芳一は気楽にしているようにと云われ、
座蒲団が自分のために備えられているのを知った。それでその上に座を取って、琵琶の調子を合わせると、女の声が――その女を芳一は老女すなわち女のする用向きを取り締る女中頭だと判じた――芳一に向ってこう言いかけた――
『ただ今、琵琶に合わせて、平家の物語を語っていただきたいという御所望に御座います』
さてそれをすっかり語るのには幾晩もかかる、それ故芳一は進んでこう訊ねた――
『物語の全部は、ちょっとは語られませぬが、どの条下を語れという殿様の御所望で御座いますか?』
女の声は答えた――
『壇ノ浦の戦の話をお語りなされ――その一条下が一番哀れの深い処で御座いますから』