JANNET障害分野NGO連絡会 「JANNET30周年記念特集」第2弾 メールマガジン 第244号 2月号 2024年2月29日発行 ―目 次―  トピックス 〜JANNET30周年記念講演 登壇報告〜 1. アジア太平洋地域の国際協力について:これまでとこれから(中編) 立命館アジア太平洋大学 教授 山形 辰史 〜JANNET30周年記念講演 登壇報告〜 2. 東アジアとの交流から得られたもの‐「朋友」と呼ばれて‐ 日本障害者協議会 政策委員 磯野 博 〜第18回「リハ協カフェ」登壇報告〜 3. 3Dプリンタで作成する自助具について 国立障害者リハビリテーションセンター研究所 硯川 潤 インフォメーション 1. 国連障害者の権利条約(UNCRPD)締約国情報 2. JANNETホームページのアドレスが変わります! トピックス 〜JANNET30周年記念講演 登壇報告〜 1. アジア太平洋地域の国際協力について:これまでとこれから(中編) 立命館アジア太平洋大学 教授 山形 辰史   前編では、日本が1990年代にトップ・ドナーになったにもかかわらず、国際社会のリーダーたる理念を示していなかったことから、その理念形成のために政府開発援助大綱が制定されたことを示しました。その後日本政府は、国際協力を日本の安全保障のための政策手段と位置づけていきます。2014年に国家安全保障戦略を初めて策定したのに引き続き、2015年には、政府開発援助大綱を「開発協力大綱」と改名したうえで、「開発協力」という新しい概念を創出しました。 開発協力とは、上の図に示したように、政府開発援助を拡大した概念でした。第一に、日本政府は多額の債務を抱えており、国民も増税に強い拒否反応を示しているため、「日本政府以外のアクターに活躍してもらい、政府は”触媒”役に徹する」ことを方針としました。「開発協力」には、民間部門や地方自治体、日本のNGOの支援も含める、と定義されました(上図の横軸)。第二に、支援先として、開発途上国のみならず、中・高所得も対象としたり、開発途上国の貧困層を受益者としたビジネスを行っている日本の中小企業も対象とすることにしました(上図の縦軸)。 さらに、「国益」という語を初めて大綱に取り入れ、日本の国際協力が日本の国益のためになされている、ということを仄めかしました。 2022年に国家安全保障戦略が改定されると、開発協力大綱も2023年に改定されます。2023年に改定された開発協力大綱においては、「国益」が日本の開発協力の「目的」として明確に位置付けられました。これによって、開発協力による国益達成が必須条件化された、と言えます。 さらに、日本側の利益を確実にするために、新たに「オファー型協力」を導入しました。これは形骸化していた「要請主義」をより弱め、日本が「したい支援」を「オファー」(提案)することによって案件形成を進める方法です。外務省は、2023年大綱が閣議決定された直後に、「オファー型協力について」と題する9ページにわたる資料を公表し、具体的に、日本のどの機関が「オファー」すると期待されるか、そして、どのようなプロセスでオファー型協力を実施するか、などを明示しています。 これまで述べてきように、筆者は開発協力大綱の国益重視的な姿勢に批判的なのですが、そのような批判を述べた際に、反論を受けることがありました。反論の例としては@日本が行う国際協力から日本が利益を得るのは当然なのではないか、A日本人のコンセンサスをまとめるには、自分の意見だけを主張していてはいけないのではないか、が挙げられます。これらの反論がなされる背景を自分なりに考察したいと思います。 「日本が行う国際協力によって日本が利益を得る」ことを当然と見なす見方の一部は、援助の目的としての「文明の使命」論を否定するところに発していると私は考えています。「文明の使命」論とは、イギリスの作家であるRudyard Kiplingなどが、「開発途上地域は未開なので、その未開地に対して文明人が支援して、啓蒙するのは文明人の責務だ」とした見方です(Kipling 1899)。現在この見方に賛成する人はいないでしょう。しかし開発や貧困削減に気負う余り、受益者の人々の意志や文化や知恵などを無視した形で国際協力が行われることは、過去、実際にあったわけです。このようなやり方の国際協力は厳に慎むべきだ、とするの文明の使命批判論です。この批判論自体は全く正しいと私は思います。 一方、この批判論を強く意識して国際協力を行った多くの方々が、「国際協力に携わることによって、自分が学ぶことが多かった」ということを指摘しました。さらに、先進国が開発途上国に一方的に支援する状態は不自然であり、お互いに学び合うような形で、支援する側も成長する方が自然だ、という見方も現れました(中村 2006)。これらの見方は全く正当だと思います。 しかし、このように「支援する側にも学びがあってよい」という文明の使命否定論から導かれた含意が、「支援する側が利益を得るのは当然だ」という見方を生んだと私は考えています。近年「Win-Win型国際協力」という言い方がしばしば用いられます。私は、この概念への抵抗感が小さいのは、文明の使命論否定の志向が強すぎて、「自らも学んだ」という謙虚な姿勢が、「援助する側も利益を得るのは当然」という意図せざる含意を生んでしまったからだ、と私は解釈しています。(次号、後編に続く)   引用文献 Kipling, Rudyard (1899), “The White Man’s Burden.” McClure's Magazine. Vol. 12. No. 4. February. pp. 290-291. 中村尚司 (2006)「贈与と借款の功罪」(村井吉敬編『徹底検証ニッポンのODA』コモンズ)267-290ページ。     〜JANNET30周年記念講演 登壇報告〜 2. 東アジアとの交流から得られたもの ‐「朋友」と呼ばれて‐ 日本障害者協議会 政策委員 磯野 博   <東アジアとの交流の契機> 私が東アジアの方々と交流することになった契機は、まさに偶然ともいえるものでした。それは、日本障害者協議会 政策委員会で小耳に挟んだ「中日障害者NGOフォーラム」(JICA 主催・21世紀ホテル)に松井亮輔先生、田中徹二先生、そして上野悦子さんたちと一緒に参加したことです。実は、私の父は戦前の中国 大連生まれであり、敗戦直後、命辛々、何とか無一文で日本に戻った「引揚家族」だったのです。そんな父が生まれた中国を一度は見ておきたいとぼんやり思っていたことに加え、フォーラムが開催された2008年は北京夏季オリンピックの年、観光するには絶好の機会ということもありました。 「縁とは異なもの味なもの」といいますが、このような不純な動機とはいえ、翌年には「情報アクセシビリティーフォーラム」(中国点字出版社・産業経済省 共催・北京飯店)への参加と報告のお誘いがあり、それからは毎年のように中国や韓国を訪問するようになりました。   <中国・韓国との研究交流> 中国や韓国との研究交流は、日中韓社会保障国際論壇への参加と報告によって培われたものです。中国の北京、大連、南京、そして韓国のソウル、ウォンジュなど、毎年のように国際論壇では障害者政策の報告をさせて頂き、国外で日本の社会政策に関して語ることの難しさを骨身に染まされました。しかし、これは私にとって貴重な経験であり、「修行」ともいえるものです。当然ですが、日本での全体像を鳥瞰できていないと各論は語れません。また、報告内容に関するパートナー国の概況を知らないと議論は噛み合いません。技術的にも、通訳者・翻訳者と綿密な打ち合わせをしておかないと大変なことになります。特に専門用語は文節や文章で丁寧な説明をしないと通じないこと、英語で表現するにしても相手の留学先によって英語表現が異なることなど、大恥を掻くことには枚挙に暇がありませんでした…。 <「朋友」と呼ばれて> 思わぬ訪中から15年、中国や韓国など、東アジアと日本との関係は微妙な時期もありましたが、私たちの関係は今でも揺るぎありません!これらの交流を通して私が得た一番好きな言葉は「朋友」です。 国内を移動するのも儘ならないコロナ禍、中国や韓国に行くことは夢のまた夢、国際論壇もオンライン開催されるか延期を余儀なくされました。そのような困難な状況でも相互の連絡を欠かすことはありません。新型コロナウィルスの感染状況や防疫対策、学生の留学や帰国の相談など、国によっては口にするのも微妙な話題も多々ありましたが、お互い、できる限りの支援をしあいました。その際、メールに添えられているのは「あなたは私の朋友だから…」という一文です。「朋友」、日頃使うことのなかったこの言葉は、私がコロナ禍を乗り越える大きな原動力になっていきました。   <次世代を担う若い仲間へ> コロナ禍、私たちの生活様式は一変しました。そのひとつがオンライン会議の普及であることはいうまでもありません。交通費も時間も掛けず世界と繋がるオンラインの便利さ、これが、私たちのように海外に旅立つ機会を若者から奪うことにも活用されていることには心が痛みます。一方、日本の学生が海外留学を希望しなくなって久しいことも懸念されます。僅かな経験ですが、私が東アジアとの交流から得られたものは、実際に海外に出向くことです。そして日本のことを発信することです。それは外国人として日本を見詰め直し、自らを成長させる原動力になることは間違いありません。 このシンポジウムに参加している若い仲間がJANNETと日本の国際交流の「これからの10年」を担ってくれることを期待して止みません。          〜第18回「リハ協カフェ」登壇報告〜 1. 3Dプリンタで作成する自助具について 国立障害者リハビリテーションセンター研究所 福祉機器開発部 福祉機器開発室長 硯川 潤 ※去る2023年9月22日に開催した、(公財)日本障害者リハビリテーション協会主催『第18回「リハ協カフェ」』にてご登壇いただいた内容を、まとめていただきました。   近年、工学を専門としていない方でも3Dプリンタという言葉を耳にすることが増えてきたのではないでしょうか。3Dプリンタは積層造形法 (additive manufacturing) と呼ばれる加工方式を採用した装置の総称です。主要な特許の有効期限切れをきっかけに、2000年代後半から安価な装置が市販化され始めました。今では、医療や航空宇宙分野のような高付加価値の製品から、フィギュア製作やDIY (do it yourself) のような趣味の用途にまで広く活用されています。リハ協カフェでは、この3Dプリンタで自助具を製作する試みについて、現状とその利点を紹介しました。 積層造形法という名の通り、3Dプリンタは1層ずつ素材を重ねることで、所望の形状を造形します。自助具製作によく用いられるFDM 方式では、熱で溶かされたプラスチックが細いノズルから押し出され、各層が形成されていきます。ノズルの動きはモータで精密に制御され、細かく複雑な形状も容易に造形できます。 筆者はこれまでに、所属する国立障害者リハビリテーションセンターの入所者を対象とした3Dプリント自助具の製作・評価に取り組んできました。作業療法士が製作していた自助具のうち、3Dプリンタでの製作に適したものを置き換え、入所期間中使用してもらいました。これまでに、のべ100点以上の3Dプリント自助具を製作・評価できました。平均で1年半程度の評価期間中、3Dプリント自助具は高い耐久性を示し、満足度も従来の自助具と同程度でした。3Dプリンタを自助具製作に用いることの有用性を示せたと考えています。 これらの取り組みの中で、3Dプリンタを導入することの利点も明らかになりました。まずは、既存の自助具の構造を精度良く、高い強度・耐久性で複製できる点です。担当作業療法士の得手不得手にかかわらず、均質な自助具を供給できました。次に、既存自助具の一部を、新たなより良い機構で置き換えられる点です。手作業では難しい造形が可能になり、より使い勝手の良い自助具を実現できました。最後に、これまでは製作できなかった、新たな機能の自助具を開発できたという点です。3Dプリンタの導入で、あきらめられていた動作や活動を補助する自助具を提案できました。 自助具製作の在り方を大きく変える可能性のある3Dプリンタですが、その普及はまだまだこれからという段階です。しかし、3Dプリンタ自体の進化もさることながら、生成AIのように、使い方を支える技術も大きく発展しつつあります。普及を促進するために、目まぐるしく変化する技術環境をしっかりとフォローしていく必要があります。その一方で、利用者に適合した自助具をつくる、という目的自体は決して変わりません。技術に振り回されることなく、利用者視点で取捨選択していくことも重要です。     ******************************************************************************** インフォメーション 1.国連障害者の権利条約(UNCRPD)締約国情報 (関連サイト:http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/right.html) 署名国・地域数164/ 締約国・地域数 190 (2024年2月末現在) https://treaties.un.org/Pages/ViewDetails.aspx?src=IND&mtdsg_no=IV-15&chapter=4&lang=en 2. JANNETホームページのアドレスが変わります! JANNET事務局運営を行っている「日本障害者リハビリテーション協会」のサイト全体が、この度、新しいサーバにお引っ越しいたします。 それに伴い、JANNETホームページのアドレスも変更になります。 広報をされる際など、ご案内をよろしくお願いいたします! 以下が新しいアドレスになります。 ホームページはこちらのアドレスで稼働中です。 https://jannet-hp.normanet.ne.jp/     (現在のアドレスは以下です。) https://www.normanet.ne.jp/~jannet/ 2024年 3月 6日(月)からは現在のアドレスにアクセスできなくなります。ご注意ください なお、今後、新しいシステムを導入予定です。新システムが導入されると、もう少しアドレスが短くなる予定です。その際は、改めてJANNET会員メーリングリストなどでご案内させていただきます。 どうぞよろしくお願いいたします!     編集後記 今月号も色々な学びを得る内容でしたが、磯野先生の講演にありました、オンラインが海外に旅立つ機会を若者から奪うことにも活用されている、という指摘には考えさせられました。私たちも頻繁にオンライン会議を行いますが、ある程度のメリット・デメリットは、見えてきた気がします。例えば研修の提供という観点では、「オンライン外」での交流、直接触れあう機会がどうしても欠けてしまいます。これは障害の有無を問わず当てはまる気がします。現地で同じ時間・空気を共有する肌感覚とでも言いましょうか。それは現地に赴かなければ知り得ない「リアル」なのですよね。オンライン会議や授業に当たり前のように接してきている若い方々が、私のようなおじさん世代の想像を超えるような、国際交流の潮流をつくっていくことに期待したいものです。 (小林 真悟/JANNET広報・啓発委員) JANNET事務局では、会員の皆様よりメールマガジンに掲載する国際活動に関する情報を募集しております。団体会員様のイベント情報などありましたら事務局までご連絡ください。 JANNET障害分野NGO連絡会  〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会内 【JANNET事務局直通】 TEL:03-5292-7628 FAX:03-5292-7630 新URL: https://www.normanet.ne.jp/~jannet/ ↑ホームページのアドレスが変わります!ご注意ください。 以上