日本肢体不自由教育研究会
 

肢体不自由教育 No.206

各教科の授業の質を高める

 小・中学校等の各教科に準ずる教育課程の指導では、障害に起因する学習困難への支援についての悩みが聞かれます。本号は、こうした教員の一助になればと思い企画しました。

 渡邉章先生の論説では、特別支援学校等の学習指導要領がどう変わったのかを中心に、国語と算数について解説していただきました。江田裕介先生の論説では、障害の特性、表現力の向上、集団での学習指導の進め方という視点から、指導のヒントを書いていただきました。

 実践報告では、認知特性を捉えた指導、子供の表現力の高まりをねらった指導、評価基準の設定の仕方、筆記に困難のある子供たちへの算数指導の工夫などについて書いていただきました。

 小・中・高等学校の各教科の指導内容を、子供たちの障害の特性に合わせて分かるように教えることができる、これも特別支援学校における教師の専門性の一つだと改めて思いました。

(尾普@美惠子)

 

・写真
舞台発表の練習
 
 
・巻頭言
困っている子に寄り添う授業を目指して
中島 繁雄
京都市教育委員会指導部 総合育成支援課専門主事

・論説
新学習指導要領における国語・算数の改訂のねらいと肢体不自由児の指導
渡邉 章
植草学園大学発達教育学部教授

肢体不自由教育における障害特性と環境要因に配慮した指導の工夫
江田 裕介
和歌山大学教育学部教授

・実践報告
脳性まひ児の認知特性に応じた指導 
―国語における視知覚障害への配慮―
源甲斐 恵美
福井県立福井養護学校教諭

言語活動の充実につながる国語の指導
―校長室へ作文を発表しに行こう―
矢ヶ部 美智子
大分県立別府支援学校教諭

小・中学校の各教科に準ずる教育課程における
障害の特性に応じた目標設定と評価の改善
菅野 和彦
福島県養護教育センター指導主事
(前福島県立平養護学校教諭)

筆記が困難でも「算数がおもしろい」と学習が進む
―児童が学習の成果を自ら確かめられる教科指導―
畝本 美香
執筆時所属校 東京都立八王子東特別支援学校主幹教諭

・連載講座
動作法の理論と実際(2)
動作法の指導方法
宮普@ 昭
山形大学地域教育文化学部教授

・講座Q&A
居住地校交流


・活動紹介
障害がある子供の地域余暇活動の充実を目指して
─呉竹余暇体験サークル─
松本 譲二
京都市立白河総合支援学校教諭
(前京都市立呉竹総合支援学校教諭)
・キャリア教育の基礎知識2
ライフステージにおけるキャリア教育
─小・中学生の段階─
朝日 雅也
埼玉県立大学教授
・ちょっといい話 私の工夫
授業記録の工夫
─授業観察者の配置によって─
大串 昌彦
茨城県立境特別支援学校教諭
(前茨城県立つくば特別支援学校教諭)
・学校保健と医療的ケアの今
特別支援学校での医療的ケア
三室 秀雄
前全国特別支援学校肢体不自由教育校長会長
・特別支援教育の動向
国立特別支援教育総合研究所の研究紹介
長沼 俊夫
国立特別支援教育総合研究所 総括研究員
・キーワード
肢体不自由児の構音障害
吉川 知夫
上智大学大学院
・読者の声
 
自ら目標に向かって参加できる授業
飯塚 昌夫
静岡県立西部 特別支援学校教諭

 本校は、特別支援学校(肢体不自由)で、教育課程の異なる三つの学習グループがあります。私が担当していた小学校の各教科を中心とした教育課程の学習グループの体育の授業では、子供たちが、自分の目標に向かって、楽しみながら体を動かす様子がたくさん見られました。

 例えば、野球の授業で、Aさんは不随意運動があるため、思うように体の動きをコントロールすることができませんでした。しかし、私は、Aさんにも「ピッチャーが投げたボールを打ち返す」ことを味わってほしいと思いました。そこで、Aさんが両手を離すと大きなラケットがバネの力で跳ね返り、ボールを打ち返せるという補助具を用意しました。最初は、なかなかタイミングが合いませんでしたが、友達に励まされたり、「1、2、3」の合図に合わせたりすることで、次第にピッチャーが投げるボールにタイミングを合わせて両手を離せるようになってきました。

 いざ試合になると、Aさんのピッチャーに向ける眼差しは真剣そのもので、「絶対に打ち返すぞ。」という闘志にみなぎっていました。そして、見事にボールを打ち返すと、友達から大きな歓声が沸き上がりました。あの瞬間のAさんの笑顔が忘れられません。翌年度、再びこの補助具を抱えて体育館に向かうAさんの姿は、自信とやる気に満ち溢れていました。

 これからも、子供自身が頑張れる目標を設定すること、どんな子供でも参加できる状況づくりを大切にした授業を目指していきたいです。


生徒との関わりを通じて
柳垣 祥子
愛媛県立しげのぶ 特別支援学校教諭

 私は5年前に高等学校から本校に赴任し、現在、中学部重複学級の担任をしています。

 本校に赴任して最も印象的だったことは、生徒たちの感性の豊かさでした。初めて授業で音楽鑑賞をした時、曲調が穏やかになると耳を澄ますような表情をして体の動きがゆったりし、そのうち曲がリズミカルになると、体に力がみなぎるように両手を大きく伸ばし、大きな口を開けて笑顔になる、そんな生徒たちの様子を初めて目にし、驚いたことを覚えています。

 また、毎日関わる中で、一人一人のキャラクターがはっきりと伝わってくることも、とても興味深く感じました。

 この子供は恥ずかしがり屋だなとか、この子供は明るくひょうきんな性格だなとか、思いやりのある優しい子供だな、などということが、言葉を話したり大きなジェスチャーをしたりするわけでもないのに伝わってくるのです。

 動きは小さくても伝えたいことをたくさんもっていて、一生懸命それを表現しようとしている生徒たちの強いエネルギーを感じ、とても魅力的に思ったものです。

 私は普段、生徒と関わる中で、その目やしぐさ、表情などをよく見て、伝えたいことを読み取るようにしています。また、私からも、できるだけ生徒に分かりやすい方法で伝えるように、心がけています。

 他の学習活動はもちろんですが、私の専門領域である音楽を通じて、生徒たちの感性に働きかけていきたいと思います。

 そして生徒が、自己表現する喜びを経験し、表現の手段を身に付け、毎日を生き生きと楽しく過ごしてくれることが私の願いです。

・図書紹介
脳性まひ児の発達支援 ―調和的発達をめざして―
知的障害のある子への文字・数前の指導と教材
障害の重い子どもの指導Q&A ―自立活動を主とする教育課程―
新しい自立活動の実践ハンドブック
支援から共生への道 ―発達障害の臨床から日常の連携へ―
絵日記を使った言葉の指導 ―掃除、給食、係、遊びの場面―
 
・トピックス
平成24年度金賞・奨励賞決定
 
■お知らせ
■次号予告
■編集後記