新設されるすべての公営住宅、都市再生機構賃貸住宅、改良住宅及び公社賃貸住宅について、原則として障害のある人の心身の特性に応じた設備等の設置に配慮し、バリアフリーを標準仕様としている。また、既設のものについても、建替えや改善を行うことによりバリアフリー化を進めている。
なお、障害のある人向けの公営住宅の建設に当たっては、規模の大きなものや特別の設備を設置するものに対しては、工事費に係る助成の限度額を特例的に引き上げている。
障害のある人等の利用に配慮した住宅ストックを形成するため、「高齢者が居住する住宅の設計に係る指針」により、身体機能が低下した場合にも住み続けられるような住宅の設計上の配慮事項を示している。
独立行政法人住宅金融支援機構の証券化支援事業におけるフラット35Sでは、バリアフリー性等が優れた住宅について、融資金利の引下げを行っている。
障害のある人等が安心して快適に自立した生活を送ることのできる環境の整備を促進し、障害のある人等の居住の安定の確保を図るため、障害のある人等が居住する住宅について、一定のバリアフリー改修工事を行った場合に、所得税額や固定資産税額を軽減する特例措置を設けている。
また、長期優良住宅化リフォーム推進事業において、住宅の長期優良化に資するリフォームと併せて行うバリアフリーリフォームについても支援を行い、住宅のバリアフリー化を促進した。
既存住宅ストックを障害のある人の生活や家族の介護に配慮した住みやすいものへと改修することが可能となるよう、公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターにおいて、高齢化対応住宅リフォーム及び介護保険における住宅改修に関するテキストを作成し、増改築相談員の研修カリキュラムに盛り込んでいる。
住宅リフォームを行うに当たっては、住宅分野と保健福祉分野の連携による適切な相談体制の確立が必要である。このため、関係省庁間の密接な連携の下、国及び地方公共団体において、障害のある人が住みやすい住宅増改築、介護機器についての相談体制を整備している。
「どこでも、だれでも、自由に、使いやすく」というユニバーサルデザインの考え方を踏まえた、バリアフリー法に基づき、施設等(旅客施設、車両等、道路、路外駐車場、都市公園、建築物等)の新設等の際の「移動等円滑化基準」への適合義務、既存の施設等に対する適合努力義務を定めるとともに、「移動等円滑化の促進に関する基本方針」において、平成32年度末までの整備目標を定めている。交通政策基本法(平成25年法律第92号)に基づく交通政策基本計画(平成27年2月閣議決定)においても、153バリアフリーをより一層身近なものにすることを目標の1つとして掲げており、これらを踏まえながらバリアフリー化の推進を図っている。
また、市町村が作成する基本構想に基づき、重点整備地区において重点的かつ一体的なバリアフリー化を推進しているとともに、バリアフリー化の促進に関する国民の理解を深め協力を求める「心のバリアフリー」を推進するため、高齢者、障害者等の介助体験や疑似体験を行う「バリアフリー教室」等を開催しているほか、バリアフリー施策のスパイラルアップ(段階的・継続的な発展)を図っている。
年度 | 公営住宅建設戸数 | 都市再生機構(旧公団)賃貸住宅の優遇措置戸数 |
---|---|---|
平成16年 | 132 | 2,157 |
平成17年 | 128 | 1,282 |
平成18年 | 107 | 1,663 |
平成19年 | 66 | 686 |
平成20年 | 70 | 537 |
平成21年 | 102 | 674 |
平成22年 | 97 | 387 |
平成23年 | 83 | 144 |
平成24年 | 36 | 213 |
平成25年 | 45 | 103 |
平成26年 | 59 | 67 |
平成27年 | 54 | 183 |
バリアフリー法では、公共交通機関・建築物・道路・路外駐車場・都市公園について、バリアフリー化基準に適合するように求め、高齢者や障害のある人などが日常生活や社会生活において利用する施設の整備の促進によって、生活空間におけるバリアフリー化を進めることとしている。
なお、公共交通機関には、鉄軌道、バス、福祉タクシー、旅客船、航空機が含まれ、これらの車両等を新たに導入する際には、基準に適合させることとしている。
市町村は、移動等の円滑化を図ることが必要な一定の地区を重点整備地区とし、移動等の円滑化に係る事業の重点的かつ一体的な推進に関する基本構想を作成することができる。
基本構想の作成にあたっては、利用者の視点を反映するよう、以下の制度を設けている。
基本構想の作成の際、高齢者や障害のある人などの計画段階からの参加の促進を図るため、作成に関する協議等を行う協議会制度を法律に位置づけている。この協議会は、特定事業の実施主体はもとより、高齢者や障害のある人、学識経験者その他市町村が必要と認める者で構成される。
加えて、バリアフリー化の対象となる事業の実施主体は、市町村から通知を受けた場合に、正当な理由がある場合を除き、必ず協議会に参加することとしており、協議の場の設定を法的に担保することで、調整プロセスの促進を図ることとしている。
基本構想を策定する市町村の取組を促す観点から、基本構想の内容を、高齢者や障害のある人などが市町村に対し具体的に提案できる提案制度を設けている。
バリアフリー法では、バリアフリー化の促進に関する国民の理解を深め、バリアフリー化の実施に関する国民の協力を求めるよう努めることを国の責務として定めるとともに、高齢者や障害のある人などが円滑に移動し施設を利用できるようにすることへの協力だけではなく、高齢者や障害のある人などの自立した日常生活や社会生活を確保することの重要性についての理解を深めることが、国民の責務として定められている。
高齢化やユニバーサルデザインの考え方が進展する中、バリアフリー化を進めるためには、具体的な施策や措置の内容について、施策に関係する当事者の参加の下、検証し、その結果に基づいて新たな施策や措置を講じることによって段階的・継続的な発展を図っていく「スパイラルアップ」の考え方が重要であり、バリアフリー法では、これを国の果たすべき責務として位置づけている。
官庁施設の整備においては、窓口業務を行う官署が入居する官庁施設について、バリアフリー法に基づく建築物移動等円滑化誘導基準に規定された整備水準の確保など、155障害のある人をはじめすべての人が、安全に、安心して、円滑かつ快適に利用できる施設を目指した整備を推進している。
すべての人に利用しやすい建築物を社会全体で整備していくことが望まれており、デパート、ホテル等の多数の人々が利用する建築物を、障害のある人等が利用しやすくするためには、段差の解消、障害のある人等の利用に配慮したトイレの設置、各種設備の充実等を図る必要がある。
建築物のバリアフリー化を推進するため、バリアフリー法においては、出入口、通路、トイレ等に関する基準(建築物移動等円滑化基準)を定め、不特定多数の者が利用し、又は主として障害のある人等が利用する建築物(特別特定建築物)で一定の規模以上のものに対して基準適合を義務付けるとともに、多数の者が利用する建築物(特定建築物)に対しては基準適合の努力義務を課している。
また、障害のある人等がより円滑に建築物を利用できるようにするため、誘導すべき基準(建築物移動等円滑化誘導基準)を定めており、同基準を満たし、所管行政庁により認定を受けた優良な建築物(認定特定建築物)に対して支援措置等を講じている。
建築物のバリアフリー化を推進するため、上述の建築物移動等円滑化基準に基づき特定建築物の建築主等への指導・助言を行っている。
また、認定特定建築物等のうち一定のものについては、障害のある人等の利用に配慮したエレベーター、幅の広い廊下等の施設整備に対する助成制度(バリアフリー環境整備促進事業)により支援している。
地方公共団体が行う、公共施設等のバリアフリー化についても支援している。
多くの公共施設等で、点字による情報提供において、表示方法の混乱を避けつつ更なる普及を図るため、「高齢者・障害者配慮設計指針─点字の表示原則及び点字表示方法─公共施設・設備(JIST0921)」を平成18年に制定した。また、平成21年には消費生活製品に関して、「高齢者・障害者配慮設計指針─点字の表示原則及び点字表示方法─消費生活製品の操作部(JIST0923)」を制定したが、規格を利用する際の利便性を向上させるため、平成28年度にJIS T0923をJIS T0921に統合し、JIS T0921を「アクセシブルデザイン-標識、設備及び機器への点字の適用方法」へと改正した。
不特定多数の人々が利用する交通施設、観光施設、スポーツ文化施設、商業施設などの公共施設や企業内の施設において、文字や言語によらず対象物、概念又は状態に関する情報を提供する図形(案内用図記号JISZ8210)は、一見してその表現内容を理解できる、遠方からの視認性に優れている、言語の知識を要しないといった利点があり、一般の人だけでなく、視力の低下した高齢者や障害のある人、さらに外国人等でも容易に理解することができ、文字や言語に比べて優れた情報提供手段である。
案内用図記号については、「案内用図記号(JISZ8210)」があるが、平成27年5月には「ベビーカーが利用できる施設を表示する図記号」及び、「ベビーカーの使用を禁止する場合に表示する図記号」を追加し、併せて、当該図記号の使用方法を参考に記載するための改正を行った。
また、平成28年3月にも改正し、156「土石流注意」等、2つの注意図記号及び「洪水/内水氾濫」等、5つの災害種別一般図記号を追加した。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを契機に外国人観光客の増加が見込まれることから、外国人観光客などにも、分かりやすい図記号の追加・見直しのため、平成28年7月から改正審議を行うとともに、外見からは障害があることが分かりにくい人が周囲に支援が求めやすくする「ヘルプマーク」の図記号についても審議を進めている。
平成26年9月に制定された、「津波避難誘導標識システム」のJISZ9097を基に、洪水、内水氾濫、高潮、土石流、崖崩れ・地滑り及び大規模な火事にも素早く安全な場所に避難することが可能になるように、避難場所までの道順や距離についての情報を含んだ標識を、避難場所に至るまでの道のりに一連のものとして設置する場合に考慮すべき事項について規定した、「災害種別避難誘導標識システム」のJISZ9098を平成28年3月に制定した。また、平成28年10月にこれらをISOに提案した。
視覚障害のある人が、鉄道駅、公園、病院、百貨店などの不特定多数の人が利用する施設・設備等を安全で、かつ、円滑に利用できるようにするため、「高齢者・障害者配慮設計指針─公共トイレにおける便房内操作部の形状、色、配置及び器具の配置(JISS0026)」、「高齢者・障害者配慮設計指針─触知案内図の情報内容及び形状並びにその表示方法(JIST0922)」及び「高齢者・障害者配慮設計指針─触覚情報─触知図形の基本設計方法(JISS0052)」を制定している。
「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」の基本的枠組み
「バリアフリー教室」
高齢者や障害を持った方々の自立と社会参加を促進するためには、高齢者や障害のある人等が公共交通機関などの施設を円滑に利用できるようにすることが必要であるが、バリアフリー施設の整備といったハード面の対応だけではなく、国民一人ひとりが高齢者や障害のある人等の移動制約者を見かけた際に進んで手を差し伸べる環境づくりといったソフト面の対応も重要である。
このため、多くの国民が高齢者や障害のある人等に対する基礎的知識を学び、車いす利用体験や視覚障害者疑似体験・介助体験等を行うことを通じて、バリアフリーについての理解を深めるとともに、ボランティアに関する意識を醸成し、誰もが高齢者や障害のある人等に対して自然に快くサポートできる「心のバリアフリー」社会の実現を目指すことを目的として、全国各地で「バリアフリー教室」を開催している。
平成27年度には、全国で242件の「バリアフリー教室」を開催し、約13,000人の参加を得た。小中学生をはじめとした学生や、鉄道やバスといった公共交通関係事業に関わる現場職員等、様々な方にご参加いただいている。
体験終了後、参加した学生からは、「大変さや苦労を知ることができた」、「とても勉強になった。声をかけることはとても勇気がいると思うが、学んだことを生かし、素直な気持ちで障害のある方のお手伝いができたらと思う」などの感想をいただくなど、本教室が高齢者・障害者等の移動制約者に対する理解とボランティアに関する意識啓発の一助となっている。
公共交通機関のバリアフリー化については、平成12年11月に施行された「高齢者,身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(平成12年法律第68号)に基づく取組が行われてきたが、バリアフリー法においても、公共交通事業者等に対して、鉄道駅等の旅客施設の新設、大改良及び車両等の新規導入に際しての移動等円滑化基準(「移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の構造及び設備に関する基準」(平成18年国土交通省令第111号))への適合を義務付けている。既設の旅客施設・車両等についても移動等円滑化基準に適合させるよう努めなければならないこととしている。
公共交通機関の旅客施設のバリアフリー整備内容等を示した「公共交通機関の移動等円滑化整備ガイドライン」(旅客施設編)を平成25年6月に改訂し、整備のあり方を具体的に示すことで、利用者にとって望ましい旅客施設のバリアフリー化を推進している。また、このガイドラインについては平成29年度中の改訂を目指し、内容の検討を進めている。
公共交通機関の車両等のバリアフリー整備内容等を示した「公共交通機関の移動等円滑化整備ガイドライン」(車両等編)を平成25年6月に改訂し、整備のあり方を具体的に示すことで、利用者にとってより望ましい車両等のバリアフリー化を推進している。また、このガイドラインについては平成29年度中の改訂を目指し、内容の検討を進めている。
また、平成19年8月、「旅客船バリアフリーガイドライン」を策定し、障害のある人等をはじめとした多様な利用者の多彩なニーズに応え、すべての利用者がより円滑に旅客船を利用できるようなバリアフリー化の指針として、その望ましい整備内容等を示している。
都市鉄道整備事業及び地域公共交通確保維持改善事業などにおいて、鉄軌道駅等のバリアフリー化に要する経費の一部補助を実施している。
また、地方公営企業の交通事業のうち、地下鉄事業のバリアフリー化を含む建設改良事業に対する財政融資及び地方公共団体金融機構の融資制度が設けられている。
ノンステップバス、リフト付きバス、福祉タクシー、低床式路面電車(LRV)等の導入に対して、地域公共交通確保維持改善事業などにおいて経費の一部補助を行っている。
障害のある人のための車両整備に対する低利融資制度として、地方公営企業の交通事業のうち、バス事業及び路面電車事業のバリアフリー化を含む建設改良事業に対する財政融資及び地方公共団体金融機構の融資制度が設けられている。また、ノンステップバス、リフト付きバス及びユニバーサルデザインタクシーに係る自動車重量税及び自動車取得税の特例措置が講じられている他、低床式路面電車(LRV)に対する固定資産税の特例措置が講じられている。
地域公共交通確保維持改善事業において、高度バリアフリー化船の建造及び船舶のバリアフリー化のための改造に要する経費の一部補助を実施している。
また、バリアフリーの高度化・多様化に資する船舶(車いす対応トイレ、エレベーター等障害のある人等の利便性及び安全性の向上に資する設備を有する船舶)を建造する場合に、「独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構」の共有建造制度が活用されている。
なお、地方公営企業の交通事業のうち、船舶事業のバリアフリー化を含む建設改良事業に対する財政融資及び地方公共団体金融機構の融資制度が設けられている。
障害のある人が自立して生活し、積極的に社会参加していく上で、まち全体を障害のある人にとって利用しやすいものへと変えていくことの重要性が、近年、広く認識されるようになっている。このため、幅の広い歩道の整備や建築物の出入口の段差の解消、鉄道駅舎のエレベーターの設置、音響式信号機等の整備等による障害のある人の円滑な移動の確保、公園整備等による憩いと交流の場の確保等、福祉の観点も踏まえた総合的なまちづくりが各地で進められている。
国土交通省においては、バリアフリー法に基づき、公共交通機関、建築物、道路等の一体的・連続的なバリアフリー化を推進している。
このほか、福祉のまちづくりへの取組を支援するため、以下のような施策を実施している。
障害のある人が介助なしに外出し、公共交通機関を利用できるようにするためには、歩行者交通、自動車交通、公共交通が連携し、一連の円滑な交通手段を確保することが必要である。このため、駅等の交通結節点において道路・街路事業等により駅前広場やペデストリアンデッキ、自由通路等を整備するとともに、エレベーター、エスカレーター等の歩行支援施設の整備や沿道の建築物との直接接続を行っている。
また、障害のある人等の交通弱者の移動の利便性を確保するため、次世代型路面電車システム(LRT)等の軌道系公共交通等の整備及び利用促進を推進している。
さらに、障害のある人等に配慮した活動空間の形成を図り、障害のある人等が積極的に社会参加できるようにするために、快適かつ安全な移動を確保するための動く通路、エレベーター等の施設の整備や障害のある人等の利用に配慮した建築物の整備等を行う「バリアフリー環境整備促進事業」を実施している。
農林水産省においては、障害のある人に配慮した生活環境の整備を図るため、「農山漁村地域整備交付金」や「農山漁村振興交付金」等により農山漁村地域における広幅員歩道の整備や段差の解消等について支援している。
最近における地方公共団体の動きとしては、総合的なまちづくりを効果的に進めるために、福祉のまちづくりに関する条例の制定など制度面の整備が行われるとともに、事業面においても、ユニバーサルデザインによるまちづくり(すべての人にやさしいまちづくり)が行われている。
総務省では、地方公共団体が行う高齢者、障害のある人、児童等すべての人が自立していきいきと生活し、161人と人との交流が深まる共生型の地域社会の実現に向けた取組を支援するため、ハード・ソフト両面から必要な地方財政措置を講じている。ソフト事業として、ユニバーサルデザインによるまちづくりやNPO等の活動の活性化を推進する地方公共団体の取組に要する経費に対して、普通交付税措置を行うとともに、ハード事業として、ユニバーサルデザインによるまちづくり、地域の少子高齢化社会を支える保健福祉施設整備、共生社会を支える市民活動支援のための施設整備等に対して、地域活性化事業債等により財政措置を講じている。
また、国民一人一人が、高齢者や障害のある人の困難を自らの問題として認識し、その社会参加に積極的に協力する「心のバリアフリー」社会を実現するため、国土交通省では主に小・中学校生を対象としたバリアフリー教室を開催している。
都市計画における総合的な福祉のまちづくりに関する取組としては、適切な土地利用や公共施設の配置を行うとともに、障害のある人に配慮した道路、公園等の都市施設の整備、土地区画整理事業や市街地再開発事業などの面的な都市整備を着実に進めていることが挙げられる。
市町村が具体の都市計画の方針として策定する「市町村の都市計画に関する基本的な方針(市町村マスタープラン)」の中に、まちづくりにおける高齢者や障害のある人等への配慮を積極的に位置付け、都市計画に反映することもできる。
全国の都市の再生を効率的に推進する観点から、地域の創意工夫を生かした個性あふれるまちづくりを実施するため、都市再生整備計画に基づく事業(都市再生整備計画事業)に対して、社会資本整備総合交付金による支援を行っている。本制度の活用により、全国各地において、地域住民の生活の質の向上と地域経済・社会の活性化に向けた取組が進められており、その一環として、バリアフリー化等を通じて、安心・快適に過ごせるまちづくりが多くの市町村で実施されている。
市街地再開発事業等においては、再開発ビルに一定の社会福祉施設等を導入するものを「福祉空間形成型プロジェクト」と位置付け、通常の助成対象に加え、共用通行部分整備費、駐車場整備費等を助成対象とするとともに、社会福祉施設等と一体的に整備する場合の整備費に関する助成額の割増を実施しており、これにより、再開発ビルへの社会福祉施設等の円滑な導入を促している。
また、バリアフリー化等に対応した施設建築物を整備する場合に生じる付加的経費について、別枠で補助を行っている。
移動は就労、余暇等のあらゆる生活活動を支える要素であり、その障壁を取り除き、すべての人が安全に安心して暮らせるよう歩道、信号機等の交通安全施設等の整備を推進している。
バリアフリー法に基づき、駅、官公庁施設、病院等を結ぶ道路や駅前広場等において、高齢者や障害者をはじめとするだれもが安心して通行できるよう、幅の広い歩道の整備や歩道の段差・傾斜・勾配の改善、無電柱化、視覚障害者誘導用ブロックの整備等による歩行空間のバリアフリー化を推進している。また、整備に当たっては、バリアフリー法を踏まえて、駅構内、病院など公共的施設のバリアフリー化やノンステップバスの導入等と連携して整備を行っている。
さらに、バリアフリー法に基づく基本方針では、重点整備地区内の主要な生活関連経路を構成する道路に設置されている信号機等については、162平成32年度までに、原則としてすべての当該道路において、バリアフリー対応型信号機等の設置等の移動等円滑化を実施することを目標としており、音響により信号表示の状況を知らせる音響式信号機や、歩行者・自転車と車両が通行する時間を分離して交通事故を防止する歩車分離式信号等の整備を推進している。
加えて、冬期の安全で快適な歩行空間を確保するため、中心市街地や公共施設周辺等における除雪の充実や消融雪施設の整備等のバリアフリーに資する施設整備を実施している。
高齢者、身体に障害のある人等を含むすべての人々が安全で快適に自動車の利用ができるよう、路外駐車場のバリアフリー化を図ることが必要である。
バリアフリー法に路外駐車場のバリアフリー化が位置づけられ、同法の規定に基づき、「移動等円滑化のために必要な特定路外駐車場の構造及び設備に関する基準を定める省令」(平成18年国土交通省令第112号)を制定し、バリアフリー化を推進している。(平成27年度末現在の特定路外駐車場のバリアフリー化率:約57.8%)
また、同法の規定に基づく基本方針において、特定路外駐車場のバリアフリー化の目標を定めており、引き続き、目標達成に向け、地方公共団体及び関係団体等に対して周知の徹底を図り、路外駐車場のバリアフリー化を一層推進していくこととしている。
障害のある人等の輸送をより便利にするため、地域公共交通確保維持改善事業により福祉タクシー車両の導入等に対して経費の一部補助を行うなど、福祉タクシーの普及促進を図っている。
また、バス事業者、タクシー事業者のみによっては十分な輸送サービスが確保できないと認められる場合において、地域の関係者が移動手段の確保のために必要であると合意した場合にはNPO法人等による福祉有償運送を可能としている。今後、福祉タクシーとNPO法人等による福祉有償運送がそれぞれ多様なニーズに応じた輸送を提供することにより、障害のある人等の外出が促進されることが期待される。
平成27年度末における福祉タクシーの導入状況は、15,026両となっている。
また、屋外での移動が困難な障害のある人について、外出のための支援を行うことにより、地域における自立生活及び社会参加を促すため、「障害者総合支援法」に基づく地域生活支援事業において、各市町村が地域の特性や利用者のニーズに応じて、個別支援型、グループ支援型及び車両移送型など柔軟な形態で、ガイドヘルパーの派遣などのサービスを提供する「移動支援事業」を実施している。
経済産業省では、障害のある人等がITを活用して社会・経済に積極的に参画できる環境を整備するため、平成22年度に「高齢者・障害者配慮設計指針―移動支援のための電子的情報提供機器の情報提供方法(JIST0901)」として規格化している。
鉄道、バス、タクシー、旅客船、航空等の各公共交通機関では、身体障害者手帳の交付を受けた身体に障害のある人・療育手帳の交付を受けた知的障害のある人及び常時介護を要するこれらの人の介護者に対して運賃・料金の割引を実施している。
有料道路では、身体障害者手帳の交付を受けた身体に障害のある人が自ら運転する場合や、身体に重度の障害のある人又は重度の知的障害のある人の移動のために介護者が運転する場合において、通行料金の割引を実施している。
また、精神障害者保健福祉手帳については、平成18年10月1日より身体障害者手帳及び療育手帳と同様に写真貼付を行うこととし、本人確認を容易にし、手帳の信頼性を向上させ、各自治体における公共施設の入場料や公共交通機関の運賃に対する割引等の支援の協力を得やすくしている。さらに、発達障害者及び高次脳機能障害者について、手帳の交付の対象であることを明確化するため、平成23年4月には、手帳の診断書の様式及び判定基準を改正した。
一定の障害のある人に対して駐車禁止除外指定車標章を交付し、駐車禁止の交通規制の対象から除外している。
国土交通省では、高齢者や障害者、訪日外国人旅行者等も含め、誰もが屋内外をストレス無く自由に活動できるユニバーサル社会の構築に向け、ICTを活用した歩行者移動支援の取組を推進している。
「ICTを活用した歩行者移動支援の普及促進検討委員会」(委員長:坂村健東洋大学情報連携学部INIAD学部長)の提言を踏まえ、国土交通省では、多様な主体によるサービス創出に向けたオープンデータ推進等の環境整備を行っており、平成29年3月にサービス構築に必要となる施設や経路のバリアフリー情報に関するデータの仕様を改訂した。また、東京駅周辺・新宿駅周辺・成田空港・横浜国際総合競技場(日産スタジアム)をモデルケースとして、屋内電子地図や測位環境を整備し、平成28年11月から平成29年2月まで、車いす使用者等に対応した移動支援サービスの実証実験を実施した。
観光庁では、平成24年3月に閣議決定した「観光立国推進基本計画」に基づき、障害者を含む誰もが旅行を楽しむことが出来るユニバーサルツーリズムを促進するため、地域の受入体制を強化するための取組に向けた検討を実施した。
平成28年度には、既存の観光案内所にバリアフリー旅行相談窓口機能を付加する手法の構築に取組んだ。全国5つの地域においてモデル事業を展開し、観光案内所職員の教育や対応マニュアルの検討、地域のバリアフリー情報を収集し広域的な情報発信を強化するなど、地域の受入体制強化に取り組んだ。さらに、公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団では、高齢者や身体に障害のある人等の移動支援のため、インターネットによるバリアフリー情報「らくらくおでかけネット」を運用している。当該ネットでは、約6,600の駅・ターミナルのバリアフリー情報を提供し、平成28年3月末時点で約1,820万件(平成14年1月の運用開始時からの累計)のアクセス数となっている。
都市公園は、良好な都市環境の形成、地震災害時の避難地などの機能を有するとともに、スポーツ、レクリエーション、文化活動などを通じた憩いと交流の場であり、障害のある人の健康増進、社会参加を進める上で重要な役割を担っていることから、利便性及び安全性の向上を図ることが必要である。
バリアフリー法では、一定の要件を満たした園路及び広場、休憩所、並びに便所等の特定公園施設について、新設等の際の「移動等円滑化基準」への適合義務、既存の施設等に対する適合努力義務を定めている。
都市公園のバリアフリー化については、障害のある人を含むすべての人の利用に配慮した公園施設とするため、園路の幅の確保や段差・勾配の改善、車いす使用者を始め、多くの人にとって利用可能な駐車場やトイレの設置など、公園施設のバリアフリー化を行ってきており、都市公園移動等円滑化基準の運用等により、今後一層推進していくこととしている(平成27年度末現在の公園施設のバリアフリー率【園路及び広場:約49%、駐車場:約46%、便所:約35%】)。
また、平成20年1月には、バリアフリー化のための整備の具体的な指針として、「都市公園の移動等円滑化整備ガイドライン」(平成24年3月改訂)を策定し、公園管理者へ通知したほか、社会資本整備総合交付金により、都市公園のバリアフリー化を推進している。
全国の国営公園においては、身体等に障害のある人や介添する人に対する入園料金を免除することにより、野外活動の機会の増進や経済的負担の軽減を図っているほか、国営昭和記念公園等においては、障害のある人も楽しく安全に遊ぶことができるバリアフリー化した遊具等を設置している。
環境省では、国立・国定公園等において、主要な利用施設であるビジターセンター、園路や公衆トイレ等のユニバーサルデザイン化を推進しており、人にやさしい施設の整備を進めている。
河川、海岸等の水辺空間は、公園と同様に、障害のある人にとって憩いと交流の場を提供するための重要な要素となっている。このため、河川利用上の安全・安心に係る河川管理施設の整備により、良好な水辺空間の形成を推進している。また、日常生活の中で海辺に近づき、身近に自然と触れ合えるようにするため、海岸保全施設のバリアフリー化を推進している。
港湾緑地は、誰もが快適に利用できるよう、計画段階から周辺交通施設との円滑なアクセス向上に配慮するとともに、施設面においてもスロープ、手すりの設置や段差の解消等のバリアフリー対応が図られるよう取り組んでいる。また、マリーナ等については、障害のある人でも気軽に安全に海洋性レクリエーションに参加できるよう、マリーナ等施設のバリアフリー化を推進している。
森林は、心身の癒しや健康づくりの場等として、幅広い国民に利用されている。このため、年齢や障害の有無等にかかわらず多様な利用者に対応できるよう、ユニバーサルデザインの考え方を踏まえた森林歩道等の整備を推進している。
1日当たりの平均利用者数3,000人以上の旅客施設数 | 平成27年度末 | 1日当たりの平均利用者数3,000人以上かつトイレを設置している旅客施設数 | 平成27年度末 | ||
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段差の解消 | 視覚障害者誘導用ブロック | 障害者用トイレ | |||
鉄軌道駅 | 3542 | 3045(86.0%) | 3320(93.7%) | 3,319 | 2754(83.0%) |
バスターミナル | 48 | 43(89.6%) | 41(85.4%) | 40 | 27(67.5%) |
旅客船ターミナル | 14 | 14(100.0%) | 10(71.4%) | 12 | 11(91.7%) |
航空旅客ターミナル | 35 | 30(85.7%) | 34(100.0%) | 35 | 35(100.0%) |
平成27年度末 | 車両等の総数 | 平成27年度末移動等円滑化基準に適合している車両等 | |
---|---|---|---|
鉄軌道車両 | 52,346 | 34,140(65.2%) | |
バス | ノンステップバス | 45,228 | 22,665(50.1%) |
リフト付きバス | 15,124 | 895(5.9%) | |
旅客船 | 650 | 238(36.6%) | |
航空機 | 593 | 571(96.3%) |
オストメイト対応トイレ
直腸がんや膀胱がんなどが原因で臓器に機能障害(内部障害のひとつ)を負い、手術によって、人工的に腹部へ人工肛門や人工膀胱の「排泄口(ギリシャ語でストーマ)」を造設した人を「オストメイト(ostomate)」と言う。国内には約20万~30万人のオストメイトがいるといわれている。
オストメイトの人は括約筋がないため便意や尿意を感じたり、我慢することができないため、便や尿を溜めておくための袋=「パウチ」を腹部に装着している。パウチに溜まった排泄物は一定時間ごとに便器や汚物流しに捨てる必要がある。このときに、パウチや腹部を洗浄する必要がある。
そのため、シャワー等の特別な設備を備えたトイレが、最近では設置されるようになってきた。オストメイト対応トイレについては、公共交通機関を中心に下図のようなマークが表示されている。
「バリアフリー法」基本方針における目標設定
バリアフリー法に基づく基本方針では、原則平成22年までのバリアフリー化の目標値を設定し施策を推進してきましたが、目標期限が到来したため、これまでの各施設等におけるバリアフリー化の状況等を踏まえ、基本方針を改正し、新たな目標値を設定した。
平成32年度までに、1日当たりの平均的な利用者の数が3,000人以上の原則としてすべての鉄軌道駅、バスターミナル、旅客船ターミナル及び航空旅客ターミナルについて、
等のバリアフリー化を実施する。
鉄軌道駅については、地域の要請及び支援の下、鉄軌道駅の構造等の制約条件を踏まえ可能な限りの整備を行うこととする。
ホームドア又は可動式ホーム柵については、車両扉の統一等の技術的困難さ、停車時分の増大等のサービスの低下、膨大な投資費用等の課題について総合的に勘案した上で、優先的に整備すべき駅を検討し、地域の支援の下、可能な限り設置を促進する。
平成32年度までに、以下のバリアフリー化を実施する。
車両等の種類 | 車両等の総数 | バリアフリー化される車両等の数 | |
---|---|---|---|
鉄軌道車両 | 約52,000 | 約36,400(約70%) | |
乗合バス | ノンステップバス | 約50,000 | 約35,000(約70%) |
リフト付きバス等 | 約10,000 | 約2,500(約25%) | |
タクシー車両 | (約28,000台の福祉タクシーを導入) | ||
旅客船 | 約800 | 約400(約50%) | |
航空機 | 約530 | 約480(約90%) |
平成32年度までに、原則として重点整備地区内の主要な生活関連経路を構成するすべての道路について、バリアフリー化を実施する。
平成32年度までに、以下のバリアフリー化を実施する。
平成32年度までに、特定路外駐車場の約70%についてバリアフリー化を実施する。
平成32年度までに、2,000m2以上の特別特定建築物の総ストックの約60%についてバリアフリー化を実施する。
平成32年度までに、原則として重点整備地区内の主要な生活関連経路を構成するすべての道路において、バリアフリー対応型信号機等を設置する。
視覚障害者用誘導案内用設備
「公共交通機関の旅客施設に関する移動等円滑化整備ガイドライン」において、視覚障害者誘導用ブロックと音案内についてのガイドラインが示されている。
LRT(Light Rail Transit)システム
LRTシステムとは、従来の路面電車から走行空間、車両等を向上させたもので、道路空間、鉄道敷等の既存インフラも有効活用し、高い速達性、定時性、輸送力等を持った、人や環境に優しい都市公共交通システムである。
低床で車内に段差のないLRV(低床式車両)の導入や電停へのスロープ整備等の段差解消の取組によりバリアフリー化を図り、高齢者や障害のある人も安心して利用できるようになる。
![]() 段差があるためステップが必要
| ![]() ホームから段差なしで直接乗降可能
|
![]() 段差のある場合
| ![]() | ![]() 段差のない場合
|
福祉空間形成型プロジェクト
らくらくおでかけネット
公共交通機関(鉄軌道駅、バスターミナル、空港ターミナル、旅客船ターミナル)のバリアフリー情報をインターネットや携帯端末により提供している。また、駅・ターミナル情報については一部英語版での提供もしている。
国営公園の取組
国営昭和記念公園では、平成9年度より「誰でも安心して楽しむことができる公園づくり」を基本理念とし、JRに直結した西立川口を中心として、園路や遊具、トイレ等のバリアフリー化など、ハード面の整備を進めるとともに、ソフト面でも、障害者や高齢者の方々に公園をより楽しんでいただくようガイドボランティアの育成を実施している。
![]() バリアフリー対応のトイレ
| ![]() 車いす使用者も遊べる遊具
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![]() 車いす使用者に配慮したパークトレイン
| ![]() 国営昭和記念公園ボランティア
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全交通事故死者に占める歩行者の割合は3割を超えており、歩行者の安全を確保することが重要な課題であることから、障害のある人を含むすべての人が安全に安心して道路を通行できるよう、生活道路等において、都道府県公安委員会と道路管理者が連携し、信号機の新設・改良、歩道等の整備、車両速度を抑制するような物理的デバイスの設置等の対策を推進するとともに、最高速度30km/hの区域規制や路側帯の設置・拡幅等により区域内における速度抑制や通過交通の抑制・排除を図る「ゾーン30」等の面的かつ総合的な事故抑止対策を推進している。
歩行空間の整備に当たっては、様々な利用者の視点を踏まえて整備され、整備後も、不法占用や放置自転車のない歩行環境が確保されるよう、行政と住民・企業など地域が一体となった取組を行っていく必要がある。このようなことから、様々な利用する人の視点に立って道路交通環境の整備が行われ、適切な利用が図られるよう、「交通安全総点検」の点検結果を新規整備の際に活用するなど計画段階から住民が参加した整備を推進している。
また、平成25年に交通の方法に関する教則(昭和53年国家公安委員会告示第3号)を改正し、自転車を駐車する際には点字ブロック上及びその近辺に駐車しないようにすべきことについて明記した。
音響により信号表示の状況を知らせる音響式信号機、信号表示面に青時間までの待ち時間及び青時間の残り時間を表示する経過時間表示機能付き歩行者用灯器、歩行者・自転車と車両が通行する時間を分離して交通事故を防止する歩車分離式信号等のバリアフリー対応型信号機等の整備を推進している。
障害のある人を含むすべての人が安心して運転できるよう、ゆとりある道路構造の確保や視環境の向上、疲労運転の防止等を図ることとし、道の駅等の休憩施設の整備、付加車線(ゆずり車線)の整備、道路照明の増設を行うとともに、高速自動車国道等のサービスエリア(SA)やパーキングエリア(PA)、自動車駐車場等において障害者用トイレや障害者用駐車スペース等の設置を実施しているほか、信号灯器のLED化、道路標識の大型化・高輝度化、道路標示の高輝度化、交通情報提供装置の整備、道路情報板、情報ターミナル等の道路情報提供装置やそれを支える光ファイバ網等の情報通信基盤の整備を推進している。
また、「道路交通法」(昭和35年法律第105号)においては、肢体不自由を理由として免許に条件を付された者が、身体障害者標識を表示して普通自動車を運転している場合には、他の運転者は、危険防止のためやむを得ない場合を除いて、その普通自動車に対して幅寄せや割込みをすることが禁止されている。
さらに、同法においては、身体に障害のある歩行者等その通行に支障がある歩行者が道路を横断し、又は横断しようとしている場合において、当該歩行者から申出があったときその他必要があると認められるときは、警察官等その他その場所に居合わせた者は、当該歩行者が安全に道路を横断することができるように努めなければならないこととし、177車両等の運転者は、身体に障害のある歩行者等その通行に支障のある者が通行しているときは、その通行を妨げないようにしなければならないこととされている。
聴覚障害のある人については、ワイドミラー又は補助ミラーの装着を条件に、すべての普通自動車を運転することができ、平成28年12月末日現在、1,059人がこの条件で普通自動車免許を保有している。
なお、平成29年3月12日からは、後方等確認装置の使用による条件で運転することができることとなったほか、同日に新設された準中型車についてもワイドミラー、補助ミラー又は後方等確認装置の使用による条件で運転できることとなった。
また、大型自動二輪車、普通自動二輪車、小型特殊自動車及び原動機付自転車の免許について、適性試験における聴力が廃止されており、聴覚障害のある人も運転できることとなっている。
さらに、平成28年4月1日から、補聴器を使用して一定の音が聞こえることを条件に、聴覚障害のある人についても、タクシーやバス等の旅客自動車を運転することができることとなっている。
聴覚障害のある人が普通自動車を運転する際には、聴覚障害者標識の表示が義務付けられており、聴覚障害者標識を表示した自動車に対する幅寄せや割込みは禁止されている。警察では、聴覚障害者標識に関する広報啓発を行うとともに、聴覚障害のある人が安全に運転できるよう、関係団体と連携し、免許取得時の教習等の充実や周囲の運転者が配慮すべき事項についての安全教育に努めている。
さらに、警察では、高齢者や障害のある人が安全で余裕のある駐車ができるよう、都道府県公安委員会が交付した専用場所駐車標章を掲示した普通自動車に限り、指定された区間・場所に駐車又は停車することができる高齢運転者等専用駐車区間を整備している。
ハイブリッド車や電気自動車は、「音がしなくて危険と感じる」との意見が寄せられていることを受け、国土交通省においては、学識経験者、視覚障害者団体、自動車メーカー等からなる「ハイブリッド車等の静音性に関する対策検討委員会」の結果を踏まえて、平成22年1月に「ハイブリッド車等の静音性に関する車両接近通報装置のガイドライン」を定めるとともに、自動車メーカー等の関係者に周知し、対策の早期普及を促してきた。更に、本ガイドラインを基に、国連において日本が策定を主導してきた国際基準が平成28年3月に成立し、同年10月に発効したことに合わせ、ハイブリッド車等に車両接近通報装置を義務付ける法令を公布した。
運転者に対しては、障害のある人を含む全ての歩行者に対する保護意識の高揚を図るため、運転者教育、安全運転管理者による指導その他広報啓発活動を推進している。
また、障害のある人に対しては、字幕入りビデオの活用や参加・体験・実践型の交通安全教室の開催等により、交通安全のために必要な技能及び知識を習得できるよう、障害の程度に応じたきめ細かい交通安全教育を推進している。
「道路交通法」上、一定の基準に該当する原動機を用いる身体障害者用の車いすを通行させている者は歩行者とされるが、平成28年度において、その基準に該当する5型式が型式認定された。
身体に障害のある運転免許取得希望者の利便の向上を図るため、各都道府県警察の運転免許試験場に、スロープ、エレベーター等を整備することに努めているほか、運転適性相談窓口を設け、身体に障害のある人の運転適性について知識の豊富な職員を配置して、運転免許取得に関する相談を行っている。
また、身体に障害のある人が、身体の状態に応じた条件を付すことにより、自動車の安全な運転に支障を及ぼすおそれがないと認められるときは、身体に障害のある人のために改造を行った持込み車両等による技能試験を受けることができることとしているほか、指定自動車教習所に対しても、身体に障害のある人の持ち込み車両による教習の実施や、身体に障害のある人の教習に使用できる車両や取り付け部品の整備、施設の改善等を指導している。
このほか、知的障害のある運転免許取得希望者の利便の向上を図るため、学科試験の実施に当たり、試験問題の漢字に振り仮名を付けるなどの対応をしている。
条件 | 人数 |
---|---|
補聴器の使用 | 39,899人 |
補聴器の使用(使用しない場合はワイドミラー又は補助ミラーと聴覚障害者標識を付けた普通自動車に限定) | 512人 |
ワイドミラー又は補助ミラーを付けた普通自動車に限定 | 1,059人 |
身体障害者用車両に限定 | 199,693人 |
義手、義足又は装具の条件 | 3,925人 |
合計 | 245,088人 |
種類 | 基数 |
---|---|
高齢者等感応信号機 | 6,783基 |
歩行者感応信号機 | 1,364基 |
視覚障害者用付加装置 | 19,219基 |
音響式歩行者誘導付加装置 | 3,414基 |
歩行者支援装置 | 572基 |
平成23年3月11日に発生した東日本大震災の教訓を踏まえ、防災対策における高齢者、障害者、乳幼児等の「要配慮者」に対する措置は一層重要になってきている。
上記の教訓を踏まえ、政府では平成24年度に、高齢者や障害者などの多様な主体の参画を促進し、地域防災計画に多様な意見を反映できるよう、地方防災会議の委員として、自主防災組織を構成する者又は学識経験のある者を追加すること等を盛り込んだ「災害対策基本法の一部を改正する法律」(平成24年法律第41号)を制定し、災害対策基本法(昭和36年法律第223号)の改正を行った(第1弾改正)。
その後、第1弾改正で残された課題や、防災対策推進検討会議の最終報告書(平成24年7月31日)等を踏まえ、市町村長に要配慮者のうち災害時の避難行動に特に支援を要する者について名簿を作成することを義務付ける、主として要配慮者を滞在させることが想定される避難所に適合すべき基準を設ける等の事項を含む所要の法改正を実施した。(災害対策基本法等の一部を改正する法律(平成25年法律第54号))(第2弾改正)
平成25年6月の災害対策基本法の改正を受け、避難行動要支援者名簿の作成・活用に係る具体的手順等を盛り込んだ「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」を平成25年8月に策定・公表した。
同法改正においては、避難所における生活環境の整備等に関する努力義務規定も設けられ、この取組を進める上で参考となるよう、主に、避難所運営に当たって避難者の支援における留意点等を盛り込んだ、「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」を策定・公表した。平成27年度においては、避難所や福祉避難所の指定の推進、避難所のトイレの改善、要配慮者への支援体制の構築等に係る課題について、有識者による検討会を開催し、幅広く検討を行った。これらの検討を踏まえて、平成28年度においては、市町村におけるより一層の取組を促進するため、「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」を改定するとともに、「避難所運営ガイドライン」、「トイレの確保・管理ガイドライン」、「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」を作成して公表した。しかしながら、平成28年4月14日に発生した熊本地震においては、必ずしも適切な避難所運営が行われなかった側面も指摘された。そのため、より円滑な避難所の運営に資するため、避難所運営ガイドライン等を補完する事例集等を作成することとし、平成29年1月から2月に関係団体、被災住民へのアンケート調査等を実施した。
市町村が、要配慮者にも配慮した、避難所、避難路等の整備を計画的、積極的に行えるよう、防災基盤整備事業等により支援し、地方債の元利償還金の一部について交付税措置を行っている。
また、地域防災計画上社会福祉施設など要配慮者等の避難所となる公共施設のうち、耐震改修を進める必要がある施設についても公共施設等耐震化事業等により支援し、地方債の元利償還金の一部について交付税措置を行っている。
防災基盤整備事業の一つとして「災害時要援護者緊急通報システム」の普及に努めるとともに、要配慮者が入所する施設における避難対策の強化等の防火管理の充実について消防機関に周知している。
地域や企業等における各種防災訓練の際に、要配慮者を重点とした避難誘導訓練を実施し、防災意識の高揚を図っている。
各都道府県警察においては、障害のある人が入所する施設等への巡回連絡、ミニ広報紙の配布等による障害のある人の防災に関する知識の普及等障害のある人に対する支援体制の整備促進に努めている。
災害時においては、建物の崩壊、道路の損壊等による交通の混乱が予想されることから、光ビーコン、交通情報板等の整備を推進し、災害時に障害のある人等を救援するための緊急通行車両等の通行を確保するとともに、災害時の停電による信号機の機能停止に備え、信号機電源付加装置の整備を推進し、障害のある人等の安全な避難を確保するよう努めている。
要配慮者対策を推進するには、まず、地域における要配慮者の状況を的確に把握した上で、社会福祉施設など要配慮者が入所している施設自らの対策を促進するための情報提供等を行う必要がある。
また、「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」(平成25年8月内閣府)及び「避難勧告等に関するガイドライン」(平成29年1月内閣府)を参考に、要配慮者や要配慮者関連施設への防災情報の伝達体制を整備し、入所者等の避難・救出・安否確認などの警戒避難体制の具体化を促進するとともに、被災した場合の防災関係機関への迅速な通報体制の整備及び避難先における入所者等の生活確保体制の整備を促進する必要がある。同時に、要配慮者施設の職員や消防職団員、自主防災組織等が中心となって、地域の実情に応じた支援体制をつくることが必要である。
要配慮者利用施設における土砂災害対策については、社会福祉施設等を保全するため、土砂災害防止施設の整備を第4次社会資本整備重点計画に基づき、重点的に実施するとともに、激甚な水害・土砂災害を受けた場合は再度災害防止対策を実施する。あわせて、「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(平成12年法律第57号)(以下「土砂災害防止法」という。)に基づき、市町村地域防災計画において土砂災害警戒区域内の要配慮者利用施設の名称及び所在地を定めるとともに、「土砂災害防止対策基本指針」及び「土砂災害警戒避難ガイドライン」により市町村の警戒避難体制の充実・強化が図れるよう支援を行っている。さらに、土砂災害・全国防災訓練では、ハザードマップを活用した実践的な避難訓練等を重点的に実施する。
また、土砂災害特別警戒区域における要配慮者利用施設の建築が予定されている開発行為の許可制等を通じて要配慮者等の安全が確保されるよう、「土砂災害防止法」に基づき基礎調査や区域指定の促進を図っている。
社会福祉施設、学校、医療施設等その他の主として防災上の配慮を要する者が利用する施設における土砂災害対策を推進するため、土砂災害のおそれのある箇所及び同箇所に立地する当該施設に関する基本的な情報の共有等、各関係機関の連携強化を図っている。
また、要配慮者の安全かつ迅速な避難が可能となるように、防災情報システム等の整備強化を図ることに加え、洪水、津波、高潮、土砂災害等が発生した場合に備え、過去の災害や危険箇所、情報入手方法、避難場所、避難経路等を具体的に示したハザードマップ等によるきめ細かな情報の提供を推進し、防災意識の高揚に努めている。
なお、平成25年の「水防法」(昭和24年法律第193号)改正において、181水災時における要配慮者利用施設(社会福祉施設、学校、医療施設その他の主として防災上の配慮を要する者が利用する施設)の利用者の円滑かつ迅速な避難を確保するために、市町村防災会議は市町村地域防災計画に位置づけられた浸水想定区域内の要配慮者利用施設の所有者又は管理者等への洪水予報等の伝達方法を定めることとしたほか、当該施設の所有者又は管理者に対し避難確保計画の作成等を努力義務化するなど、水災防止体制の強化を図っている。
さらに、山地災害危険地区等のうち病院、社会福祉施設等の要配慮者関連施設が隣接している箇所において計画的な治山対策の推進を図っている。
洪水被害を防止又は軽減することを目的に行う河川整備や、過去の高潮・津波等による災害発生の状況等を勘案した海岸保全施設整備等を積極的に推進することとしている。浸水被害は被災後従前の生活に戻るまでに多大な労力を要し、障害のある人にとって日常生活に著しい負担をもたらすものであるため、そうした被害に対しては、再度災害の防止を図るためのハード整備を着実に推進するとともに、ハザードマップなどの円滑かつ迅速な避難を支援するソフト対策を一体的に行っている。
また、雨量・水位等の河川情報を地方公共団体や地域住民に迅速かつ的確に伝達するため、インターネットや地上デジタル放送等によりリアルタイムで情報提供しており、特に雨量・水位が一定量を超えるなどの緊急時においては、迅速な水防活動を実施するために、警報等で危険を知らせている。更に、地方公共団体の防災活動や国民の警戒避難行動等を支援し、土砂災害から人命を守るため、気象庁及び都道府県が共同して、土砂災害警戒情報の提供を行っており、平成26年の「土砂災害防止法」の改正により土砂災害警戒情報が法律上に明記されるとともに、市町村への通知及び一般への周知が都道府県に義務付けられている。渇水時においても情報提供を推進しており、全国のダムの貯水状況、取水制限、給水制限を受けている市町村に関する情報等の提供を行っている。
全国の消防機関等では、春、秋の全国火災予防運動を通じて「特定防火対象物等における防火安全対策の徹底」等を重点目標として取り組んでおり、障害のある人等が入居する小規模社会福祉施設等においては、適切な避難誘導体制の確保を図るとともに、消防法令違反の重点的な是正の推進など必要な防火安全対策の徹底を図っている。
東日本大震災及び熊本地震に伴い、被災地、被災者に対して講じられた施策のうち、障害のある人への支援の一環として実施されているものとして、主に次のような施策がある(平成29年3月現在)。
厚生労働省は、障害のある人や障害福祉サービスの提供を行う事業者に対し、以下のような利用者負担の減免や障害福祉サービスに係る措置を弾力的に行うよう通知等を行った。
(a)障害者就労支援事業所の活動支援(業務発注の確保、流通経路の再建等)
(b)福祉・介護職員等の人材確保のための支援
(c)その他障害福祉サービス事業所等の事業再開に向けた体制整備などに取り組む事業や、居宅介護事業所等の事業の再開に向けた整備の補助
を行うための予算措置を行った。
東日本大震災における心のケアについては、災害救助法(昭和22年法律第118号)に基づき、精神科医、看護師、精神保健福祉士等4、5人程度で構成される「心のケアチーム」が、市町村の保健師と連携を取りながら避難所の巡回等を行った。
被災者の生活の場が災害公営住宅や自宅に移った後も、PTSDの症状が長期化したり、うつ病や不安障害の方が増加したりすることが考えられることから、岩手、宮城、福島の各県に「心のケアセンター」を設置し、継続的に心のケアを行う看護師、精神保健福祉士、臨床心理士等の専門職が、保健所及び市町村と連携しながら、心のケアが必要な方への相談支援等を実施している。
また、熊本地震の心のケアについては、精神医療チームの派遣として、厚生労働省が、発災直後からDMHISS(災害精神保健医療情報支援システム)を活用してDPAT(災害派遣精神医療チーム)の情報集約、派遣調整を行い、熊本県からの派遣要請に基づき、震災発生当日にDPATを派遣した。現地では、精神科医療機関への支援として、被災した精神科医療機関から県内及び県外の医療機関に患者搬送を行った。また、避難所内の巡回活動が行われ、被災者の精神面に関する相談や健康調査、不眠に係るリーフレットの配布等の活動が実施された。更に、平成28年10月17日に、被災者の精神的健康の保持及び増進を図るため「熊本こころのケアセンター」を設置し、精神疾患に関する相談支援、仮設住宅入居者等への訪問支援等を実施している。
全国の発達障害者支援センターの中核として、国立障害者リハビリテーションセンターに設置されている発達障害情報・支援センターでは、震災直後から、発達障害のある人に対する円滑な支援を図るため、被災地で対応する方々に向けて、183支援の際の留意点等の情報提供を行った。また、災害時に必要な対応をまとめた冊子を作成し、ホームページに掲載するとともにその周知を行った(http:// www.rehab.go.jp/ddis/災害時の発達障害児・者について/)。
文部科学省では、東日本大震災に際し、障害のある幼児児童生徒も含め、幼児児童生徒の教育機会確保のため、就学援助等を実施するとともに、各都道府県教育委員会等に対し、被災幼児児童生徒の学校への受入れを実施している。なお、熊本地震においても同様の対応を行った。
国立特別支援教育総合研究所は、東日本大震災に際し、平成23年度に「震災後の子どもたちを支える教師のためのハンドブック~発達障害のある子どもへの対応を中心に~」を作成し、関係機関に配布するとともに、ホームページに掲載をしている(http://www.nise.go.jp/cms/6,3758,53.html)。なお、熊本地震においては、国立特別支援教育総合研究所ホームページトップに「熊本関連情報」として、ハンドブックのURLを再掲し、改めて周知を図った。
文部科学省及び厚生労働省では、東日本大震災に際し、被災した障害のある幼児児童生徒の状況把握及び支援、教育委員会、学校等が支援を必要とする幼児児童生徒を把握した場合に保護者の意向を確認した上で市町村障害児福祉主管課に連絡するなどの教育と福祉との連携、障害児支援に関する相談窓口等の周知について、各都道府県教育委員会、障害児福祉主管課に対し要請している。
障害のある人は、防犯に関する通常のニーズを満たすのに特別の困難を有しており、また、犯罪や事故の被害に遭う危険性が高く、不安感も強いことから、障害のある人の気持ちに配慮した各種施策の推進に努めている。
障害のある人が警察へアクセスする際の困難を取り除くための対策としては、全都道府県警察において、FAX及びEメールでの緊急通報の受理を行っていること(FAX 110番及びメール110番)、巡回連絡、ミニ広報紙の配布等による情報提供に努めていること、交番等へのスロープ設置等を行っていることなどが挙げられる。
障害のある人が犯罪や事故の被害に遭うことの不安感を除くための対策としては、巡回連絡等を通じて、障害のある人の相談や警察に対する要望に応じるとともに、身近な犯罪や事故の発生状況、防犯上のノウハウ等の安全確保に必要な情報の提供に努めていることなどが挙げられる。
また、警察では、住宅等に対する侵入犯罪対策として大きな効果が期待できる建物部品を掲載している「防犯性能の高い建物部品目録」の公表及び普及を図っているほか、公益社団法人日本防犯設備協会と連携し、同協会においてホームセキュリティガイドの中で障害のある人に対応した機器を紹介するなど、障害のある人を対象とした安全で信頼性の高い防犯システムの普及に努めている。
地域生活支援事業においては、障害のある人の情報通信技術の利用・活用の機会の拡大を図るため、IT関連施策の総合サービス拠点となる障害者ITサポートセンターの運営(26都府県:平成27年度末時点)や、パソコンボランティア養成・派遣等が実施されている。
情報通信の活用によるメリットを十分に享受するためには、障害のある人を含めだれもが、自由に情報の発信やアクセスができる社会を構築していく必要がある。
障害のある人の利用に配慮した情報通信機器・システムの研究開発の推進に当たっては、その公益性・社会的有用性が極めて高いにもかかわらず、収益性の低い分野であることから、国立研究機関等における研究開発体制の整備及び研究開発の推進を図るとともに、民間事業者等が行う研究開発に対する支援を行うことが重要である。
また、家電メーカーや通信機器メーカーにおいては、引き続き障害者・高齢者に配慮した家電製品の開発・製造に努めているところである。また、平成28年度より国際標準化団体のISO/IEC JTC1にてスマートフォンのアクセシビリティ向上を目的とした議論が開始され、我が国製造メーカーも参加している。
近年、補聴器の小型化・高性能化の開発は目覚ましいものがあり、屋外等の離れた場所からでも、距離や周囲の騒音の影響を受けずに聞き取ることができる電波を利用した補聴援助システム(ワイヤレス補聴器)についての需要が高まっている。
特別支援学校等の教育の場においても、幼児児童生徒の耳元に教師及び他の生徒の声を確実に届け、スムーズな会話を行うことのできるシステムが望まれている。また、日常生活で補聴器を利用している難聴者にあっても、講演などの場において講師の声がスムーズに聞くことのできるシステムが求められている。
こうしたことから、個人や集団で使用する電波を利用した補聴援助システムについて、制度化を図った。
情報アクセシビリティに関する日本工業規格(JIS)として「高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス」(JIS X8341シリーズ)を制定している。(具体的には「共通指針」、「情報処理装置(パーソナルコンピュータ)」、「ウェブコンテンツ」、「電気通信機器」、「事務機器」、「アクセシビリティ設定」、「対話ソフトウェア」について制定。)
また、国内の規格開発と並行し、国際的な情報アクセシビリティのガイドライン共通化を図るため、JIS X8341シリーズのうち、「共通指針」、「情報処理装置(パーソナルコンピュータ)」及び「事務機器」について国際標準化機構(ISO)へ国際標準化提案を行い、平成24年までに、それぞれ国際規格が制定された。
平成28年においては、国際規格との整合性を高めるため「ウェブコンテンツ」のJIS規格を改正した。
各府省は、高齢者や障害のある人を含めたすべての人々の利用しやすいものとするため、ウェブコンテンツ(掲載情報)に関する日本工業規格(JIS X 8341-3)を踏まえ、ホームページにおける行政情報の電子的提供の充実に努めている。
総務省では、平成28年4月に公的機関がホームページ等のバリアフリー化に取り組むためのガイドラインである「みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)」を公開し、公的機関に対し、遅くとも2017年度(平成29年度)末までにJIS X 8341-3:2016の適合レベルAAに準拠することを求めている。また、平成28年度に全国11地域で国の機関、地方公共団体、独立行政法人等の公的機関の職員を対象に、ホームページ等のバリアフリー化に関する講習会を開催した。
電子投票とは、電磁的記録式投票機(いわゆる電子投票機)を用いて投票する方法であり、開票事務の迅速化に貢献するとともに、自書が困難な選挙人であっても比較的容易に投票することが可能である。
我が国における電子投票は、平成14年2月より、地方公共団体の議会の議員及び長の選挙において導入することが認められている。平成29年3月末現在、電子投票条例を制定している市町村は6団体である。
総務省としては、電子投票システムの更なる信頼性向上のための技術的な課題や導入団体の実施状況等についての調査分析を引き続き行い、地方公共団体に対する必要な情報の提供に取り組んでいる。
テレワークはICTを活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方であり、女性、高齢者、障害のある人等の就業機会の拡大にも寄与するものと期待されている。
政府では、テレワークが様々な働き方を希望する人の就業機会の創出及び地域の活性化等に資するものとして、関係各省が連携し、テレワークの一層の普及拡大に向けた環境整備、普及啓発等を推進することとしている。
総務省においては、テレワークの本格的普及を図るため、民間企業に対するテレワークの導入・運用に向けた専門家派遣や、これら取組を通じたテレワーク優良導入事例の策定、表彰等を行った。さらに全国各地でセミナーを開催し、その普及を図った。
総務省では、高齢者や障害のある人向けの通信・放送サービスの開発を行うための通信・放送技術の研究開発を行う者に対し、支援を行っている(図表3‒4‒13)ほか、国立研究開発法人情報通信研究機構を通じて、身体に障害のある人のための通信・放送サービスの提供又は開発を行う者に対する助成、情報提供を実施している。
通信サービスの中でも特に電話は、障害のある人にとって日常生活に欠かせない重要な通信手段となっており、こうした状況を踏まえ、電気通信事業者においても、音量調節機能付電話等福祉用電話機器の開発や車いす用公衆電話ボックスの設置など障害のある人が円滑に電話を利用できるよう種々の措置を講じている。
ネットワークを利用し、新聞情報等を即時に全国の点字図書館等で点字データにより受信でき、かつ、視覚に障害のある人が自宅にいながらにしてウェブ上で情報を得られる「点字ニュース即時提供事業」を行っている。
また、社会福祉法人日本点字図書館を中心として運営している視覚障害情報総合ネットワーク「サピエ」により、点字・録音図書情報等の提供を行っている。
障害のある人の社会参加に役立つ各種情報の収集・提供と、情報交換の支援を行う「障害者情報ネットワーク(ノーマネット)」では、障害のある人からの情報アクセスを容易にするため、187文字情報、音声情報及び画像情報を統合して同時提供するマルチメディアシステム化を図るとともに、国内外の障害保健福祉研究情報を収集・蓄積し、インターネットで提供する「障害保健福祉研究情報システム」を構築している。
平成21年6月に可決成立した著作権法(昭和45年法律第48号)改正により、障害者のために権利者の許諾を得ずに著作物等を利用できる範囲が抜本的に見直され、障害の種類を限定せずに、視覚や聴覚による表現の認識に障害のある者が広く対象になるとともに、視覚障害のある人については、デジタル録音図書の作成、聴覚障害者については、映画や放送番組への字幕・手話の付与など、それぞれの障害者が必要とする幅広い方式での複製等が可能となった。なお、当該複製等を行う主体についても、障害者施設に加えて、公共図書館等の施設なども含まれることとなった。
平成25年6月に、「盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約(仮称)」が採択されたことを踏まえ、文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会において、本条約締結のための制度整備やその他障害者の著作物へのアクセスを促進するための制度等の在り方について検討を行っているところである。
内閣府では、視覚に障害がある方に対して政府の重要な施策の情報を提供するため、政府広報として音声広報CD「明日への声」及び点字・大活字広報誌「ふれあいらしんばん」を発行(年6回、各号約5,000部)し、それぞれ全国の視覚障害者情報提供施設協会、日本盲人会連合、特別支援学校、公立図書館(都道府県、政令市、中核市、特別区立等)、地方公共団体等、約3,400か所に配布している。(図表3-4-14)
法務省刑事局では、犯罪被害者やその家族、さらに一般の人々に対し、検察庁における犯罪被害者の保護・支援のための制度について分かりやすく説明したDVD「もしも…あなたが犯罪被害に遭遇したら」を全国の検察庁に配布しているが、説明のポイントにテロップを利用しているほか、全編に字幕を付すなどしており、聴覚障害のある人も利用できるようになっている。
また、犯罪被害者等向けパンフレットの点字版及び同パンフレットの内容を音声で録音したCDを作成し、全国の検察庁及び点字図書館等へ配布を行い、視覚障害者の方々に情報提供している。
法務省の人権擁護機関では、各種人権課題に関する啓発広報ビデオを作成する際に、字幕付ビデオも併せて作成するとともに、啓発冊子等に、音声コード(専用の機械に読み取らせることにより、本文の音声読み上げを行うことができるコード)を導入し、視覚障害のある人も利用できるようにしている。
国政選挙においては、平成15年の公職選挙法(昭和25年法律第100号)改正により、郵便等投票の対象者が拡大されるとともに、代理記載制度が創設されているほか、障害のある人が投票を行うための必要な配慮として、点字による「候補者名簿及び名簿届出政党等名簿」の投票所等への備付け、投票用紙に点字で選挙の種類を示す取組、点字版やカセットテープ、コンパクトディスク等の音声版による候補者情報の提供、投票所における車いす用スロープの設置や点字器の備え付け等を行っている。
また、政見放送における取組として、衆議院比例代表選出議員選挙及び都道府県知事選挙にあっては、手話通訳の付与、参議院比例代表選出議員選挙にあっては、手話通訳及び字幕の付与、衆議院小選挙区選出議員選挙にあっては、政見放送として政党が作成したビデオを放送することができ、政党の判断により手話通訳や字幕をつけることができることとしている。
視聴覚障害のある人が、テレビジョン放送を通じて情報を取得し、社会参加していく上で、字幕放送、解説放送、手話放送の普及は重要な課題であり、総務省においては、その普及を推進している。
平成9年の放送法(昭和25年法律第132号)改正により、字幕番組、解説番組をできる限り多く放送しなければならないとする努力義務規定が設けられた。
平成19年10月には、「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」を策定し、平成24年10月に見直しを実施した。同指針においては平成29年度までに、字幕放送については対象放送番組のすべてに字幕付与、大規模災害等緊急時放送についてはできる限りすべてに字幕付与、解説放送については対象放送番組の10%に解説を付与、手話放送については実施時間をできる限り増加させる等の普及目標を定めており、その達成に向けて、放送事業者の取組を促している。また、国立研究開発法人情報通信研究機構を通じて字幕番組の制作費等の一部助成も行っている。
字幕付きCMの普及についても、平成26年10月に発足した字幕付きCM普及推進協議会(日本アドバタイザーズ協会、日本広告業協会、日本民間放送連盟の3団体で構成)では、平成28年9月から構成3団体のそれぞれのホームページに、字幕付きCM対するご意見を募集する専用メールアドレスを設置するとともに、字幕付きCM関係者が抱える課題と展望を共有する「字幕付きCMセミナー」を開催する等の取組が行われている。
厚生労働省では、聴覚障害のある人のために、字幕(手話)入り映像ライブラリーや手話普及のための教材の制作貸出し、手話通訳者等の派遣、情報機器の貸出し等を行う聴覚障害者情報提供施設については、全都道府県での設置を目指し、その整備を促進している。
日本銀行券(いわゆる、お札)については、昭和59年に発行開始した前シリーズのもの以降、視覚障害のある人が券種を識別する手段として「識別マーク」を施している。しかしながら、視覚障害のある人からは、同マークがわかりにくいため券種の識別が行いにくいとして、改善を求める要望が寄せられてきた。
これを受け、財務省は、国立印刷局、日本銀行とともに、現行の日本銀行券がより使いやすいものとなるよう、平成25年4月26日に「日本銀行券の券種の識別性向上に向けた取組み」を公表した。平成28年度においても、具体的な3つの取組として、①改良五千円券の発行(平成26年5月12日発行開始)や、②日本銀行券にカメラをかざすことで音声等により券種をお知らせするスマートフォン用の券種識別アプリ(言う吉くん)の提供(平成25年12月3日配信開始)、③券種を識別して音声等により通知する専用機器の開発に資する技術情報の提供を行った(平成26年度中に民間企業2社が製品化)。また、券種の識別性に関し、関係者からの意見聴取や、海外の取組状況の調査等を実施している。
地域生活支援事業においては、聴覚、言語機能、音声機能、視覚その他の障害のため、意思疎通を図ることに支障がある人に、手話通訳者等の派遣や設置、点訳や音声訳等による支援などを行う意思疎通支援事業や、点訳奉仕員、朗読奉仕員、要約筆記者、手話奉仕員及び手話通訳者等の養成研修が実施されている。平成25年4月に施行された障害者総合支援法における地域生活支援事業では、手話通訳者、要約筆記者及び盲ろう者向け通訳・介助員の養成研修を都道府県の必須事業とするとともに、派遣を行う事業についても市町村で実施できない場合などは都道府県が実施する仕組みとし、意思疎通支援の強化を図っている。
各都道府県警察においては、聴覚に障害のある人のための字幕スーパー入り講習用映画の活用や手話通訳員の確保に努めている。また、言語での意思伝達を困難とする人たちと警察官とのコミュニケーションを円滑にするため、協力団体と共に開発し、提供を受けた「コミュニケーション支援ボード」につき、イラストを追加するなどの改定を行い、全国の交番、パトカー等に配備し、活用している。
日本工業標準調査会(JISC)は、文字や話し言葉によるコミュニケーションの困難な人が、自分の意思や要求を相手に的確に伝え、正しく理解してもらうことを支援するための絵記号に関する規格を「コミュニケーション支援用絵記号デザイン原則(JIST0103)」として制定し、平成22年に障害のある人が会議に参加しやすいように主催者側の配慮事項を「アクセシブルミーティング(JIS S0042)」として規格を制定した。
コミュニケーション支援用絵記号の例
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けたアクセシビリティの実現
障害の有無に関わらず、すべての人々にとってアクセシブルでインクルーシブな東京大会を実現するため、公益社団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下「組織委員会」という。)、国の関係行政機関、東京都、関係地方公共団体、障害者団体及び障害者スポーツに関わる団体等で構成するアクセシビリティ協議会において、「Tokyo2020アクセシビリティ・ガイドライン(※1)」をとりまとめ、国際パラリンピック委員会(以下「IPC」という。)から承認を得て、組織委員会により公表されている(※2)。
今後、2020年東京大会の準備・運営に反映させる予定である。
※1:IPCが定める『IPCアクセシビリティガイド』と国内関係法令等に基づき、東京大会の各会場のアクセシビリティに配慮が必要なエリアと、そこへの動線となるアクセス経路、輸送手段、組織委員会による情報発信・表示サイン等の基準、及び関係者の接遇トレーニング等に活用する指針として、組織委員会が作成するもの。
※2:
項目 | 内容 | |
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エレベーターのかごの大きさ | 推奨 | 幅2,100mm×奥行1,500mm(IPCの推奨)、又は同等水準のサイズ
※鉄道駅等は、複数台設置により全体容量で推奨基準を達成する場合、当該基準を満たしたものとみなす。 |
標準 | 幅1,700mm×奥行1,500mm(IPCの遵守基準)、又は同等水準のサイズ | |
※構造上の理由等によって標準を満たせない場合
幅1,400mm×奥行1,350mm(国の遵守基準)
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出入口のドア幅 | 推奨 | 950mm(IPCの推奨) |
標準 | 大会会場では850mm(IPCの遵守基準)
公共交通機関では900mm(国の推奨)
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※構造上の理由等によって標準を満たせない場合
800mm(国の遵守基準)
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傾斜路の踊り場 | 推奨 | 高低差500mm以内ごとに設置(IPCの推奨) |
標準 | 高低差750mm以内ごとに設置(国の遵守基準)
※公共交通機関の屋外部分は高低差600mm以内ごとに設置(国の推奨基準)を標準とし、構造上の理由等でそれを満たせない場合にのみ、上記規定を適用 |