はがき通信ホームページへもどる No.75 2002.5.25.
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読書メモ(2)

C5、15年、53歳男性

 山本夏彦の『完本 文語文』(文藝春秋)にひきずられて『私の岩波物語』(文藝春秋)を読んでいる。じつにおもしろい。古老の昔話だが、教訓に満ちている。山口瞳亡き後このての説教ものが書けるのは山本夏彦だけだ。夏彦爺さんだけが頼りだ。左翼を嫌い作品は文藝春秋から出している(そういえば『プロレタリア文学はものすごい』に、左翼が出した「文芸戦線」に対抗して「文芸春秋」が出たとあった)。出版界、マスコミ界の話し満載だから、『私の岩波物語』はかなり分厚い本だが飽きることがない。
 出版は衣食のため、身過ぎ世過ぎだ、ひとを教え導くような出版物は大嫌い、世の中はいかさまだらけというのだが、たぶんに露悪趣味であって、志は高いと見た。
 戦時中外務省の嘱託をしていた中村光夫が、何かにつけ部下にまとまった金をプレゼントしていたという話が出てくる。昨今の機密費はいまに始まったことではなく、昔から省ぐるみでうまい汁を吸っていたことがわかる。戦時中にやっていたということは、戦前からやっていたということだ。どうしてみんなエスタブリッシュメントになりたがるのかと思ったら、やはりこういうことだったのか。
 篠原敏之の名が出てきて懐かしかった。奥付に著者連絡先(室内編集部)が載っている。「室内」編集部員に著書を渡しても誰もなにも言わないと嘆く翁は本当に本好き、読者と語り合いたいのだ。
 『文語文』ではあまり近親者、特に父親について細かく書いた部分はおもしろくなかった。いくら詩人だったとはいえ。やはり有名人が出てくるほうが興味を引かれる。
 タイトルは「いかさま指南」にしたらどうかと思ったが、やはり岩波の名を冠したほうが売れるだろう。

 『鶴彬全集』(1977年、たいまつ社発行、一叩人編)から良い句を選んでみる。身体障害と淫売をテーマにしたものが目立つ。
  手と足を大陸におき凱旋し(s5、書簡)
  淫売をふやして淫売検挙だってさ(s5、川柳人)
  足をもぐ機械だ手当をきめてある(s10、りうじん街)
  これからも不平言ふなと表彰状(s10、詩精神)
  ざん壕で読む妹を売る手紙(s11、蒼空)
  修身にない孝行で淫売婦(〃) 
  万歳とあげて行った手を大陸へおいて来た(s12、川柳人、絶筆)
  手と足をもいだ丸太にしてかへし(〃)
  胎内の動きを知るころ骨がつき(〃)
「手と足を大陸におき凱旋し」「足をもぐ機械だ手当をきめてある」「万歳とあげて行った手を大陸へおいて来た」にくらべ「手と足をもいだ丸太にしてかへし」が優れているのは、国家に対する告発や憤りをより強く表現し得ているからだ。
 鶴彬の生涯については、田辺聖子の『道頓堀の雨に別れて以来なり』(中央公論新社)に詳しい。野方警察署に逮捕され、獄中で病を得、豊多摩病院のベッドに手錠でつながれたまま死んだ。応召してさっそく軍に逆らい重営倉に入るくだりがただ者でないことを感じさせる。昔のひとは純粋で根性があった。淫売でもいまやブランド品購入のためだものなあ。夏彦爺さんならこのひとをなんといって批評するだろう。 
 藤川 景(編集部員)



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