は が き 通 信 No.55 - Page. 1 . 2 . 3 . 4
POST CARD CORRESPONDENCE 1999. 1. 25

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施設のなかの叫び

〈手紙その1〉

梅雨の候、いかがお過ごしでしょうか。久しぶりにお手紙を書いてみました。
ご存じの通り、私が入所している施設は、身体障害者療護施設と呼ばれています。1級、または2級の障害者でないと、入所の資格はありませんで、定員◆名、プラスショートステイ何名かが入所しています。今から◆年前の平成◆年の◆月に開設し、今年で◆年めとなっています。
開設当初は、手のかからない障害者を入所させていましたが、なかなかベッドが埋まらず、最終的には誰でも引き受けるようになりました。それでも施設は入所希望者を選ぶことができましたが、最近は、それができなくなりました。入所の予約をし、順番が来れば誰でも入所できるようなシステムに変わりました。
それで、誰か亡くなられると、また誰かがすぐに入所します。それは、身体障害者であっても精神障害者であっても、次々に入所して来ます。◆名の入所者のうち、寝たっきりで食事にも介助の手が必要とされるのは半分以上です。
それなのに、職員の数は変わりませんので、人手が足りる訳はありません。管理者や事務室の職員は福祉事務所から紹介があった障害者をただ入所させるだけですから、どんな障害者が入所して来ても平然としていられます。
入所者にしてみれば、今までやってもらったことをやってもらえなくなったり、喰って寝るだけになります。それでは人間ではなく、飼われている動物と同じです。
個室ならまだしも、2人部屋のほうが多いので、物事を理解する能力のない相手との相部屋となることも多いのです。丸一日、騒いでいる者、ラジオやTVを大きな音を立てて聴く者、四六時中ナースコールを押す者、いろいろです。そういう人といっしょの部屋にされると、寝るどころか、ノイローゼになってしまいます。
嘱託医は、ここは病院ではないと言って、注射をすることはなく、飲み薬だけしか与えません。そのようなことが日常茶飯事です。このような事実があることだけでもご理解下さい。
療護施設とは、補助金をもらっている収容所なのでしょうか。それとも、障害者の人権と生活を守る所なのでしょうか。新聞に載った彩福祉グループの例もありますから、監視の強化を願わずにはおれません。
療護施設、それも地方では、監視の目が届きませんから、このようなことが当り前のこととして行なわれている現状を知っていただきたいと思います。
昭和の時代に創設されたこの療護施設は、大部屋が多く、プライバシーは当然のようにありません。平成の時代になると、個室か2人部屋でないと国の認可がなかなか下りませんので、個室と2人部屋になっています。リハビリ等が行なわれているとは口ばっかりで、そのようなことはほとんど行なわれていません。
この施設に介護福祉士が数名おり、その人たちは毎月、ある入所者の家族から現金封筒を受け取っています。そして、贈る人の待遇とそうでない人とは大きな違いです。「もらってどこが悪い?」と言うような人たちばかりなのです。
施設側へ知れるとまずいのですが、グチとでも告発文とでも思われて下さいませ。ここは福祉法人なのに、営利目的のためだけで福祉のかけらも感じられません。ざっとではありますが、療護施設の現状を書いてみました。
お元気で、さようなら。

〈手紙その2〉

梅雨の候ですが、いかがお過ごしでしょうか。ここで絵を描いていた筋ジスの若者が「個室から2人部屋へ移れないか」と職員に言われたので、「2人部屋では絵が描けません」と言うと、「そんなら描くな!」と叱られ、ここの施設を出ることになりました。
他の施設では、何かすることに協力的なところもあれば、そうでないところもあることをみなさんに分かって欲しいのです。
ここの施設で絵を描く人などは他にいません。個室にいる人はすべてテレビを見るだけで一日を過ごしています。だから、事件はただの嫌がらせにしか過ぎません。
今でも私のところにも嫌がらせに来るので、そのことで夜も眠れなくなります。ここの施設では、いつも死んだふりをしていないと生きていけないようです。
病気で高熱が出ても、2週間以上も知らんふり。亡くなられたら、すぐに次の人を入れようとします。早め早めに病院へ連れて行けば、もっと長生きできる人を何人も殺していると言っても過言ではない世界です。
そんなことから、なかなか外へ出ることは叶わないのに、2年に1度しか来れない身内に郵便の投函を頼めと言われているのですから、そりゃもう無茶です。
今日、検診があり、血圧は、上が70、下は52でした。貧血でも起きなければならず、視力もありません。寝れば、もっと見えるのですが。
匿名希望<次回へつづく>

中島さんの本


短歌


謹啓 お元気ですか。最近作の短歌です。お風邪など召されませんよう。




<夜明けの闇>


施設とは天文台じゃあるまいし
山坂道をのぼってゆく
梅雨に入り今度のヘルパーさんたちは
いい人だけどときめかない
粗相してヘルパーさんがくるまでの
夜明けの闇がもっとも深い
つくづくと犬はどうして人間を
信じてくれるのだろうあんなにも
淋しいと動物って死んじゃうんだよ
ひなの嬢の好きそうなセリフ
銭(せん)の落ちておらんろうかと
うつ向いて歩いた母に小遣いをやる
笑われているような気がしてみれば
お山はすでに若葉に青葉
ぱっと見てハゲが一人もいないような
集まり眉に唾をしてゆく
いちめんの菜の花畑れんげ畑
ダム事務所から植えさせられて
思慕となるいつも笑っている人の
笑っていない顔を見てから
飲んでいて電動車いすのまま
小一時間も居眠りしてしまう
尿コップ代わりの空き缶ひろっても
ひろっても尽きる心配はない
百年後もなくなっていないものの一つに
スカートが入っていてほしい
パソコンを起ちあげるこのしばらくに
心の墨をすっている
プライドの高い者にはつとまるまい
夏ミカンの皮を口でむくとき
快楽の性を禁ずるという教え
なにやら憲法第九条のよう
懲らしめられつづけねばならぬわけでも
あるかのように台風がくる
台風はきらいではない車いすなど
なぎ倒されそうになりながら
どうしたら世界がぜんたい幸福に
などと口走りそうになる
一度っきりの人生だから云々と
言う者たちのみだりがわしさ
昼寝から覚めてしばらく妻と子が
いないことに首をひねりつづける
青春とはつねに克服しなければ
ならない何か大楠のこぶ
(きんもくせい四号)他から




本の紹介

向坊弘道著『アミダ仏の源流をたずねて—車イスの旅100日』樹心社、1998

本向坊さんの6作めの著書が発行されました。購入を申し込みましたが、なかなか届きません。そこへ樹心社の亀岡社長さんから寄贈本が届きました。さっそく読み始めました。2晩で読み終え、向坊さんとはなんと大きな人物かとあらためて実感しました。

「車イスの旅」は今、珍しくありません。でも向坊さんの旅は通常の観光目的ではなく、本の帯にあるように、「車イスの人でも80歳の老人でも無事にお釈迦さまの跡をたどりながらアミダ仏の話が聞けるような旅をみつけようと奮い立つ」旅でした。その目的を実践してしまうすごさがこの本からありありと伝わってきます。
「インドを旅すると、人生観が変わる」と良く言われます。私も3年前インド・ネパールを旅して痛感しました。しかし向坊さんは著書の中で日本人の観光を次のように批判しています。「1万円以上の高級ホテルに泊まる外国人は、地獄的なインド庶民の生活の現実にはまったく触れないと思う。バスの上から貧しいインドを見下すだけという旅行のスタイルが多くなってきている」と。私の旅はまさに批判されたそのスタイルでした。その最高級のホテルでもインドではお湯が満足に出なかったり、歯磨きでさえ、ミネラルウオータを使用する状態でした。
本の中にもありますように、旅先から頻繁にファックスが届きました。臨場感あふれるファックス旅行記は、浜松医大看護学科でも大好評でした。そのファックスを読むたびに心配する対象は不思議なことに頸損の向坊さんではなく、ヘルパーとして同行された太田さんの体調でした。太田さんが「カルカッタで汚い2等車には絶対乗らないと言っていたのが、今回は乗れた」、「恐がってリクシャーに1人で乗れなかったのが、ベナレスでは1人で乗ることができた」、3時間あまり探しても宿泊するホテルが見つからず、さすがの太田さんも涙をみせたようですが、「彼女の人生にとって、インド旅行もまるっきり無駄ではないと思う。旅は人を変える。インドは素晴らしい」という向坊さん。

本書の結びに「100日間の旅費は16回の飛行機代が50万円、食費と宿泊費で50万円、全部で100万円である。これは2人分である」。これはすごい! 私の3年前の旅でも2週間で確か1人30万円以上でした。しかし、ただ金銭上の差を問題にしているわけではありません。ご自身が旅を楽しみながら、「車イスの人でも80歳の老人でも」行ける旅のプランを作ってきた、ここに向坊さんの偉大さを実感しました。
本を読み終えて、向坊さんと親しく交流させていただいていることに今さらながら感動し、感謝の気持ちがこみ上げてきました。
皆さん、ぜひこの本を読んで下さい。そして1人でも多くの人に紹介して下さい。そう願わずにいられない本です。 
1998年12月15日 松井和子


俳句

ゆかたぎの えりあし光り 風はなし
苔むした 名もなき墓や 虫の声
城跡や 人影はなし もずの声 日は落ちて 外灯の下 母子草
叱られて 外灯の下 月見草 あかね空 とんぼいずこえ 帰るやら
あかね空 とんぼいずこえ 帰るやら 不可思議に 今生きるなり 彼岸花
空青く 野仏のあぜ 彼岸花 君思ふ 車窓のもみじ 流れゆく
渓谷や 色とりどりの 冬仕度 犬引いて 薄の土手に あかね雲
舞う風に 身をまかせるや 尾花かな 参道の コスモスをつむ 罪をしる
せせらぎに コスモスの花 たなびいて 重陽の まわたのしずく 香るなり
遠くより 長壽を願う 菊の酒 こもれ日や 山ゆり赤く 岩の上
秋めいて 潮騒寒し 夢のあと 校庭に 日はかんかんと きりぎりす
虫かごや 机の上の せみしぐれ 縁側で 枯葉と遊ぶ 親子猫
日をあびて 枯葉の上の お弁当 ふみきりの 点滅に降る しぐれかな
しぐれ降る ぬれるネオンの 水たまり 草刈りの 匂ふ大地に 萩の花
背のびする 体の先に 秋の空 十六夜の 祭りばやしに
          山車(やま)はわく
温泉の ゆげにただよう 紅葉かな
Lucena City, Philippines. : ST



★★ ひとくちインフォメーション ★★

◆ バンクーバのKUさんから ◆ クリストファー・リーブの著書「Still Me」が「車イスのヒーロ」というタイトルで翻訳が昨年末出版されました。もう読まれた方も多いのではないでしょうか。
新年早々、バンクーバの上野さんからリーブ主演のサスペンスドラマのビデオテープが送られてきました。早速拝見させて貰いました。ベンチレータ付き電動車イスの主人公がリーブです。発声も以前にくらべ非常になめらかになりましたし、表情も豊かです。一流の俳優ですから、当然と言ってしまえばそれまでですが、自身をドラマの主人公にして、演じるとは、藤川景さんではありませんが、「実にたいした男」ですね。
数本コピーを作ります。希望者はそれを順番に観ていただきましょうか。広島の懇親会でも観れるようにしましょう(松井)。

◆ お尋ねしたいことがあります ◆ 北海道の頸髄損傷者から昔の尿瓶を探して欲しいと頼まれました。現在、販売されているガラスの尿瓶は、口の部分の長さが7cmくらいなので、使いにくいそうです。
14cmくらいの長さのガラスの尿瓶を販売しているところ、または作ってくれるところを探しています。
100本作りたいと言う事で都内のガラス屋さんを探したのですが、工芸品を作ってくれる工場ばかりで、ありませんでした。ご存知でしたら、ぜひ教えて下さい。---可山優零 kayama@mtb.biglobe.ne.jp

◆ お聞かせください ◆ 皆さんおめでとうございます。C5/21年目です。せんそくが原因なのか、車椅子のステップに足を乗せると冷汗で、足の裏には血マメができてしまいます。足をベッドに乗せたり、足首を運動すると一時的に冷汗が止まります。
今年はアキレス腱の一部分切除しようと思っていますが、オペした方がいたらその後の経過などをお聞かせ下さい。---神奈川県 SIiwata@webtv.ne.jp

◆ 長電話割引サービス ◆ NTTは、首都圏において提供中の市内長電話割引サービス「タイムプラス」を、全国に拡大することと、ISDN用の同サービス「INSタイムプラス」を全国一斉に開始する。タイムプラスは、定額料金(一般電話200円/月、ISDN350円/月)を払うことで、昼間・夜間3分10円の通話料金が5分10円に、深夜・早朝4分10円の通話料金が7分10円になる割引サービス。首都圏では2月から実施されていたものを拡大し、さらに全国一斉にISDNに対応したタイムプラスも提供することになる。
テレチョイスやテレワイズ、テレホーダイなどと一つまで同時契約も可能。実施は郵政大臣の認可申請を受けたあと、11月上旬からの予定。テレホーダイ適用時間外にインターネットを利用している人や、夜間インターネットを利用していてもテレホーダイには加入しないという人にはありがたいサービスだろう。---福岡県Ffujita-t@try-net.or.jp



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