高等部研究協議会
(美術・家庭)

福井県立ろう学校

中村 真理

前半は美術・家庭,二つの授業研究会であった。まずデザインコースの玉生美智子先生から授業の趣旨説明があった。“レイアウト”を主題にしたビジュアルデザインの授業であった。
デザインの授業で難しいことは,主題に向かってデザイン・レイアウトしていくことの難しさにある。いくら技術を学んでも主題や意味を読みとれないままでは,自分の力で実践するには限界がある。近年,様々なデザインの作業がデジタル化される中で,自由度や利便性が高すぎるために主題と向き合えないのではないかという問題点が出されたが,かといって,アナログな作業をすればいいというわけではなく,教員側が“よいデザインとは何か”という価値観を明確に持ち,具体的なねらいとそれに対する的確な評価の方法を持っていることが重要ではないかということであった。
レイアウトするということは「伝える内容がある」ということであり,「伝達デザイン」に他ならない。ただの連絡事項の伝達ではない“デザイン”という思考をくぐらすことの重要性を教員がいかに理解しているかが協議の焦点となった。さらに,見やすさ・美しさという概念がない生徒にとって,どのようにそれを学んでいくことができるのかが話し合われた。ことばの概念ではなく具体物を通して学習していくことが必要ではないかという意見があったが,これでよいという方法はなく,どの学校も苦労している様子であった。
また環境を整えるだけでは生徒たちは学び取ることが難しい,ということも問題提起された。すばらしい作品を見て直にふれあっても,技術的なすばらしさ・センスにはなかなか気づけない。環境を整えることはもちろんのこと,それを教師の説明だけで終わらせるのではなく,生徒自身に発見させ,繰り返し体験させることで身に付いていくのではないかということだった。実態がバラバラな生徒に対しての題材選びや到達目標の設定の難しさは各校共通の悩みであり,それに対しての工夫や取り組みについても話し合いがなされた。
現場で必要とされる技術を伸ばすのか,または社会に出たときのメンタル的な力を伸ばすのかということについても意見交換があった。
次に,生活造形コースの小林早由利先生から授業の概要と趣旨説明があった。長い学習時間をだれさせないような取り組みや工夫などの紹介,全国高等学校家庭科被服製作技術検定や食物調理技術検定など各検定への取り組み,生徒自身での手順のカード作り等,実習中心の学習だからこそ技術的なポイントを自分で押さえられるような支援が必要とのことだった。
後半は,筑波大学附属聾学校造形芸術科の紹介を挟み,研究協議会が行われた。「実習科目を指導する上での配慮・工夫」をテーマに(1)わかりやすい授業を展開するために(2)ことばの力を育てるために(3)学習意欲を育てるためにという三点を挙げて,意見交換が行われた。
まず,わかりやすい授業を展開するための具体的な配慮や工夫について,同校から実践報告があった。デザインをする上で大事なのはより多くの情報を得ることという立場から,知る環境・やってみる環境を整えることの必要性を述べられた。しかし,生徒にやる気を起こさせることは難しく,時には親切すぎるほどのお膳立てをしてしまう現状もあるという。技術的な能力があっても見方・捉え方が分からない生徒も多く,それを教えることと子どもの主体性とのかねあいの難しさもあるとのことだった。
ことばの力については,大きく分けて二つの力が挙げられた。一つは進路指導において,企業に求められることばの力,仕事をするためのことばの力,もう一つは,生涯,芸術を楽しみ,いきいきと生きていくためのことばの力である。制作の記録などを通して間違いを是正し,作業をことばに置き換える実践が報告されたが,イメージを表すことばを伝え合うことは難しいとの感想が相次いだ。それに対して “イメージスケール”を使用した実践例などが報告され,目に見える形で提示し,座標から意味を想像し活用していくことで語彙の獲得に役立てることができるのではないかとのことだった。また授業内外での生徒への問いかけ次第で,生徒の理解のしかたや考える意欲が変わることから,生徒とのやりとりの重要性も話し合われた。
普通科目とは違う部分である,“ものづくりの授業”の利点と難しさを感じる研究協議会であったが,美術・家庭の実習を通して学ぶ授業はいかにその利点を活かしながら学習していくかということに尽きるとも言える。また,学校のHPに作品を載せるなど,全国のろう学校の実習の様子がお互いに知り合える機会を作り,それぞれの専門性を高めていけるような組織作りも検討していく必要があるとの意見も出て閉会となった。