JANNET障害分野NGO連絡会 メールマガジン 第108号 2012年7月26日発行 昨年3月11日の東日本大地震で被災された皆様、そのご家族様へ心よりお見舞い申し上げます。 JANNETの会員で、被災地にて支援活動を開始した団体の状況をお知らせしています。 URL: http://www.normanet.ne.jp/~jannet ++ 目次 トピックス 1.北京フォーラム「障害者の権利条約の実施と2015年後のインクルーシブな開発を目指しての、バリア除去・インテグレーション促進」報告 (6月6-8日開催) 2.国際セミナー「インクルーシブな障害者雇用の現在−ソーシャル・ファームの新しい流れ」 参加報告 (6月17日開催) 3.コーヒーアワー「障害と開発」シリーズ参加報告 (6月29日開催) 4.世界防災閣僚会議in東北 〜世界の英知を被災地に、被災地の教訓を世界に〜 (7月3-4日開催) 5.日本障害フォーラム(JDF)院内学習会 「アメリカADA法の最新動向と課題 〜日本の障害者差別禁止法制に向けた対話〜」(スコッチ教授学習会)に参加して (7月6日開催)  インフォメーション 1.会員活動紹介(個人会員・中野 智之氏) 2.JANNETメルマガ バックナンバーHP掲載のお知らせ 3.国連障害者の権利条約批准国情報 ++                                              トピック 1 北京フォーラム「障害者の権利条約の実施と2015年後のインクルーシブな開発を目指しての、バリア除去・インテグレーション促進」報告 アジア・ディスアビリティ・インスティテート  中西由起子 中国障害者連合会が主催する北京フォーラムは、6月6-8日に北京郊外の連合会所有の、広大な中国障害者スポーツ本部内のホテルで開催された。会場を埋めたのは、ESCAPなどの国連団体、IDA(国際障害フォーラム)構成団体、その他障害分野の世界団体や地域団体の長に加え、中国の政府関係者、学者・研究者、中央や地方の障害者連合会の役員であった。 開会式では回良玉副首相が、世界最大の障害者人口をかかえる中国は障害者の生活水準の向上に努めてきたと述べた。国際会議に初めて顔を見せた張海迪連合会会長は、会議での成果を通して開発に貢献したいと述べた。続いてDPIを初めとするIDAの団体などが権利条約推進のためにどのような活動をしてきたかを報告し、その後 @基本的な生活を守るためのよりよい社会的保護制度、A平等な社会参加のためのよりよい物理的環境、B障害開発のためのよりよいCBR、C貧困撲滅のためのよりよい教育とエンパワメントの分科会に分かれ発表を行った。 筆者が発表した第1分科会では、社会的保護政策としての自立生活から始まり、世界での社会保障の歴史の概説、中国の社会保障制度など多岐にわたる発表があった。どの分科会でも同様に、中国側からの入念に準備したプレゼンも多く、それぞれが10分程度の発表時間ではもったいないと感じた。 数で表される、連合会の毎年の年次報告では分からなかった中国の障害者施策の発展も、実際に訪れて体験できた。海外でPhDを取得した障害者たち、目抜き通り王府井のアクセシビリティ、北京百貨店の車いす用トイレなど、4年ぶりに訪ねた中国は確かに変化していた。 + トピック 2 国際セミナー「インクルーシブな障がい者雇用の現在−ソーシャル・ファームの新しい流れ」に 参加して NPOコミュニティシンクタンク あうるず  菊池 貞雄                                             日本でも2008年に活動を始めた「ソーシャルファームジャパン」(以下SFJ)の世話人を仰せつかって既に4年が経過しました。東日本大震災の未曾有の体験をへて、社会の変革を感じている人々が増えてきています。 今回2012年 6月17日 (日)に開催された国際セミナーに参加して多くの示唆をうけた内容についてご報告いたします。 ゲーロルド・シュワルツ氏(講師)は、ヨーロッパでは3,716社のソーシャルファーム(以下SF)があり、96,000人が雇用されており、その成功の背景としてEU7カ国では支援方法などを決めた法律が整備されていると報告されました。「戦略的なビジネス支援」などビジネス面のノウハウを取得できるような仕組みの構築も含まれているそうです。 バーナード・ジェイコブ氏(講師)もSFの収入の50%以上を商取引から獲得することが定義されているとしてビジネス的側面を協調されていました。 フィリーダ・パービス氏(講師)はビジネス化を支援するために英国ではソーシャルバンキングチームなど金融措置への取り組みの説明をしていました。 地方においては社会的な課題が多いことからソーシャルファームの可能性は高く取り組みも盛んですが、地域のムーブメントの多くがボランタリーな活動で、ビジネス的展開までには至ってないのが実情です。地域で新商品を開発し、販売しようとしてもその地域内での販売だけでは、専従者の給料を充足することはできないため、より購買人口が多い地域に向けた広報宣伝、営業などが必要です。 社会的課題を解決する「ソーシャルファームのストーリー性」を伝えることが重要なのですが、消費地から遠隔にある地方の社会的課題への理解と「志」を託す販売手法が十分ではないため「志」を商品パッケージやパンフレットで的確に伝えるデザインマインドが必要です。 ビジネス的展開の側面を「ソーシャルファームジャパン」がプラットフォームとなり展開できるように検討を進めていきたいと考えています。 + トピック 3 コーヒーアワー「障害と開発」シリーズ参加報告(6月29日開催) 田口 順子 去る6月29日世界銀行情報センターで、世界銀行東京事務所・日本財団・JANNETの3者共催で「障害と開発」36回目となるシリーズのコーヒーアワーが開催されました。人と人をつなぐ「ふれあい囲碁」というテーマでプロ棋士、安田九段による魅力的なお話でした。 囲碁というとそれだけで難しく考えて敬遠しがちですが、むしろ何も知らない人の方が楽しめるようです。囲んだら取れるという単純明快な囲碁ですが、幼児から高齢者までつい楽しんでしまえるのは安田九段のお人柄の影響が大きいと思われますが、「障害と開発」の視点からも同じ目線にたって一方的でないこと、決めつけないこと、人と人のコミュニケーションづくりのきっかけづくりに素晴らしい方策だと感じました。 コミュ二テイー開発のコメンテーターとして今西浩明氏(JANNET研究研修委員長)によるふれあい囲碁との共通点として、子供の可能性を否定しないこと、同じ目線で楽しむこと、謙虚であることなどを強調されました。 「ふれあい囲碁」は言葉も要りませんし、碁石の代わりになるものは何でもよく碁盤も要りません。ルールにこだわることもありません。何しろ碁石を囲んだら取れるのですから、2015年にJANNETが担当するアジア太平洋CBR国際会議の折にこのゲームを取り入れて海外からの参加者たちと和やかなコミュニケーションがとれるといいなと考えたことでした。                                                 + トピック 4 世界防災閣僚会議in東北 〜世界の英知を被災地に、被災地の教訓を世界に〜 上野 悦子 2012年7月3日、4日に仙台で開催された、世界防災閣僚会議に傍聴参加したので報告します。この会議を主催したのは、外務省、内閣府、JICA等で、63か国から約500名が参加しました。1日目は仙台で全体会。2日目は、宮城、岩手、福島の3カ所での分科会、その後仙台で全体会と閉会式が行われました。期間中仙台のメイン会場では、展示やワークショップ等のサイドイベントが行われ、NGOも参加しました。障害関連では、日本障害フォーラム(JDF)、難民を助ける会が出展して、障害分野で行われてきた支援活動を紹介しました。 会議の冒頭で野田総理大臣は、全体的な会議の意義及び防災分野で2013年から3年間に合計30億ドルを支援する予定であることを述べました。続いて玄葉外務大臣から、防災の課題を総合的に検討したい、基本的には防災に人間の安全保障を生かすこと、2015年には兵庫フレームワークと開発の指針であるMDGs(ミレニアム開発目標)が期限を迎えるのでその後の開発協力では防災を組み込む契機になるだろうと述べました。 また、女川の中学校生徒2名の発表では、3.11後、社会科の授業で、先生が、小学校の社会科で学んだことを思い出して何ができるか話合ってみようと呼びかけ、生徒はたくさんのことを話合ったと述べました。それをまとめて次の3つの夢の実現としました。 @互いの絆を高め合う。それには普段から絆をもっておくこと。 A高台へ避難できる街づくり B大震災の記録を残すこと。 成果文書である議長総括では、脆弱層への配慮として、高齢者、女性とともに障害者についても触れられました。 参加した感想ですが、政府が防災での途上国支援を明言したことで、今後の日本の政府開発援助におけるひとつの方向性を示したと思います。もうひとつは、女川の中学生が自分達で出来ることを皆で考え、提言したことから、被災地の人々はただ支援を待っている存在ではなく、自分たちで動いているということを実感しました。この点は開発の視点から見ると内発的発展につながっていくことと思いました。 会議概要:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/bousai_hilv_2012/gaiyo.html 議長総括:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/bousai_hilv_2012/soukatu.html + トピック 5 日本障害フォーラム(JDF)院内学習会「アメリカADA法の最新動向と課題 〜日本の障害者差別禁止法制に向けた対話〜」に参加して 内閣府・障がい者制度改革推進会議担当室室員 赤松 英知 差別禁止部会で、障害を理由とする差別の禁止に関する法制についての議論をしている今、ADAの第一人者であるリチャード・スコッチ教授の講演を聞く機会に恵まれたことは、とても有意義でした。「私たちは法を変えるだけではなく、社会を変えなければならない」「障害者権利条約の批准にとどまるのではなく、条約に書かれている権利の実現に向かわなければならない」は、障害のある人の目線で努力しておられる教授だからこその言葉だと感じました。  目下の焦眉の課題はこの法制の水準をいかに高めるかという点ですが、立法府や行政府を始め国民全体の理解が不可欠な法制だけに、丁寧で分かり易い議論が必要です。さらに全く新しい法制であることを考えれば、作業が進むにつれて様々な困難に直面することが予想されます。そうした苦労を乗り越えて、首尾よく障害を理由とする差別の禁止に関する法制が完成したとしても、それはこの法制を社会に根付かせるための新たな取組みのスタートに過ぎないということなのでしょう。  教授によれば、ADA後もなお障害のある人の雇用率は一般の半分程度にとどまっており、また精神障害のある人が地域で暮らすことについて精神科病院サイドは収入減となることからネガティブな姿勢を示しているとのことです。こうしたアメリカ社会に今なお存在する根深いバリアの前では、ADAは無力なのでしょうか。この点について、教授はADAが障害のある人を直接的に助ける狭い意味での影響よりも、社会に障害のある人への理解を広げる間接的だがより広い意味での影響力が重要だと指摘します。  障害を理由とする差別の禁止に関する法制は、それだけで障害のある人にバラ色の未来を約束するものではないようです。しかしこの法制は、障害のある人が直面しているけれども障害のない人にはよく見えていない不条理や、社会の奥深くにある偏見をくっきりと浮かび上がらせることでしょう。そして、その問題を一つひとつ解決するための道筋と方法を示すところに、その役割があるのだといえます。                      ++ インフォメーション 1.*5月号に引き続き、会員の活動をご紹介いたします。 <中野 智之氏(個人会員) 支援団体活動紹介> 個人会員の中野智之といいます。私はインドで視覚障害者に対する支援を行っているMission to the blind(MTB)を個人的に支援しています。今回メルマガで活動紹介をする機会を与えていただきました。ご配慮いただいた佐々木様はじめ事務局の方々に感謝いたします。 MTBは視覚障害者が家族・社会から迫害を受けている事を苦慮した7名のクリスチャンにより1992年に設立された、インドのチェンナイに本部を置くNGOです。団体名から推測できるかもしれませんが、視覚障害者への支援が神から与えられた使命であると言う理念の元、キリストの教え(福音)を説く事が活動の主体になっています。MTBには100余名のスタッフがいますが、その多くはフィールドワーカーで、インド全土をくまなく巡り、視覚障害者がいれば、訪問を続け、経済支援をしながら福音を説くことを行っています。また、2007年に3階建ての建物を購入して、事務所兼トレーニングセンターとして開設し、フィールドワーカーへのトレーニングに加え、視覚障害者への職業トレーニングを実施しています。加えて、視覚障害者に体重計を与える事も行っています。「なぜ体重計?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、インドなど途上国の一部では路上で体重計を置いていると、人々が小銭を払って体重計で体重を測るという光景が見られます。そこで、MTBは視覚障害者に体重計を渡して、得られる額はわずかでも自力で収入を得てもらう事を支援しています。私事で恐縮ですが、昨年12月に訪問した際、日本から体重計を持ち込み、数名の視覚障害者の方に寄付しました。今年の5月に訪問した際、彼らに話を聞くと、日々の稼ぎはたいした事ないけれど、自力で収入を得られる事ができることに喜びを感じると話していました。 以上、私が支援しているNGOの紹介をさせていただきました。ホームページによる活動紹介も実施する予定です。完成し次第MLにてご連絡させていただければと思っております。 + 2.JANNETメルマガ バックナンバーHP掲載のお知らせ 事務局が毎月発行しているJANNETメールマガジンのバックナンバー(2010年度10月号〜2012年3月号)がJANNET HPにアップされました。昨年11月に発行された100号記念号も掲載されています。以下のURLよりご覧いただき、ぜひご活用ください。 http://www.normanet.ne.jp/~jannet/ml/index.html 事務局 + 3. 国連障害者の権利条約批准国情報 ( 関連サイト: http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/right.html ) 1. アルジェリア  2. アルゼンチン  3. オーストラリア 4. オーストリア  5. アゼルバイジャン  6. バングラデシュ 7. ベルギー  8. ボリビア  9. ボスニア・ヘルツェゴビナ 10. ブラジル  11. ブルキナファソ  12. カナダ 13. チリ  14. 中国  15. クック諸島 16. コスタリカ  17. クロアチア  18. キューバ 19. チェコ共和国  20. デンマーク  21. ドミニカ 22. エクアドル  23. エジプト  24. エルサルバドル 25. フランス  26. ガボン  27. ドイツ 28. グアテマラ  29. ギニア  30. ハイチ 31. ホンジュラス  32. ハンガリー  33. インド 34. イラン  35. イタリア  36. ジャマイカ 37. ヨルダン  38. ケニア  39. ラオス 40. ラトビア  41. レソト  42. マラウイ 43. モルディブ  44. マリ  45. モーリシャス 46. メキシコ  47. モンゴル  48. モンテネグロ 49. モロッコ  50. ナミビア  51. ネパール 52. ニュージーランド  53. ニカラグア  54. ニジェール 55. オマーン  56. パナマ  57. パラグアイ 58. ペルー  59. フィリピン  60. ポルトガル 61. カタール  62. 大韓民国 63. ルワンダ 64. サンマリノ  65. サウジアラビア  66. セルビア 67. セイシェル  68. スロバキア  69. スロベニア 70. 南アフリカ  71. スペイン  72. スーダン 73. スウェーデン  74. シリア  75. タイ 76. チュニジア  77. トルクメニスタン  78. トルコ 79. ウガンダ  80. ウクライナ  81. イギリス 82. タンザニア連合共和国  83. ウルグアイ  84. バヌアツ 85. イエメン  86. ザンビア  87. アラブ首長国連邦  88 エチオピア  89. マレーシア   90. リトアニア 91. アルメニア  92. ナイジェリア  93. モルドバ共和国 94. シエラレオネ  95. セネガル  96. セントビンセント及びグレナディーン諸島 97. 欧州連合 EU  98. ルーマニア  99. トーゴ 100. コロンビア  101. ベリーズ  102. キプロス 103. パキスタン  104. バーレーン  105. ルクセンブルク 106. カーボヴェルデ  107. インドネシア  108. ミャンマー 109. マケドニア  110. モザンビーク  111. ブルガリア 112. モーリタニア  113. エストニア  114. ギリシャ 115. ジブチ  116. ナウル  117. ベナン (2012年7月25日現在) 国連批准国リスト(英語): http://www.un.org/disabilities/countries.asp?navid=12&pid=166 ++ 編集後記  猛暑の毎日、秋11月のESCAP主催の第2次アジア太平洋障害者の十年総括会議で発表され次の十年の戦略(インチョン戦略)案の発表を受けて、国内の団体もそれへの対応を準備し始めた。ESCAPの会議に参加し、希望を持って草案作りに取り組んだ障害者団体の期待を裏切るかのように、平板な内容になってしまっているというのが、今のところのNGOの評価の大勢である。アジア太平洋の国々の権利条約推進の意欲を高めるような戦略とするには残り3か月で我々のできることは何か、考えていきたい。         アジア・ディスアビリティ・インスティテート  中西 由起子 ++ JANNET事務局では、会員の皆様よりメールマガジンに掲載する国際活動に関する情報を募集しております。団体会員様のイベント情報などありましたら事務局までご連絡ください。 JANNET障害分野NGO連絡会 〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会内 【JANNET事務局直通】 TEL:03-5292-7628 FAX:03-5292-7630 URL: http://www.normanet.ne.jp/~jannet/