JANNET障害分野NGO連絡会 メールマガジン 第219号 12月号 2021年12月28日発行 ―目 次―  トピックス 〜会員団体活動紹介を終えて〜 1. 障害がある人も誰も取り残さないインクルーシブ社会の実現を -「JANNETメールマガジン」の新企画とJANNETの今後の活動に向けて- 障害分野NGO連絡会(JANNET) 会長 清水 直治 2. 第24回RI世界大会発表報告 「地域で働く実践家から見た、国際学会参加を通した国際貢献と臨床に持ち帰るもの」 医療法人丹沢病院 精神保健福祉士 湯沢 由美 3. NGOから始まったボトムアップ 〜母子健康手帳のベトナムへの導入〜 ベトナムの子ども達を支援する会 事務局長/ 国際母子手帳委員会 事務局長 板東 あけみ 4. CBID国際シンポジウム開催報告 公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 国際課 宮前 ユミ インフォメーション 1. 国連障害者の権利条約(UNCRPD)締約国情報 イベント情報 1. 第10回「リハ協カフェ」 2022年2月25日(金) トピックス 〜会員団体活動紹介を終えて〜 1. 障害がある人も誰も取り残さないインクルーシブ社会の実現を -「JANNETメールマガジン」の新企画とJANNETの今後の活動に向けて- 障害分野NGO連絡会(JANNET) 会長 清水 直治   JANNETの広報誌である「JANNETメールマガジン」は、2020年4月に通巻第200号記念号を発行するに至り、2019年9月から連載が始まったJANNET加盟団体の活動を紹介する企画も、このたび第218号をもって完了いたしました。掲載された24の加盟団体の記事を改めて読み返してみると、障害のある人たちを含む多彩な活動が世界各地で実施されており、加盟団体の多様性とそれらの活動に通底する使命感に溢れた熱い思いが伝わってきました。 2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」は、ご承知のように、「誰一人取り残さない」という理念のもとに、2030 年を目途に達成すべき17目標を定め、地球規模での変革を目指しています。しかし総じて、障害分野のSDGsの取り組みには関心が薄く、この機会に具体的な取り組みを「見える化」するなかで関心を高め、真のインクルーシブ社会の実現に寄与する活動が求められています。 今般JANNETは、「障害がある人も誰も取り残さないインクルーシブ社会の実現に寄与する」という理念のもとに、「2025年までに、日本の民間団体による障害分野の国際協力を一層推進させる」という目標を掲げ、「JANNET中期計画(2021ー2025)」を策定しました。そこで活動の「成果」を確認する指標の一つに、SDGsの障害に関するインディケーターの改善を採用しています。 SDGsの理念には、障害のある人はもとより誰でも例外なく社会に包容するというインクルーシブ社会の形成がその基底にあります。障害のある人にとって SDGs はまた、「障害者の権利条約」の条文を実効性のあるものとし、国の施策や社会の在り方を障害インクルーシブに変容させる力にもなると考えます。「JANNETメールマガジン」の新企画にも盛り込みたいと思います。 JANNETは1993年に設立され、加盟団体はこれまで世界各地で障害と開発に関連する様々な国際協力事業を展開してきました。 近年では、WHOによる「社会モデル」としてのICF(国際生活機能分類)の提唱、「障害者差別解消法」による障害を理由とする差別禁止と「合理的配慮」の提供、さらにはSociety5.0という未曽有の環境の到来など、障害のある人を取り巻く社会情勢や環境の変化、法的整備が行われてきました。そうしたなかでJANNETは、2023年には創立30周年を迎えようとしています。JANNETの今後の活動の方向性として、障害インクルーシブ社会を実現する国際協力を推進するために尽力したいと考えます。     2. 第24回RI世界大会発表報告 「地域で働く実践家から見た、国際学会参加を通した国際貢献と臨床に 持ち帰るもの」      医療法人丹沢病院 精神保健福祉士 湯沢 由美 ※去る2021年10月30日に開催した、(公財)日本障害者リハビリテーション協会主催『第8回「リハ協カフェ」』にてご登壇いただいた内容を、まとめていただきました。 2021年9月7日から9日にかけて、第24回RI世界会議に参加いたしました。今回の発表は、”The Influence of Telecommuting on Self-Awareness of Being Mentally Ill” と題し、Covid-19の蔓延による在宅勤務の増加が、メンタルヘルス不調であると自覚して医療機関を受診するまでの経緯にどのように影響するかを検討した内容でした。メンタルヘルス不調により休職した労働者にCovid-19の蔓延前に行ったインタビューを分析すると、最初に医療機関を受診するまでのプロセスでは、家族の影響よりも職場の上司や同僚からの日常的な声掛けの影響が大きかったことが語られていました。在宅勤務では、職場における日常的なコミュニケーションが減り、メンタルヘルス不調に気付く機会や医療機関受診の適切な時期を逃す可能性や、特に、もともと同僚とのコミュニケーションを避ける傾向にある労働者は、より一層孤立して、不調を見逃される可能性があることをお話させていただきました。ポスター発表は、事前に録画した3分のビデオの発表とQ&Aにお答えする短い内容でしたが、国際会議に参加する意義を感じるものでした。 私のような実践家が国際会議に参加する意義には、「実践への貢献」「キャリア開発」「支援者の当事者性」という側面があると考えています。支援実践では、当事者の意思決定プロセスに併走しながら、困難を乗り越えるためのあらゆる選択肢、切り口、視点、アイディアを提示して、本人の選択をサポートすることが求められています。そうした多種多様なアイディアや選択肢を世界中でシェアすることが出来るのが国際会議です。また、グローバルな視点とローカルな視点を行き来することは、自分自身が支援実践においてやるべきことを明確にします。そして、言語的な障壁のある国際会議への参加は、実践家が、自らも弱さをかかえる当事者であることに気付く機会にもなります。今後、より多くの実践家がRI世界会議のような国際会議に参加できることを期待いたします。 3. NGOから始まったボトムアップ 〜母子健康手帳のベトナムへの導入〜 ベトナムの子ども達を支援する会 事務局長/  国際母子手帳委員会 事務局長  板東 あけみ 当「ベトナムの子ども達を支援する会」は、ベトナム南部メコンデルタにあるベンチェ省で障がいのある子ども達の総合的な支援活動を1990年から行ってきました。当初は障がい児学校や病院の建設・機材協力に加えて村診療所の母子保健関連やリハビリ関連の機材などハード面の協力が中心でしたが、その後現地からの要請もありソフト面の協力が中心になってきました。 脳性麻痺の中でアテトーゼタイプが、私たちの調査で約46%と多いことがわかってきましたので、妊娠中や出産前後のケア、そして子どもの発達のフォローが重要であると考え、1998年に母子手帳の導入を提案しました。当初は当会が母子手帳の印刷費をだして研修費は現地公的資金でしたが、2004年からは現地行政からの「良いとわかったので今後は公的資金で印刷します。」との申し出により、現地事業として定着しました。 しかし考えてみれば、ベンチェ省だけで普及するよりベトナム全土で普及した方が効果的ということで、ハノイの保健省に赴きベトナム全国での母子手帳制度の導入を提案しました。もちろん規模が大きいので当会の活動とは離れましたが、第5回母子手帳国際会議をベンチェ省で開催することにより、ベンチェ省の母子手帳を使っての母子保健活動の実践は、参加された保健省や国内約半分の省の保健局代表の関心を呼び起こしました。その後JICAの技術協力事業や日本のいくつかの企業から研修会経費やパイロット母子手帳印刷費にご支援をいただき、2020年に保健省副大臣からの指導と10月にはハノイとホーチミンでの講習会で「家庭保管の母子保健記録は唯一この母子手帳を使用すること」として全国展開に至りました。この間、ベンチェ省は常にパイロット省として各省の研修などに大きな貢献を果たしました。この取り組みはNGOが現地行政と一緒に行った事業が国の政策になった貴重なボトムアップの実例です。 NGOとしてこのような制度への協力に取り組むとき、いつも私は意識していることがあります。NGOが行う事業が現地に格差をもたらしていないかということです。事業が公の機関を巻き込まないと、その事業の恩恵を受ける子ども達の生活だけが改善され、ほかの似た状況の子ども達との格差がどんどん大きくなります。それを黙認することはNGOの自己満足にはならないか・・・。NGOであっても国際協力の在り方を考えることは非常に重要なことだといつも思っています。 4. CBID国際シンポジウム開催報告 公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 国際課 宮前 ユミ 2021年11月6日(土)、当協会はCBID国際シンポジウム「何から始める?変化を起こすつながりづくり?アジア発、地域共生社会実現のヒント?」をオンラインにて開催し、日本を含む約30の国と地域から120名の参加者を得ました。 今回のシンポジウムでは、CBID(地域に根ざしたインクルーシブ開発)に近い活動について3組の方々にご発表いただきました。 一人目は滋賀県東大近江市、永源寺診療所所長の花戸貴司さんです。花戸さんは、へき地医療に携わりながら、患者さんの地域での暮らしを住民同士で支え合う「チーム永原寺」を主宰されています。今回は、「チーム永源寺」のこれまでの活動や今後の展望などについてお話しいただきました。 二組目はタイ東北部「希望の家」財団代表のラオンさんと理事のソムチャイさんです。設立当初は家庭環境の良くない子どもたちを引き取って養育していた希望の家が、徐々に障害児を含む周辺地域の子どもとその家庭の包括的なサポートに移行していった経緯や、コミュニティの協力を得て行なっている活動についてお話頂きました。 最後はベトナム・ハノイの障害当事者団体「DPハノイ」副代表フーイェンさんです。ベトナムでは様々な理由から障害者のスポーツ参加が困難だったため、DPハノイは障害者専用のスポーツクラブを開設しました。その後誰でもクラブを利用できるようにしたことで、周辺住民の障害への理解が進み、交流が始まっていったとお話しくださいました。 その後は各パネリストとのディスカッションへと移り、ファシリテーターが参加者からの質問等をもとに話を深堀りしていきました。参加者の関心が特に高かったテーマは「活動の持続可能性」や「地域住民の参加を得るための方法」など。チャット等を通じて多くのコメントが寄せられ、多くの方が「変化を起こす」ための具体的な情報を求めていることが伺えました。当協会では今回の経験を活かし、今後も地域共生社会づくりにつながる活動を続け、国内、そしてアジア諸国などでネットワークの輪を広げていきたいと考えています。 ******************************************************************************** インフォメーション 1.国連障害者の権利条約(UNCRPD)締約国情報    (関連サイト:http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/right.html)    署名国・地域数164/ 締約国・地域数 184 (2021年12月末現在) https://treaties.un.org/Pages/ViewDetails.aspx?src=IND&mtdsg_no=IV-15&chapter=4&lang=en イベント情報 1.第10回「リハ協カフェ」 2022年2月25日(金) 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会では、海外からの訪問者の報告会等を実施しておりましたが、本年度は、新型コロナウイルスの影響で海外関連の報告会の実施は難しい状況にあります。そのため、「リハ協カフェ」として、リモートによる報告会を企画し、2020年8月より隔月で開催してまいりました。今回は、第10回目の開催です。 第10回は、佐野 竜平先生(法政大学 現代福祉学部 准教授)より「アジアの農林水産業に従事する障害者の暗黙知」、上野 悦子氏(公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 参与)より「CBRからCBIDへの変遷と事例紹介」についてご報告いただきます。 関係者以外にも広くご参加を募ります。皆様のご参加をお待ちしております。     日時:2022年2月25日(金)13:30〜15:15 場所:リモート開催(Zoom) 参加費:無料 ※情報保障あり 【プログラム】 13:30-13:35 開会挨拶 君島淳二(公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 常務理事) 13:35-14:15 報告1 「アジアの農林水産業に従事する障害者の暗黙知」 発表者:佐野 竜平氏 (法政大学 現代福祉学部 准教授) 〔佐野 竜平氏 プロフィール〕 研究テーマは「アジアの障害インクルーシブな国際協力・開発」。チェンマイ大学大学院芸術・メディア・技術学院博士課程修了。博士(知識創造論)。社会福祉士。 国際協力機構(JICA)の技術協力専門家やアジア太平洋障害者センター事業部長等の立場で長くアジア太平洋における開発途上国の現場実践に従事。2017年より現職。 引き続きアジア各地の関係者と連携しながら、障害インクルーシブな国際協力による地域開発・人材育成を中心に研究を進めている。 14:15-14:25 質疑応答 14:25-15:05 報告2 「CBRからCBIDへの変遷と事例紹介」 発表者:上野 悦子氏 (公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 参与) 〔上野 悦子氏 プロフィール〕 明治学院大学卒業後一般企業勤務。その間、日本赤十字語学奉仕団にてボランティア活動に参加。 その後日本障害者リハビリテーション協会に入職し、JICA研修や国連ESCAPのアジア太平洋障害者の十年の推進にたずさわる。 CBRの推進にも関わり、CBIDへの進展、コミュニティ開発、さらに地域そのものに関心が広がり、日本福祉大学大学院国際開発研究科修了。 2015年第3回アジア太平洋CBR会議の事務局長。障害分野NGO連絡会(JANNET)元事務局長。 障害、アジア、地域、国際活動が重なって現在に至る。 15:05-15:15 質疑応答 15:15    閉会 *プログラムの内容に変更がある場合がございます。ご了承ください。    【申込方法】 以下のサイト、またはFAXにてお申し込みください。 https://www.kokuchpro.com/event/jsrpd10/ 申込受付:2022年2月24日(木)15:00まで ※情報保障が必要な方は、2月18日(金)までにお申し込みください。 満員になり次第、締め切りとなりますので、ご了承ください。 お名前、ご所属、ご住所を明記の上、手話通訳、要約筆記、点字資料など必要があれば申し込み時にお知らせください。 参加登録された方へZoomのURLをお送りいたします。      【お申し込み、お問い合わせ先】 《公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 国際課》 担当:村上・仁尾(にお) 〒160-0052東京都新宿区戸山1丁目22番1号 TEL: 03-5273-0601   FAX: 03-5273-1523    Eメール:kokusai@dinf.ne.jp 編集後記 JANNETメルマガ12月号を最後までお読みいただき、ありがとうございました。 日々組織的な活動をしていると、目の前のタスクを処理するので精いっぱいになり、大きな目的や当初の理念を見失いそうになることがあります。特に、組織を成り立たせるための会議や、その会議に必要な書類づくりに忙殺されるとき、「なんでこんなことやってんだろ」という疑問が湧き上がってきます。 本メルマガで連載した24の加盟団体の活動紹介を通読することで、私たちの今直面する大きな課題、そして団体の枠を超えて共有される目標を、改めて思い出すことができると思います。それぞれのローカルな場で活躍する人々の思いを感じ、大きな目標に向かって努力する仲間をイメージすることは、小さなことで躓きそうになる「私」を支えてくれます。 それぞれの場で活躍される皆さんの活動を、記事を通して結ぶ営み、それが本メルマガの役割の一つと考えます。来年も当メルマガをどうぞよろしくお願いいたします。   (伊藤 丈人/JANNET広報・啓発委員) JANNET事務局では、会員の皆様よりメールマガジンに掲載する国際活動に関する情報を募集しております。団体会員様のイベント情報などありましたら事務局までご連絡ください。 JANNET障害分野NGO連絡会  〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会内 【JANNET事務局直通】 TEL:03-5292-7628 FAX:03-5292-7630 URL: http://www.normanet.ne.jp/~jannet/ 以上