◎妊娠中の日常生活
妊娠中の母体には、おなかの赤ちゃんの発育が進むにつれて様々な変化が起こってきます。特に妊娠11週(3か月)頃までと妊娠28週(8か月)以降は、からだの調子が変化しやすい時期なので、仕事のしかたや、休息の方法(例えば家事や仕事の合間に、少しの時間でも横になって休むなど)、食事のとり方などに十分注意しましょう。普段より一層健康に気をつけ、出血、破水、おなかの強い張りや痛み、胎動の減少を感じたら、すぐに医療機関を受診しましょう。
◎健康診査や専門家の保健指導を受けましょう
妊娠中は、特に気がかりなことがなくても、少なくとも毎月1回(妊娠24週(7か月)以降には2回以上、さらに妊娠36週(10か月)以降は毎週1回)妊婦健康診査を受けて、胎児の育ち具合や、自身の健康状態(血圧、尿など)をみてもらいましょう。
健康で無事な出産を迎えるためには、日常生活、栄養、環境その他いろいろなことに気を配る必要があります。医師、歯科医師、助産師、保健師、歯科衛生士、管理栄養士などの指導を積極的に受け、妊娠、出産に関して悩みや不安があるとき又は家庭、職場でストレスがあるときなどは遠慮せずに相談しましょう。母親学級、両親学級でも役に立つ情報を提供しています。
出産前後に帰省する(里帰り出産など)場合は、できるだけ早期に分娩施設に連絡するとともに、住所地と帰省地の市区町村の母子保健担当に手続きなどを相談しましょう。
※妊婦健康診査をきっかけに、下記のような妊娠中の異常(病気)が見つかることがあります。
・流産:妊娠22週未満に妊娠が終了してしまう状態です。性器出血や下腹部痛などの症状が起こります。妊娠初期の流産は特に原因がなくても、妊娠の約10~15%に起こるとされています。2回以上流産を繰り返す場合は、検査や治療が必要な場合があります。
・貧血:妊娠中は血が薄まって貧血になりやすいとされています。出産に備え、鉄分を多く含む食事を取りましょう。ひどい場合には、治療が必要になります。
・切迫早産:正常な時期(妊娠37週以降)より早くお産になる可能性がある状態です。下腹部痛、性器出血、前期破水などの症状が起こります。安静や内服などの指示が出されます。
・妊娠糖尿病:妊娠中は、それまで指摘されていなくても糖尿病のような状態になり、食事療法や血糖管理が必要となることがあります。
・妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症):高血圧と尿
・前置胎盤:胎盤の位置が正常より低く、子宮の出口をふさいでいる場合をいいます。大出血を起こすことがあります。出産時には帝王切開が必要になります。
・常位胎盤早期剥離:赤ちゃんに酸素や栄養を供給する胎盤が、出産前に子宮からはがれて(剥離)しまう状態です。赤ちゃんは酸素不足になるため、早急な分娩が必要になることがあります。63ページ主な症状は腹痛と性器出血ですが、胎動を感じにくくなることもあります。
◎妊娠中のリスクについて
下記の項目に当てはまるものがある方は、一般に妊娠中や出産時に異常(病気)を起こすリスクが高いとされています。心配なことがある場合には、医療機関などに相談しましょう。
(若年(20歳未満)、高年(40歳以上)、低身長(150㎝未満)、肥満(BMI25以上)、飲酒、喫煙、多胎、不妊治療での妊娠、糖尿病・腎臓病などの病気がある、過去の妊娠・分娩で問題があった)
◎胎児の発育について
妊婦健康診査の超音波検査により、胎児の推定体重を計算することができます。推定体重を胎児の発育曲線に書き入れて赤ちゃんの発育の様子を確認してみましょう。
グラフ:胎児発育曲線
※この曲線の、上下の線の間に約95.4%の赤ちゃんの妊娠週数別推定体重が入ります。心配なことがあれば、医療機関等に相談しましょう。
(出典)「推定胎児体重と胎児発育曲線」保健指導マニュアル
[グラフ、終わり]
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◎妊娠中の歯の健康管理
妊娠中はつわりなどの体調の変化で丁寧な歯みがきが難しく、ホルモンのバランスや食生活も変化するため、歯周炎やむし歯が進行しやすい時期です。お口の中を清潔に保つため、日常の口腔ケアに加えて定期的な歯科受診により口の中の環境を整え、必要があれば安定期に歯科治療を行いましょう。口の中の環境が悪いと生まれてくる赤ちゃんに影響の出ることがあります。
◎たばこ・お酒の害から赤ちゃんを守りましょう
妊娠中の喫煙は、切迫早産、前期破水、常位胎盤早期剥離を起こりやすくし、胎児の発育に悪影響を与えます。妊婦や赤ちゃんのそばでの喫煙は乳幼児突然死症候群(SIDS)と関係することが知られています。妊婦自身の禁煙はもちろんのこと、お父さんなど周囲の人も、妊婦や赤ちゃんのそばで喫煙してはいけません。
出産後に喫煙を再開してしまうお母さんもいます。出産後もお母さん自身やお子さんのために、たばこは控えましょう。
また、アルコールも胎児の発育(特に脳)に悪影響を与えます。妊娠中は、全期間を通じて飲酒をやめましょう。出産後も授乳中は飲酒を控えましょう。
◎妊娠中の感染症予防について
妊娠中は、免疫力が低下して感染症にかかりやすくなっています。妊娠中は赤ちゃんへの影響も考えて有効な薬が使えないことがあります。日頃から手洗い、うがいなど感染予防に努めましょう。
また、何らかの微生物(細菌、ウイルスなど)がお母さんから赤ちゃんに感染し、まれに赤ちゃんに影響が起きることがあります。妊婦健康診査では、感染症の有無を調べることができるものもあり、治療を受けることで赤ちゃんへの感染を防ぐことができるものもあるのできちんと受診しましょう。
まだ発見されていない感染症や検査が一般に行われない感染症もあります。子どもや動物のだ液や糞尿に触れた場合には、よく手洗いをしましょう。
※妊婦健康診査で調べる感染症(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken16/dl/06_1.pdf)
※国立感染症研究所(http://www.nih.go.jp/niid//ja/route/maternal.html)
※赤ちゃんとお母さんの感染予防対策5ヶ条(http://www.jspnm.com/topics/data/topics20130515.pdf)
◎妊娠・出産・授乳中の薬の使用について
妊娠中や授乳中の薬の使用については、必ず医師、歯科医師、薬剤師等に相談しましょう。自分の考えで薬の使用を中止したり、用法、用量を変えたりすると危険な場合があるので、医師から指示された用量、用法を守り適切に使用しましょう。
※「妊娠と薬情報センター」(http://www.ncchd.go.jp/kusuri/)において、妊娠中の薬の使用に関する情報提供が実施されていますので、主治医と相談しましょう。
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また、子宮収縮薬などの出産時に使用される医薬品についても、その必要性、効果、副作用などについて医師から十分な説明を受けましょう。
※(独)医薬品医療機器総合機構のWebサイト(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/)から、個別の医薬品の添付文書を検索することができます。
◎無痛分娩について
厚生労働省 無痛分娩について(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000186912.html)
日本産科麻酔学会 無痛分娩Q&A(http://www.jsoap.com/pompier_painless.html)
◎妊娠中のシートベルト着用について
シートベルトの着用は、後部座席を含む全座席について義務付けられています。妊娠中であっても、シートベルトを正しく着用することにより、交通事故に遭った際の被害から母体と胎児を守ることができます。ただし、妊娠の状態は個人により異なりますので、シートベルトを着用することが健康保持上適当かどうか、医師に確認するようにしましょう。
妊娠中は、事故などの際の胎児への影響を少なくするために、腰ベルトのみの着用は行わず、腰ベルトと肩ベルトを共に着用し、大きくなった腹部をベルトが横切らないようにするなど、正しくシートベルトを着用することが必要です。
イラスト
[イラスト、終わり]
※妊娠中の正しいシートベルトの着用方法
(http://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzen/seatbelt.html)
◎妊娠中の夫の役割
妊婦の心身の安定には、夫や家族など周囲の理解や協力が必要です。妻をいたわり、ねぎらい、家事を積極的に行いましょう。妻の妊娠期間の約10か月は、夫にとっても「父親」として育っていく大切な準備期間です。この時期に、ふたりにとって子どもとはどんな存在か、親になるとはどういうことなのかなど、じっくり話し合ってみましょう。また、お産の時や産後の育児で夫がどのような役割を持つのか、妊娠中からよく話し合い、準備しておきましょう。
◎妊娠・出産に伴う心身の変化
妊娠や出産による身体や生活スタイルの変化などにより、不安を感じることがあります。特に、出産後に気持ちが落ち込んだり、涙もろくなったり、不安になったりすることがあり、多くの場合は一時的なものと言われていますが、気持ちの落ち込みや焦り、育児に対する不安などが2週間以上続く場合もあります。66ページ「産後うつ」は、産後のお母さんの10~15%に起こるとされています。出産後は、お母さんは赤ちゃんの世話に追われ、自分の心や体の異常については後回しにしがちです。また、お父さんや周囲の方も赤ちゃんが最優先で、お母さんの変化を見過ごしがちです。妊娠中や出産後に不安を感じたり、産後うつかもしれない、と思ったときは、ひとりで悩まず医師、助産師、保健師に相談しましょう。
また、妊娠中や出産時に異常があった場合は、出産後も引き続き治療や受診が必要な場合があります。経過が順調と思われるときでも、医師の診察を受けましょう。
◎赤ちゃんのかかりつけ医
妊娠中に、産科医から紹介を受けるなどして、軽い風邪や発熱などで気軽にいつでもみてもらえるよう、かかりつけの小児科医をきめておくと安心です。
◎マタニティマーク
マタニティマークは、妊婦が交通機関等を利用する際に身につけ、周囲に妊婦であることを示しやすくするものです。また、交通機関、職場、飲食店などが、呼びかけ文を添えてポスターなどとして掲示し、妊産婦にやさしい環境づくりを推進するものです。
画像:マタニティマーク
[画像、終わり]
※マタニティマークホームページ(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/boshi-hoken/maternity_mark.html)