「障害者のための情報保障」セミナー 報告書 デジタルテレビ放送の情報アクセス Seminar on Information Support for Persons with Disabilities Information Accessibility of Terrestrial Digital Broadcasting 2005 2005年2月20日(日) Sunday, 20 February セミナーより 東山 文夫 氏 全体 マーク・ホダ 氏 マーク・ダウンズ博士 兒玉 明 氏 飯島 信也 氏 高岡 正 氏 寺島 彰 氏 金子 健 氏 岩井 和彦 氏 目 次 趣旨 ...............................................................................................5 プログラム/Program .......................................................................6 プロフィール/Profile .......................................................................8 関係団体 .......................................................................................11 開会挨拶 .......................................................................................12 東山文夫 財団法人 日本障害者リハビリテーション協会事務局長 講演1 情報通信政策とアクセシビリティ ............................................13 飯島信也 総務省情報通信政策局情報通信利用促進課長 講演2 障害者のための放送関連法 .....................................................22 マーク・ダウンズ 王立全国聴覚障害者協会(RNID)技術部長 講演3 EUにおける地上波デジタル放送 ..............................................50 マーク・ホダ 王立全国聴覚障害者協会(RNID)ヨーロッパキャンペーン担当官 講演4 ...........................................................................................72 兒玉明 日本身体障害者団体連合会会長/日本障害フォーラム(JDF)代表 講演5 ...........................................................................................73 高岡正 全日本難聴者・中途失聴者団体連合会理事長 講演6 ...........................................................................................82 岩井和彦 日本ライトハウス常務理事/全国視覚障害者情報提供施設協会理事長 講演7 ...........................................................................................85 金子健 全日本手をつなぐ育成会理事、明治学院大学心理学部教授 パネルディスカッション ...................................................................87 5 趣旨 「障害者のための情報保障」セミナー デジタルテレビ放送の情報アクセス Seminar on Information Support for Persons with Disabilities Information Accessibility of Terrestrial Digital Broadcasting 2003年12月1日から地上波デジタル放送が開始されていますが、今回は英国の王立全国 聴覚障害者協会の字幕放送のキャンペーン責任者で、欧州議会での勧告の採択においてキーパー ソン的役割を果たしたマーク・ホダ氏と同協会技術部長のマーク・ダウンズ博士を招き、英国 での地上波デジタル放送についての取り組みや、障害者を扱う番組のコンテンツの対処法など についての状況を報告していただきます。また、この二人を交えて意見交換を行い、情報保障 の現状を踏まえて、すべての障害者がデジタル技術を利用することにより情報保障の環境を促 進するためのインターネットの活用、デジタル放送へのアクセスの向上などについて討議しま す。 Terrestrial digital broadcasting was launched in Japan on December 1st, 2003. In this seminar we will invite two lecturers from the Royal National Institute of Deaf People in the UK, the European Campaigns Officer, Mr. Mark Hoda, and the Director, Dr. Mark Downs. They played a critical roles in adopting the recommendations made at the Council of Europe. They will focus on the effort of realization of digitalized terrestrial broadcasting and how to promote the non-discriminatory contents for persons with disabilities in the UK. Follwing the lectures, we will exchange views and opinions regarding the current situation of providing equal information and will discuss how to improve the communication support system for persons with disabilities such as utilizing the internet and making digital broadcasting more accessible by using digital technology. 開催日: 2005年2月20日(日) Date : Sunday, 20 February 主催: (財)日本障害者リハビリテーション協会 障害者放送協議会放送・通信バリアフリー委員会 Host: Japanese Society for Rehabilitation of Persons with Disabilities Barrier Free Broadcasting Committee for Persons with Disabilities 後援: 埼玉県民共済生活協同組合 Sponsor: Saitama Kenmin Kyousai Seikatsu Kyodo Kumiai 6 プログラム/Program 12:30 開会挨拶 東山 文夫氏;(財)日本障害者リハビリテーション協会事務局長 第1部 12:35 講演:「情報通信政策とアクセシビリティ」 飯島 信也氏;総務省情報通信政策局情報通信利用促進課長  12:55 講演:「障害者のための放送関連法」 マーク・ダウンズ博士;王立全国聴覚障害者協会(RNID)技術部長 14:10 講演:「EUにおける地上波デジタル放送」 マーク・ホダ氏;王立全国聴覚障害者協会(RNID)ヨーロッパキャンペーン担当官 第2部 15:25 意見交換・質疑応答 ・パネリスト; マーク・ダウンズ博士;王立全国聴覚障害者協会(RNID)技術部長 マーク・ホダ氏;王立全国聴覚障害者協会(RNID)ヨーロッパキャンペーン担当官 兒玉 明氏;日本身体障害者団体連合会会長、日本障害フォーラム(JDF)代表 高岡 正氏;全日本難聴者・中途失聴者団体連合会理事長 岩井 和彦氏;日本ライトハウス常務理事、全国視覚障害者情報提供施設協会理事長 金子 健氏;全日本手をつなぐ育成会理事、明治学院大学心理学部教授 ・司会 寺島 彰氏;浦和大学総合福祉学部教授 17:30 閉会 12:30 Opening Mr. Fumio Higashiyama; Secretary General, Japanese Society for Rehabilitation of Persons with Disabilities PART 1 12:35 Lecture "Information Communications Policy and Accessibility" Mr. Shinya Iijima; Director, Accessibility Division, Information and Communications Policy Bureau, Ministry of Internal Affairs and Communications 12:55 Lecture "Overview of Broadcasting Legislations for Disabled People" Dr. Mark Downs; Executive Director of Technology & Enterprise, The Royal National Institute of Deaf People 14:10 Lecture "Digital Terrestrial Broadcasting in the EU" Mr. Mark Hoda; European Campaign Officer, The Royal National Institute of Deaf People PART 2 15:25 Panel Discussion and Q & A session    Panelists: Mr. Mark Hoda; European Campaign Officer, The Royal National Institute of Deaf People Dr. Mark Downs; Executive Director of Technology & Enterprise, The Royal National Institute of Deaf People Mr. Akira Kodama; President, Japanese Federation of Organizations of the Disabled Persons Representative, Japan Disability Forum Mr. Tadashi Takaoka; President, All Japan Association of Heard of Hearing People Mr. Kazuhiko Iwai; Executive Director, Japan Lighthouse Information and Culture Center for the Blind National Association of Institutions of Information Service for the Visually Handicapped Mr. Takeshi Kaneko; Inclusion Japan, Professor, Dept. of Psychology, Meiji Gakuin University Coordinator: Mr. Akira Terashima; Professor of Urawa University 17:30 Closing  プロフィール/Profile マーク・ダウンズ博士/Dr. Mark Downs 王立全国聴覚障害者協会(RNID)技術部長 Executive Director of Technology & Enterprise, RNID 英国で900万人の聴覚障害者を代表する最大の慈善団体である王立 全国聴覚障害者協会(RNID)の技術部長。同氏は、コミュニケーショ ンと生物医学の研究に従事するとともに、“サウンド・アドバンテージ” という聴覚障害者のための様々な製品を販売しているRNIDの非営利 組織で新技術の開発と推進を担当している。 EUが推し進めるビジネスに関連した環境上の法律の協議及び制定に 関わる英国の主要政策に従事する公務員として3年間通商産業省に勤 務し、その後2004年からRNIDに勤務。それ以前は、東京の英国大 使館に一等書記官(通商政策)として5年間勤務し、日英両国及び多国 間貿易関係に携わり、特に通信、司法サービス市場に深く関わった。 バイオセンサーに関するリサーチを実施し、政府のリサーチプログラ ムに関わって改革と科学及び技術に関する政策に着手してきた。また、 ファラディ・パートナーシップ・プログラムの発足に関与し、1993年 版科学技術白書の発行にも従事した。 クランフィールド大学で博士号を取得し、迅速な遺伝子識別のための DNAセンサーの開発を行った。また、ロンドン大学ではバイオテク ノロジーの理学士号を取得した。 マーク・ホダ氏/Mr. Mark Hoda 王立全国聴覚障害者協会(RNID)ヨーロッパキャンペーン担当官 European Campaigns Officer, RNID 2001年より王立全国聴覚障害者協会(RNID)ヨーロッパキャンペー ン担当官。聴覚障害者及び障害者のためのヨーロッパにおける団体間 の連携に関する法律改定を推進。 同氏のキャンペーン活動は、テレビ番組の字幕の充実、ヨーロッパ通 信システムの双方向テキストサービス、ウェブサイトのアクセシビリ ティ・スタンダードの構築により、より良い“情報社会へのアクセス” を聴覚障害者に提供することである。2004年にはこの問題に関して のヨーロッパ会議が開催され、2005年にもさらにイベントを開催す る予定である。 キャンペーンには、差別撤廃、権利擁護、職場の騒音問題、著作権問題、 英国における弱者コミュニティに対するユーロ通貨準備なども含まれ ている。 RNIDに所属する前は、英国議会に勤務。ロンドン大学スクール・オブ・ エコノミクスで教育を受ける。 飯島 信也/ Shinya Iijima 総務省 情報通信政策局 情報通信利用促進課長 Director, Accessibility Division, Information and Communications Policy Bureau, Ministry of Internal Affairs and Communications 昭和56年4月 総理府入府(統計局製表部電子計算課) 昭和57年4月 総理府統計局調査部消費統計課 昭和58年6月 経済企画庁国民所得部分配所得課 昭和60年6月 総務庁統計局統計調査部労働力統計課 昭和62年4月 外務省在アトランタ日本国総領事館 平成2年4月 総務庁青少年対策本部参事官補佐 平成5年1月 総務庁青少年対策本部企画調整課課長補佐 平成6年7月 総務庁統計局総務課総括課長補佐 平成7年7月 総務庁統計局統計調査部管理企画室長 平成8年7月 総務庁統計局統計調査部労働力統計課長 平成13年1月 総務省日本学術会議事務局情報国際課長 平成15年4月 現職に就任 平成16年4月 高齢・障害者利用支援室長に併任 兒玉 明/Akira Kodama 日本身体障害者団体連合会会長 日本障害フォーラム(JDF)代表 President, Japanese Federation of Organizations of the Disabled Persons 東京生まれ。1944年、旧国鉄の勤務中事故により、業務上負傷(左大腿部切断)の障害者とな る。1967年に「三興商会」を設立し、貿易業を積極的に展開し、国際交流にも力を入れる。そ のかたわら、障害当事者によるNGO活動の活性化にも携わり、1977年に旧関東国鉄身障者 協会の会長、1993年に東京都身体障害者団体連合会会長、2001年に全国最大規模の社会福 祉法人日本身体障害者団体連合会の会長に就任。また、身体・知的・精神など、日本国内の主要 障害種別NGO間の連携を進め、2004年10月の「日本障害フォーラム(JDF)」の設立に関わる。 JDFの初代代表にも就任し、現在に至る。 障害者の権利擁護の観点から、障害者権利条約や日本版障害者差別禁止法の実現に向けた啓発 運動を展開しているが、情報保障に関する法制度についても、その整備の必要性を内外に訴え る活動を続けている。 高岡 正/Tadashi Takaoka   全日本難聴者・中途失聴者団体連合会理事長 President, All Japan Association of Heard of Hearing People 社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会理事長 特定非営利活動法人CS障害者放送統一機構副理事長 特定非営利活動法人東京都中途失聴・難聴者協会理事長 情報通信アクセス協議会利用者部会委員 電気通信アクセシビリティ標準化専門委員会委員 東京農工大学大学院農学研究科修了 岩井 和彦/Kazuhiko Iwai 日本ライトハウス常務理事 全国視覚障害者情報提供施設協会理事長 Executive Director, Japan Lighthouse Information and Culture Center for the Blind 1999年6月 日本ライトハウス盲人情報文化センター館長 2001年4月 近畿視覚障害者情報サービス研究協議会(53館加盟)会長就任 2001年4月 日本ライトハウス常務理事 2003年4月 特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会(93施設・団体)理事長 金子 健/Takeshi Kaneko 全日本手をつなぐ育成会理事 明治学院大学心理学部教授 Inclusion Japan, Professor, Dept. of Psychology, Meiji Gakuin University 1949年生。東京教育大学教育学部卒、筑波大学大学院博士課程満期退学。 国立特殊教育総合研究所研究員を経て、現在、明治学院大学心理学部教授、学部長。 専門は、知的障害児の認知発達と教育的支援の研究。 教育におけるパソコンやインターネットの利用にも関心がある。 知的障害者の兄弟として、障害者の自立支援、権利擁護に関する活動にも参加。 寺島 彰/Akira Terashima 浦和大学総合福祉学部教授 Professor, Faculty of Comprehensive Welfare, Urawa University 早稲田大学社会科学研究科後期博士課程単位取得後退学。専門は障害者政策。1993 年厚生省 身体障害者福祉専門官。1995 年厚生省障害者福祉専門官。1998 年国立身体障害者リハビリ テーションセンター国際協力専門官。1998 年国立身体障害者リハビリテーションセンター研 究所社会適応システム開発室長。2002 年国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所 障害福祉研究部長。著書(いずれも共著):『障害者福祉論』(中央法規2003 年)、『改訂ガイドヘ ルパー養成研修テキスト重度視覚障害者研修課程』(中央法規2001 年)、他。訳書(いずれも 共著):『ケアラーズハンドブック』(南江堂1999 年)、『[米国] 社会保障における障害評価』( 厚生科学研究2001 年)、『[ 英国] 就労不能給付認定医のためのハンドブック』(厚生科学研究 2002 年)、「障害者差別禁止法とソーシャルワーク」(中央法規2003 年)監訳他。2003 年7 月より現職。 関係団体 財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 1964年、国内外における障害者のリハビリテーションに関する調査研究を行うとともに、国 際的連携を強化し、障害者のリハビリテーション事業に寄与することを目的として設立された。 事業内容は障害者のリハビリテーションに関する振興及び調査研究事業、出版物の発行、ウェ ブでの情報配信、アクセシブルなソフトの開発、リハビリテーションに関する国際協力、開発 途上国からの研修生受け入れ、障害者団体等への協力などを行っている。同協会情報センター は日英高齢者・障害者ケア開発協力機構日本委員会の事務局を務めている。 Japanese Society for Rehabilitation of Persons with Disabilities (JSRPD) was founded in 1964 to promote the activities of persons with disabilities in every way possible both within and outside Japan. Via international exchange, we strive to strengthen relationship devoted to the promotion of rehabilitation of persons with disabilities. 放送・通信バリアフリー委員会 Barrier Free Broadcasting Committee 障害者に関する優れた放送に対する表彰や、放送局に対する障害者番組制作のためのコンサル ティング、字幕や手話の付与、副音声解説等を実現するため、放送局、企業、関係省庁との協 力関係の構築を推進している。 The Committee gives awards for excellent TV programs and provides consultation to broadcasting stations in making programs concerning persons with disabilities, and promotes collaborations with broadcasting stations, enterprises, governmental agencies to realize broadcasting with closed captions, sign language, audio descriptions, etc. 開会挨拶 東山文夫 財団法人 日本障害者リハビリテーション協会事務局長 ただいまご紹介いただきました財団法人日本障害者リハビリテーション協会で事務局長をし ております東山と申します。 日頃より、当協会の事業にご理解とご協力を賜り、厚くお礼申しあげます。 また、参加者の皆様には、日曜日の午後にもかかわらず、本セミナーにご参加いただきあり がとうございました。 当協会は、障害者のリハビリテーションに関する調査研究と国際的連携のもとに障害者のリ ハビリテーション事業の振興を目的として1964年に設立されて以来、障害者の社会参加とリ ハビリテーションの振興のためにさまざまな事業を実施しております。特に障害者の情報アク セスに関しましては、情報センターを設置し、障害者のための情報アクセス向上やマルチメデ ィアの普及のために努力しております。 約25年前にパーソナルコンピューターが個人で所有できるようになって以来、情報機器は、 障害者の方々にとって強力な自立のためのツールになりました。また、インターネットの普及 により、個人を越えた世界的規模のコミュニケーションが可能になり、障害者の方々の自立や 社会参加の促進が図られるようになりました。 このような中、障害者の情報アクセスは、ますます、重要性を増しております。現在、国連 で進められております障害者権利条約の審議においても、障害者の情報へのアクセスについて 規定した条文が加えられています。また、わが国の障害者プランや障害者基本法においても、 行政や事業者の情報バリアフリー化への配慮が強く求められています。 本日は、国会開会中のご多忙にもかかわらず、総務省の飯島信也情報通信利用促進課長にご 出席いただいておりますので、わが国の情報通信政策の現状や課題、あるいは現在進められて おります放送のデジタル化の現状をお聞かせいただけるものと思います。 また、わが国の課題になっております、地上波デジタル放送と放送における障害者権利保障 に関しまして、英国からマーク・ホダ先生とマーク・ダウンズ博士をお招きすることができまし た。 ホダ先生は、字幕放送のキャンペーン責任者で、欧州議会での勧告の採択においてキーパー ソン的役割を果たされました。また、マーク・ダウンズ博士は、英国王立全国聴覚障害者協会の 技術部長でコミュニケーションの新技術の開発などに従事されておられます。かって、在日英 国大使館に勤務されていたこともある日本通の博士でもあります。 お二人は、お忙しい中、時間を裂いて来日していただきました。EUは、これらの課題に対 して積極的な取り組みをしていると聞いております。お二人には、これらの課題についてお話 いただくことになっております。我々の知らないいろいろなことが聞けるのではないかと楽し みにしております。 最後に、本セミナーの開催にあたりまして、埼玉県民共済生活協同組合の後援をいただきま した。この場をお借りし、厚く御礼申し上げまして、開会の挨拶とします。 講演1 情報通信政策とアクセシビリティ 飯島信也 総務省情報通信政策局情報通信利用促進課長 みなさん、こんにちは。総務省情報通信政策局の飯島と申します。今日はお招き頂きまして 有難うございます。少しお時間を頂きまして、政府全体の情報通信政策と、我々総務省が取り 組んでおりますアクセシビリティについての施策の概要を説明させて頂きます。 私がおります情報通信利用促進課は、総務省の中でITの人材育成や、IT分野での高齢者・障 害者の方への支援といった仕事をしております。この2つの仕事は、いわばITを利用する人 の視点で取り組んでいる施策と言えるかと思います。 今日お話しします中身ですが、大きく3つありまして、1つ目にインターネットの利用・普及 の状況とデジタルデバイドの現状についてご説明します。2つ目として、政府全体の情報通信 政策の概要を紹介し、さらに最近総務省が新しくu-Japan構想というものを打ち出しておりま して、これについても簡単に紹介させて頂きたいと思います。3つ目に、アクセシビリティの 確保に向けた取り組みとして、総務省が行っております施策を中心に、いくつかご紹介致します。 今日のテーマはテレビが中心かと思いますが、それ以外にも、情報通信全般のアクセシビリテ ィにつきましてお話しをさせて頂きたいと思います。 急速に進むインターネットの利用 まず、現状として、インターネットの普及状況をご紹介します。世帯の普及率をみますと、 98年に約1割であったのが、2003年には88.1%になり、この5年間に大体1割から9割へと、 急速にインターネットが普及してきていることが分かります。1割から9割に普及する期間が わずか5年というのは、大変早いスピードだと思います。色々手元にあるデータをみても、今 まで一番早いスピードで普及したのがカラーテレビで、これが6年かかっています。1割から 9割にいくのが。その次に早いのが携帯電話で、7年かかっています。あとは電気冷蔵庫が10 年。それ以外のものの普及はさらに長い期間がかかっており、インターネットの普及というのが、 非常に早いスピードで進んできたのがお分かり頂けるかと思います。 もう一つ、携帯電話の契約の数をみますと、2004年で8,000契約を超えており、そのうち 約7,000の契約が、インターネットが使える携帯電話となっております。携帯電話の上でも、 インターネットが使える状況が進んできているわけです。 高齢者・障害者のデジタルデバイドの状況 次に、利用する側の人の状況についてご紹介いたします。年齢別の日本の人口構成をみますと、 50代の半ばの人口が多く、この団塊の世代の方々がこれから定年を迎えてくるわけです。一方、 10歳以下の人口は相対的に小さく、高齢化・少子化が進んでいます。日本の総人口は、この1〜2年のうちにピークを迎え、その後は長い期間にわたり減少が続いていく、そんな状況にさ しかかっています。また、総人口に占める高齢者の割合をみますと、日本は国際的に見ても比 率が高く、今だいたい5人に1人が65歳以上ですが、10年後には4人に1人の割合へと増 えるという状況です。 次に、障害者の方の人口の推移をみますと、長期的に、人口は増加を続けております。一つ の要因としてありますのは、高齢化が進んできていること。高齢が主な原因となって、体が不 自由になる方が増えているのではないかと思います。 このように、高齢者の方、障害者の方、それぞれ人口はかなり増加しております。ところが インターネットの利用の度合いということでは、まだ高齢の方、あるいは障害をお持ちの方の 利用というのは、相対的に低い状態にあり、デジタルデバイドが存在している現状があります。 ただ一方で、情報通信の技術をうまく使っていくことによって、高齢の方や障害をお持ちの方 でも、十分に情報を利用していくことが可能になると考えております。新しい情報通信の技術 を上手に活用することによって、高齢の方や障害をお持ちの方が社会に積極的に参加して頂け るような形で、デジタルデバイドの解消をしていくことが重要だと考えております。 2005年を目標とした政府のe-Japan戦略 次に、政府全体の情報通信政策であるe-Japan戦略の概要をご説明いたします。これは、 2001年の1月にIT基本法が施行され、内閣にIT戦略本部という組織が立ち上がりました。 当時まだ日本の情報化が欧米に比べて遅れをとっていると言われておりましたが、このIT戦略 本部におきまして、2005年までに世界最先端のIT国家になる,という目標を掲げたe-Japan 戦略が策定されました。まずはインフラ、基盤を整備していくことを重点的に、様々な施策が 進められてきました。2003年に戦略の見直しが行われ、e-Japan戦略Uが策定されましたが、 これはインフラが整備されてきたことを踏まえ、ITの利活用を重視していく内容になっていま す。 最新の政策パッケージであるe-Japan重点計画2004の中身をご紹介しますと、大きく4つ に分かれています。この中で、デジタルデバイドについては、横断的課題の5つの課題の一つ として挙げられています。具体的に書かれている内容を、e-Japan重点計画2004の中から引 用しますと、横断的な課題の3.として「デジタルデバイドの是正」があります。この中に、1の「地 理的情報格差の是正」に続いて、2として「年齢・身体的な条件の克服」という項目が記述されて います。具体的な施策としては、情報提供のバリアフリー化、公共空間のバリアフリー化、学 校のバリアフリー化、それから高齢者・障害者・子供のためのシステム・サービスの開発などが掲 げられており、それぞれの省でこのような施策が進められています。 総務省が新たに提案しているu-Japan政策 昨年末に、総務省では、u-Japan政策というものを提案いたしました。e-Japanは2005年 までに世界最先端のIT国家を作ろうという戦略ですけれども、2006年以降もさらに政策を進 めて、2010年に次世代のICT社会、ユビキタス・ネット社会を実現していこうという構想が、 このu-Japan政策です。情報通信のネットワークは、今までナローバンドからブロードバンド へと進んできましたが、さらにこれからはユビキタス・ネットへと進化して、新しいICT社会 に向かっていきます。u-Japanというのは、4つのU、ユビキタス、ユニバーサル、ユーザー、 ユニーク、で表される特質を備えており、ユニバーサルという特質が、一つの柱になっています。 アクセシビリティ確保に向けた2つのアプローチ 次に、アクセシビリティの確保に向けた取り組みについてご紹介致します。大きくは2つの 方向性、2つのアプローチがあると思います。一つは利用環境のユニバーサル化、障害をお持 ちの方・高齢の方も含めて、誰もが使いやすい情報通信の環境を作っていくということ。もう一 つは、障害をお持ちの方はそれぞれ事情が異なりますので、個別のニーズに合わせた支援をし ていくこと。この2つのアプローチが必要で、両方が車の両輪のように、うまく動いていくこ とが重要だと思います。 アクセシビリティについての規格化 まず、ユニバーサル化の取り組みですが、一つ目として、電気通信機器のアクセシビリティ の規格化を進めております。ここで言う電気通信機器といますのは、固定電話やファクシミリ、 携帯電話といったものです。これらの機器のアクセシビリティを確保するための規格化につい て、JIS化や国際提案ということも含めて、取り組んでおります。 これに関連した民間での取り組み例を紹介しますと、携帯電話では、Fomaのらくらくフォ ンや、ツーカーの骨伝導スピーカー付きの携帯電話といったものがあります。最近では、ツー カーSという、通話専用でディスプレーの無い、簡単な携帯電話というのも売れています。 二つ目は、ウェブのアクセシビリティの規格化で、これは昨年の6月にJISの規格がすでに 出来ております。 今、政府全体で電子政府の推進に取り組んでおり、ポータルサイトにより政府の行政サービ スのワンストップ化が進められておりますが、JISを踏まえ、こういった政府のウェブについて、 アクセシビリティに配慮していくこととなっております。 それから地方自治体でも、電子自治体というのが進められておりますが、自治体の場合、ア クセシビリティを高めていく必要性をご理解頂き、いざウェブのアクセシビリティを高めよう としても、具体的にどうしたらいいのか分からない、JIS規格だけではよく分からない、とい う問題があると聞いております。そういう自治体に対して、使いやすいモデル的な評価方法や 評価体制について、総務省で研究致しまして、参考として提示していきたいと思っています。 字幕放送等の普及に向けた取組み ユニバーサル化の三つ目となりますが、放送分野での取り組みです。放送では字幕放送・解説 放送などを充実していくことが重要ですけれども、97年に放送法を一部改正致しまして、字幕 番組や解説番組について努力義務が法律に盛り込まれ、また同時に、当時の郵政省が、2007 年までに字幕付与可能な放送番組について全て字幕を付ける、という字幕普及目標を出してお ります。これを受けまして、NHKや民放のキー局を中心に、それぞれの放送局が年次ごとの字 幕拡充計画を作りまして、それに沿って字幕番組の拡充が各放送局で今進められています。 総務省と致しましては、字幕や解説番組の制作費の一部を助成することと、各放送局が策定 した字幕拡充計画の進捗状況をフォローして公表することを通じまして、各放送局の自主的な 取り組みを促進してきております。 字幕番組などの制作費については、独立行政法人情報通信研究機構を通じまして、毎年,助 成を行っております。また,字幕放送の実績をみますと、昨年の段階で、字幕を付与できる総 放送時間に占める字幕放送の割合は、NHKが92.4%、民放キー局では38.7%となり、着実に 上昇してきています。 放送のデジタル化については、BSデジタル放送がすでにスタートし、地上デジタル放送も 2003年12月に一部の地域でスタートしております。こういったデジタル放送においては、 字幕デコーダーが標準の規格になっておりますので、デジタル対応のテレビは、必ずデジタル 放送の字幕が見られる機能が付いております。ですから、デジタルの字幕放送が増えることに よって、飛躍的に多くの人が字幕放送を見ることができるようになって参ります。 また、それ以外に、日本ビクターでは、「きき楽」という機能の付いたテレビやラジオを出し ており、話速変換を用いまして、ゆっくり言葉が聞ける、あるいは聞き返しができるといった 機能が利用できます。 個別のニーズに合わせた機器・サービス 今まで説明しましたのは、ユニバーサル化に向けた取り組みですが、もう一つのアプローチ として、個別のニーズに合わせた機器・サービスの開発・提供にも取り組んでおりまして、色々 な民間の取り組みに対して助成をしております。 例えば、色々な事業者で電話リレーサービスなどの様々な支援サービスが行われていますが、 こういったサービスへの助成も行っております。さらに、障害をお持ちの方がITを利用する際 に、ボランティアの方が支援される取組みも行われていますが、総務省では、こういった支援 を行う人材を育成し、サポートする体制を整備していくためにはどうすればいいか、研究をし ております。障害者の方のIT利用を総合的にサポートする体制のモデルといったものを、提示 して参りたいと思っております。 総務省では、このように様々な取組みを行っております。先程も申しましたが、アクセシビ リティを確保していくためには、ユニバーサル化の方向と個別支援の取り組みと、2つのアプ ローチがいずれも重要ですが、こういった取り組みが、社会に高く評価されるような環境にし ていくことも必要だと思います。そういう意味で、ここにお集まりの皆様方の日頃のお取り組 みは、大変重要なことだと考えております。これからも、皆様方が、取り組みを一層進められ、 一層ご活躍されることを期待致しまして、お話を終えさせて頂きたいと思います。有難うござ いました。 講演2 障害者のための放送関連法 マーク・ダウンズ 王立全国聴覚障害者協会(RNID)技術部長 (監訳 寺島彰) おはようございます。会場、ならびにご来場の皆様、本日はこの様な重要な機会にお招き頂 きお話しさせて頂きますことを、大変光栄に存じます。 まず最初に、本日私たちがこちらへ伺うことを可能として下さいました仲裁者及びスポンサ ーの方々に、お礼申し上げたいと存じます。また、現在の私の職務を通じて、日本の皆様との 関係が本日でも続いていることは、私自身にとりましても大変喜ばしいことでもあります。私は、 以前、英国大使館に赴任し、5年間日本で過ごすという幸運に恵まれました。その頃は、主に 日英間及び他国間の貿易政策を担当しておりました。その中でたくさんの日本の友人を得るこ とができ、日本の生活様式や日本の文化について大変興味を抱くようになりました。その頃は 日本語で日常スピーチを行わなくてはならないことが時々ありました。その時でさえ、私は日 本語を流暢に話せるわけではありませんでした。しかし英国へ戻ってから、私の日本語の能力 はさらに低下してしまいました。ですので、皆様には私がこれから犯す日本語の間違いを許し て下さいますようお願いします。また、実際に前置きを終えてからは英語に切り替えさせて頂 かなければなりません。 本日の本題である放送に関するお話をする前に、RNIDの背景や活動について簡単に説明し たいと思います(スライド2)。RNIDはろう者および難聴者、また耳鳴りで苦しんでいる人た ちを代表し、そのニーズをくみ上げ、様々な活動を行っている団体としては、英国最大の組織 です。もしかしたら、世界規模で見ても最大の規模かもしれません。現在、約1,200名のスタ ッフから成り、年間収益は7億8千万円前後となっております。慈善事業団体にしては珍しい かもしれませんが、私たちは35,000名前後といった莫大な数のメンバーを持しています。 RNIDでは、大規模な慈善団体が通常行っていると皆様が思われているような活動を、たく さん行っております(スライド3)。それには、何か改善を図るためのキャンペーン活動や、英 国政府へのロビー活動から特殊な電話サービスや教育・トレーニングの提供、また、20を超え るケアホームの提供など、多岐にわたります。 しかし資金集めを目的とした活動や、慈善による多額の寄付を受けることによる収益に依存 しているとはいえますけれども、収益の3分の2以上はサービス提供による収益であることを ご理解いただくことは重要な点です。 例えば、私たちが所有し運営するケアホームは、地域自治体がケアサービスを提供するため の施設として利用されています。地方自治体は、サービスの提供を行う上でRNIDに委託費用 を払います。ケアサービスを提供する業者は、多くの様々な業者の中から地方自治体が自由に 選べるようになっております。この仕組みにより、私たちは、良質で最善のサービスが利用者 に提供されるよう、持続的に協力をしています。そして、このことにより、ろう者や難聴者の方々 に、ケアサービスといった形の最大限の利益を提供することが可能となります。 私たちが行っている文字の音声化、音声の文字化サービスは、年間約2百万件以上行ってお り、それは聴覚の障害者と聴覚に問題の無い人たちのコミュニケーションを図るものです。そ のサービスは英国最大の電話通信企業であるBritishTelecommunicationsの代行事業として、 エンドユーザーの利用料金は電話による通常の電話料金と同じになっております。 私たちの活動の焦点は、難聴者や聴力を失った人たちへのサポートですが、聴力以外の身体 障害関連の慈善団体とも緊密に連携しながら、活動を行っておりますので、これらについては、 本日これから、私と、こちらにおります私の同僚が詳しくお話させて頂きます。 最後に、私共の団体は、大変活発な研究活動を統括していますし、また、一般的なものから 特殊な機器までを生産コストのみで販売を行う補助用具・機器の販売事業も行っております。 ここまでの説明でRNIDの概要についてご理解頂きましたら幸いです。この後に続く具体的 な技術的説明については申し訳ございませんが、英語でお話させて頂きます。ちょっと時差ボ ケもありまして、そんな頭で漢字も読まなければならないのは大変でした。 (以下、英語からの翻訳) さて、放送についてお話しをする前に、最初にRNIDは他にも色々なことしているというこ とをお話ししたいと思います。例えば、失聴、難聴、あるいは、耳鳴りなどの原因に関するバ イオメディカル生化学調査を世界中でサポートもしています。 スライドは、耳の神経の非常に小さな指のような突起が、どのようして蝸牛に伸びるかを示 しています(スライド4)。これによって、音によるコミュニケーション能力が向上します。こ れは、RNIDが長年にわたって支援してきた研究です。 また、私たちは、失聴の原因についての遺伝的な研究もサポートしています。また、アプリ ケーションソフトの開発もすすめています。 皆様が興味をもたれると思われるものをお示しします。スライドの上側の絵は、通常の耳を 示しています(スライド5)。耳の中の有毛細胞により、正しく音が聞こえます。ご存知の方が おられるかも知れませんが、有毛細胞が動くことで聞くことができます。 下の絵は、毛の先端が失われています。これは、この細胞が死んでいることを示します。多 くの人々は、老化や騒音被爆などによって聴力を失ってしまいます。興味深いのは、人間の有 毛細胞の毛は再生しないということです。しかし、もし、あなたが、ワニの耳をもっていれば、 事情が違ってきます。 ロック音楽の好きな方もおられると思いますが、もし、あなたが、ペットのワニのクロコダ イルと一緒にロックコンサートに行き、スピーカーの真前で聞いていると、あなたもペットも 聴力を失ってしまうでしょう。しかし、6週間後、人は、依然としてろう者ですが、クロコダ イルは、聴力を回復しています。その理由は、有毛細胞の毛が生えてくるからです。これが、 私たちが行っている失聴に関するいくつかの生化学調査によりこのようなことがわかりました。 最初に申し上げましたとおり、私が責任者をしておりましたもう一つの分野は、失聴と耳鳴 りに悩む人々に対する製品の販売です。企業としてやっているのではなく、慈善事業の一つと してやっています。勿論コストの部分はカバーしなければなりません。基本的な考え方は、で きる限りたくさんの方々に、できる限り機器を提供することによって、彼らの生活を向上させ てもらおうということです。しかし、コストは最小限に抑えたい。利益を追及するというより はコスト部分をカバーできればいいわけです。私共のこの製品のカタログには、160ほどの製 品がございます。このカタログから買って頂けます。その売り上げは、大体4百万ポンドくら いになります。 このような非常に広範な製品を販売しています。ドアのアラームとか、ラジオみたいなもの とか、ビデオレコーダーなどもあります。我々がデザインしある企業に頼んで煙検知器も作っ てもらいました。我々は、非常に広範囲にわたる仕事をしています。 さて、次にいきましょう。これからは、特に放送と障害者の問題に関して話を進めます。 コミュニティ機器 community equipment というものが非常に重要です(スライド6)。イギ リスにおきましては、日本においてももちろんそうだと思いますけれども、たくさんの方が特 別な装置を必要としています。ところが所得が低いために、そういったものを充分買いそろえ ることはできないという場合、無料でこういった装置をNHS国民健康保険からもらうことが できます。 例えば、小さい子どもやその他の人が、聴覚障害と診断されたとします。あるいは視覚障害 者と診断されたとします。あるいは身体障害者と診断された場合には、毎回毎回お医者さんに 行く必要はなく、包括的にこのサービスを受けることができます。そして、色々なタイプの障 害にこれを適用させることができます。例えば、補聴器ですとか、あるいは、視覚をサポート する機器ですとか、車いす、あるいはその他の身体障害者が必要な支援機器がパッケージで提 供されます。 テレビ放送は、本当に我々の世界の中心となったと言っていいと思います(スライド7)。日 本もそうだと思いますけれども、イギリスにおいても、大体1日3時間から3時間38分、イ ギリス人はテレビを見るというデータが出ております。特に高齢者で、家にいる時間が長い場 合には、もっとそれが長くなります。ですので、この音声解説あるいは字幕へのアクセスとい うのは、そういった方々の場合は、特に重要になってくるわけです。そこで、欧州委員会では、 もっとこのアクセスを確保していかなければならないと認識するようになりました。また、イ ギリスもそれに従って法規を導入して、字幕放送、音声解説、あるいは、手話放送をより提供 しようということになりました。 ここで問題となるのは、障害者がテレビを通して何を必要としているのか、何を求めている のかということであると思います(スライド8)。まず、第一には、テレビ番組にアクセスした いということです。つまり、どんな番組をいつ見られるのかということがわかることです。そ ういうものは、電子的にプログラム番組ガイドとして見るというのができれば良いと思います。 これは、テレビを観ることだけではなく、放送メディアという環境にもいえると思います。 次に、テレビ番組において、積極的な障害者像を作っていくことが必要だと思います。毎週 末に、手話付の失聴者向けのテレビ番組があります。最近、初めてメロドラマ提供しました。 そこには、毎週、失聴者が登場します。テレビの中での障害者像について、我々は、非常に関 心をもっており、テレビをもっと積極的に活用するということができると思います。 また、教育的な番組も重要です。障害関連問題をより多くの人に分かってもらおうというの がその目的です。障害者関連法規については、後でお話させていただきますが、最も努力して いるのは、中小企業・大企業も含めましてそういった企業に、障害者に対するアクセスの保証に ついて理解してもらうということです。法律に規定された合理的調整reasonable adjustment のことです。 例えば、皆さんが小企業を営んでいるとすると、5千万円くらいの売り上げしかないのに、 1億円ものお金を障害者のアクセス改善のために使ってくれというのは合理的ではありません。 適切な割合があります。ただ、できる限り多くの企業の皆さんにこの必要性を分かってもらう ように彼らをサポートしたいと思っております。 テレビ放送には、EUによる規制がかけられております(スライド9)。また、各国における 規制もあります。ヨーロッパ全体の法規と各国の法規全体を説明することはできませんが、ご 質問がありましたら、最後にお答えしたいとも思っております。 RNIDが主眼としておりますのは、字幕であります。なぜかといいますと5百万ほどのイギ リス人が、通常字幕に頼っているためです。数が非常に多いのです。イギリスの人口は日本の 半分くらいということですから、どれぐらいかということがお分かり頂けるかと思います。また、 テレビ上の手話通訳を増やしたり、視覚障害者のための音声解説放送を増やすためのロビー活 動を展開しております。 最近、映画を観に行きまして意識的に映画の音声解説を聞いてみたんですけれども、本当に びっくりしました。映画を見ているんですけれども、さらにもうひとつ次元が広がったような 気が致しまして、これは視覚障害者の方だけではなくて、それ以外の人々に対するメッセージ でもあると思いました。また、自分は今言葉を勉強したいとか、そういった人たちにとっても、 字幕は役に立つと思います。 我々が行おうとしていることには、2つの軸があります(スライド10)。その一つは、サー ビスの質を高めるということです。手話通訳の質を確保することもそうですし、放送自体の質 もそうです。 二番目の軸は、技術的規格作りです。例えば、ある機械で字幕や音声解説を記録する、また、 別の機械で記録する、そして、また、別の機械で再生できるようにするためには、技術的規格 の統一が必要です。 イギリスの放送環境は、他のヨーロッパの国と比べて、非常に規制がかかっている、または、 規制が厳しいといわれます(スライド11)。字幕は、かなり前、1980年代初めから行われてお ります。放送そのものに関する規制は、ここ15年ぐらい規制がかなり厳しくなってきました。 議会において、たくさんの法律条件が出されてきました。放送局は、字幕付きの番組、あるい は音声解説付きの番組を、提供をしなければならないように法律でだんだんと決められてきて いるわけです。 イギリスの法律のシステムは、非常に複雑なので、すべてを詳細に説明しませんが、基礎的 な知識を提供したいと思います(スライド12)。というのは、法律に影響を与え、それを変え ていくことは、そのプロセスと強く関係しているからです。そのプロセスのいくつかについては、 日本の国内の法規に対して政治的に取り組む際に役立つかもしれません。 法律制定に向けた一つの取り組みの方法は、利益団体と討議することです。つまり、相談す るということです。例えば、上院議員のパトナム議員は、2002年にこのような活動を始めま したが、英国議会の委員会に、証人を呼んで、放送関係法規にどういったものを盛り込めばよ いのかについて証言をしてもらいました。それでどういった種類の法律を作るべきなのかに影 響を与えることができたわけです。政府は、その証言を考慮して法律を作り、それを日本と同 じように、下院で議論し、最終的には、上院で承認して法律が通過しました。議会に対して我々 が努力したことは、望むものを法律に盛り込んで欲しい、望まないものを変更・削除してほしい ということを明確にしたことです。 最も最近の法規により、コミュニケーション事務所Office of Communicationができました (スライド13)。これは、短く、オフコムと呼ばれております。オフコムは、英国通信法により 設立された独立した団体です。面白いことに、法律によってこのオフコムは設立されましたが、 非常に強い権限をもっていて、いったん設立されてしまえば、英国議会でも、このオフコムを コントロールすることはできません。 例えば、字幕を例にとってみますと、我々は、これまで、通信法関連法に影響を与える機会 はありましたが、オフコムが設立したことで、オフコムが放送事業者に対して勧告することを 法律が保証していることから、我々は、放送事業者に対して、非常に詳細な要求をすることが できるようになりました。例えば、字幕付きの番組や音声解説放送をどのくらいにするかなど を法律で義務付けることができるようになりました。そのために、我々は、この新しい機関に ロビー活動を行っております。その結果について我々は、非常に満足しております。その意味 では、英国の法律は、かなり変化があったと言えると思います。 もう一つ変わったことと言いますと、生放送に字幕を付けることが法律で義務付けられまし た。例えば、スポーツ放送です。録画放送だけではなく生放送も対象になりました。この独立 した機関であるオフコムが、放送業界にこれを働きかけることを決めたとき、オフコムは、最初、 我々に、生放送は費用がかかりすぎると言いました。 そこで、我々は、それに対して側面的な働きかけをして、生字幕はそれほどお金がかからな いということを述べました。実際にそれほど費用はかからないのです。そして、それをオフコ ムが受け入れることになって、結果的に、法律に盛り込まれることになったわけです。もし、 この法規に興味がおありであれば、現在のスライドをごらんください。 英国には、現在、約70の地上波放送局があり、それ以外に多くのケーブルテレビや衛星放 送があります(スライド14)。それぞれの放送局は、今後10年間に、どれくらいの割合を字幕 放送にするのか、あるいは手話通訳を付けるのか、音声解説を付けるのかということにつきま して、目標を立てています。 その目標は、各社ばらばらです。字幕をどの程度の番組につけるかは、その放送局の放送の 規模によります。その放送局の放送時間が、何千時間、あるいは何万時間にも及ぶ場合には、 当然字幕を付ける対象が、小さな規模の放送局よりも多くなります。 皆さんもご存知と思いますが、BBCというテレビ局、これは日本でいうとNHKのような局 ですが、このBBCは、やはり視聴者の受信料で運営されています。BBCは、字幕の提供に関 しては非常によくやっていると思います。その他のテレビ局、例えばチャンネル4とかITVと か、それからスカイという最近できた衛星チャンネルなども、多くの字幕を提供しております。 BBCは、2008年までに番組の100%を字幕付きにしようとしています。現在、生放送を含め、 すでに80%の番組に字幕が付いています。あと3年でこれを100%にまでと言っております。 他の放送局は、今後10年間で80%の番組に字幕を付けなければなりません。また、規模に かかわらず、ほとんどすべての放送局が達成しなければならない共通の目標があります。それは、 5%の手話番組と10%の音声解説番組を10年間で達成しなければなりません。 最近まで、音声解説放送を付けることは、必要な技術が開発されていないために、お金を出 しても導入できないという理由で、不可能であると言われていました。しかし、ごく最近、音 声解説をつける技術を購入することができるようになり、状況が変わりました。 先程申しましたように、衛星チャンネルにスカイという局があります。このスカイというテ レビ局は、視聴者に受信機のようなものを提供し、それで音声解説放送を録画したり生放送を 聴けるサービスを提供しております。この受信機は、すべての利用者が必要としているもので、 30,000円くらいで販売されています。 しかし、もし、より安価なものが欲しい場合は、デジタルテレビ用のデジタル受信機を購入 します。これは価格でいうと6,000〜7,000円くらいのものです。これで、30から40のデ ジタル放送を無料で見られます。もちろん、これらの放送では、今後、10年間で、多くの番組 に字幕や解説放送が付くと思われます。 手話付き番組の問題は、非常に興味深い問題です。現在、テレビ局の数は、70くらいありま すが、これに、この70局が毎日放送している放送時間数をかけてみて下さい。そしてその5%がどのくらいになるのかを計算してください。非常に大きな数字になります。これを行うのに、 どのくらいの手話通訳者の数が必要かを考えれば、手話通訳の数が足りないということが明白 です。 そこで、RNIDでは何か他の解決策がないのだろうかということを真剣に検討しております。 一つの方法は、CGによる手話通訳者を使うことです。アンプターと呼ばれる、コミュニケー ション用ソフトウェアがありますので、後でお見せします。それは、実際の人間の手話通訳者 のように手話をします。このソフトウェアは、十分な数の手話通訳者が確保できないという単 純な理由から作成されました。 もちろん、RNIDは、別の重要な仕事として、さらに多くの手話通訳者を養成しようとし ています。しかし、後に分かるように、通訳者の数を増やすには、かなりの時間がかかります。 このような変化に関して、我々がどのように行ってきたのか、また、どのようにイギリスの 法制を変えてきたのかということについて、もう少し述べたいと思います。最初に、RNIDの 会員数は、およそ35,000人であると申しました。我々は、各地域出身の議員に対して会員が それぞれロビー活動を行いました。具体的には何をしたかと言うと、一人ひとりの議員に、な ぜ法律を変えて欲しいのか、どれだけ音声解説が必要なのか、どれだけ字幕が重要なのか、ど れだけ手話通訳を放送にのせるのが重要なのか、ということを訴えて、はがきを送りました( スライド16)。また、議員全員にもはがきを送りました。もし、あなたが議員なら、毎朝、郵 便配達人が、郵便物の束を配達してくるわけです。本当に何千枚もの同じ内容のはがきが送ら れてくるわけです。このような活動が、法律が議会を通過することに役立ちました。 また、直接的なロビー活動も行いました。直接、議員一人一人に話したり、大臣になぜ、こ の問題が重要かを話すわけです。私たちとしては、彼らがそうすべきだと言ったのではなく、 良い考えだし、障害者に役に立つということを説明したのです。例えば、障害者だけでなく、 学習障害者、騒音のある環境の人々など、さまざまな人々も恩恵を受けられるのだということ を強調しました。 また、我々は、経済効果の議論をするようにしました。先程もご説明したオフコムという組 織は、コスト分析を行います。そこで、法律の制定に対して全面的に支援する意味で、コスト 分析を支援するようにしました。このスライドにも書いてあるのですけれども、オフコムは、 字幕は、少なくとも2億6千万ポンドの経済効果があると結論づけました。17億ポンドの経 済効果がある可能性があるともしています。単純に、1時間番組に字幕を付けた場合の費用を 考えてみましょう。その費用×放送時間が全体のコストです。非常に大きな経済効果があるこ とがわかります。 次に、EUの状況についてみてみましょう。これらの問題は、英国や日本だけでなく、EU においても、強い関心が持たれています。 2005年において、欧州では8千万人の人たちが失聴しているといわれています(スライド 16)。これは、少なくとも1耳が35デシベル以上の音でないと聞こえないという人たちの数で す。これは、非常に重要な数字です。ヨーロッパには、174,000人の重度の聴覚障害児がおり、 軽度の聴覚障害児は60万人おります。もちろん、高齢者の中には、日本も同じだと思いますが、 非常に多くの聴覚障害者がいます。実際、65歳以上の場合、半分以上の人たちに聴覚障害があ るという報告もあります。 先程少し説明しましたように、有毛細胞が騒音にさらされることにより、あるいは、病気に より、または、遺伝子的な要因によって死んでしまうために、全体として7人に1人に聴覚障 害があります。そして、今や5人に1人以上が60歳以上です。 すでに述べたように、字幕は、聴覚障害者にとって非常に利益があると我々は、主張してい ます。特に子供は重要です。住んでいる場所の騒音がひどくて、耳が良いにも関わらず、字幕 を利用している人も知っています。周囲の騒音のなかで落ち着いてテレビを見たいためです。 また、学習障害者もテレビを十分活用できていません。我々は、常々、字幕は、聴覚障害者 だけでなく、他の人たちにも役立つと述べております。これも、その例です。学習障害を持つ 人たちに対しても字幕は有効であると私たちは考えております。つまり、字幕サービスは、聴 覚障害だけでなく、すべての人たちにプラスになるということが言えるわけなのです(スライ ド17)。 EUには、多くの好事例があります(スライド18)。例えば、オランダは、過去十年に大き な前進を遂げています。すべてのテレビ番組に字幕を付けることが求められているようです。 アイルランドでは、すべての政党が協力して、字幕や解説放送や支援技術の活用についてEU指令に従う規定作りをしています。 次に、ヨーロッパレベルの法令についてみてみたいと思います。今後、障害者に対する情報 アクセスや公平性などが重要になってくるでしょう。ご存知のように、EU欧州連合は、現在、 25の国から成っています(スライド19)。欧州憲法のための新しい計画について議論されてい ますことは、どこかでお読みになったかもしれません。 各国は、ある程度、EU機構PanEuropeanBodyに統治権を譲ります。つまり、一定の状 況では、各国は、決定権を失い、EU機構にゆだねるということです。 つぎに、障害者問題と放送問題に関するEUの関連法についてさらに見ていきたいと思いま す(スライド20)。これらの一連の関係法は、EU指令に基づいており、テレビジョン・ウィズ アウト・フロンティアバリアのないテレビという名称がつけられています。これらの関係法は、 EU加盟各国が自国の法律を制定する際に準拠すべき枠組みについて規定しています。英国が 放送関係法を定めたのはそれが根拠になっています。 しかし、英国には、これらのEUの関係法により求められた以上のことを定めた法律があり ます。その理由は、我々が、アクセシビリティの改善を求めたからです。しかし、おどろくべ きことに、EUレベルでは、障害者やアクセシビリティについて規定した法律は全くありません。 なぜ、そうなったのかというと、これらの法律は、10年前から15年ほど前に作られたもので すが、当時は、ヨーロッパ議会に対するロビー活動がありませんでした。これは、我々障害者 のための慈善団体に対する大きな教訓です。すなわち、国内の議会だけでなく、国を超えたヨ ーロッパの議会との対話が非常に重要であることを示しています。それらの法律にも、消費者 保護ということはうたわれているので、放送はよりアクセシブルにすべきであると主張するた めにそれを利用しようと考えております(スライド21)。 このように、現在、テレビジョン・ウィズアウト・フロンティアというEU指令があるわけで すが、我々は、より広範な内容を含むようにこれを改定したいと考えています。欧州議会も、 最近、そのように言っていると思います。最近、その担当理事は、実際に、ヨーロッパレベル で障害者のための法令をつくることがあるかもしれないと述べました。我々は、新しい法律が できることを本当に期待しております。理事会も、既存の法規を見直して、障害者のために総 合化すると言っています。 情報社会の問題とメディアは、統合して、EUの一人のコミッショナーの責任にもとづき、 一つの部局で取り扱われております。これらの問題を一つとして取り扱うことは、我々との対 話を確実にするために役立つと思いますし、さらに、対話を進めることができると思います( スライド22)。 ヨーロッパレベルでは、イーアクセスも公表されています(スライド23)。これも、この分 野の発展のために非常に役に立つステップであります。 また、ヨーロッパ・オーディオ・ビジュアル・オブザバトリィEuropeAudioVisualObsevatry というのもあります。ちょっと変な名前ですが、これは、独立したシンクタンクです。このヨ ーロッパレベルの独立したシンクタンクは、放送関係のオーディオ・ビジュアル問題に関するさ まざまな情報やデータを集めます。非常に信頼性の高い情報や統計データが集めれば、将来、 これらを使って、独自の問題を話し合うことで状況を改善したり、法律を改良したりすること ができるでしょう。しかし、そのためには、各加盟国がEUに圧力をかけてそれを推進させる ようにそれらの国々を支援していなければなりません。 EUの法規を作っていく過程についての細かい話はこのくらいにしますが、実際に公僕とし て、法律の改良を行う権利をもっているのは、欧州委員会だということです。加盟国が新しい EUの法律を制定するということはできませんので、各加盟国は、EU法制定のためには、まず、 これらの公僕を説得するということになります。 他の国の活動も紹介しておきます(スライド24)。スウェーデンでは、ポスターキャンペー ンというのを行っているのが印象的です。これによって、字幕の有用性に対する認知度を高め ようというわけです。 スイスにおきましては、一万人の請願署名により、政府に対して、もっと字幕・音声解説・手 話通訳付きのテレビ番組を増やしてくれるように嘆願いたしました。 イギリスの例に戻りますと、障害者差別禁止法があります(スライド25)。この法律は、比 較的新しい法律ですが、昨年10月に新たに発効した部分がありました。それは、中小企業も 含めて、すべての企業が、合理的な手段reasonablemeasureにより、彼らのビジネスサービ スをアクセスなものにすることが、義務づけられました。そのアクセシビリティには、二つあ ります。それは、その企業で働くスタッフのためのアクセシビリティと、その会社を訪ねる人 のためのアクセシビリティです。二つとも同じく重要です。 アクセシビリティを高めるということは、非常にコストがかかるのではないかという中小企 業からの懸念がありました。我々は、そんなことはないと説明しました。大きなことをやらな くても、すこしずつ小さな改良を行うだけで、アクセシビリティが大きく改善されることを説 明したのです。 例えば、ビルディングについていえば、単独でアクセスできない場合には、インターコムの システムが使えるかもしれません。あるいは、入り口にビデオフォンをつければよいかもしれ ません。あるいは、各会社のスタッフが、視覚障害者や聴覚障害者の顧客に対する支援方法に ついての訓練を受けることが必要かもしれません。そのような訓練は、高価なものである必要 はありません。RNIDやその他の団体は、そのような訓練コースをもっています。たくさん のスタッフを、半日あるいは1日で訓練することができます。 例えば、聴覚障害者の顧客に対応する職員は、下を向いたり、口を手で覆ったりしないで、 大きな声で話すことなどの指導がされます。それだけで、かなり違います。車いすのアクセス やエレベーターの設置などのこれまで行われてきた方法とともに、このような単純なことも大 切です。 ですから、最も合理的になることを基本にする必要があります。すべての新しい電車やバス を車いすに対してアクセシブルにするよう求めることが合理的でしょうか。アクセシブルでな いすべての駅を、すぐに車いすでアクセスできるように求めて何十億円も費用をかけることは、 たぶん、合理的ではないでしょう。 もし、障害者とメディアに関してさらに情報を得たい方は、この二つのウェブサイトがあり ます。役に立つと思います。 欧州議会の「メディアと障害者アクセシビリティ」というサイトが2003年にできました。た くさんの役に立つ情報があるので、ご覧になるとよいでしょう(スライド26)。 また、スカイというものもあります。これは衛星放送局ですが、ここでも障害者のためのア クセスや仕事へアクセスを提供しています。ここからもいろいろ有益な情報を得ることができ るのではないかと思います。 最後になりますが、ちょっと将来のことを考えてみたいと思います(スライド27)。この後、 同僚のマーク・ホダから、今後のことについていくつか面白い話を詳しくさせて頂きますが、私 の発表の最後に、将来の新技術について話したいと思います。 テレビでの手話通訳を、もっと増やしたいというお話しをしました。法律によってそれは放 送局に義務づけられております。しかし、手話通訳者の数が充分でありません。そこで、その 解決方法として、コンピューターがつくる手話通訳者が有効かもしれません。これは、ヨーロ ッパプロジェクトの一つになっています。たくさんの仲間が参加しております。RNIDも参加 団体の一つになっています。我々は、ユーザインターフェースに関する多くの部分を開発しま した。 これが、CGの手話通訳者です(スライド28)。例えば、彼がウェブサイトの中身を手話通訳 してくれます。あるいは、ビルディングの情報キオスクとして情報を提供してくれます。ボタ ンを押したり、ボタンにタッチすることで、知りたい情報を手話で見ることができます。その ようなことを考えています。実をいえば、まだ、長い道のりが必要で、確実にあと5、6年は かかると思います。限られた環境で機能させることはできますが、あらゆる状況において、あ らゆる種類の手話に対応することは、実際、大きな挑戦です。しかし、開発し続けたいと思い ます。 そしてここで興味深いのは、このCGの手話通訳者の動きは、バレエに似ているということ です。バレエがお好きな方いると思いますけれども、バレエの動きを記録しようとすると、特 殊なタイプの表記法を使います。それは、3次元の動きを表記できるものです。手話は、3次 元の動作なので、この概念を使ったソフトウエアが、ハンブルク大学によって開発されました。 どのように動くかをみせてくれると思います。このマシン上での動きは非常にゆっくりして いますが、もっと早い処理ができるコンピューターであれば、もっと早い動きになります。こ のラップトップ上では少し遅いですが、ちょっとお見せしましょう。 人が出てきました。日本の手話通訳者の方がここにいらっしゃいますけれども、彼は英語の 手話通訳なのでちょっと違うかもしれません。一応この人は仮想手話通訳者として手話をやっ てくれます。 (スクリーン上でCGの手話通訳者がいろいろ手を動かして通訳をしている様子が出ている) このコンピューターでは、動きが非常にゆっくりしていて申し訳ないのですが、どういうふ うに動くのかというのが、お分かり頂けたかと思います。実際には、我々は、それぞれの手話 をプログラミングで書いていって、辞書のような形で作っていかなければなりませんので、非 常に時間がかかります。そして、別のアプリケーションソフトを使って、これらを滑らかにつ なげて手話の会話形式にしていきます。 それから、もうひとつ私共がやっておりますのは、アイゲイズという研究です(スライド 29)。これはBBCとやりました。BBCは、イギリスのNHKのようなものです。なかなか面白 い研究ですが、なぜ、我々がこれを行っているかというと、テレビを見る時に、人々が、テレ ビのスクリーンのどこを見ているかということを決定するためです。この後ビデオをお見せし ますけれども、画面が出ていまして、十字の小さい印が動きます。そこがテレビを見るときに その人が注視している点です。 まず、それをお見せします。これは子供用の番組なのですけれども、人形が出てくるんですね。 この十字の印が、ちょうど今見ている中心です(スライド30)。 ご覧のように、人は、かなり長い時間を同じところを見ているということが分かります。な ぜこれが重要かというと、例えば、もし、人々が、スクリーンのある部分しか見ていないとす ると、手話通訳者を別のところに移動したほうが良いかもしれません。また、画像の品質を、 そこだけよくするということもできるわけです。もし、表示能力が限られている場合、スクリ ーン全体で画質を上げずに、そこだけを高画質にすればよいわけです。 おもしろいことに、英国では、手話通訳者は、大体スクリーンの右下側に出ていることが多 いですが、でも、そこがベストな場所なのかどうかというのは、全く調査が行われていないの です。また、どれくらいの大きさの人物として手話通訳者が登場すればいいのかというリサー チも行われておりません。この場所が動いた方かいいかどうかも分かりません。会場で手話通 訳を利用されている多くの方は、常に手話通訳の部分を見てきたということから、通常の人よ りも周辺視野が広いといえるかもしれません。 以上が、現在、私共の取り組みの一つであるアイゲイズの説明です。 次にお話ししたいのはシンフェイスというものです。これは、シンセティック・トーキング・ フェイスSyntheticTalkingFaceを短くしたものです。先ほど申し上げましたように、多くの 人々は、高齢になるにつれて、だんだんと聴力が弱くなっていきます。携帯電話を使っている 方が、今はたくさんいらっしゃるかと思います。ただテキストホンはなかなか使いづらいと思 われる方が多いと思います。もし人と話をするときに、人の姿を見て話ができないと、理解し づらいということを経験された方がここにも多くおられると思います。聴覚にいくらか障害が ある場合、唇を読みながら聞くという組み合わせを用います。もし、唇を読まないでただ音を 聞いているだけでは、理解はより、難しくなるでしょう。しかし、私がしゃべる時に、私の唇 の動きを見れば、多少理解しやすくなるでしょう。これも、RNIDがメンバーになっている ヨーロッパプロジェクトです。これは、トーキングフェイスを開発しようとするものです。 実際に、どのようにこれが機能するのか、皆さんにビデオでご紹介したいと思います。2分 ほどのビデオで、字幕が付いていますので、通訳の方も簡単に訳すことができると思います。 どのような仕組みかと言いますと、原理は簡単です。皆さんの電話が鳴ったとします。電話 を取ります。そうすると、同時にCGで合成した人の顔がコンピューターやテレビ電話のスク リーンに現れます。そして、その顔があなたに話しかけます。同時に聞き見ることでよく理解 できるようになります。このシステムは、まだ、開発中で完成はしていないので誤解のないよ うにお願いします。 これが、シンフェイスのビデオです。このビデオには、同僚の二人の女性が登場しておりま すが、私がこのビデオを見せるたびに嫌がります。 ビデオが始まりました。ある女性が携帯電話をかけています。この女性は健聴者、耳は特に 不自由ない人のようです。さて画面変わりました。今度は聴覚障害の男性が受話器を取りまし た。女性と男性が話を始めます。「こんにちは」ということで聴覚障害の男性は、受話器をもち ろんも持ってはいるんですけれども、そこから出てくる音声とともに、すぐ横にあるシンフェ ースこのCGで作られた顔の方も見ています。相手の女性とは、何の問題もなく会話をしてい ます。今日の夕方にあそこに新しいパブができたから、そこに行ってみようという約束をして いる会話です。女性の話ている言葉は全て、このシンフェイスがリアルタイムで認識して、そ して、画像として合成して男性側に送っています。男性は今、シンフェイスに映っている顔を 見て、さらに自分の聞こえる限りの音をデータとして集めて、今会話を終えました。 もちろん、これはいつも申し上げていることですが、実際にこの男女がパブに行って一杯や って、その後どうなったかということについては、私は知る由もありません。 さて、これが、シンフェイスの仕組みでありました。そしてもう一つ、将来的に非常に面白 いであろうと思いますのは、リアルタイムテキストホンです(スライド31)。これは、現在、 皆様がお使いになっているテキストメッセージとはとはかなり違います*注1。これは、会話 をするように、リアルタイムでテキストを送れる機能です。つまり、こちらで、キー入力をす るとそのまま、それが、相手の携帯電話に出力されるものです。そのために、文字数に制限は ありません。まるで話をしているときのように、相手がテキストを入力しているときにこちら から割り込んでテキストを表示することもできます。 このソフトウエアは、私共RNIDの技術チームが開発をしました。もともとこれは、2つか 3つの種類の携帯電話を対象に開発されました。しかし、今では、新しいソフトウェアを開発 して、インターネットシステムを活用して、どんなタイプの携帯電話でも使えるようなものに 改善されています。この製品は、主要な携帯電話事業者に提供しており、それらの事業者によ り今年から新しいサービスが始まります。 私の話もいよいよまとめの部分となりました。今日はいろいろなトピックについてお話させ て頂きました。興味を持っていただけたでしょうか。いずれにしましても、テレビは、エンタ ーテインメントの中心をなしていますし、また、放送とインターネットの融合によりますます 重要な情報源となっていくことは明らかです。それは、誰にとっても完全なアクセシビリティ を持つべきです。すなわち、解説放送、字幕にせよアクセスしやすいものでなければなりません。 例えば、解説放送を聴くために、テレビのリモコンを5回も6回も色々なボタンを押したく ないと思います。簡単にすばやく聞きたいと思うでしょう。同じように、手の巧緻性に問題の ある身体障害者の場合、使いやすく、適当な大きさのボタンで、押す操作を簡単にできる携帯 電話が欲しいでしょう。これらのすべての問題が同時に解決されなければなりません。 また、ヨーロッパの国の中には、関連法が全くない国もいくつかあります。また、ヨーロッ パ全体をカバーする法律もありません。イギリスには、たくさんの法律があり、その中でも進 んではいるのですけれども、その他のヨーロッパ諸国にも、障害者を代表する障害者団体があ りますので、この法規制のレベルがだんだんと同じくらいになってくればいいなというふうに 考えております。 また、英国を含めヨーロッパの国々の多くは、障害者にかかわる基本法をすでに持っています。 これは良いことです。ヨーロッパでも法律の制定や改良を活発にして欲しいと期待しておりま す。 さて、私の話の後では、私の同僚でありますマーク・ホダが、さらにデジタル放送について話 しますが、私のお話した背景がその理解に役立つことを期待しております。ありがとうござい ました。 *訳注1ヨーロッパには、Eメールではなく、携帯電話同士でメッセージを送れるテキ ストメッセージという機能がありますが、日本の携帯電話は、その機能はありません。 講演3 EUにおける地上波デジタル放送 マーク・ホダ 王立全国聴覚障害者協会(RNID)ヨーロッパキャンペーン担当官 (監訳寺島彰) ご紹介ありがとうございます。今ダウンズ博士は、最初、素晴らしい日本語でお話ししまし たが、残念ながら私の話は全部英語になります。また私は早口になりがちなので、ご容赦頂き たいと思います。 私は、RNIDでは、ヨーロッパキャンペーン担当オフィサーという仕事をしております。 聴覚障害者のための組織や障害者のための組織とともに、ヨーロッパレベルで、有効な政策、 あるいは方針が、どんどん導入されるように色々なキャンペーンを働きかける、そういうよう な仕事をしております。特にマクロレベルでそれを行っております。 さて、今日の私の話は、地上波デジタル放送についての一般的な最近の傾向についてお話し をし、その問題点についてもお話ししたいと思います。ヨーロッパレベルまたイギリスという 国レベルで、あるいはその他の国レベルで抱えている問題点についても紹介したいと思います。 まずは、ヨーロッパのデジタルテレビについて、まず、統計的な数字をご紹介したいと思い ます(スライド2)。2010年末までに、ヨーロッパの家庭の5軒に1軒の世帯でこのデジタル テレビを見ることになるだろうと予想されています。英国では、500万世帯がそうなるだろう と思われます。現在、英国の60%の家庭がデジタル地上波テレビを見ていますが、2009年 までには、90%がそうなるだろうと推測されています。 イギリスでは、アナログテレビからデジタルテレビへの移行は、今後4年以内に始まり、 2012年には、100%になるのではないかと推定されています。 ちなみに、現在、デジタル化が一番進んでいるのはアメリカで、現在、45%がデジタル放送 視聴者となっています。そして、世界人口のだいたい3分の1が、2010年までにデジタル放 送を享受することになろうと推定されています。 しかし、デジタル放送の予測につきましては、今後、常に変化していますので、統計に興味 のある方は、次のウェブサイトをチェックしていてください。www.dtg.go.ukです。これは、 デジタルテレビの団体が運営しています。この団体は、英国の団体で、メーカー、他の産業団体、 有力な団体などで構成されています。このウェブサイトには、ニュースだけでなく、他のEU 諸国の状況や日本を含む世界中の状況が紹介されていますので、面白いと思います。スライド に表示できませんでしたので、全部メモできなかったという方はおっしゃってください。もう 一度繰り返します。 マーク博士が、字幕、音声解説、手話という、感覚障害者のアクセスサービスについて概観 しました。私は、手話と手話通訳と手話表示についてお話したいと思います(スライド3)。 EUの聴覚障害の手話使用者のための団体と手話について話をしますと、彼らが一番望んで いることは、番組の中で手話が使われることです。イギリスでは、幸いなことに、色々なチャ ンネルで、すでに手話が使われています。 さて、一般のユーザーに対するデジタルテレビの潜在的な可能性には、色々なことが考えら れます(スライド4)。例えば、システムとしては、より柔軟で効率が良いことです。双方向の 情報サービスというのも可能になります。イギリスでは、主要なデジタルチャンネルにおいて、 画面の隅の赤いマルを押すと表示が出てきます。そこで、聴取者がリモコンの赤いボタンを押 すと、さらに追加の情報が得られるという仕組みもできています。 また、時にはテレビ番組に直接参加をするというようなこともできます。テレビの番組によ っては、「皆さんの意見をお聞きしたいと思います」というようなこと言って、「ではこの意見に ついてみなさんの意見を聞かせてください、投票しましょう」というような内容があったとしま しょうか。そうすると視聴者は、そこで、例えば赤いボタンを押すことによってそれに参加が できます。 また、オリンピックのようなイベントの場合は、赤いボタンを押すことで同時に放映されて いる他の競技を見ることができます。 このように、デジタルテレビは、より柔軟な効率的なシステムなので、多くのチャンネルから、 視聴者は選択することができます。さらにデジタルテレビの場合、高品質・高鮮明度の画像を提 供できます。しかし、障害者にとって、この放送は問題もあります。では良い部分と悪い部分 両方ご説明したいと思います。 デジタルテレビについて、障害者にとって、良いところは、チャンネルが増えるということ です(スライド5)。そこで、公共放送やコミュニティーテレビ局にとっては、より多くのスペ ースが使えるということです。障害をもつ視聴者のためのチャンネルが増える可能性がありま す。また、送信できる情報量も増えると言えます。 そして、より品質の高いアクセスサービスというのも可能になります。例えば、デジタルビ デオ放送基準DigitalVideoBroadcastingStandardsに基づくデジタル字幕であるとか、はっ きりした文字を使ったより質の高い字幕であるとかです。 また、デジタルテレビのために新しい解説放送基準AudioDescriptionStandardsも作られ ました。 さらに、現在、クローズドサイニングの可能性と基準に関する調査が行われています。これは、 副音声ならぬ副手話というのでしょうか、見たいときに手話が表示できる機能です。通常の状 態では、テレビ画面には出ていませんが、リモコンのボタンを押すことでパッと手話通訳の画 面が出てくるようなものです。 ダウンズ博士が述べましたように、ヨーロッパの聴覚障害者の数は8,150万人であるという 統計がありますが、そこには、軽い聴覚障害から重度の聴覚障害まで含まれます。そこで、ヨ ーロッパには、新しいデジタルサービスに対する非常に多くの潜在的視聴者いるということに なります。また、支援サービスというのは、障害者のためだけのものではなく、すべての人に 対するものであるということを思い返す必要があります。このデジタル放送サービスを提供す ることは、すべての人に対するサービスの質を向上させるのであり、障害者のみに対するサー ビスを向上させるのではないということです。 実際、多くの放送局がこのサービスに対する考え方の重要性を分かり始めております。EU 域内に設立されたヨーロッパの放送連盟EBU:EuropeBroadcastingUnionは、昨年、アクセ スサービスについての報告書を出しました。EBUは、EU内のすべての公共放送の上部組織で、 ヨーロッパ諸国のBBCのような組織です。 このアクセスサービスの報告書において、アクセスサービスの背景にある技術的な問題につ いて言及しています。また、報告書の中で、アクセスサービスは、番組の付属的なデータでは なく、アクセスサービスを中心に据えて番組が作られなければいけないということを明確にし ています。 ちょっと私早口になっていました。どんどん早口になってしまって申し訳ございませんでし た。もうちょっとゆっくり話したいと思います。 また、この字幕を付けるための費用は、だんだんと下がってきております。これは、新しい 技術が登場したおかげです。例えば、イギリスにおいては、事前字幕Pre-recordedSubtitlesは、 1時間当たり400ポンドします。ライブ字幕は、250ポンドです。これは日本円に変換すると このくらいのものなのでしょうか、私ちょっと分かりませんが。この数字に対しては、色々と 意見があります。字幕の専門家は、コストは下がってきているけれども、それと同時に質も下 がってきているという人もいます。品質は高く維持しないといけないので、ある人は、字幕や その他のサービスに対しては、相応の費用を支払って質を確保すべきであると主張しています。 次に、デジタルテレビ放送に関するヨーロッパにおける問題点を考えてみたいと思います( スライド6)。ダウンズ博士は、ヨーロッパにおいてどの国の字幕、あるいは他のアクセスサー ビスのレベルが高いかを概観しました。イギリスは特に進んでいる方だと思います。アクセス サービスの提供という意味では最もレベルが高いといって良いと思います。オランダやフラン スは、今追いつこうとしているというのが、現状ですが、ただヨーロッパ全体を見てみますと、 アクセスサービスは、まだまだ低いレベルにあります。 大きな問題、あるいは、その根本にあるのは何かと言いますと、つまり、ヨーロッパレベル での法規がないということなのです。放送局が、障害者に対して、アクセスサービスを保障し なければいけないということを定めた法律が、無いわけです。このような法律を作るためには、 EUレベルの法律が必要です。そして、各国の法律は、それを補うことが必要です。 アクセスサービスの問題は、特にEUレベルでは非常に新しい問題です。EUに障害者アク セスのための積極的な行動をとってもらうようにすることが、最初のステップです。その第一 段階は、少なくとも、アクセスサービスレベルが、各国でどのくらいなのかということを調査 することです。ヨーロッパ放送連盟が色々データを集めていますが、アクセスサービスがどれ ぐらいなのか、各加盟国での状況を調査しましたが、民間の放送局の細かいところまでは、分 かりません。 一般に公開されていないデータもありますから、どこの国が、よくやっていているかを指摘 することができません。また、どこの国に追いついていただかなければならないかも示すこと ができません。ですから、ヨーロッパのアクセスサービスのレベルを高めるための第一段階と して、どこの国が良くて、どこの国が悪いというデータを集める必要があります。これまで、 そのようなデータは、いくらか集まっていますが、完全ではありません。 それから、技術的な問題もあります。私のプレゼンテーションの中でこの点を触れていきた いと思います。先程、ダウンズ博士が何度も説明しておりましたが、アクセスサービスの量が 足りません。そこで、私は、ヨーロッパや世界レベルの技術標準についてお話したいと思います。 受信機であるデジタルセットアップボックスは、特別なニーズを抱えた障害者の方々のため の機器で、特殊な機能が付加されている場合は、まだ高価で、誰でも買えるというわけではあ りません。そして、イージーTVという英国の最近の調査では、消費者向けのデジタルテレビは、 パーソナルコンピューターより取り扱いが難しいというデータが出ております。その理由とし ては、スクリーン上のメニューや電子プログラムガイドEPG:ElectronicProgramGuidesが 使いにくいことなどがあげられます。EPGは、一日のすべてのチャンネルやプログラムをリ スト表示します。しかし、あるプログラムにアクセスサービスがついているかどうかを発見す るのは困難であったり不可能であったりします。その理由について見ていきたいと思います。 その理由の一つは、アクセスサービスに関する記号が、ヨーロッパレベルでは、統一されて いないということです。かつて、そのような動きはいくつかありましたが、統一には至ってい ません。 スクリーン上のメニューからコントロールするEPGのナビゲーションは、非常に複雑なも のになる可能性があります。マーク博士も申しましたように、英国には、スカイという非常に 人気のあるテレビ放映システムがあります。それには、3つの別々のメニューがリモコン上に 付いています。それはすぐに見て分かるというようなものではありません。直感的にわかるよ うなものになっていないのです。そこで、我々は、一個の専用のボタンをリモコン上に設けて、 これを押しさえすれば字幕が出てくる、音声解説が出てくる、手話が出てくるというようなも のを提案しています。 さきほどのスライドでアクセスサービス向けのDBBスタンダードのお話しをしました。こ のスタンダードは良いものですが、どの政府もEUも、これを字幕や音声解説や手話によるア クセスを保証するために義務づけていないのです。我々は、それを改善したいと思います。 EUの報告書に「全ての人のテレビTVforAll」というのがあります(スライド7)。これには、 指針が含められています。この指針を技術的に必須要件にしていくということが求められてい ます。 これはEUの委員会に出された報告書です(スライド8)。この報告書では、障害者のデジタ ルテレビへの総合的なアクセスを可能にするために必要な技術的を調査することを求めていま す。これは非常に画期的な出来事で、初めて、放送事業者、製造業者、障害者の代表と一般の 消費者団体の代表が、テレビに関する障害者ための技術的なニーズを話し合って作成しました。 技術的な標準にしていこうということを、話し合ったわけです。 また、先ほど述べた技術基準を作成することでこれをどのように実現するかについても話し 合われました。このプロセスは2002年のスペインのセビリアの会議で始まりました。そして 2003年に最終報告書が出されました。そのWebサイトのアドレスもここに掲げております。 www.cenelec.orgセレネックです。セネレックは、消費者のための電子製品の技術標準につい ての報告書を作成することを職務としています。そこで、彼らは、「すべてのひとのためのテレ ビ」のレポートの作成を担当しております。 また、ジェリー・スタラード氏が書いたレポートもあります。彼は、以前、テレビ委員会とい う独立した機関の規制担当者として働いておりまして、この領域において高い見識を持ってい ます。このテレビ委員会は、オフコムができるまで、テレビに関する規制を担当していました。 彼は、現在、RNIDやその他の字幕に関係する企業のコンサルタントをしています。彼の Eメールアドレスもここに掲げておきました。もし、レポートを読まれたい方は、彼は、皆様 からのコメントも喜んで受け付けると思います。というのは、まだ引き続き勧告を行っている ためです。 その報告書は、強制的なものではないので、我々は、そのレポートに書かれた勧告について、 現在もキャンペーンを行っています。どんなご意見でも歓迎です。gerry@stallards.f9.co.uk というのが彼のEメールのアドレスです。 この最終報告書にまとめられた中心的なポイントは、表示についての支援サービスです。つ まり、字幕、手話通訳、音声解説のようなものです。また、端末の機器に関する勧告としては、 障害者が簡単にこれらのサービスを利用できるためことEeasyAccessが求められています。 また、このリモコンについても勧告が行われており、このリモコンのレイアウトも、肢体不 自由の方にも使いやすいもの、はっきりしたボタン、適当なサイズなど扱いやすいリモコンに するための要件が示されています。テレビでは、字幕、手話、音声解説などを表示するために たくさんのボタンを押すことを求めてはいません。 また、電子的番組ガイド、あるいはスクリーン表示についても勧告しています。特に、電子 的番組ガイドEPGについての条件の標準化を試みています。これによって、番組にこういっ たアシストティブサービスがついているかどうかはっきり知ることができます。また、簡単に 導いてくれる機能gatewayを持たせなければなりません。もし、私が、画面にEPGを表示し ているとすると、画面をスクロールさせ、番組選択プログラム使えば、一日のすべてのテレビ 番組に字幕が付きます。また、リモートコントロールのプログラムをクリックすることで、テ レビ上でのサービス表示に切り替わります。 相互運用性interoperability、これはちょっと難しい言葉で、ヨーロッパ言語のジャーゴン 的な用語ではあります。相互運用性とは、障害にかかわることだけではない、より一般的な内 容です。これは、電子装置に関するオープンな標準を設けようとする議論です。全ての装置が、 すべてのサービスに対応できるものでなければいけないということです。 もちろん、障害者に対するサービスも含まれます。可能性を言えば、もし、あなたのセット アップボックスが異なる実行形ソフトウェアミドルウェアと呼んでいるを使っているとすると、 すべてのアクセスサービスをデコードできないかもしれません。逆に、もし、あなたが、すべ てのすべての番組のすべての字幕サービスをデコードできるボックスを持っているとすると、 そういったソフトウエアを常に端末上に持っているということになります。 また、録音装置の重要性もそのレポートで述べられています。例えば、イギリスで問題にな りましたのは、アナログのビデオレコーダーです。アナログの字幕を録画できるVHSレコー ダーは、もう、店では販売されていません。それらは、市場から消えつつあります。もし、あ なたが、デジタルテレビにまだ移行していない人で、アナログテレビと、DVDプレーヤーの ような古いビデオレコーダーを持っているとすると、テレビの字幕を録画できないでしょう。 これは、もちろんデジタルテレビへ移行してまったからです。VHSレコーダーは、デジタル 字幕を録画することができないからです。すでに、お話しましたように、もちろん、多くの人々は、 いまだに、デジタルテレビに変えたいと思っていません。そこで、録画装置についての勧告では、 録画装置はテレビの支援サービスを録画できなければならないということが盛り込まれており ます。 私の話すスピード大丈夫でしょうか。また早くなってますでしょうか。ちょっと心配ですが。 他のEUの報告書についても、ちょっとお話ししたいと思います。もちろんテレビ、特デジ タルテレビ関連の報告書についてであります。最初は、インクルージョン委員会報告書と呼ば れているものです(スライド9)。2003年は、ヨーロッパ障害者年でした。ヨーロッパでは、 EUにより毎年テーマが決められています。ヨーロッパ障害者年、ヨーロッパ高齢者年、ヨー ロッパ環境年というようなものがありました。2003年というのはヨーロッパ障害者年でした。 このテーマは、実際の行動を求めるものと考えられていました。そこで、2003年には、この テーマのもとに、ヨーロッパでは、障害者問題に対するさまざまな行動が行われました。その うちの一つが、インクルージョン委員会の設置でした。この委員会は、各国の政府代表者から 成っております。また、それ以外にヨーロッパ委員会のオフィシャルなどが、メンバーになっ ております。インフォメーション・コミュニケーション・テクノロジーICTにおける障害者に対 するバリアについて話し合うために集まりました。 この報告書には、デジタルテレビが含まれています。報告書の一つのプラス面は、この報告 書がデジタル化による障害者に対する潜在的な利益について述べています。それは、私が、こ の発表において最初から述べていることです。 また、EUの平均や好実践例を勘案すると、デジタルテレビでは、80%くらいの番組が障 害者のためのアクセスサービスを行うべきだと述べています。残念ながら法的強制力はありま せんが、そのような勧告がなされたのは良いことです。われわれが行っているキャンペーンで、 それが発展することを期待しています。 別のEU法で、今年発効するものがあります。これは、イーアクセシビリティコミニュケー ションと呼ばれています。これは、eヨーロッパeEuropeの行動計画です。先程、飯島さんから、 イージャパンという行動計画をお聞きしましたが、これも、それと同じような考え方です。そ の一部に、eアクセシビリティまたは、eインクルージョンという軸があります。 このコミュニケーションは、障害者のICTに対するアクセスをより促進するための、いく つかの公共政策のツールを提供しています。その中には、デジタルテレビも含まれています。 この、潜在的な行動には、法律やさまざまなベンチマーキング、つまり、各国の比較をして、 アプローチの違いやよくやっているところやそうでないところなどを明らかにすることなどが 含まれます。 また、製品の認定も行います。その製品が、障害者にとってアクセシブルであれば、その製 品がアクセシブルであることを示すラベルやステッカーを製品に貼り付けます。 また、パブリックプロキュアメントpublicprocurement、これは、政府が、商品やサービス を購入ことですが、この文脈でいえば、国や地方自治体が、これに関連する技術を購入する際 には、その技術は、障害者にとってアクセシブルでなければならないということです。これらが、 障害者のために対して、まさに、このコミュニケーションが提案しているものです。 英国のデジタル変化について見ていく前に、うまくやっている例としてスペインの例をご紹 介したいと思います(スライド10)。現在、スペインでは、アナログからデジタル放送に、う まい形で転換するための行動計画を作成しようとしています。作成に先立ち、彼らは、すでに、 障害者のアクセス問題に関するワーキンググループを作りました。そのために、障害者のアク セスは、最初の段階で組み込まれています。このスペインの法律は、電気通信、情報社会、さ らに公共サービスや公共空間など幅広くカバーしています。 失礼しました、この法律は、枠組みを規定した法律です。2003年にスペインで成立しました。 そのために、障害者のアクセスに関する別の問題をカバーしています。デジタルテレビは、基 本法には規定されていません。デジタルテレビに関する要件は、別の下位法により規定される 予定です。 私は、スペインは、良い事例であると思います。というのは、スペインは、基本法を導入し、 それに基づき、アナログからデジタルへの移行において障害者のアクセスを確保するためにデ ジタルテレビに関する行動計画を立てることを行っているからです。 先程、ダウンズ博士も申しましたように、2003年には英国でも通信法という法律が制定さ れました(スライド11)。そこで、私は、あまり細かいことに触れません。しかし、彼の話し たテーマとは、少し違うテーマについてお話します。すなわち、地上波デジタル放送局とともに、 今回始めて法律に規定されたケーブルテレビ局、衛星テレビ局についてもお話したいと思いま す。 このパワーポイントの画面にもあるように、同通信法303条は、放送事業者に字幕、音声解説、 手話通訳をつけることを要求しているだけでなく、それらのサービスを推進し、利用できるこ とやその利用方法を一般の視聴者に宣伝をしていかなければならないとされています。そこで、 次にどのようなことができるかについてこれから少しお話したいと思います。また、字幕サー ビス推進のためのコマーシャル番組についても紹介します。 ダウンズ博士も触れましたが、解説放送について少しだけお話させていただきたいと思いま す。英国の解説放送は非常に変わった状況にあります。解説放送は行われていますが、だれも 聞けないのです。解説放送を聴くための機器が開発される前にどの程度の解説放送を放送する かが決められたためです。しかし、この状況も昨年改善され、スカイという英国の大きなテレ ビ放送事業者が、その規格にもとづき解説放送を配信することに合意しました。 また、フリービューボックスというものがあります。これは、地上波デジタル放送を聴くた めの音声解説放送受信機です。その概観をスクリーンに示しています。これは、ネットジェム という企業が製作しました。 別の新しい機器が販売されました(スライド12)。これは、視覚障害者グループのためのも のです。これは、実際には、RNIBの役割だと思いますが、現在、テレビの解説放送の実施 率を上げるように要求しています。というのは、通信法は、10年後までに、解説放送を5% に増やすといっているわけですが、字幕と比較すれば、非常に実施率が低いからです。手話に ついても10%ですので、その半分というレベルです。そこで、視覚障害者のグループは、視 覚障害者がよりアクセスできるように、番組の50%には音声解説を入れてほしいということを 訴えています。 RNIDでは、通信法に関する様々なキャンペーンを行いましたが、これまでの結果には概ね 満足しています。しかし、英国には、まだまだ問題があります。特に、サービスに対する認識や、 字幕、手話、音声解説に関する認識です(スライド13)。 先程、ダウンズ博士が、英国には五百万人の人たちが、日常的に字幕を利用していると申し 上げました。我々の調査では、そのうちの百万人もの多くの人たちが、字幕がなければ、テレ ビを見ないと言っています。 また、同じく調査によれば、字幕についてもっと周知がはかられていれば、より多くの人た ちが、字幕を利用するだろうという結果が出ています。その理由は、調査結果から、字幕の利 用が、年齢階層別に一定しているということです。つまり、我々の調査では、若い聴覚障害者 の字幕を利用している割合と、高齢の聴覚障害者が字幕を利用している割合が同じであるとい うことです。しかし、先ほど、ダウンズ博士が申しましたように、人口動態をみると、聴覚障 害の発生率は、年齢が高くなるにつれて大きくなります。というのは、高齢者の方が若者より も高率で字幕を利用するはずだからです。これは、テレビ字幕に対する広報不足が原因ではな いかと私たちは考えております。特に、高齢者は、このような技術を用いることに神経質にな っていると思われます。 アナログテレビの方が、英国ではまだ主流であった時期に、この調査は行われました。アナ ログテレビの場合は、字幕を見る手続きは、比較的直接的です。それは、長年にわたって行わ れてきました。まず、テキストページを選び、888と押せば字幕が出ました。しかし、高齢者は、 このやりかたに困難を感じていました。しかし、考えてみてください。デジタルテレビになっ た場合には、3つのメニューに入るために2つと3つのボタンを順に押さなければならないか もしれません。この認識の問題は、良くなるよりむしろ悪くなっていくと思われます。 昨年、イギリスの消費者団体が、あるパネルのディスカッションを行いました(スライド 14)。そしてその中に私たちRNIDも参加し、障害者を含めて弱者コミュニティの人たちのデ ジタルテレビの問題点について話し合いました。それは、報告書にまとめられており、その結 論の一つに、潜在的にデジタル放送は、障害者を含めて、弱者に対して大きな挑戦を押し付け るものであるというものがありました。 また、その報告書では、デジタルテレビに移行する際の費用を補助することに関しても取り 上げられています。障害者がデジタル放送に移行するために、デジタル用のセットトップボッ クスを購入する際の補助が英国では必要であろうということです。なぜなら、英国の障害者の 多くは、所得が低いからです。障害者にとって、デジタル機器を購入することは、家計にとっ て大きな負担になるというわけです。そこで、この報告書では、なんらかの補助制度を提案し ています。これは、聴覚障害者のみならず、障害者と高齢者全体を対象としています。実際には、 これのための支援プログラムには、1億1千万ポンド必要になると試算もされました。 さらに、この報告書では、受信料の免除についても取り上げています。ダウンズ博士も申し ましたように、英国では、テレビを見るために受信料を払っているからです。障害者や高齢者 に受信料を免除することです。75歳以上の高齢者と盲人の場合は、現在も、免除されていますが、 これをもっと拡大するなり、少なくともデジタル化後もこの仕組みを維持していく必要があり ます。 さらに、この報告書では、障害者のために、デジタルテレビ機器の価格を下げること、使い やすくすること、はっきりとした表示にすることを求めています。彼らは、字幕、音声解説、 手話を必要としているからです。また、彼らは、通常の消費者よりも、これらの機器に関して より多くの情報を必要としています。 さらに報告書では,デジタル放送への移行についての弱者に対する一般の情報キャンペーン に関しても述べています。もちろん、この報告書の内容は、義務化されてはいませんが、英国 の法律制定を担当するオフコムに提出され、権威づけられましたので、それは、重要な権威の ある報告書となりました。その報告書は、ウェブサイトにもあります。今後、この報告書で示 された勧告が、今後、政府とオフコムによって、実現されることを私たちは期待しております。 ここで、字幕やほかのアクセスサービスを放送事業者により推進してもらうための方法につ いてお話し、それに関して少し助言をしたいと思います。つまり、一般の人々に字幕などをど のように知ってもらうか、そのプロセスについてです。 次のスライドでは、英国のチャンネル4の行っているPRをお見せします(スライド15)。 チャンネル4は、英国の非常に大きな民間放送局で、5つの通常の地上波放送の一つを提供し ています。そのために非常に多くの視聴者がいます。 このチャンネル4というテレビ局では、これからお見せする字幕にアクセスする方法を取り 扱ったPRを4カ月にわたって314回放送しました。これを広告費に換算すると50万ポンド に相当します。また、ごく最近、BBCでも同様のPRをしています。私の知る限りでは、チ ャンネル4は、この字幕PRを、今でも時々放送しており、2週間前にも見ましたし、人気が あるようです。これから、少しこれをみていただきます。 我々は、字幕に関してスクリーン上にも表示すべきであると思っています。英国の殆どの地 上波放送局、実際には、すべての地上波放送局が、番組が始まった時に、字幕が利用できます という文字表示をしています。ケーブルテレビや衛星放送についてもこのような表示をして欲 しいと思っています。 また、アシストサービスが利用できるときには、その詳細についてアナウンスして欲しいと 思っています。そのアナウンスの際には、音声解説、手話、字幕などとのアシストさが活用で きるかも言うべきです。 長々と話してしまいましたので、ここでこのPRを実際に見ていただいて、少し、気楽にし ていただきたいと思います。ご覧ください。 ちょっとこの説明をしておきますと、これは様々なシーンが出てくる短いPRです。役者が 出てきますが、その人達の話している声は聞こえないのです。唇が動くのだけが見えます。BGMは聞こえます。例えば、家の火事のシーンでは、サイレンが鳴っているのが聞こえます。 最後の出演者は、何かしゃべっているんですけれども、何も聞こえません。しかし、しゃべっ ている内容の字幕が出てきます。その内容は、翻訳できると良いのですが、だいたい、「何も聞 き逃したくないから。チャンネル4は80%の番組に字幕を付けています。残りの番組につい ても取り組んでいます。」というような内容です。 (字幕PRビデオ放映) ビデオの中で「888」というのがありましたが、すでに述べましたように、これは、アナログ 字幕を表示させる手続きです。デジタル放送の視聴者は、トップメニューからこのように字幕 サービスを選択します。実際の手続きは、こんなに簡単ではないのですが、スペースの都合で こうなったようです。また、ウェブサイトにいけば、手話付き番組についての詳しいことを知 ることができるという案内が出ました。 先程も言いましたけれども、これは、電子的番組ガイドの例です(スライド16)。すべての チャンネルが表示されており、それぞれの1日の番組リストが横に表示されています。そのリ スト上の一つの番組がハイライトになっていて、それを移動して見たい番組をクリックすると、 その番組が障害者アクセスサービス付かどうかがはっきりとわかります。手話付きか、音声解 説付きか、字幕付きかが分かるようになっております。 現状では、このEPGは、そういう情報を盛り込んでいますが、標準化はされていません。 そのために、Tがテキストの意味で、Sはサブタイトルの意味であるというような表示があり ます。しかし、これが何を意味しているのかという明確なインデックスがないために利用者が 困惑します。そこで、我々は、それを標準化したいと思っております。実際、オフコムが現在 それを行っていて、これをアクセスサービス略語と呼んでおり、標準化に関して最も良い方法 について意見を求めています。 繰り返しになりますが、このようなメニューのナビゲーションは、もっと使い易くならなけ ればなりません。サービスを利用するためにリモコンの3つのボタンを別々に押すようなこと があってはいけません。例えば、スカイにおいて字幕を表示させるには、「サービス」ボタンを 押し、「システムセットアップ」のボタンを押し、そして、「言語」のボタンを押すことで字幕を 見られます。テレビに字幕を表示するためには、3つのボタンを押さなければなりません。 このリモコンには、字幕専用ボタンがあります。このようなものがもっと必要です(スライ ド17)。 イギリス人は、非常によくテレビを見るので、テレビ番組ガイドブックがたくさん発行され ています(スライド18)。これらの出版物において、アクセスサービスが利用できる場合の略 語は、テレビ番組で使われるものと共通でなりません。その共通化が必要です。 それから、アクセスサービスを促進するもう一つの方法は、受信料の領収書に情報をのせる 方法です(スライド19)。領収書の裏面にアクセスサービスの利用方法を記載するのです。 この画面の一番に上に表示されているのは、英国の放送局が作ったリーフレットです(スラ イド20)。様々な方式による字幕表示の方法のすべてを解説しています。アナログテレビでは こう、デジタル地上波ではこう、衛星テレビではこうというように、字幕サービスを利用する ためのすべての方法について説明しています。これは、情報を多く入れるために見開きの形に なっていまして、二つのサイズがあります。リーフレットに書かれている字幕を表示するまで の長い説明をみてもわかるように、字幕へ行き着くまでにかなり大変だということが分かるで しょう。 また、放送事業者は、ウェブサイトにこの情報を載せるべきです。BBCのウェブサイトには、 字幕、音声解説のサービスに関する情報が載っております。全ての放送事業者が、こういう対 応をしてほしいと思っております。 それから、製品そのものについて明確な表示が必要です(スライド21)。製品を購入する際、 どれが一番自分に合っているのかを知ることができなければなりません。筐体の表面に、この 製品はどういったアクセスサービスに対応しているのかという表示が必要です。英国では、最近、 政府がデジタルテレビにそれを行いました。 また、彼らは、ティック・マークというのを作りました(スライド22)。このマークは、法律 に準拠していることを示します。例えば、マークがあれば、アクセスサービスに関して法律に 準拠していることを示しており、字幕、音声解説、手話表示などを利用することができます。 字幕の放映時間が一番長いので、字幕が中心のサービスになっています。 うれしいことに私の話はもうすぐ終わりです。あと2枚のスライドがあるだけです。ここで、 少し、デジタルテレビを越えて、あるいは、デジタルテレビの一部として、今後適用されるべ き新しい技術の発展についてお話ししたいと思います(スライド23)。 生放送字幕livesubscriptionは、生放送に字幕を付けることで、英国では一般的に行われて います。音声認識などの新しい技術の発展により、これが、どんどん簡単にできるようになっ てきました。字幕をつくるのに文字をタイプする必要がなくなったのです。マイクに話かける だけで、画面に字幕が出てきます。 また、高品位テレビも、非常に高品質の画像を提供します。この技術は、字幕を改善する可 能性があります。生放送字幕のための音声認識はもうお話ししました。ダウンズ博士は、バー チャル手話をお見せしました。 BBCと、RNIDおよび通産局department of trade industryが一緒になって、現在、 テレビの手話通訳についての規則を開発中です。 インターネット上のウェブが放送において重要になりつつあります。すでにインターネット テレビがたくさんあります。それらが、アクセスサービスによって障害者にアクセシブルにな っていることが非常に重要です。英国でも、これが問題になっています。例えば、BBCは、ウ ェブ上で、映像記録図書館を作ろうとしていますが、それにも字幕は必要でしょう。そのために、 次世代のアクセス問題が生じています。 結論として、デジタルテレビは、障害者にメリットをもたらすとともに危険ももたらします (スライド24)。我々は、その利点を向上させなければなりません。ひとつは、テレビのアクセ スサービスのレベルを上げていくことです。つまり、もっとたくさんの番組に音声解説、手話、 字幕を付けるということです。また、技術標準を作る必要があります。さらに、消費者のため の表示がというものが必要です。購入する製品の情報を手に入れることで、視聴者は、このよ うなサービスを簡単に利用することができます。また、放送事業者は、放送番組やウェブサイ トにおいてこのようなアクセスサービスの振興を図る必要があります。 しかし、このような取り組みがなされたとしても、障害者は、変化に対してさらに支援を必 要とするでしょう。彼らは、通常の利用者と比べると社会的弱者であるからです。どうもあり がとうございました。 講演4 兒玉明 日本身体障害者団体連合会会長/日本障害フォーラム(JDF)代表 兒玉でございます。まず初めに、このような大変素晴らしい企画セミナーにおいて、発言の 機会を賜りましたことを心から感謝申し上げます。 私は日本身体障害者団体連合会会長職のほか、昨年10月に発足いたしました、日本障害フ ォーラムのJDFの代表も務めております。 先程以来、各講師の先生方から、大変分かりやすくかつ適切なご説明を提言頂いたわけでご ざいますが、本日は、わが国の障害NGOを対表する立場から、現在、国際連合で進められて おります、障害者権利条約の審議に対する見解提言を、述べさせて頂きたいと存じます。 放送通信の分野において、障害のある人々への情報アクセスを保障する動きは、本日この席 にいらっしゃいます、全難聴、また日本ライトハウスの方々をはじめとする当事者団体の運動 によりまして支えられ、地道な成果が積み上げられて参りました。 またわが国の放送通信のあり方に、強い問題意識を持つ約20の組織で構成致します、障害 者放送協議会が7年前に発足し、障害の種別横断的な取り組みが可能となります。 さらにここ3、4年の間に、こうした流れをさらに後押しする動きが、国際的な舞台で生ま れております。それは先程も少し触れましたが、障害者の権利条約の制定の動きでございます。 デジタル放送という大きな可能性を秘めたアイテムを最大限に生かしつつ、世界各国で独自の やり方で進められてきた放送通信分野の情報の保障を、国連の権利条約を起爆剤として、各国 の法制度にしっかりと規定していくことが、私たちに課せられた義務といっても過言ではござ いません。 現在、国連の権利条約特別委員会、アドホック委員会といいますが、条約草案の本格的な審 議に入っております。この草案の第3条には、コミュニケーションについての定義が書かれて おります。また13条には情報へのアクセスを規定した条文が加えられております。その冒頭 を読みあげますと、「締約国は、点字、手話及び障害のある人が選択した他のコミュニケーショ ン様式を通じて、障害のある人が証言及び意見の自由を行使するために、全ての適当な措置を とる。また締約国は障害のある人が他の人との平等な立場で情報を求め、また受ける、及び伝 えると、そのために全ての適当な措置をとる」とございます。いずれの条文においても、手話や 点字などの位置付けを行ったことなどは、一定の評価ができるものと思います。 しかし、放送通信分野はもとより、様々な場面の情報アクセスを考えるとき、要約筆記や文 字通訳など文字におけるコミュニケーションなどについても、明確に条文化することが不可欠 でございます。 またこのほか解説放送の普及について、第13条には、マスメディアには利用可能なものと するよう奨励するという規定がございます。より拘束力のある義務的な規定が実現できないも のか、また知的障害者の情報アクセスなど、より幅広いニーズに答える条文を付け加えること は可能かどうか、早急に議論を深めていく必要があるといえます。 日本身体障害者団体連合会そして日本障害フォーラムJDFでは、全難聴の高岡理事長をはじ めとする関係当事者団体の皆様と一層の連携を図り、国連加盟の各国代表や日本政府の代表に 対しまして、これらの課題の解決を強く訴えていきたいと考えております。 最後に、本日のセミナーが参加者の皆様にとりまして、大変有意義なものになり、また私共 の活動もさらに強固なものになるよう祈念致しまして、意見発表とさせて頂きます。ご清聴を ありがとうございました。 講演5 高岡正 全日本難聴者・中途失聴者団体連合会理事長 みなさんこんにちは。全難聴の高岡です。最初に、はるばるイギリスから、マーク・ダウンズ さんとマーク・ホダさんがこのセミナーで、大変素晴らしい内容の報告をして頂いたことに、お 礼を申し上げたいと思います。どうもありがとうございます。 私は、日本の聴覚障害者の放送と通信のバリアフリーにおける課題を説明したいと思います。 ただ、時間の関係で放送の分野だけになるかもしれません。 私は、日頃はこのような会議にパソコン要約筆記をつけて参加したり、あるいは昨年の7月 フィンランドの国際難聴聴者会議に参加した時には、ホテルからビデオチャットで日本の人た ちと話をしていました。このように、放送と通信の技術を使えば、私たちはいつでもどこでも 社会参加が可能になります。 最初に、日本の聴覚障害者の状況ですけれども、厚生労働省の身体障害者実態調査2001年 の時には30万5千人という数字です。しかしその他全国社会福祉協議会の調査によりますと、 コミュニケーションに支障のある難聴者人口は600万人、約人口の5%といわれています。 しかし、わが国でも高齢化社会を迎えて、65歳以上の方は2400万人、70歳を超えると2 人に1人は難聴になります。65歳では7割、80歳以上では8割という説もありますので、1 千万人近いか、1千万人を超えるというのは、あながち外れていないのではないかと思います。 実際に、日常生活の中で聞こえに不自由を感じる音は何かという調査があります。65歳以上 のデイサービスの利用者を対象にした場合、補聴器を使っている人の55%の方は電話が聞きに くいと言っております。家族との対話に困っている方が53%、テレビやラジオのアクセスに支 障のある方が49%と、なんと半分くらいの方が、こんなにも身近な生活に困っています。全国 の老人クラブ連合会の会員を対象にした調査でも、家族との対話が58%、電話が52%、病院 での呼び出しなどが51%、テレビやラジオが44%というように、同じような結果が出ています。 これはまた別の調査ですけれども、日常生活で聞こえにくいと感じる程度の音ですが、1番 大きいのがテレビです。テレビが49%、電話が41%、遠くから呼ばれる声が40%、電車や バスの車内放送が37%、公衆電話が36%というように、私たちの生活に密着した音が聞こえ ないということが分かります。 国の聴覚障害者の実態調査では、聴覚障害者のコミュニケーション手段がどうなっているか という表があります。補聴器や人工内耳を使っている方が79%、8割の方です。筆談や要約筆 記を使っている方が24%、4分の1です。それから読話を使っている方が6%、手話や手話通 訳を使う方が15%、というような状況です。補聴器や文字を使うコミュニケーションが多いの は、高齢者が多いからだと思われます。 ここで私たち聴覚障害者の運動とアメリカの影響についてお話しします。 1990年にアメリカで、13インチ以上のテレビに、字幕を表示させる回路の内蔵を義務づけ る法律が成立しました。それを受けて私たちは、日本でも、同じように字幕放送を見られるテ レビを作るべきだという目標をもとに、シンポジウムを開催しました。 またアメリカでは、翌年「障害を持つアメリカ人法」ADAが成立しています。それらの影響も あって、1993年には通信放送円滑化法、いわゆる通信のバリアフリーを目的にした法律が初 めてできました。その翌年には、障害者基本法にも情報通信について、通信放送事業者が障害 者のために便宜を図る役務を提供するということが、法律的に義務づけられています。それま での字幕放送の拡充の壁は何かと言いますと、文字放送の免許料が高いこと、2つ目に制作コ ストが高かった、3つ目に字幕放送を見られるテレビがなかった、この3つです。そこで私た ちは国会請願署名を40万人集めて国会議員に要求しました。またスポンサーに対してはがき 作戦を1万枚の規模で行いました。先程のダウンズさんのお話しにもありましたから、どこで も同じような作戦を考えるものだなと思いました。イギリスでも日本でも成功していますので、 また再びやりたいと思います。 こういった運動の結果、1997年には放送法が改定されて、字幕放送については免許が不要 になりました。それから、字幕制作をする補助金が一般財源化されて、政府が毎年予算を確保 しています。それから、字幕放送普及目標を政府が決めまして、2007年までに字幕付与可能 な番組の全て100%に字幕を付けることを決めました。字幕付与可能な番組というのは、生放 送とか音楽番組などが除かれています。ですからすべての放送ではないのです。 NHKが字幕放送を行っている割合は、33%です。生放送などを除くと、92%です。日本テ レビなど民放は約20%です。生放送を除く時間に対しては30%から40%台です。この数字 からも、生放送に字幕を付けるという運動が、非常に大切なことがわかります。これは字幕が 付けられる時間、生放送などを除いた字幕放送の割合ですが、NHKは平成13年に73%、平 成14年には77%で増加率は6%です。一方民放キー5局は16%だったものが28%になりま した。増加率は79.5%です。 こういった字幕放送が、普及がまだまだ遅れていることから、私たち聴覚障害者団体は自ら の取り組みを始めました。リアルタイム字幕配信と言いまして、パソコン通信、あるいはイン ターネットのチャット機能を使って字幕を配信する活動を始めました。これまでは、放送事業 者や作家団体の著作権上の許可が必要だったのですが、多くの団体と運動した結果、2000年 に法律が改正され、2001年の4月1日から、リアルタイム字幕配信事業を行っています。こ れは日本障害者リハビリテーション協会がホームページで説明していますけれども、テレビの 音声を、入力者が自宅で入力して、聴覚障害者は自宅でテレビとパソコンを両方並べて見る形 式です。これは今後テレビの中で一体的に見られるようになっていきます。 もうひとつの取り組みがCS障害者放送統一機構です。今から10年前に、阪神淡路大震災 が発生して、聴覚障害者に緊急情報が届けられなかった、という大きな問題が起きました。こ のことをきっかけに、1998年に設立されたのが「CS障害者放送統一機構」です。平成14年に はNPO法人が認可されまして、現在、緊急災害時情報提供システム、あるいはアイドラゴン という受信機の普及、それから「目で聴くテレビ」の番組制作を行っています。この統一機構で 提供している番組は、「目で聴くテレビ」と言います。 聴覚障害者が中心になって制作しているもので、本日も「目で聴くテレビ」が取材をしていま す。専用受信機内ドラゴン2でBSデジタル通信を受信して見るものです。現在聴覚障害者の 6千人および関連施設で受信できます。ケーブルテレビで約8万人、地上波では京都テレビ、 UHFではテレビ神奈川、テレビ埼玉など約1630万世帯で見られるようになっております。現 在申し込みを予約している人も含めて、アイドラゴンは今7千台まで普及が進んでいます。「目 で聴くテレビ」は1週間に30時間放送されます。リアルタイムの字幕も手話を付けた放送も、 1週間に2回放送しています。放送の仕組みはこれからご説明します。テレビ放送に対して、 手話と字幕を画面上で合成する機能を持っています。BS通信で手話と字幕を配給するわけです。 ここで、今後の字幕放送の課題を提案したいと思います。それは、先程お二人のマークさん のお話にもありましたけれども、テレビへのアクセスは基本的人権の問題である、字幕放送の 法的な義務付けを実施すべきだと思います。現在の法律で実施しない場合、あるいは目標を達 成しない場合の罰則がありません。2007年のガイドラインが終わった場合はどうするのか、 生放送も含めた新しい目標を設定することが必要だと思います。 2つ目に、生放送が字幕放送の普及に大きな役割を果たしてきますから、どのように生放送 の字幕放送を行うのか、字幕の表示の方法、あるいはどのような番組から字幕を付けるのかと いうことも、ガイドラインを作る必要があります。 3つ目に、テレビの受信機のガイドラインです。デジタル放送対応のテレビが発売されてい ますが、字幕が表示できるというだけであって、字幕の出る位置、大きさや色とかは変えられ ません。この規格は、私たち聴覚障害者が関わらないところで決められてしまったのです。 ですから今後さらに普及する前に、もう一度受信機の規格を作り直す必要があります。それ は字幕だけではなくて、あるいは、解説放送も聴きやすい音を出す、アクセシビリティの高い 受信機の開発を、日本が世界に先駆けて実現する必要があると思います。 もう一つの課題は、今後、地上波デジタル放送とインターネットが融合してきます。家庭の テレビに映るものが、地上波デジタルの番組なのか、インターネットの番組なのかは、見る人 からは分からないようにいろんな形で情報が提供されるようになると思います。こういった時 に、放送規格の改定に、今度は必ずや聴覚障害者あるいは他の障害者の感覚が必要です。 もう一つは、こうした新しい可能性を持った番組を作るときにも、当事者の感覚が必要だと 思います。このことを提案して私の報告に変えたいと思います。どうもありがとうございました。 講演6 岩井和彦 日本ライトハウス常務理事/全国視覚障害者情報提供施設協会理事長 みなさんこんにちは。岩井と申します。視覚障害者向けに音声解説を是非付けていただきた いというのは、当事者として、本当に常日頃思っていることです。今回、多くの視覚障害者の 希望、ニーズの実態を調査し、それを放送事業者に届けていこうという、大規模な調査研究が 実施されておりますので、そのことを中心に報告させていただきます。 私、視聴覚障害者という言い方で、後を報告させていただこうと思います。視覚障害者と聴 覚障害者、同じ情報障害ということで希望する対象・方向は少し違ったとしても、共に働きかけ を行うことの必要性を強く感じているもので、先程来、高岡全難聴理事長からもありましたよ うに、ぜひ視覚障害者も一緒にこの問題に取り組んでいきたいという立場で、報告をさせてい ただきます。 まず当然のことながら、どこでも誰でも、放送を楽しめることができるようにするのは、放 送制作の基本方針の一つであるということは、言うまでもありません。しかし視聴覚障害者も、 国民が幅広い視野に立って、その健康で文化的な生活を確保していく上で、欠くことのできな い情報発信源としてのテレビを見ているという事実だけは、はっきりお伝えしたいと思います。 尚、ここでいう視聴覚障害者とは、「身体障害者福祉法」でいう身体障害者のように、限定的に とらえてはいけないだろうと考えております。視覚または聴覚に障害を有するために、放送を 理解し楽しむのに支障があるものとして、とらえていただきたいと思います。 今後進展化する高齢化社会を思います時、この問題は限られた視聴覚障害者の問題だけでは なく、社会全体の大きな問題だろうと考えています。平成13年の厚生労働省「障害児・者実態 調査」では、視覚障害者の情報入手手段の第1位がテレビでした。30万1千人といわれる視覚 障害者の中で、情報入手手段の第一として、22万人がテレビを挙げていました。今回私たちが 行いました調査においても、そのことが一層はっきりしてまいりました。 IT社会の進展によって、視覚障害者の情報環境も大きく変化し、情報アクセスが視覚障害者 にとっても容易になってきたのは事実です。しかし、本日の総務省の飯島課長様のご報告では、 e-Japan構想によりますと、国民全体の9割がIT、インターネット等にアクセスできるという ことでしたが、私たち視覚障害者の場合は、残念ながら、3〜4%ぐらいの人しかインターネ ットにはアクセスが難しいであろうと考えており、情報格差はますます大きくなってきている のではないかと危惧しています。さらに視覚障害者の半数以上が70歳以上の高齢であり、そ してまた中途で失明される人が非常に増えている、高齢化、重度化の中で、テレビからの情報 入手は欠かせないものになってきているのです。放送事業者の皆様に、テレビの前に多くの視 覚障害者がいるという、この事実を伝えていくことが、私たちの大きな役割であろうというこ とを、このアンケートから知ったわけです。 さてこうした状況というのは、10年前と比較してどうだろうかということですが、当然のこ とながら、こうしたニーズは当時から視覚障害者の中でも多くありました。しかし、残念なが ら聴覚障害者の皆様の、字幕放送の実現要望に対して、視覚障害者の音声解説への働きかけは 充分ではなかったのではないかなと思っています。 1993年7月に発行された、「視覚障害」視覚障害者支援総合センター発行No.126では、そ の中で今まさしく私たちが要求したい、国に対して、放送事業者にぶつけていきたいというよ うな内容が大きく取り上げられています。 そしてまた当時の郵政省放送行政局の担当官が、こうした事実をしっかり踏まえた行政を進 めていく決意も述べておられます。当時平成5年、NHKおよび地上系民間テレビ放送局で、 音声多重放送によって視覚障害者向け解説放送は週2番組民放では、日本テレビ系列の1番組 のみ、1週間当たりの地上放送での総放送時間は9時間19分でした。私たちが注目しなけれ ばならないのは、この約10年前と、現時点での音声解説放送時間はそんなにも変わっていな いということです。1週28.5時間程度の放送にまだ甘んじているという事実を、私たちは残 念に思っております。それとともに、放送事業者と行政機関へしっかりと意見を伝えていくと いう必要性を感じている次第です。 ではここで、調査の概要を報告させていただきます。この調査は、社会福祉法人日本盲人会 連合が、独立行政法人福祉医療機構の助成をいただいて実施したもので、私ども全国視覚障害 者情報提供施設協会も一部協力させていただき、私もその調査委員の末席に入れていただきま した。約600名のアンケートを頂戴して、現在最終的な分析を進めております。 視覚障害者の実態を考慮して郵送、対面、電話、メール等、多媒体での実施となりました。 そしてまた都市圏に偏ることなく、地方の声も反映する、年齢層もバランスをとる等の配慮を して、行っております。テレビを主な情報源としている方は、92.1%と非常に高い数字です。 解説放送を聞いたことがある男性は67.7%、女性は76.2%、解説放送を今後充実してほしい という方が、男性87.3%、女性が87.5%ということです。 こうした数字はある程度予測されたものですが、注目したいのは、解説放送を優先的につけ るとすれば、どんな番組に一番先に付けてほしいかという設問に、男女とも一番多かったのは、 ニュース・報道番組でした。そして、ニュース速報に音声を付けてほしい、天気予報や台風情報 に音声解説を付けてほしい、外国人のインタビューに音声解説を付けてほしい、宛先・申し込み・ 問い合せ先にこちらをご覧くださいという言い方はしないでほしい、というふうなコメントも たくさん付けられておりました。 ここで、寄せられた自由意見の中から2つだけ紹介させてください。1つ目は、滋賀県在住 の79歳の女性のご意見です。「解説放送は本当に便利です。よくわかります。先日もよその家で、 朝、『天花』を見たら、黙っている場面が多くて全然わかりませんでした。うちのテレビは副音 声が聞けるように常に合わせてあるので、お昼の再放送で副音声付きの『天花』を見たら、なぜ 黙っているのかがよくわかって、副音声は本当に便利だと改めて実感しました。でも、『天花』 や『火曜サスペンス劇場』のように副音声が付いていることがわかっている番組はいいのですけ ど、NHKの他の番組にも付いていると言われても、どれに付いているのか私たちにはわかりま せん。つい、見逃してしまいます。もったいないです」。 2人目は、鹿児島県在住の20歳の女子学生のご意見です。「大河ドラマは必ず副音声を付け てほしいです。せっかく歴史の勉強にもなる番組だというのに、画面上に人物名などが出るだ けで、私たち視覚障害者にとってはこれだけで判断しなくてはならず、ストーリーを把握する ことは容易なことではありません。ですから、たいてい2、3話目で挫折してしまいます。また、 健康番組やお料理番組で『このようにしてください』や『ここをこうして』などというように、常 に代名詞を使われるとどのような状況になっているのか、さっぱりわかりません。そのような 番組には、副音声を必ず付けてほしいのです。歌番組やCM、カウントダウンなどで曲が流れ る際、題名が文字だけになっています。音声で紹介していただけると大変助かります。同様に、 CMでドラマを紹介する際、放送日や時間を音声にしていただきたいのです。曲名、宛先など の音声は何も全てを副音声に変えるのではなく、キャスターさんの原稿やCM自体にもう少し 言葉を添えるように意識していただくことも大切だと思います。それは視覚障害者だけでなく、 全ての人に共通する思いやりだと思うのです」。 技術的な進歩が伴わないと、あるいは相当な予算が付かないと難しいという問題も多くある ことは承知しておりますけれども、このように、テレビの前に視覚障害者がいるということを 意識したアナウンサー、あるいは意識したディレクターがいてくだされば、もう少しそのソフ ト部分で解決されることが多くあるのではないかということを、感じさせる重要な意見が非常 に多くございました。テレビがこの社会の中でどれほど必要かということで、いくつか、視覚 障害者の意見から報告したい部分はありましたが、もう一つ緊急を要する部分で、これはすぐ にでもできるのではないかということのいくつかの報告をさせていただいて、終わりにします。 一つは、緊急放送の扱いなのですけれども、ニュース速報、あるいは緊急放送があるたびに テレビから、「ピピッ」「ププッ」というふうな音が発信されますが、視覚障害者には何が起きて いるのかがわからないという、この恐さを何とかしてほしいという声が多くあります。それで、 例えばこの緊急時の告知音、この音を、単なるニュース速報の音、あるいは注意を喚起する警 報の音、あるいは緊急避難勧告や行動を要請する音というふうな段階に区分できないか、また 現在は各放送局ともこの緊急音が違っているわけですけれども、統一することで、もっと単な る音だけでも意味合いを持たせることはできるのではないか、という声がたくさんありました。 「ご覧の通りです」という言い方はやめてほしいという、この改善も、すぐに可能ではないか と思うのです。放送事業者と話し合いを持ちました時には、そうした努力はしているとおっし ゃいますが、残念ながらテレビを見ておりますと、まだまだそういう場面に遭遇することが多 くあります。また、外国人のコメントなどは、翻訳するだけではなくぜひ副音声を付けてほし い。そしてまた最近多く出てきていますのが、この「ぼかし」と言うのでしょうか、コメントの 声を変調させて流している、これがまったく聞き取れません。それがこれまでは少しスピード を変える程度で、内容がわかったのですが、昨今、全くわからないような「ぼかし」になってい る。そういうふうなことなども、もう少し工夫をしていただければわかるのではないか。その他、 意見がたくさん寄せられておりますので、今後、こうした意見を整理することによって、日本 盲人会連合などの当事者団体、そしてまた、私ども視覚障害者情報提供施設協会等が協力して、 先程の英国におけるロビー活動などの働きかけと同じようなかたちで、ぜひ動いていきたいと 思っておりますことを最後に付け加えまして、報告に代えたいと思います。どうもありがとう ございました。 講演7 金子健 全日本手をつなぐ育成会理事、明治学院大学心理学部教授 皆さんこんにちは。ご紹介頂きました金子と申します。私は、知的障害のある人とその保護 者を中心とした「社会福祉法人全日本手をつなぐ育成会」の理事をしております。会員は30万 人おります。それと、知的障害にかかわる4つの団体で構成されている「社団法人日本知的障 害福祉連盟」の常務理事をしております。本職は大学の教員で、障害児教育を専攻しています。 今日はこのようなセミナーに参加する機会を与えて下さいまして、本当にありがとうござい ます。それから、先程のDr.マーク・ダウンズ、それからMr.ホダのすばらしいレクチャーに 感謝を申し上げたいと思います。ありがとうございました。 さて、知的障害のある人々の情報アクセスということについて、社会全体としてまだ充分な ご理解を頂いてないと思いますので、この機会に少しお話をさせて頂きたいと思います。 知的障害、いわゆる知的な発達と社会的な適応能力に障害のある人たち、全国で約48万人 いると言われております。それから、昨年12月に発達障害者支援法というのが成立しました。 そして、この4月1日からそれが施行されます。これは、2年程前に文部科学省が、軽度の発 達障害のある子どもたち、つまり学校の中で特別な支援を必要とする子どもたちがどのくらい いるか、ということを調べたんです。そうしましたら、知的障害は持たないけれども、学習や 行動に様々な問題を示している子どもたちが6.3%いるという結果が出ました。ですから、30 人、40人の小学校・中学校の普通の学級の中に、2人程度いるわけですね。これが大人になる とどういう割合になるかというのは、まだよく分かりません。しかし、6%というふうに考え ますと、700万人くらいの方がそれにあたるわけです。これまで学校教育でも、福祉でも法律 がなくて十分な対応がされていなかった軽度の発達障害の方々に法的な対応をしっかりできる ようにしましょうというのが、この発達障害者支援法です。 これらの方々、つまり知的障害および軽度発達障害のある人たちは、認知発達に障害をもっ ています。この認知の障害を持っているということは、情報の理解に障害を持つということで もあります。コミュニケーションですとか、あるいは情報を理解する、情報を発信するという 面に困難を持った人たちです。そういう人たちがテレビですとかインターネットをどういうふ うに利用していくのか、どうアクセスしていくかということを考える時に、その認知の障害と いうことがあるが故に、そのアクセスというものが非常に制約をされている。その結果、先程 の総務省の課長さんのお話にもありましたけれども、多くの家庭や職場にインターネットが普 及しているというような時に、まさに世の中の人たちがそういうものを利用して、健康で文化 的な生活を送っていこうというような時に、そこから取り残される人たちがいるということで す。これは聴覚障害や視覚障害、あるいは身体障害をお持ちの方々と同じ問題を持っていると いうことになると思います。 それでは、その知的障害、あるいはそういった発達障害のある人たちが、情報へアクセスす るということ、その時の困難さについて少しお話をしたいと思います。 まず、その情報を受け取る、理解するという時に、これは例えばテレビを見てということを 考えてみたいと思いますけれども、文字情報だけでは分かりにくい、或いは言葉の情報だけで は分かりにくい人たちです。映像ですとか或いはマークですとか、そういったものを上手く取 り入れた情報提供、というものが必要なわけです。先程の岩井さんのお話でも、或いは高岡さ んのお話でも、非常時の情報の理解ということが問題になりましたけれども、これは知的障害 の人たちにとっても同じことですね。地震の情報が流れ、そして津波が来るのか来ないのか、 アナウンサーはかなり早口で「津波の心配があるから海の近くへは行かないように」というよう なことを何度も繰り返して言っていますね。そういう時に、その情報が理解できない人たちが いるということを、知って頂きたいというふうに思うわけです。或いは、もちろん緊急放送と いうだけではなくて、日常のニュースですとか生活情報で充分な理解が出来ないということで、 様々な文化的な機会への参加というものが制約をされているわけです。簡潔な文章で分かりや すく伝えて頂きたいと思います。 今、知的障害の人たちが、例えばニュースを理解するときに一番分かりやすいのが「手話ニュ ース」だというふうに言われています。ゆっくりとしゃべってくれる、或いは文字が出る、そし てふりがながついているということで、手話のニュースを知的障害の人たちも共に楽しんでい る、そこから情報を得ているという状況があります。或いはNHKの“週間子供ニュース”など ですね、分かりやすく説明をしてくれるということで、その人たちはそれを利用しているとい うことです。或いは、スポーツ中継などももちろん楽しんでいる人はたくさんいますけれども、 ルールがよく分からないということで、充分に楽しめないという状況もあります。メインのア ナウンサーが、ルールを詳しく説明するということはできないかもしれませんけれども、例え ば副音声で、或いは字幕の解説で、ルールについての説明などが加われば、知的障害の人たちも、 そしてもちろん高齢の方々も、スポーツを楽しむことができるわけです。 それから、もう一つは機械の扱いについてです。先程のイギリスでのお話にもありましたけ れども、例えばテレビにそういう付加機能がどんどん付けられるにつれて、操作が複雑になる のでは困るわけです。簡単な操作で情報が利用できるように、是非して頂きたいと思います。 この機械の操作ということについては、これは情報を受けるだけではありません。例えば、 インターネットに知的障害の人たちもアクセスをして、そこで自ら情報を発信していくという ことも、これからのノーマライゼーションの社会の中では必要なことだろうと思います。情報 発信に際しても、操作性の向上は不可欠です。 もう一つだけ申し上げたいと思います。今、学校教育で、インターネットや情報機器という ものが、ものすごい勢いで取り入れられています。小学校どこへ行ってもインターネットを使 っていろいろ調べ学習をしたり、テレビの番組を利用したりしています。子どもたちは、まさ に今の情報社会の中で、様々なことを学んでいくわけですけども、障害のある子どもたちがそ こから取り残されるということは、これは非常に大きな問題だろうと思います。もちろん、私 たち大人が、障害のある人も無い人も、様々なそういった情報に触れていく、それを利用できる、 アクセスできるということは大事ですけれども、発達途上、成長途上にある子どもたちの中で、 障害があるが故にそういった情報を利用できない子どもたちにおけるデジタルデバイドという ものの影響というものは、ものすごく大きなものがあるだろうと思います。是非、関係団体の方々 は、学校教育における、障害のある子どもたちの情報の活用ということについても、関心を向 けて頂きたいと思います。 最後にもう一つだけ、障害者放送協議会、私もそのメンバーに入れて頂いておりますけれども、 放送されたものの中で、障害者がどういうふうに扱われているか、例えばテレビドラマの中で、 障害のある方が登場するという場面はずいぶん多くなってきました。そういう中で障害のある 人たち、或いは障害を持った子どもたちが、どういうふうに扱われているかということも、こ れは社会の障害への理解、認識という意味で、非常に大切な問題だろうと思います。今日はあ まりそこの問題は触れられておりませんけれども、是非これから関係の団体の皆さんと一緒に、 そういった問題も、また考えていきたいというふうに思っております。 それでは、時間になりましたので失礼致します。ありがとうございました。 パネルディスカッション <司会 寺島氏> それでは、パネルディスカッションを始めたいと思いますが、最後に金子先生が言われまし たことについて、私から、まず、質問させて頂きます。EUあるいはUKで、障害児だとか障 害者の方を扱ったテレビプログラムについて、どのような対応がされているのかをお聞きした いと思います。 <マーク・ホダ氏〜通訳> 私の知る限り、障害児に関する情報アクセス関連の法律はないと思います。しかし、字幕や その他のアクセスサービスによる効果についての心理学的研究は数多く行われています。それ らの研究は、聴覚障害の子供たちについてだけでなく、子供たち全体について研究されています。 これについては、ダウンズ博士が先ほど述べました。特に北欧の国々の調査で、字幕を見てい る子供たちは、そうでない子供たちと比べて読解力が優れているという結果が出ています。北 欧でそのような調査がしやすいのは、北欧では、アメリカの映画をたくさん放送していて、い わゆる吹き替え(ボイスオーバー)ではなくて、字幕で放送されています。そのために、子供た ちは、字幕をよく見ていて、他のヨーロッパ諸国、特に字幕よりも吹き替えが中心になってい る国々の子供たちと比べて読解力が高いというものです。しかし、残念ながらそれに関する数 字はもっておりません。 <司会 寺島氏> 質問内容と答えが合っていないようです。知的障害児の方や障害者の方をテレビプログラム で登場させたりする時の権利侵害や差別的な扱いに対する規制について、EUの法律や規制、 或いはルールのようなものはあるのでしょうか。 <マーク・ホダ氏〜通訳> 一般的な障害関係法としては、先程、ダウンズ博士が述べました「障害者差別禁止法」のなか に障害児に関係する条項があり、教育と学校についてカバーしています。英国の教育局は、障 害児に対する早期支援、機会均等、利益に強い重点を置いています。 より一般的な法規制が、放送にかかっています。しかし、特に、障害を持つ子供たちを差別 するような番組内容ではいけないとか、そういったような特定の文言はないと思います。 <マーク・ダウンズ博士〜通訳> 少し、追加させていただきます。イギリスを始めその他の殆どの国でそうだと思うのですが、 様々な法律に影響を与えている人権に関する法律があります。その人権法は、成人だけでなく 子供も含めて人権を保障しています。また、字幕に関して言えば、子供向けの番組であっても、 大人向けと同じように付けています。 <司会 寺島氏> そういう特別な法律だとか監視機関は無いようなことであるようです。 <マーク・ホダ〜通訳> 子供のための慈善団体にはそのような機能を果たしているものはあります。例えば、全国聴 覚障害児協会(National Deaf Children's Society)は、特にろう児をサポートしています。こ の団体は、子供たちがテレビの番組の中で不公平に取り扱われていないかをチェックしていま す。もちろん、そういった問題が起これば、つまり、差別などがあれば、それに対してそれを 規制するようなメカニズムはありますけれども、それを謳った法律というのは無いと思います。 <マーク・ダウンズ博士〜通訳> オフコムという団体は、さっき、少しお話しましたけれども、これは、例えば放送の場において、 子供も含めて、誰でも障害を持つ人たちを不公平に扱っている場合には、それに対して声をあ げて保護するという機能を果たしています。彼らは、放送されている番組をモニターする役割 をもっています。また、独立したクレームの手続きをもっています。もし、放送されたものが、 攻撃的であったり、不適切であったり、子供を差別的に取り扱っているというものであった場合、 公式にクレームをつけ、ひどい場合には、告訴にまで持っていくこともあります。 <司会 寺島氏> どうもありがとうございました。よろしいですか。はい、高岡さん、ご意見がありますか。 <高岡氏> 全難聴の高岡です。ダウンズさんとホダさんのお話の中で、一番関心があったのは、オフコ ムという組織とそれからキャンペーンの方法です。オフコムが議会からも政府からも独立して 運営されているということですが、その運営の資金、或いはスタッフはどこが支援している(お 金を出している)のでしょうか。それから、その中には障害を持った当事者団体はどのような形 で関わっているのかということです。 アメリカには連邦通信委員会FCCという、やはり政府から独立した組織があって、放送と 通信に対して強い権力を持っているわけですね。このオフコムが、放送事業者に対して、色々 なことを要求できる法的な基礎というのが「2003コミュニケーションアクト」という法律だそ うですが、具体的にどんな権限を持っているのかを知りたいということです。 2つめに、EUにおけるキャンペーンの方法ですね。字幕放送とか解説放送が実施されてい るということと、それから全ての国で実施しなくてはいけないというキャンペーンを展開され たそうですけども、そのキャンペーンのやはり資金はどこでまかなっているのか、具体的に議 会への働きかけが中心だったのか、放送事業者への働きかけは行われなかったのかどうかにつ いてお伺いしたいと思います。 <マーク・ダウンズ博士〜通訳> ありがとうございます。いくつかご質問頂きましたので、お答えしたいと思います。 オフコムというのは、独立した団体と言いました。英国の2003年通信法によりできた団体 です。この法律により政府からの独立性を与えられています。オフコムのトップの人は、通産 大臣から指名を受けます。いったん指名されると、この人は、全く政府から独立した存在にな ります。大臣との公式の関係は無くなります。ただし、オフコムは、イギリスの議会に対して、 その運営状況を直接報告する義務が生じます。 資金については、一部の省庁からの資金も入ってきますが、殆どは、オフコムが管轄してい る人々からの資金です。例えば、通信事業者は、オフコムに管理費用を提供しています。これは、 よい解決方法です。というのは、民間部門は、自らが規制管理するというのは難しいからです。 しかし、この資金は、オフコムとは切り離されているので、オフコムが不正使用することはで きません。そのための通信事業者は、オフコムとは関係なく資金提供を求められ、オフコムの 役割とは関わりがありません。 スタッフは、全国的に募集いたします。一部のスタッフは、政府から出向しています。それは、 FCCに似た役割をもっていると考えて良いと思いますが、それよりも、かなりの権限をもっ ています。例えば、放送局が不適切な行為があれば、それを裁判に訴えたり、放送免許を一時 停止する権利も持っています。この機関は、強力な権限を持っています。 障害者団体との関わりについては、オフコムには、障害者・高齢者特別委員会というのがあり ます。この委員会は、オフコムが法律形成にあたって障害者関連事項を十分説明するという公 式な役割を持たされています。 また、英国法について言えば、すべての新しい法律は、一般からの意見聴取が必要とされて います。この意見聴取は、少なくとも12週間は続けなければいけないということになってい ます。また、その結果は、一般に公開されなければなりません。このために、RNIDも含め 障害者関連の慈善団体なども、正式に、この意見聴取に対して公式な対応をしていて、自分た ちの意見を取り入れさせるように多くの時間を費やしています。 ヨーロッパのキャンペーンと字幕放送については、マーク・ホダ氏にお願いしたいと思います が、キャンペーンの資金についてだけお話します。それは、すべて慈善活動によって集められ ています。政府からの資金はありません。キャンペーンのために個人や企業やトラストから民 間の資金を集めるのは、非常に困難です。ともかく、私たちの資金はすべてボランタリーな資 金です。そのために、その使い方について制限はありません。 <マーク・ホダ氏〜通訳> ヨーロッパキャンペーンの資金ですが、RNIDやその他多くの慈善団体がそのキャンペー ンに資金を提供しています。ヨーロッパにも、ヨーロッパ難聴者連合(European Federation of Hard of Hearing)とか、ヨーロッパろう者連盟(European Union of the Deaf)、ヨーロッ パ盲人連盟(European Union of the Blind)などのパートナーがたくさんおられて、そういっ たヨーロッパからの資金も一部あります。しかし、それはかなり少額で、殆どのキャンペーン にかかる費用は、会費により成り立っております。しかし、それでも、全体の額は多くはあり ません。というのは、メンバーの殆どは、ボランティア団体だからです。スタッフは、ボラン ティアであったりします。国内のメンバーも同じことで、あまり、お金を使うことはできない のが実態です。 ただ、ダウンズ博士が述べたように、私共には、幸運なこと一般からの意見聴取を活用する 方法があります。これは、国内にもEUにもあります。それをするのに多額の資金が必要とい うわけではあません。もちろん、交通費やキャンペーン用の資料作成のためには費用がかかり ますが、それほど大きな額ではありません。 <司会 寺島氏> よろしいですか。高岡さんからもう一度質問をいただきます。 <高岡氏> オフコムの資金は、通信事業者などからもらっているということですが、そうすると通信事 業者に対して、ものを言うことが難しくならないですか。 <マーク・ダウンズ博士〜通訳> そういうことは無いと思います。何故かというと、企業が直接オフコムにお金を払うのでは なくて、政府を通じて間接的にそういった資金がまわってくるということなのです。ある意味 では税金のようなものになるわけです。そのような資金は、公共のために集められ政府に与え られます。だから、直接的な関係はありません。企業は、オフコムの活動に関わらず、有無を 言わさず資金提供をしなければなりません。 <司会 寺島氏> よろしいでしょうか。他にご質問はありますか。はい、金子先生どうぞ。 <金子氏> 「手をつなぐ育成会」の金子です。 一つお伺いしたいのですが、EUの中で字幕放送にしても、障害者向けの情報についての様々 な取り組みがEUの中でも色々だと、まだ難しいところもあるというようなお話があったと思 います。これは、どこからその差というものが出ているのでしょうか。これは、例えば放送事 業者の財力だったり、或いは、もちろん国レベルでの財政的な問題もあるのかもしれません。 ただ、その後ろにその地域の人々の、意識の違いといいますか、Public Awarenessの違いと いうものがあるのでしょうか。 その辺りを少しお伺いして、それによっておそらくこういった私たちの運動を進めていって、 それが前進していくためには、単なる事業者の理解、あるいは政府レベルでの理解ということ だけではなくて、一般の市民の理解といいますか、まさにそのSocial Attitudeというような ものが社会的な理解や態度というようなものが大きく影響するのではないかと思うものですか ら、EUにおける地域差というものがどこからきているのか、ということについてちょっとお 伺いしたいと思います。 <マーク・ホダ氏〜通訳> そうですね。達成レベルの差が出てきているという背景には、確かに色々な要素が関係して きています。一つの要素は、どれだけの法規が存在するかというのは国によって違います。そ れは、各国の歴史に関係しています。ある国では、非常に厳しい法律がある国では、障害者の ためのアクセス規定を盛りこむことは、比較的容易いでしょう。 別の要素は、放送事業者の資金力と彼らが持っている技術です。多くの新しいEUの加盟国、 例えば、東ヨーロッパなどの国々では、必ずしも放送事業者も資金が潤沢というわけではあり ませんし、技術的にも多くの字幕を付けるというというような技術がまだありません。また、 字幕作成の訓練も不足しています。それは、英国においても同じです。 英国では、この産業がかなり発展してきていましたので、それほど深刻ではありませんが、 多ヨーロッパの国々では、字幕作成の訓練が不足しています。 もう一つの要素は、キャンペーンの組織力です。大きなキャンペーンを行うときに資金や資 源がなければ、彼らの声は聞いてもらえないでしょう。 これらが、国によるアクセスレベルの違いを生み出しているいくつかの要素だと思います。 RNIDの場合は、その他のヨーロッパの同様の団体と比べてもずっと大きいので、私たちの 場合は、国内及びヨーロッパレベルの活動において大きな働きかけができます。北欧の国々の 団体は、人口比にすれば、かなり大きな組織ですか、それでも、RNIDよりは小さいので、 その意味では、私たちの団体の規模に関してはラッキーであると言えると思います。 <司会 寺島氏> 他に、何かご質問はありますか。はい、岩井先生どうぞ。 <岩井氏> 全国視覚障害者情報提供施設協会の岩井と申します。 放送事業者の役割として、障害者が利用しやすいアクセシブルな放送を提供するということ が一つと、もう一つ最初の金子先生の質問にも関連するんですけれども、障害者のことが正し く社会に伝わる、その橋渡しをしていく、情報提供していくという役割があろうかと思ってお ります。 そこには、やはり番組作りの中に、障害当事者がスタッフとして参画していることの重要性、 あるいはRNIDさんがされているように、コーディネートとして正しく障害者観を番組制作に 反映させていくことの必要性があろうかと思うわけですが、雇用の面で放送事業者が努力して いる部分があるのか、RNIDさんがそうした役割をサポートしておられる面があるのかをお教 えいただきたいのが一点です。それともう一つ、RNID for the deafという団体と、視覚障害 者のサポートをするRNID for the blindの団体があろうかと思います。この両団体は、本当 に大きな優れた団体ということですが、放送事業等に関して、協力していろんな場面での取り 組みをされているのかということをお聞きしたいと思います。 <マーク・ホダ氏〜通訳> ヨーロッパに関する英国内の調整役としての我々の組織の役割として、このキャンペーンに おいては、大きな役割を担っていると思います。このキャンペーンとは、放送と放送アクセス に関するキャンペーンのことです。このキャンペーンにおいて、我々は、ヨーロッパレベルで 大きな役割をもっています。その理由は、我々が大きな規模の団体であることと、我々の会員 がこの問題に興味を持っているためです。そのために、我々はこの問題に深く関わることにな ってきました。 また、盲人の団体で、ヨーロッパレベルの国内組織であるRNIBは、会員のために、全体 がテレビに対するアクセスを取り扱う部局をもっています。この組織は、ヨーロッパ盲人連合 の姉妹組織になっています。そのために、彼らは、彼らの関心に基づき、EUキャンペーンに おいて非常に活発に活動しております。 このように、このキャンペーンは、我々にとって重要です。また、我々を支援してくれる 別の組織があります。これは、例えば、ヨーロッパ難聴者連盟(European Hard of Hearing Federation)です。この組織は、非常に小さな組織で、殆どボランティアから成り立っていま すが、そのメンバーとは非常に緊密に連携を取っています。英国の慈善団体として、我々もそ こと情報を共有していますが、ヨーロッパの他のパートナー組織と情報共有のためには、この 組織は、非常に役に立っています。彼らは、すべての国々と連絡を取り合っています。彼らは、 資金はありませんが、重要な役割を果たしています。私が言いたいことは、資金や資源が不足 していてもよい関係をつければ、重要な仕事ができるということです。 支援つき雇用(Assisted Employment)については、ダウンズ博士が先ほど申しましたよう にテレビ局のネットワークがありまして、これは、衛星チャンネルのスカイがリードをしてい るのですけれども、彼らが制度や方針をもっていると思いますが、どのような政策や雇用方法 であるかは知りませんが、メディアや産業における支援つき雇用を支援する制度があると思い ます。 <司会 寺島氏> 岩井先生、よろしいですか。じゃあ、兒玉先生、お願いします。 <兒玉氏> 日身連の会長の兒玉でございます。 本日、ホダさんの話の中で、文字放送の資金を得るためのコマーシャルを、放送メディアが 実施しているということに、本当に先駆的な取り組みと感じました。 私共も、当面、やはり、文字放送の普及は急務であります。そのために、それには莫大な費 用がかかるというようなお話の中で、ホダさんがおっしゃった、そういうような問題を日本の メディアに働きかける、そういうことをこれからやっていきたいと思います。 本当にありがとうございました。 <司会 寺島氏> どうもありがとうございます。会場の方で、是非これは聞いてみたいというふうな方がおら れましたら。いっぱいありますね。じゃあ順番で、後ろの元気よく手を挙げて頂いた方。 <会場質問者〜福井氏> 大阪から参りました、福井と申します。今日は大変興味深い話をありがとうございます。 岩井さんもおっしゃっているように、私、視覚障害者の立場から、例えば外国人がしゃべっ ている時に、その翻訳を文字だけで流すというのは、内容が全く理解できない。 これを、音声でナレーションも入れるっていうことは、既に翻訳は文字で出来ているわけで すから、ドラマの解説なんかを付けるよりは、よほど容易に出来るのではないかと想像してい ます。 また、インタビューされた人が特定できないように、声を変形させて、なんかボワボワボワー、 キーキーキーというような声でテレビで流すというのが最近とても増えていて、あれは全ての 人にとって雑音でしかない、と思うんですね。放送局がもし内容を伝えたいということである ならば、あれもナレーションで置き換えるのがいいのじゃないかと思うわけなんです。 そこで、2つご質問したいのですが、一つは聴覚障害者のために、テレビの音声を文字に変 えて、パソコン通信やインターネットで流すという方法があるようですけれども、逆に、視覚 障害者のために、画面に映っている文字をその場で声で読み上げて、それをインターネット中 継するということが、技術的には可能そうに思えますが、これを日本で行うと、何か法律的に 触れることになるのかどうか。これは日本の法律の問題、どなたかご存知でしたら教えて頂き たいと思います。 もう一つは、イギリスにおいて、デジタルテレビ放送の技術は非常に進んでいるようですけ れども、放送番組の付加情報を取得したり、あるいは視聴者が番組に参加するために、逆方向 で意見を表明するといった、そういった新しい機能というのは、視覚障害者も公平にアクセス できるように、もうなっているのかどうか、例えばそれは画面に表示される文字の合成音声に よる読み上げなどを含めて、実現しているのかどうかについてお伺いしたいと思います。 よろしくお願いします。 <司会 寺島氏> 最初の方は、福井さんのほうがよくご存知だと思うので、これは省いていいですか。 <会場質問者〜福井氏> 分かりませんので答えて下さい。 <司会 寺島氏> そうですか、じゃあ、高岡さん、いかがですか。 <高岡氏> 高岡です。2000年の著作権法改正で、音声を文字に変えてインターネットで配信することは、 文部科学省の文化庁に「字幕配信事業者」として届け出た事業者が、著作権の許諾を取らないで も実施できることになっています。また、点字データも著作権法の許諾が不要ということにな っています。 ただ、その逆の文字を音声で配信するということについては、今まで問題になったことが無 いです。ですから、私たちの考えでは、本来は放送事業者がやらなくてはいけないことを、当 事者団体がお金も人も使ってやっているのですから、放送事業者が反対する理由は無いと思っ ています。そういう形で、実施を進めるということも、必要じゃないかなと思います。法律的 には、今、取り上げられたことはないのではないかと思うのですが。 参考に、アメリカではラジオの字幕放送、インターネットで文字を放送するということがど んどん行われているんです。ですから、メディアの変換というのは放送事業者、通信事業者の 責務だと思います。 <司会 寺島氏> どうもありがとうございます。2番目のことについては、外国の方のどちらかお願いします。 <マーク・ダウンズ博士〜通訳> 最初の質問についてですが、文字を音声に変換することは、技術的には可能ですが、これは、 放送事業者がこのテキストを、信号化して送る必要があります。それをやってから、コンピュ ーターの方がそれを充分速く再生できることが必要になってきます。それと、ご存知のように 文字を音声にすると非常に人工的な声になってしまいます。放送事業者にとってのもう一つの 問題は、音声解説は、単なる翻訳ではなくて、それ以上の解説を付けるということです。だから、 このシーンはどういうシーンなのか言葉を追加する必要があります。そのために、余分な作業 が必要になってきますから、それもなかなか簡単にはできないわけです。技術的にはできるこ とはできると思います。 <マーク・ホダ氏〜通訳> 追加のコメントですけれども、音の字幕化については、例えば、オランダなどではこれは行 われています。これに関する情報が欲しければ、RNIBのWEBサイトにも載っております。 RNIBの連絡先もお教えすることができます。 それから、双方向サービスについては、視聴者参加のサービスということで言えば、必ずし も常にアクセスできるかっていうと、そういったことはありません。私が知っている限りでは、 BBC以外にはやっていないと思います。更に追加の情報を欲しいので、例えば、この赤いボタ ンを押すと盲人がテキスト情報を得られます。他の放送事業者の双方向サービスは、必ずしも 字幕や手話のようなものではないようです。今後、デジタルテレビの能力が向上し、調査が進 めば、追加の双方向サービスがアクセシブルになると思われます。 しかし、DVDの場合は異なります。DVDには、音声解説または字幕を付けることが出来る わけです。このDVD上の追加的な機能、例えば、背景シーンの説明ですとか直接コメントと いうこういったような追加的な機能を活用したいためにDVDを買っても、障害者にとってア クセシブルでないという問題があります。 <司会 寺島氏> じゃあ、あの、川畑さん。2番目の方。 <会場質問者〜川畑氏> 日盲連の川畑ですが、ちょっとイギリスの状況を教えて頂きたいなっていう中に、いわゆる デジタル化された放送の放送画像、これはいわゆるきれいな画像であり、プラス、鮮明な画像 であり、音がいいという、そういうことが売り物になっていると思うんですね。 そうすると、視覚障害者はきれいな画像を残念ながら見えない、それから聴覚障害者の方は 美しい音が聴こえない、矛盾していると思うのですが、その場合に、製作の著作権を持ってい る方に対してその開放をどのような形でお願いしているのか、その辺りの現状をお教え頂きた いなと思うのですが。 <司会 寺島氏> はい、どうもありがとうございました。 <マーク・ダウンズ博士〜通訳> 最初のご質問についてですけれども、なぜデジタルテレビなのかというご質問だと思うので すが、現実問題としてはいつもそうとは限りませんが、理論的には、デジタルテレビは、音声 解説の音声は明瞭ですし、字幕のフォントもろう者や難聴者にとってははっきりときれいにな ると思います。また、手話通訳もよりきれいになるでしょう。理論的には、多分、デジタルテ レビの恩恵はあるでしょう。現実的にも、そうなるように願っております。 それから、著作権の問題ですが、英国には、著作権の問題は、殆どのテレビ番組については ありません。 ただ、一つあるとしますと、それはポップミュージックビデオの問題はあります。特に音楽 放送局は、字幕を付けられないといいます。つまり、音楽の歌詞の著作権の問題がある、これ はレコード会社に所属するわけです。 ただ、私たちは、それは正しくないと考えます。非常に人気のある音楽番組がBBC1にあ ります。「トップ・オブ・ザ・トップス」という番組で、かなり長いこと続いている人気番組なので すが、そこでは、全部中身を字幕を付けて紹介しているのです。字幕をつけていない他の放送 局が音楽番組が無理だと言っているのは単なる言い訳であると思います。もちろん、確かに問 題があるエリアであることは事実です。そのために、彼らがそう主張するのでしょう。 <司会 寺島氏> 少し、追加してよろしいですか。イギリスの場合は放送に字幕を付けるのに、無料でやって いるのでしょうか。問題はないのでしょうか。 <マーク・ホダ〜通訳> 字幕作成者にはお金を支払いますが、著作権に対しては支払いはしません。BBCが音楽ビ デオに字幕が付けても、著作権に対しては支払わなくていいんです。ただ、字幕を付ける部分 の製作コストはかかります。しかし、一部の音楽放送局は、我々は著作権料を支払わなければ ならないと言っています。 また、英国には全国字幕図書館というのがあって、そこではどんなプログラムでも無料で許 可なしに字幕を付けることができました。しかし、字幕がだんだんと一般的になってくるにつ れて、この図書館は閉鎖されました。非常に多くのテレビ番組に字幕が付くようになってその 意義が失われたというのがその理由です。過去には、著作権の問題がありましたが、今日では ありません。 <マーク・ダウンズ博士〜通訳> 少し追加しますと、もちろん放送局は、自前以外のそのコンテンツに対して著作料は支払い ます。そして、それに、字幕放送を付ける場合には、その分の著作権も契約の最初に含めます。 放送に対する著作権を持つ者は、その放送事業者が字幕をつけなければならない法的義務を負 っていることを知っています。そのために、字幕に関する著作権料は、全体の著作権料に含ま れていることを了解しているでしょう。 <司会 寺島氏> 著作権は問題にならないということのようです。 それでは、3番目にあちらで手を挙げられた方お願いします。女性の方ですね。 <会場質問者〜ニワタ氏> 先程、高岡さんがおっしゃられたように、字幕の色、大きさとかフォントとか当事者に聞か ないとという部分は、聴覚障害の方だけでなく、軽度発達障害とかでDyslexiaとか読字障害と かそういう人達に関しても、そういう読字障害の人で、高次脳障害とかがあったりすると、や っぱりそういうことにもこだわりが出てきちゃったりもしますので、そういう意味においても、 やっぱり当事者が重要だと思います。そういう意味でも他の意味でも、今回の講演をすごくお もしろいなと思って聴いていました。金子さんが言われていたように、情報保障という意味で 考えた場合、やっぱりこういうふうな軽度発達障害とか認知障害の方とか、知的障害の方に分 かりやすいように両方作るということも必要だと思うんですけど、イギリスではどういうふう な感じなのかお聞きしたいと思います。 <司会 寺島氏> どうもありがとうございました。もし差し支えなければお名前を教えてください。 <会場質問者〜ニワタ氏> ニワタです。 <マーク・ホダ〜通訳> 今おっしゃったような障害についての特定の法律というのは特に無く、一般的な法律が、放 送における、字幕、音声解説、手話通訳すべてをカバーしています。学習障害のある方だけの ための法律は特にないと思います。一般的な障害者関連の法律がそれらに適用されるというふ うに考えて頂ければと思います。 <マーク・ダウンズ博士〜通訳> 我々は、実際の利用者による製品やサービスのフィードバックをすることで放送業界や製造 業者と緊密に協力しております。驚くことに、非常に多くの製品がユーザーのテストなしに販 売されています。ある領域では、それが改善されていますが、まだ、依然として、民間事業者 がユーザーにもっと関心をもってくれるように努力している領域もあります。結局、ユーザー がそれを求めないから、彼らは、それをしないのだ思います。また、関連して、英国の障害者 差別禁止法は、ICT問題に適用されないことも問題です。 <司会 寺島氏> はい、どうもありがとうございました。よろしいですか。じゃあ、川井さんお願いします。 <会場質問者〜川井氏> 全難聴の川井と申します。イギリスの状況についてお伺いしたいと思います。 日本では今、昨年度、インターネットのWEBアクセシビリティのJIS規定を作りました。 そのJIS規格の審議に参加していたのですが、それと同時に日本では昨年度、市販されている パソコンに、テレビを映し出す製品がたくさん発売されました。 ですから、当然私は聴こえませんので、パソコンでテレビを見る場合でも、字幕放送を入れ られるよう、日本のWEBアクセシビリティの規定に盛り込もうと思ったわけです。 ところが、その審議会では、パソコンメーカーではなくWEB関係、ソフト関係の方たちが その審議をしていたのですが、パソコンでテレビを見るには規格が違いすぎて、今の段階では そういう文言を規定の中に入れることはできないというふうに言われたんです。 ですが、先程ホダさんが言われたことには、イギリスではやるというふうに言われたと思い ますので、特に技術的な規定に問題は無いのか、あればどういうことなのかお聞かせ願えれば と思います。以上です。 <司会 寺島氏> どうもありがとうございます。 <マーク・ホダ〜通訳> おっしゃるとおりだと思います。WEBアクセシビリティガイドラインというのがEUと英国 にもあるのですが、確かに、インターネットテレビコンテンツは、含まれていないのです。しかし、 これは、ご指摘のように、ますます普及してくると思われますので、聴覚障害者は、それから 排除されてしまうでしょう。 英国では、私の知っている限り、二つのよい兆候があります。ひとつは、少なくとも2つの 字幕会社がWebやインターネットコンテンツに特殊化して字幕化を行っています。技術的には、 それほど難しくはなくて、彼らはIBMの「ベーシス」というソフトウェアを使って字幕を作って いるようです。 もう一つは、グローカル(glocal)メディアという会社があって、この会社は、インターネッ ト上で字幕を提供するということをしています。例えば、これらのことというのは、技術的に はそんなに難しいことではないはずです。おそらくヨーロッパでも近い将来法律の改正が行わ れると思いますけれども、まだその法律が追いついていないという状況です。 <マーク・ホダ博士〜通訳> そうですね、大きな技術的な課題というのは特に無い。それをやりたいかどうか、放送事業 者の意思によると思います。そういったサービスを提供するつもりがあるかどうかということ になってくると思います。 問題は、ボランタリベースでないといけないということなんです。つまり、放送というのは、 もちろん、一国の問題にとどまりますが、インターネット上の放送ということになりますと、 世界が対象になります。例えば、私がイギリスから日本に放送したいとすると、インターネッ トを使えばそれができるわけです。でも、英国の法律は日本では適用できません。ですから、 これはもう善意によって、そしてベストプラクティスによってやるしかないわけです。法律で 規制はできないわけです。 <マーク・ホダ〜通訳> もう一つ追加したいのは、たとえ、法的な圧力があったとしても商業的な圧力も必要だと思 います。例えば、GOOGLEという検索エンジンサイトは、ビデオサーチというアーカイブの 機能をもたせようとしています。ビデオのコンテンツの検索を、インターネット上のGoogle エンジンを使ってやろうとすると、テキストベースの情報をベースしなければなりません。そ れにビデオをくっつけるわけです。これは、字幕を付ける大きな誘引になります。字幕が入っ ているということは、サーチエンジンのためにテキストの情報が既にあるからです。 それと、もう一つの商業的圧力は、もし、インターネットのビデオコンテンツのプロバイダ ーがGoogle検索にのせたいと思うと、テキスト情報を提供しなければなりません。これも、 字幕普及のための商業的圧力となる可能性があるでしょう。 <司会 寺島氏> はい、どうもありがとうございます。もう時間になってしまいました。最後に、一人手が挙 がっています。どうぞ。 <会場質問者〜瀬谷氏> 全難聴の瀬谷です。どうも本当にありがとうございます。 それで2つ質問があるのですが、字幕の表示速度なんですけども、ライブで放送する場合、 字幕の表示速度がかなり速くなることが予想されて、人によっては読みきれない状況が生じる かと思うのですが、それに対して、例えばどういう対策を取っているか。 例えばですね、日本では要約と言うのですけれども、まとめて表示速度を遅くするか、ある いは速く読めるように訓練するのか、そちらの方をちょっと教えて欲しいのと、それから学習 障害児への字幕放送がオランダで進んでいるということなんですが、これは聴覚障害者への字 幕放送と知的障害者への放送は別チャンネルでやっているのかどうか、について教えて下さい。 <マーク・ダウンズ博士〜通訳> 大変いい質問だと思いますが、難しい質問でもあります。2年前くらいに、英国でいくつか 研究が行われておりまして、毎分140〜160ワードが理想的なスピードだという結果が出て おります。 また、英国では、録画字幕の場合、要約字幕もよく行われておりますが、生放送の字幕は、 これは、難しいわけです。私が生放送の字幕デモ見たとき、要約をするには、トレーニングが 必要だと思いました。というのは、全部をそこで伝えなければならないからです。例えば、サ ッカーゲームでは、極端な要約をしているでしょう。解説者は、非常に早口ですし、私のプレ ゼンでもそうですけれども、全ての情報を全部スクリーン上に字幕で出すというのは難しいわ けですから、それを編集するための技能訓練というのも必要になってきます。 失聴者・難聴者の場合は、そういった要約が欲しい場合と、全部の情報が欲しい場合があると 思いますので、難しいとは思いますが、バランスが必要だと思います。 英国では、要約が実践されているわけですが、オランダの学習障害児者に対するプロジェク トはどのようになっているのか、調べて見るのも面白いかもしれません。 <司会 寺島氏> 最後に、高岡さんが、話したいということですので、お願いします。 <高岡氏> 高岡です。先程のニワタさんの方から、当事者の番組制作、コンテンツ製作に参加が重要だ とおっしゃられたことに関して、この放送・通信バリアフリー委員会では色々な障害者がテレビ にアクセスする場合、こういう番組だったらよく分かる、よく理解できるというモデルを作ろ うとしています。3月までに作らなくてはいけないので、焦っているんですが、RNIDにもい いモデルとなる番組を提供して頂いて、私たちでも色々な意見を集めて、モデルを作って、そ れを各放送事業者に提供して、こういうふうに作って欲しいとか、これから作る時には私たち の意見も反映させるようにして欲しい、ということを強く言いたいと思います。 最後にですね、お2人にお聞きしたいのは、放送事業者ですとか、政府、議会、それからメ ーカーなどに対して、私たちが働きかける、アプローチするときに何が一番ポイントかという ことです。 私は、人権ということを表面に出した場合、技術的な問題とか、お金の問題とか、いろんな 理由を付けて反論してくるわけです。 EUではどういうことを掲げて、アプローチされたのかお伺いしたいと思います。 <マーク・ホダ氏〜通訳> どういった番組に字幕を付けるべきなのか、解説を付けるべきなのか、手話を付けるべきな のかという問題です。字幕について言えば、調査結果によれば、英国では全ての番組に字幕が 欲しいという結果が出ております。 手話については、ある番組のタイプによっては、手話のほうがよいという場合もあります。 例えば、ドキュメンタリーは、手話使用者に人気がありますが、この場合、手話通訳が好まれ ています。この問題については、現在、いろいろな会員に対して調査を行っていますので、そ の結果が出ましたら詳しいデータを提供することができます。 音声解説については、視覚障害者の方々がどのような希望を持っておられるのか私自身把握 しておりません。RNIBには、その情報があると思いますので、そちらに直接お問い合わせ頂 ければ幸いです。 それから、ロビーイングやキャンペーンの戦略については、これは、大部分、その国の制度 に依存すると思います。議会、法律、政府のシステムなどがどういう戦略を採用するかを決定 します。ヨーロッパでは、それぞれの国が、一番機能すると思うそれぞれのキャンペーンのス タイルとメカニズムを持っています。日本のシステムがどうなっているのか、詳しく知りませ んが、皆様のリソースと戦術に対する判断によると思います。 ヨーロッパの多くの国では、まず国会議員に顔と顔を突き合わせて、話しを始めるというと ころから始めます。また、宣伝やポスターキャンペーンをやります。ダウンズ博士の話の中に、 スウェーデンのポスターキャンペーンをやったというのがありましたけれども、公の場所にポ スターをどんどん貼っていくということで、失聴者・難聴者のニーズを分かってもらう。60万 枚くらい貼ったと言いました。そのポスターには、テレビ番組を見ることができない、アクセ スできないという女性の写真を載せたりしております。 また、公共の議論に参加するというのも効果的なキャンペーンツールであると思います。 もちろん、選挙の時に、政治家は、再選を希望しますので、英国やアイルランドでは、これ らの政治家からアクセスについての確約を得ておくわけです。選挙になったら選挙民の意見を 聞かざるを得ないし、意見を聞いてくれる人を選べばよいわけです。 <司会 寺島氏> 時間が、過ぎてしまいましたのでこれで終わりたいと思います。最後に講師のお二人と、パ ネラーの皆様に、拍手で感謝の意を表したいと思います。よろしくお願いします。 パネルディスカッション 障害者のための情報保障セミナー デジタルテレビ放送の情報アクセス 発行 平成17年3月31日 発行者 財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 電話: 03-5273-0601 FAX: 03-5273-1523