「障がい者のためのわかりやすい 東電賠償学習会」  Q&Aマニュアル (学習会配布資料) 2012年1月29日 於:「ホテルハマツ」福島県郡山市虎丸町3番18号 制作:講師 弁護士槇裕康・弁護士藤岡毅 はじめに 2011年3月11日に発生した東日本大震災、 東京電力福島第一原子力発電所の事故は甚大な被害を発生させています。 原発事故による損害について、現在東電の賠償が課題となっています。 しかし類例のない事態であり、賠償の指針等の情報も日々変化しており、 法律家にとっても理解は一筋縄でいきません。 被害に遭われた一般の方にとって損害賠償をどう考え、どう進めていくのか、 専門家の助言なくしては難しい面があります。 なかでも障がいのある人にとって、情報の正確な収集、 交渉力等を補うことなく自力で全て進めていくことには困難があると思われます。 加害企業である東電に言われるままに請求したり、請求の権利のあることが知らされなかったり、 請求を諦めたりなどの事態も考えられます。 日本障害フォーラム(JDF),日本弁護士連合会,福島県弁護士会は、 障がいのある人が被害者として適切に権利を行使できるよう、 原発損害賠償について分かりやすく理解できる学習会を実施し、 今後もそのための支援活動を続けていく所存です。 本マニュアルは2012年1月に福島県郡山市内で開催された 第1回目の学習会用に講師2名が作成した講義資料です。 Q&A方式のテキストとしました。 今後改良を重ねていき、本企画における共通のテキストとして活用していきたいと思っています。 情報が多すぎるとかえって伝わりにくいと考え、 出来る限り情報を選びましたので、抜けている事項も多くあります。 詳しいことは弁護士等の専門家に相談しながら進めて頂くようお願い致します。 2012年1月 全体の章だて 第一章損害賠償のいろは(基礎知識) 第二章どんなことが賠償の対象となるか(損害の対象) 第三章障がいのある人特有の問題 第四章請求の方法(手続) 第五章相談窓口など 第六章参考資料 目次 第一章損害賠償のいろは(基礎知識) ○賠償してくれるのは東電ですか、国ですか、行政ですか? ○支援機構って何ですか。 ○「原子力損害賠償紛争審査会」の「指針」って何ですか。 ○あわてて請求するなと言われますが、時効で請求出来なくなることはあるのですか。 ○東電から届いた書面についてどのような点に注意したらよいでしょうか。 第二章どんなことが賠償の対象となるか(損害賠償の対象) ○どのようなものが損害賠償の対象となるのでしょうか。 企業などではない個人の場合の賠償の対象となる項目を大雑把に教えてください。 ○原発事故による汚染地域から避難した費用や、 放射性物質の有無の確認のために受けた検査費用は賠償してもらえますか。 一時立入費用や帰宅費用は、どうでしょうか。 ○避難に伴う生活費の増加分を賠償してもらえますか。 ○避難を余儀なくされ、体調を崩した場合などの損害はどうでしょうか。 また、東京電力に請求するには、どのような書類が必要ですか。 ○避難等の指示等による精神的損害=慰謝料について教えてください。 ○仕事を休んだ期間の賠償や、失業したことの損害を賠償してもらえますか。 ○物に関する放射能検査費用は賠償されますか。 ○避難対象区域ではない地域で、放射線量が高い地域から自主的に避難した人の損害について賠償されますか。 また、避難をせずそのまま滞在し続けた場合に賠償されますか。 ○対象区域外(避難対象区域及び自主的避難等対象区域以外)の住民の自主避難費用、検査費用は賠償されますか。 第三章障がいのある人特有の問題 ○未成年の子どもの分の請求は親が出来ますか。 ○知的または精神に障がいのある成人の分の請求を親や事業所が出来ますか。 ○就労継続A型で働いていましたが工場が半年間閉鎖されて給料をもらえませんでした。 賠償してもらえますか。 ○就労継続B型(作業所)での工賃は賠償の対象ですか。 ○福祉作業所の工賃について事業所がまとめて請求して利用者に分配することは出来ますか。 ○避難に伴い介護や支援の時間が増加しました。その損害は誰かに請求出来ますか? ○自閉症の20歳の息子がいて、避難所での共同生活が出来ないため、 自家用車の中で家族みんなが震災後2週間過ごしました。 そのような家族の精神的な苦痛は賠償してもらえるのですか。 ○精神障がいの家族が避難生活の影響で生活環境が変わって不安になったようで突然泣き出したり、 暴れたり、症状が悪くなりました。本人と家族に対する賠償はありますか。 ○東電の書式に点訳版はありますか。 ○紛争解決センターの書面は点訳版がありますか。 手話通訳は配置されていますか。 第四章請求の方法(手続) ○請求の方法は東電に書類を提出して支払いを待つということですか(請求の方法の種類の説明)。 ○【原子力損害賠償紛争解決センターについて】 ○避難が続いている以上、途中で請求してお金をもらってしまうと、 示談になってそのあとは請求出来なくなるんではないですか。 ○双葉町の人は自治体が弁護団に賠償請求実務を委託してくれたと聞きましたが、 他の地域の住民は同じように出来ないのでしょうか。 ○弁護士に賠償の件を一任してしまうと面倒でなくなると思いますが弁護士に支払う費用はどうなるのですか。 ○結局のところ、今後どうしたらいいでしょうか? 第五章相談窓口など ○事件を受ける弁護団の例 ○電話相談窓口の例 第六章参考資料 ○【被災者記録ノート】 ○【やさしい原発事故損害賠償申出書】 第一章損害賠償のいろは(基礎知識) 問:賠償してくれるのは東電ですか、国ですか、行政ですか? 回答:東電です。 解説:原発事故の賠償は「原子力損害の賠償に関する法律」(以下「原賠法」と略します)が定めています。 その法律は原発事故の損害は、原子力の「事業者」(福島原発で言えば東京電力)が責任を負うとします(第3条)。 そして、故意(わざと悪いことをした)とか、過失(注意が足りなかった)があったのかどうかなどは一切関係なく、 事業者に賠償責任があります。 要するに、東電には、原発事故を起こして沢山の人に迷惑を与えた加害者、 加害企業として損害賠償を被害者に対するする義務があり、被害者には賠償を求める権利があります。 しかし、「賠償」とは、被害者がただ待っているだけでは行われません。 年金など、一度資格が確認されれば自動的に振り込まれてくるというようなものではありません。 そのため、事故の被害者であるけれども、事故の責任者である東電に対して、 どのように賠償金を要求していくかを知っておく必要があります。 原賠法には「事業者(東電)以外の者には賠償責任がない」という意味の規定があります(第4条第1項)。 これは原賠法の「責任集中原則」と言われています。 では、国は賠償問題と関係がないのでしょうか? やはり、国策として原発政策を推進し、原子力発電事業の許可を与えてきた国にも責任はあります。 原賠法では、事業者が被害者にしっかりと賠償を実施するように援助する責任などが規定されています。 小問:では、国や公務員の違法行為に基づく損害賠償を定める「国家賠償法」に基づき国に対して被害者は賠償請求権を行使できるでしょうか。 これは説が分かれています。 【請求出来ない説】 原賠法4条の「責任集中原則」がある以上、無理であるとする説。 【請求できる説】 本来憲法17条が、何人も公務員の不法行為により損害を受けたときは法律により国に賠償を求めることができる旨規定されており、 それは憲法上の市民の重要な権利であるとする説。 仮に原賠法4条によりそれが否定されるというならば、そのような規定は憲法違反として無効である。 いずれにしても、立法のあり方として、原賠法の規定ぶりには批判があります。 問:支援機構って何ですか。 回答:平成23年8月3日原子力損害賠償支援機構法が成立し、 原子力損害賠償支援機構による東京電力に対する資金援助の制度が出来ました。 被害賠償を円滑に進めるために国が東電の損害賠償の実施を支援する仕組みです。 問:「原子力損害賠償紛争審査会」の「指針」って何ですか。 回答:平成23年7月29日、平成23年原子力事故による被害に係る緊急措置に関する法律(いわゆる「仮払い法」)が成立し、 国が原子力損害賠償紛争審査会の指針にもとづいて、 被害者に、東京電力が支払うべき損害賠償額の半額以上を立て替えて支払い、 代わりに東京電力に請求することになりました。そして、 この審査会は今まで、賠償問題での「指針」という共通の目安を公表しています。 第一次指針平成23年4月28日 中間指針平成23年8月5日 同 追補(自主的避難)平成23年12月6日 これらの「指針」は加害者である東電と被害者との間の紛争の自主的解決(話し合いによる解決) を促進するための目安であって、裁判所の判断を拘束するような法的な効力はありません。 とはいえ、有識者により議論された国の法定審査会の出した指針であり、 裁判所の判断にも影響を有することは予想されます。したがって、 これらの指針がどのように言っているのかの点の検討をしないで 損害賠償の範囲や額を判断出来ないだけの重みがあるのも事実です。 他方、指針は最大公約数としての大枠の考えを示しているものであり、 指針自体が、「指針で示された範囲以外の損害も個別の事情に応じて認められる」旨を繰り返し強調しています。 問:「あわてて請求するな」と言われますが、時効で請求出来なくなることはあるのですか。 回答:時効で請求出来なくなることがあります。 解説:東電に対して賠償の請求をするべき期間は原則として平成23年3月11日から3年以内です。 したがって、時効で請求できなくなることはあります。 よって、ある程度ゆとりをもち、ぎりぎりでの請求は避けるべきではあるものの、 現状ではあわてて請求する必要はないものといえます。 問:東電から届いた書面についてどのような点に注意したらよいでしょうか。 回答と解説: まずは、そもそも、東電の書面は、加害者側が作成したものであり、 必ずしも被害者の視点に立っていないとの批判があることを理解してください。 したがって、そもそも、東電の書面を使わないで請求することも可能ですが、 仮にこの書式を使うとした場合の注意点を以下においてご説明します。 1記入は慎重に 東京電力からの原子力損害賠償の請求書類には、「同一補償対象期間における各補償項目の請求は1回限りとすること」とあり、 請求漏れがあっても後から請求できなくなるおそれがあります。 2合意書を作成する前に再確認を 当初、原子力損害賠償の請求書類中に同封されていた「合意書」には、 「一切の異議・追加の請求を申し立てることはありません」と記載されており、 一度合意してしまうと、その期間のその項目の損害について、それ以上の請求ができなくなるような状況でした。   この点、東電は、世論の批判を受け、平成23年10月11日に、 「一切の異議・追加の請求を申し立てることはありません」との記載を削除することを記者発表しております。 しかし、最終的に合意をする際に、この記載がないことをきちんと確認することが極めて重要です。 3土地や住宅については、先送りされており問題です。 当初送られた東京電力からの原子力損害賠償の請求書類では、 住めなくなった土地・住宅等の「財産価値の減少分の補償」という重要な部分については、この書式からは抜け落ちています。 4請求方法は他にもあります 損害賠償請求の手続の方法はひとつではありません。 より簡便な申立書式による申立てを認めている原子力損害賠償紛争解決センターに申し立てる方法もあります。 日弁連では申立書の書式例を作成していますので、ご利用ください。 第二章 どんなことが賠償の対象となるのでしょうか(損害賠償の対象) 問:どのようなものが損害賠償の対象となるか。企業などではない個人の場合の損害の対象となる項目を大雑把に教えてください。     回答:大雑把にいえば、以下の損害が挙げられます。 @避難に伴う実費(身体の放射能の検査をするための費用、逃げるための費用、家に一時的に戻る費用、家に帰る費用、生活費の増加) A生命・身体的損害(逃げる際の怪我、避難中に身体の状態が悪くなったこと等) B精神的損害(避難生活の苦しさなど) C営業損害 D就労不能等に伴う損害(働けなくなりもらえなくなった給料、仕事を失った損害) E検査費用(持っているものや自動車の放射能の検査をする費用) F財物価値の喪失又は減少等 (土地や建物が放射能で汚されて価値が減った分) G放射線被曝による損害 (放射能を浴びたことによって起きた病気など) H自主的避難に伴う損害及び避難をしなかったことによる損害 問:原発事故による汚染地域から避難した費用や、 放射性物質の有無の確認のために受けた検査費用は賠償してもらえますか。一時立入費用や帰宅費用は、どうでしょうか。 回答:避難費用、検査費用、一次立入費用、帰宅費用はいずれも賠償の対象となります。 解説:  @避難費用について 中間指針によれば、以下の費用が、避難に関する損害として認められるものとされています。 ・対象区域から避難するために掛った交通費,家財道具の運搬費用 ・対象区域から出て暮らす以外になかったため掛った宿泊の費用や関連する費用 ・損害の金額は、実際にかかった金額を原則とします。 ただし、領収証をとっておく余裕がなかった事情などがあれば、 統計などを使って平均的な金額を推定する方法でも構わないとされています。 例えば、ガソリンスタンドの領収書がそろっていなくとも 避難場所までの移動距離から通常かかるはずのガソリン代などを計算して、金額を計算することも可能です。 A検査費用(人体)について ・中間指針によれば、避難等対象者については原則として、 被爆にかかる検査費用及びその付随費用(検査のための交通費等)が損害として認められています。 ・放射性物質は、量によっては人体に多大な負の影響を及ぼす危険性がある上、 みえず、臭わず、人の五感作用では知覚できないため、当然認められるべきものと考えられます。 ・請求にあたっては、検査費用に関する領収証が必要となります。 B一時立入費用及び帰宅費用について 中間指針によれば、平成23年5月10日以降の警戒区域内に住居を有する者が、 市町村が政府や県の支援を得て実施する一時立入りに参加するために自己負担した交通費、 家財道具移動費用、除染費用等(前泊や後泊が不可欠な場合の宿泊費も含む)は、 必要かつ合理的な範囲内で賠償の対象になるとされています。 問:避難に伴う生活費の増加分を賠償してもらえますか。 回答:被害者救済にあたる弁護士からすると賠償してもらえるものと考えていますが、 中間指針などによれば、避難に伴う精神的な損害に含まれ、 特段の事情が認められる場合に限り、実費の賠償をするとされています。 解説:審査会の第2次指針、中間指針によれば、 通常の範囲の生活費用の増額であれば精神的損害として加算されますが、 特に高額の生活費の増加費用の負担を余儀なくされた場合には、 高額な費用を負担せざるを得なかった特段の事情があるときは、別途、 必要かつ合理的な範囲において、その実費の賠償が認められると説明しています。 つまり中間指針は、避難対象者の精神的損害として、【本件事故発生から6ヶ月間】 について、1人月額10万円〜12万円を目安とし(屋内退避者1人10万円)、 この金額の中に通常の範囲の生活費の増額分は既に入っており、高額な生活費の増加費用を負担せざるを得ない場合には、 別途、その特別な事情を立証した場合に限り賠償が認められると説明しています。 なお、「避難に伴う生活費の増加は特別な事情を除いて精神的損害の月額10万〜12万円に含まれる」という指針の考えは 実態に即しておらず不十分であるという被害者からの声が多く、 慰謝料と実費を合わせてアバウトに算出することは被害者救済に資する基準ならばともかく、法理論的にも疑問があります。 問:避難を余儀なくされ、体調を崩した場合などの損害はどうでしょうか。 また、東京電力に請求するには、どのような書類が必要ですか。 回答と解説: 中間指針によれば、政府の指示により警戒区域や緊急時避難準備区域等の対象区域からの避難や、 屋内退避等を余儀なくされた方(以下「避難等対象者」といいます)に対する生命・身体的損害につき、 以下のものが損害になるとされています。 @本件事故により対象区域からの避難等を余儀なくされたため、傷害を負い、 健康状態が悪化(精神的損害を含む)し、疾病にかかり、 あるいは死亡したことにより生じた逸失利益(たとえば死ななければもらっていたはずの将来の給料など)、 治療費、薬代、精神的損害等 A本件事故により対象区域からの避難等を余儀なくされ、 これによる治療を要する程度の健康状態の悪化等を防止するため、負担が増加した検査費、治療費、薬代等 これらの損害を請求する場合に必要となる資料は、下記のものが考えられます。 記 医師による診断書,医療機関からの治療・検査費用の領収書、通院交通費のメモなど 問:避難等の指示等による精神的損害=慰謝料について教えてください。 回答:東電は原則として月額10万円としていますが、弁護士としてはこれでは足りないと考えています。 解説:中間指針は、避難等の指示により避難生活や屋内退避等を余儀なくされたことによって、 正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛を損害と認め、 避難対象者につき、以下のような賠償額の算定方法を定めました。 記 第1期(本件事故発生から6ヶ月間) 1人月額10万円を目安とする。 但し、避難所等における避難生活をした期間は、1人月額12万円を目安とする。 第2期(第1期終了から6ヶ月間) 1人月額5万円を目安とする。 但し、警戒区域等が見直される場合には、必要に応じて見直す。 第3期(第2期終了後,終期まで) 今後の本件事故の収束状況等の事情を踏まえ,検討する。 屋内退避者 屋内退避者は、屋内退避区域の指定が解除されるまでの間、 同区域内で退避していた者について、1人10万円を目安とする。 ※損害発生の始期と終期について 損害発生の始期は、個々の対象者の避難等の日にかかわらず、原則として本件事故発生時である平成23年3月11日となります。 但し、緊急時避難準備区域内に住居がある子ども、妊婦、要介護者、入院患者等であって、 平成23年6月20日以降に避難した者及び特定避難勧奨地点から避難した者については、実際に避難した日を始期とします。 終期は、避難指示等の解除等から相当期間経過後となり、これ以後に生じた精神的損害は、特段の事情がなければ損害となりません。 但し、東京電力は、中間指針の基準によらず、本件事故発生から6ヶ月経過後であっても、 平成23年9月1日から平成24年2月29日までの精神的損害として、月額5万円から、 月額10万円または12万円とする旨、取扱いを変更しています。 問:仕事を休んだ期間の賠償や、失業したことの損害を賠償してもらえますか。 回答:ともに賠償の対象となります。 解説:(1) 休業損害(仕事を休んだことの賠償) 原則として事故前の収入の減少分が賠償の対象となります。 (2)失業による損害 勤務先が警戒区域であり倒産して失業したという方の場合、 失職しなければ得られたはずの賃金や減収分、退職金差額等が賠償対象と考えられます。 現状で多くの避難者が雇用の機会が与えられず失業状態を強いられ、再就職、復職は困難です。 他方、警戒区域が解除されて市民生活や経済社会の一定の復旧がなされた場合でも 再就職せずに定年時点までの賃金や退職金が全て賠償されると安心できるものでもありません。 地域が復興した場合はもちろんですが、仮に警戒区域が解除されずに地元に戻ることが出来なかった場合でも、 再就職が不能であるような事情のない場合は、一定の期間で失業賠償も認められなくなる可能性は有り得ます。 問:物に関する放射能検査費用は賠償されますか。 回答:賠償の対象となります。 解説:中間指針によれば、対象区域内にあった商品を含む財物に関する検査費用については、 原則として、所有者等が負担した検査費用(検査のための運送費等の付随費用も含む)が損害として認められるとされています。 例えば、食品であれば、体内に取り込むため、平均的・一般的な人の認識を基準とすれば、体内被曝を心配し、 検査をするのは合理的であると認められることになります。 問:避難対象区域ではない地域で、放射線量が高い地域から自主的に避難した人の損害について賠償されますか。 また、避難をせずそのまま滞在し続けた場合に賠償されますか。 回答:県北(福島市など)や県中(郡山市など)や浜通り(いわき市など)の一定の地域(自主的避難等対象区域)において、 妊婦や18歳以下で1人40万円、その他の大人は同8万円が平成23年12月6日の中間指針追補で認められました。 もっともその内容には批判もあります。 解説:平成23年12月6日の中間指針追補(自主的避難等に係る損害について)は、 避難指示等に基づかずに、避難指示等の対象区域の周辺地域で行った避難及び当該周辺地域において、 自主的避難をせずにそれまでの住居に滞在し続け、これら避難をしなかった者が抱き続けたであろう恐怖や不安を斟酌し、 以下の損害額を目安としました。 (1)対象地域 @自主的避難等対象区域 福島県内の23市町村 福島市、二本松市、伊達市、本宮市、桑折町、国見町、川俣町、大玉村、郡山市、須賀川市、 田村市、鏡石町、天栄村、石川町、玉川村、平田村、浅川町、古殿町、三春町、小野町、 相馬市、新地町、いわき市 のうち、避難指示等対象区域を除く区域。 A対象外となった地域 白河市、西郷村、泉崎村、中島村、矢吹町、棚倉町、矢祭町、塙町、鮫川村 会津若松市、喜多方市、北塩原村、西会津町、磐梯町、猪苗代町、会津坂下町、 湯川村、柳津町、三島町、金山町、昭和村、会津美里町、下郷町、檜枝岐村、只見町、南会津町 なお、元々の避難指示等の対象市町村は次の地域 南相馬市 広野町 楢葉町 富岡町 川内村 大熊町 双葉町 浪江町 葛尾村 飯舘村 (田村市は一部対象地域あり) (2)対象者 自主的避難等区対象区域内に生活の本拠としての住居があった者。 本件事故発生後に住居から自主的避難を行った場合、当該住居に滞在を続けた場合、 本件事故発生時に自主的避難等対象区域外に居り引き続き同区域外に滞在した場合を問わない。 また、本件事故発生当時避難指示等対象区域内に住居があった者で、 上記中間指針の精神的損害の賠償対象とされていない期間並びに子供、 妊婦が自主的避難等対象区域内に避難して滞在した期間も、自主的避難等の対象者の場合に準じて対象となる。 (3)損害項目 以下の損害のうち一定の範囲が賠償すべき損害となる。 @自主的避難者  @)生活費の増加費用 A)精神的苦痛 B)避難・帰宅に要した移動費用 A同区域に滞在を続けた者場合 @)精神的苦痛 A)生活費の増加費用 (4) 損害額 上記(3)の@及びAにつき、合算した額を同額として、損害額を算定する。 @子供及び妊婦 本件事故発生から平成23年12月末まで 1人40万円を目安とする (平成24年1月以降については今後、必要に応じて検討される) Aその他の自主的避難等対象者  本件事故発生当初の時期の損害として1人 8万円を目安とする B本件事故発生当時に避難指示等対象区域に住居があった場合 中間指針の避難指示等による精神的損害の賠償対象とされていない期間は、 上記@、Aの金額が、その対象期間に応じた目安であることを勘案した金額とする。 子供、妊婦が自主的避難等対象区域内に避難して滞在した期間については 本件事故発生から平成23年12月末までの損害として1人20万円を目安とし、 中間指針追補の対象となる期間に応じた金額とする。 中間指針追補は、個別具体的な事情に応じて、 以上の損害項目以外の項目が賠償の対象となる場合や異なる賠償額が算定される場合が認められ得るとしています。 (5)2011年12月6日の審査会による自主的避難者の賠償指針についての批判 同指針については、以下の批判があります。 ・損害額が低すぎるので高くするべき ・少なくとも福島第一原子力発電所から80km圏内となる部分がある市町村及び 3か月当たり1.3mSvを超える放射線が検出された地域からの避難によって生じた損害については、賠償を行うべきである。 ・自主的避難者の場合でも、職場・学校等の諸事情から家族の離散の生活を強いられ、 生活費が二重に掛かり、住み慣れた地域を離れて周囲に友人もなく、家族離れ離れの不安な生活を強いられるなど精神的苦痛が著しい。 このようなことは、「特別な事情」どころか、自主的避難者の多くに共通する苦難と言ってよい。 そうである以上、生活費の増加や精神的損害の額が総額で8万円が目安などという指針の考え方は、 およそ賠償を否定しているに等しく、根本的に改められるべきである。 問:対象区域外(避難対象区域及び自主的避難等対象区域以外)の住民の自主避難費用、検査費用は賠償されますか。 回答:賠償の対象となり得ます。 解説:合理的かつ相当であると判断される範囲の損害であると立証されれば、 対象区域外に生活の本拠のある者の自主避難によって生じた損害も認められる可能性があります。 特に、体内被曝の影響を受けやすい、妊婦や子どもについては、自らの身体が放射性物質に曝露したのではないかとの不安感を抱き、 この不安感を払拭するために検査を受け、また避難をすることも合理的な行動であると考えられ、避難費用や検査費用について、 対象区域内外で差異を設ける合理性はないものと思われます。 この点、政府の閣僚が自主避難にかかる実費について認められるべきであると発言したことがありますので、 今後の推移を見守るべきであります。 第三章障がいのある人特有の問題 問:未成年の子どもの分の請求は親が出来ますか。 回答:できます。 解説:障がいの有無とは関係なく、未成年者の賠償請求手続は父母が行います。 民法で父母が法定代理人とされています。   問:知的または精神に障がいのある成人の分の請求を親や事業所が出来ますか。 回答: 親や事業所の支援員は手続きを「手伝う」ことはできますが、本人になり代わって請求して受け取ることは出来ません。 解説:未成年の場合は親が法定代理人ですが、子どもが成人(20歳)に達したときから法定代理権は消滅し、 本人が請求し、賠償金を受領することになります。 しかし、最重度、重度の知的障がい者・精神障がい者などの場合、難しい損害賠償の内容を理解することはなかなか困難です。 そこで次のことが考えら得ます。 [成年後見制度の利用] 今回の賠償の問題に限らず、親も年をとっていく以上、 本人の財産管理や生活について成年後見人(保佐人含む)をつけて権利を擁護する方法が考えられます。 成年後見人は本人の賠償請求権を代理しますので成年後見制度を利用すれば東電の賠償請求の手続きも成年後見人の仕事になります。 とはいえ、成年後見制度は東電の問題だけのために使うことは出来ない原則として一生の問題になります。 本人より早く高齢化する親が成年後見人になることは望ましいことではなく、弁護士等の専門家がなるべきですが、 本人の収入・資産から後見人報酬を支払う原則になっている点など (地域により報酬助成制度がありますが不十分)利用の前に検討すべき点も多く、 地元の弁護士会の高齢者・障がい者権利擁護センター等に相談されることをお勧めします。 [親や支援者の手続きの説明の補助、代筆] 本人の利益と意思に合致していることが大前提ですが、 噛み砕いた説明を受けても損害賠償について理解が難しい方、文字を書くことが困難な方などの場合、 ご本人の了解を得た上で家族や事業所の支援員等が代筆することも事実上はやむを得ない場合があると思われます。 家族・支援員・代筆者等が不十分な理解で本人の権利を損なうことのないように専門家等に十分相談しながら手続を進める慎重さが求められます。 問:就労継続A型で働いていましたが工場が半年間閉鎖されて給料をもらえませんでした。 賠償してもらえますか。 回答: 賠償を受けられます。 解説:障害者自立支援法でいう就労継続A型事業所(かつての「福祉工場」など)で働く人は事業所と労働契約を締結して 労働法上の労働者として賃金を受けています。そのため、一般の労働者と同じく、 原発事故に起因して休業や失業した場合、その減収分は賠償の対象となります。 問:就労継続B型(作業所)での工賃は賠償の対象ですか。 回答: 対象となると考えます。 解説:いわゆる「福祉的就労」と呼ばれる共同作業所・就労支援センターなど 障害者自立支援法での就労継続B型や地域生活支援事業での地域活動支援センター等 (以下便宜上「福祉作業所」といいます)で軽作業を行うなど「はたらく」ことで得られる「工賃」は、 現行法体系のなかで、「労働者の得る賃金」と同じ扱いとは言えません。 例えば、原発事故の影響で工賃の支払いがなくなったからと言って、ハローワークで失業保険の対象とはなっていません。 しかしながら、あくまで、損害賠償においては、加害企業の行為により被害者である利用者の工賃が失われたことは損失に他ならず、 損害賠償の対象になるはずです。 問:福祉作業所の工賃について、事業所がまとめて請求して利用者に分配することは出来ますか。 回答:利用者の同意(原則として書面が必要でしょう)がある場合に可能と思われます。 解説:これを一般の法律上の労働者の場合の対比で考えてみます。 原則的には次の考えとなります。 各労働者が得るはずだった賃金の損失は各労働者の持つ権利ですので、 雇用主が労働者の了解を得ずにその分の売り上げ減少分を東電に請求することは出来ません。 しかし、労働者側が雇用主からの不当な圧力などなく真意に基づき 了解をして東電に対する職員への賃金分も併せて請求する権限を雇用主に委託して、 雇用主が東電から受領した分を職員に賃金相当分として配分することも例外的には有り得ないことではありません。 福祉作業所の工賃についても、各利用者が個別に請求することが困難なことから、 利用者から委任を受けて事業所がまとめてその分も東電に請求することは、賃金の場合以上に有り得るやり方かもしれません。 但し、そのようなやり方を行うならば、そのことを十分に利用者とそのご家族に文書や説明会等で説明して了解を得て、 あくまで利用者の利益と意向に基づくやり方で行うことが必要です。東電側にもその趣旨を正しく文書で伝えておく必要があります。 また、福祉の分野でも利用者の権利を損なう不祥事、障がい者に対する経済的な搾取等の事件は少なくありませんので、 その実施が第三者からも公正とみられるように弁護士等の助言も受けながら透明性をもって進めることが望ましいと思われます。 問:避難に伴い介護や支援の時間が増加しました。その損害は誰かに請求出来ますか? 回答: 東電に請求可能です。 但し、第二章で解説したように審査会の指針では、そのような特別の事情を特に立証できた場合に限り加算が可能であるとされており、 障がい者ならではの生活上の不利益・苦難の実情を書面で説明することなどが必要となります。 解説:避難所、仮設住宅、借り上げ住宅等、生活環境が激変し、 従来暮らしていた居宅等で築いてきた生活スタイルが破壊されました。 例えば、視覚障がいの方は長年通い馴れることで一人で白杖で歩けるルートだったけれどそれもままならなくなり、 ガイドヘルパーなくしては外出も出来なくなり、人間らしい生活が出来なくなり、 介護の費用もかさみ、周囲に知り合いも少なく、 家の中で塞ぎこむことも多くなって毎日が苦痛である。 そんな状態の方は多くいらっしゃると思います。 それらの介護費用の増加、避難生活に起因して新たな社会的な障壁と闘うことを余儀なくされる苦痛は障害のある人ならでは損害です。 それらの個人ごとに直面した被害の事情を説明して、被った個別の事情に見合った損害賠償を受ける権利があるはずです。 審査会のいう「特別な事情を立証した場合に限り賠償の加算が認められる」という説明に当てはまる事項です。 とはいえ、東電はもちろん、もしかすると紛争解決センターでも、賠償問題を早く解決したいことから、 画一的な基準で処理をして、障がいに伴う様々な困難、苦痛などへの賠償は基準内に収めようとする方向になることが危惧されます。 それらを加害企業である東電や紛争解決センターに納得させるための事情説明の文書作りなど、障がい者個人で行うことはなかなか大変です。 周囲の支援員なども賠償問題に理解を深めて頂き、共に悩みながら助言、協力しあって賠償問題に取り組むことが必要と思われます。 弁護会も出来る限りの努力は致しますが、全ての被害にあった障がいのある方へのマンツーマン対応までの体制は難しいのが現状と思われますので、 福祉の分野の支援員・相談員・社会福祉士等の福祉専門職など 各位が互いの専門性の長所を活かしながら協力して進めていくことが今後さらに必要と思います。 問:介護の必要時間の増加を行政に請求することは出来ますか? 回答:出来ると考えます。 解説:介護の増加という問題で、原発から約50キロ地点付近の田村市に居住する40代の脳性まひの女性が 避難に伴う障害者自立支援法の介護支給量の増量申請が市から却下されたため、県に審査請求(不服申し立て)を申立て、 2011年12月27日に福島県は「市の調査が不十分」として却下処分を取り消したという事件があります。 このように障がいのある人は、障害者自立支援法等の公的な支援制度に基づき行政に対して 原発事故を含む災害に起因する必要な介護・支援を求める公的な権利があります。 他方、東電の原発事故に起因している介護費用の増加を直接東電に対して賠償請求することも認められるべきです。 公的な負担を増加した部分を行政が東電に求償請求することも可能と考えられます。 但し、障がい者が同じ期間の同じ介護費用を東電と行政に二重請求は出来ないと思われます。 問:自閉症の20歳の息子がいて、避難所での共同生活が出来ないため、自家用車の中で家族みんなが震災後2週間過ごしました。 そのような家族の精神的な苦痛は賠償してもらえるのですか。 回答:個別的な精神的損害として家族も本人も賠償請求出来ると考えるべきです。 解説:このような事態は大きく報道されましたし、福祉関係者からも沢山あった事態であると聞いています。 生活環境の変化が苦手な発達障がい者にとって原発事故による生活の激変は耐え難い精神的苦難であり、 そのために家族も一緒に狭い空間での非人間的な生活を強いられた以上、ご家族の精神的な損害にも当たりますので、 それらは、審査会の示している「目安」を超えて適切に評価されて賠償されるべきです。 問:精神障がいの家族が避難生活の影響で生活環境が変わって不安になったようで突然泣き出したり、 暴れたり、症状が悪くなりました。本人と家族に対する賠償はされますか。 回答:されるべきです。 解説:そのために必要になった診療代、薬代等の実費はもちろん、本人の障がいの悪化、 心身症状の悪化という大きな苦痛であり、原発事故による個別的な損害ですので、 症状や障がいの悪化に伴いご家族による世話、支援などの労務提供や精神的負担が増えたことの個別事情を合理的に説明できれば、 それらは、審査会の示す「目安」を超えて、適切な金額が本人及び家族に賠償されるべきです。 問:東電の賠償の書式に点訳版はありますか。 回答:日弁連が問合せたところ、点訳版の用意はないということでした。 解説:点訳を情報取得の方法とする視覚障がい者にとって、「墨字」の書面を配布しただけでは、 賠償に関する説明が東電からなされないことを意味します。 平成23年8月5日に施行された改正障害者基本法第3条第3号は「全て障害者は、可能な限り、 言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、 情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られること。」と規定しています。 この法律を守るべき義務・責務のある機関は原則として国と地方公共団体ですが、 第4条は第1項で「何人も、障害者に対して、障害を理由として、 差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。」としており、 民間会社であっても、障害を理由とした権利の侵害は禁じられており、同条第2項では、 障がい者に対する社会的障壁の除去について合理的な配慮をするべきことが規定されています。 今回の東電の市民に対する責任の重大性と改正障害者基本法の趣旨に鑑みると、 視覚障害者に対する賠償の説明文書に点訳版を全く用意しない東電の対応は問題があると言わざるを得ません。 今後、弁護士会としても東電に対して、 点訳による賠償説明文書を用意することは法令に照らしての加害企業の責任であることを指摘していくべきと講師らは考えております。 問:紛争解決センターの書面は点訳版がありますか。手話通訳は配置されていますか。 回答:日弁連が問合せたところ、「点訳版の用意はない」という回答でした。 また「手話通訳者も配置されていない」とのことです。 解説:この点も上記した改正障害者基本法の趣旨、 紛争解決センターは公的機関であり当然改正障害者基本法を遵守するべき義務・責務があることからして、 点訳による書面が容易され、手話通訳者も配置されるべきと講師らは考えており、 この点も弁護士会からの改善要求等を更に進めていきたいと思います。 第四章請求の方法(手続)  問:請求の方法は東電に書類を提出して支払いを待つということですか(請求の方法の種類の説明)。 回答:東電への請求以外にも和解仲介申立や民事訴訟などの方法があります。 解説:以下の方法が考えられます。 @東電に対する本人による直接請求 当初、膨大な請求書面が批判を受けていましたが、簡単ガイドが作成され、若干請求しやすくはなっています。 もっとも、加害者が賠償額を定めるという特異なもので、基本的には賠償の最低基準である中間指針の枠を超えないものであり、 賠償額が低額化する傾向があり、完全賠償の実現が期待できません。 A東電に対する代理人による請求 @と同様ですが、書類作成の手間が軽減されます。もっとも一定の弁護士費用を負担する必要があります。 B原子力損害賠償紛争解決センターに対する和解仲介(ADR)申立 詳細は後述のとおりです。 第三者委員による和解の仲介がなされることから、被害者側の主張を一定程度汲んでもらえる可能性があります。 申立手続は簡単な書式が日弁連で用意されています。 期日への出席もありえますが、センターが東京と郡山に限られてしまっている点は問題です。 但しこれら以外の市町村にも出張することがあり得ます。和解仲介案に対し不服であれば拒否することが可能です。 東電も拒否することが理論上は可能ですが、基本的には東電が和解案を受け入れることが期待されています。 なお弁護士に依頼する場合はAと同様です。 C集団請求 同じ環境にある被害者による集団請求が考えられます。 同様の問題を抱えた人の請求書は同様の書き方で済むため、悩まず申し立てることが可能です。 D訴訟 東電の賠償基準やADRの和解仲介案に不服がある場合に行うことになります。裁判所による判断であり、 その結果は東電を拘束するという強い効力を持っています。もっとも、時間や費用がかかります。 また、東海村の臨界事故の事例を見ると、余り良い判断はなされていないのが現状です。 Eその他 問:「原子力損害賠償紛争解決センター」ってどのようなものですか。 回答:東電とは別の、損害賠償に関する和解の仲介を行う期間です。 解説:原子力損害賠償紛争審査会による和解の仲介を迅速に行うべく、 平成23年7月27日、原子力損害賠償紛争審査会の組織等に関する政令の一部を改正する政令が公布、 施行され、原子力損害賠償紛争解決センター(ADR、以下「原子力紛争解決センター」という)が設置されることとしました。 原子力損害賠償紛争審査会の委員の数が10人以内とされているため、審査会に特別委員等を置く等の措置を講じるというものです。 原子力損害賠償紛争審査会が行う和解の仲介の手続きは、事件ごとに1人又は2人以上の委員又は特別委員によって実施することとし、 2人以上の仲介委員が和解の仲介の手続を実施する場合には、当該和解の仲介の手続上の事項は、仲介委員の過半数で決することとなっています。 ○センター事務所の所在地など [福島事務所] 〒963-8811 福島県郡山市方八町1-2-10(郡中東口ビル2階) 原子力損害賠償紛争解決センター 福島事務所 [東京事務所] 〒105-0004 東京都港区新橋1-9-6(COI新橋ビル3階) 原子力損害賠償紛争解決センター 東京事務所 お問い合わせ先 原子力損害賠償紛争解決センター 電話番号:0120-377-155 (平日10時から17時) ※ 聴覚に障がいのある方その他、電話によるお問い合わせが困難な特段の事情がある方は Eメールにて右記のアドレスまでお問い合わせくださいとHPで記載されています。 Eメール:chukai@mext.go.jp 問:「原子力損害賠償紛争解決センター」の申立てにあたって費用はかかりますか? 回答と解説: 申立て・和解の仲介に関する手数料は不要の扱いです。 ただし、紛争解決センターに提出するための書類の作成費用、 郵送費用、期日出席のための交通費、弁護士等の専門家に依頼した場合の費用などは当事者各自の負担です。 問:避難が続いている以上、途中で請求してお金をもらってしまうと、 示談になってそのあとは請求出来なくなるんではないですか。 回答と解説: 期間、損害費目を区切り、これ以外に請求する可能性があることも明示し、 合意書の追加請求不可の記載も内容に注意すれば、後に請求できなくなるという事態を避けることができます。 原子力損害賠償手続については、通常事件より弁護士費用が低額になる可能性が高いので、 不安であれば弁護士への依頼をお勧めします。 問:双葉町の人は自治体が弁護団に賠償請求実務を委託してくれたと聞きましたが、 他の地域の住民は同じように出来ないのでしょうか。 回答:双葉町と同様にはできません。 但し、現在福島県を含む各地に弁護団ができておりますので、こちらに委任することが可能です。 また、福島県弁護士会の原子力発電所事故被害者救済支援センターを通じて弁護士の紹介を受けることも可能です。 解説:双葉町については、双葉町の肝入りで双葉町弁護団が立ち上がりました。 しかし、厳密な組織ではなく各地の弁護団等の緩やかな連合体というのが実情であります。 今後については双葉町弁護団において説明会兼個別相談会を開催し、 原則として「原子力損害賠償紛争解決センター」の申立ての助力をするとともに、 同申立を双葉町弁護団所属の弁護士に依頼した場合の着手金2万円のうち1万円を双葉町が補助するという制度です。 他の市町村においては双葉町と同じような制度は存在しませんが、 現在福島県を含む各地に弁護団ができておりますので、こちらに委任することが可能です。 また、福島県弁護士会の原子力発電所事故被害者救済支援センターを通じて弁護士の紹介を受けることも可能です。 問:弁護士に賠償の件を一任してしまうと面倒でなくなると思うのですが、 弁護士に支払う費用はどうなるのですか。 回答と解説: 弁護士に支払う費用は原則として個々の弁護士によってまちまちです。 もっとも、被災者支援のため、福島県弁護士会の原子力発電所事故被害者救済支援センターを通じて 個別に弁護士を依頼して東京電力への直接請求またはADR申立を行う場合には、 法テラスの民事法律扶助の資力要件を満たす方についてはその利用が推奨されており、 この場合、着手金36,750円、実費10,000円ですが、報酬は2.1%(消費税込)と通常事件より安くなっております。 また、多くの弁護団では、概ね、受任時に費用として10,000円、 報酬として5.25%(但し訴訟による解決の場合10.5%)とされているようであり、 こちらも通常事件よりも安くなっております。 問:結局のところ、今後どうしたらいいでしょうか? 回答:一人で悩み込まないで、信頼できる福祉支援者等と話し合いながら、 専門的な部分については、弁護士のアドバイスを受けながら進めていくことを お勧めします。 「障がいを持つ人、一人ひとりに対応してくれる相談員が欲しい」 「一人では書けないので、書き込んでくれる人が必要」等の声に応えられるような体制をどうしていくか、 被災者支援に関わる関係団体、専門団体等がさらに協力して 構築していくべき課題であると現状では言わざるを得ません。 第五章【各種窓口情報】 事件を受ける弁護団 ○福島県弁護士会 原子力発電所事故被害者救済支援センター TEL 024−533−7770 (平日 10:00〜15:00) (つながりにくいこともありますが,御了承ください。) URL http://business3.plala.or.jp/fba/sinsai_soudan/pdf/kyusaisien.pdf ○東京 原発被災者弁護団 TEL 0120−730−750 URL http://ghb-law.net/ 電話相談窓口 福島県弁護士会 震災・原発無料電話相談 実施日 平日 14時〜16時 電話番号 福島 024−534−1211 郡山 024−925−6511 会津若松 0242−27−2522 いわき 0246−25−0455 第六章 参考資料 【被災者ノート】 問:被害の状況はどのように書きとどめるのかのイメージがわかりません。 具体例で教えてください。 回答:原発事故の被害者の方々の多くは、法的に損害賠償請求をするなどということと 無縁の生活を送ってきたもので、損害賠償請求の内容、方法等についての情報も少なく、 戸惑いを隠せない状況であると思われます。 そこで、福島県弁護士会では、原発事故の被害者が東京電力に対する損害賠償請求を 行うにあたって、その手続に少しでも資するよう、 「福島県原子力災害被災者・記録ノート」(通称「被災者ノート」)を 作成いたしました。 この「被災者ノート」は、原発事故被害者が損害賠償請求をするときに 必要と思われる事項を書きとめておき、後の主張・立証が容易となるよう工夫して 作成したものです。 表紙裏面の「ご利用上の注意点」をよくお読み頂いたうえ、 ご利用頂きますようお願いいたします。 次の福島県弁護士会のHPに掲載されています。 http://business3.plala.or.jp/fba/sinsai_soudan/hisaisya_note.html 【やさしい原発事故損害賠償申出書】 問:賠償の申出について、むずかしい書面でなく、 わかりやすいやさしい書式はありませんか。 回答:弁護士有志で作成した書式があります。日弁連の次のHPに掲載されています。 http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/special_theme/data/form.pdf