JDF-日本障害フォーラム-Japan Disability Forum

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2015年12月8日 JDF全国フォーラム 「~権利条約批准から2年~差別解消法施行によってどう変わる、私たちの暮らし」
シンポジウム(2)権利条約批准から2年 国内施策の到達点と政府報告への対応

パネリスト 勝又幸子(国立社会保障・人口問題研究所 情報調査分析部長)
タイトル 障害者権利条約批准から2年 ~条約実施上の課題~

「権利条約の批准の意義とその後の関連動向について」

権利条約批准の意義はいうまでもなく、社会を変えていく道具を一つ得たことだとおもう。 条約を批准しただけで社会は変わらない。条約批准を、いかに有効活用するかが課題だ。 今日は有効活用するために不足していると私が考えることを2点指摘したい。

<PPT2 何が不足しているか?> ※パワーポイントのデータはこちら(PDF形式)

「権利条約の政府報告書案の評価」

第23回(7月10日)の政策委員会で参考人として意見を述べさせていただいた。 その内容は、政策委員会が9月にだした「論点の整理」にも多く言及していただいたと評価している。 しかし、直近の政策委員会(第27回10月26日)に提示された第1回政府報告案ではほとんど使ってもらっていないようにおもう。 ただ、同時にだされた事務局案では障害者に関する統計について追加意見として以下を加えることが提案されていて、 内容としてはよいとおもうが、これが12月18日今年最後の政策委員会ででてくる最終政府案の本体には入らず、 巻末に、政策委員会からのコメントとしてしか掲らないらしいということをきいてがっかりしている。

<PPT.4 第31条 事務局提案追加文案>
<PPT.5 PDCAサイクル 統計の整備と監視>

政策の監視・評価に使える水準の統計、国だけでなく地方公共団体でも使える統計が重要だ。 使えるというのは具体的にはPDCAサイクルにおいて活用できるという意味。 PDCAというのは英語の頭文字をとってそう言っているが、 ようするに、従来の実績や将来の予測などをもとにして計画を作成する。 プランのP、計画に沿って政策を行う。実施のD、実施が計画に沿っているかを確認する、 点検・評価のC、そして実施が計画に沿っていない部分を調べて対処する改善のA、です。 これらの4つの行程をつなげて継続的に政策を進めていく方法だ。

2014年の第3次障害者基本計画がPで、いま政策委員会は実施、つまりDのステージにいる。 これから、政策委員会による計画の進捗状況の確認、つまりCのステージに移行するときだが、 Cに本格的に取り組んでいるとはいえない状況で、 第1回の政府報告書を国連の障害者権利条約委員会に提出することになっていると私は理解している。 だから、政府報告書はいろいろやっていますとは書けても、 計画したことがどう達成されて効果があったかまでは言及できていない。

ではPDCAサイクルで活用できるデータ・統計の充実、というのはどういうことか、それは3つある。

<PPT.6 活用できるデータ・統計とは?>
<PPT.7 何をどうすればいいのか?>

まずはじめに、各種権利や目標を明確に表現できるもの、その指標を考える必要がある。 たとえば、完全な社会参加、その指標は単に障害者法定雇用率の達成だけでいいのか? どんなところが変わると障害者の社会参加がより鮮明に見えてくるか?を考えてデータを整備していく必要がある。

二つ目、他の者との平等をうたっている障害者権利条約だから重要なことだが、 「人口全体や非障害者との比較ができるもの」が必要だ。 これは、まさに参考意見表明で言及した、国勢調査のなかに障害の変数をいれることだ。 国勢調査に障害について聞く設問をいれることを提案したいと言ったら、 統計委員会に参加している有識者から「なにを考えている!ありえない」と即否定されると思う。 それくらい、国勢調査に新しい質問をいれるのは難しいことだ。 だからこそ、研究者が個人で主張してもだめで、障害者政策委員会として、 内閣府を通じて、統計委員会に働きかける必要がある。

そして三つ目、政策実施の現場で必要なデータを得られるようにする仕組みが必要、 これは、いまある調査やデータを活用しやすくするということ。 これについては、私が政策委員だったころに提案して、 新「障害者基本計画」に関する障害者政策委員会の意見(平成24年12月17日 p.77)に言及された。 統計基本計画のなかで、障害者政策に有効なデータや統計の整備を入れるという方法。 それによって、統計を所管するすべての省庁が、自分のもっている統計データの利活用を積極的に行うようになる。 統計委員会は5年の基本計画のフォローをしっかりやっている。 計画に障害者の政策評価に利活用できる統計の整備の文言をいれることができたら、 厚労省だけでなくあらゆる省庁が毎年どこまでなにをやったかを報告させられる。 そうすることで、障害者の政策評価などに有効な統計の整備が大きく進むだろう。

現在、統計基本計画は第2期が実施されているが、これが平成29年(2018年)に終わる。 それに先だって、2017年度は第2期の点検評価に加えて、第3期への意見だしが始まる。 統計基本計画は統計法のもと、公的統計の改善意見をだしているから、 そこに、障害者政策委員会として内閣府を通じて意見を出すことが重要だ。 この方法は、第2期基本計画のときに、男女参画会議が内閣府男女参画局を通じて、 統計委員会への意見だしとヒヤリングを行うことによって、 計画に男女別統計の整備やジェンダー統計の重要性を反映させることができたことと同じ方法だ。

最後に、条約実施上の課題として、不足していると私が考えることの2つめは、 障害者だけで完結しない課題への対応だ。 障害者の問題は人権問題であって、性差別や人種差別、あらゆる形態の人権にかかわりまた相互に関係する問題だ。 だから、他の「人権規約(条約)」との連携において、問題の解決や政策の推進をしていく必要があると思う。

<PPT.8他の「人権規約(条約)」との連携>

同じ人権規約での連携の例としては、たとえば、 国連の子どもの権利条約と女性差別撤廃条約の連携が行われ、 一般勧告という形で、強いメッセージを国際社会に出した例がある。 (内容としては「有害慣行」女性性器切除、児童婚 強制婚など)今まさに、 女性差別撤廃委員会で、第9回目の日本政府審査が行われて居るが、 ここに、DPI女性障害者ネットワークが、意見を出し、 複合差別の問題意識が日本政府に欠如していることを訴えようとしている。 この活動は、性差別と障害者差別をまたがって、 また2つの社会課題を繋いでいく活動であり、重要だと思う。

女性障害者たちがやろうとしていることは単に女性差別の解決ではない。 女性差別撤廃委員会から障害者権利委員会につなぎ、 そして国際人権規約の日本審査へとつなげていくことができれば、 障害者問題を、人権問題のメインストリーム化する、 つまり、人権の問題を議論するときには必ず、 障害者の問題が議論されるというように変えていくことができるとおもう。

会場からの質問:新たに調査やデータをとるよりも、 政策実施の現場で必要なデータを得られるようにする仕組みが必要。 との意見だが、これは公的な調査だけでなく、 民間がやっている調査についても利活用すべきだと思うが、どうか?

回答:民間、団体や研究者が公的研究費をもらって実施する調査もたしかに有効活用すべきだとおもう。 その場合気おつけなければならないことがある。 最近は調査を行うことに対する倫理審査が厳しくなっている。 調査結果を当初の利用目的以外に使う場合には、 事前に回答者にそのむね了解を得るような手続きは倫理審査上必要になってくるだろう。

※当日の発言内容を一部補筆してまとめています。

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