山形大会 研究協議会

 

 

1.変化に対応する聾学校の在り方

愛知県立千種聾学校 山路 栄

本分科会では,一日目に10件の発表があり,午前に4件,午後に休憩をはさんで3件ずつ6件,テーマのまとまりで協議が進められました。

午後の前半までを含めた7件の発表では,通級指導を中心とする聾学校のセンター的役割に関する話題が取り上げられ,各校の取組に対して活発な質疑応答が交わされました。広域に1校しか聾学校がなく,県内の聴覚障害のある子どもたちへの対応をサテライト教室の形で実現している事例は,多くの学校に共通する問題を含んでおり,「どこが主体になって取り組むか」「どのように連携を深めていくか」など話題が広がっていきました。

また,話し合いが進むうちに,聴覚障害のある子どもが地域で正しく理解されていない現状が明らかになってきました。特に,地域の学校に在籍する児童生徒は,一見すると何も問題なく学級に溶け込んでいるように思われがちで,当事者の訴えがなければ事態が動かないという現実は,支援を進めていく上で,大きな落とし穴になっていることが改めて確認されました。このような状況を打破するため,依頼がなくても学校を訪問する取組を行っている学校の事例では,難聴の疑似体験などによって「聞こえていると思っていた」という認識の誤りに気づき,音のon/offの弁別とことばの理解が一致しないことを確認してもらうことができたそうです。その結果,子どもの実態を正しく認識してもらうことができ,周囲の理解が得られ,努力が功を奏したという報告がされました。

巡回指導を行っている学校の報告では,授業参観などの機会に活動の様子を見て,指導者の「指示」に反応して行動したと思われていたケースを「周囲の子どもの動きを見て合わせている状況であること」と指摘し,対応の見直しを助言するなど,専門機関としての役割を果たしていることが紹介されました。

さらに,重複障害のある児童生徒への対応については,それぞれの障害種に応じた関係機関が集まるケース会議を実施し,所属先での活動の支援を基本として,関係機関が協力し,必要な支援が受けられる環境作りについての実践報告が参考になりました。 別の課題では,高等学校に在籍する生徒への支援の問題も報告されました。義務教育を終えて,通級制度の適用を受けられずに高等学校に在籍している生徒に対し,「中退させない」「進路を確保する」という目標で支援しているというものです。対象の生徒は他の発表で紹介された「スポーツで活躍して,その報道でスポットライトが当たった生徒」で,一方で心のケアが不十分なまま育ち,人格形成の手助けをすべき時期に人格が崩壊するような危機に直面している現実が報告され,聾学校の教員がどのように生徒とかかわるべきか,重い課題を投げかけられました。

二日目はショートレクチャーに続いて,小グループに分かれた学校コンサルテーションの実践に取り組みました。「ことばを増やしたい」「やりとりを広げたい」というねらいで2歳児を指導する場面をビデオで視聴した後,コンサルティ(教師)がクライエント(幼児)に対して何をどのように工夫すると良いのか,熱のこもった話し合いが進められました。講師から,「コンサルタント(支援者)はコンサルティを指導するのではない」と注意を受け,教師の気づきを支援するという意図を自覚していたにもかかわらず,職業柄,つい「指導」してしまう自分たちに気づかされる場面もありました。改めて一人一人の教師を人的資源として育てていくことの難しさを体験するよい機会になりました。


2.確かな学力

宮崎県立延岡ととろ聴覚支援学校 福田 真弓

本分科会は,「聴覚障がいのある子どもたちに基礎的・基本的な知識技能を確実に身につけ,自ら学び自ら考える力を育むための『わかる授業』とは」をテーマに,14件のレポートの発表がありました。1件あたり発表と質疑で15分ということもあり話題を深めることは難しかったかもしれませんが,参加者にとってはたくさんの情報を得ることができました。

はじめは「学習意欲を高める指導の手だて」について,3件の発表・協議がありました。立川校からは視覚的教材を活用し,経験を積むことで楽しさを味わうことができるようになった音楽の実践報告,岡崎校は歴史的人物について生活に密着した話題から興味関心を引き出した社会科の実践,豊橋校からは修学旅行を題材にした世界史の授業の取り組みの報告がありました。「別に知らなくても困らない」という子どもにどう意欲を高めさせるかが話題になりました。

次は,「教材の工夫と指導法」について,4件の発表・協議がありました。リライト教材を使うことについての生野校からの考察,一宮校からは高等部の国語科での取り組みの実例,宮城校からは英語科で学び方を丁寧に指導し基礎学力を高めた事例,生徒の実態を客観的な検査で理解し,実践を工夫した群馬校の研究の報告がありました。リライト教材のことは初めてきいたのですが,十分目的を考えて活用を検討すべきものだと感じました。しかし,学年相応の教材を使いたいという思いは他教科にも通ずるのではないでしょうか。

「日本手話を活用した授業」について,札幌校では日本手話の研修をすすめ学習指導案などに活かした授業実践がされているという報告でした。日本手話について個々の職員の努力だけでは技術を高めることは難しいと思うので,学校での研修の機会の必要性を感じました。生徒や保護者の多様なニーズに応えるというのはたいへんですが,専門性を高めることで魅力的な学校づくりにつながる参考となる取り組みでした。

「ICTの活用」については3件の先進的な事例が報告されました。中央校の電子黒板(PDP)を利用した授業の工夫,名古屋校のe-黒板の活用事例,アニメーション作成で表現力を高めた筑波校の実践について,地域によって現実にこのような機器が活用されるようになったのかという印象を受けました。教材の提示にはとても便利ですが,文字・手話・口話が一度に見られると理解も深まるという生徒の感想もあり,学習したことを確認させるためには書くことも大切だということも指導者は実感しているようでした。

次は「職業科における学力向上のための教材の工夫」では,商業系の授業で比の考え方を利用した葛飾校の実践,名古屋校ではコンピュータ上のデザインを実際の作品とすることで積極的な学習への取り組みが見られるようになった事例,図面を立体モデルにすることで改善点に自分から気づかせる筑波技術大学の実践の3件が報告されました。今学んでいることが実際の職場等でこのように生かされるという具体的な事例が紹介されました。また,印刷で立体的なモデルを作ることができるというモデル造形機の存在に驚きました。

レポート発表の後,指導助言者の総括があり,二日目は助言者による講演「確かな学力の向上のための手だてについて」が行われました。これまでの学力観の変遷,新しい学力観は「習得・活用・探求」がキーワードであること,学校力・教師力とはなどという視点でご示唆をいただきました。最後に「意識だけではなく実践すること。それが先生の充実感につながり,子どもが育っていく。」という助言者の言葉のように私たちもこの研究大会に参加して学んだことを実践にさっそく生かしていくことが大切だと思います。


3.豊かな人間性

筑波大学附属聴覚特別支援学校 加藤 真弓

本分科会は「聴覚障がいのある子どもたちが豊かな人間性を身につけ,地域や職場など様々なかかわり合いの中で共に生きていく力を育むための教育の在り方とは」をテーマのもと助言者の佐藤紘昭先生に助言をいただきながら行われました。

参加者は学校教職員や寄宿舎指導員などで,いろいろな視点からの幅広い内容の協議が交わされました。

一日目は11件の発表がありました。寄宿舎指導の実践,学校指導の実践と大きく2つに分けて行われました。

寄宿舎指導の実践では秋田県立聾学校から学習・入浴・余暇時間の自己選択制を導入したことにより,主体的な生活を送る様子が見られたと報告がされました。本校も自主活動時間として舎生自身が計画を立てて生活していますが,近年は自主活動時間を自由時間と間違えて捉えている舎生もおり,課題となっている部分なので興味深く参考になる内容でした。大阪校からはその子に合ったコミュニケーション方法を探り,自分の思いを伝え,他者の思いに気づくことの楽しさの報告がされ,岡崎校からは舎生会活動を通して自分の思いをことばで伝える力を育むことの報告がされ,大宮ろう学園からはA君に関わった事例をもとに長いスタンスでコミュニケーション力を向上させる報告がされました。佐藤先生より選択的状況を常に作るこが自己表現・自己責任へとつながる。またそれを家庭生活や学校生活,社会生活の中でどう生かされていくかが大切だと助言いただきました。

学校指導の実践では岐阜校から発達障害を併せ有する児童へ特性に応じた的確な支援の報告がされ,福島校からは障害認識を踏まえて教員が児童に関わることの大切さの報告がされ,岡崎校からは読書指導を通して心豊かな生涯学習者を育てることの報告がされ,一宮校からは学校生活に根ざした食育の在り方と実践の報告がされ,筑波大附属校から卒展を通して社会人になる上での自信と行動の規範を学ぶ報告がされ,鹿児島校からは卒業後の追指導,就労支援の在り方の検討が報告され,茅ヶ崎リハビリテーション専門学校からは同僚聴覚障害者とのコミュニケーションについての報告がされました。

二日目はさらに発表内容を深めるためにディスカッションが行われました。その中で印象深かった点は,教員側がしっかり伝えているか,伝えたつもりになっていないかと意見でした。分かりやすいように話をしているか,伝えたつもりになっていないかと,私自身反省するところがあり,コミュニケーションについてより深く考えていかなくてはと感じました。

最後に佐藤先生より今まで培われてきた聴覚障害教育の専門性を継承し,それを見直し,今後の指導へと生かしてほしいと助言いただきました。

社会の中で,聴覚障害のある子どもたちが自己を肯定的に受け止め,自立して豊かに生きていくために必要な教育はどうあるべきかを学ばせていただきました。また,多くの職種の先生方が参加されたように,豊かな人間性を育むためには,家庭・学校・寄宿舎の連携が欠かせないものだと再認識させていただいた本分科会でした。今後の指導,支援に生かしていきたいと思います。ありがとうございました。


4.いのちの教育と健康・体力

富山県立富山ろう学校 山田 弘美

本分科会では,「聴覚障がいのある子どもたちが『いのち』を大切にし,生涯にわたって『明るく豊かで活力ある生活』を営むための教育の在り方とは」をテーマに4校から報告がありました。

はじめに,「性に関する教育の系統的な指導のあり方〜異性に対するマナーの向上をめざして〜」の実践報告が青森県立八戸聾学校,角田真紀子先生からありました。性に関する指導内容表や全体計画を幼稚部から作成し指導者間の共通理解や指導に対する意識の向上を図っておられました。「性=生」ととらえると一生の問題であり,1本の指導の方向性を校内で確立することが重要であると助言していただきました。

2件目の報告は,山形県立山形聾学校,冨樫美紀子先生の「生きる力の基礎となるメンタルヘルスの支援〜校内組織の見直しや支援のあり方の検討〜」でした。聾学校の子どもたちのほとんどは,幼稚部から入学し高等部まで在籍しているため,子どもたちの関わり合いの範囲が狭く,考え方を広げることが難しいと感じられます。子どもたちのストレスの原因のひとつと思われる関わり合いの狭さや,情報の把握不足から生じる誤解を学校全体の問題ととらえ「校内委員会」で検討し,実践された報告でした。本校でも,子どもたちに同様の傾向が見られるので,興味深く聞かせていただきました。

3件目は,群馬県立聾学校,加藤有香先生から「生きる力を育む健康教育の推進〜幼小中高の連携を基礎とした『継続的・組織的な取り組み』~」の報告でした。特に口腔衛生に関わる指導に重点をおいて取り組んでおられました。継続的・組織的に発達段階に応じた具体的支援を積み重ね,成果を出していくことの大切さを確認しました。

最後は,愛知県立豊橋聾学校,石川敬子先生から「生徒が主役になる『心肺蘇生法・AED』の取り組み」の報告でした。実際の場面で高い救命意識と正確な技術を身につけさせるために,生徒がインストラクターになり,他の生徒に心肺蘇生法やAEDの指導を行った取り組みです。自分が人に教えるためには,自分自身が勉強しなければなりません。子どもを信頼し,準備期間をきちんと設けた画期的な実践だと思いました。

実践報告全体を通して,国立大学法人筑波技術大学教授及川力先生から,聾教育の利点は (1)発達段階に応じ,発展的な指導ができること (2)指導方法や情報を共有できること (3)一貫した方向性で指導できること (4)障がい理解の共通基盤が学校にあること であると教えていただきました。また,健康教育は学校全体で取り組まなければ効果があがりません。評価が点数化できないので,3〜5年のスパンで,点検・評価が必要になってきます。可能であれば外部の専門家に入ってもらって助言してもらうことも大切であると指導していただきました。

本分科会は,残念ながら参加者の少ない分科会でしたが活発に意見や質問が出されました。また,及川力先生の具体的な助言で協議を深めることができました。全国各地の聾学校の実践報告を聞き,意見交換できたことはとても貴重な体験でした。今後の教育実践に,是非生かしていきたいと思います。

分科会を運営してくださった先生方,参加された先生方に感謝いたします。


5.早期教育・幼児教育

大阪府立堺聴覚支援学校 和田 真由子

本分科会では,「乳幼児が周囲の人や環境との豊かなかかわりをもち,生き生きと活動するための教育の在り方」をテーマに研究協議を行いました。山形聾学校の公開授業やレポート発表など充実した内容でした。

まず,山形聾学校から「心を揺さぶる授業づくり」をテーマに授業研究が行われました。公開授業では,「朝の会」と,「縁日遊び」の場面を参観させて頂きました。「縁日遊び」では,子どもたちが3つのお店を開きました。かばん屋さんでは,お客さんの好きな色や形を聞いて,かばんを作っていました。先生からの注文に頭を悩ませ,友だちに相談している姿も見られました。クレープ屋さんでは,生地を混ぜたり,焼いたりと楽しそうに作っていました。やきとり屋さんでは,串に肉を刺して焼き色をつけてと,本物を作っているみたいでした。やきとりをたくさん作り,熱心に呼び込みをしている子どももいました。子どもたちがいろいろと考えながら作っている姿や,やりとりしている様子が見られて良かったです。しばらくすると,先生による新しいお店が開かれました。準備が始まると,子どもたちが集まり行列ができました。そのため,他のお店にはお客さんがいない状態になってしまいました。それでも呼び込みを続けたり,かばんを作ったりしている子どももいましたが,子どもたちの興味は新しいお店に向いたままでした。後の協議会では,この新しいお店についての話が出ました。新しいお店が出たことで,流れが変わってしまったのではないか,他のお店をもっと盛り上げた方が良かったのではないかという意見がありました。そして,新しいことをするよりも,じっくりと深め,盛り上げることができるような教師の関わりが必要なのではないかという話になりました。各クラスでの事前と事後での取り扱い方を工夫することで,子どもたちの気持ちを盛り上げることができるという意見も出ました。子どもたちの様子に合わせた授業の展開や,子どもの気持ちを揺さぶることができるような働きかけを考えていきたいと思いました。

レポート発表では,T.指導方法,U.言語発達,V.遊び・環境・幼児の生活,W.早期教育・乳幼児相談・新スクの4つのテーマを柱に,協議が行われました。各学校が抱えている課題や考えに触れ,自分の保育や考えを見つめ直す良い機会を得ることができました。話題は,遊びの題材設定や子ども同士の関わり,指導者の働きかけ,遊びの展開と発展などについてのことが中心となりました。

遊びを充実させるためには,十分な時間の確保と環境の設定が大切だという意見がありました。時間をかけて遊びを深め,やりとりを重ねることで,子どもが自分で気づき,考え,行動する力が育つと思います。また,子どもが意欲的に自分から関われるような題材や環境の設定が必要だという話も出ました。子どもの興味や関心を把握し,子どもたちが共通して分かり,楽しめる題材を選ぶことが必要だと改めて思いました。そして,子どもの実態を把握し,適切な環境や題材を設定し,指導を振り返ったりするためには,授業研究が重要だという話になりました。VTRで記録しておくと,自分の指導を振り返り,子どもの言動を確認することが容易になります。また,複数人で分析することで,異なった視点から考えることができ,教師間での共通理解にも繋がります。研究授業だけでなく,日々の保育について話し合いを重ねることが,専門性の継承と発展に結びつくのではないかと思います。

貴重な話をたくさん聞かせて頂き,ありがとうございました。


6.自立活動 I (言語)

愛知県立岡崎聾学校 内藤 進

本分科会では,助言者に上越教育大学教授の我妻敏博先生をお迎えして,「主体的に思考し,意思を的確に伝えるための豊かな言語力,コミュニケーションの力を身につけるための教育の在り方とは」をテーマに10件の実践事例研究が発表されました。

青森県立青森聾学校からは「授業反省シート」を用いて授業実践の中で起こる諸問題を分析して探求し,問題解決を図っていく研究方法(アクションリサーチ)についての発表があり,「授業反省シート」の活用が授業改善に有効であったことが報告されました。

三重県立聾学校からは手話でのやりとりは活発になったが,書きことばとしての日本語が依然身につかないことに問題意識をもち,動詞や形容詞,形容動詞の活用に関する指導進めることで,自ら書き進める力の向上を図れた実践例の報告がありました。

筑波大学附属聴覚特別支援学校からは2件の発表がありました。

1つ目は,生活の中でよく使われる言い回しの指導として,学習した言い回しを子どもが即時体感しながら学習できる教材として「天気予報」を使った言語指導と感性の教育について実践報告がありました。

2つ目は,卒業生に発音学習のニーズが生じていることに対応し,パソコンソフト「発音指導プログラム」が役に立つのか,その手前としてソフト内の教材等が分かりやすいものなのかをアンケート調査し,結果を考察する取り組みが発表されました。

島根県立松江ろう学校からは子ども同士の人間関係を基盤にした話し合い活動の実践が発表されました。子どもの人数が少ない状況に対応する工夫として,週1時間の全学年合同自立活動(話し合いの場)を設定して指導し,継続する中で子ども同士の会話の内容に広がりがみられたという報告がありました。

日本聾話学校からは教師が子どもと共感し合い深め合う個別インタラクション(対話)の実践が発表されました。指導場面のVTRを教員間で共同分析し,強化する面等を検討しながら実践を積み重ねた結果,子どものことばの成長につながったと報告されました。

青森県立弘前聾学校からはJ.COSSや言語発達遅滞検査等で子どもの助詞に関する実態把握をし,助詞・構文プログラムカードや助詞記号カードを使用した実践の発表がありました。カードで効果的に学習が進められ,学習意欲にもつながったと報告されました。

東京都立大塚ろう学校からは日本語文法指導の研究・実践の中から動詞や助詞,構文の指導方法や視聴覚教材の発表がありました。独自に「助詞記号」を考案し,格助詞を中心に指導を重ねた結果,助詞テストで一部の助詞の成績が向上したと報告されました。

新潟県立長岡聾学校からは,言語指導について職員の共通理解を図る必要性,すぐ指導に使える教材等の必要性が報告され,指導すべき内容や時期,指導方法,評価方法,指導の結果等から検討して実際に使える全体計画を作る取り組みの発表がありました。筑波技術大学からは韓国で高い評価を得ている電子図書の聴覚障害者版を制作し,どのように活かすことができるのかについての研究発表がありました。日本手話や日本語対応手話,聴覚口話等幅広くコミュニケーションモードに対応した作品の紹介もありました。

どの学校も日本語力向上についての発表でしたが,研究協議ではその中でも指導が難しい「助詞」が取り上げられました。我妻敏博先生から助詞は単発的に教えるのではなく単語とセットで,また文の中で意味をのせて教えることの重要性をご教授いただきました。

日本語の指導にはどの学校も悩みをもち,試行錯誤している様子がうかがえました。本分科会では今後の実践のヒントとなる内容がたくさんありました。この情報を学校に持ち帰り,今後の実践に活かしたいと思います。ありがとうございました。


7.自立活動 II (聴覚)

北海道高等聾学校 桑原 一哲

本分科会では「補聴機器や情報機器を効果的に活用し,主体的に情報を獲得し,生かす力を育てるための教育の在り方とは」をテーマに4件のレポート発表がありました。

はじめは千葉県立千葉聾学校の「児童生徒の聴覚活用を促すための学級担任との連携のあり方を探る〜児童生徒が主体的に取り組む聴覚学習の試み〜」という報告でした。全幼児児童生徒の聴力測定に関わっている担当者が,学級担任と連携して聴力測定や買い替えの際の補聴器も選定・調整を進めたことで,児童の音への反応がよくなったという事例などが紹介されました。担当者が抱え込むのではなく,学校全体を巻き込んだ取り組みは,校内の人材育成にもつながる大切なものであると感じました。

2件目は筑波大学聴覚特別支援学校の「小学部の人工内耳装用児の分音節の発音技能」という報告で,同校でこれまで補聴器装用児(以下HA児)を対象に取り組んできた発音技能を,人工内耳装用児(以下CI児)のそれと比較検討するという内容のものでした。人工内耳は補聴器に比べ高音部の聴き取りがよいとされていますが,多くの子音においてCI児の正発率がHA児のそれを上回っていることや,CI児の発話音声がHA児と比較してより自然な印象を持つことなどが報告されました。また,これまで聾学校が蓄積してきた,聴覚を含めた多感覚を活用した発音・発語の指導法がCI児においても有効であるという実践の報告でもありました。

3件目は京都府立聾学校の「軽度難聴例への補聴器装用の検討〜京都府聴覚支援センターの活動について〜」という報告でした。調査の対象となった91例の中には補聴不要例も多く含まれていたとのことでしたが,聴こえに困難や不安を持っている人々に対する支援の門戸が,より広くなったということの表れでもあるのだろうと思います。現在でも多くの聾学校が地域の聴覚支援センターとしての役割を担っていると思いますが,京都府の実践はそのモデルとなるものでしょう。

最後は山形県立山形聾学校の「聾学校教室内の音声共有システムの開発」という報告で,先日の指定授業で公開された,椅子脚スイッチを使った児童生徒の相互補聴が可能なシステムの開発についての発表でした。発言のために立ち上がることでマイクのスイッチが入り,その音声を教室内の児童全員が共有できる(座っている児童のマイクのスイッチは切られているため余計な雑音が入ることがない)というシステムは一見単純なようで,とてもよく考えられたものだと思います。また,きちんと立って発言する,発言する人をきちんと見るというような授業に臨む姿勢もしっかりと育てられており,聾学校の授業の基本を改めて確認できた発表でもありました。

二日目は助言者の秋田大学教授,武田篤先生の「人工内耳の仕組みとリハビリテーション」のミニ講演が行われ,武田先生の病院勤務当時の人工内耳装用児へのリハビリテーションの様子等を紹介いただきました。聾学校での人工内耳のマッピングは現実的ではありませんが,その仕組みをおさえた上で,学校での指導・支援に当たることは,私たちにとって必要な専門性の一つだと思います。人工内耳が普及し始めた当時,実際にその業務を担当されていた先生のお話を聞かせていただく貴重な機会でした。

司会として,運営する側で参加した分科会でしたが,いろいろなことを吸収することができた二日間でした。助言をいただいた武田先生をはじめ,発表いただいた先生方,協議を盛り上げていただいた参加者の皆様に感謝申し上げます。


8.重複障がい教育

静岡県立浜松聴覚特別支援学校 小坂 美紀

本分科会では「社会と交流しながら充実した生活を送るための,障がいの状況や特性に応じた教育のあり方」を研究テーマにして,(1)アンケート結果「重複障がい学級の現状と課題」の報告,(2)7校からのレポート発表,(3)秋田県こども総合支援エリア構想についての報告が行われました。

全国のろう学校で学ぶ重複障がいの子ども達の実態や教育環境,担当教師の悩みなどを情報交換したくてこの分科会に参加したので,アンケート結果の報告は大変貴重な資料を得ることができました。

レポート発表では,「マナー・ルールの獲得に向けて」「聴覚障がいと知的障がいを併せ有する自閉症児のコミュニケーションについて」「伝え合いのしやすい環境づくりの工夫について」「知的障がいを伴う聴覚障害児童生徒の『かかわりを深めるために』」「中学部・高等部と部間で一貫した進路指導−作業学習を通して−」「児童の多様な教育的ニーズに対応するための自立活動の取り組み」「聴覚障がいに併せて知的発達の遅れ・左半身マヒがある生徒への進路指導の工夫〜高等部進学に向けた支援〜」と多岐にわたる発表がありました。

どの発表も,個々の実態に応じて工夫した取り組みから,先生たちの熱い思いが伝わってきました。中でも,東京都立葛飾ろう学校マナー委員会による劇を取り入れた指導は,大切なことを楽しく,そして絵を見たり行動したりしながらわかりやく学習が進められており,さっそく参考にしたいと思いました。また,山形県立酒田聾学校からは,PECS(絵カード交換式コミュニケーション・システム)を取り入れ児童からの気持ちの表現が広がってきたという事例が紹介されました。担任だけでなく教師間で共通理解して支援しやすいこと,必要なカードを増やしながらコミュニケーションの幅を広げていけること,保護者と連携し家庭でも活用しやすいこと,身振り表も作成して定期的に見直しをしていることなどから,支援方法としても,引継ぎ資料としても活用できるよい方法だと思いました。大分県立聾学校の情報量,提示の仕方を工夫した進路指導の実践は,担当教師の誕生から就労までの進路を物語化して生徒の進路と対応させた興味深い取り組みでした。見通しを持たせたり,考えさせたりするための工夫,さらに,生徒の将来の生活をイメージしながら進めた保護者への情報提供への配慮もとても参考になりました。

新しい取り組みとして秋田県立聾学校長,宮澤先生から紹介された「秋田県こども総合支援エリア構想」の取り組みからは,強い情熱とリーダーシップの中で進められてきたことがひしひしと伝わってきました。盲・聾・肢体の特別支援学校のそれぞれの専門性を活かしながら,学校間連携による総合支援を進めることや,隣接総合病院の医療との連携による教育の充実,開放型施設による障害者の生涯学習の推進,職業教育の振興と様々な教育効果が期待されています。その画期的な取り組みの過程で,聾学校の専門性とは何かを絶えず問い返しながら進められてきたことがよくわかりました。本取り組みにおける来年度から始まる新しい学校の実践に注目し,その成果を是非お聞きしたいと思います。

本分科会に参加して,先生方の力強い取り組みにふれ,たくさんのパワーを充電させていただいた気がします。併せ持つ障害に対する専門性,教師間の連携,保護者への支援などなど多くの課題を意識しながら,日々の実践を積み重ねていきたいと思いました。