長岡大会 研究協議会



1.早期教育T(乳幼児教育)

宮崎県立都城さくら聴覚支援学校 宮田 恭子

本研究協議分科会では,「乳幼児が人を信頼し,主体的に環境とかかわり,発達していくための早期教育について考える」をテーマに3本の研究発表がありました。親子コミュニケーションをどう支援するか,その具体的取り組みの報告がなされ,参加者はそれぞれ考察を深めることができました。

@家庭訪問支援

家庭で日常的に行っている遊びを観察し,親が子どもの行動をどう理解しているか,かかわり方はどうか等を評価し,今後について話し合うという流れで実施,支援者が専門的な助言や指示を一方的に行うのではなく,選択肢やアイデアを提供し親が主体的に考えて選択・決定するようなコンサルテーション的手法による親支援の有効性についての報告がありました。学校という「場」の支援ではどうしても,支援者のコミュニケーションのモデル提示の場が多くなりがちであるという私自身の反省もあり,子どもが暮らす場での支援,家庭にある資源の最大限の活用という観点からも非常に有効な支援であると感じました。

A視線共有「目と目を合わせる」

親子遊びの様子をビデオ録画し分析。視線共有と「子どもへの母親の肯定的な感情」の関係,そして,肯定的に見るためには「母親自身のかかわり」への振り返りを促すことが有効であることが報告されました。また,大変興味深かったのは,子どもと目が合いやすい母親の特徴は「身振り・手話を使用する回数が多い」「質問,感嘆・受容,評価が多い」という分析結果でした。さらに,聴覚障害のある母親のかかわりの特徴として「身体接触で,確実な注視を促してからはたらきかける意識」「子どもの応答を期待する質問時において子どもがしっかり見てからかかわろうとする意識」が共に高いとの結果に,非常に納得できると同時にかかわるときに,基本的で大切なことを再確認しました。

B絵カード

人との関係づくりや伝達手段の獲得に困難さがある子どもに対し,理解を促すために絵カードを活用。マッチングや要求場面での使用を経て,人とのかかわりにまで広がった事例の報告でした。0歳から支援がスタートする今,絵の導入時期や活用方法,さらに絵カードや絵日記への段階的な指導・支援について,個人的に興味と課題を持っており,とても興味深い内容でした。デジタル機器やソフトの普及により視覚的な教材が効率よく準備できるようになってきたことで,安易に写真や既存のイラストに頼ってはいなかったか?という反省のもとに,書き方や使用方法,発達段階や認知面の特性等,絵カードの活用を改めて考えるとても良い機会になりました。

協議については,主に「保護者学習会について」「医療機関等との連携」「人工内耳について」「教員の配置」「教育相談の専門性」という観点で参加各県の状況等が出されました。

人工内耳に関しては,助言者である筑波技術大学の佐藤正幸先生より,実際に日々人工内耳装用の大学生の姿をご覧になられているお立場から「学校教育の立場から,しっかりコミュニケーションや大人になった姿を訴えていかなければならない」とのお話をいただきました。私たち担当者は,常にさまざまな障害観と向き合いながらの支援が続いていきますが,決定までの支援や情報提供等やるべき重要なことが山ほどあると感じました。佐藤先生もおっしゃっていましたが,乳幼児教育相談は,その子の人生をも左右する責務の重さの中にあります。他県の状況を知ったり,情報交換や思いを共有することができるこのような会は担当者にとっては,本当に貴重な場です。今後も,本会が益々実り多い会となるよう,参加することや研究発表等を通して会員として取り組んでいきたいと思います。


2.早期教育U(幼稚部教育)

茨城県立霞ヶ浦聾学校 伊藤慎吾

早期教育U(幼稚部教育)では,「幼児一人一人が心豊かに育ち,生き生きと活動できる支援の在り方について考える。」という研究テーマのもと,11本の研究発表が行われました。聾学校での経験の浅い自分にとって考えさせられることの多い有意義な時間となりました。

「あそび」を中心とした生活の場として園庭環境を考える取り組みの発表や,かかわり合いの中で想いを読み取るために「待つ」ことがとても大切であるという事例の発表からは,ソフト・ハード両面での環境づくりの重要さを感じました。自分が今担当している子どもたちに対して,生き生きと活動できる環境を提供できているのか,子どもたちの主体性を損なうような不必要なことばかけをしていないか,子どもからの想いを汲み取るためにきちんと一呼吸待てているのか,などを振り返る契機となりました。

母親支援については,指導記録を通した母親支援についての発表がありました。教師の意図がうまく伝わっていない,との思いを出発点にして,母親に指導記録をとってもらいそこにコメントを入れることで教師の意図を伝える,という内容でした。同様の取り組みを行い成果があったとの他校からの報告もあり,母親に教師の意図をきちんと伝えることが大事である,何らかの形でそれを伝える方法や場面を持たなければ,との思いを改めて強く持ちました。また各校から母親学級や学習会という形での母親支援も報告され,参考になりました。

指導内容や指導方法については,生活の様々な場面で歌を取り入れて聴くことや歌うことを楽しんでいる取り組み,生き物との様々なふれあいを通して子どもの感性を育て細かく観察したり調べたりする力がつく取り組み,担任から子どもへのメッセージを毎朝登校した際に読む活動を通して読む力を高める取り組みなど,各校の個性的な実践が発表されました。歌,生き物とのかかわり,読む活動といずれも部分的にはどの学校でも行われている活動ですが,1つ1つの取り組みを掘り下げていくと,おもしろくて奥深い内容なのだと感じました。子どもたちのキラキラした目や生き生きした反応を引き出すためにも,1つ1つの教材研究や教材準備をしっかりとしなければ,と思いました。

「幼児らしい生活」と「言語指導」のバランスについても,活発な意見交換がなされました。「幼児らしい生活」を主体的に行う中で「伝えたい」という気持ちを育て,タイミングを見計らって実体験に基づいた適切なことばを添えて言語化していくこと,両者のバランスを取りながらやっていくことが大事だと思いました。

またそれぞれの発表から,今幼稚部で直面している様々な課題も出されました。

人工内耳手術が1歳半から行われることに伴い,厳しい聴力の幼児との集団内の実態差に対する対応についての課題が出されました。小グループの編成によって対応している事例も紹介されましたが,本校をはじめ多くの学校で同様の悩みを持たれていると思われ,今後も指導内容や方法も含めて検討を重ねていくことが必要だと感じました。

また人工内耳装用児を中心に幼稚部在籍の途中で幼稚園に出て行くケースが増え,幼稚園に出て行った後のフォローをどのようにするかについての情報交換もなされました。どんなに細くてもいいので繋がりが切れないように支援をしているとの意見が印象に残りました。

今回の研究協議会で学んだことを日々の実践に活かして,少しでも聴覚障害児の保育・教育の専門性の継承・共有・発展に寄与していけたらと思いました。


3.寄宿舎

青森県立青森聾学校 工藤早織

寄宿舎分科会では「社会自立に向けた豊かな人間性と社会性を育てる寄宿舎教育について考える」という主題のもと,2本の研究発表と質疑応答,グループ協議,情報交換が行なわれました。

愛知県立豊橋聾学校からは,「障害を併せ有する舎生の基本的生活習慣の確立」というテーマで発表がありました。舎生の実態把握をすすめ,指導員間で課題を共通理解し,手立てを整理して,密着した支援を行ったことで基本的生活習慣が身に付いてきたという報告がありました。さらに,場面を捉えてできたことを褒めていったことで,自立心が芽生えてきたという報告がありました。

筑波大学附属聴覚特別支援学校からは,「舎生会活動を通して舎生の自主性を育む」というテーマで発表がありました。

筑波は,高等部の舎生が多い寄宿舎であり,自治会活動が活発になるように働きかけ,舎生に行事や活動を主体的に運営させていくことで,自主性や協調性,責任感などの社会自立に必要な力が育まれたという報告がありました。

舎生数の減少傾向や障害の重複化が進んでいる中,寄宿舎の自治会活動を活発化させ,自主性を引き出す支援の難しさ,活動による舎生の負担をどのように軽減するかなどが共通した課題であり,質疑応答のときの主な話題でした。

グループ協議では,「寄宿舎生活の中で行われている豊かなコミュニケーションの場について」,「舎生の主体的な活動の場について」の2つについて,各校で実践資料をもとにして,4グループに分かれて協議しました。特色ある活動や行事などを報告し合うことで,各校の状況を具体的に情報交換することができ,今後,実践をする上でとても参考となる協議でした。

その後,4グループの協議内容について報告がありました。自治会活動や交流活動,特色ある行事や活動など,自主性や社会性を育むために,全国の寄宿舎が取り組んでいる様々な支援方法について具体的な情報を得ることができ,とても勉強になりました。

また,他障害の舎生が一緒に生活している寄宿舎や障害種の異なる寄宿舎が併設されている寄宿舎の取り組みも報告され,地域によって寄宿舎の在り方が様々あることを知ることができました。

情報交換では,「非常時の対応と備え」というテーマで,各校の防災計画や非常時のマニュアルなどについて報告し合いました。洪水や津波,積雪の多い期間の火災に備えた訓練を実施している学校や光化学スモッグに備えたマニュアルを作成している学校があるなど,地域の状況に応じた訓練が行なわれていることが印象的でした。

東日本大震災を受けて,夜間や早朝などの人手が少なく不安な時間帯の危機管理や安全管理をどのように図っていくのかということについて,情報を交換したいという思いが各校にありました。しかし,情報交換の時間が足りず詳しく交換し合うことができなかったことが残念でした。

最後に助言者の長岡市教育委員会教育センター指導主事の佐藤仁先生から,支援のヒントとして,長岡出身の元連合艦隊司令官,山本五十六氏の「やって見せ,言って聞かせ,させてみて,ほめてやらねば人は動かじ」という名言が紹介されました。寄宿舎の支援ではこの名言と同様のことが日々なされており,支援の原則として活用できます。小さなことでも場面を逃さず舎生を褒め,自己肯定感,自己有能感を盛りたててやってほしいという助言をいただいたことがとても心に残りました。

本分科会に参加して,様々な地域の寄宿舎の現状を知ることができ,たくさんの刺激を受けました。学んだことをこれからの実践に活かしていきたいと思います。ありがとうございました。


4.自立活動T(聴能・補償工学・人工内耳)

和歌山県立和歌山ろう学校 辻本 知都

この分科会では,「補聴器や情報機器を効果的に活用し幼児児童生徒が主体的に情報を獲得し生かす力を育てるための教育について考える」という研究テーマのもと,午前中は「人工内耳装用児」,そして午後からは「地域支援や情報保障」について,レポートをもとにしながら協議がなされました。

午前中は,筑波大学附属聴覚特説支援学校の板橋先生から「人工内耳装用児の為の発音指導上の留意点と教材の扱い方」について発表がありました。発音指導を続けてこられた先生から見た人工内耳装用児の発音の現状については,「人工内耳機能の上に学校での教育効果もあり母音が安定。また韻律のうまさや音韻意識がしっかりしている。明瞭度も高く,サ行・ラ行・ザ行の出し方が補聴器装用児よりうまい。また話し言葉のリズム・イントネーションのうまさも感じる」といった話がまずあった上で,先生が行っている取り組みや発音指導をする上で考えている話がありました。

「『発音』指導は,日本語習得を目指したもので,発音の明瞭度を上げるだけではない。『聞いて話して文字で書く。そして文字で書かれた言葉を読む時も書いている内容をイメージしながら読める』これがとても大事。」「人工内耳装用児の中には,発音において高い技能を獲得した子どももいるが,聞こえるこどもと同じレベルにいくかと言えば疑問。ただ,人工内耳装用児の発音明瞭度傾向を見た上で,補聴器装用児の発音指導を考えることができる。」etcの話があった上で,最後に,「学校生活の中で最終的には,自分の生涯感つまり聴覚障害者の中でのたつ位置を自分で判断し,自分はこの社会でどのような生き方をしていけばいいのかを考えられる人になって欲しい」との話がありました。

人工内耳については,大阪府立生野聴覚支援学校の中道先生からも「人工内耳装用幼児に対する個別指導の取り組み」について発表がありました。

「指導の観点」は音声の聞き取りと音声言語の理解。「音声の検出」「楽器音の弁別」「母音の弁別」「簡単な質問文」「オープンセットによる聞き取り」「音韻情報の異なる単語」「同母音構成2音節単語の弁別」etc先生が考えられた指導目標順を個々の発達に合わせながら,聴覚によるフィードバックを重視し,繰り返し取り組むことが大切との話がありました。

この後の質疑応答では,先生のこの指導目標に,例えば「蝉の声が聞こえてどう思うか」等,音と心の関係も項目に加え自分なりに作成,指導に生かしたいとの意見や人工内耳装用児の幼稚部から次の就学先の動向,人工内耳を装用した重複障害児の取り組みへの課題など様々な意見が交わされました。

午後からのテーマ「地域支援」は,和歌山県も地形や地域の問題から様々な取り組みを行っている為,興味関心ある中身でした。「地域支援」といってもの日本全国地形や地域性など現状が様々であるだけに進め方や実践内容も多岐にわたります。それだけに少しでも他県の様子を聞けたのはとても参考になると共に,やはり同じ視点で子ども達に関わる為には,教育と他機関との連携が重要だなと改めて感じました。

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この他,筑波大学附属聴覚特別支援学校から「入学式・卒業式等の式典における情報保障 〜ハイビジョン画質に対応した字幕挿入・投影システム〜」(竹村 茂・高等部 情報保障分掌チーム)という発表がありました。発表の内容については,附属聴覚特別支援学校のホームページでも見ることができます。


5.自立活動U(言語,発音,発語,コミュニケーション)

福島県立聾学校平分校 氏家 かおり

本分科会では,「主体的に生きる力を育てるための,幼小中高をとおした計画的,且つ,個の実態に応じた言語指導の在り方について考える」のテ−マをもとに,「日本語指導」や「言語獲得(書きことばなど)」,「言語能力を育てるための取り組み」,「自立活動の取り組み」の4つのグル−プに分けて,合計14件の研究発表がありました。

「日本語指導」では,名詞や動詞,助詞,形容詞などを色別の紙に書き込み,それを教師とのやりとりの中で操作することで日本語力を高める指導や絵の提示をきっかけに,主に助詞の正しい使い方を身につける指導などについての研究発表がありました。聴覚に障害をもつ児童にとって聴覚からの情報は限られてしまうため,実態に応じた視覚情報を併用することが,児童の考える手助けとなることやそのやりとりを繰り返すことが日本語力を高めるために有効なことが再確認できました。また,語彙数に関する研究発表では,早期の音韻指導の大切さと聴覚活用ができると力が伸びるなどの話があり,かかわり手が常に児童の課題を頭に置いてかかわることの大切さを感じました。

「言語獲得(書きことばなど)」では,メモに取ったことを箇条書きにし,それを作文につなげていく指導や天気予報の言葉遣いをきっかけに,算数科や理科とも関連させながら言葉と感受性を高める指導,外国語活動の取り組みについての研究発表がありました。児童自身が五感を使って実際に経験することが,「伝えたい」「もっと知りたい」という意欲を高めることになり,学習場面で取り上げた内容を学校の生活場面でかかわり手が触れていくそれこそが,言語獲得(書きことばなど)に直結していくものだと思いました。

「言語能力を育てるための取り組み」では,発音プログラムを用いた事前評価に関する内容や手話と日本語力についての研究発表がありました。中でも,手話と日本語力の育成については,話し合いが長時間行われました。聴覚に障害をもつ児童たちは将来,聾社会で生きていくため,何よりも日本手話が大切という意見や手話だけでなく,日本語力の育成も必要だという意見が出されました。聴覚に障害をもつ児童たちは卒業後,厳しい一般社会の中で生きていくことになり,様々な人とコミュニケ−ションをとりながら生活を営んでいくことが必要になります。そう考えると,卒業後に児童自身がどのように生きていくかを考えた時に,いくつかの選択肢の中から手段を選択できることが好ましく,その選択の幅を広げる有効な手段として手話力や日本語力などがあるのではないかと感じました。

「自立活動の取り組み」では,社会的自立を促す指導実践や互いに伝えあう力を高める指導,障害認識に基づく自立活動についての研究発表がありました。聾学校高等部3年を修了すると社会に出て行くことが多いため,外部講師を招いて会社でのやりとりについて学習する時間を設定したり,相手の話の聞き取りや自分の伝えたい内容をメモにとる方法を身につけたりするなど,各学校の工夫した様々な実践を聞くことできました。私は小学部担任の経験しかありませんが,今回の研究会に参加したことで,「補聴器の管理」や「話を聞く態度」,「相手の話を聞き取る力」,「自分の気持ちなどを相手に伝える力」「あいさつや約束・きまりを守る社会性」を小学部段階からの子どもに身につけさせることが大切だということを再確認できたように思えます。

研究発表を聞いて,先生方も私と同様試行錯誤しながら児童の課題解決に向けて日々実践を重ねていることを知り,一層活力が湧きました。私も,今回気づいたことを大切に,今後も自己研修を重ねていきたいと思います。


6.確かな学力,学力向上(教科指導)

千葉県立千葉聾学校 佐藤 未緒

本分科会では,「子どもたちが意欲的に学び,課題解決に必要な基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得するための授業づくりについて考える」をテーマに,14件の研究発表がありました。学習理解を助ける教材・教具の工夫や活用,ASLやICT等視覚情報を活用した英語指導の取り組み,コミュニケーションスキル,国語の読解や文法指導の取り組み,ろう児のリテラシー等様々な分野,視点からの研究,実践が報告されました。

教材・教具の工夫や活用をテーマにした発表の中で,愛知県立一宮聾学校 安部先生の「確かな理解を促し,主体的に考える力をはぐくむ指導・支援のあり方〜小学部2年生における算数の実践を通して〜」では,数量に対するイメージを育てながら,確かな理解へとつなげるために,半具体物等の操作活動が有効であったと報告がありました。題材ごとに成果のあった教材や指導方法を具体的に発表されており,今後の授業づくりに生かしたいと思うものでした。一方で,助言者である筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター准教授 長南浩人先生の「具体物や半具体物の操作活動は,行動レベルのまねにとどまってしまうことがある。」という言葉に,日々の取り組みを振り返させられました。私自身,授業に反具体物等を取り入れることがありますが,児童が操作をし正解を出せたことに安心していたように思います。正解を単純に評価するのではなく,児童の思考を常に言語化させ,意味的理解が伴っているか確認することが大切であり,そのことが思考を整理し,定着することになるということを教えていただきました。聴覚障害のある児童生徒の学習上の特性を踏まえた指導,評価が大切であるということを改めて感じました。

児童の主体性やコミュニケーションスキルをテーマにした発表の中で,東京都立葛飾ろう学校 持田先生の「自ら活動を広げ,行動できる力の育成」では,「伝え合い,考えを深めて,自分で判断し行動できる児童」を目指し,有効であった活動や単元計画,手だてについて発表がありました。「伝え合う力」の育成のために,話し合い活動では,話す時や聞く時の約束を決めたり,発表の仕方の文型や進行マニュアルを提示したりする等の工夫がされていました。また,「考えを深め,判断し,行動する力」の育成のために,単元計画に余裕を持たせ,児童が試行錯誤しながら活動を進められる時間を確保したり,単元途中で活動を振り返り,改良する機会を設けたりしたと報告されていました。こうしたことは,メタ認知能力の育成にもつながると学んだので,計画を立てる際に参考にしたいと思いました。

 日本語の習得や文法指導をテーマにした発表では,兵庫県立姫路聴覚特別支援学校 高浜先生,藤田先生の「中学部生徒に対する文法指導の実践」がありました。テストを実施し,実態を客観的で丁寧に分析,把握をしたうえで,段階的に継続した指導をされていることに驚かされました。指導段階表や文法指導のテキストは,ぜひ参考にさせていただきたいです。また,今後の課題として,文法について学んだあと,学びを生かした課題を適切に提示し,繰り返すことで読み書きのスキルを向上させる等をあげられていましたが,今後も研究が続くものであるなら,その成果も知りたいと思いました。

今回の分科会では,各校の取り組みから多くのことを学びました。そして,長南先生から教えていただいた「学力は,言語の力で決まると単要因から考えてはいけない。学力は,認知面,感覚精度,知識量,家庭や学校の環境等様々な要因によって形成されている。分析的・総合的にとらえていく必要がある。」ということを常に心にとめながら,日々の実践に取り組んでいきたいと感じました。


7.地域支援,センター的役割

福島県立聾学校 齋藤 成子

本分科会では,「社会の変化や多様なニーズに対応する聾学校のセンター的役割の在り方について考える」をテーマに午前中の2件の研究発表と午後からのワークショップがありました。

京都府立聾学校の水口修三先生からの「通級指導教室における言語指導」では,発達状況や言語の状況の把握の方法についての具体的な検査法等の紹介がありました。地域支援を行う上で幼児児童生徒の実態を限られた時間の中で把握することは,多くの経験が必要となります。いくつかの検査結果を総合的に解釈することで,客観的な実態把握が可能になり,的確な指導計画が立てるのだということを改めて考えることが出来ました。

群馬県立聾学校の吉田基先生からは,「群馬県立聾学校におけるセンター的機能の取り組み〜聴覚障害理解のためのリーフレットの作成と活用〜」の発表がありました。リーフレット作成にあたり,県内の難聴・言語障害特別支援学級及び通級指導教室に対してセンター的機能のアンケートを取り,地域のニーズに応じたリーフレットを作成し,現在も改訂を図っているという説明がありました。さらに,改訂中のリーフレットの内容についても紹介がありました。センター的な役割を担っていく上で地域や時代のニーズに合わせて,具体的な内容の改善を常に意識していかなければならないということを強く感じました。

午後には,『ワークショップ:障害理解のための啓発活動について』という内容で5つの地域支援に関わる具体例の紹介がありました。「伝音難聴,補聴器,人工内耳のきこえのシミュレーションDVD」,「地域ネットワークを活かした相談支援リーフレット」,「高等学校に対しての具体的な支援例」,「支援センター部の小学校への難聴理解授業等の具体的な例」,「学校紹介自作ビデオ」について各校の報告後,情報交換や質疑応答を行いました。情報交換をすることでそれぞれの学校が,地域の状況を踏まえながらその良い活動や支援を参考に直ぐに活用,実践できる紹介内容でありました。ワークショップ後には,お互いの資料や連絡先の交換をするなど,参加の先生方の交流がありました。

最後に大阪市立聴覚特別支援学校教諭の中瀬浩一先生から午前中の発表についてのご助言をいただきました。聾学校から出かけていく地域への支援について,週1回程度の支援だけではなかなか成果を上げにくいことを挙げられ,支援内容を聾学校につないでいき校内で支援を分担,分業をしていくことが大切であるというお話が印象に残りました。また,群馬県立聾学校の発表でもありましたように,小・中学校等の地域のニーズから見えてきた課題をどのように小・中学校等の地域へフィードバックしていくのかが大切であることや,地域支援を行うためには多方面から実態を把握できる専門的な知識と技能,関係調整力が必要であること等のお話がありました。地域支援充実のためには,教員の様々な専門性を活用しながら支援していける校内の環境整備が必要であることを再認識することができました。

本分科会に参加し,@聴覚障害教育の専門性の『継承』を校内だけではなく小・中学校等の地域へも発信し支援していかなければならない機能や役割の在り方,A聴覚障害病理や聴覚障害教育における授業等に関する専門的な知識や技能を小・中学校等の地域と『共有』する方法,B校内で,地域支援に対する考え方を『共有』するための働きかけや体制の工夫,C聾学校の教育力と小・中学校等の地域の教育力をお互いに『発展』させるための方策,について考えさせられました。この思いを形にして,本校の実践に活かしていきたいと考えています。


8.進路,キャリア,生涯教育

筑波大学附属聴覚特別支援学校 小林 早由利

進路,キャリア,生涯教育では「社会の一員として自覚をもち,豊かな社会生活を送るための力や態度を育てる支援について考える。」という研究テーマをもとに,6件の発表がありました。

前半は,在学中に育成したい力とその支援の在り方として「職業としてのデザイン〜情報を整理する力を高める指導法の研究〜」「本校高等部のキャリア・トレーニングの取り組み(中間報告)」「社会の一員として,主体的に生活する力を育てるための支援の在り方」について,卒業後の就労に対する取り組みの1つとして,「職場体験実習」や「校内就労体験」に関する実践と研究成果が報告されました。

本校の専攻科でも3日間の職場体験実習を1年生の段階で実施しています。短期間での実習ですが,働くとはどういうことなのか,職場の方とのコミュニケーションはどのように取ればよいのか,そして社会人として在学中に身につけなければならないことは何かを考える機会となり,生徒の就労に対する意識を高めることに役立っています。

富山県立富山聴覚総合支援学校の米原先生の「社会の一員として,主体的に生活する力を育てるための支援の在り方」の発表の中で,聴者と働くことを念頭に置いて,働くことの意義や就業に対する具体的なイメージを形成するために,職場実習の前に校内就労体験を実施することで,基本的なマナーやルールを守る態度が身につき,コミュニケーション面では筆談を使って作業を正確に行うことができるようになったという報告があり,就労に対する日々の積み重ねの必要性をあらためて実感させられました。

後半は進学に関して,聴覚障害の理解を推進するための進路先との連携について「聾学校におけるキャリア発達支援」「高等部における進路指導の課題と卒業後の支援〜平成22年度普通科卒業生に対する進路指導を通して〜」「ろう学校と大学と連携〜大学現場を生徒・教員が知る〜」の実践と研究が報告されました。

聴覚障害学生が様々な支援制度を活用しながら聴者と学んで行くために,高等部を卒業するまでにどのような力や姿勢が必要なのか,また,進学先の先生方や学生に対して聴覚障害を理解してもらうために「難聴疑似体験」を実施したり,在学中に「大学授業体験」を行うことで,生徒自身が情報保障について考え,話し合ったり,聴覚障害を持っている大学生との懇談の機会を設けることで,大学への進学意欲を高め,大学生活を知ることに役立っているなど,進学に対しての具体的な取り組みを知ることができ,大変参考になりました。

助言者である東海医療科学専門学校で教学部長をされている市橋詮司先生より,従来は聞こえる人に合わせるための指導がされてきたが,これからは聞こえないことを周囲に理解してもらう指導を行うことも大切で,この両方ができる力を育てる必要性が聾学校にはあるというお話がありました。就職,進学と進路は様々ですが,卒業後に健聴者の中で生活するために,在学中にどのような力を身につけさせることが必要なのかを教師側が知るためにも,卒業生の状況をしっかりと把握し,周囲にどのような働きかけをすべきかを考え,それを身につけさせるために,生徒の実態に合わせた支援や指導を行うことの大切さを再認識させられた分科会でした。

今できることは何か,やらなければならないことは何かを考えて,日々の指導をしていこうと思います。


9.総合的諸問題(障害認識,生活・生徒指導,重複障害)

福岡県立久留米聴覚特別支援学校 熊川 浩子

本分科会では,「聴覚障害児教育における障害の認識や重複障害児への教育等の諸問題の適切や指導や支援を考える」という主題をもとに10本の研究発表が行われました。研究発表の内容は,発達障害を併せ有する児童生徒の事例,重複障害児童への生活単元学習の取り組み,身体発育と体力・運動能力,英語教育,日本手話を基盤とした授業つくり,障害認識を深める取り組みと多岐にわたる学校現場の課題が集約された奥の深い内容でした。 対人関係や学習に困難を示し,配慮を要する児童生徒への対応については,各現場で試行錯誤が行われ,教師間の連携の下に本人の自己肯定感を高めるように実践が行われていると思います。しかし,今回の数本の発表で,WISC−V等客観的な検査と行動観察が重要であること。その分析・解釈をもとに認知特性を知り,本人の強みを生かし,弱みをカバーする学習の工夫をすること。気になる行動のメカニズムを知り見通しが持てるようにすること。ルールを確認し,自分で評価して

いけること等が重要であることが改めて確認できました。その中で,聴覚障害児にWISC−V等の検査をする際の検査内容の提示方法に関する課題では,各児童の実態に応じてまちまちであり,今後各学校での検査法や検査結果の解釈等の研修が必要であることが示唆されていたと思います。

体力と運動能力の発表では,体力や運動能力とは,すべての学習活動や生活習慣など生活の基盤であることを改めて考えることができました。学力保障・豊かなコミュニケーション能力の育成と日々の学習活動の中で一番大切なことは,心身ともに健康な体であること,自分や他人を思いやれることであることを忘れないようにしておきたいと思いました。

現在六年生の担任である私にとっては,「聞こえなくても英語はできる」という難聴中学生への実践については,興味深くうかがうことができました。児童生徒の聴力レベルによって,一層の指導の工夫と日本語指導の重要性を感じました。

北海道札幌聾学校の日本手話を基盤とした授業つくりの発表では,「日本手話による思考力」「第一言語が伸びることにより書き言葉が豊かになっていく」実践を大変興味深くうかがうことができました。分かり合えるコミュニケーション手段を獲得すること,わかる授業で考える習慣を育てることは,社会性を育て自立にとって不可欠なことと思われます。さまざまな将来の思い描く姿とさまざまな価値観の中で,参加者の方々の言い尽くせない思いが会場にあふれているようでした。 障害認識の発表では,アンケートの結果として筆談がコミュニケーションの方法として意識的に考えられていない実態やバウムテストからうかがえた生徒の心理の状態等が印象的でした。将来,聴者と関わりながら社会生活を送るであろう時,さまざまな壁に気づく力,自分たちにとって,また,まわりの聴者にとっての情報保障とは何かを考える力,そして,できる努力・できる解決をしようとする力を高めることが大切であることを感じました。

まとめとして,藤本先生の助言にあった「一貫校としてのアプローチ」「聾教育を客観的に見ることの大切さ」「これまでの聴覚障害児教育以外の指導法を参考にする大切さ」「価値観の交流」等は,まさに今回の長岡大会の主題である『専門性の継承・共有・発展』そのものであり,聾教育の課題の深さを感じました。