日本肢体不自由教育研究会
 

肢体不自由教育 No.199

もっと活用できる「個別の教育支援計画」

 今回、論説の加瀬先生の原稿で、ある先生の意見として「非常勤経験もなく、教職課程で専門に学んでいない2年目の若手にとって、子供の人生プランに大きくかかわる『個別の教育支援計画』に向き合うことは言葉以上にハードなことです」と記されています。編集担当としても、「個別の教育支援計画」(以下、「支援計画」)を作って終わりにするのではなく、子供たちの豊かな生活づくりに活用するにはどうすればいいか、という疑問からこの特集づくりが出発しました。

 特集をまとめ終えて、「支援計画」は一人一人の子供を取り巻く関係者が円滑な情報交換をするためのツールであり、例えば実践報告で岡本先生が述べているように、学校と家庭と関係機関とが「顔の見える関係」になることこそが大切だと実感しています。

 「支援計画」を手にして他職種を含めた関係者との充実した連携に一歩踏み出す際に、今回の特集が読者の皆さんの背中を一押しする力を与えることができれば幸いです。

(保坂 美智子)

 

・巻頭言
「個別の教育支援計画」の活用
三室 秀雄
東京都立光明特別支援学校長

・論説
「個別の教育支援計画」の原点、現在、そしてこれから
加瀬 進
東京学芸大学教育学部教授

「個別の教育支援計画」作成の意義とその活用

矢口 明
北海道旭川養護学校副校長

・実践報告
卒業後の進路確定に向けた「個別の教育支援計画」活用の実際
佐々木 稔
青森県立八戸第一養護学校教諭

「個別の教育支援計画」を活用した関係機関との連携
岡本 宗宜
和歌山県立南紀支援学校教諭

「個別の教育支援計画」を活用した保護者との連携
松本美智子
香川大学教育学部附属特別支援学校教諭
(前 坂出市立西部小学校教諭)

・投稿
仲間の中で一人一人の表現する力を育てる授業づくり
―「おんがく」の授業をとおして―
駒田 美奈
岐阜県立岐阜希望が丘特別支援学校教諭
・キーワード
障害者の雇用の促進等に関する法律

・連載講座
ことばの指導に生かすAAC(2)
AACを活用した具体的な取組
吉川 知夫
東京都立城南特別支援学校主任教諭
・講座Q&A
じっとしていることが難しい子供の指導

・取組紹介
チャレンジドの皆さんと夢に挑む
堀田 幸道
中電ウイング株式会社 業務課長

・基礎知識 《見ることの支援5》
見ることの支援を支えるマナー
奥山 敬
東京都立北特別支援学校教諭
・ちょっといい話 私の工夫
さあ、英語の勉強を始めよう!
―表現力を広げ、深める学習―
佐藤 知美
埼玉県立越谷特別支援学校教諭
・学校保健と医療的ケアの今
健常児と障害児は共に育つ
国分 伸枝
カンガルー統合保育園 保育士
・特別支援教育の動向
肢体不自由のある子どもの教育における教員の専門性向上に関する研究
―特別支援学校(肢体不自由)の専門性向上に向けたモデルの提案―
長沼 俊夫
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所 総括研究員
・読者の声
 
児童生徒の夢の実現を目指して
柴垣 登
京都市立鳴滝総合支援学校教頭

 京都市内の北西部に位置し、近くに数多くの観光名所がある本校では、恵まれた環境の中で、隣接する国立病院機構宇多野病院に入院する小学部・中学部・高等部普通科の筋ジストロフィー症の児童生徒と、京都市内全域から通学してくる高等部職業学科の知的障害の生徒が、日々学習に励んでいます。

 また、平成22年度から京都市内の病院に入院する児童生徒を対象とした訪問教育も始まりました。

 本校では、一人一人の夢の実現に向けて、キャリア教育の視点に基づいた教育の推進に取り組んでいます。企業就職を目指して、クリーニングなどの専門教科の学習や産業現場実習に取り組む職業学科の生徒はもちろん,筋ジストロフィー症の児童生徒にも、大学進学や就労等それぞれの夢の実現のために、キャリア教育の視点を意識した自立と社会参加を目指した学習活動を構築しようとしています。そのため、日常の学習を基盤に、中学部では京都市内の全中学校で実施している職場体験活動「生き方探究チャレンジ体験」に、また高等部では同年代の高校生たちの姿から自分を見つめるための交流及び共同学習に、それぞれ取り組んでいます。

 本誌でも特集が組まれるなど、肢体不自由教育におけるキャリア教育に関心が高まっています。従来の進路指導や職業教育から一歩踏み出した、児童生徒が自らの夢の実現を目指して取り組むキャリア教育の実践が必要とされていると感じています。




訪問教育を担当して思うこと
能澤 誠
富山県立ふるさと支援学校教諭

 私は本校で訪問教育を担当して2年目となります。

 本校は、病院に隣接する特別支援学校であり、訪問教育の対象となる子供たちは病院の重症心身障害児病棟に入院しています。気管切開、呼吸器装着、経管栄養、エアウェイなどの医療処置により呼吸と栄養摂取が保たれており、生命の維持と健康の保持が第一に優先されています。

 子供たちの生活は家族をはじめとして、医師、看護師、理学療法士、作業療法士といった医療スタッフ、そして児童指導員や保育士などの療育スタッフなどによって支えられています。その生活の土台の上で私たち学校職員が子供たちとかかわり、学習活動を通して一緒に学校生活を作り上げています。

 私は、平成22年の夏に、初めて「日本肢体不自由教育研究大会」に参加しました。基調講演での関根千佳氏のお話をはじめ、各セミナーでの教師、言語聴覚士、医師の方々による講演や実践発表を聞き、それぞれの立場からの見解や思いに触れることができました。

 特に、北住映二氏の講義「障害の重い子供の健康―呼吸障害を中心に―」では、呼吸の問題について具体的な内容が分かりやすく示されていました。私が訪問教育に携わってきた1年半の間に、病院スタッフや先輩の教師の方々からいただいた助言や説明について、その裏付けを得る貴重な機会となりました。

 子供たちとかかわる色々な立場の方々の言葉や思いを、知識や経験と重ね合わせることで、子供たちをより深く理解することにつながっていくと強く感じています。

・図書紹介
『特別支援教育Q&A ―支援の視点と実際―』
『肢体不自由教育ハンドブック』
・トピックス
美術展入賞者決定、「第4回肢体不自由教育研究セミナー」開催
「摂食・嚥下障害に配慮したフレンチフルコース食事会」開催
■平成22年度総目次
■次号予告
■編集後記