日本肢体不自由教育研究会
 

肢体不自由教育 No.190

新学習指導要領と自立活動

 3月9日に新しい特別支援学校学習指導要領が告示され、「生きる力」の重視という理念を継承しながら、自立活動に新しい区分として「人間関係の形成」が新設されたことが大きな特徴の一つです。そのため、本特集号は「新学習指導要領と自立活動」としました。

 まず、学習指導要領改訂の背景と肢体不自由教育に求められることについて、安藤先生に巻頭言をお願いし、下山特別支援教育調査官に学習指導要領改訂の概要について解説していただきました。

 論説では、自立活動の指導を充実させる方策について川間先生に論じていただきました。また、教育課程編成に関すること、指導計画の作成など、学習指導要領を踏まえて當島先生に述べていただきました。そして、自立活動の指導の充実に向けた取組を宮尾先生に報告していただきました。

 学習指導要領改訂の概要を正しく理解し、今後の指導を充実させるために、本特集号をご活用ください。

(吉川知夫)

 

・巻頭言
新学習指導要領と肢体不自由教育
安藤 隆男
筑波大学特別支援教育研究センター教授
・解説
特別支援学校学習指導要領等の改訂について
下山 直人
文部科学省初等中等教育局特別支援教育課特別支援教育調査官

・論説
特別支援学校学習指導要領の改訂と自立活動
川間 健之介
筑波大学人間総合科学研究科准教授

教育課程の編成と特別支援学校学習指導要領
當島 茂登
鎌倉女子大学児童学部教授
・実践報告
特別支援学校(肢体不自由)における自立活動の取組
宮尾 尚樹
長崎県立諫早養護学校教諭

・投稿
医療的ケアが必要な児童生徒の「自立活動の指導」の充実
―呼吸改善に向けた指導実践を振り返って―
増川 幸伸
福島県立猪苗代養護学校教諭
(前福島県立郡山養護学校教諭)


・キーワード
ソーシャルスキルトレーニング
・連載講座
特別支援教育コーディネーター(1)
特別支援教育コーディネーター設置の経緯と現状
保坂 俊行
山梨県立甲府支援学校教諭
・講座Q&A
調理の学習
・取組紹介
特別支援学校における放課後支援の取組
―地域・関係機関との連携の中で―
香川 司恵
特定非営利活動法人障害児者ゴーゴースクラム理事長
・医療の基礎知識1
成長にともなう肢体不自由児の呼吸障害とその対応
石井 光子
千葉県千葉リハビリテーションセンター第一小児科部長
・ちょっといい話 私の工夫
重度・重複障害児の美術表現
―感じること、気づくことを育てる―
蒔苗 正樹
青森県立青森第一高等養護学校教諭
・学校保健と医療的ケアの今
特別支援学校の看護師の課題―望ましい看護師のあり方の確立を求めて
飯野 順子
特定非営利活動法人地域ケアさぽーと研究所代表
(元東京都立村山養護学校長)
・特別支援教育の動向
北海道における特別支援教育の展開と肢体不自由教育
上林 宏文
北海道教育庁学校教育局特別支援教育課主査
・読者の声
協働への歩み
森田 倫子
福島県立平養護学校教諭


 食形態に配慮が必要な子供たちの食事指導にかかわって3年目になります。校務分掌の関係もあり、指導のあり方の見直しと指導システムづくりを合わせて考えていく必要を感じていたころ、国立特殊教育総合研究所(当時)の短期研修に参加する機会を得ました。

 見学先の栄養士・栄養教諭の方や研修員仲間からは、活用できる献立や調理形態・方法、学校組織としての取組を丁寧に紹介していただきました。また、研修を通し、学校内外の「人のつながり」が、子供たちにとってより意味のある学びの実現につながるのだと実感させられました。

 現在校務分掌は変わりましたが、ライフワークにするつもりで仲間(同僚)とつながり、できることを続けていこうと思っています。

 そんな私にとって、芳賀定先生による研究大会での講義や本誌第182号での論説は、食べる力を育てるだけでなく、心身の発達との関連や家庭という背景を含めた子供たちの将来のビジョン、生活状況をふまえた目標設定の大切さにも触れられており、指導する上で、常に立ち返る指針となっています。

 学校としての取組はまだまだこれからです。しかし、課題解決に向けて様々な試みを始めた食事指導体制整備委員会や研修に励んだ教員がつながり頻繁に情報交換する姿勢からは、よりよい指導チームになっていく確かな一歩を感じます。素敵な仲間と、子供の学びを保障するための協働への歩みを続けていきたいと思います。

 
問答
矢野 祐一
宮崎県立都城きりしま支援学校教諭


 「飛行機が大好きなんですよ。ここに来れば、よく見えるでしょう?」

 私がよく生徒を連れて、飛行場の近くに行っていたころの話です。近くを通りかかった方が、私に「この子はどんな子ですか?」と尋ねたので、陽気に「飛行機が……」と答えたのです。ところが、その方が聞きたかった答えと違ったのでしょうね。「いや、うん、そうですか、見て飛行機とわかるのですね」と言って去って行きました。
「あなたはどんな人ですか?」と聞かれたら、みなさんはどう答えるでしょうか。

 この生徒は、当時養護学校に通っていた一七歳の男性です。「どんな障害をおもちですか?」と聞かれれば、答える必要がある場合にのみ「脳性まひで……」と答えるでしょう。私だって、同じ質問をされて「私は赤緑色弱という一種の視覚障害を有する33歳のおじさんです」とは答えません。

 その時に「変な質問だな」と思った私の感性は、それほどおかしなものではなかったのだと思います。

 ただし、その方が悪いなんて思っているわけではないのです。お互いがもっと理解し合い、本当のノーマライゼーションやバリアフリーを実現していくためには、「もっともっと、この生徒たちと一緒に世の中に出ていかないといかんなぁ」と、先日、ある地域の肢体不自由児者父母の会会長さんと話したところでした。

 同じく「この子はどんな子ですか?」と聞かれた時に、真っ先にその子のもつ豊かな個性が思い浮かぶ人でありたいし、それを引き出す実践をやっていきたいと、私は思うのです。

・図書紹介
『肢体不自由教育 授業の評価・改善に役立つQAと特色ある実践』
『特別支援教育コーディネーターのための「個別の教育支援計画」ガイドブック』
・トピックス
平成21年度文部科学省 特別支援教育関係予算の主要事項の概要
平成21年度関係研究会の予定
■次号予告
■編集後記