『芳一さん!――
芳一さん!』下男達は声をかけた『貴方は何かに魅されているのだ!……芳一さん!』
しかし盲人には聞えないらしい。力を籠めて芳一は琵琶を錚錚嗄嗄と鳴らしていた――
ますます烈しく壇ノ浦の合戦の曲を誦した。男達は芳一をつかまえ――耳に口をつけて声をかけた――
『芳一さん!――芳一さん!――すぐ私達と一緒に家にお帰んなさい!』
叱るように芳一は男達に向って云った――
『この高貴の方方の前で、そんな風に私の邪魔をするとは容赦はならんぞ』
事柄の無気味なに拘らず、これには下男達も笑わずにはいられなかった。芳一が何かに魅されていたのは確かなので、一同は芳一を捕え、その身体をもち上げて起たせ、力まかせに急いで寺へつれ帰った――そこで住職の命令で、芳一は濡れた著物を脱ぎ、新しい著物を著せられ、食べものや、飲みものを与えられた。その上で住職は芳一のこの驚くべき行為をぜひ十分に説き明かす事を迫った。