に配慮した建築物の整備等を行う「バリアフリー環境整備促進事業」を実施している。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「東京大会」という。)の関連駅においては、大会を契機として、バリアフリールートの複数化、エレベーターの大型化、ホームドアの設置等のバリアフリーの高度化を進めることとしており、例えば、新国立競技場の最寄り駅である千駄ヶ谷駅、信濃町駅、青山一丁目駅、外苑前駅において、東京大会までにエレベーターの増設又は大型化、ホームドアの整備等を行うなど、高次元のバリアフリーに向けた整備を実施している。2018年度においては、国際展示場駅(りんかい線)、青山一丁目駅(東京メトロ半蔵門線)、有楽町駅(JR京浜東北線)においてホームドアの整備が完了した。
また、新宿駅、東京駅等の大規模駅においては、エレベーターの増設により、移動経路を大幅に短縮することとしており、例えばJR新宿駅においては、2020年までに、駅の改良にあわせてエレベーターの増設を行うことで、移動経路を大幅に短縮し、UDタクシー(ユニバーサルデザインタクシー:身体障害者のほか、高齢者や妊産婦、子供連れの人等、様々な人が利用できる構造を持ち、流し営業にも活用できるタクシー車両)の普及とあわせて、シームレスかつ最短経路での移動を実現することとしている。
新宿、渋谷、品川等の都内の主要ターミナル等においては、2020年の供用を目標として都市再開発プロジェクトを実施する中でバリアフリー化を推進することとしており、例えばJR新宿駅では、2016年3月にとりまとめたバリアフリー等に関する「新宿ターミナル基本ルール」の理念に合わせ、東西自由通路の整備を実施している。
また、東京大会を契機として、全国の鉄道駅についても安全性・利便性を向上させる取組を実施しており、例えば、車椅子使用者の利用環境の改善に向けて、予約時の利便性の向上等の取組を進めるとともに、ハンドル形電動車椅子の鉄道車両等への乗車要件について、車椅子使用者の人的要件を撤廃、車椅子の構造要件を大幅に緩和し、2018年4月より運用を開始している。
駅ホームの安全性向上については、ホームドア整備の前倒しや駅員による誘導案内などハード・ソフト両面からの転落防止対策を推進している。このうちホームドアについては、1日当たりの乗降客数が10万人以上の駅において、車両の扉位置が一定など整備条件を満たしている場合には、原則として2020年度までに整備することとしており、2017年度末時点で1日あたりの乗降客数10万人以上の275駅のうち、105駅が整備を完了している。
ホームドアの整備にあわせて、ホームと車両の段差・隙間の最小化も推進している。2018年度より施設・車両の構造等を踏まえて車椅子での単独乗降と鉄道の安全確保を両立しうる段差・隙間の数値化についての検討を始め、その結果を踏まえ、東京大会開催に向けて、山手線内を中心に単独乗降可能駅を路線図上で分かりやすく示す等を行うことで、障害のある人により使いやすくする情報提供を併せて進めることとしている。
都内の路線バスのノンステップバス比率については、2016年度末で91.9%であったところ、2017年度末で92.7%となっており、引き続き導入を促進することとしている。空港アクセスバスについては、新宿と羽田を結ぶ路線において、リフト付バスの運行を開始するなど、バリアフリー化を拡充しており、更なるバリアフリー化の推進策や目標について検討をしている。また、都内のタクシーについては、2020年に4台に1台をUDタクシー(ユニバーサルデザインタクシー:身体障害者のほか、高齢者や妊産婦、子供連れの人等、様々な人が利用できる構造を持ち、流し営業にも活用できるタクシー車両)化することを目指し、支援を実施している。
なお、リフト付バス、UDタクシーについては、既存の導入支援策に加え、2017年10月から交付を開始した2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会特別仕様ナンバープレートにおける寄付金を活用することとしている。
空港のバリアフリー化については、成田空港、羽田空港等において、2016年度に設定したエレベーターの増設やトイレの機能分散等の数値目標に基づき、取組の具体化を実施するとともに、タラップや搭乗橋を含め、ターミナルビルから航空機搭乗口まで、切れ目のない円滑な移動経路を確保するための取組を推進している。2018年度末時点で、成田空港、羽田空港国際線ターミナルにおいてトイレのフラッシュライト整備が完了しており、今後も各空港において数値目標達成に向け取組を推進していくこととしている。また、発達障害者向けに、成田空港でクールダウン設備を設置するなど、障害種別に応じた対応を推進している。
主な取組 | 成田 | 羽田(国際) | 羽田(国内) | |||
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目標 | 進捗状況 | 目標 | 進捗状況 | 目標 | 進捗状況 | |
トイレのフラッシュライト整備 | 100%設置 | 完了 (146/146か所) | 100%設置 | 完了 (57/57か所) | 多機能トイレに100%設置 | 今後整備予定 T1(0/22か所)T2(0/29か所) |
多機能トイレ又はトイレ機能の分散化 | 男女別複数設置 (主要動線上) | 36%整備済 (4/11か所) | 男女別複数設置 (主要動線上) | 完了 (16/16か所) | 男女別複数設置 (主要動線上) | 今後整備予定 T1(0/2か所)T2対応済 |
その他取組 | エレベーターの7台増設,3台改修 | 今後整備予定 増設:0/7台改修:0/3台 | エレベーターの17台増設 | 今後整備予定 0/17台 | - | - |
固定橋エレベーターの18台新設 | 今後整備予定 新設:0/18台 | ステップレス搭乗橋の11台増設 | 今後整備予定 0/11台 | - | - |
農林水産省においては、障害のある人に配慮した生活環境の整備を図るため、「農山漁村地域整備交付金」や「農山漁村振興交付金」等により農山漁村地域における広幅員歩道の整備や段差の解消等について支援している。
最近における地方公共団体の動きとしては、総合的なまちづくりを効果的に進めるために、福祉のまちづくりに関する条例の制定など制度面の整備が行われるとともに、事業面においても、ユニバーサルデザインによるまちづくり(全ての人にやさしいまちづくり)が行われている。
総務省では、地方公共団体が行う高齢者、障害のある人、児童等全ての人が自立していきいきと生活し、人と人との交流が深まる共生型の地域社会の実現に向けた取組を支援するため、ハード・ソフト両面から必要な地方財政措置を講じている。ソフト事業として、ユニバーサルデザインによるまちづくりや特定非営利活動法人(NPO法人)等の活動の活性化を推進する地方公共団体の取組に要する経費に対して、普通交付税措置を行うとともに、ハード事業として、ユニバーサルデザインによるまちづくり、地域の少子高齢化社会を支える保健福祉施設整備、共生社会を支える市民活動支援のための施設整備等に対して、地域活性化事業債等により財政措置を講じている。
また、国民一人一人が、高齢者や障害のある人の困難を自らの問題として認識し、その社会参加に積極的に協力する「心のバリアフリー」社会を実現するため、国土交通省では主に小・中学校生を対象としたバリアフリー教室を開催している。
高齢者や障害のある人の自立と社会参加を促進するためには、高齢者や障害のある人等が公共交通機関などの施設を円滑に利用できるようにすることが必要であるが、バリアフリー施設の整備といったハード面の対応だけではなく、国民一人ひとりが高齢者や障害のある人等の移動制約者を見かけた際に進んで手を差し伸べる環境づくりといったソフト面の対応も重要である。
このため、多くの国民が高齢者や障害のある人等に対する基礎的知識を学び、車いす利用体験や視覚障害者擬似体験・介助体験等を行うことを通じて、バリアフリーについての理解を深めるとともに、ボランティアに関する意識を醸成し、誰もが高齢者や障害のある人等に対して自然に快くサポートできる「心のバリアフリー」社会の実現を目指すことを目的として、全国各地で「バリアフリー教室」を開催している。
2017年度には、全国で257件の「バリアフリー教室」を開催し、約1万3千人の参加を得た。小中学生をはじめとした学生や、鉄道やバスといった公共交通関係事業に関わる現場職員等、様々な方にご参加いただいている。
体験終了後、参加した学生からは、「大変さや苦労を知ることができた」、「とても勉強になった。声をかけることはとても勇気がいると思うが、学んだことを生かし、素直な気持ちで障害のある方のお手伝いができたらと思う」などの感想をいただくなど、本教室が高齢者・障害のある人等の移動制約者に対する理解とボランティアに関する意識啓発の一助となっている。
都市計画における総合的な福祉のまちづくりに関する取組としては、適切な土地利用や公共施設の配置を行うとともに、障害のある人に配慮した道路、公園等の都市施設の整備、土地区画整理事業や市街地再開発事業などの面的な都市整備を着実に進めていることがあげられる。
市町村が具体の都市計画の方針として策定する「市町村の都市計画に関する基本的な方針(市町村マスタープラン)」の中に、まちづくりにおける高齢者や障害のある人等への配慮を積極的に位置付け、都市計画に反映することもできる。
全国の都市の再生を効率的に推進する観点から、地域の創意工夫を生かした個性あふれるまちづくりを実施するため、都市再生整備計画に基づく事業(都市再生整備計画事業)に対して、社会資本整備総合交付金による支援を行っている。本制度の活用により、全国各地において、地域住民の生活の質の向上と地域経済・社会の活性化に向けた取組が進められており、その一環として、バリアフリー化等を通じて、安心・快適に過ごせるまちづくりが多くの市町村で実施されている。
市街地再開発事業等においては、再開発ビルに一定の社会福祉施設等を導入するものを「福祉空間形成型プロジェクト」と位置付け、通常の助成対象に加え、共用通行部分整備費、駐車場整備費等を助成対象とするとともに、社会福祉施設等と一体的に整備する場合の整備費に関する助成額の割増を実施しており、これにより、再開発ビルへの社会福祉施設等の円滑な導入を促している。
また、バリアフリー化等に対応した施設建築物を整備する場合に生じる付加的経費について、別枠で補助を行っている。
移動は就労、余暇等のあらゆる生活活動を支える要素であり、その障壁を取り除き、全ての人が安全に安心して暮らせるよう歩道、信号機等の交通安全施設等の整備を推進している。
バリアフリー法に基づき、駅、官公庁施設、病院等を結ぶ道路や駅前広場等において、高齢者や障害のある人を始めとする誰もが安心して通行できるよう、幅の広い歩道の整備や歩道の段差・傾斜・勾配の改善、無電柱化、視覚障害者誘導用ブロックの整備等による歩行空間のバリアフリー化を推進している。また、整備に当たっては、バリアフリー法を踏まえて、駅構内、病院など公共的施設のバリアフリー化やノンステップバスの導入等と連携して整備を行っている。
さらに、「移動等円滑化の促進に関する基本方針」では、重点整備地区内の主要な生活関連経路を構成する道路に設置されている信号機等については、2020年度までに、原則として全ての当該道路において、バリアフリー対応型信号機等の設置等の移動等円滑化を実施することを目標としており、音響により信号表示の状況を知らせる音響式信号機や、歩行者等と車両が通行する時間を分離して交通事故を防止する歩車分離式信号等の整備を推進している。
加えて、冬期の安全で快適な歩行空間を確保するため、中心市街地や公共施設周辺等における除雪の充実や消融雪施設の整備等のバリアフリーに資する施設整備を実施している。
高齢者、身体に障害のある人等を含む全ての人々が安全で快適に自動車の利用ができるよう、路外駐車場のバリアフリー化を図ることが必要である。
バリアフリー法に路外駐車場のバリアフリー化が位置づけられ、同法の規定に基づき、167「移動等円滑化のために必要な特定路外駐車場の構造及び設備に関する基準を定める省令」(平成18年国土交通省令第112号)を制定し、バリアフリー化を推進している(2017年度末現在の特定路外駐車場のバリアフリー化率:62.7%)。
また、「移動等円滑化の促進に関する基本方針」において、特定路外駐車場のバリアフリー化の目標を定めており、引き続き、目標達成に向け、地方公共団体及び関係団体等に対して周知の徹底を図り、路外駐車場のバリアフリー化を一層推進していくこととしている。
障害のある人等の輸送をより便利にするため、地域公共交通確保維持改善事業により福祉タクシー車両の導入等に対して経費の一部補助を行うなど、福祉タクシーの普及促進を図っている。
また、バス事業者、タクシー事業者のみによっては十分な輸送サービスが確保できないと認められる場合において、地域の関係者が移動手段の確保のために必要であると合意した場合には特定非営利活動法人(NPO法人)等による福祉有償運送を可能としている。今後、福祉タクシーとNPO法人等による福祉有償運送がそれぞれ多様なニーズに応じた輸送を提供することにより、障害のある人等の外出が促進されることが期待される。
2017年度末における福祉タクシーの導入状況は、20,113両となっている。
また、屋外での移動が困難な障害のある人について、外出のための支援を行うことにより、地域における自立生活及び社会参加を促すため、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)に基づく地域生活支援事業において、各市町村が地域の特性や利用者のニーズに応じて、個別支援型、グループ支援型及び車両移送型など柔軟な形態で、ガイドヘルパーの派遣などのサービスを提供する「移動支援事業」を実施している。
経済産業省では、障害のある人等がITを活用して社会・経済に積極的に参画できる環境を整備するため、2004年度に「高齢者・障害者配慮設計指針-移動支援のための電子的情報提供機器の情報提供方法(JIS T0901)」を制定した。
鉄道、バス、タクシー、旅客船、航空等の各公共交通機関では、身体障害者手帳の交付を受けた身体に障害のある人・療育手帳の交付を受けた知的障害のある人及び常時介護を要するこれらの人の介護者に対して運賃・料金の割引を実施している。
有料道路では、身体障害者手帳の交付を受けた身体に障害のある人が自ら運転する場合や、身体に重度の障害のある人又は重度の知的障害のある人の移動のために介護者が運転する場合において、通行料金の割引を実施している。
また、精神障害者保健福祉手帳については、2006年10月1日より身体障害者手帳及び療育手帳と同様に写真貼付を行うこととし、本人確認を容易にし、手帳の信頼性を向上させ、各自治体における公共施設の入場料や公共交通機関の運賃に対する割引等の支援の協力を得やすくしている。さらに、発達障害のある人及び高次脳機能障害のある人について、手帳の交付の対象であることを明確化するため、2011年4月には、手帳の診断書の様式及び判定基準を改正した。
なお、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた精神障害のある人及びその介護者の運賃・料金の割引については、鉄道、バス、タクシー、旅客船等の一部の公共交通事業者において既に実施しているところであるが、2018年度より、多くの航空運送事業者が導入し、全モードの公共交通事業において実施されることとなった。
一定の障害のある人に対して駐車禁止除外指定車標章を交付し、駐車禁止の交通規制の対象から除外している。
国土交通省では、障害者等用駐車区画の適正利用を確保する観点から、多くの地方公共団体において導入されている「パーキングパーミット制度」について、好事例の共有を通じた制度の改善を促進するとともに、制度のメリット等の周知を行う等により未導入の地方公共団体に対する制度の普及促進等を図ることとしている。
国土交通省では、高齢者や障害のある人、訪日外国人旅行者等も含め、誰もが屋内外をストレス無く自由に活動できるユニバーサル社会の構築に向け、ICTを活用した歩行者移動支援の取組を推進している。
多様な主体によるサービス創出に向けたオープンデータ推進等の環境整備を行っており、施設や経路のバリアフリー情報等の移動に必要なデータを多くの方の参加により継続的に収集する方法について検討した。また、移動支援サービスの普及を促進するため、災害時における屋内外位置情報利活用のモデルケースとして、東京駅周辺エリアにおいて過年度に整備した高精度な屋内電子地図を活用し、防災情報を関係者間で共有する俯瞰型情報共有サービスの実証実験を実施した。
障害のある人を含む全ての人が、屋内外を問わず、自分の現在位置や、目的地までの経路等の情報を容易に入手できるよう、GPSの電波が届かない地下街や公共の施設内におけるインフラ(屋内電子地図、測位機器)の整備や施設のバリアフリー情報を含む各種データのオープンデータ化等を推進している。2018年度は東京オリンピック・パラリンピック競技大会の競技会場周辺エリア等における歩道の段差や幅員等の情報をデータ化し、オープンデータとして公開するとともに、歩行空間の情報を多くの方の参加により収集する実証や高精度な屋内電子地図と測位環境を活用した俯瞰型情報共有サービス実証等を実施し、歩行者移動支援サービスのさらなる普及を図った。
2012年3月に閣議決定した「観光立国推進基本計画」に基づき、障害のある人を含む誰もが旅行を楽しむことが出来るユニバーサルツーリズムを促進している。
2018年度には、障害のある人等向けのツアー商品化促進に向けて、経済活性化に資する旅行商品の検証などを行った。また、2018年8月に「宿泊施設におけるバリアフリー情報発信のためのマニュアル」を作成・公表するとともに、2019年4月に「観光地におけるバリアフリー情報の提供のためのマニュアル」を作成・公表した。
さらに、障害のある人を含む訪日外国人旅行者の安全・安心を確保するため、旅館・ホテル等におけるバリアフリー化への改修の支援を実施した。
加えて、公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団では、高齢者や身体に障害のある人等の移動支援のため、インターネットによる公共交通機関のバリアフリー情報提供の一環として「らくらくおでかけネット」を運用しており、2019年4月には英語対応やスマートフォン対応、検索機能の改修等を行った。この「らくらくおでかけネット」では、約8,000の駅・ターミナルのバリアフリー情報を提供し、約2,232万件(2002年1月の運用開始時から2018年3月末時点までの累計)のアクセス数となっている。
都市公園は、良好な都市環境の形成、地震災害時の避難地などの機能を有するとともに、スポーツ、レクリエーション、文化活動などを通じた憩いと交流の場であり、障害のある人の健康増進、社会参加を進める上で重要な役割を担っていることから、利便性及び安全性の向上を図ることが必要である。
バリアフリー法では、一定の要件を満たした園路及び広場、休憩所、並びに便所等の特定公園施設について、新設等の際の基準への適合義務、既存の施設等に対する適合努力義務等を定めている。
都市公園のバリアフリー化については、障害のある人を含む全ての人の利用に配慮した公園施設とするため、園路の幅の確保や段差・勾配の改善、車いす使用者を始め、多くの人にとって利用可能な駐車場やトイレの設置など、公園施設のバリアフリー化を行ってきており、都市公園移動等円滑化基準の運用等により、今後一層推進していくこととしている (2017年度末現在の公園施設のバリアフリー率(園路及び広場:約51%、駐車場:約48%、便所:約35%))。また、社会資本整備総合交付金により、都市公園のバリアフリー化を推進している。
全国の国営公園においては、身体等に障害のある人や介添する人に対する入園料金を免除することにより、野外活動の機会の増進や経済的負担の軽減を図っているほか、国営昭和記念公園等においては、障害のある人も楽しく安全に遊ぶことができるバリアフリー化した遊具等を設置している。
環境省では、国立公園等において、主要な利用施設であるビジターセンター、園路、公衆トイレ等のユニバーサルデザイン化を推進しており、人にやさしい施設の整備を進めている。
河川、海岸等の水辺空間は、公園と同様に、障害のある人にとって憩いと交流の場を提供するための重要な要素となっている。このため、河川利用上の安全・安心に係る河川管理施設の整備により、良好な水辺空間の形成を推進している。また、日常生活の中で海辺に近づき、身近に自然と触れ合えるようにするため、海岸保全施設のバリアフリー化を推進している。
港湾緑地は、誰もが快適に利用できるよう、計画段階から周辺交通施設との円滑なアクセス向上に配慮するとともに、施設面においてもスロープ、手すりの設置や段差の解消等のバリアフリー対応が図られるよう取り組んでいる。また、マリーナ等については、障害のある人でも気軽に安全に海洋性レクリエーションに参加できるよう、マリーナ等施設のバリアフリー化を推進している。
森林は、心身の癒しや健康づくりの場等として、幅広い国民に利用されている。このため、年齢や障害の有無等にかかわらず多様な利用者に対応できるよう、ユニバーサルデザインの考え方を踏まえた森林歩道等の整備を推進している。
1日当たりの平均利用者数3,000人以上の旅客施設数 | 2017年度末 | 1日当たりの平均利用者数3,000人以上かつトイレを設置している旅客施設数 | 2017年度末 | ||
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段差の解消 | 視覚障害者誘導用ブロック | 障害者用トイレ | |||
鉄軌道駅 | 3,575 | 3,192(89.3%) | 3,372(94.3%) | 3,340 | 2,846(85.2%) |
バスターミナル | 47 | 44(93.6%) | 43(91.5%) | 40 | 29(72.5%) |
旅客船ターミナル | 15 | 15(100.0%) | 11(73.3%) | 13 | 12(92.3%) |
航空旅客ターミナル | 37 | 33(89.2%) | 37(100.0%) | 37 | 36(97.3%) |
2017年度末 | 車両等の総数 | 2017年度末移動等円滑化基準に適合している車両等 | |
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鉄軌道車両 | 52,527 | 37,420(71.2%) | |
バス | ノンステップバス | 46,132 | 26,002(56.4%) |
リフト付きバス | 14,192 | 834(5.9%) | |
旅客船 | 660 | 289(43.8%) | |
航空機 | 623 | 609(97.8%) |
全交通事故死者に占める歩行者の割合は3割を超えており、歩行者の安全を確保することが重要な課題であることから、障害のある人を含む全ての人が安全に安心して道路を通行できるよう、生活道路等において、都道府県公安委員会と道路管理者が連携し、信号機の新設・改良や、歩道等の整備、車両の速度抑制や通過交通の進入抑制を図る物理的デバイスの設置等の生活道路対策を推進するとともに、最高速度30km/hの区域規制に加え、その他の安全対策を必要に応じて組み合わせて、区域内における速度の抑制や通過交通の抑制・排除を図る「ゾーン30」等の面的かつ総合的な事故抑止対策を推進している。
歩行空間の整備に当たっては、様々な利用者の視点を踏まえて整備され、整備後も、不法占用や放置自転車のない歩行環境が確保されるよう、行政と住民・企業など地域が一体となった取組を行っていく必要がある。このようなことから、様々な利用する人の視点に立って道路交通環境の整備が行われ、適切な利用が図られるよう、「交通安全総点検」の点検結果を新規整備の際に活用するなど計画段階から住民が参加した整備を推進している。
また、道路を通行する者が適正な交通の方法を容易に理解することができるようにするため作成されている「交通の方法に関する教則」(昭和53年国家公安委員会告示第3号)において、自転車を駐車する際には点字ブロック上及びその近辺に駐車しないようにすべきことを明記している。
音響により信号表示の状況を知らせる音響式信号機、信号表示面に青時間までの待ち時間及び青時間の残り時間を表示する経過時間表示機能付き歩行者用灯器、歩行者等と車両が通行する時間を分離して交通事故を防止する歩車分離式信号等のバリアフリー対応型信号機等の整備を推進している。
種類 | 基数 |
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高齢者等感応信号機 | 6,724基 |
歩行者感応信号機 | 1,331基 |
視覚障害者用付加装置 | 19,680基 |
音響式歩行者誘導付加装置 | 3,469基 |
歩行者支援装置 | 534基 |
障害のある人を含む全ての人が安心して運転できるよう、ゆとりある道路構造の確保や視環境の向上、疲労運転の防止等を図ることとし、道の駅等の休憩施設の整備、付加車線(ゆずり車線)の整備、道路照明の増設を行うとともに、高速道路等のサービスエリア(SA)やパーキングエリア(PA)、自動車駐車場等において障害者用トイレや障害者用駐車スペース等の設置を実施しているほか、信号灯器のLED化、道路標識・道路標示の高輝度化、175交通情報提供装置の整備、道路情報板、情報ターミナル等の道路情報提供装置やそれを支える光ファイバ網等の情報通信基盤の整備を推進している。
また、道路交通法(昭和35年法律第105号)においては、肢体不自由を理由として免許に条件を付された者が、身体障害者標識を表示して普通自動車を運転している場合には、他の運転者は、危険防止のためやむを得ない場合を除いて、その普通自動車に対して幅寄せや割込みをすることが禁止されている。
さらに、同法においては、身体に障害のある歩行者等その通行に支障がある歩行者が道路を横断し、又は横断しようとしている場合において、当該歩行者から申出があったときその他必要があると認められるときは、警察官等その他その場所に居合わせた者は、当該歩行者が安全に道路を横断することができるように努めなければならないこととし、車両等の運転者は、身体に障害のある歩行者等その通行に支障のある者が通行しているときは、その通行を妨げないようにしなければならないこととされている。
聴覚障害のある人の自動車の運転については、補聴器を使用して一定の音が聞こえる人は、補聴器を使用することを条件に、大型自動車、中型自動車、準中型自動車、普通自動車、及び大型特殊自動車(バスやタクシー等の旅客自動車等を含む。)を運転することができる。また、補聴器を使用しても一定の音が聞こえない人は、ワイドミラー、補助ミラー又は後方等確認装置の使用を条件に、準中型自動車又は普通自動車を運転することができる。
なお大型自動二輪車、普通自動二輪車、小型特殊自動車及び原動機付自転車の免許については、聴力の適性試験が廃止されている。
補聴器を使用しても一定の音が聞こえない人が準中型自動車又は普通自動車を運転する際には、聴覚障害者標識の表示が義務付けられており、聴覚障害者標識を表示した自動車に対する幅寄せや割込みは禁止されている。警察では、聴覚障害者標識に関する広報啓発を行うとともに、聴覚障害のある人が安全に運転できるよう、関係団体と連携し、免許取得時の教習等の充実や周囲の運転者が配慮すべき事項についての安全教育に努めている。
さらに、警察では、高齢者や障害のある人が安全で余裕のある駐車ができるよう、都道府県公安委員会が交付した専用場所駐車標章を掲示した普通自動車に限り、指定された区間・場所に駐車又は停車することができる高齢運転者等専用駐車区間を整備している。
ハイブリッド車や電気自動車は、「音がしなくて危険と感じる」との意見が寄せられていることを受け、国土交通省においては、学識経験者、視覚障害者団体、自動車メーカー等からなる「ハイブリッド車等の静音性に関する対策検討委員会」の結果を踏まえて、2010年1月に「ハイブリッド車等の静音性に関する車両接近通報装置のガイドライン」を定めるとともに、自動車メーカー等の関係者に周知し、対策の早期普及を促してきた。更に、本ガイドラインを基に、国連において日本が策定を主導してきた国際基準が2016年3月に成立し、同年10月に発効したことに合わせ、ハイブリッド車等に車両接近通報装置を義務付けるため、道路運送車両の保安基準等の一部を改正する省令(平成28年国土交通省令第73号)を公布・施行した。
過疎地域等地方における移動手段の確保や、ドライバー不足への対応等が喫緊の課題であることを踏まえ、高齢者、障害者等の安全快適な移動に資するTSPS(信号情報活用運転支援システム)、DSSS(安全運転支援システム)、ETC2.0等のITS(高度道路交通システム)の研究開発及びサービス展開を実施するとともに、高度自動運転システムの開発や、地方、高齢者、障害のある人等向けの無人自動運転移動サービス実現に取り組んでいる。
運転者に信号交差点への到着時における信号灯火等に関する情報を事前に提供することで、ゆとりある運転を促し、急停止・急発進に伴う交通事故の防止等を図っている。
道路に設置された無線機等から運転者へ周辺の交通状況等を視覚・聴覚情報により提供することで、危険要因に対する注意を促し、ゆとりを持った運転ができる環境を作り出すことにより、交通事故防止を図っている。
ETC2.0は、大量の情報の送受信が可能となることや、インターチェンジの出入り情報だけでなく経路情報の把握が可能となることなど、これまでのETCと比べて格段と進化した機能を有しており、道路利用や道路政策に様々なメリットをもたらし、ITS推進に大きく寄与するシステムである。
2019年2月時点で約357万台がセットアップされており、全国の高速道路上に設置された路側機を活用し、広域的な渋滞情報の提供や、カーブ先の見えない渋滞といった危険な状況の注意喚起など、交通の円滑化と安全に向けた取組を進めている。
また、路側機から収集される速度や利用経路、急ブレーキのデータなど、多種多様できめ細かいビッグデータを活用して、ピンポイント渋滞対策や交通事故対策など、安全な生活道路づくりに取り組んでいる。
運転者に対しては、障害のある人を含む全ての歩行者に対する保護意識の高揚を図るため、関連団体と連携し、運転者教育、安全運転管理者による指導その他広報啓発活動を推進している。
また、障害のある人に対しては、字幕入りビデオの活用や参加・体験・実践型の交通安全教室の開催等により、交通安全のために必要な技能及び知識を習得できるよう、障害の程度に応じたきめ細かい交通安全教育を推進している。
道路交通法上、一定の基準に該当する原動機を用いる身体障害者用の車椅子を通行させている者は歩行者とされるが、2018年度において、その基準に該当する5型式が型式認定された。
身体に障害のある運転免許取得希望者の利便の向上を図るため、各都道府県警察の運転免許試験場に、スロープ、エレベーター等を整備することに努めているほか、運転適性相談窓口を設け、身体に障害のある人の運転適性について知識の豊富な職員を配置して、運転免許取得に関する相談を行っている。
また、身体に障害のある人が、身体の状態に応じた条件を付すことにより、自動車の安全な運転に支障を及ぼすおそれがないと認められるときは、身体に障害のある人のために改造を行った持込み車両等による技能試験を受けることができることとしているほか、指定自動車教習所に対しても、身体に障害のある人の持ち込み車両による教習の実施や、身体に障害のある人の教習に使用できる車両や取り付け部品の整備、施設の改善等を指導している。
このほか、知的障害のある運転免許取得希望者の利便の向上を図るため、学科試験の実施に当たり、試験問題の漢字に振り仮名を付けるなどの対応をしている。
条件 | 人数 |
---|---|
補聴器の使用 | 39,882人 |
補聴器の使用(使用しない場合はワイドミラー又は補助ミラー又は後方等確認装置と聴覚障害者標識を付けた普通自動車又は準中型自動車に限定) | 622人 |
ワイドミラー、補助ミラー又は後方等確認装置を付けた普通自動車又は準中型自動車に限定 | 1,205人 |
身体障害者用車両に限定 | 193,939人 |
義手、義足又は装具の条件 | 3,883人 |
合計 | 239,531人 |
2011年3月11日に発生した東日本大震災を経験し、防災対策における高齢者、障害者、乳幼児等の「要配慮者」に対する措置の重要性が一層高まったところである。
このため、高齢者や障害者などの多様な主体の参画を促進し、地域防災計画に多様な意見を反映できるよう、地方防災会議の委員として、自主防災組織を構成する者又は学識経験のある者を追加すること等を盛り込んだ災害対策基本法(昭和36年法律第223号)の改正を実施した(災害対策基本法の一部を改正する法律(平成24年法律第41号))(第1弾改正)。
その後、第1弾改正で残された課題や、防災対策推進検討会議の最終報告書(2012年7月31日)等を踏まえ、市町村長に要配慮者のうち災害時の避難行動に特に支援を要する者について名簿を作成することを義務付けること、主として要配慮者を滞在させることが想定される避難所に適合すべき基準を設けること等を盛り込んだ法改正を実施した 179(災害対策基本法等の一部を改正する法律(平成25年法律第54号))(第2弾改正)。
第2弾改正を受け、避難行動要支援者名簿の作成・活用に係る具体的手順等を盛り込んだ「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」を2013年8月に策定・公表した。
また、第2弾改正においては、避難所における生活環境の整備等に関する努力義務規定も設けられ、この取組を進める上で参考となるよう、主に、避難所運営に当たって避難者の支援における留意点等を盛り込んだ、「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」を策定・公表した。2015年度においては、避難所や福祉避難所の指定の推進、避難所のトイレの改善、要配慮者への支援体制の構築等に係る課題について、有識者による検討会を開催し、幅広く検討を行った。これらの検討を踏まえて、2016年度においては、市町村におけるより一層の取組を促進するため、「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」を改定するとともに、「避難所運営ガイドライン」、「トイレの確保・管理ガイドライン」、「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」を作成して公表した。
市町村が、要配慮者にも配慮した、避難所、避難路等の整備を計画的、積極的に行えるよう、防災基盤整備事業等により支援し、地方債の元利償還金の一部について交付税措置を行っている。
また、地域防災計画上社会福祉施設など要配慮者等の避難所となる公共施設のうち、耐震改修を進める必要がある施設についても公共施設等耐震化事業等により支援し、地方債の元利償還金の一部について交付税措置を行っている。
防災基盤整備事業の一つとして「災害時要援護者緊急通報システム」の普及に努めるとともに、要配慮者が入所する施設における避難対策の強化等の防火管理の充実について消防機関に周知している。
地域や企業等における各種防災訓練の際に、要配慮者を重点とした避難誘導訓練を実施し、防災意識の高揚を図っている。
各都道府県警察においては、障害のある人が入所する施設等への巡回連絡等による障害のある人の防災に関する知識の普及等障害のある人に対する支援体制の整備促進に努めている。
災害時においては、建物の崩壊、道路の損壊等による交通の混乱が予想されることから、プローブ情報を収集できる高度化光ビーコン、交通情報板等の整備を推進し、災害時に障害のある人等を救援するための緊急通行車両等の通行を確保するとともに、災害時の停電による信号機の機能停止に備え、信号機電源付加装置の整備を推進し、障害のある人等の安全な避難を確保するよう努めている。
要配慮者対策を推進するには、まず、地域における要配慮者の状況を的確に把握した上で、社会福祉施設など要配慮者が入所している施設自らの対策を促進するための情報提供等を行う必要がある。
また、要配慮者や要配慮者利用施設への防災情報の伝達体制を整備し、入所者等の避難・救出・安否確認などの警戒避難体制の具体化を促進するとともに、被災した場合の防災関係機関への迅速な通報体制の整備及び避難先における入所者等の生活確保体制の整備を促進する必要がある。同時に、要配慮者利用施設の職員や消防職団員、自主防災組織等が中心となって、地域の実情に応じた支援体制をつくることが必要である。
要配慮者利用施設における土砂災害対策については、社会福祉施設等を保全するため、土砂災害防止施設の整備を第4次社会資本整備重点計画に基づき重点的に実施し、激甚な水害・土砂災害を受けた場合は再度災害防止対策を実施する。あわせて、土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(平成12年法律第57号、平成29年5月改正。以下「土砂災害防止法」という。)に基づき、土砂災害警戒区域内に位置し、市町村地域防災計画に位置づけられた要配慮者利用施設の管理者等に対し、避難確保計画の作成及び避難訓練の実施を義務づけ、施設利用者の円滑かつ迅速な避難の確保を図っている。
また、土砂災害・全国防災訓練では、住民等が主体となり要配慮者利用施設等が連携し地域の実情にあわせた避難訓練等を重点的に実施している。
土砂災害特別警戒区域における要配慮者利用施設の建築の許可制等を通じて要配慮者等の安全が確保されるよう、土砂災害防止法に基づき基礎調査や区域指定の促進を図っている。
水災時における要配慮者利用施設の利用者の円滑かつ迅速な避難を確保するため、2017年に水防法(昭和24年法律第193号)が改正された。本改正により、市町村地域防災計画に位置づけられた浸水想定区域内の要配慮者利用施設の所有者又は管理者に対し避難確保計画の作成及び訓練の実施が義務づけられ、水災防止体制の強化を図っている。
また、要配慮者の安全かつ迅速な避難が可能となるように、防災情報システム等の整備強化を図ることに加え、洪水、津波、高潮、土砂災害等が発生した場合に備え、過去の災害や危険か所、情報入手方法、避難場所、避難経路等を具体的に示したハザードマップ等によるきめ細かな情報の提供を推進し、防災意識の高揚に努めている。
さらに、山地災害危険地区等のうち病院、社会福祉施設等の要配慮者利用施設が隣接しているか所において計画的な治山対策の推進を図っている。
洪水被害を防止又は軽減することを目的に行う河川整備や、過去の高潮・津波等による災害発生の状況等を勘案した海岸保全施設整備等を積極的に推進することとしている。浸水被害は被災後従前の生活に戻るまでに多大な労力を要し、障害のある人にとって日常生活に著しい負担をもたらすものであるため、そうした被害に対しては、再度災害の防止を図るためのハード整備を着実に推進するとともに、ハザードマップなどの円滑かつ迅速な避難を支援するソフト対策を一体的に行っている。
また、雨量・水位等の河川情報を地方公共団体や地域住民に迅速かつ的確に伝達するため、インターネットや地上デジタル放送等によりリアルタイムで情報提供しており、特に雨量・水位が一定量を超えるなどの緊急時においては、迅速な水防活動を実施するために、警報等で危険を知らせている。地方公共団体の防災活動や国民の警戒避難行動等を支援し、土砂災害から人命を守るため、気象庁及び都道府県が共同して、土砂災害警戒情報の提供を行っており、2014年の土砂災害防止法の改正により土砂災害警戒情報が法律上に明記されるとともに、市町村への通知及び一般への周知が都道府県に義務付けられている。渇水時においても情報提供を推進しており、全国のダムの貯水状況、取水制限、給水制限を受けている市町村に関する情報等の提供を行っている。
全国の消防機関等では、春、秋の全国火災予防運動を通じて「特定防火対象物等における防火安全対策の徹底」等を重点目標として取り組んでおり、障害のある人等が入居する小規模社会福祉施設等においては、適切な避難誘導体制の確保を図るとともに、消防法令違反の重点的な是正の推進など必要な防火安全対策の徹底を図っている。
多くの消防本部では、聴覚・言語機能障害者を始めとする音声通話による119番通報が困難な人のために、FAXや電子メールなどの通報手段を提供している。
また、消防庁では、スマートフォン等を活用して、音声によらない円滑な通報を行える新たなシステム(Net119緊急通報システム)について、2017年3月に標準仕様等をとりまとめ、各消防本部での導入を促進するとともに、厚生労働省と連携して障害のある人への周知・利用促進にも取り組んでいる。
救急現場において、タブレット型情報通信端末やスマートフォンに導入された多言語音声翻訳アプリを利用することで、救急隊員が外国人や聴覚に障害のある人と円滑なコミュニケーションを図ることができる。
多言語音声翻訳アプリ「救急ボイストラ」(消防庁消防研究センターとNICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)が救急隊用に開発したアプリケーション)については、救急現場で使用頻度が高い46の会話を「定型文」として登録しており、音声と画面の文字でコミュニケーションが可能となっている。
救急ボイストラの定型文は、英語、中国語(繁体字、簡体字)、韓国語のほか、全部で15種類の言語で利用することができる。
2017年4月からAndroid版、2018年1月からiOS版を提供開始しており、2018年12月31日現在、全国728消防本部のうち、376本部(51.6%)で使用されている。
都道府県 | 使用開始 | (参考)消防本部数 | 都道府県 | 使用開始 | (参考)消防本部数 |
---|---|---|---|---|---|
北海道 | 37 | 58 | 滋賀 | 1 | 7 |
青森 | 8 | 11 | 京都 | 5 | 15 |
岩手 | 9 | 12 | 大阪 | 26 | 27 |
宮城 | 6 | 12 | 兵庫 | 18 | 24 |
秋田 | 8 | 13 | 奈良 | 3 | 3 |
山形 | 4 | 12 | 和歌山 | 7 | 17 |
福島 | 2 | 12 | 鳥取 | 2 | 3 |
茨城 | 9 | 24 | 島根 | 5 | 9 |
栃木 | 10 | 12 | 岡山 | 8 | 14 |
群馬 | 10 | 11 | 広島 | 4 | 13 |
埼玉 | 27 | 27 | 山口 | 5 | 12 |
千葉 | 13 | 31 | 徳島 | 4 | 13 |
東京 | 4 | 5 | 香川 | 9 | 9 |
神奈川 | 11 | 24 | 愛媛 | 3 | 14 |
新潟 | 6 | 19 | 高知 | 1 | 15 |
富山 | 0 | 8 | 福岡 | 2 | 25 |
石川 | 4 | 11 | 佐賀 | 5 | 5 |
福井 | 4 | 9 | 長崎 | 2 | 10 |
山梨 | 3 | 10 | 熊本 | 1 | 12 |
長野 | 8 | 13 | 大分 | 6 | 14 |
岐阜 | 20 | 20 | 宮崎 | 6 | 10 |
静岡 | 8 | 16 | 鹿児島 | 7 | 20 |
愛知 | 14 | 34 | 沖縄 | 14 | 18 |
三重 | 7 | 15 | 合計 | 376 | 728 |
Net119緊急通報システムは、聴覚・言語機能に障害のある人など音声通話での119番通報が困難な人が、スマートフォンなどを活用して音声によらずに消防への通報を行える新たなシステムである。
Net119緊急通報システムでは、スマートフォンなどから通報用Webサイトにアクセスして消防本部に通報を行う。
消防本部が消防隊や救急隊をどこに出動させるべきかを判断するために必要な「救急」「火事」の別と、通報者の位置情報を入力すれば、消防本部に通報が繋がり、詳細な情報はその後にチャットで確認する仕組みとなっている。
位置情報については、スマートフォンなどのGPS機能で測位した現在位置を用いることができる。
また、事前に自宅住所などを登録しておくことで、GPS信号が届かない屋内などでも「自宅」などのボタンを選択することにより正確な位置を伝えることが可能である。
事前に登録した自宅などからの通報の場合は、例えば、 ①通報する → ②救急 → ③自宅のように、3回のボタン操作で119番通報を行うことができる。
外出先などの登録されていない場所からの通報の場合は、GPS機能で測位した位置情報が消防本部に通知される。
また、練習通報により、実際の通報と同じ操作が体験できる(この練習通報時の通報は、消防本部へは送信されない。)。
通報を行うことが難しい場合には、周囲の人に119番通報を代わりに行ってもらうようお願いすることも可能である。
通報後に消防本部との通信が途切れた場合には、呼び返しメールが事前に登録されたメールアドレスに送信され、そこに記載されているURLから消防本部とのチャットを再開することができる。
また、消防本部との迅速なやりとりを行うため、定型的な質問を予め準備しており、文字入力を行うことなく選択肢を選ぶことで回答することができる。
消防庁では、全国どこからでも、Net119緊急通報システムによる通報を行った際にその場所を管轄する消防本部に繋がるよう、各消防本部における同システムの導入を促進しており、2018年度からは、システムの導入・運用に関する経費について地方財政措置を講じている。
2018年12月末時点のNet119緊急通報システム導入本部数は728本部中148本部(20.3%)であり、最新の導入状況等については、消防庁のホームページに掲載している。
東日本大震災及び熊本地震に伴い、被災地、被災者に対して講じられた施策のうち、障害のある人への支援の一環として実施されているものとして、主に次のような施策がある(2019年3月現在)。
厚生労働省は、障害のある人や障害福祉サービスの提供を行う事業者に対し、以下のような利用者負担の減免や障害福祉サービスに係る措置を弾力的に行うよう通知等を行った。
(ア)利用者への対応について
・被災した障害者等にかかる障害福祉サービス等の利用者負担を市町村が免除した場合、この利用者負担額について、国がその全額を財政支援することとした。
(イ)障害福祉サービスの提供について
・被災者等を受け入れたときなどに、一時的に、定員を超える場合を含め人員配置基準や施設設備基準を満たさない場合も報酬の減額等を行わないこととした。
・また、やむを得ない理由により、利用者の避難先等において、安否確認や相談支援等のできる限りの支援の提供を行った場合は、これまでの障害福祉サービスとして報酬の対象とすることとした。
・避難所においてホームヘルプサービスを提供した場合も報酬の対象とすることとした。
・さらに、利用者とともに仮設の施設や他の施設等に避難し、そこにおいて障害福祉サービスを提供した場合も報酬の対象とすることとした。
(ウ)介護職員等の派遣、避難者の受入等
・各事業所等において、介護職員等が不足している場合には、国や県などの調整を受けて、別の事業所等より介護職員等の派遣を行った。
・また、被災等により利用者の避難が必要である場合には、国や県等において調整を行い、受入先を確保した。
(エ)被災地における障害福祉サービス等の再開支援について
・震災を受け被災した障害者支援施設等の復旧事業や事業再開に要する経費に関する国庫補助事業を実施し、復旧支援を行った。
・甚大な被害を受けた被災地の障害福祉サービス事業所等が復興期においても安定したサービス提供を行うことができるよう、被災県ごとに支援拠点を設置し、
(a)障害者就労支援事業所の活動支援 (業務発注の確保、流通経路の再建等)
(b)福祉・介護職員等の人材確保のための支援
を行うための予算措置を行った。
東日本大震災における心のケアについては、災害救助法(昭和22年法律第118号)に基づき、精神科医、看護師、精神保健福祉士等4、5人程度で構成される「心のケアチーム」が、市町村の保健師と連携を取りながら避難所の巡回等を行った。
被災者の生活の場が災害公営住宅や自宅に移った後も、心のケアが必要な人に必要なケアが継続して行き届くよう、岩手、宮城、福島の各県に「心のケアセンター」を活動拠点として設置し、看護師、精神保健福祉士、臨床心理士等の専門職のチームが、保健所及び市町村と連携しながら、相談支援や訪問支援等を通じて「専門的な心のケア」を提供している。
さらに、2018年度から、「心のケアセンター」の連携の強化、福島県外避難者の支援体制の構築、支援者への支援の充実、専門研修・調査研究の推進等の取組の充実・強化に着手している。
また、熊本地震の心のケアについては、精神医療チームの派遣として、厚生労働省が、発災直後からDMHISS(災害精神保健医療情報支援システム)を活用してDPAT(災害派遣精神医療チーム)の情報集約、派遣調整を行い、熊本県からの派遣要請に基づき、震災発生当日にDPATを派遣した。現地では、精神科医療機関への支援として、被災した精神科医療機関から県内及び県外の医療機関に患者搬送を行った。また、避難所内の巡回活動が行われ、被災者の精神面に関する相談や健康調査、不眠に係るリーフレットの配布等の活動が実施された。さらに、2016年10月に、被災者の精神的健康の保持及び増進を図るため「熊本こころのケアセンター」を設置し、精神疾患に関する相談支援、仮設住宅入居者等への訪問支援等を通じて、きめ細かな「専門的な心のケア」を実施している。
全国の発達障害者支援センターの中核として、国立障害者リハビリテーションセンターに設置されている発達障害情報・支援センターでは、東日本大震災直後から、発達障害のある人に対する円滑な支援を図るため、被災地で対応する人々に向けて、支援の際の留意点等の情報提供を行った。また、災害時に必要な対応をまとめた冊子を作成し、ホームページに掲載するとともにその周知を行った (http://www.rehab.go.jp/ddis/災害時の発達障害児・者支援について/)。
文部科学省では、障害のある幼児児童生徒も含め、東日本大震災で被災したことにより就学困難となった幼児児童生徒の就学の機会を確保するため、就学援助等を実施するとともに、各都道府県教育委員会等に対し、被災した幼児児童生徒の学校への受入れを要請している。また、熊本地震等で被災した幼児児童生徒に対しても同様の対応を行っている。
国立特別支援教育総合研究所は、東日本大震災に際し、2011年度に「震災後の子どもたちを支える教師のためのハンドブック~発達障害のある子どもへの対応を中心に~」を作成し、関係機関に配布するとともに、ホームページに掲載をしている(http://www.nise.go.jp/cms/6,3758,53.html)。なお、熊本地震においては、国立特別支援教育総合研究所ホームページトップに「熊本関連情報」として、ハンドブックのURLを再掲し、改めて周知を図った。
文部科学省及び厚生労働省では、東日本大震災に際し、被災した障害のある幼児児童生徒の状況把握及び支援、教育委員会、学校等が支援を必要とする幼児児童生徒を把握した場合に保護者の意向を確認した上で市町村障害児福祉主管課に連絡するなどの教育と福祉との連携、障害児支援に関する相談窓口等の周知について、各都道府県教育委員会、障害児福祉主管課に対し要請している。
障害のある人は、防犯に関する通常のニーズを満たすのに特別の困難を有しており、また、犯罪や事故の被害に遭う危険性が高く、不安感も強いことから、障害のある人の気持ちに配慮した各種施策の推進に努めている。
障害のある人が警察へアクセスする際の困難を取り除くため、警察では、スマートフォン等を使用して、画像等の音声以外で緊急通報が行える全国一律の「携帯電話用110番サイトシステム」の整備に向けて検討を進めているほか、全都道府県警察における、FAX及びEメールでの緊急通報の受理(FAX110番及びメール110番)、巡回連絡等による情報提供、交番等へのスロープ設置等を行っている。
障害のある人が犯罪や事故の被害に遭うことの不安感を除くための対策としては、巡回連絡等を通じて、障害のある人の相談や警察に対する要望に応じるとともに、身近な犯罪や事故の発生状況、防犯上のノウハウ等の安全確保に必要な情報の提供に努めていることなどがあげられる。
また、警察では、関係省庁及び関係団体と連携して、住宅等に対する侵入犯罪対策として大きな効果が期待できる防犯性能の高い建物部品の開発・普及を図っているほか、公益社団法人日本防犯設備協会と連携し、同協会が策定したホームセキュリティガイドの中で障害のある人に対応した安全で信頼性の高い機器を紹介している。
2016年7月に神奈川県相模原市の障害者支援施設で発生した殺傷事件を踏まえ、障害者支援施設等を利用する障害のある人が安心して生活できるように、厚生労働省では、2016年9月に「社会福祉施設等における防犯に係る安全の確保について(通知)」を発出し、防犯に係る日常の対応や緊急時の対応に関する具体的な点検項目を示し、各施設において必要な取組がなされるように周知した。
また、防犯に係る安全確保のための施設整備の補助を行うための予算措置を行い、安全確保体制の構築を促進している。
地域生活支援事業においては、障害のある人の情報通信技術の利用・活用の機会の拡大を図るため、IT関連施策の総合サービス拠点となる障害者ITサポートセンターの運営(26都府県:2017年度末時点)や、パソコンボランティア養成・派遣等が実施されている。また、今後、IoTやAIなどの新たなICTを活用することにより、障害の特性、状態、生活実態等、個々の障害者の状況にきめ細かな対応を可能とする製品やサービスの開発・提供が期待されている。総務省では、2017年11月に情報通信審議会情報通信政策部会の下に「IoT新時代の未来づくり検討委員会」を設け、ICTを利活用できるようにするための施策について、検討を行った。2018年8月、「未来をつかむTECH戦略」において、「スマートインクルージョン構想」を提言した。本提言を受け、2018年11月、総務大臣政務官、厚生労働大臣政務官の共宰による「デジタル活用共生社会実現会議」を開催し、障害当事者参加型ICT製品・サービス開発の仕組み、情報アクセシビリティ確保のための環境整備等について議論を行っている。
情報通信の活用によるメリットを十分に享受するためには、障害のある人を含めだれもが、自由に情報の発信やアクセスができる社会を構築していく必要がある。
障害のある人の利用に配慮した情報通信機器・システムの研究開発の推進に当たっては、その公益性・社会的有用性が極めて高いにもかかわらず、収益性の低い分野であることから、国立研究機関等における研究開発体制の整備及び研究開発の推進を図るとともに、民間事業者等が行う研究開発に対する支援を行うことが重要である。
また、家電メーカーや通信機器メーカーにおいては、引き続き障害者・高齢者に配慮した家電製品の開発・製造に努めているところである。また、2016年度より国際標準化団体のISO/IEC JTC1にてスマートフォンやタブレットのアクセシビリティ向上を目的とした議論が継続して審議されており、我が国製造メーカーも参加している。2018年度には情報アクセシビリティに関する日本工業規格(JIS)として制定している「高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス-第4部:電気通信機器」について、スマートフォン等のアクセシビリティの確保・向上を目的として改正を行った。
情報アクセシビリティに関する日本工業規格(JIS)として「高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス」(JIS X8341シリーズ)を制定している(具体的には「共通指針」、「パーソナルコンピュータ」、「ウェブコンテンツ」、「電気通信機器」、「事務機器」、「対話ソフトウェア」、「アクセシビリティ設定」について制定。)。
また、国内の規格開発と並行し、国際的な情報アクセシビリティのガイドライン共通化を図るため、JIS X8341シリーズのうち、「共通指針」、「パーソナルコンピュータ」及び「事務機器」について国際標準化機構(ISO)へ国際標準化提案を行い、2012年までに、それぞれ国際規格が制定された。1902018年においては、国際規格との整合性を高めるため「電気通信機器」のJIS規格を改定した。
各府省は、高齢者や障害のある人を含めた全ての人々の利用しやすいものとするため、ウェブコンテンツ(掲載情報)に関する日本工業規格(JIS X8341-3)を踏まえ、ホームページにおける行政情報の電子的提供の充実に努めている。
総務省では、2015年度に公的機関がホームページ等のバリアフリー化に取り組むためのガイドラインである「みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)」を改定し、アクセシビリティ評価ツール(miChecker)を更新した。2017年度に実施した国及び地方公共団体の公式ホームページのJIS規格対応状況を調査の結果を受け、2018年度は全国8か所での公的機関向け講習会を実施したほか、公的機関を対象としたアンケート調査や独立行政法人等の公式ホームページのJIS規格対応状況調査を実施した。
障害の有無にかかわらず、全ての人々にとってアクセシブルでインクルーシブな2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「東京大会」という。)を実現するため、公益社団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下「組織委員会」という。)、国の関係行政機関、東京都、関係地方公共団体、障害者団体及び障害者スポーツに関わる団体等で構成するアクセシビリティ協議会において、「Tokyo2020アクセシビリティ・ガイドライン(※1)」をとりまとめ、国際パラリンピック委員会(以下「IPC」という。)から承認を得て、組織委員会により公表されている(※2)。
※1:IPCが定める『IPCアクセシビリティガイド』と国内関係法令等に基づき、東京大会の各会場のアクセシビリティに配慮が必要なエリアと、そこへの動線となるアクセス経路、輸送手段、組織委員会による情報発信・表示サイン等の基準、及び関係者の接遇トレーニング等に活用する指針として、組織委員会が作成するもの。
項目 | 内容 | |
---|---|---|
エレベーターのかごの大きさ | 推奨 | 幅2,100mm×奥行1,500mm(IPCの推奨)、又は同等水準のサイズ
※鉄道駅等は、複数台設置により全体容量で推奨基準を達成する場合、当該基準を満たしたものとみなす。 |
標準 | 幅1,700mm×奥行1,500mm(IPCの遵守基準)、又は同等水準のサイズ | |
※構造上の理由等によって標準を満たせない場合
幅1,400mm×奥行1,350mm(国の遵守基準)
| ||
出入口のドア幅 | 推奨 | 950mm(IPCの推奨) |
標準 | 大会会場では850mm(IPCの遵守基準)
公共交通機関では900mm(国の推奨)
| |
※構造上の理由等によって標準を満たせない場合
800mm(国の遵守基準)
| ||
傾斜路の踊り場 | 推奨 | 高低差500mm以内ごとに設置(IPCの推奨) |
標準 | 高低差750mm以内ごとに設置(国の遵守基準)
※公共交通機関の屋外部分は高低差600mm以内ごとに設置(国の推奨基準)を標準とし、構造上の理由等でそれを満たせない場合にのみ、上記規定を適用 |
電子投票とは、電磁的記録式投票機(いわゆる電子投票機)を用いて投票する方法であり、開票事務の迅速化に貢献するとともに、自書が困難な選挙人であっても比較的容易に投票することが可能である。
我が国における電子投票は、2002年2月より、地方公共団体の議会の議員及び長の選挙において導入することが認められている。
総務省としては、電子投票システムの更なる信頼性向上のための技術的な課題や電子投票促進のための改善点等についての検討を引き続き行い、地方公共団体に対する必要な情報の提供に取り組んでいる。
テレワークは、ICTを利用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方であり、女性、高齢者、障害のある人等の就業機会の拡大にも寄与するものと期待されている。
政府では、テレワークが様々な働き方を希望する人の就業機会の創出及び地域の活性化等に資するものとして、関係府省が連携し、テレワークの一層の普及拡大に向けた環境整備、普及啓発等を推進している。
総務省においては、社内コミュニケーションに不安がある、セキュリティが心配であるといった様々な課題に対応すべく、セミナーの開催、専門家の派遣、先進事例の表彰、セキュリティガイドラインの策定・改定等の様々な施策を推進している。
また、2017年から、関係府省・団体が連携し、2020年東京オリンピックの開会式が予定されている7月24日を「テレワーク・デイ」と位置付け、全国一斉のテレワークを実施している。2018年には7月23日から27日の期間中に、7月24日プラスその他の日の合計2日間以上テレワークを実施する「テレワーク・デイズ」として規模を拡大し、参加を呼びかけたところ、1,682団体、延べ30万人以上が参加した。
今後、ますます発展することが想定される5G、IoT(※)、AI(※)などの新たなICTによって、障害のある人に対し、障害の特性、状態、生活実態等の様々な状況にきめ細かな対応を可能とする製品やサービスの開発・提供が可能となり、障害のある人の自分らしい人生への支援に資することが期待される。
総務省では、2017年11月、情報通信審議会情報通信政策部会の下に「IoT新時代の未来づくり検討委員会」を設置し、同委員会の下に設置された「人づくりWG」において、2030~2040年頃の未来イメージから逆算する形で、障害のある人に対するICT利活用支援策を中心に検討し、2018年8月、「未来をつかむTECH戦略(第5次中間答申)」の中で、年齢、障害の有無、性別、国籍等にかかわらず、みんなが支え合うインクルーシブな社会を目指す「スマートインクルージョン構想」を提言した。
総務省は、本答申を受け、2018年11月、新たに厚生労働省と共宰で「デジタル活用共生社会実現会議」を開催し、誰もがデジタル活用の利便性を享受し、多様な価値観やライフスタイルを持って豊かな人生を送ることができる「インクルーシブ(包摂)」な社会の実現を目指し、検討を行った。2019年3月には本会議の議論の成果として、共生社会の実現に向けた障害のある人の社会参画に関する課題を日常生活等の支援、就労環境の整備及び社会の意識改革(心のバリアフリー)の3点として整理し、その課題解決に向けたICT活用による諸施策を提言の形でとりまとめた。とりまとめでは、障害当事者参加型のICT機器・サービスの開発体制の整備や、障害のある人の情報アクセシビリティ確保のための企業によるアクセシビリティ基準の自己評価の仕組み(日本版VPAT)の導入について提言が行われた。
また、学校でのプログラミング教育を通じてICTへの興味・関心を高めた児童生徒が、障害の有無によらず、地域において発展的・継続的に学べる環境づくりに資するために、2018年度より「地域におけるIoTの学び推進事業」(地域ICTクラブ)を実施している
総務省では、高齢者や障害のある人向けの通信・放送サービスの開発を行うための通信・放送技術の研究開発を行う者に対し、支援を行っている(図表4-12)ほか、国立研究開発法人情報通信研究機構を通じて、身体に障害のある人のための通信・放送サービスの提供又は開発を行う者に対する助成、情報提供を実施している。
通信サービスの中でも特に電話は、障害のある人にとって日常生活に欠かせない重要な通信手段となっており、こうした状況を踏まえ、電気通信事業者においても、音量調節機能付電話等福祉用電話機器の開発や車椅子用公衆電話ボックスの設置など障害のある人が円滑に電話を利用できるよう種々の措置を講じている。
社会福祉法人日本盲人会連合においてネットワークを利用し、新聞情報等を即時に全国の点字図書館等で点字データにより受信でき、かつ、視覚障害のある人が自宅にいながらにしてウェブ上で情報を得られる「点字ニュース即時提供事業」を行っている。
また、社会福祉法人日本点字図書館を中心として運営されている視覚障害情報総合ネットワーク「サピエ」により、点字・録音図書情報等の提供を行っている。
障害のある人の社会参加に役立つ各種情報の収集・提供と、情報交換の支援を行う「障害者情報ネットワーク(ノーマネット)」では、障害のある人からの情報アクセスを容易にするため、文字情報、音声情報及び画像情報を統合して同時提供するマルチメディアシステム化を図るとともに、195国内外の障害保健福祉研究情報を収集・蓄積し、インターネットで提供する「障害保健福祉研究情報システム」を構築している。
2018年5月に、障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備を含む著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)が成立・公布され、2019年1月1日から施行された。これにより、視覚障害者等のために書籍の音訳等を権利者の許諾なく行うことを認める権利制限規定(著作権法(昭和45年法律第48号)第37条第3項)において、音訳等を提供できる障害者の範囲について、改正前から対象として明示されている視覚障害や発達障害等のために視覚による表現の認識に障害がある者に加え、新たに肢体不自由等の者が対象となるよう規定が明確になったとともに、権利制限の対象とする行為について、改正前から対象となっているコピー(複製)、譲渡やインターネット送信(自動公衆送信)に加えて、新たにメール送信等が対象となった。また、同法の施行に伴う政省令の改正により、上述の規定により視覚障害者等のために書籍の音訳等を権利者の許諾なく行える団体等について、改正前から対象とされている障害者施設や図書館等の公共施設の設置者や文化庁長官が個別に指定する者に加え、新たに文化庁長官の指定を受けずとも一定の要件を満たす者が対象となった。
著作権法の一部を改正する法律が、第196回通常国会において、2018年5月18日に成立し、同年5月25日に平成30年法律第30号として公布され、一部の規定を除き2019年1月1日に施行された。
同法律では、障害者の情報へのアクセス機会の向上のため、視覚障害者等のために書籍の音訳等を権利者の許諾なく行うことを認める権利制限規定(著作権法(昭和45年法律第48号)第37条第3項)において、音訳等を提供できる障害者の範囲について、改正前から対象として明示されている視覚障害や発達障害等のために視覚による表現の認識に障害がある者に加え、新たに肢体不自由等の者が対象となるよう規定が明確になったとともに、権利制限の対象とする行為について、改正前から対象となっているコピー(複製)、譲渡やインターネット送信(自動公衆送信)に加えて、新たにメール送信等が対象となった。
また、同法律の施行に伴い、著作権法施行令の一部を改正する政令(平成30年政令第360号)及び著作権法施行規則の一部を改正する省令(平成30年文部科学省令第37号)が、2018年12月28日に公布され、一部の規定を除き2019年1月1日に施行された。上述の規定(著作権法第37条第3項)により視覚障害者等のために書籍の音訳等を権利者の許諾なく行うことが認められる者については、改正前までは、障害者入所施設や図書館等の公共施設の設置者、視覚障害者等のための書籍の音訳等を的確かつ円滑に行うことができる技術的能力や経理的基礎等の体制を有するものとして文化庁長官が個別に指定する者、が規定されていたが、適切な体制を有しているボランティア団体等については広く対象に含めることが望ましいと考えられることから、改正後には、一定の要件を満たす者については、文化庁長官の指定を受けることなく、書籍の音訳等を行うことができることとしている。詳しくは、文化庁ホームページ(http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/1412247.html)をご覧いただきたい。
内閣府では、視覚に障害がある人に対して政府の重要な施策の情報を提供するため、政府広報として音声広報CD「明日への声」及び点字・大活字広報誌「ふれあいらしんばん」を発行(年6回、各号約4,900部)し、それぞれ全国の視覚障害者情報提供施設協会、日本盲人会連合、特別支援学校、公立図書館(都道府県、政令市、中核市、特別区立等)、地方公共団体等、約3,000か所に配布している。
法務省刑事局では、犯罪被害者やその家族、さらに一般の人々に対し、検察庁における犯罪被害者の保護・支援のための制度について分かりやすく説明したDVD「もしも…あなたが犯罪被害に遭遇したら」を全国の検察庁に配布しているが、説明のポイントにテロップを利用しているほか、全編に字幕を付すなどしており、聴覚障害のある人も利用できるようになっている。
また、犯罪被害者等向けパンフレットの点字版及び同パンフレットの内容を音声で録音したCDを作成し、全国の検察庁及び点字図書館等へ配布を行い、視覚障害のある人に情報提供している。
法務省の人権擁護機関では、各種人権課題に関する啓発広報ビデオを作成する際に、字幕付ビデオも併せて作成するとともに、啓発冊子等に、音声コード(専用の機械に読み取らせることにより、本文の音声読み上げが可能なもの)を導入し、聴覚や視覚に障害のある人も利用できるようにしている。
国政選挙においては、2003年の公職選挙法(昭和25年法律第100号)改正により、郵便等投票の対象者が拡大されるとともに、代理記載制度が創設されているほか、障害のある人が投票を行うための必要な配慮として、点字による「候補者名簿及び名簿届出政党等名簿」の投票所等への備付け、投票用紙に点字で選挙の種類を示す取組、点字版やカセットテープ、コンパクトディスク等の音声版による候補者情報の提供、投票所における車椅子用スロープの設置や点字器の備え付け等を行っている。
また、政見放送における取組として、衆議院比例代表選出議員選挙及び都道府県知事選挙にあっては、手話通訳の付与、参議院比例代表選出議員選挙にあっては、手話通訳及び字幕の付与、衆議院小選挙区選出議員選挙にあっては、政見放送として政党が作成したビデオを放送することができ(いわゆる「持込みビデオ方式」)、政党の判断により手話通訳や字幕をつけることができることとしている。参議院選挙区選出議員選挙にあっては、2018年の公職選挙法改正により持込みビデオ方式が導入されたため、198持込みビデオ方式においては候補者の判断により手話通訳や字幕をつけることができるとともに、放送事業者における収録(いわゆる「スタジオ録画方式」)においても手話通訳の付与ができることとなった。
視聴覚障害のある人が、テレビジョン放送を通じて情報を取得し、社会参加していく上で、字幕放送、解説放送、手話放送等の普及は重要な課題であり、総務省においては、その普及を推進している。
1997年の放送法(昭和25年法律第132号)改正により、字幕番組、解説番組をできる限り多く放送しなければならないとする努力義務規定が設けられた。
その後、総務省は、1997年に2007年度までの目標を定めた「字幕放送普及行政の指針」を、2007年に2017年度までの目標を定めた「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」を策定し、視聴覚障害のある人等に向けた放送の普及を促してきた。そして2018年にその後の10年間の目標を定めた「放送分野における情報アクセシビリティに関する指針」を策定したところであり、現在、この指針に基づき、各放送事業者において視聴覚障害のある人等に向けた放送の拡充に関する取組が進められている。また、国立研究開発法人情報通信研究機構を通じて字幕番組、解説番組及び手話番組の制作費等の一部助成も行っている。
しかしながら、特に生放送の放送番組に字幕を付与するには多くの人手とコストがかかり、全ての放送番組に字幕を付与することが困難等の課題がある。このような課題への対応として、新たな技術を字幕放送の補完として活用できないかを検証するため、総務省では、2018年度に通信回線を利用した自動音声認識字幕付与システムの実用化に向けた実証事業を実施した。
字幕付きCMの普及についても、2014年10月に発足した字幕付きCM普及推進協議会(日本アドバタイザーズ協会、日本広告業協会、日本民間放送連盟の3団体で構成)では、関係者によるセミナーを開催し、字幕付きCMの啓発、ベスト・プラクティスの共有、課題解決に向けた検討等を行っているほか、年に1度、障害者団体との意見交換を実施し、字幕付きCMの一層の普及に向けた活動を行っている。
厚生労働省では、聴覚障害のある人のために、字幕(手話)入り映像ライブラリーや手話普及のための教材の制作貸出し、手話通訳者等の派遣、情報機器の貸出し等を行う聴覚障害者情報提供施設について、全都道府県での設置を目指し、その整備を促進している。
障害のある人がIoT(※)、AI(※)等による利便性を最大限に享受できるようにするため、その前提として製品やサービスにおける情報アクセシビリティの確保が不可欠である。総務省では、年齢や障害の特性を問わず、誰もが公的機関のホームページから必要な情報やサービスを利用できるようにするため、2018年度には公的機関のホームページ担当者を対象としたウェブアクセシビリティに関する講習会を開催したほか、全国の公的機関を対象としたアンケート調査や、独立行政法人等の公式ホームページにおける情報アクセシビリティ確保状況の調査を実施している。
また、IoT、AI等の発展により、ICT分野におけるこれまでの視覚、聴覚、身体障害中心の対応だけでなく、精神、発達、知的障害、難病を含め、あらゆる障害に対応できる可能性があることから、これらの関連技術の開発を推進していくため、 ①障害者向けのICTサービスを提供する中小企業等への助成、 ②障害者向けの新たなICTサービスの研究開発を行う民間企業等への助成を行っている。
さらに、障害のある人向け放送サービスの提供に対する支援として、字幕番組、解説番組、手話番組等の制作を行う者への制作費の助成を実施しているほか、音声認識技術の高度化及び字幕が付与されていない放送番組に対して自動で字幕を生成しスマートフォン等によって表示させる技術の実用化に対する助成を実施している。
地域生活支援事業においては、聴覚、言語機能、音声機能、視覚その他の障害のため、意思疎通を図ることに支障がある人に、手話通訳者等の派遣や設置、点訳や音声訳等による支援などを行う意思疎通支援事業や、点訳奉仕員、朗読奉仕員、要約筆記者、手話奉仕員及び手話通訳者等の養成研修が実施されている。また、2013年度からは、手話通訳者、要約筆記者及び盲ろう者向け通訳・介助員の養成研修を都道府県の必須事業とするとともに、派遣を行う事業についても市町村で実施できない場合などは都道府県が実施する仕組みとし、意思疎通支援の強化を図っている。2018年度からは、失語症者向け意思疎通支援者の養成研修も都道府県の必須事業として位置づけた。
各都道府県警察においては、聴覚に障害のある人のための字幕スーパー入り講習用映画の活用や手話通訳員の確保に努めている。また、言語での意思伝達を困難とする人たちと警察官とのコミュニケーションを円滑にするため、協力団体と共に開発し、提供を受けた「コミュニケーション支援ボード」を、全国の交番、パトカー等に配備し、活用している。
厚生労働省においては、2017年度より、全国4か所の聴覚障害者情報提供施設等において、聴覚障害のある人が一人で電話をかけられるよう、手話通訳や文字通訳に対応するオペレーターを配置して支援する「電話リレーサービス」を実施しており、2018年度からは、全国7か所の聴覚障害者情報提供施設において実施している。また、総務省及び厚生労働省においては、2019年1月より、「電話リレーサービスに係るワーキンググループ」を開催し、電話リレーサービスの在り方について検討を行っている。
日本工業標準調査会(JISC)は、文字や話し言葉によるコミュニケーションの困難な人が、自分の意思や要求を相手に的確に伝え、正しく理解してもらうことを支援するための絵記号に関する規格を「コミュニケーション支援用絵記号デザイン原則(JIS T0103)」として制定し、2010年に障害のある人が会議に参加しやすいように主催者側の配慮事項を「アクセシブルミーティング(JIS S0042)」として規格を制定した。
インターネットの普及により、家族や友人とメールやチャットで連絡をとったり、お店や病院の予約をそれぞれのホームページから行ったりと、文字情報だけで用事を済ませられることが多くなってきた。しかし、電話しか連絡手段がない場合や、至急確認が必要となる場面など、現在も電話は生活に不可欠なコミュニケーションツールである。
このように、電話が必要となる場面は多いものの、電話は音声によるやりとりを要するため、聴覚に障害のある人にとっては縁遠い存在である。どうしても電話を使う必要があるときは、家族や友人などに頼んでかけてもらうこととなる。それでも、頻繁に電話をかける時はだんだん頼みづらくなったり、頼める相手がいないときなどは電話を使うことができない。
そのような不便さを解消するため、聴覚に障害がある人が一人で電話をかけられるようにする「電話リレーサービス」の取組が進められている。電話リレーサービスは、利用者(聴覚に障害のある人)が、手話や文字による情報と音声情報とを通訳するオペレーターを経由して、相手先(聴者)に電話をかけられるサービスである。
まず、利用者が、相手先に伝えたい内容を手話や文字情報でオペレーターに伝えると、それをオペレーターが電話の相手先に音声で伝える。それに対して、相手先が音声でオペレーターに返答すると、オペレーターが手話や文字情報で利用者に返答内容を伝える、というものである。
これまでも民間企業などで実施される例はあったが、東日本大震災の被災地向けに始まった日本財団のモデルプロジェクトが、2013年から全国向けに展開されたことにより、大きく広まった。また、厚生労働省においても2017年度から、日本財団のモデルプロジェクトの協力も得ながら、全国4か所の聴覚障害者情報提供施設で電話リレーサービスを行う事業をスタートさせ、2018年度からは、全国7か所の聴覚障害者情報提供施設において実施している。さらに、総務省及び厚生労働省においては、2019年1月より、「電話リレーサービスに係るワーキンググループ」を開催し、電話リレーサービスの在り方について検討を行っている。
ICTや通信機器の進展により、電話という社会参加に不可欠なツールが、聴覚に障害のある人にとっても身近なものになりつつある。