幾(いく)百(ひゃく)年(ねん)か以前(いぜん)の事(こと)、この赤間(あかま)ヶ(が)関(ぜき)に芳一(ほういち)という盲人(もうじん)が住(す)んでいたが、この男(おとこ)は吟誦(ぎんしょう)して、琵琶(びわ)を奏(そう)するに妙(みょう)を得(え)ているので世(よ)に聞(きこ)えていた。子供(とも)の時(とき)から吟誦(ぎんしょう)し、かつ弾奏(だんそう)する訓練(くんれん)を受(う)けていたのであるが、まだ少年(しょうねん)の頃(ころ)から、師匠(ししょう)達(たち)を凌駕(りょうが)していた。本職(ほんしょく)の琵琶(びわ)法師(ぼうし)としてこの男(おとこ)は重(お)もに、平家(へいけ)及(およ)び源氏(げんじ)の物語(ものがたり)を吟誦(ぎんしょう)するので有名(ゆうめい)になった、そして壇ノ浦(だんのうら)の戦(いくさ)の歌(うた)を謡(うたい)うと鬼神(きしん)すらも涙(なみだ)をとどめ得(え)なかったという事(こと)である。