はがき通信ホームページへもどる No.84 2003.11.25.
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 予約は便利でも……玉葱の外出 


 ここ短期間に予約することが3、4件続いた。一つは、東京ディズニーランドへの2泊3日の旅行です。知人に依頼の電話1本で、出発から帰宅まで身体の移動だけでOK。あっけない旅の始まりです。JRの「のぞみ」も指定席予約、個室も確保して楽居のトイレも安心。着駅のホテル案内にチケットの提示とサインで荷物は部屋へ運ぶとか。
 翌朝早々の入園受け付けは、長蛇の長〜い大行列が延々と続く。乗り物も入館も予約時間を取り、他の見所へチョロチョロと移動の時間つぶし。寒暑時期なら入園1時間でダウン? 1箇所しか予約できず要領が悪いと廻覧も非効率は止むなしでした。
 2つめは、ミュージカル「キャッツ」。これも電話で知人が手配してくれた。車椅子というと、駐車場の手配やトイレ案内まで万全でした。当日は早めに到着したにもかかわらず、車が到着すると案内の人が駆け寄り笑顔で挨拶。観劇の後の見送りまで滞りもなく帰宅。玉葱邸宅玄関前には、定刻のヘルパーさんが待ち受けていてくれた。
 3つめは、市民病院に検査予約。主治医である診療所の先生が予約の手配。受け付け時間に遅れじと早めに到着。予約時間に呼び出しは超珍しいとのこと? である。検査に回され、受診まではスムーズに。その後の医師との面談に2時間近くの待ちぼうけ。予約とは、受け付けまでで完了なのでしょうね。
 4つめは、美術館に駐車場の予約。予約日の都合が悪くなり、突然に前日に出向いた。予約なしの障害者用車輌は受け付けませんと警備の人。どう見ても玉葱の面は芸術の秋に相応しからざるので、入館拒否の態度だと運転の人も苦笑。一般車の駐車場は、満杯でも待てば入れるのだが……車椅子マークの駐車場は空車。受け付けで事情を話し許可をもらい、警備の人も了解してくれる。
 予約は便利だけれど、融通が利かないのには閉口する。乗り物は時間が気になる。観劇も車椅子席は限定され、場所を選べず居心地の悪いことも。また、同行者以外と会話を交わすことも極端に少ないのが気になる。玉葱は無口なほうでないから見知らぬ人や旅先の一時の出会いに会話を期待するが、会話のきっかけやタイミングを逸する場合も多い。何でもマニュアル化し、システム化し、バリアフリー化すれば便利であるが、障害者との関わりも薄らぐように思う。久々に自動ドアーのマックに入った。視線の合わない元気な声が頭の上を通過した。 
広島県:玉葱おやじ E-mail: ecosakohata@do2.enjoy.ne.jp


 イラストだより 


 群馬県在住のK.Hです。受傷して10年を迎えるC4の頸椎損傷。35歳になりました。
 ムチを持った入院先のOTの先生にムリヤリ絵を描かされたのが始まり。今ではすっかり楽しく絵を描いております。これはまた、絵を描く環境を作ってくれる家族をはじめ、皆様のおかげであります。
 現在は、油絵を少々。そして、パソコンでのイラスト製作をしております。何はともあれ、皆さんとともにこれからも歩んでいきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

※ちなみに私は、彼のキャラクターの女の子の大ファンです!(瀬出井)
 <イラスト3枚貼付(情報誌のみに掲載)>


 生きることにベストを尽くす 


 ハンセン病の人から「ハンセン病患者も進行性筋萎縮症患者も生きていることが、それ自体、社会に役立っていることだから、生きることにベストを尽くすだけで良い」と言われた。長い間生きてきて、納得することであった。もっと向上したい、もっと社会に役立つことをしたいという気持ちは大切にしなくてはならないが、自分の現状を自虐的に否定したり、嘆いたりする必要はない。
 「生きることにベストを尽くすだけで良い」と言われると、ホッとする。常に一般人と同じレベルで、同じだけのがんばりをしなくてはならないと思いつづけていた。特に、周囲の目を気にする一日本人としてはびくびくしながら生きてきたので、このような一言で解放される感じがする。また、消費するだけの我が人生を社会に申し訳ないと感じてきたので、生きているだけで役立っていると言われるとうれしくなる。
 個々人はそれぞれの人生があって良いと思うようになったし、障害者が社会の中で生きているだけで周囲への影響力があると感じる年齢になった。自分の無力さに対する言い訳ではなく、自分をありのままに肯定したことになる。無理のない思考が人生を明るくさせ、長生きできる原点になる。
 「役立つ」が価値観の中心である場合、児童・老人・学者・障害者は、存在価値がなくなってしまう。「生きること」が常に価値の中心となり、最高のものでなければならない。うれしい出会いであった。
東京都:K・M E-mail: AAV16375@biglobe.ne.jp


 主人と私の一日の生活 


 「通信」の皆様、お変わりなくお過ごしでしょうか。不安定なお天気でしたが、やっと秋晴れの穏やかな日和が続いております。また、食卓には、秋の味覚がにぎわいを見せる頃にもなりました。
 おかげさまで主人も私も元気で過ごしております。一日一日何事もなく過ごせることが何よりと思われます。主人は、月に2度の通院にタクシーに乗ることが唯一の外出となります。主治医の先生、看護士さんとお話しできることも楽しみの一つです。
 一日のほとんどを室内でテレビを見たりして過ごす中で朝夕2度の体温、血圧測定と、朝晩2度の薬を飲むこと、それから一日何度となくトイレ介助(おむつ交換)をしたり、就寝前の清拭歯磨きなど、次から次へと流れ作業のような毎日の生活です。主人は、夜寝てからも一晩中何回となく(2〜3時間毎)トイレに起こします。私は寝不足気味の毎日です。誰にも起こされずにゆっくり寝たい! が唯一私の願いです。
 このような日々の生活の中で私の心を和ませてくれるのは、2匹の猫です。ミニーちゃん(白黒ぶち)、メルちゃん(アメリカンショートヘアの毛並みによく似たトラ猫2歳のメス)です。2匹はたいへん仲が良くお互い可愛い可愛いとなめ合ったり、追っかけっこをしたり、時には取っ組み合いをしたり、じゃれ合って遊んでいます。そんな猫たちを見ているとたいへん気持ちが安らぐ思いです。それから、寝る前の少しの時間にCDを聴いたりして楽しむ時間を作るように心がけています。CDの曲目は、モーツアルトやシューベルトの作品など、静かな美しい曲を好んで聴いています。また、元気をもらえるような楽しく元気な合唱曲やクリスマスには静かで美しい賛美歌、ミサの曲なども静かな気持ちで聴きたく思っています。最近寝不足がつのり、たいへん疲れを感じる毎日です。なるべくストレスを少なくするように日々努力して頑張っていこうと考えています。
 では皆様、時節柄お身体をご自愛下さいますように、いっそうのご健康をお祈り申し上げます。

埼玉県: S 


 編集委員に「復帰」しました 


 ご心配をおかけしましたが、現在、服用している抗うつ剤等の成果で、何とか痛みと折り合いをつけることができ、11月号より編集委員に復帰させていただきました。編集スタッフ他、励ましてくださった皆様方には感謝申し上げますとともに、心よりお礼申し上げます。どうもありがとうございました。
 なぜ、抗うつ薬が脊髄損傷後の神経因性疼痛に有効(万人に効くというわけではありません)かといいますと、疼痛を緩和する作用機序として、抗うつ薬には、中枢神経系の抑制性神経伝達物質のセロトニンおよびノルアドレナリンの再取込みを阻害する作用があるため、疼痛抑制機序を増進すると推定されています。(日本せきずい基金ニュース№18『脊髄損傷後に発症する痛みに関する「研究概説」の紹介』より抜粋)抗うつ剤は鎮痛補助剤(その薬本来の適用ではないが理論上、臨床経験上、鎮痛にも有効とされるいる)としても、幅広く使われています。
 前号にも書きましたが、現在、「脊髄損傷後の痛みの調査」に協力しており、私自身、最初から抗うつ剤による治療を試してもよいと考えていました。しかし、現在の病院のペインクリニックは麻酔科が主体で麻酔療法に偏っており、抗うつ剤による治療に慣れたところはなかなかありません。私が最初に受診した、自宅から一番近い病院のペインクリニックもそうでした。
 そんな中、日本せきずい基金の掲示版のH県のM氏の書き込みから、T県の某クリニック(精神科)の抗うつ剤治療により疼痛緩和に成功したという情報を得ました。その書き込みを見た全国の痛い人たちから、50通以上のメールでの問い合わせがあったそうです。何年か前のNHKのドキュメンタリーにもなり、大反響を呼んだのでご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、30年にもわたる慢性疼痛に苦しんだ生命科学者の柳澤桂子さん(この方は脊髄損傷者ではありません)に処方した医師です。H県のM氏もこの番組を視聴して柳澤さんの主治医に連絡を取り、T県のそのクリニックを紹介されたそうです。
 臨床例を持っているところがやはり一番ということで、私も受診を決意し、近くのホテルを予約して1泊泊まりで受診をしました。でも、それほど大きな期待を持っていたわけではありません。上にも書きましたが、万人に効果があるわけではありません。同様にそのクリニックを受診し薬を服用しても、まったく効果がなかったという人や薬の副作用が出た人のお話しも聞きました。私の場合もダメ元で、少しでも特に下肢痛が緩和できればという気持ちでした。
 その結果、約40日服用したところですが、運良く痛みと折り合いがつけられる(もともと痛みがあったせいもあり)程度の緩和に成功することができました。とにかく、ずっと悪化し続けていた症状が落ち着いてくれたのが何よりでした(下肢痛の除痛程度が3〜4割、良い時で5割減)。それから、精神的にも抗うつ剤の効果で気持ちが安定し、やる気や外出する意欲が出てきたことも大きな成果でした。ただ、現在、副作用として便秘症状が強く出てきています。そのほかに特に副作用は現れていませんが、急に薬の量が増えたので、血液検査や尿検査は定期的にしたいと思っています。目下のところ経過観察中ですが、痛みとの折り合いがつけられる状態が落ち着いたら、徐々に薬を減らしていく方向で考えています。できるだけ早く、安全な治療薬ができることを期待して待ちたいと思います。
 最終的に、私が処方された薬を下記に参考までに記します。まさに、ベテランの精神科医独特の処方だと思います。これはあくまでも詳細なカウンセリングを受け、私個人のために処方された薬だということをくれぐれもご承知おきください。もし、試されてみたいという方は間接的な情報だけでなく、直接クリニックを受診されるか、また主治医の先生とよくご相談のうえ、自己責任のご判断でお願いいたします。上記のM氏はリボトリールは私の4倍、ユーパン、パキシルは、2倍量服用されています。
 ・リボトリール(抗けいれん薬・精神安定薬)0.5mg 1錠 毎食後 1.5mg/日
・アモキサン(三環系抗うつ薬)10mg 1カプセル 毎食後 30mg/日
 ・ユーパン(抗不安薬・精神安定薬)0.5mg 1錠 毎食後 1.5mg/日
 ・パキシル(選択的セロトニン再取込み阻害剤)1錠 夕食後のみ 20mg/日
それから、前号に掲載されていたうららさんの妹さんですが、L1損傷といいますと馬尾神経あたりだったのでしょうか。急性期からのアグレッシブ・リハにより、目覚ましい回復を遂げられて本当によかったですね。しかし、痛い人間からどうしても考えてしまうのは、痛みとリハビリの関連、疼痛管理の仕方です。私は幸い受傷当時には、リハビリの妨げとなるような異常疼痛はありませんでしたが、あの当時、今回の薬を服用する前のような痛み等があったらどうだったのだろうか……と、考え込んでしまいます。
 カナダや欧州では、急性期や初期リハビリ期の対応によってひどい痛みや痙性を在宅に持ち越さない、という医療的考え方もあるようです。そのような情報も収集したいものです。
 現在、脊髄の再生医学が注目を浴びていますが、たとえ運動能力が戻ったとしても運動能力の面だけでなく、知覚、感覚の面はどうなのだろうか? 異常知覚痛は解決するのだろうか? と、異常疼痛に四苦八苦する者は素人ながらに危惧してしまいます。
 最後に、上記の抗うつ剤の作用機序の部分の説明がわかりにくいと思いますので、補足させていただきます。 
 <神経伝達物質について>
 神経伝達物質について、薬学の入門書風に説明してみると以下のようになります。
 人間の体は数え切れないほどの細胞からなっています。神経細胞もその重要な一種です。神経細胞にもいくつかの種類があって、刺激や情報に関与しているものがニューロンと呼ばれます。脳脊髄中枢神経では、何億ものニューロンが刺激や情報を伝え合うためのネットワークを作っています。ニューロンとニューロンの間には隙間があり、その間での化学物質のやり取りによって刺激が伝えられます。この化学物質が神経伝達物質と呼ばれます。隙間をはさんでのニューロンとニューロンの接合部位がシナプスと呼ばれます。シナプスで化学物質を受け取ったニューロンはそれを電気信号に変え、電気信号が化学物質を放出させるという仕組みで、刺激や情報はあっという間にニューロン間を駆け巡ります。
 神経伝達物質にはたくさんの種類があり、セロトニンもそのひとつです。一方のニューロンからセロトニンが放出され、他方のニューロンにあるセロトニン受け取り口(受容体)から吸収されます。また、セロトニンを放出したニューロンには余分のセロトニンを再度回収して不活性化する再取り込み口があります。
 このセロトニンが不足すると「うつ病」症状が出て、不足分が補われると改善すると考えられています。セロトニン再取り込み口をブロックし、再取り込みの機能を失わせると結果的にセロトニンの濃度が増し、不足分を補うことになります。抗うつ薬は、このセロトニン再取り込み口の機能を阻害することによって、セロトニン濃度を増加させることを狙った薬です。セロトニンの受容体にはさまざまなタイプがあり、どの受容体がどれだけのセロトニンを受け取るかによって働きが違ってくるとみられています。セロトニンはニューロンの興奮を抑え、疼痛を緩和する抑制的な働きをすると考えられています。セロトニンの濃度を増加させ、疼痛を緩和する手順は抗うつ薬と同様になります。実際、抗うつ薬が鎮痛補助剤として臨床的に使われてきました。この場合はうつ病に対してではなく、疼痛に対して使われるものです。そのメカニズムは充分に解明されているわけではなく、人により、痛みのタイプにより、全く効果がない場合があります。副作用が強く出る場合もあります。
 (柳澤桂子 著「ふたたびの生」参考) 
編集委員:瀬出井弘美 E-mail: h-sedei@ma4.justnet.ne.jp
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