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新・手の使い方の指導 −自作教材・訓練具を中心に−

手の使い方指導研究会編 
 
B5判 240ページ  4,000円 かもがわ出版

 本書は、 一九八一年に出された 「障害児のための手の使い方の指導」 の改訂版として出版されたものです。今年は養護学校の学習指導要領が改訂され、 「養護・訓練」 が 「自立活動」 という名称になり、 養護学校の子どもの重度重複化、 多様化に応えるため個別の指導計画を作成することが明記されました。このような流れの中で、 障害を持つ子どもたちを目の前にして、「どのように指導していったらよいのか。」 「何をどう基本に考え、 どのように個々の子どものねらいを設定し、 具体的に指導していったらよいのか。」 を考える際、 非常に参考になる文献です。単なるノウハウものではなく、 理論も詳しく書かれており、 理論を背景とした合理的で具体的な指導が書かれている良書です。障害児の 「訓練」 の新しい方向を示唆しているように感じました。障害児教育を行う上で、 人間 の発達を知ることや、 脳や運動・感覚機能のメガニズムを知ることはとても大切なことです。それらを知った上で指導プログラムを立てることが必要になってきます。ところが、 運動や感覚機能の発達やメカニズムについては、 リハビリテーションの分野に相当することが多く、 教員養成時に学習する機会が少ない現状ですから、 養護学校の教員になってから研修することが必要になってきます。

 養護学校において、 その子どもの課題を設定するとき、 手の発達の順番や機能のメカニズムについての理解がないと、 子どもの実態からはかけ離れた課題を設定してしまい、 過度な努力を子どもに強いる結果になってしまうことがあります。運動機能を育てるためには感覚機能を育てることが必要不可欠なことです。また、 運動機能の発達の順序を知っていると、 そこに至る細かなステップを設定して無理なく合理的な指導が可能になってきます。

 肢体不自由児を見ていると、 できない運動・動作のことが前面に見えてきてしまいますが、 運動機能の発達には感覚が大きく関与していることを見落としがちになってしまいます。また、 指導法を学ぶと、 手技手法にとらわれがちなのですが、 本書は子どもの全体像を見た上で指導計画を立てること、 子どものより主体的な生活をめざすことなど、 基本的な視点も提示しています。

 指導の実際については、 粗大運動、 微細運動、 応用動作、 日常生活動作、 書写、 重度重複障害児の指導などに関して、 ねらいの設定の仕方、 教材教具の紹介、 具体的な使い方や指導法、 指導事例の紹介など具体的にわかりやすく紹介しています。また、 ハイテク機器の紹介もされています。大阪府立堺養護学校と大阪市立工芸高校との交流教育の紹介もされていて、 興味深い内容になっています。

東京都立江戸川養護学校教諭  阿部 晴美