JANNET障害分野NGO連絡会 メールマガジン 第153号 5月号 2016年5月31日発行 熊本での地震の影響により亡くなられた方のご冥福をお祈りし被災した方に心から お見舞い申し上げます。JANNETの団体の被災地支援の活動も紹介いたします。 ―目 次―  トピックス 1.熊本地震被災者支援活動  届かない支援を届ける支援活動  〜AAR Japanの熊本地震緊急支援の事例〜 五十嵐 豪(難民を助ける会 プログラムマネージャー) 2.JICA新事業「障害と開発」の新たな取り組み:2016年度に始まる事業の特徴 合澤 栄美(国際協力機構⦅JICA⦆ 人間開発部 社会保障チーム)   3.JANNET第2代会長の退任挨拶 JANNETの歩み(1993~2016)を振り返って 松井 亮輔(日本障害者リハビリテーション協会)              インフォメーション 1. JANNET総会開催報告(5月25日)              2. 熊本地震 緊急支援まとめて募金スタート(JANIC) 3. SDGsの国内での普及状況 4. SDGs市民社会ネットワークの設立 5. スポーツ・文化・ワールド・フォーラム 6. 国連障害者の権利条約批准国情報 イベント情報 1.ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業 第17期生成果発表会 (6月4日) トピックス 1. 熊本地震被災者支援活動  届かない支援を届ける支援活動 〜AAR Japanの熊本地震緊急支援の事例〜 (難民を助ける会 プログラムマネージャー) 五十嵐 豪    この度の熊本地震によって犠牲となった方のご冥福をお祈りするとともに、被災された全ての方に1日も早く心安らぐ日が来ることを願っております。AAR Japan(難民を助ける会)は、前震が発生した翌日の4月15日より緊急支援チームを現地に派遣しています。益城町や阿蘇市の避難所での炊き出しをはじめ、熊本県内各地で食料や日用品、衛生用品などの生活必需品を被災者に届けています。  今回の震災の特徴は、最大震度7クラスの地震が2度も発生したということです。このことが「さらに大きな本震が来るかもしれない」という恐怖心を被災者に植え付けました。昼間は自宅に戻り、片付けなどを行っている被災者も、夜になると不安感から避難所に戻る人も多く、避難所は想定以上に過密な状態となっていました。  障がい者や高齢者をはじめ、特別な配慮が必要な被災者のために、福祉避難所が設置されるはずでした。しかし実際には、福祉避難所となるはずの施設建物やインフラが壊れてしまった、施設職員も被災してしまい人手が不足している、などの理由から、発災後すぐに福祉避難所として機能した施設はほとんどありませんでした。また、福祉避難所についての情報もほとんど周知されていませんでした。  過密状態の避難所を避けて、普段通っていたデイケアセンターや福祉作業所などに自主的に集まって来られる方もいらっしゃいました。しかし、元来宿泊設備などを備えていない施設では、避難所としての役割を担えるような備品などはなく、指定避難所ではないため、支援物資も届きませんでした。施設の職員も避難されてきた方への対応で手一杯で、支援物資を貰いに行く時間もありませんでした。  AARは、指定避難所への支援と並行し、現地の障がい者支援団体や当事者のネットワークなどを通じて、支援の届きにくい自主避難所の情報を集め、食料や衛生用品、日用品などに加え、寝具や車いす、ポータブルトイレなどを提供しました。また、避難生活という環境の変化への適応が難しい方の気を紛らわせられるような、ゲームやお菓子など、被災された個々人のニーズにあった支援を届けました。  発災から1ヶ月が経ち、余震も収まりつつます。ゴールデンウィーク期間中は多くのボランティアが現地に入りました。現地は普段の生活に戻ろうとしています。普段の生活を再開しようとして気がつくニーズもあると思います。また、被害を受けた福祉施設の再建もこれからです。AARは、これからも被災者一人ひとりに寄り添った、柔軟かつ迅速な支援を続けていきたいと思います。 2. JICA新事業「障害と開発」の新たな取り組み:2016年度に始まる事業の特徴 国際協力機構(JICA) 人間開発部 社会保障チーム 課長 合澤 栄美 2016年度、JICAはアフリカ、アジア、中南米で、障害と開発に関する事業を開始します。いずれも、障害の視点を様々な分野に組み込んで行こうとするものです。 まず、5月上旬に南アフリカ共和国で「障害者のエンパワメントと障害主流化促進プロジェクト」が始まりました。このプロジェクトの最大の特徴は、対象地域で、障害者のエンパワメントと障害の主流化のための取り組みの方法と資源の形成を試行し、それらを状況に応じて組み合わせ、関係者とともに実施する方法をアプローチとしてまとめる点です。そのために、障害者をとりまく現状および資源に関する調査を行い、対象地域に適したアプローチを検討し、人材や組織等の資源の強化を行う計画です。そして、一連の活動を通じて社会開発省の能力を向上し、同省が他の地域でこのアプローチを活用できるようになることを目指します。 続いて、5月末からモンゴルで「ウランバートル市における障害者の社会参加促進プロジェクト」を開始します。全人口の約半分が集中しているウランバートル市を対象地域とし、障害者の社会参加促進に向けた体制の強化を目的として実施するもので、人口開発社会保障省や障害者団体の能力強化、障害平等研修ファシリテーターやアクセス監査員の育成、物理面や情報面のアクセシビリティ改善等を実施する予定です。このプロジェクトでも、まず、障害者の状況や行政および障害者団体の取り組みの現状等に関する調査を行って現状を把握し、ウランバートル市に適した活動を行う計画です。既に実施中の「障害児のための教育改善プロジェクト」と連携し、教育から就労を含む社会参加への移行を一貫して支援していく考えです。 さらに、8月下旬にはパラグアイの障害者権利庁に「障害者の社会参加促進アドバイザー」を派遣する予定です。パラグアイは、障害に関する取り組みの調整および監督機関として障害者権利庁を2012年に設立しました。障害者の社会参加のためには、教育、保健、インフラなど様々な分野の取り組みが必要であり、障害者権利庁は、関係者の障害理解の促進、関係機関間の調整等の役割を担っています。アドバイザーの派遣を通じ、これら省庁横断的な取り組みが推進され、政策や事業の実施やモニタリングが確実に行われるよう支援します。 南アフリカでは、南部アフリカ地域の国々との連携の可能性を検討します。モンゴルでは、タイのアジア太平洋障害者センター(APCD)との連携を視野に入れています。また、パラグアイでは、協力実績のあるコスタリカやコロンビアとの経験共有等が効果的かもしれません。このように、複層的なパートナーシップの強化も目指す考えです。 3. JANNET第2代会長の退任挨拶 JANNETの歩み(1993~2016)を振り返って              JANNET第2代会長 松井亮輔 設立の経緯と初期の活動  JANNET設立のきっかけとなったのは、1992年6月「国連障害者の十年(1983~1992)」最終年記念イベントの一環として、障害分野での国際協力に関するセミナーが開催されたことです。その後、そのセミナーに参加した十数の障害団体関係者が話し合った結果、障害分野における国際協力・交流を推進するためのネットワーク組織として「障害分野NGOネットワーク」(JANNET)を立ち上げることになりました。その設立とほぼ時期を同じくして、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)により、同十年がめざしてきた、障害者の「完全参加と平等」を実現すべく、アジア太平洋地域で引き続いて取り組むための「アジア太平洋障害者の十年(1993-2002)」がはじまったことから、JANNETの当初の活動は、主として同十年の推進に関連したものでした。JANNETの基盤づくりができたのは、初代の会長を務めていただいた故・山口薫先生(日本ポーテージ協会)のきわめてすぐれたリーダーシップと事務局を引き受けていただいた日本障害者リハビリテーション協会(以下、リハ協)の積極的なご支援のお陰であり、この場を借りて、改めて山口先生およびリハ協に対してこころから感謝を申し上げる次第です。 その後の展開  アジア太平洋障害者の十年最終年である、2002年にニューヨークの国連本部ではじまった障害者権利条約制定に向けての検討やそれともリンクした、世界保健機関(WHO)のイニシアティブによる、障害の視点を重視した、コミュニティに根ざした開発を目指す「CBRガイドライン」づくりに向けての動き等を踏まえ、2000年代にはJANNETは、地域に根ざしたインクルーシブな開発を目指すCBRプログラムに焦点化した研修・啓発活動等に取り組んできました。それに関連して、バングラデシュやインドで実践されている先駆的なCBRプログラムから直接学ぶための実地研修等も実施しました。そして、インクルーシブな開発を推進するため、主として一般の開発関係団体から構成される「国際協力NGOセンター」(JANIC)等に加盟し、一般の開発関係団体との連携を図る努力をしてきました。一方、開発活動の一部に障害分野を含む、一般の開発関係団体がJANNETの会員に加わるなど、JANNET自体の会員構成にも変化が見られます。  JANNETは、設立当初から国内の関係団体だけでなく、海外の関係団体との情報交換や経験交流の推進もその目的に掲げていましたが、昨年9月CBRアジア太平洋ネットワーク会議をリハ協と共催するなど、そのネットワーク活動に参加したことで、今後海外、とくにアジア太平洋地域の関係団体との情報交換や交流が一層深まることになると思われます。 課題と今後の展望  わたしは設立時からJANNETにかかわり、2000年から今年の5月までは第2代会長を務めてきましたが、最大の反省点は、JANNETの活動の基盤となる会員および財源をあまり増やせなかったことです。JANNETの年間会費収入は、現在100万円程度にもかかわらず、その活動を維持しえているのは、事務局を担当するリハ協の職員の働きによるところが大きいといえます。そうしたリハ協への依存から脱却し、JANNETが自立してその活動を維持・発展させていくには、会員の拡大と外部資金の確保等が不可欠です。  日本が昨年1月に障害者権利条約を批准し、その履行への取組みが今後強化されること、また、昨年9月に国連総会で採択された、2030年を最終年とする、持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標のうち、教育および雇用等、5つの目標に障害が明記されたことなどは、JANNETの活動により幅の広い支援をえるうえで有利に作用するのではないでしょうか。次期会長をはじめ、今年度以降役員を務められる方々には、是非こうした動向を活動に反映できるよう、中・長期計画をつくり、その計画に従ってJANNETを着実に発展させていただきたいと願っています。 ************************************************************************************** インフォメーション 1. JANNET総会開催報告(5月25日) 平成28(2016)年度JANNET総会が5月25日(水)に開催されました。合計20人の参加のもと、以下の報告及び承認がされました。 ・平成27年度事業報告案・会計報告案、会計監査及び事業監査報告 ・平成28年度事業計画案・予算案、中長期計画策定会の設置 ・役員改選 ■役員改選について JANNET総会(5月25日)にて2016年度から2年間の任期を務める役員が決定しました。 新会長は日本ポーテージ協会会長の清水直治氏です。   (役員メンバー、敬称略 五十音順) 幹事 伊藤丈人(日本盲人会連合)、伊藤智典(日本理学療法士協会)、小川克巳(日本理学療法士協会)、河野眞(日本作業療法士協会)、清水香子(アジア保健研修所)、田畑美智子(日本盲人会連合)、知脇希(日本理学療法士協会)、野際紗綾子(難民を助ける会)、原田潔(日本障害者リハビリテーション協会)、藤井浩美(日本作業療法士協会)、前島富子(アジアの障害者活動を支援する会)、宮本一郎(全日本ろうあ連盟)、谷島邦雄(日本ポーテージ協会) 監事 小池宏美(日本キリスト教海外医療協力会)、安川雄二(きょうされん) 2.熊本地震 緊急支援まとめて募金スタート(JANIC)  4月14日に発生した熊本地震に対して、緊急支援のHPが開設されました。 JANNETからは、(特活)難民を助ける会、(特活)ワールド・ビジョン・ジャパンが加盟して います。 ●NGOサポート募金 http://www.janic.org/bokin/matomete/matomete19.php ●(特活)難民を助ける会の活動状況URL http://www.aarjapan.gr.jp/activity/report/japan/ ●(特活)ワールド・ビジョン・ジャパンの活動状況URL https://www.worldvision.jp/donate/2016-kumamoto-earthquake.html 3. SDGsの国内での普及状況 【政府】  先週、内閣官房に「SDGs推進本部」が発足し、第一回会合が5月20日に開催されました。 議題は、持続可能な開発目標の実施のための我が国の指針策定です。 【民間】  民間会社によるSDGs普及活動が増えてきているようです。JANICによると、(株)住友化学はSDGsの特設サイトを公開し、また国際開発に力をいれているコンサル会社の(株)デロイトはSDGsについての記事を公開しました。  ●(株)住友化学SDGs特設サイト  http://www.sumitomo-chem.co.jp/csr/management/sdgs/  ●(株)デロイト トーマツによるSDGsについての記事  http://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/dtc/sdgs-outline.html 4. SDGs市民社会ネットワークの設立(旧ポストMDGsネットワーク) 2016年1月に発行された2030アジェンダを受け、日本政府の対話窓口として機能するSDGs市民社会ネットワークが設立されました。障害分野からは、JANNETとDPI日本会議が加盟しています。 SDGs 市民社会ネットワーク 概要 正式名称:SDGs市民社会ネットワーク 当面の活動期間:2016年5月~2018年3月 参加団体・活動分野:以下の分野に取り組むNGO・NPOが「参加団体」として 参加します。これら参加団体は、各分野に関する活動を行う「分野別グループ」を 構成します。 <以下は当初取組分野。 ※今後随時拡大、改編を行う> a)環境全般、b)途上国開発全般・開発資金、c)障害、d)ジェンダー、e)防災(災害リスク 軽減)、f)国内貧困・格差、g)ユース、h)地方創生・地域課題、i)社会的責任 出典:動く→動かす 5. スポーツ・文化・ワールド・フォーラム 2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた最初の国際イベントで、スポーツ選手や芸術家が文化発信を行うそうです。 主催:文部科学省 ●京都: 2016年10月19日-20日 ●東京: 2016年10月20日-22日 http://wfsc2016.mext.go.jp/ 6.国連障害者の権利条約批准国情報   (関連サイト: http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/right.html) 標記条約批准国の国と地域の数は以下の通りです。    計:164の国と地域  (2016年5月30日現在)  国連批准国リスト(英語): https://treaties.un.org/Pages/ViewDetails.aspx?src=TREATY&mtdsg_no=IV-15&chapter=4&lang=en イベント情報 1.ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業 第17期生成果発表会   ◆日時:6月4日(土) 13:30 ~ 16:30 ◆会場:戸山サンライズ 大研修室(新宿区戸山1-22-1) ◆主催:ダスキン・アジア太平洋障害者育成事業 第17期生    公益財団法人 ダスキン愛の輪基金    公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会   ◆参加費:600円   ◆申込・詳細: http://www.normanet.ne.jp/~duskin/infomation/2016/clipmail.html 編集後記  JANNET代表のバトンが、松井亮輔氏から清水直治氏へと渡されました。 松井亮輔氏が担われた16年間は、国内外の多くの障害者が立ち上がり、国連において2008年に障害者権利条約が発効、2014年に日本政府が批准、そして、日本国内においては2013年に障害者差別解消法承認、2016年に施行といった、障害者が自らの権利を保障し、自らから社会参加できる社会へと著しく向上した時期でした。この時期を乗り越えられたのは、松井会長自身の強い精神力によって、国内外を問わず障害者組織と関係者組織を取りまとめて下さったからだと思います。深く尊敬と感謝を申し上げます。 宮本 一郎(全日本ろうあ連盟)   JANNET事務局では、会員の皆様よりメールマガジンに掲載する国際活動に関する情報を募集 しております。団体会員様のイベント情報などありましたら事務局までご連絡ください。 JANNET障害分野NGO連絡会 〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会内 【JANNET事務局直通】 TEL:03-5292-7628 FAX:03-5292-7630 URL: http://www.normanet.ne.jp/~jannet/