北海道大会 研究協議会

 


1.早期教育T(早期発見・早期療育・乳幼児教育)

兵庫県立姫路聴覚特別支援学校 坪田 良一

本分科会は,助言者に目白大学保健医療学部言語聴覚士学科教授の齋藤佐和先生をお迎えし,「乳幼児の豊かな発達を促すための早期教育を考える」というテーマで9本のレポート発表をもとに研究協議を行いました。

前半は乳幼児相談における保護者支援についての取り組みについての5本のレポート発表がありました。大阪府立生野聴覚支援学校からは0,1歳児の個別指導,育児日誌の取り組みで,これによって保護者への具体的な説明ができ,保護者の精神面のフォローもできるようになったという報告でした。

北海道旭川聾学校からは,親子の伝えあいに関する観点表とチェックリストを作成し,保護者と担当教師のずれを把握して,すり合わせを行い保護者と担当教師が同じ視点で成長を認め合うことができたという報告。福岡県立久留米聴覚特別支援学校からはロールプレイを取り入れ,日常の場面を母親が子どもの役割を演じることで,子どもの気持ちや伝え方について考えるきっかけになったという報告。北海道札幌聾学校からは親子の愛着を育む取り組みとして,親子の関わりの様子をビデオで記録し,親子関係の変化に着目して,発達段階に応じた支援内容の検討を行ったという報告。また,北海道帯広聾学校からは,主体的な子育てが困難な家庭への支援や新生児スクリーニングによって早期に一側性難聴が発見された場合の保護者に対する支援についての報告がありました。

後半はセンター的な役割に関する4本のレポート発表がありました。

兵庫県立こばと聴覚特別支援学校からは人工内耳装用児の保護者への面接調査による保護者の思いやその変化の聞き取りの結果から,今後人工内耳装用児が増えていく中で聾学校がどう関わっていくべきかという課題が提起されました。

岐阜県立岐阜聾学校からは乳幼児教室の0〜2歳の乳幼児にも個別の支援計画を作成し,担当者間で情報の共有や引き継ぎができ,また保護者へも養育者の主体者としての自覚を促すことができたという報告。三重県立聾学校からは新生児聴覚スクリーニングの開始をきっかけに医療・福祉・教育が連携し,行政を動かして「難聴児早期療育のための県内体制のあり方検討会」が立ち上がり,軽・中等度難聴児に対する補聴器購入費用助成制度や児童相談センターの言語聴覚士の聾学校への派遣が実現したという報告。山形県立酒田聾学校からは新生児スクリーニングをより効果的にするために,産婦人科へのパンフレットを作成し,リファーの出た保護者への聾学校の紹介のお願いや,保健師との連携や啓発を行っているという報告がありました。

最後に助言者である齋藤佐和先生から乳幼児教育相談の歴史,子どもとのかかわり方,今後の動向と課題についてのお話がありました。聴覚障害教育における専門性を持った支援とは聴覚活用と発達に応じたコミュニケーション活動の促進であるというお言葉が印象に残りました。

新生児聴覚スクリーニングの普及により今後ますます乳児の早期教育が重要になってきています。ここで得られた各校の取り組みを,地元地域での実践に活かしていきたいと思います


2.早期教育U(幼稚部教育)

岡山県立岡山聾学校 重松 恵梨

早期教育U(幼稚部教育)では,「豊かなコミュニケーションについて考える」という研究テーマをもとに,11本の研究発表が行われました。研究発表の内容はおおまかに,「保育(やりとり)の分析」「合同(異年齢集団)での保育の取り組み」「教材についての取り組み」「コミュニケーション」の4つにわかれていました。

「保育(やりとり)の分析」では,話し合い活動の中でのやりとりを逐語録に起こし,そこから教師の発問は適切であったのか,話題の展開は適切であったのか,など丁寧な分析が行われていました。分析を行うことは大変な作業ではありますが,目に見える形で幼児の変化に気づくことができ,また自分の力量や授業の質を高めることにつながるということを実感することができました。

「合同(異年齢集団)での保育の取り組み」では,異年齢集団での遊びや,幼児同士のかかわり方の変化についてまとめられていました。聾学校の生徒数が減少しているなか,いかにして集団を保障していくのか,本研究テーマであるコミュニケーションの場をどのように確保するのか,聾学校が今後考えていかなければならない問題を再確認することができました。

「教材についての取り組み」では,絵本や歌を取り上げた研究発表が行われました。子どもたちは歌や絵本が大好きですが,同時に指導が大変難しい教材でもあると感じていました。今回の発表では,親子読書の実施や歌ノートの作成など,親子のかかわりを大事にしながら取り組むことができたという点がすばらしいと感じました。ぜひ,日々の保育の中で参考にしたいと思います。

「コミュニケーション」では,幼児を取りまくコミュニケーション環境に焦点をあて,絵本DVDの作成や,遊びの環境について見直しを行った成果が発表されました。絵本DVDの作成では,高等部情報科との連携といった新たな一面があり,非常に興味深いものがありました。また,時間や空間などの環境を見直すことの大切さについても改めて考えることができました。

研究発表を聞いて,どの学校も日本語の獲得や専門性の継承など,現在の聾学校が抱えている問題に対して,先生方が試行錯誤しながら,日々実践を重ねていることを実感することができました。同時に,「幼児にこんな力を身につけてほしい」「こういった幼児に育ってほしい」という思いを強く持っているということに刺激を受けました。次年度も引き続き研究を進めているものに関しては,ぜひ成果を知りたいと思います。

助言者である筑波大学附属久里浜特別支援学校副校長,松本末男先生からは,「現在,聾学校幼稚部が抱える問題(指導者の経験不足,集団の保障など)が研究発表からみえる。その中で,今自分がしていることの意味(この発問はどういう意図でしたのか,この題材を設定したのはどうしてかなど)を常に考える必要がある」という助言をいただきました。自分が行っている保育に対して常に説明ができるように,日々の実践を見直していきたいと思いました。

また,最後に松本先生からいただいた一言が大変心に残りました。「幼稚部教育は,やればやるだけ自分に返ってくる。つまり自分の力量が問われる教育である。」

今回の研究協議会で学んだことを心に留めながら,日々の実践に取り組んでいきたいです。


3.教科指導法T(文系)

福島県立聾学校平分校 松浦 真由美

本分科会では,「確かな学力向上を目指した授業づくりについて考える」をテーマに,17件の研究発表がありました。

小学部低学年を中心とした取り組みとして,「物語文の指導」「書く指導を通して感じたことを伝えあう力(文字への興味・進んで表現する)を高める指導法の研究」「日記のフォーマットの作成と保護者や教師の問いかけに対する研究」「日本語文法指導による日本語習得の取り組み」「WISC-Vの結果に見る児童の実態と言語指導の課題」の実践,研究が報告されました。特に,筑波大学附属聴覚特別支援学校の山本晃先生の「日記のフォーマットの作成と保護者や教師の問いかけに対する研究」では,フォーマットを作成することにより,児童に身に付けさせたいことばややりとりをしたことばを整理しながら書きことばにつなげていくことができ,日々の実践の中に取り入れていきたいと思いました。低学年の児童の確かな学力,言語力の獲得を目指した様々な取り組みから,きめ細やかな段階的,継続的な指導の大切さや児童が『学びたい』という意欲を高める工夫のあり方を学ぶことができました。

小学部高学年を中心とした発表では,「書く指導を通して,感じたことを伝え合う力(自分の考えを書く)を高める指導法の研究」「児童の課題を明確にし,ことばの育ちを意識した指導」「日本手話を基盤とした授業づくり」「聴覚特別支援学校(ろう学校)小学部における英語指導」「外国語活動の取組」が報告されました。その中で,北海道札幌聾学校の「日本手話を基盤とした授業づくり」では,国語科学習指導において,日本語をどう獲得していくのか,活発な意見交換がなされました。初めて,日本手話による授業を参観させていただき,それぞれの文法が違う中,助詞の扱いや日本語としての表現の仕方など,難しさを感じました。視覚的な情報とあわせて,より理解を深めるため五感を活用する機会をもつことも大切だと思いました。また,平成23年度から実施される外国語活動の研究として「聴覚特別支援学校小学部における英語指導」「外国語活動の取組」が報告され,小学部段階での英語の指導について,筑波技術大学の松藤みどり先生より,ゲーム感覚でカードを使った学習や視覚的教材の開発と工夫,音声で聴くことを大事にしたかかわりなど,今後の指導に役立つ情報を得ることができました。

中学部・高等部を中心とした取り組みとしては,「基礎・基本を身につけ,自ら学ぶ力を育てる指導法の研究」「主体的に学び,確かな学力をはぐくむ指導法の研究」「経験や知識を活用して積極的に表現する生徒をめざして」「中学部における作文指導の取り組み」「中学生の経済観を広げる体験型授業の試み」「音楽鑑賞ノートを活用した音楽の授業の試み」「日本語力の向上,伝えようという態度の育成を目指したレポート課題への取組」の実践,研究が報告されました。それぞれの報告の中で中学部・高等部の発達段階,個々の実態に応じた主体的に学ぶための様々なアプローチの仕方の工夫がされていました。「分かる」手立ての工夫から意欲や自信へとつなげ,自ら考えて行動する力を育んでいくことは,日本語力と共に『生きる力』を育む大切なかかわりであると感じました。

最後に北海道教育庁の大塚雅彦氏より,教科としての目標をしっかり持って取り組むことの大切さ,日本語力の向上に向けて,それぞれの時期に必要な力を意識したアプローチの仕方,作文指導では,書いて得をする経験をたくさん積ませていくことなどのご助言をいただきました。本分科会に参加して,先生方の確かな学力向上を目指した力強い取り組みに自分自身の指導のあり方を見直す貴重な経験になりました。ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 


4.教科指導法U(理系)

新潟県立長岡聾学校 小池 豊

本分科会では,助言者に江戸川区教育委員会の林茂和先生(元全国聾学校長会会長)をお招きして,「確かな学力の向上を目指した授業づくりについて考える」をテーマに,活発な意見交換と協議が行われました。参加者は約30名で,聾学校に初めて勤務された先生から,長年聾教育に携わってきたベテランの先生方まで,幅広い参加者が集まっていたと思います。また,レポートの発表本数は6本で,小・中学部の算数や理科の実践を初め,高等部の生物や地学,情報モラルの実践などが発表されました。

ところで,OECDの生徒の学習到達度調査(PISA,2006)によれば,科学的リテラシーは国際的に見て上位でも,数学的リテラシーは前回の2003年調査に比べて低下をしたということ,また,科学の楽しさを感じている生徒の割合は低いといったことなどが指摘されています。こうした「理数離れ」の現状を,ノーベル化学賞を受賞した鈴木章さん(北海道大学名誉教授)は度々憂慮され,日本のように資源のない国では「サイエンスやテクノロジー,教育は一番大事」と訴えておられます。

さて,こうした「理数離れ」の傾向は,聾学校にも当てはまるのでしょうか。私見では文系の教科に比べ,理系は相対的に興味・関心は高く,意欲的に学習しているように思えます。しかしながら,その反面,教科等の部会では「計算はできても,思考力を問う問題が苦手である」とか,「細かいところまでよく観察できるものの,因果関係や関係性を論理的に説明することができない」といった声が聞かれます。同じような悩みを,全国の聾学校の先生方も抱えていらっしゃるのではないでしょうか。都合により,私は本分科会の前半3本の発表までしか参加することができませんでしたが,示唆に富む大変有意義な分科会だったと思います。以下,特に印象に残ったことについて,いくつか述べてみたいと思います。

まず初めに,どのレポートにも共通していたことは,「わかりやすさ」を追求しているということです。視覚的な教材を手作りで準備したり,電子情報ボードやWeb教材を効果的に活用したりするなどの一工夫がされていました。アナログとデジタルの違いはあるにしても,子どもたちの「わかる・できる」を引き出すための大切な仕掛けと言えます。そのような教材作りや探しは,教師としての基本であり,また楽しさでもあると私は思っています。

次に,子どもたちの「気づき」や発見を大切にしながら,考える楽しさ(科学的な思考の楽しさ)を,いかに育てていくがポイントだということです。例えば,自由の意見を書き込めるような魅力的なデジタル教材を提供したり,思考の流れがわかるように板書を工夫したりすることは,考える楽しさを意識した試みと言えます。また,ブーメランのチューニングのように,遊びの要素を取り入れながら問題解決を図っていくような学習は,まさに学ぶ楽しさを実感できる良い例だと思います。学び方を学んだり,思考の過程を共有化したり,考えを練ったりする活動を繰り返していく中で,子どもたちは科学的な思考の楽しさに少しずつ気づいてくれるのではないでしょうか。

最後に,レポートや分科会の協議を通して,やはり教師自身が自然や科学を楽しむという姿勢をもち続けることが大切だと,今回再確認することができました。つまり,季節や風景の変化に敏感に気づき子どもたちに投げかけたり,物事の規則性に興味をもって一緒に先を予想してみたりするなど,いつも「わくわく感」をもてるかどうかが,「理数離れ」に歯止めをかけるため第一歩になると強く感じました。これらのことを,これからの実践の役立てて行きたいと思います。


5.重複障害教育

大阪府立堺聴覚支援学校 奥野 友紀

本分科会は,「一人一人の障害の状態に応じた授業づくりについて考える」という研究テーマのもとに,各校からのレポート発表がありました。

「生徒の主体性を引き出す,個に応じた指導・支援のあり方」「集団の中で学び合える指導法の研究―互いに認め合うかかわりをめざして―」「一人一人の教育的ニーズに応じた指導内容・方法の充実のために―やり取りを重視したコミュニケーション指導―」「一人一人の発達に応じたコミュニケーションの指導についての研究―言葉を豊かにする様々な学習活動をとおして―」と多岐にわたる発表がありました。

どの発表も,子どもたちと真剣に向き合い,一人一人の課題にスモールステップで確実に取り組む,熱い思いが伝わってきました。室蘭聾学校からの,1対1の授業の行き詰まりから,複式学級による指導を取り入れ,集団の中でかかわりながら伸びていくという報告から,各校で取り組んでいる合同学習の効果を発表し合いました。その中で,1・4年で行っている授業では,1年生にとって4年生が活動する姿がモデルになり,4年生にとってはひっぱって行くリーダーになれる(弘前聾学校)重複学級と一般学級の合同で授業をすると,子ども同士が見て育ち合う(佐賀聾学校)子ども同士がいきいきする。模倣が広がる。動きが活発になる(小樽聾学校)順番やルール集団のレベルアップを狙って取り組んでいる。関わり合えるのがいい(八戸聾学校)先輩が後輩に教えられる。どうすれば伝わり合えるのか,努力する様子がうかがえる(高等聾学校),昨年6年生と中学部で学部を超えて体育の合同授業を行った(帯広聾学校)と様々な意見が出されました。どの学校でも,子どもの数が減り,集団で授業に取り組むことが難しくなってきているのですが,その中でも,学年・学部の枠をも超えた柔軟な集団作りが,子どもたちの相互に学習し合う力や伸びようとする力をより一層高めるのだ,ということを聞き,改めて集団の大切さに気付かされました。

また,横尾先生から,特別支援学校における重複障害児への状況に応じた支援について,障害種別の枠の中に押し込められていた重複障害児たちは,似たような課題を抱えていても,学校によって手だてが違うなど,適切な支援が受けにくいのではないか。都築繁幸先生からは,聾教育と発達障害教育は互いに教育技法について学び合い,発達障害への理解を深める必要がある。というお話を伺い,広い視野を持って子どもと向き合い,指導・支援していくことが,重複障害児の教育においては大切であるということがわかりました。

様々な地域からの報告を聞き,子どもたちと日々向き合っておられる先生方の熱い思いに,明日からがんばるためのエネルギーと,心強さをいただきました。ありがとうございました。


6.寄宿舎教育

岩手県立盛岡聴覚支援学校 菅原 典子

本分科会では,「生きる力を育てるための寄宿舎教育について考える」という主題のもと,8本の研究発表が行われました。研究内容は,あいさつや交通ルール,食に関するもの等日常生活に欠かせない基本的なマナーから,集団生活の中で相手の気持ちを思いやり円滑な人間関係をつくるためのコミュニケーションの指導や集団生活のルールなど,社会性を育てるものまで多岐に渡っていました。今回の研究会を通し,寄宿舎は,親元を離れて生活する子どもたちが安心した生活を送ることのできる支援をしたうえで,更に社会に出て自立して生きていくことのできる指導もしていく大切な役割があると再確認しました。子どもたちに一方的に教え込むのではなく,生活の中で自然に気持ちを引き出しながら課題を探ることはとても大変なことです。しかし,どの学校でも子どもの年齢や発達段階,集団の状態に合わせてきめ細かく考えていました。

今回情報交換をした寄宿舎は,在舎数1名の学校から,高等部生が80名ほどいる学校,小学部から高等部専攻科まで幅広い年齢層がいる学校等様々で,それぞれに抱えている問題も異なりました。しかし,全国どこでも共通の問題も多々あります。携帯電話のトラブルや男女交際の問題,重複障がいの子どもの活動や,コミュニケーションの方法など,それぞれの学校での具体的な支援方法について情報を交換できたことで,私自身もとても勉強になりました。どのような問題でも,子どもとの信頼関係を強く結び,普段と違う子どもの様子を素早くキャッチすることが大切であると改めて感じました。

助言者の,旭川聾学校専門寄宿舎指導員である山根照治先生からの講評では,1950年代の「寮母の心得」の紹介があり,現在の寄宿舎指導員とは大きく異なった仕事内容や境遇であったことを知りました。男尊女卑の時代であったこともありますが,寮母は自分の考えをもつよりも,指示に従って業務(主に食事作り)に専念することのみと考えられていたようです。しかし,現代は子どもたちを取り巻く状況も大きく変わっています。毎日めまぐるしく発展する社会では,子どもたちの周りには誤った情報も飛び交っています。特に,聴覚に障がいがあり,更に親と離れて暮らす子どもたちですから,心に寄り添った指導を,視覚的な支援を加える等しながら分かりやすくきめ細かく行う必要があります。

助言者の講評の中に,各年代の寄宿舎卒業生にとったアンケートの集計がありました。どの年代にも共通して言えることとして,「規則は厳しかったが,寄宿舎では自由に発言ができた。」「社会に出る時のルールや集団生活で相手を思いやる気持ちが育った。」といった内容が多かったのが印象的でした。子どもたちにとって,手話を使って自由にコミュニケーションのとれる場であり,仲間としての意識が強く結ばれる場。相手を思いやり,積極性や協調性をつけることのできる場。そのような,時代を経ても変わらない寄宿舎の良いところを,私たちは受け継いでいかなければならないと感じました。行事がなくても日常生活の中で「ありがとう」「その笑顔いいね」など子どもの存在を認めながら,子どもたちがリラックスした状態で本音を話し,気持ちを引き出すことができるのは,学校でも家庭でもない寄宿舎の指導員だからこそできることだと思います。「生きる力をつける」と一言で言っても,子どもによってその内容や方法は大きく異なります。しかし,夢や希望をもって社会に出て行く基盤を作ることは,どの子どもにも必要な,私たちの役目です。

今回の分科会で学んだことを今後に生かし,これからの実践に生かしていきたいと思います。


7.自立活動T(発音・発語,聴覚活用,聴覚補償工学)

横須賀市立ろう学校 中村 洋輔

本分科会では,助言者に東京大学客員教授の大沼直紀先生をお迎えして,「生きる力をはぐくむ自立活動について考える」をテーマに4件の実践事例研究が発表されました。

盛岡聴覚支援学校からは,発音・発語指導に「韻律記号」を用いての事例が紹介されました。発音指導に習熟していない教員でも,使用が容易であると述べられ,全国のろう学校で抱えている専門性の継承という点で,今後さらに改善をして活用していくことができると報告がありました。

筑波大学附属聴覚特別支援学校からは,カ行の指導中で破擦音や摩擦音を使う音節の発音が一過的に軟口蓋破裂音化する現象がみられることがあるという報告がありました。発音指導上での留意点や,指導方法,又は発達段階をおっての指導法,子どもの発音状況の把握など多岐にわたり,とても良い勉強の機会になりました。また,卒業生が就職後に職場で自分の思いを同僚に伝えるために,母校に発音指導をお願いしにくるという報告もありました。学校や地域支援の中で,そのようなニーズに応える役割を果たす機関が,今後は必要になってくるのではないかということでした。

日本聾話学校からは,学芸会を通して物語を味わうこと,台詞を聴くこと,台詞を話すこと,歌を楽しむこと,協力して演じることを通して子どもたちの心に自信が育ち,言葉が育つという報告でした。聴覚活用を最大限に生かしていく学校体制の中での,朝の補聴器チェックや学芸会発表時には,客席と舞台にそれぞれの赤外線補聴システムを用いることなど,聴覚補償の配慮について,改めて考える機会になりました。

筑波技術大学からは,アニメーション技術を用いて,オノマトペが持つ音象徴を視覚化して伝達するオノマトペ教材の開発の報告がありました。アニメーションを使用するという点では,幼稚部や小学部にも有益な教材になる可能性などが話題にあがりました。また,アニメーション技術にさらに音声を加えることによって,よりよい提示方法になるのではいかという指摘をもらいました。

研究会の最後には,大沼直紀先生より貴重な講演をいただきました。内容は,聴覚補償を主軸として各関係機関との連携,動向についてでした。現在は,昔と比べ補聴器の性能が向上し,人工内耳も多くの子ども達が装用するようになってきました。その中で,ろう学校として聴覚補償の環境を整えること,聞こえている可能性をあきらめていないか,という話がとても印象的でした。視覚的補助手段の方法では,まずその子どもへの聴能の評価が適切にされていくことが大切であるということを知りました。さらに,子どもたちのオージオグラム値から,日常的に教室の騒音などをふまえたS/N比が+10〜15程度になるように環境設定する必要があるなど,多岐にわたり貴重な勉強の場となりました。

補聴器や人工内耳などの聴覚補償の進歩は,これからの教育についてより広く,深く考える必要があることを感じさせられました。同時に,この情報を学校に持ち帰り,よりよい聴覚補償について考えていきたいと思いました。どうもありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 


8.自立活動U(コミュニケーション)

青森県立八戸聾学校 鎌田 薫

本分科会では「生きる力をはぐくむコミュニケーションについて考える」をテーマに10件の研究発表がありました。

北海道帯広聾学校からは,聴者の教員とろう者の教員とでティームティーチングで指導を行い,手話のみの児童に対して,ろう者の教員が手話で伝える指導や個別の指導を行うことで手話の力が高まると共に学習への意欲が高まったことが報告されました。

京都府立聾学校分校からは,各自が体験したことの発表と話し合い活動について報告がありました。事前に発表順やルールを提示し,発表の仕方は,集中力を持続させるために,手話,文字,写真の順番に提示する工夫をして,生徒が活動に落ち着いて参加できるようになったことが報告されました。  愛知県立豊橋聾学校からは,年に2回自立活動で行われる「ことばの学習」を通して,確実なコミュニケーション手段の獲得により,語彙の拡充や言語理解につながること,そのためには教員の共通理解が必要であることが報告されました。

北海道旭川聾学校からは,生徒の多様なコミュニケーションに対して,手話付きスピーチを活用しており,生徒のコミュニケーション手段によって分類し,類型ごとに解決の手立てを設定していることが報告されました。

筑波大学附属聴覚特別支援学校からは,読み取りの力を伸ばすために,手話法と聴覚口話法との比較をし,手話によりコミュニケーションが豊かになることや視覚的教材と日本語でのやりとりが効果的であると報告されました。

群馬県立聾学校からは,報告,連絡,相談の練習とメモをとる練習から,スキルが向上した実践例が報告されました。

筑波技術大学からは,日韓聴覚・視覚障害の学生が,異文化やコミュニケーションの方法の難しさを学生自身が乗り越えながら,ワークショップを行った様子が紹介されました。普段は知ることがない問題について知ることができました。

東京都立大塚ろう学校(本校)からは,独自に助詞手話記号や江副文法「二列の助詞の表」を使って指導することで,生徒が助詞をスムーズに使うことができるようになったことが報告されました。

東京都立大塚ろう学校(永福分教室)からは,基本語彙の拡充のために,品詞別プリントや形容詞活用表を使って指導し,授業だけではなく,他の場面でも使っている実践例が紹介されました。

愛知県立岡崎聾学校からは,国語で学習したことを他の場面で活用するために,コラム学習段階表を使用したことによって,作文の文章表現が変容した報告がありました。

助言者の我妻敏博先生からは,聴覚障害児は言語経験が乏しいので,使い方を指導して言葉の活用を広げていくこと,手話と日本語は違う言語であり,手話で日本語を教えていく考え方をしていくこと,指導は,系統性,一貫性が大事であると助言をいただきました。

本分科会に参加した理由は,コミュニケーション能力を高めるために他校ではどんな取り組みを行っているのか知りたいと考え参加しました。語彙の拡充や文章表現を豊かにするためには,試行錯誤しながら,継続して学校全体での取り組みが重要なのだと思いました。各学校の実践例を知ることができ,その中には勤務校と似た事例もあり,今後の指導に生かしていきたいと思います。


9.進路指導・職業教育

鹿児島県立鹿児島聾学校 下大迫 睦美

本分科会では,午前中に主に進路指導に関するレポート発表2件と質疑,午後から主に職業教育に関するレポート発表3件と質疑が行われ,その後,各校の取組について情報交換が行われました。

レポート発表では,特に中学部における進路指導ということで東京都立立川ろう学校の平久先生から総合的な学習や道徳の時間での進路指導の実践報告があり,私自身,「中学部の進路指導とは何か?」を日々,模索している中での発表でしたので,大変興味深く拝聴させて頂きました。質疑応答の中でも少し話題になりましたが,中学部段階では職業に対する現実的な自己イメージが持ちにくく,しかし,高等部のように「現実」のみを伝えていくことも難しい。本校の場合もまさしくその通りの実情であり,障害認識という面からも,生徒の実態が大変厳しくなっている状況であることを感じています。また,職員間も「進路指導=3年生」という考え方が強く,該当学年以外の学年と進路指導とのつながりが希薄であることも痛感しています。そんな中で,学部全職員が共通の方向を向いて実践することが大切であるという言葉が,当たり前の言葉でありながら改めて考えさせられるものになりました。

国立特別支援教育総合研究所の原田公人氏からは,まず分科会内容の前に全日聾の参加者は毎回違うため,研究協議会の内容が積み上げられていかないのが現状であり,しっかり引き継がれていく必要があるということ,またレポートの書式についても研究テーマには研究内容が伝わるような副題が必要なこと,研究の流れ,課題や成果まであれば内容が理解しやすいことなどの助言がありました。分科会の内容では,今回の学習指導要領改訂は「進路指導・職業教育」を教育課程に根付かせるチャンスであり,キャリア教育の視点からも一貫した教育計画が大切であること,学校全職員が進路指導担当者であるという意識や姿勢が必要なことなどの話がありました。

本校の進路指導部では,今年度より一貫したキャリア教育を目指して,幼稚部から高等部までの職員を配置し,情報交換を実施しようとしています。今後は,それぞれの学部としてのキャリア教育の在り方を明確にし,一貫した指導ができるように連携を深めていきたいと考えています。また,助言の中で特に,会社の評価基準は到達度ではなく,満足度であり,社会が求める子どもの姿とは何かを考えた指導をしていかなければならないというお話がありました。教育の立場としては,「できるようになったこと」にとらわれがちであるが,実際,生徒を採用する立場からは会社で上手くやっていくために,「社会性」や「コミュニケーション面」を重要視していることを改めて感じさせられました。助言の最後に,新学習指導要領も踏まえながら,学力向上を目指した授業づくりについての説明がありました。「準じた教育=同等の≠全く同じ」であり聴覚障害に対応しながらの教育(教科の中の自立活動)や各教科の指導の工夫について,授業力の構成要素について,また,伝わることと分かること,そして考える力の構造についてなど大変興味深いものでした。その中で,子どもたちとのかかわりの中でよく見られる教師の「分かりましたか?」の質問に対して「分かった」と答える生徒。その後の「何が分かりましたか?」の質問に「先生が分かりましたか?と聞いたことが分かりました」と生徒は答える。これは「伝わること」と「分かること」の違いがよく分かる例え話でしたが,普段の授業の中で多くみられるやり取りではないだろうかと自分自身を振り返るきっかけになったと思います。

今回の研究大会は,分科会をはじめ授業研究や記念講演等,聴覚障害教育について基本的な考え方を勉強する良い機会となりました。


10.センター的機能

横浜市立ろう特別支援学校 江藤 久美子

本分科会では,「特別支援学校(聾学校)に期待されるセンター的機能について考える」をテーマに,のべ25名ほど参加し,研究協議を行いました。レポートの数こそ3本と少なめでしたが,司会・助言者の的確なアドバイスの下,北海道立特別支援教育センターの情報提供も頂き,よりじっくりと,現況を反映した話し合いができたと思います。

最初に,参加者の自己紹介がありました。センター的機能があとで述べる地域性に大きく影響されていることを考えると,それぞれの学校がどういう環境にあるのかを知ったことは相互理解や本分科会のテーマ「センター的機能とはなにか」を話し合うのに欠かせない情報交換だったと思います。

レポートは,まず最初に愛媛県立松山聾学校の佐伯秋浩先生から「『内部支援・外部支援』という視点を踏まえた取組」について報告がありました。

センター的機能を考えるとき,外部支援にのみ意識が行きがちですが,松山聾学校の場合は,外部支援=自立活動という観点から校内体制の見直しに着手し,その折にしっかりと「内部支援」という視点を置いて検討されたそうです。また,内部支援と外部支援の内容を,理解・支援計画・保護者(本人)支援の視点から整理しているので,外部支援の成果が内部に,内部支援の成果を外部支援に生かすなど,内外部ともに相乗効果が発揮できる点も参考になると思いました。

次に,名古屋聾学校の高梨康弘先生から「巡回相談における『いいところ』応援計画」が報告されました。時にユーモアを交えながらの高梨先生のお話を楽しく拝聴した中で「特別支援学校の先生方は,その子のいいところを見つけてそれを教育に反映させてきた。一般学校の先生方には残念ながらそういう視点が少ない。まず,この視点を学んでもらうだけで大きな支援になる」という言葉が心に残りました。エスティーム(自尊心,自己肯定感)という言葉とともに新しい視点からの提言をいただいたように思いました。

また,このレポートから特別支援学校に期待されている外部支援のあり方が,県によって大きく違うことが取り上げられました。レポートのような,特別支援学校を地域で割り当て,その地域内の学校からの支援要請には障害種の別なく対応する方式を取っている県が愛知・青森・福井・北海道など複数の県になることが分かりました。また,相談件数の多くは発達障害に関することだとの報告もあり,こういった専門外の相談に対応するため,予備知識の収集獲得など巡回指導の先生方がご苦労されている報告がありました。

いまや聾学校も,聾学校としてではなく,特別支援学校として幅広い専門性とそのリーダー性を期待されているのかもしれません。このレポートの後報告された北海道立特別支援教育センターの四木定宏先生の話にもありましたが,「聴覚障害教育の専門性(これも異動制度によって難しくなっている)向上と多様な障害種に対応できる教員の専門性の確保」が,これからの聾学校のセンター的機能の課題としてクローズアップされてくるのでしょうか。

最後は,茨城県立水戸聾学校の瀧口励子先生から「在籍校と共同で作る理解啓発授業」が報告されました。「まだ研究途中での報告なので」と前置きがありましたが,在籍校との積極的な関わりが着実に実を結んでいるのを感じました。特に,このレポートから理解啓発研修の重要さを改めて学びました。

本分科会は,鳥越隆士先生,小田候朗先生がフロア参加していらっしゃるなど,助言者に恵まれた分科会でした。お二方のご示唆に富んだ助言をいただいた後,本来の助言者,三浦先生がまとめてくださいました。センター的機能という今後の特別支援学校の大きな柱となる教育活動について充実した研修となりました。


11.総合的諸問題

青森県立青森聾学校 木村 禎子

本分科会では,助言者に国立特別支援教育総合研究所の藤本裕人先生をお迎えして「聴覚障害教育における諸問題について総合的に考える」のテーマの下,9件の研究発表が行われました。

聴覚障害教育の専門性の継承と発展が課題とされている中,聴覚障害教育を取り巻く状況は大きく変化し,その教育的ニーズも多様化してきており,聴覚障害教育に携わる我々教員には,これまで以上に幅広い専門性が求められています。

宮城県立聴覚支援学校の山路祐太先生からは,聴覚障害教育の専門性を高めるための校内研修の在り方についての発表がありました。新たに月に一度,自立活動研修日を設定し,「発音指導」「聴覚活用」「日本語指導」等,聴覚障害教育の専門性を高めるための研修を行うとともに,電子データを活用して指導内容や教材を蓄積し,共有できるようにして,日々の実践につなげている。大変意義のあるものでした。また,北海道高等聾学校の工藤三重子先生からは,生徒の状況に応じた情報保障を実施し,それらの実践をまとめたリーフレットを作成して卒業後の進学や就職につなげるコミュニケーション委員会の取り組みについての発表がなされました。

愛知県立一宮聾学校の内田元士先生からは,聴覚障害教育における交流及び共同学習の実践についての発表があり,今回の学習指導要領の改訂を受けて校内に交流及び共同学習推進委員会を設置し,これまでの自校の交流教育を整理し,共生社会を目指す実践について報告されました。

横浜市立ろう特別支援学校の鈴木安藝子先生と中重まゆみ先生からは,横浜市における重度聴覚障害児に対する教育・療育・医療の連携についての報告がありました。新生時スクリーニングによる超早期発見,人工内耳装用児の増加に伴い,他機関との連携がより一層求められている今日,この連携の大きな意義とその必要性を強く感じさせられました。

岐阜県立岐阜聾学校の小川征利先生からは,聴覚に障害のある児童生徒の神経心理学検査(視覚的教示を用いたWISC-V)の実施とその解釈についての発表がなされました。

北海道釧路聾学校の梅原友美先生からは,幼稚部から中学部までの幼児児童生徒数が6名である少規模校における学習意欲を高めるための授業形態を工夫した取り組みについての発表がなされました。

大阪府立堺聴覚支援学校の河合りえ先生からは,在籍数が減少している現状を改善すべく,保護者のニーズを捉え,分かる授業を展開して「学年対応の授業」を進めていくことで,生徒数減少に歯止めをかけるとする熱意あふれる発表がなされました。

筑波技術大学の後藤豊先生からは,石川県立ろう学校の校内助詞検定を基にインターネットを活用した「Web助詞検定」について紹介していただきました。インターネットでの活用が可能になれば,多くの聾学校での活用が期待されると思われます。また,同大学の本間巌先生からは,抽象表現を多用する造形教育におけるイメージ伝達手段としての造形用語に関する研究についての発表がなされ,大学生レベル(プロを養成するため)での言語指導,抽象概念の理解等について触れることができました。

助言者の藤本先生からは,言語指導法を校内研修に盛り込むことやベテランの知見を若手に継承できるようなシステム作りの構築,リーフレットによる聴覚障害児の理解・啓発の必要性,人工内耳を中核にした教育・療育・医療のネットワーク作り,聴覚障害児の能力を見まちがうことなく評価するゥ検査の方法やそれを生かした授業方法の構築等,聴覚障害教育に関する多岐にわたる諸問題についてご教示していただきました。


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