兵庫大会 研究協議分科会



1.早期教育T(乳幼児)

(助言者から)

信州大学

全学教育機構教職教育部 

庄司和史

まず、神戸聴覚特別支援学校の大谷淳子先生のご発表「再現遊びを通して親子のコミュニケーションを育てる」では、経験に裏打ちされた実践報告の中から個に合わせた指導・支援を行うこと、実際の体験が重要であること、保護者の思いをとらえることといった担当者の基本的な姿勢について改めて考えることができました。豊橋聾学校の我妻仁子先生の「よりよい親子関係を目指して−親子支援の実践−」では、初期の段階の保護者の戸惑いに対しての取り組みが報告され、子供の具体的な変化が保護者の意欲につながっていくことや遊びの中の親子の触れ合いがコミュニケーションに広がっていくこと、学校の活動が家庭に広がり、保護者同士の関わりに広がることなどをご紹介いただきました。筑波大学附属聴覚特別支援学校の小柳達朗先生の「母子のかかわりを育てる環境づくりー壁面飾りを通して考えるー」では、壁面飾りを子供の目線や生活経験からとらえ直すことの大切さと環境作りによって母子の関わりが変化する様子について考えることができました。都立大塚ろう学校の江川麻貴先生の「乳幼児期のよりよい保護者支援を目指してー大塚ろうの実践ー」では、家庭訪問支援や成人聴覚障害者との出会いなど長年実践を積み重ねてきた大塚ろう学校の支援プログラムの全体像をご発表いただき、各校の明日の実践に活かすことができる貴重な内容を示してくださいました。奈良県立ろう学校の今井啓司先生の「0・1・2歳児における個別指導プログラムについて」では、子供の全体発達をとらえ、発達の見通しが保護者にも分かりやすいようにまとめること、担当者には子供を見る力、実践力、説明する力が必要で、マニュアルではないプログラム、具体事例が必要であること等が示されました。香川県立聾学校の河合瞳先生の「聴覚障害乳幼児のことばを豊かに育てるためにー『ことば絵じてん』作りの取り組み−」では、親子で活用する絵じてん作りが紹介され、コミュニケーションを深め、知識を得るきっかけになったこと、何度も振り返ることができるツールになったこと、生活の中で触れた言葉を整理し定着させるために有効であったこと等が報告されました。

親子関係や親子の関わりを支援するとき、親の障害受容の状態に配慮することが必要です。障害受容過程については、Drotar等の段階説をおさえなければなりませんが、「親は慢性的な悲哀に苦しんでいる」というOlshanskyの慢性的悲哀の考え方も参考になります。障害受容は子供が大きくなっても続く課題であると言える

一方、言葉やコミュニケーションを育てる側面では、因果関係に配慮した生活が行われているかを見ていく必要があります。難聴の影響による言葉の発達の問題は、前言語期にはとらえにくいものです。因果関係理解の発達や共同注意の発達が言葉やコミュニケーションの発達に関連が深いのでよく見ていく必要があります。

元筑波大学の前川久男氏はヴィゴツキーやルリアの記述科学(ロマンティックサイエンス)について、「抽象性」より「具体性」が大事であり、個々に生きている人として具体的生活をもった人間をどういうふうに理解し、科学として実現するかが重要であると述べています。「子どもは具体的存在であり、IQいくつという存在ではない」と。私たちは子供の実態を、聴力はいくつか、装用効果はどの程度か、語彙数は・・などと数値に表れるものだけで把握しようとしがちですが、具体的に子供を知るということは数値では表れない姿を見ていくことだと思います。そんなことを考えさせてくれる活発な分科会だったことをありがたく思います。

(参加者から)

福井県立福井ろう学校

宮本りつ子

本分科会は「乳幼児の全体発達を促し、コミュニケーションの楽しさを感じられる親子の関係づくりへの支援について考える」のテーマのもと、助言者に信州大学の庄司和史教授をお迎えして、6校の発表をもとに研究協議を深めました。

兵庫県立神戸聴覚特別支援学校からは再現遊びを通して親子のコミュニケーションを育てていく発表がありました。再現あそびに対する保護者の評価や感想を聞いたり、子どもの変容や子どもを受容していく保護者の変化をチェックリストによって捉えたりと、保護者の思いに寄り添った支援がなされていました。協議の中でも日常生活に般化させるための保護者支援について熱心に話し合われました。

愛知県立豊橋聾学校からは、よりよい親子関係を目指して、0,1歳児と2歳児それぞれの合同活動や母親教室での実践について発表がありました。手遊びやおもちゃの制作など、家庭でも親子で繰り返し遊ぶことができるような題材の工夫や、母親の発言を拾い上げ、母親同士のつながりが深まるような支援がなされていました。

筑波大学附属聴覚特別支援学校からは、壁面飾りを通して母子の関わりを育てる環境作りについての発表がありました。子どもとの関わり方や遊び方がわからない母親にとっては教師が子どもと関わる姿が良いモデルとなっており、とても参考になりました。

東京都立大塚ろう学校からは、乳幼児期のよりよい保護者支援をめざしての様々な実践とその後の育ちをJcossWISC-Wの検査結果から検証した発表がありました。親子活動のビデオでは、親子の組み合わせを替えて行っていたことにとても驚きました。教師との信頼関係、保護者同士のつながりの深さをうかがい知ることができました。

奈良県立ろう学校からは、0,1,2歳児における個別指導プログラム、事例集の作成の発表がありました。子どもの発達全体の道筋をまとめたプログラムや事例集があることは、初めて担当する者の大きな助けになると思います。

香川県立聾学校からは、幼稚部で各児が取り組んでいる「ことば絵じてん」作りを乳幼児でも行っているという発表がありました。「ことば絵じてん」作りをどの段階で始めるのか、またいつ絵日記へ移行するのか、名詞に偏らず形容詞や動詞をどのように扱っていくかなどが話題に出ました。聴覚活用、日常的な手話の使用が困難な子には視覚情報として残るので、有効な手だてかもしれないと感じました。

すべての発表を受け、庄司先生からの御助言、まとめがありました。その中の「教師とはその人と一緒に生きて、その人がどう生きていくのかを一緒に作ろうとする人」という言葉に、子どもや保護者に最初に関わる教師としての責任の重さを改めて感じました。

大会を終えて改めて福井校を顧みると、@乳幼児教室(0〜2歳児)では個別は週1回、集団は1歳児が月1〜2回、2歳児が週1回でどちらも120分程かけ、一人一人の成長、発達に合わせてきめ細かい支援や保護者との話し合いの時間を確保している。A担当者は幼稚部担任を経験しており、さまざまな子どもに対して見通しを持ったアドバイスや支援ができる。B医療機関と学校の間に、率直に意見を述べ合い尊重し合えるような信頼関係があり、子どもに変化があった時、共通認識をもって対応できる、また聴覚以外の発達もふまえながら子どもの育ちをみることができる。など良い点を再確認できました。しかしその一方で専門性の継承などの問題もあります。

今回初めて乳幼児の研究協議会に参加して、改めて、実践研究を通して教育内容を深め、それをきちんと形に残して継承していくことの大切さを痛感しました。発表の中のすばらしい実践を参考にさせていただきながら、本校の乳幼児教室のあり方について研究を進めていきたいと思います。ありがとうございました。

2.早期教育U(幼稚部)

(助言者から)

目白大学

保健医療学部

齋藤佐和

本分科会では広めの会場がほぼ埋まる参加者があり、活発な質疑があった。京都校と姫路校、こばと校によって分科会が運営され、8本の研究を2本ずつにまとめて発表、質疑が行われた。ここでは内容のまとまりごとに感じたことを記しておきたい。

「遊び」がいろいろな角度から取り上げられた。3歳児前半からの集団での設定遊びの実践を独自の分類で整理した附属校鎌田先生の発表から、年齢や個別の状況を考えた教材内容と教師の関わり方について多くの示唆に富む情報が提供された。ぜひ5歳児まで継続することを期待したい。千種校上杉先生の発表は、経験をごっこ遊びの中に取り入れ、繰り返し楽しみながら経験の深化と言葉での理解・表現の増加を図るもので、教材の工夫や授業研究会での検討が有意義と思われた。筑波技術大新井先生の発表では、「あそび」の保育における重要性から、教師主導を脱して子どもの遊びの観察を深める必要性が示された。遊びが発達に占める意味をさらに吟味して、発達全体の中に位置づけた議論への発展を期待したい。

岡崎校白井先生、群馬校松澤先生の発表は、日本語の指導にあたっての方法論の観点から、神戸校小川先生の発表は、幼児期のことばの指導を取り巻く教育環境という観点から括ることができる。基礎的な日本語を身につけさせたい、思考の広がりを促したいという幼稚部教員の願いから、手話との関わり、聴覚活用や口声模倣の役割、考えることを促す言葉かけ、視覚的教材の活用、子ども同士の会話の促進、物的人的環境の整備等々の古くて新しい問題が取り上げられた。これらは幼稚部教員にとって、いつの時代にも必要な議論であり、変化していく子どもたちの姿に即しながら、今後も続けていきたい議論である。

坂戸校後藤先生の発表は、聾教員としての立場から、聾学校教員の在り方に問題提起していると言える。指摘された聴教員の問題点は聾学校教師としてあってはならないことで、聾学校教師としての役割が果たせていれば起こらないことではないだろうか。研究としては客観的な資料による裏付けが望まれる。

生野校阿部先生の発表は、発見の遅れた幼児に対し聾学校幼稚部の知恵を活かした粘り強い指導が実を結んだ事例報告だった。経験を伝えるための本児の絵日記活用の様子は、聾学校での絵日記活動本来の在り方で、その成果に聾学校幼稚部のもつ力を見ることが出来たと思う。

  他の学部にもまして、幼稚部では子どもの発達を見る目を磨いてほしいと思う。新任の先生も先輩の助言などから、活動面、言語面での発達を見通しながら、現在の関わりを楽しみ、拡げていってほしい。直接経験が言語でも分かる段階から間接経験が分かる段階へ、さらに言語を通して知識を取り込む力がついてきて、小学校以降の学習に繋がる。幼稚部はその長い道のりの出発点にある。様々な活動のなかで展開されるきめ細かい丁寧な指導の伝統をこれからも引き継いでいってほしいと強く願っている。

 

(参加者から)

高知県立高知ろう学校

濱田里美

「学力の基礎を培うための言語教育の指導と個に応じた支援の在り方について考える」の分科会主題にそって、幼児の豊かな言語活動を支える方法、主体的な遊びにおける教材や環境設定の工夫についてなど8本の取組が紹介されました。

筑波大学附属聴覚特別支援学校の鎌田ルリ子先生、愛知県立岡崎聾学校の白井陽子先生からは集団遊びを取り入れた指導について発表がありました。筑波大学附属聴覚特別支援学校からは、3歳児前期から4歳児前期までの期間で実践した遊びの特徴と実践上の工夫について紹介がありました。36個の遊びを発達段階別に分け、内容を分類ごとに整理して取り組まれており、配慮が必要な子に対しては、その子が興味・関心のもてる内容に変化を加えることで集団遊びへの参加ができるようになったことなどが発表されました。岡崎聾学校は、自由遊びでは手話を日本語にしていく指導の難しさが挙げられ、指導・支援のポイントを押さえて取り組むことで、教師の意識が変わり、幼児の様子にも変容が見られたこと等が発表されました。私自身も聾教育の基本である指導・支援のポイントを意識して今後も取り組みたいと思いました。

愛知県立千種聾学校の上杉真弓先生からは、言葉の表出を促すためには、活動そのものが楽しいことを前提とし、活動内容や教材の工夫について発表がありました。子どもたちが自由遊びで行っている内容を取り入れた教材を作ることで、興味・関心をもたせ遊びを繰り返すことで、順番を意識したり、バスの乗り方にまで遊びの内容が広がったことを教えていただきました。幼児の興味・関心のある教材を考え、作成することで気持ちの動きに即した遊びを繰り返すことが豊かな言語経験に繋がっていくことを学ぶことができました。

群馬県立聾学校の松澤雅代先生からは、幼児の思考をより深めるための「ゆさぶり」について発表がありました。ゆさぶりをパターン分けし、それぞれのゆさぶり場面を映像で見せていただきました。私自身、話し合い活動をしている際には、ゆさぶりを意識していますが、ゆさぶりの前提条件を整えることや、ゆさぶり方等、未熟な面が多く、今回の発表でゆさぶりについて整理することができ、自分の働きかけを見つめ直すことができました。

埼玉県立特別支援学校坂戸ろう学園の後藤かおり先生からは、聾学校における幼児教育についての研修を通して教師の意識に変化がみられたこと等の発表がありました。また、どの聾学校にも関係のある人事異動に関しても話が広がり、新任の先生に対してはこれまでの引き継ぎや経験のある先生の実践を毎日見学するなど工夫されている点が紹介されました。筑波技術大学の新井先生、兵庫県立神戸聴覚特別支援学校の小川めぐみ先生からは園庭や校内の自然環境を生かした取組がそれぞれ紹介されました。園庭や自然といった環境だけではなく、教師という環境構成についても考えることができました。

大阪府立生野聴覚支援学校の阿部理愛先生、河内清美先生からは、聴覚障がいの発見が遅れた幼児への支援について幼児が好きな運動や絵を描くことを糸口にし、一対一で人との関係作りを行い、集団へ参加していくまでの細やかな支援について発表がありました。幼児の行動観察をしっかりと行い、支援に取り入れていく大切さを改めて感じました。

 今回、本分科会に参加し、多くのことを学ぶことができ、明日からの教育実践に生かしていきたいと思います。早期教育U(幼稚部)に参加し、充実した時間を過ごすことができましたことを運営ならびに助言者、発表校、参加校の先生方に感謝申し上げます。

3.自立活動T(聴能・発音発語)

(助言者から)

広島国際大学

総合リハビリテーション学部 言語聴覚療法学専攻保健医療学部

國末和也

自立活動の学習のあり方、言語発達を促すための発音学習・聴覚学習・フィッティングの重要性が再確認された。また、新しいデバイスの活用、聴覚障害以外の障害への「ろう教育」の専門性の活用等のディスカッションや情報交換が有意義に行われた。

発表1)発音明瞭度検査時における児童自身の聞きとりに関する調査、木村淳子先生、内野知仁先生(筑波大学附属聴覚特別支援学校)

近年のデジタル補聴器の進歩や早期人工耳術・両側人工耳装用時代になり、発音は補聴器國値との関係が深く、フィッティング、マッピング状態を把握し学習を進めることが重要である。

発音明瞭度を要素別にグラフ化することにより、得意な発音や苦手な発音が子ども自身把握できる。また、毎年評価することにより明瞭度の椎移が分かる。子ども自身が見て分かるように工夫すると自ら進んで発音学習を行うと考える。

これまでもランゲージパルを活用することにより、自分の声を聞いたり誰の声なのかを弁別したりすることに使えた。現在はタブレットという新しいデバイスに期待できるようになった。 

発表2)補聴器の調整が困難だった事例について、新堀浩士先生(千葉県聾学校)

幼児期の補聴器装用指導やフィッティングには困難さが伴うが、装用感を大切にする事例発表は、素晴らしい取り組みであった。補聴器のフィッティングはマニュアルどおりにはいかないこともある。本人の装用感を大切にし、補聴器装用後の聴性行動のみならず、発音・会話の状態をチェックすることも重要である。

デジタル補聴器の特性を調べるときには、圧縮率が重要になるので、5060708090dBの全ての音響特性を調べたほうがよい。また、聴能担当者は、先生方とネットワークを組み、研鑽に励んでほしい。

発表3)自立活動における発音・発言指導のあり方、佐藤貞雄先生(京都府立聾学校)

早期発見・支援教育が定着し、補聴器の性能が目覚しく向上している一方で、聴覚障害児教育の専門性の低下や言語指導、教科指導、自立活動のあり方について勉強させていただいた。

自立活動の時間に、言語をいかに習得させるのか。言語発達のための発音学習であり、聴覚学習である。子どもの発達は様々な要因がある。その原因を把握し、子ども全体を見ながらどう支援するのかという視点を改めて考えさせられる。専門性の向上、専門的教員の養成が1番の課題である。

発表4)特別支援学校(肢体不自由)における選別聴力検査実施方法の検討、加藤哲則先生(上越教育大学大学院)

聴覚に関わる専門性を特別支援学校(肢体不自由)に活かす取り組みであった。指こすり音聴取検査に用いられる「指こすり音」の周波数特性は、2000Hz6000Hzに分布する雑音成分である。高周波帯に分布する音は、一般的に耳障りな音であり自閉傾向のある児童の聴性反応を引き出す音でもある。本発表では、肢体不自由児への適応を行ったが、自閉傾向のある児童や他の障害を併せ持つ児童の聴性反応の検討に活用できる可能性がある。

特別支援学校が総合化している現在、「ろう教育」の専門性を各学校でどのように活かすかが課題になる。

(参加者から) 

長崎県立ろう学校 

畑田洋子

本分科会では、「補聴器等の活用、聴覚学習や発音・発語学習の実践を通して、生きる力に繋がる自立活動について考える」をテーマに、4本の研究発表がありました。

筑波大学附属の木村先生、内野先生からは、「発音明瞭度検査時における児童自身の聞き取りに関する調査」について発表がありました。本人に本人の音声を聞かせる、という発想自体が私にとっては思いつかないところでした。聞き取りに集中できるよう、装置の視覚的な情報を最小限に抑えるといった工夫や、スピーカーに触れさせることで振動を感じられるといった利点をあげられていました。

千葉聾の新堀先生からは、「補聴器の調整が困難だった事例について」の発表でした。聴能担当は各校1〜2名であるため、そのノウハウの継承の難しさや、補聴効果の評価や判断が独自の判断になりがちであるという問題点があげられました。本校でも補聴器の調整に関してマニュアルのようなものがありますが、他校はどのようにしているのかといった情報はほとんど得る機会がありません。近畿地方では、校長会で専門性の継承のための研修会が必要であるとのことで、聴能他、各専門部での年1回の研究会に出張で参加できるとの話がありました。質疑応答の中で、教諭が補聴器の調整などを行うことの是非が話題になりました。上越教育大学の加藤先生から聾学校にSTを配置するモデル事業を3年計画で行っているとの情報をいただきましたが、3年後に各都道府県が事業を引き継ぐかどうかは行政次第とのことでした。本校には、実習助手枠でSTが1名常勤しており、聴力測定、補聴器や人工内耳のチェック等をしており、とても恵まれた状況であると思いました。また、聴能や自立活動専任の担当と担任との連携の難しさも話題になりました。担当と担任が連携して指導することが効果的であることは皆よく分かっています。しかし、実際は担任とこまめに子供の様子を伝え合うことや、授業の中で生かそうと意識してもらうことは難しく、専門性が高いが故に担当にお任せになってしまう状況が多々あるとの話がありました。

京都聾の佐藤先生からは、「自立活動における発音・発語指導のあり方」についての発表でした。母音他、発音の基礎は幼稚部での指導が大事であること、聴能や発音指導の担当は経験のある人が専任でじっくり数年かけてやらなければ効果は出にくいことなどの話がありました。ここでも担任と自立活動担当との連携が話題になり、発音指導の教材を作るときに担当用と担任用と同じ物を作って渡している、発音できるようになった音を担任にテストしてもらうなど、各校での工夫について情報交換ができました。また、子供が分からないことを分からないままにしておく習慣がついてしまう危険性については、皆同感するところでした。

上越教育大学の加藤先生からは、「特別支援学校(肢体不自由)における選別聴力検査実施方法の検討」ということで、標準の聴力検査で「測定困難」とされている肢体不自由の子供に、指こすり音での検査を行った報告がありました。難聴の有無が分かれば指導の内容や配慮が変わってくるので、「測定困難」ですませないという意識を高めることが大切との話がありました。

最後に、広島国際大学総合リハビリテーション学部の国末和也教授より、各発表に対して、別の側面から資料を提示されながら助言をいただきました。会の中で、「今回の分科会は『聴能・発音』となったことがとてもよかった。聴能だけで討議することも大事だが、聴能と発音や言語指導と絡めて考えることも大事である。」という意見が出されていました。しかしながら、平成27年度の佐賀大会は「自立活動T:聴能・補償工学・人工内耳」という、聴能に絞った分科会となります。本校が運営を担当しますが、聴能に絞ったことでより一層内容の濃い分科会にしていきたいと思います。

4.自立活動U(聴能・障害認識・コミュニケーション)

(助言者から)

愛知教育大学

総合リハビリテーション学部 教育学部

小田候朗

〈研究発表〉

(1)基本的な日本語文法の力をつけるために〜学年の枠を超えたグループ指導を通して〜

横山奈津(香川県立聾学校)

(2)豊かなコミュニケーション能力を育む〜望ましい人間関係の形成を目指して〜

片田葵一(東京都立大塚ろう学校江東分教室)

(3)児童の実態に応じた日本語指導の工夫

田島秀樹(東京都立立川ろう学校) 

(4)想いを語り合う子どもたち

〜ホームルーム活動の取り組みの実践〜 

飛田貴基(日本聾話学校)

(5)共感を育てるロールプレイングの展開

上嶋太(長野県立松本ろう学校) 

(6)聴覚障害生徒を対象とした「難聴疑似体験プログラムの実践」

〜生徒の障害認識にかかわって〜

鈴木牧子(筑波大学附属聴覚特別支援学校)

(7)聾学校高等部生徒が障害を認識するための授業づくりの試み

〜自己肯定感に焦点をあてて〜

手塚清(千葉県立千葉聾学校)

(8)ろう学校における外国語活動授業支援の試み

井上正之 他(筑波技術大学産業技術学部)

(9)ろう者学教育コンテンツ及び手話言語コーパスの開発と共同利用〜聾学校(特別支援学校)における活用の可能性 

大杉豊 他(筑波技術大学教育支援センター)

1 質疑応答

(1)では幼稚部との連携や日記指導の工夫について、(2)では児童の人間関係の固定化を避けるためのより大きな集団作りについて、(3)では自立活動の時間の取り方や内容、言語環境の設定、(4)では話し合い活動の詳細や障害認識について、(5)では教員間の連携、(8)では英語の読みについてそれぞれ参加者から質問があり、関連質問も加え活発な議論が展開された。(6)(7)(9)の発表に関しても、助言者や司会者の意見や質問をもとにやりとりが展開され、有意義な研究協議会となった。

2 研究協議の概要

助言者として今回の協議をいくつかのテーマに分けて振り返ると、以下のような意義を感じる協議内容であった。 

・言語力について:児童生徒の言語力の評価をもとにしたドリル的指導は、日本語力をつけるのに役立つと思う。

しかし本当に望むことは、さらに自らの表現で正しく伝えられるようになること。ドリルとその先の課題をどう結びつけるかを考える必要がある。ことばには「正しさ」の他に「美しさ、強さ、豊かさ」などの価値もある。日本語を学ぶ上で、正しい表現とともに、日本語で相手の心を動かし,思いを伝える経験も重要。子どもたちは受けとめることは多いが、表出が少ない。ことばが育つためには受けとめるだけでなく、手話も含めて表現することも必要。言語力の向上にはバランスが必要と感じた。

・自立活動について:自立活動の系統的指導については、各部の自立活動の指導を学校としてまとめたものや、自立活動の指導事例集を作っている学校もある。児童生徒の将来を見据えた自立活動の体系化は意義のあることだ。しかし、自立活動は教科ではないので、異なる配慮もある。特設の時間を設定する学習だけでなく、日常生活や他の教科の中でいつも考え進めていくことが必要である。

・障害認識について:障害による困難を克服することだけが目的ではない。自分らしさを高めるという視点も大切にしたい。たとえば(6)の発表にある、聞こえるタイプの聴覚障害生徒に対して、あえて「聞く」ことを排除する疑似体験は、聞くことの曖昧な部分に気づき、自分が所属する聴覚障害者の全体が見えてくる。やり方には注意や配慮がいるが必要なことの一つかもしれない。

(7)の発表では、きこえる人がどのように学び生活しているかを分かりやすく知らせてくれている。授業がうまくセットでき、一人一人に応じた細かい配慮があったのだろう。今後の交流及び共同学習の進め方に繋がる発表であった。

・変容する聴覚障害者・教員集団

最近の聾学校では聴覚障害児が多様化し、聴力の軽い子どもや重複障害児が増えているように感じる。寄宿舎が減少し、手話を教えたり集団を引っ張ったりする強い聴覚障害児の姿も見られなくなった。

一方、教員集団ではベテランの職人技を持った教員がいなくなり、個人技が使えなくなった。学校全体で使いやすい教材をみんなで工夫し使っていくというやり方に変わってきている。

今回の発表では、変わりつつある聴覚障害児集団、教員集団で新たな指導方法を模索し提案していただいた。

多様な児童生徒の実態を把握し、教員集団全体で課題解決に向かう様子が、本協議会での発表や議論から感じられた。

(参加者から)

宮崎県立都城さくら聴覚支援学校

郷夏佳

「豊かな言語とコミュニケーション力の育成と、社会的自立につなげる障害認識支援の在り方について考える」という主題のもと、9つの研究発表が行われました。

主題にある、「豊かな言語」とは、日本語、手話を問わず、自分の意見や考え、思いや願いなどを、言語に変えて相手に伝える力であり、相手から受け取る力であると言えます。また、思考力や判断力を高めたり、コミュニケーションを円滑に進めたりするための主軸であり、同時に、自己の障害認識を肯定的に深めたり、望ましい人間関係を形成したりする際、なくてはならないものであると思います。

本分科会では主に、主題の前半にある、言語力やコミュニケーションスキルについての実践発表が多く、聴覚障害教育に携わる者としては、日々取り組んでいる課題であるため、大変興味深く有意義な分科会となりました。

「ロールプレイがコミュニケーションの幅を広げる一助となった」、という発表をされた、長野県松本ろう学校の上嶋先生のお話の中で、「ロールプレイを行う際、行動レベルから心情レベルへ思考を深めるために、子どもたちへ教師の心情モデルを示すことが必要である」という内容がありました。私自身も、日常的にロールプレイをコミュニケーションツールとして取り入れているため、「心情レベル」という言葉が強く印象に残りました。分科会後の質疑応答の中でも、「子どもたちからどのように心情を引き出せばよいか難しい」という意見があり、どの学校においても共通の課題であることがわかりました。

千葉県立千葉聾学校の手塚先生が発表された「自己肯定感に焦点を当てた学習」の取り組みでは、「健聴者と関わる体験を授業に多く組み込んだことで、健聴者が考える聴覚障害の印象を知ることができ、子どもたちの自己認識が進んだ」という結果が得られていました。また、この取り組みにより、「自己の障害を肯定的かつ客観的に認識し、自己肯定感を質的に変容させ、『健聴者との人間関係を形成する意欲』を高めることができた」というお話がありました。この研究の中で印象的だったのは、授業毎に対象となる生徒にアンケート調査を行い、結果を数値化・グラフ化することで、生徒たちの変容を分析的に検証されていたことでした。授業の前後でどのような変容があったか、また、どの取り組みが有効であったかなどを知ることは、より具体的に生徒の実態に迫るため手段であり、根拠であると思います。自立活動のみならず、すべての学習に共通して必要なことだと言えるのではないでしょうか。子どもたちが解答しやすい簡易的なものでもよいので、これから必要に応じて取り入れていきたいと思いました。

本分科会に参加させていただき、「聴覚障害は困難ではなく、感覚の違いである」という言葉に出会うことができました。これは、助言をしてくださった愛知教育大教育学部教授小田先生のお言葉です。理解しているつもりでいましたが、「感覚の違い」という言葉に、目の覚める思いがしました。教師のほとんどが健聴者である聾学校の中では、どちらかというと、「困難」という解釈が強いように思います。「感覚の違い」であるという考え方を基本とした学習指導を行えるよう、これから自分自身の解釈を改めて整えていきたいと思いました。また、9つの研究発表を拝聴させていただき、明日の指導に生かせるものや、自己研鑚につながるものばかりで、自分に欠けていた専門性や指導技術について考えさせられる機会となりました。助言をしていただいた小田先生、発表された先生方、運営された先生方に、心より感謝申し上げます。

5.教科教育T(文系)

(助言者から)

筑波技術大学

障害者高等教育研究支援センター 

長南浩人

本研究会では、教材研究や教科指導の方法論に関する9本の報告がなされた。報告の具体は、以下のとおりである。

 (1)聴覚障害教育における教科教育等の指導の充実に資する教材活用に関する研究

〜専門性の継承、共有を目指して〜

独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 庄司美千代 原田 公人

(概要)特別支援学校(聴覚障害)小学部低学年の国語科指導で教科の目標を達成するための教材の在り方(考え方)と効果的な活用についての検討。

 (2)読み取る力の向上を目指して

愛知県立千種聾学校 高山 美代子

(概要)国語科の説明文を読み取る力の向上を目指し、児童の読み取り方に応じた教師の働きかけと発問計画を検討した。

 (3) 伝わる文章力を身につけるための指導の工夫

愛知県立名古屋聾学校 堂前 陽子

(概要)生徒が読み手意識の立場に立った客観的な視点を持つことの重要性に気づき、実際に客観的な視点に立った文章が書けるようになるまでの指導について研究。

 (4) 聾学校における古典指導 

〜調べ学習を通して〜

筑波大学付属聴覚特別支援学校 

高木 智史

(概要)指導者側で教材を選定せず、生徒が調べたい内容に合わせ教材を提示していくという、生徒の実態に合わせた古典教育の試み。

 (5) 考えを整理し、正しく伝え合い、学び合う授業〜活発な意見交換と学び合いを目指して〜

愛知県立一宮聾学校 

中山 舞紀

(概要)自分の考えをまとめ正しく伝える、相手の意見を正しく理解し自分の考えの幅を広げるために、生徒の意見交換のルールや意見のひな型の必要性の指摘。

 (6) フィールドワークを取り入れた地理歴史授業の実践と課題

GPSを利用した地球計測を通して〜

筑波大学付属聴覚特別支援学校 

芳之内 修

(概要)フィールドワークを活用した地理科授業の意義と問題点について検討。

 (7) 資料を読み取り、自分の考えを述べる力を育てる授業の工夫

岐阜県立岐阜聾学校 

高橋 圭子

(概要)小学部において、地図や統計資料等から必要な情報を読み取る指導を行い、考えを伝えあい、社会科用語の定着を図る授業づくりに取り組んだ報告。

 (8) 中学部における社会科学習指導上の工夫

〜個に応じた取り組み〜

筑波大学付属聴覚特別支援学校 

藻利 国恵 

(概要)中学部社会科学習において、言語面で他の生徒との差が大きく支援を必要とする生徒に焦点をあて、生徒が一斉指導の中でも思考力を育むことができる授業づくりを試みた。

 (9) 授業研究会による研究の成果と課題に関する検討−平成25年度における部内授業研究会の記録から−

筑波大学付属聴覚特別支援学校 雁丸 新一、青柳 泰生、田万 幸子、田中 優子、苦瓜美千代、加藤 慎一 

(概要)平成25年度高等部において実施された4名の教師(英語科、国語科、保健体育科、数学科)の部内研究会の記録から、授業研究会における研修の成果と課題について検討した。

一昔前まで聴覚障害児教育の研究会では、手話などのコミュニケーション手段をテーマに据えた報告が盛んに行われ、その中には、大人のイデオロギーの主張を中心とし、ややもすると聴覚障害児の育ちを置き去りにした発表も見られた。しかし、教科指導を扱う本分科会では、授業の展開方法や教材の作成方法、学習者の思考過程など教育方法に関する発表と議論がなされ、有るべき研究会の姿が見られた。今後も教科指導の分科会は、子どもたちの学力向上をテーマとし、全国の聾学校の教員の指導上の工夫を共有する場であって欲しいと感じた。

(参加者から)

福島県立聾学校 

鈴木真由美 

本分科会では、「基礎・基本の確実な定着と、自ら考え、課題を解決する力を育てるための授業作りについて考える。」という主題のもと、9本の発表と研究協議が行われました。

まず、「聴覚障害教育における教科指導等の充実に資する教材研究に関する研究」(国立特別支援教育総合研究所:庄司美千代先生)では、国語科の授業研究会を通して整理された教材活用の視点及び重要事項について報告されました。聴覚障害児にとっての教材文の難しさを予測して教材文を検討すること、単元や本時でつけたい力を明確にすること、ねらいを達成するために事前から事後に至るまでの国語科と国語科以外での取り組みについて考えること等、聴覚障害児の言語や認知の発達の特性を踏まえた効果的な教材の活用(聴覚障害児教育教材論)の必要性について知ることができ、言語理解や読み取りの難しさから悩むことの多い国語科指導についての示唆をいただきました。

続いて、三校より国語科の授業実践の発表がありました。「読み取る力の向上を目指して」(愛知県立千種聾学校:高山美代子先生)では、説明文を読み取る力の向上を目指して発問計画を作成し、ねらいに迫る適切な発問→児童の反応の評価→教師の支援(修正・補足・説明)という丁寧な発問が思考力を高めるのだと実感しました。「伝わる文章力を身に付けるための指導の工夫」(愛知県立名古屋聾学校:堂前  陽子先生)では、読み手の立場に立った客観的な視点をもつための指導で、生徒自身が相手の立場に立って考えたり、推敲したりしながら伝わる文章を読み書きできる力を身に付けることは、社会に出てからも大事なことだと思いました。「聾学校における古典指導」(筑波大学附属聴覚特別支援学校:高木智史先生)では、調べ学習を通して生徒が主体的に学ぶ実践で興味深いものでした。児童生徒の実態により学びの好みや効果等、教授方法の適切性が異なることを聞き、個々に応じた教授方法を検討しなければと思いました。 

「考えを整理し、正しく伝え合い、学び合う授業」(愛知県立一宮聾学校:中山舞紀先生)では、ハンドサインの活用や順序立てた話し方の実践が発表され、教師が論証モデルを意識して提示し、話し合いのプロセスを経験させることが必要であると確認しました。

午後からは、三校より社会科の授業実践の発表がありました。「フィールドワークを取り入れた地理歴史科授業の実践と課題」(筑波大学附属聴覚特別支援学校:芳之内修先生)では、フィールドワークの活用の一つとしてGPSを利用した地球計測についての事例が発表されました。「資料を読み取り、自分の考えを述べる力を育てる授業の工夫」(岐阜県立岐阜聾学校:高橋圭子先生)では、社会科学習における統計資料の情報の読み取り、考えを伝え合う活動について発表がありました。「中学部における社会科学習指導上の工夫」(筑波大学附属聴覚特別支援学校:藻利国恵先生)では、言語面で配慮を要する生徒の授業支援として、地図の指導や板書、個別ノートの活用等、対象生徒の言語力や思考力に応じた事例が発表されました。社会科学習において資料の活用や体験活動は有効ですが、児童生徒により資料の見方や読み取り方、言語力が異なることを踏まえて事前に指導しておくことが必要であることを再確認しました。

「授業研究会による研究の成果と課題」(筑波大学附属聴覚特別支援学校:雁丸新一先生)では、授業研究会の有用性について、今後の研修に参考となる報告がありました。

長南浩人先生からの御助言から、目の前の子どもの『論理的思考』の発達段階や『聴覚障害児教育教材論』を踏まえて授業を組み立てることの必要性を痛感しました。 

本分科会に参加し、各校の先生方の貴重な実践・研修成果をお聞きすることができ、多くのことを学ぶことができました。本当にありがとうございました。

6.教科教育U(理系)

(助言者から)

神戸親和女子大学  児童教育学科初等教育学コース

井上正人 

教科教育(理系)分科会では、「言語活動を充実させるとともに、論理的な思考力を高め、生きる力を育む授業づくりについて考える」という主題で5本の実践研究の報告が行われた。

1本目の「理科の授業における手話単語や指文字の表現と工夫の活用(筑波大学附属聴覚特別支援学校・久川浩太郎先生)」の発表では、これらを用いることで授業の効率化や生徒の負担軽減、さらには学習意欲向上にもつながることを主張されていた。中でも新出語句の手話単語を教師から紹介するのではなく、生徒たちが語句の意味をもとに考え出す活動が生徒の主体性を生み、学習の理解も図られるという利点があるところが印象に残った。

2本目の「聴覚障害児の学習言語習得を促すための指導のあり方(広島南特別支援学校・竹田優子先生)」の発表では、児童の算数的活動を丁寧に調査・分析しながら、数学的な考え方の育成に重点をおいた指導改善のあり方を主張されていた。当日の資料では、絵画語彙発達検査、失語症構文検査、学力テスト、児童アンケートなど、様々な視点からの詳しい実態把握に基づいた研究であることが伺えた。

3本目は「問題解決力を身につけ、自分の考えを表現しようとする力・いろいろな考え方を理解する力」をそだてるための算数の授業づくり(青森聾学校・大坂充先生)」では、算数教育で重視されている思考力・表現力の育成について、日々の授業を振り返りながら指導改善のあり方を主張されていた。毎時間の指導計画書を見せていただいたが、日々問題解決学習を実践し、地道に取り組んでいる姿が素晴らしく感じた。

4本目の発表は「生徒に理解させるためのパワーポイントの工夫(都立中央ろう学校・内田佳樹先生)」でICTを活用する際のポイントや様々な工夫について実践をもとにして紹介されていた。技術の授業での例を挙げ、作業手順を必要に応じて何度も繰り返し見ることができるようにするといった工夫は、個人差のある生徒の実態に即したものだと感じた。すべてをICTに頼るのではなく、場面によっては実物での提示の有効な場面があることも参会者とともに共有できた。

最後の発表は「ろう学校高等部における「情報」の授業実践(筑波技術大学産業技術部・米山文雄先生、新井孝昭先生)」で、授業で身につけた知識や技能を生かして、実際に手話付き生活絵本DVDを作成する取り組みの報告であった。生徒が作成した作品を幼稚部の園児に一人一人に渡すときの気持ちを想像すると、身に付けたことが生かされるといった達成感のあるものになったことであろうと思う。

本分科会での研究発表を通して、研究主題である「言語活動の充実」「論理的な思考力の育成」「表現力の育成」の3つの視点に即した、実践に基づく丁寧な研究であったので、参会者の先生方もこれからの授業に大きく役立つものであったと思われる。今回報告された5本の発表には、教師からの一方的な教え込みではなく、児童・生徒自ら「やってみたい」「考えてみたい」といった気持ちを引き出すことを大切にし、そのための場設定をどうすればよいか、といった示唆を頂けたものと思う。今後も継続した研究を進め、児童・生徒に達成感を持たせることができるよう、素晴らしい実践を積み重ねていただければと思う。

(参加者から)

横浜市立ろう特別支援学校

大山澄子

本分科会では「言語活動を充実させるとともに、論理的な思考力を高め、生きる力を育む授業づくりについて考える」という分科会主題のもとに、5校からの発表がありました。

1つ目は、久川浩太郎先生(筑波大学附属聴覚特別支援学校)の『理科の授業における手話単語や指文字の表現の工夫と活用』です。「ミトコンドリア」「葉緑体」などの表現で手話辞典を参考にすると表現がややこしく、発話速度が遅くなってしまう。そこで効率的な授業の展開のために手話表現の工夫をされた報告です。生徒と一緒に手話表現を考えることで生徒の学習意欲を引き出すことにもつながるそうです。実際に授業に参加したくなるような内容でした。

2つ目は竹田優子先生(広島県立広島南特別支援学校)の『聴覚障害児の学習言語習得を促すための指導の在り方』です。平成26年から3年計画で、数学的な思考や論理的に説明する力を育成することで言語力の向上を目指しています。今年度は算数説明力テストや指導プログラムを作成中とのことです。今後のさらなる研究報告が楽しみです。

3つ目は大坂充先生(青森県立青森聾学校)から『「問題解決力」を身に着け「自分の考えを表現しようとする力」「いろいろな考え方を理解する力」を育てるための算数の授業づくり』です。一人一事例研究、授業実践チャレンジシートなどを活用しPDCAサイクルによる授業改善の取り組みです。聴覚障害教育に長く携わる大坂先生の専門性と弛みない努力を感じました。

午後には米山文雄先生(筑波技術大学産業技術学部)の『ろう学校高等部における「情報」の授業実践』です。米山先生の出前授業で、ろう学校高等部の生徒が手話付絵本DVDを作成し、幼稚部卒園式で一人ずつにプレゼントした報告です。後輩である幼稚部のためにと興味関心も高まり、生徒のやりがいや意欲につながっていくのだなと実感しました。 

最後に内田佳樹先生(東京都立中央ろう学校)から『生徒に理解させるためのパワーポイントの工夫』です。情報を小出しにする、多くの情報を伝えることができる、動きも表現できるなどパワーポイント教材を使うことで、授業の進度を守りつつ生徒の理解を深めることが出来ます。私にとっては苦手なICTですがもっと授業での活用をしなければいけないと反省しました。 

 助言者の井上正人(神戸親和女子大学)先生からも『言語活動を充実させるとともに論理的思考力を高め、生きる力を育む授業づくりをめざして』のお話をうかがい、学びの多い一日を過ごすことができました。運営の先生方並びに助言者をはじめ発表校、参加された先生方に感謝申し上げます。

7.寄宿舎教育

(助言者から)

元滋賀県立聾話学校  

森原都 

本分科会には7本のレポートが出されました。

一貫したテーマに基づく全校的な研究活動が展開され、実態把握や取り組みに様々なツールが取り入れられていました。

時間・空間を組織し、異年齢の子どもたちが学び育ちあう生活の場として寄宿舎の独自性を持ちながら、言語課題や生活力・社会性の育成というろう学校に課せられている課題に全校で取り組んでいくことが、今後さらに求められていくと考えます。生活の場でこそ可能となる取り組みを積み重ね、聴覚障害児の専門的な教育機関としての責任を果たしていくことが重要なのではないでしょうか。

子どもの実態や課題を把握した上で、その育ちや発達の状況に即して課題を設定し、具体的な経験をとおして取り組める寄宿舎の役割は大きいと考えています。特に、小学校中学年以上の子どもたちにとっては、取り組みの全過程を見通し、計画的に準備からまとめまでをやり切ることで、達成感や成就感を味わう経験が大切です。余暇活動や行事は、指導者側の意図に子どもたちの要求も取り込み、時には失敗もしながら、指摘されたり教え合うことによって、より豊かな経験の場としていきたいものです。そこで交わされた会話や知識や技術の伝授が、その後の生きた力となってはたらくものと考えます。

生活の中での様々な「問題」に立ち向かい、解決し、よりよく生きたいという願いに寄り添いながら、生活を共にして気づくようにしむける「おおらかさ」を持った取り組みも大切ではないかと考えます。ルールやトラブルに対しても、対応のノウハウを教えたり正否を明らかにするだけでなく、舎生全体で考え合い話し合える場を設定することや(この場合に、年齢や発達課題に応じて個別に対応することも必要なことは言うまでもありません)、その素地となる日ごろの生活での舎生同士の関係性や指導者との信頼関係も築き上げていきたいものです。

言葉を知らないことや適切に使えないことが課題としてとりあげられ、様々な工夫がされて取り組まれていました。

聞こえにくい子どもたちが、正確に言葉や言い回しや使い方を身につけていくには、まず伝えたい内容と相手が必要だと考えます。自分の表現したことが伝わる喜び、反応、修正など、いずれも生活の中で実を結んでいきます。耳を傾け共感してくれる大人や子ども同士の中で豊かになっていきます。認識の発達によって理解できる言葉の質が変わっていくことも、異年齢集団の中では意識しながら指導したい点です。TPOに応じて使い分けられる言語力を、生活に根ざして身につけさせていきたいものです。そのためにも、一人一人の子どもたちを中心に据えて、学部や家庭と情報を共有し連携を密にしていくことが重要です。

指導員自身の願いや課題意識と子どもたちの願いが撚り合わされ実現されていく寄宿舎の実践交流が、今後もさらに発展していくことを心から願っています。

(参加者から)

岐阜県立岐阜聾学校

西脇準子

分科会主題「豊かな発達や生きる力を育む生活指導や子育て支援について考える」という研究テーマのもと7校の発表がありました。

筑波聴覚特別支援学校からは、「寄宿舎生活における余暇指導の取り組み〜日々の生活を豊かにするために〜」というテーマのもと、3つの取り組みが紹介されました。その中の全国の児童生徒が集団生活をしている校風から、「郷土料理作り」の実践報告が印象的でした。

八戸聾学校からは、「社会的ルールやマナーの意識を高める支援について」というテーマの発表があり、将来の自立に向けた力を育むことを目標に、あいさつや対人マナーに焦点を当てた取り組みでした。その一つであるマナー講座は、1回目「嘘をつくこと」、2回目「たたく、人のせいにする、謝らずに逃げること」3回目に「まとめ」とし、指導員がロールプレイを行い、子供同士が話し合いを進める中で、社会的ルールや模範意識を高めていく様子が報告されました。「高等部舎生が多い実態から指導員に対しては、あいさつをするが子ども同士はどうか?」という質問に対しては、「小2〜中3と実態が違うこともあるが、子どもによってまちまちで小さくても自分からできる子もいる。」と回答があり、本校と実態が似ていることを感じました。

神戸聴覚特別支援学校からは、「豊かな発達や生きる力を育む寄宿舎教育をめざして」というテーマで、寄宿舎教育の達成度を「ライフスキル達成度ファイル」に記述することで支援する側の教育目標を明確にした実践報告がなされました。「基本的生活習慣の獲得」、「社会性」、「コミュニケーションの獲得」等の項目の実態と指導について検討され、各項目の事例から舎生の実態を踏まえた支援の在り方等、共通理解を図り、豊かな発達や生きる力を育む支援の在り方について検討する必要がある、と課題を提示されていました。

山形聾学校からは、「生きる力を育むための生活支援とは〜自ら学ぶ力を育む寄宿舎生活、言語活動に焦点をあてて〜」というテーマで、一人一人が場に応じた表現で、自分の意思を伝えることができるように育つことを願った取り組みでした。自分の体調の変化を正確に伝えることが、大切な力の一つととらえ、卒業した高等部舎生の2年間の実践結果と、在籍舎生への取り組みの様子の経過報告がなされました。

奈良県立ろう学校からは、「あらゆる生活場面を通した言語力の向上〜舎生会活動を通して〜」というテーマで、2年前から「舎生会活動を通した言語力の向上」、「意見をまとめて決定する力を育てる」、「人の話を最後まで聞き、自分の意見を伝える力を育てる」ことを柱とし取り組みを行ったことと、併せて社会生活を控える高3の2名に対し行った実践の報告でした。

盛岡聴覚支援学校からは、「ことばを増やすための生活支援〜使えることばを身に付けるために〜」とのテーマで、2年間「ことばの力を伸ばすために」全校及び寄宿舎で実践した発表でした。生活の中で興味・関心、知識を増やすために、意味や使い方を考えた「使えることば」を用いた新聞づくりの実践“KKB=勝手に掲示板”といったユニークな取り組みの報告がありました。

最後に、宮城県立聴覚支援学校から「豊かなことばを育むための支援〜3年間の指導を通して〜」のテーマでの発表がされました。生徒との会話から、日本語の面で誤用や不足に気づくことが多く、寄宿舎の生活の中でもことばの支援をしていき「豊かなことば」に結びつくという実践報告でした。

参加者からも、各校で行っている実践を例に上げた話し合いがなされ、助言者の指導の下、中身の濃い分科会でした。今後の教育活動に生かしていきたいと思います。

8.重複障害児教育

(助言者から)

国立特別支援教育総合研究所 

上席総括研究員

藤本裕人

「個々の障害の状況や特性を配慮し、充実した生活を送るための教育活動を考える。」と題して、3件の研究発表が行われた。青森県立青森聾学校の藤田晴美先生からは、聾学校において発達障害の課題を有する子供と取り組んだ1年間の実践報告が行われた。人工内耳の装用、薬のことへの対応、集中力のこと、マイペースであること、視覚的手掛かりを活用したことなどの報告があった。実践報告を説明される藤田先生が、丁寧に確認しながら、児童への対応を語られたことがとても印象的であった。今後、聾学校で重複障害の教育の課題を考えていくときに、発達障害のある児童生徒への対応は、理解啓発も含めて必ず取り組まなければいけないことである。

愛知県立一宮聾学校の杉浦匡俊先生からは「指導内容段階表を指導に生かした生活単元学習の実践〜生きる力をはぐくむために〜」について、「指導内容段階表(評価シート)」を活用した研究実践の報告が行われた。評価シートは、個々の児童に「生きる力」がどれだけ身についているかを、1段階「指導者と一緒に」、2段階「指導者の援助で」、3段階「一人で」とし、個々の児童の現在の段階だけでなく、次の段階に進むための目標が分かるように工夫がなされている。かかわる力の取組では、リーダーの役割に着目して、リーダーを中心とした集団(1年生から6年生まで全員で一つの活動に取り組める時間(合同生単))で活動する中、@児童→児童や、A指導者→児童→児童のようなやり取りに広がった報告が行われた。

兵庫県立豊岡聴覚特別支援学校の上田勝広先生からは、幼稚部から中学部までの異年齢集団で、コミュニケーションの手段として手話を基本とする幼児児童生徒の集団で活動している時間(合同自立活動)の発表が行われた。自立活動における集団の中で育てたい力を考えたときに、特に「人間関係の形成」「コミュニケーション」の内容については、聴覚障害児の集団が必要であり、合同自立活動として、子供同士や教師との関係を深める集団活動を設けている。授業において大切にしていることは、@手話で通じ合えた経験を積み重ねられるようにする、A視覚的な手段により子供の「わかる」を大切にする、B年上の児童生徒にはリーダーとしての役割を与える、Cどの子供も達成感や満足感を味わえる活動を工夫するなどである。壁にたくさんの種類(大小高低)の実をつけた木から、協力して実をもぎとる「もぎもぎゲーム」の動画説明後、障害の重度化・多様化の中で、どのような授業内容にすべきか、教師間の話し合いの時間や連携のことが課題として提起された。

後半の全体研究協議では、重複障害の児童生徒の教育課程をどのように編成するかということで、協議会参加の9校の情報交換が行われた。指導助言として、@重複障害のクラスにも少人数化と多様化が迫ってきている状況があること、A教育課程の課題を考えるとき、まず、今の教育課程で授業方法の工夫ができることはないかを考えて、教育実践を行うこと、B重複障害の児童生徒の学習評価については、丁寧に記録を蓄積することが大切であることを説明した。重複障害のある幼児児童生徒の教育に携わる各学校の先生方の真摯な思いが、活発な情報交換と意見交換に繋がった分科会であった。

(参加者から)

大分県立聾学校 

谷真由美

本分科会は、「個々の状況や障害の特性に配慮し、充実した生活を送るための教育活動を考える」を主題に協議されました。3校のレポート発表があり、参加者は18名でした。

私は、重複障害の状況や個々の特性に合わせた教育活動をどう組み立てたらいいのか、また、卒業後の進路をどう導くのがよいのか、保護者の思いと本人の成長や到達状況との違いにどう対処すべきかなどに多くの課題を感じていたので参加しました。

青森県立青森聾学校の藤田晴美先生による「発達障害児の抱える課題を正しさへと導くための実践事例」では、小学部での取り組みで、将来への育ちから、学習方針、内容を考え指導するという実践でした。生徒の状況や学習内容などを総合的に考え重複障害クラスに在籍していたが、本人の成長や治療による改善なども見られ、子どもに合った教育課程を作っていくこと、学習内容を工夫し実践していくことが大変で、苦労されたことがよく分かりました。子どもに合った学習の形で繰り返し取り組むことで、ステップアップした様子、教師の支援により周囲の子どもたちとの関係が作れるようになってきているなど参考になりました。

愛知県立一宮聾学校の杉浦匡俊先生による「指導内容段階表を指導に生かした生活単元学習の実践〜生きる力をはぐくむために〜」では、平成24年度より重複障害学級での「生きる力」についての研究に取り組んでおり、24年度に作成した「生きる力」の評価シートを基に「かかわる力」について詳しい評価シートの作成についての発表がありました。評価シートを作成することで、児童ひとり一人の実態把握ができ、教師の指導に生かすことができ、関わりの少ない教師も様子がわかり共通理解を図る上で有効だと感じました。また、小学1年生から6年生まで合同で学習することにより、集団活動ができる、リーダーとしての責任感や下級生への気遣いが出てきたなど、児童の変容が分かる内容でした。普段の生活では、教師と1対1の学習になりやすく、友達との関わりが少ない、またリーダーになる機会もほぼないため、このようなグループでの活動をつくることの重要性を感じました。

兵庫県立豊岡聴覚特別支援学校の上田勝弘先生による「合同自立活動の取組」では、幼稚部から中学部までの合同自立活動の取り組みについての発表でした。児童・生徒数の減少により、「聴覚障害児の課題」に取り組むために始まったそうです。授業づくりの体制ができており、毎月の校内研究日に打ち合わせが行われることや「授業改善シート」を使い教材の工夫や支援内容の検討・改善を行い、全員で共通理解を図っていることなど大変参考になりました。ゲームの時に、自分のやりたい気持ちを押さえて、小さな子に楽しみを譲るまでの心の葛藤など気持ちをコントロールすることができた児童の話が印象的でした。

どの学校でも児童・生徒の障がいの状況や特性に合わせた指導を考え、いろいろな取り組みをしているのが分かりました。併せ持つ障がいの種類がまちまちで、個々の状況も違い、どのようにカリキュラムを作っていくかのか、個々にどのような支援や手立てが必要かなどを学校全体で話し合い、取り組んでいくことが大切だと感じました。

助言者の藤本先生からは、学校以外にも相談したり支援を受けることを考えてはどうかと言われ、自分たちだけで考えてしまっては、良い支援ができないことがあると改めて気づくことができました。

多くの課題を抱きながら、日々、子どもたちと向き合う先生方の姿に刺激を受けました。これを今後の教育活動に生かしていきたいと思います。発表してくださった先生方、助言者の藤本裕人先生、運営担当の先生方ありがとうございました。

9.進路・キャリア教育

(助言者から)

国立特別支援教育総合研究所 教育研修・事業部 総括研究員 原田公人 

本分科会では、34氏のレポート発表があった。以下、@発表、A質疑応答・研究協議、B)助言の概要を報告する。

1.中学部における職場体験実習〜校内提携による事前事後学習の充実〜 愛知県立豊橋聾学校(倉橋佳伸氏)

@中学部の全学年が職場体験実習を行う。事前指導では、総合的な学習の時間で縦割りとし、生徒の意識を高めている。事後指導で、「話し方会」を実施し、体験を発表する。緊張や不安を克服することによって、達成感、就労意欲に繋がっている。課題は、校内連携、コミュニケーション力向上、自身の体調管理。

Aグループ編制は生徒の相性を考慮している。実習は、異なる場所へ希望するように指導している。話し方会は、自分の思いを手話・口話で伝えることを目的としている。

B事後指導はアウトプットであり、事後指導のアウトカムまで考える。

2.工業技術科の発足と目標 兵庫県立姫路聴覚特別支援学校(司馬康生氏)

@個々の生徒の優れた部分を活かし、オーダーメイド型の授業づくりを目指している。マナーや忍耐力も大切にし、就職に結びつけたい。課題は、工業系の単位数の増加の対応、学力困難な生徒への対応、継続したマナー指導、共同授業(姫路工業高校)の成果、組織力向上の意欲喚起。

A課題研究の発表を中学部の生徒にも見てもらい、職業科の良さを伝えている。高等部として提案型の指導を考えて実践している。

B納得して自己選択させること。マナーは家庭の協力が不可欠。

3.生徒の社会的自立を目指して〜だいせん聴覚高等支援学校のキャリア教育の取組〜 大阪府立だいせん聴覚高等支援学校(井上通子氏)

@卒業生にアンケート調査を実施した。不満として「大学でのコミュニケーション」、「対人関係」が挙げられた。学校生活では、先輩の体験を聞く会、一般職業適性検査、就職活動の様子を伝える会のデュアル実習等の評価が高かった。会社は、規則正しい生活、アルファベット、割合・単位換算、勤労意欲等、求めるものが具体的になってきた。課題は、就労意欲の育っていない生徒への対応、相談できる場所の必要性。キャリア教育とは、社会に出てつぶれない人を育成することと考えている。

A遅刻・欠席指導、8時間実習(専攻科)、身だしなみ指導、敬語指導を重視している。

B学校では部活動や試験等、切磋琢磨する機会を持つことが大切。

4.キャリア教育の一端を支えるアセスメントツール実践例〜永年の取り組みできづいたこと〜 大阪府立だいせん聴覚高等支援学校(藤田良行氏)

@アセスメントは発達的に見るもの。検査のレベルで、マインドコントロールなどの弊害がないのがAレベル。MBTIなどはBレベル。クレペリンと職業適性検査は、言語を要せず、聴覚障がい者にも可能。担任の観察力が大事。生徒自身が気づくことが自信に繋がる。「やさしさ(EQ)は学力(IQ)を超える)と考えている。

A検査結果をプラスに使って、努力の方向を教える。無理だから諦めた方がいいとは言わないこと。レディネステストは、完全理解をする必要がある。

B各テストは保護者への説明に有効なので、多くの学校で活用を望む。

5.総括

授業では思考力を深めること、達成感が得られることを目指す。全教職員がキャリア教育を意識し、20年後を展望して現在の指導について議論すべきである。キャリア教育は子どもの将来を考える教育である

(参加者から)

富山県立高岡聴覚総合支援学校 

臼田祥子

私は聾学校に赴任して今年で4年目になり、3年間高等部のクラス担任をしてきました。自分の障害を受け入れてたくましく成長していく生徒たちと過ごす中で聾教育の魅力を感じ、特別支援学校教諭の免許を取得することも視野に入れるようになりました。しかし、進路指導においては、将来やりたいことが分からない生徒、聴覚障害があることによって希望通りの進学が困難な生徒などと接してきて、担任としてどのように指導していくべきかに日々悩んでいます。また、どうしても進学先・就職先を決めることにばかりに時間をとってしまい、もっと必要なキャリア指導を怠っているような不安を感じています。今回の大会の研究協議分科会で、少しでも今後の指導のヒントを得たいと思い、この「進路・キャリア教育」の分科会を選びました。

「社会や時代の変化に対応したキャリア教育と進路指導について考える」という研究主題のもと、4人の方のレポート発表がありました。

愛知県立豊橋聾学校の倉橋佳伸先生は、中学部の職場体験学習と事前事後学習での取り組みについて発表されました。まず、ホテルや動物園といった幅広い職場体験先に驚き、体験先を開拓した先生方の努力を感じました。また、事前事後学習を大事にしていて、3学年合同で事前学習をしたり、一人一人体験について報告する「話し方会」を行ったりするなど、自分の思いを互いに伝え合う活動を重点的に行っていることが分かりました。

兵庫県立姫路聴覚特別支援学校の司馬康生先生は、高等部の工業技術科の歴史や現状について発表されました。姫路工業高等学校溶接科との共同学習を通し、同世代の健聴者の世界を体験するという取り組みが興味深かったです。「5〜10年後にラインリーダーになるように」というスローガンが掲げられているように、より高いレベルを求める教育方針が伝わってきました。

大阪府立だいせん聴覚高等支援学校の井上通子先生は、生徒の働く意識を高めるための進路指導の取り組みについて発表されました。3年間または5年間という限られた期間で生徒に必要な力を身に付けるために、とても充実した活動を行っていました。特に卒業生への、学校生活の満足度、後輩へのアドバイス、教師への要望に関するアンケートは、非常に生きた意見を収集することができる興味深い取り組みだと思いました。先輩の体験を聞く会、障害者合同面接会の見学といった生徒が刺激を受けるような取り組みを通して、限られた時間を惜しんで、高等部の生徒たちが互いに切磋琢磨していく様子が目に浮かぶようでした。

同校の藤田良行先生は、アセスメント諸検査を活用した指導の取り組みについて発表されました。まず、クレペリン検査と職業適性検査を4月の始業式に実施するという取り組みを紹介されました。私は、諸検査は教師が生徒を理解する際に用いる手段だと思っていましたが、先生の発表で、生徒が自己理解をするために有効な手段でもあるということが分かりました。自己理解のための取り組みは自分の学校でも数々行ってきましたが、自分のことを客観的に見て、自分の弱い部分や適性などを分析することは、本当に重要であると実感しています。また、「やさしさは学力を超える」という先生の言葉が印象に残り、学力や作業力だけでなく、生徒の良い所を見付けて伸ばしていこうと改めて思いました。

今回の分科会を通して改めて分かったことは、「進路指導」は「進路先指導」だけではないということです。自分自身を理解すること、社会に出る上で必要な心構えや技術、そして、自分で進むべき道を選択していく力を育てていくことが進路指導であると再確認しました。助言者の原田公人先生の「全員がキャリア教育の担当者である」というお言葉のように、生徒が卒業するまでに必要な力を見極め、責任をもって指導に当たっていきたいと思います。そして、今回の分科会で学ぶことができた、他校の取り組みや先生方の思いを、今後の自分の学校、私自身の指導に生かしていきたいと思います。

10.総合的諸問題

(助言者から)

大阪教育大学

教育学部特別支援教育講座 

井坂行男

「総合的諸問題」の分科会では7本の研究発表があった。以下、発表ごとに簡単に研究内容の概要をまとめる。

筑波大学附属聴覚特別支援学校教諭の渡邊明志先生は「体育を考える〜附属校小学部の実践と課題整理〜」というテーマで、体育の学習環境、授業記録、年間指導計画、口話法による言語活動、集団指導及び集団規律に配慮しながら、児童一人一人の実態や課題を踏まえた体育活動の充実に向けた取組を発表した。それぞれの課題解決に向けた取組が体育活動の充実に関連づけられている優れた実践であった。

同じく筑波大学附属聴覚特別支援学校教諭の廣瀬由美、西分貴徳両先生からは「健聴中学生との交流学習に関する取り組み」というテーマで、中学生との交流学習に向けて、事前の聾学校の特徴のまとめ、聴覚障害や手話の学習の取組に基づいて、有意義な交流学習ができたとの報告がなされた。自立活動や総合的な学習の時間での学習を1つの行事に関連づけることで、生徒達の思考力が深まり、知識や技能の定着を導いたとてもよい実践であった。

大阪市立聴覚特別支援学校教諭の保下栄見先生は「研究活動グループの研究を通して特色ある一貫教育を考える」と題して、ろう教育の専門性の継承に加えて、今日的な課題の解決も含む縦割りの5つの研究グループ活動に基づく、一貫教育を促進する取組を報告した。伝統のある聾学校が今日的な教育課題の解決も図りながら、全校での一貫教育の推進に取り組んだ有意義な実践であった。

愛知県立名古屋聾学校教諭の山下千夏先生は「ろう学校における職業指導の重要性について〜ネパールでの実践からの検証〜」と題して、開校3年目のネパールのダウラギリ聾学校での職業教育を中心とした取組を報告した。ろう教育の原点ともいえる手話と口話の力、基礎・基本の重要性、集団活動、地域との関わり、職業意識、よき大人との出会いの6つの事柄がとても大切であったとまとめた。また、一定の成果が得られた素晴らしい国際貢献でもあった。

岩手県立盛岡聴覚支援学校教諭の伊藤奏子先生は「東日本大震災から生徒たちが学んだこと〜『今、私たちができること』を考え、行動する復興学習の取り組み」という主題で、中学部での防災学習やボランティア活動、体験談を取材する活動について報告した。生徒は「実際を知る」「できることを考え実行する」「学習をまとめる」という復興学習の過程で、自己肯定感の向上や考えの広まりや深まり、他者への思いやりや行動する心が育成された貴重な実践であった。

愛知県立一宮聾学校教諭の小出裕子先生は「実際の場面で生かすことのできる訓練を目指して〜警報発表時における下校訓練〜」という主題で、広域な通学区域内での天候や交通状況の変化に対応しながら、幼稚部幼児から高等部生徒までを安全に下校させるために、保護者引き渡し手順やカードの活用、職員の動きの検討等に基づく取組を報告した。様々な状況やその変化に臨機応変に対応することができる訓練の在り方を学校全体で取り組む姿勢も含めて、とても示唆に富む実践であった。

大阪市立聴覚特別支援学校教諭の高間淳司先生は「大阪市立聾学校の学校資料の整理・保存の取り組み〜平成2425年度の取り組みを中心に〜」という学校資料の整理・保存の実践を報告した。114年の歴史を持つ聾学校の貴重な学校資料(写真、映像・音声、図書・雑誌)を資料組織法に基づいて、分類整理して、保存する取組の報告であった。これらの取組の成果を校内研修会で報告したところ、学校の歴史や伝統を大事にして、語り継いでいくとともに、今日的な課題を捉え直していこうという機運が育まれたとまとめている。地道な活動が学校をまとめる大きな力になった実践であった。

(参加者から)

静岡県立沼津聴覚特別支援学校

舩津真由美

本分科会では、「聴覚障害教育に関わる諸問題について様々な視点から総合的に考える」というテーマで、7件の発表がありました。

筑波大学附属聴覚特別支援学校の渡邊明志先生からは、体育の授業を成立させるために、学習環境・記録・年間指導計画・言語活動・集団指導と規律という5つの視点からの実践報告がありました。質疑応答の中で、幼稚部の運動あそびとの関係について、体力の向上を図る取組、リズム感の育成等が話題になりましたが、幼稚部から高等部を見通した中での各教科の系統性、教科相互の関連性を疎かにしては、子供の成長発達はありえないと痛感いたしました。

筑波大学附属聴覚特別支援学校の廣瀬由美先生と西分貴徳先生からは、近隣市の公立中学校との交流学習の報告がありました。一つの行事に向けて、複数の領域から学習を進めた様子と、その中で見えた生徒の成長がよく分かりました。地域や学校の実態に応じた交流学習の在り方を考えると共に、自立と社会参加につなげるという点から、あらためて交流学習を考えていきたいと思いました。

大阪市立聴覚特別支援学校の保下栄見先生からは、研究活動を5部門7グループに分け、それぞれのグループに各学部の教員を入れるという取組から一貫教育を考えた報告でした。学部を超えた縦割り活動を行う中で見えてきた成果から、あらためてこの教育には、学部間の連携や情報の共有が不可欠であることを痛感すると共に、それを組織の中で確立し活用していくことの難しさも感じました。

愛知県立名古屋聾学校の山下千夏先生からは、ネパールのダウラギリ聾学校の職業学科の立ち上げの実践から、聾学校における職業教育の重要性を検証した報告でした。貴重な実体験の中で理解したこととして、6点を挙げられていましたが、それとは別に、山下先生がおっしゃった「時間を共有することは大切」という言葉の中に、異国の地での実践の御苦労を感じました。また、初めて知る聾学校の厳しい現状とその中での取組を興味深く聞きながら、私たち日本では、今ある教育資源を十分に活かし切れていないのでは、という反省にも似た思いをもちました。

岩手県立盛岡聴覚特別支援学校の伊藤奏子先生からは、防災学習やボランティア活動などの「復興学習」の取組とそこから生まれた生徒たちの変化の報告でした。震災から半年後に陸前高田を訪れた時の「共感」という心の大きな動きが、その後の学びと行動の原動になっていることがよく分かりました。また、生徒たちに、自己肯定感が育まれたという変化は、学習の丁寧な積み重ねの成果だと思いました。

愛知県立一宮聾学校の小出裕子先生からは、警報発令時における下校訓練の報告でした。訓練と話し合い、そして改善を繰り返しながらいざという時に備えているこのモデルは、とても参考になりました。様々な状況に対応するために、組織力と日頃からの教員間の共通認識は不可欠であることも再確認できました。

大阪市立聴覚特別支援学校の高間淳司先生からは、114年という歴史を持つ学校の書籍や写真などの学校史料の整理と保存に対する取組の報告でした。これは、単に整理と保存という物理的な課題ではなく、未来へと引き継がれる歴史を知るという点で、学校全体で考えていくものだということを学ぶことができました。

このように、いろいろな視点からの発表と幅の広い内容の協議が展開された有意義な分科会でした。これらの情報と学んだことを学校に持ち帰り、日々の実践に活かしていきたいと思います。

緊張の中で始まった分科会でしたが、発表が進むにつれ少しずつ空気がなごみ、司会の先生の温かな和歌山弁をもう少し聞いていたいという名残惜しい気持ちで会場を後にしました。最後に、会場を運営してくださった先生方、御助言いただきました井坂先生、そして意見や報告をいただきました先生方、どうもありがとうございました。

11.センター的機能

(助言者から)

元大阪府立堺聴覚支援学校

加藤登美子

本分科会のレポート報告や討論から、特別支援教育においてろう学校が求められている実態が浮き彫りになった。

各行政区における様々な教育状況の下で、ろう学校が地域の実態やその学校の実態に合わせて、センター的機能の位置づけと校内に果たす役割について、苦慮しながらも発展のために努力していることが明らかになった。

その一つめに、かなりの広域を1校で支援することの困難と努力があげられる。全道に1校の北海道高等聾学校では、パートナーティーチャー派遣事業を通しての支援や、特別支援コーディネーターとして支援会議に出席するなど、多様なニーズに合わせた努力をしているが、ろう学校における支援の実態が参加者には伝わりにくいため地域で学ぶ聴覚障害児へのサポートが難しい現状にある。同様に広域の支援を行っている和歌山校では、来校できない地域に対しては福祉と連携して支援を行っていて、今後とも市町村教育委員会や保育士などの地域のスタッフとともに連携して、頼れる場所としてろう学校が存続していくことを目指している。

二つめに、淡路校のように、聴覚・知的障害部門が併設されている特別支援学校において難聴児が在籍していなくても、難聴児がより近く学べる体制を存続させていく努力の大切さを学んだ。一人の子どもの課題に対し、医療・福祉・教育など様々な立場の人間が集まれる地域性によることも学んだ。

三つめに、新生児スクリーニングの普及、1歳からの人工内耳装用児の増加、軽度聴覚障害児への支援など、支援を要する対象範囲が拡大している。医療・福祉・教育の連携を強固にし、地域でろう学校の専門性を発揮し、ろう学校を活用できる方向を考えていこうとしている。

四つめに、センター機能組織の改編がある。フォローされていなかった児童への支援がセンター組織の確立で増加した報告や、支援センターを校内・外双方の支援が出来る体制に改編した報告があった。ろう教育の専門性の継承の難しさから考えられた策かもしれない。その場合も同僚性に基づく専門性の向上という視点を大切にしてほしい。

五つめに、在籍児1名で難聴学級が設立されるようになり、そのうち在籍児1名の難聴学級が半数以上を占めている報告があった。それへの取組みとして、関係する地域の難聴学級の実態と聴覚支援センターへの期待を明らかにするためのアンケート調査を実施し、結果を難聴学級担当者と共有することにより難聴学級との繋がりを深めていこうとしている。ろう学校が地域の聴覚障害児の支援に積極的に関わり、聴覚障害児の集団の保障や交流の保障する役割を果たしてほしい。

聴覚障害児の学習権保障は、京都訓盲唖院に始まり、戦後すぐのろう学校義務化を経て、難聴学級の設立、重度重複聴覚障害児の在籍、ろう学校の通級指導教室の制度化へと、その時代時代の人々のヒューマニズムにより拡大・充実してきた歴史を持っている。その延長線上に軽度難聴児や聴覚情報処理に困難を持つ発達障害児の学習支援・生活支援を位置づけるというのは、聴覚障害教育に携わる私たちの役割ではないだろうか。  

(参加者から)

兵庫県立あわじ特別支援学校

安川恵理

本分科会では「聾学校の担うセンター的役割」について6名の発表がありました。

各地域における聾学校の取り組みについて詳しく知ることの出来た会でした。それぞれの地域性、また聴覚障害の子どもの状況や特性の違いから見えてくる課題も知ることができました。

大阪府立生野聴覚支援学校の発表では「いくの聴覚言語支援センター(I-DIC)」の紹介がありました。一般学級で学習する聴覚障害の子どもに対する指導やFM補聴システムの活用に関するパンフレットを作成しておられました。初めて難聴学級を担任する先生にも聴覚障害のこと、授業で配慮すべきことがわかりやすく書かれていました。

京都府立聾学校の発表では、宇治スーパーサポートセンターの設置により京都府下の聴覚障害の子どもの相談件数が上がってきたこと、また、長年の歴史ある学校から見る相談の年変化について報告がありました。保育相談部、幼稚部の在籍者は増加しているものの小学部、中学部の在籍者は減少傾向にあること、地域の学校へ出ていく子どもたちが近年多くなってきたことの報告がありました。

兵庫県立神戸聴覚特別支援学校の発表では、「サーバントリーダーシップ」についての発表がありました。サーバントリーダーシップとは「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」だそうです。奉仕されている人が成長し、さらにその人がリーダーとして働くことで、その輪は広がっていきます。リーダーが増えることで、きめ細やかな支援が広がり、子どもたちにとって適切な支援を受けられる環境が広がることが期待されます。特別支援教育に留まらない考え方について報告していただけたと思います。

大阪府立堺聴覚支援学校からは難聴学級の状況についての報告がありました。難聴学級担任にアンケートを取り、その結果をデータ化されていました。現場の声を吸い取り、そこから自校の取り組みに生かしておられることがよくわかりました。

北海道高等聾学校における取組では、非常に高域な北海道における地域支援の報告がありました。北海道では高等部設置の聾学校が高等聾学校しか無く、ほぼ全員が寄宿舎にて生活を送っているようです。北海道全域からの出身生徒がいるわけですが、出身学校、地域との連携は高域すぎてカバーできないという課題も出されました。また通級指導というものが地域的に不可能であるため、外部機関との連携が非常に重要であることが分かりました。

本校(兵庫県立あわじ特別支援学校)からは聾学校から知・聴併置校へとなったことによる地域支援、地域唯一の特別支援学校としての役割について報告させていただきました。今年度幼稚部に入学者が一名ありました。この子どもの入学に向けた取り組み、またこれまで在籍者がいなかったためにおろそかになっていた聴覚障害部門のセンター的機能を立ち直すことの報告をさせていただきました。

今回の分科会では近畿地区の聾学校、聴覚特別支援学校がほとんどでしたが、同じ近畿地区、同じ都道府県内であっても、それぞれの地域により支援の形が違うことを感じました。しかし、どの学校も地域の特色を把握し、地域から求められる聾学校作りをしており、支援の形や方法は違いますが、目指しているものは同じだということが分かりました。

今回発表のあった聾学校だけでなく、全国的に聾学校離れは進んでいるとの話も挙がりました。人工内耳も普及し、幼稚部や小学部の途中で聾学校を出てしまうというケースも数多く報告がありました。しかし、聾学校から離れるのが悪いことではなく、様々な場所で学ぶこともとても有意義なことです。地域に出た聴覚障害の子どもが何かあった時に戻って来たいと思えるような、“暖かい場所”のような存在になっておくことが大切なのではないかと思いました。そのためには各学校が実践されているような地域とのつながりを密にしておくことが重要だと感じさせられました。

12.国際教育・国際交流

(助言者から)

筑波技術大学  前学長 大沼直紀 

1)国際教育・国際交流のための経費をどのように準備できるかが重要である。従来の学校の財源から予算化するのは容易ではなかろう。事業の実績が評価されるまでは新たな公的資金の獲得を検討せざるを得ない。公益財団法人等の各種の教育研究助成金に申請することをお薦めしたい。当研究協議分科会の事務局を担当する附属校の協力を得て、助成制度や助成金募集リストなどの情報を整理し各校の照会に応えられる仕組みがあるとよい。

2)国際教育・国際交流の計画は、担当者や関係者の転勤などの理由で中断してしまうことが少なくない。事業が一過的単発的でなく継続的に展開されるようにするには姉妹校締結などの文書を交わす必要がある。締結の手順や交流協定文書の作成要領などを解説したマニュアルがあるとよい。フランス国立パリ聾学校との交流で実績のある附属校などの助言を得て進められるとよい。

3)国際教育・国際交流の相手機関との関係を支えてくれる人材があることにより交流内容の実が上がる。しかし、適切なカウンターパートがいるかどうかの情報を得にくい場合が多い。そのためには、JICAの青年海外協力隊・シニア海外ボランティアや日本財団の海外協力援助事業などの人的資源を活用させてもらうための相談の機会があるとよい。

4)国際教育・国際交流についての校内での理解は、なかなか得られにくく、協力体制も作りにくいものである。校内での支援が十分に得られない場合には、管理職の了解のもとで積み上げた小さな実績を地域に向けて情報発信していくことが大事である。地元のメディアなどが注目してくれることで、事業が進展することもある。

5)国際教育・国際交流に日本が向かい始める萌芽は、1975年、第9回全日本聾教育研究大会との共催で開催された聴覚障害教育国際会議(ICED東京大会)にある。日本で初めて開かれた国際会議の基調講演と特別講演はDavis博士と Silverman博士によるものであった。世界の聴覚障害教育のリーダーであった二人の講演内容(手話と人工内耳の未来予測なども含めた将来展望と期待)は、その後40年を経て現実のものとなっている。ICED(聴覚障害教育国際会議)とAPCD(アジア太平洋地域聴覚障害問題会議)における発表内容やトピックスは聴覚障害教育の動向と今後の課題を如実に示すものである。これらの情報を教育現場に紹介することも当研究協議分科会の重要な役割である。

6)国際教育・国際交流を確かなものにするには、自分の国の実情が調査されていなくてはならない。当研究協議分科会が附属校の協力を得て今回初めて実施した「国際教育・国際交流に関するアンケート調査」は有意義なものである。今後も調査内容を更に検討しながら継続してほしい。このような日本の現状を伝える資料を海外の交流国に送付し、相手国からも情報をいただくというギブアンドテイクの関係が求められる。当然、英文の学校要覧や紹介ビデオなども整備されなければならない。また、相手国とのコンタクトは、先ずはその国を代表する聾難聴教育機関から始めるのがよい。

7)国際教育・国際交流が単なるイヴェントに終わらないよう、科学的な調査事業が加味される必要がある。聴覚障害教育の「国際比較研究」を進めることも大事である。調査対象や被験者が外国人となるので、発表や話題提供を大学や研究所にも広げて依頼することが功を奏する。2000年以降は、日本と同様に各国とも人工内耳と手話をどのように位置付けるかに関心が高まった。また「言語指導法」や「9歳の壁」の課題など、国を越えて共有する聴覚障害教育の重要テーマが存在する。

8)国際教育・国際交流はスポーツにも及ぶ。2020年に日本で開催される「パラリンピック」の準備が進むにつれて、この大会への参加が全ての障害者を対象としたものではなく、実は聴覚障害者には参加資格がないことを国民が知ることになろう。昔、世界聾唖連盟がパラリンピックを脱退した経緯や、聾者のための「デフリンピック」が存在することについて、世の中の理解を得る必要がある。その意味でも、聴覚障害者スポーツと国際交流についての情報が本研究会を通じて提供されることは意義深いことである。

(参加者から)

筑波大学附属聴覚特別支援学校

鈴木淳一

今回は、実際にフランス国立パリ聾学校に伺い交流した様子について発表する責任の重さと、国際教育・国際交流についての様々な情報交換ができることの期待を感じながら、分科会に参加しました。やはり、国際教育交流については、その諸問題を多面的に考える良い機会になったと思います。

福井県立ろう学校のブタレ聾学校(ルワンダ共和国)との交流についての発表はとても興味深いものでした。ビデオ通話ソフトを利用し、互いの自己紹介や、特産物や料理の紹介などを行っていました。また、ダンスをVTRで披露するなど、生徒たちの交流に対する意欲がどんどん高まっていった様子がよくわかりました。

今回、本校からはパリ聾学校との交流について報告しましたが、両者を併せて考えると、今後の国際教育交流について考えるためのヒントが得られたような気がしました。

実際に両国の生徒同士が会って交流できることは理想的な形だとは思いますが、決して頻繁に行えるものではありません。すると、ビデオ通話ソフトなどの利用は有効なのではないかと思います。

交流の内容・方法は、初期段階では、言語に対する負担が少ない活動(@自国の文化…食べ物、衣服、伝統芸能、娯楽、等について絵や映像で紹介する、Aスポーツやダンスを共に行う。等)で無理なく行い、興味関心を高め、信頼関係を作ると良いと思いました。その後、より深く互いを理解しようとしたり、国際規模の問題解決を話し合ったりするような、言語をより積極的に活用する活動に徐々に移行していくと良いのではないかと思いました。ただし、大沼先生からもご指摘いただいたように、言語的な活動を行う上では、情報保障の問題について十分検討し、準備しなければなりません。

また、国際教育交流を行うには、当然交流の相手を探さなくてはなりません。本校では、パリ聾学校と姉妹校提携を結ぶことができましたが、これから開拓する場合は、JICAや日本財団を活用する方法などが考えられるようです。全国の聾学校が活用を始めていけば、情報のネットワークができるのではないでしょうか。

ここまでは、実際に交流する場合の内容・方法について述べましたが、今後は広義の国際教育というものを学校教育にどう位置づけていくかも重要な課題になると思います。

まずは、国際教育について、より具体的な指導内容を以下のような視点で考える必要があると思います。{人権尊重(他国民・他民族に対して、偏見や固定観念、不信感や敵意などをもたないこと、優越感や劣等感を持たないこと等)、他国文化の理解(他国・他民族の文化の多様性、価値観を認め合うこと等)、世界連帯意識(食料や環境、資源、エネルギー問題等について、グローバルな視点をもって考え解決すること)、コミュニケーション(外国語の理解、自分の考えを表現する能力等)}

次に、このような内容について、各教科、自立活動、特別活動、総合的な学習の時間でどのように扱っていくのかを考えなければなりません。

以上のような取り組みを各学校で行い、国際教育によってどのような力を育てるのかを明らかにし、さらに国際教育交流のねらい、内容、方法をより具体化する必要があるのではないかと思います。

今回、私自身が聾学校の教員という立場故に、国際教育交流についての感想が中心になりましたが、本分科会では、国際研究交流や、デフリンピック大会帯同報告、最近のAPCDICED参加報告等、様々な報告があり、学校現場でも生かせる内容ばかりで、たいへん興味深く聞かせていただきました。

次年度以降、本分科会でさらなる活発な議論がなされることを願います。