日本肢体不自由教育研究会
 

肢体不自由教育 No.194

通常の学校で生かす肢体不自由教育

 特別支援教育が推進されている中、肢体不自由のある子供の教育は、特別支援学校及び特別支援学級で学ぶ児童生徒に加えて小・中学校の通常学級でも、約1,200名前後の子供が学んでいると推計できます。肢体不自由のある子供の学ぶ場の広がりに目を向け、小・中学校等における指導実践を検証していく一助となることを意図して本特集を組みました。

 巻頭言では、通常学校の教育の視座から特別支援教育への期待を説いていただきました。論説では、小・中学校等での肢体不自由教育の現状分析と課題及び今後めざすべき方向性を概説していただき、実際の指導に必要な支援と指導についての基本と発展について論じていただきました。さらに、実践報告では、小学校や幼稚園での具体的な指導事例を通して、また、特別支援学校のセンター的機能として小・中学校への支援の取組を通して、それぞれの子供のニーズと学校等の実状に合わせた取組を紹介しました。

 小・中学校等における肢体不自由教育の実践研究の参考となれば幸いです。

(長沼 俊夫)

 

・巻頭言
特別支援教育への期待
長谷川 清
新潟県柏崎市立日吉小学校長

・論説
小・中学校等における肢体不自由教育の展開
下山 直人
文部科学省初等中等教育局特別支援教育課
特別支援教育調査官


小・中学校に在籍する肢体不自由児の指導
-自立活動の活用と分かりやすい授業の展開-
橋本 正巳
くらしき作陽大学子ども教育学部教授
・実践報告
小学校における自立活動の指導
 -特別支援学級及び通常学級の児童に対する実践-
小杉 真一郎
福井県福井市教育委員会事務局
学校教育課指導主事


小学校における肢体不自由児への指導
  -Aさんとの6年間のかかわりを通して-
木村 麻美
青森県鰺ヶ沢町立赤石小学校教諭

公立幼稚園における特別支援教育の展開
川口 順子
東京都目黒区教育委員会教育改革推進課嘱託員
(前目黒区立ひがしやま幼稚園長)

小学校通常学級に在籍する肢体不自由児への支援
田丸 秋穂
筑波大学附属桐が丘特別支援学校教諭


・連載講座
訪問教育(2)
訪問教育の指導における課題と工夫
長沼 俊夫
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所
総括研究員
・講座Q&A
保護者への対応(障害受容)
・取組紹介
障害のある人の水泳教室
-ハロウッィク水泳法による実践-
彦坂 明法
石川県立総合養護学校教諭
・医療の基礎知識5
特別支援学校におけるヒヤリ・ハット
石井 光子
千葉県千葉リハビリテーションセンター 第一小児科部長
・ちょっといい話 私の工夫
重度・重複化に対応した図書館活動
-「わくわく体験」を生かす-
児山 隆史
鳥取県立皆生養護学校教諭
・学校保健と医療的ケアの今
岡部彩さんにインタビュー
-夢をあきらめない-
『日本肢体不自由教育』編集委員会
・特別支援教育の動向
東京都新宿区の特別支援教育と特別支援学校
 水木 均
新宿区教育センター特別支援教育センター
教育研究調査員
・読者の声
今、学校で
中村 賢一
埼玉県立熊谷特別支援学校教

 本校は、日本の最高気温を記録し、「熱いぞ熊谷」で有名になった埼玉県北部の熊谷市にある特別支援学校(肢体不自由)です。小学部、中学部、高等部、訪問教育部があり、全校児童生徒数171名、教職員数157名の大規模校です。4つの異なる教育課程で授業を行っています。

 本校では、ノーマライゼーションの理念に基づく教育を推進するため、埼玉県の取組である「支援籍学習」を実施しています。対象者は、平成21年度、通常学級支援籍取得者が29名、特別支援学校支援籍取得者が6名です。

 本校の成果としては、「小・中学校との連携・交流が深まり、友だちが増え、新しい環境に対応出来るようになった」「地域で会った時に声をかけてもらえるようになった」等が挙げられます。他方、小・中学校の成果としては、「本校との連携・交流が深まり、障害に対する偏見が軽減され、同じ地域の一員だという意識が高まった」等が挙げられます。

 また、特別支援教育の地域のセンター的機能の一環として地域の学校への巡回型教育相談を行い、自立活動の考え方や進め方を伝える取組をしています。各学校での成功例を他校へ情報提供することにより、互いの教育力の向上につなげています。

 本校でも本研究会の会員を中心に、機関誌である本誌を、肢体不自由教育に携わる者としての専門性を高めるため有効に活用しています。今後も子供たちの笑顔のため、精進していきたいと思っています。

 
 
養護学校の総合化について
松山 直樹
滋賀県立長浜養護学校教諭

私は、当時県内で唯一の肢体不自由の単独設置校に初任者のときから12年間勤務しました。この間自立活動の専任教諭も経験し、医療的ケアの必要な児童生徒から単一障害の児童生徒まで、自立活動の指導内容や方法、各教科や日常生活との関連などについて、悩みながら実践研究をしていました。

その後、本県では、全国に先駆けて養護学校義務制時点から肢体不自由と知的障害の併置を基本にした養護学校が設置されてきましたが、私は新設された知肢併置校に転勤し、そこで初めて自閉症の子供たちと出会いました。肢体不自由児にしか接したことのなかった私にとって、そのときの衝撃は今も忘れられません。しばらくは、同じ学校にいながら、自分にはあまり関係のない子供として遠巻きに見ておりましたが、いつまでもそのような立場ではいられず、自閉症の児童生徒も担任することとなりました。

そこには、それまで経験してきた肢体不自由教育とは違った、新たな教育がありました。自閉症の認知特性の理解から指導方法まで、学ばねばならないことが多々ありました。ある程度責任を持って関われるようになるまでには、数年必要だったように思います。

そのころから、養護学校の総合化が全国的に進められるようになり、その意義については理解しつつも、肢体不自由・知的障害あるいは自閉症の教育など、それぞれの専門性がいかに保たれていくのだろうかという不安の方が強く感じられました。

その後現在に至るまで、自らの不安を学校の課題として受け止め、養護学校の総合化に対応した校内組織の見直しや校内の研修・研究体制の確立に向けて取り組んでいます。

・図書紹介
『重度・重複障害児の対人相互交渉における共同注意 -コミュニケーション行動の基盤について-』
『重複障害教育実践ハンドブック』
・トピックス
美術展入賞者決定、日本特殊教育学会で自主シンポジウム開催、
「第3回肢体不自由教育研究セミナー」開催
■平成21年度総目次
■次号予告
■編集後記