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~北の国から~(3)

1997年3月15日発行 みみっと4号に掲載

瀬谷 和彦


 みなさん、お変わりありませんか?
 このエッセイが届く頃は仙台はさぞ暖かくなっていることでしょう。
 私の発音の訓練はまだ続いております。私の名前は「せや」と読むのですが、名前を言うときによく「せいや」とか「へや」、「てや」とか間違えられます。「せ」、「て」、「へ」はいずれも「え」行です。よくよく聞くと、「せ」は摩擦音で舌の先の方と歯茎との摩擦を強く出して咽頭から声を出すことによって「せ」という発音になるのです。「て」は舌先と上歯茎との破裂音。「へ」は奥の方の気息音。つまり、奥の方の摩擦音に咽頭から声を出して「へ」となるのだそうです。したがって、舌の先の方と歯茎との摩擦を強く出さないと、「へ」と聴こえてしまうのだそうです。場合によっては「て」と。で、「へ」と間違えられないようにゆっくり発音すると、「せいや」になってしまう。とにかく、舌の先の方と歯茎との摩擦を強く出して瞬間的に言えば、「せ」と聴こえるのだそうです。これを覚えてから、知らない人に自分の名前を言っても間違えられることがなくなってしまいました。これでまた、講義の時の不安が一つ減りました。前々回に書いた「スキー」の発音も聞き返されることがなくなってしまいました。要するに摩擦音を出せばよいのですね。本当に弘前の言葉の教室の手塚先生には感謝しております。

 さて、前置きが長くなってしまいましたが、前回に第二日本語としての手話の選定の必要性について書きました。今回は聴力判定の問題点について述べたいと思います。現在使われている聴覚障害認定方法は昭和57年8月適用から変わっていません。認定のための測定方法は純音による方法と言語による方法があります。純音による方法とは純音オージオメータ検査のことで、言語による方法とは語音明瞭度検査のことを意味します。しかし、法令通知ではオージオメータによる方法を主体とするとしています。つまり、純音オージオメータ検査のみで聴力レベルという値の大小によって手帳交付や障害等級が決められるしくみになっています。純音というのは単一波長の音で、例えば、時報やピアノの音がそれに相当します。でも、純音が聴こえるだけでは意味がありません。私たちがもっとも必要としている人間の発する声は様々な波長の音の組み合わせでできています。純音が聴こえても、人の話し声の判別を苦手としている方々もたくさんいます。そういう人たちにとっては現在の認定方法は不公平な扱いとなってしまいます。

 この問題の解決には語音聴力検査を実用化し、検査法に取り入れることが必要と考えられます。語音明瞭度検査法とは一定の語表に含まれた語音(単音)を気導受話器を通して種々の音圧レベルで再生して聞かせる方法です。この方法には語音聴取域値検査と語音弁別検査の二種類があり、これらの検査の結果はスピーチオージオグラムに記載されます。この検査法はまだ完全ではないにしても少なくとも人間の発する基本的な声の弁別能力をみることができるという意味で障害の認定に適用しうると考えられるのです。しかし、まだ採用されていません。ひょっとすると、検査に伴う煩雑さやコストの問題があるのかもしれません。もう一つ、詐聴の問題があります。これには脳幹反応聴力検査法というものがあり、音に対する脳幹の反応により生ずる誘発電位を記録するものです。無意識に反応しますのでこの方法で詐聴を見破ることができます。しかし、この方法もそれなりの装置を必要とするので障害の認定(確認)への適用にはまだまだ時間がかかるでしょう。いずれにせよ、私たちの障害の程度をより正しく認知してもらうためにも認定方法の改善は避けて通れない重要な問題です。それではまた次号をお楽しみに。

セコイヤのトピックス
ストマイ難聴の発現機構解明に大きく前進!
-真犯人はNO(一酸化窒素)ラジカルか??-

 セコイヤです。今号より聴覚に関する世界の最新の研究成果をトピックスとして紹介します。どうぞご愛読のほどお願い申しあげます。
 さてと、米国国立衛生研究所(NIH)とルイジアナ州立大学医学センターの共同研究グループはカナマイシンやゲンタマイシンなどのアミノグリコシド系抗生物質が N-Methyl D-aspartate (NMDA) 受容体を過剰に活性化することにより、NOラジカルを過剰に産生し、有毛細胞を死に至らしめるという仮説をモルモットのコルチ器官(聴覚神経終末器官)やコルチ神経節を用いた実験で一部実証し、昨年暮れに世界トップレベルの学術誌、ネイチャーメディシン(医学部門誌)に発表した。

 このNMDA受容体は通常は脳内の興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の刺激により活性化され、これによりCaイオンが有毛細胞内に取り込まれる。この刺激によりNO合成酵素が活性化され、NOラジカルが発生し、さらにグアニリルシクラーゼを刺激してグルタミン酸放出をさらに上げ、神経伝達を強める働きがある。
 しかし、過剰のNOは逆に細胞を殺してしまう作用(興奮毒性)がある。研究グループはアミノグリコシド系抗生物質がNMDA受容体のポリアミン認識部位を強力に刺激し、大量のNOラジカルを発生させ、有毛細胞を死に至らしめると考え、NMDA受容体の活性発現を押さえる拮抗剤で処理したモルモットのコルチ器官にアミノグリコシド系抗生物質を加えると聴覚の障害が大幅に減少することを突き止めた。
 この発見はアミノグリコシド系抗生物質が興奮毒性作用によって聴覚障害を引き起こすものであり、NOラジカルの大量発生が聴覚障害の直接の原因であることを間接的に示唆している。NOラジカルはストレスなどで生体の恒常性を維持するバランスが崩れたときに大量に発生することが知られており、その意味で突発性難聴や遺伝性難聴の原因解明につながると考えられ、画期的であるといえる。しかし、アミノグリコシド系抗生物質による聴覚障害を抑える薬の開発についてはさらに直接的な作用機構の解明が待たれるところである。また、ストレプトマイシンも同様な作用があるが、他の重大な毒性作用も合わせ持つという複雑さがあり、解明にはまだ時間がかかりそうである。



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