は が き 通 信 No.60 - Page. 1 . 2 . 3 . 4 . 5
POST CARD CORRESPONDENCE 1999. 11. 250

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せきずい損傷の神経修復

「日本せきずい基金」発会式講演会
車椅子からの解放を目指して:京都大学 川口三郎教授


前世紀末以来、永らく、広く、哺乳動物の中枢神経伝導路は再生しないと信じられてきたが、最近10数年間の研究成果は、それが間違いであり、機能的意義を有する再生が起こり得ることを明らかにし、損傷された中枢神経伝導路を再構築して、機能回復を図る神経修復の可能性に道を開いた。

実際、神経修復を主題にした国際シンポジウムが開催され、「ヒトの脊髄損傷の効果的な再生的治療の可能性はもはや憶測ではなく現実的な目標になった」と主張されるようになった(Science273:451,'96)。
こうした研究の趨勢と並行して、かつての通説に代わって「哺乳動物の中枢神経系の軸索環境は全体として再生軸索の伸長に対して拒絶的(non-permissive)であり、再生に導くためにはそれを許容的(permissive)に変えなければならない」との仮説が、新たなドグマとして浸透しつつあるように見える。

しかし、この仮説に基づいたり、この仮説を支持すると思われる実験結果は、いずれも極めて限られた再生である。すなわち、再生線維の量は僅かで距離(軸索の延長)も短かく、当然、それらの多くは異所性投射と考えられるものである。それゆえ、再生線維によって機能回復が起こると云ってもその程度は微々たるものである。

一方、われわれは、「中枢神経系の軸索環境は全体として再生軸索の伸長に対して許容的であり、再生を妨げるのは局所的要因である」との仮説を提唱し、損傷部の軸索環境を乱さないようにすれば、あるいは人為的操作によって損傷部の局所的条件を良くすることができれば、制限のない再生、すなわち量的にも距離的にも、また、体部位局在の再現性においても正常と同様な投射を再構築できると主張してきた。
実際、本講演で紹介するように、現在までのわれわれの実験成績はこの仮説を支持している。

脊髄損傷に限らず、外傷や血管障害によって損なわれた中枢神経伝導路を修復して充分な機能回復を期待するならば、量的にも、距離的にも、また体部位局在の再現性においても、正常と同様な投射を再構築することが必要であろう。それは可能であろうか。われわれは、自分達の実験結果に基づいてそれは可能であると考えている 。

哺乳動物の中枢神経系は、従来考えられてきたところとは異なり、潜在的には非常に大きな軸索の再生能力と再生した軸索を正しい経路に導き、正しい標的に終止させるような自己組織化の能力を有している。その潜在能力を顕在化できれば、対麻痺や四肢麻痺になった脊髄損傷者の脊髄伝導路を修復して、再び歩けるようにし、手を動かすことができるようにすることは不可能ではないと思われる。

「日本せきずい基金」発会式特別講演






山ちゃんの「地球のさぼり方」 Part 7

皆さん、こんにちは! 現在、日本でだんごを食いながら、この原稿を書いています。
チベットから陸路でネパールはバクタブールの向坊さんの建てたGLINペンションに戻つたのが9月25日。そこで、ネパールの友人達と楽しくすごしながら長旅の疲れを癒し、10月23日に帰国しました。ヘルパー探しとA型肝炎から始まった旅でしたが、それ以降大きなけがも病気もなく、様々な思いを胸一杯にして日本に帰ってくると、やはり感慨深いものがありますね。まあ、それはさておき、今回の旅のフィナーレとなった中国・チベットを振り返ってみましよう。

○ チベット


四川省の成都から飛行機で2時間足らず、ラサは標高約3800m、富士山とほぼ同じ高さに位置します。さすがは世界の屋根だけあって、ラサでも全体の中では低い方。自ずとチベットを旅するにあたっては、「高山病」が気になります。
高山病とは、通常よりも薄い酸素・低い気圧のせいで頭痛や吐き気、体がだるくなったりするもの。これには個人差やその時のコンディションが影響していて、何ともないとピンピンしている人もいれば、寝込んで動けなくなる人もいます。私もチベットに入るまでは不安でしたが、幸い最初の数日間少し寝苦しさを感じただけでした。
頚損者がチベットを旅するにあったての私の感想ですが、基本的に大丈夫だと思います。私の肺活量は1000cc程ですが、そのことは問題に感じませんでした。ただ、ラサで気圧が650hpくらい(通常の3分の2)なので、「雨が降る時(低気圧)は手足が痛い」という頚損者だと厳しいかなあ。いずれにしても、実際行つてみないことには解らないですが、ただ言えることは、たっぷりと時間的余裕をもって、ラサについても最低1週間くらいはあまり動きまわらず、疲れないようにして高度に慣れていく。そして、空気が極端に乾燥し、1日の寒暖の差が激しいので風邪にも要注意です。
それから、車椅子を押したりしなければならない介助者の方も心配。「共倒れ」に備えて、1人でも多くの介助者がいたほうがいいでしよう(積極的に他の旅行者と交流を持ち、一緒に外出して介助の負担を分散するといい)。
さて、このチベットの旅の最大の目玉は「ヒマラヤ越え」。3日間の行程でラサからランドクルーザーをチャーターし、途中エヴェレストのベースキャンプ(5200m)に寄って、悪路の中、5000m以上の峠を3つ通ってネパールまでつき進むという、旅のファイナルにふさわしいロマンあふれるコースです。
この「ヒマラヤ越え」に備えて、ラサ近郊の5000mの峠を越え、4700mの湖まで泊りがけで行って高度に慣れたり、最新型のランクルを探したり、体調を整えたりしてきました。
チベットの道路はほとんどが未舗装で、特に峠越えやエヴェレストベースキャンプへの道程は「この道を通るの!?」と驚くほどの凄い道です。トヨタのランクルの助手席に乗り、シートベルトをしっかりしめても上下左右に相当揺れます。さすがに2日目以降、腰や首が疲労で痛くなりました。それに、お尻も擦れるので、床擦れにもご用心。まあ、チベットの大自然が相手ですから、こちらも気合が必要です。
しかしですね、確かに「ヒマラヤ越え」は車椅子の障害者には楽チンとは言えませんが、その道中目にする風景たるや、言語を絶しています。空の青さ、神々しいまでのヒマラヤの山並み、圧倒的スケールの自然の真ん中で暮らすチベットの人々。地球上にこんな場所があったのかと、まさに感動の連続です。少々しんどくても全然気になりません。逆に、苦労ナシでこれだけのものを見てしまうと、見せてくれる自然に対して申しわけないです。そして、やつとたどり着いたベースキャンプでエヴェレストの雄姿を間近に見た時は、感無量でした。旅の最後にチベットに来れて、本当によかった。
皆さんもぜひ、チベットを体験すべし!! 高山病などの恐れもありますが、ラサにはちやんとした病院もあります。自分の生命力を信じて、大きく気持ちをかまえて向かいましょう。チベットへの入りかたですが、日本からだと上海などで飛行機を乗り継ぎ、成都に入る。そこからラサヘ飛ぶのが一番でしよう。飛行機を使う方が体力をロスしないですむからです。そして、ラサについても1週間はゆっくりする。まあ、チベットを旅するにあたっての情報を書きだすといっぱいになるので、「私も!」という方がいたら連絡下さい。
ということで、私の1年間のアジアの旅は終了しました。ネパールから始まり、インドを南下してスリランカ、そこからタイ、ラオス、カンボジア、ヴェトナム、中国と、8ケ国を回ってきましたが、それぞれの国や地域で沢山の出会いや出来事がありました。車椅子だからこその旅の醍醐味、面白さというのは確実にあります。やっぱり旅はやめられません。
「旅は最高のリハビリ」という言葉をどこかで耳にしたことがありますが、私はこの言葉が大嫌いです。旅の本質から大きくずれている気がして。心を柔軟にして、自分の感性に耳を傾け、そこから新たな発見や出会いが生まれる。旅のよさとは、実はそんなところにあると思っているので、行きたい場所があれば、日常をしばらく離れてみて、例えそれが近場の温泉であろうが、距離や時間に関係なく飛び出してみてはいかがでしょうか。健常者よりも苦労することが多い分、感動も大きいこと間違いなし!
それでは皆さん、この辺りで失礼します。
PS、アジアを旅してみたいという方いましたら、ご連絡下さい。
宮崎県 : やまちゃん yamtos@hotmai1.com



つづく
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