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わたし、生きるからね
―重度障がいとガンを超えて―

小山内 美智子 著
 

A5判 260ページ

税込価格 1,800円 岩波書店

 この本の著者は、障がい者自立生活センター札幌いちご会の会長で、社会福祉法人アンビシャス施設長をされています。ご自身が脳性麻痺であり、2008年に悪性リンパ腫と診断され、約半年間の入院生活の後、施設長の仕事に復帰されました。

 この本を書いた理由について、著者は、次のように述べています。

 『わたしは、小さいときから脳性麻痺による重度の障がいとずっと闘い続けてきた。これからは前向きにリンパ癌と闘っていくことになる。くじけることなく、人間らしく生きたい。そのためにこそ、自分が日々経験することや、自分の思いを言葉で表現していきたいと思った。』(2ページ)

 このように、看護を受ける立場から、障がいのある人の看護について感じたことが書かれています。

看護は協力し合って築くもの

 この本には、著者がこれまでに経験してきた色々なエピソードが紹介されています。例えば、ケアの仕方は看護師よりもボランティアやヘルパーの方がうまいと感じる理由を次のように述べています。

 『プロの看護師は患者に注文を聞かない。これでよいかということに疑問を持たない。だから上達しないのである。大学で習ってきたことが、全てだと思っている人も多いような気がする。しかし、どんな仕事でも現場が最高の教育なのである。そして、患者の苦しみや痛みを聞き、どうしたら少しでも和らげることができるのかを共に考えることが、真の看護だと思う。看護やケアはしてあげるのではない。お互いアイディアを出し合い、協力し合って築いていくものである。』(162ページ)

 このように、看護の在り方について率直な指摘がなされています。

意欲的になった契機

 著者は、生きることに意欲的になった契機となった出来事について、次のように書いています。

 『わたしが16歳のとき、白黒テレビで足であかちゃんを抱き、ミルクをあげている人の姿を見た。わたしは驚いた。わたしは、手も足も不自由なので恋することなどできないし、結婚なんて絶対に無理だと思っていた。子供を産むことなんて月に行くより難しいことと思っていた。でも全くわたしと同じ障がいの人が足でミルクをやり、おしめを取り替えて笑っている姿を見て、涙が止まらなくなった。わたしは「よし!わたしも恋をするぞ!結婚もするぞ!子供も産むぞ!何があっても女性のやることはみんなやる」と心に誓った。その日からわたしは生きることに意欲的になれたと思う。』(206ページ)

 そして、私は、次の記述にとても感銘を受けました。

 『障がいがあろうとなかろうと、皆いつか死んでいく。息を引き取ったとき、泣かないで「よく生きたね」と静かに拍手をしたいものである。人は精一杯生きている。泣いても仕方ないが、生きていてよかったねと拍手するのは素敵である。わたしも息子にそうしてもらいたいな。』(217ページ)

 この本は、主に、看護についての著者の考えが書かれていますが、教育についても参考となる示唆が多く含まれています。医療・福祉関係者はもちろん、教育に携わる方々にも、ぜひ読んでいただきたい書籍です。

(植草学園大学教授 渡邉 章)