人工内耳装用者からの声 −自助活動の一環として− 小木保雄 Yasuo OGI 人工内耳友の会ACITA会長 【Johns, 20巻1号(2004年1月)より東京医学社の許可を得て転載】 はじめに "人工内耳友の会ACITA"(以下、ACITAと略す)は、人工内耳の埋め込み手術を受けた方々の交流と親睦をはかるとともに、医療や機器関係者などとの協力により、人工内耳使用技術の向上発展を目的として、1988年春に発足。ACITAは、アシタ(明日)と読む。これはAssociation of Cochlear Implant Transmitted Auditionの頭文字をとったもので、"人工内耳を介した聞こえの集い"という意味。また日本語の"明日"には未来への希望という意味もあり、会員の明るい未来を願って名付けた。 ACITAでは、人工内耳を正しく知っていただく活動の一環として、これまでに、人工内耳装用者の実態調査を3回実施し、期待値や予測値ではない、人工内耳の実情情報を発信している。1回目は、1993年8月に実施し122名、2回目は、1996年1月に実施し314名、3回目は、2002年2月に実施し1,068名の装用者にご協力を得た。 本誌は、"耳鼻咽喉科・頭頸部外科"という副題から察して、読者の大半は、病院関係者や、耳鼻咽喉科・頭頸部外科の医師かと思われるので、ACITAが3回目に行った実態調査のまとめから、人工内耳の埋め込みを受けた者の、病院関係者などに対する、あらゆる要望・苦情(無理難題・罵署雑言とも言う?)を掲げるので、難聴者や失聴者の感じ方や心理状態を察していただきたい。 実態調査では、手術病院やリハビリ施設に対するご意見やご希望を求め、補足として、「直接ではなかなか言いにくいこともあるかも知れません。この際、希望、疑問、苦言、注文、何でも気になっていることを書いて下さい」としたところ、359件の回答が寄せられ、323項目に分類できた。 図1は、その分類結果をグラフ化したものだが、具体的な要望内容は膨大ですべての掲載はできないので、抜粋を掲載する。 実態調査書の要望や苦情 1.リハビリに関して 1) やっと会話が上手くできるようになった矢先、新しい音にしようかと言われ変更したが、音入れ時以下の音でショック。リハビリの度に音が変わり、もうリハビリには行きたくない。 2) 調整をする度に聞こえが悪くなり落ち込んでいる。適切なマップであってこその人工内耳。STは使命の重さを考えて欲しい。 3) ST不足か予約時間が過ぎてもなかなか自分の番にならない。われわれにも予定があるので守って欲しい。 4) リハビリの時問を、もっとゆっくりとって貰いたい。いつも時間を気にし、焦りながらのマップ調整が気になる。 5) リハビリの部屋が物置のような状態では落ち着かない。1対1だから小さくていいので、もっときれいな部屋にして欲しい。 6) リハビリをもっと体系的にし、今のリハビリはどの辺に来ているのかを知りながらやりたい。 7) リハビリ室は静かで、非日常的な空間。そこから日常に帰った時に、聞こえがおかしくなっているのに気づくことが多い。 8) 個人リハビリは毎回、単調な「あ」「い」「う」の繰り返し。いくら基本と言っても、もっと意欲的になれる内容が欲しい。 9) 同じ中途失聴でも、字が読めない子供に大人と同じ対応は納得がいかない。 10) 専門医による心のケアが欲しい。 11) 病院は手術をしたきりでリハビリは月1回あれど、マップを変えることのみ。手術をするからには術後のケアの体制を作って欲しい。STも素人レベルで頼りない。
1) リハビリは近くの病院で受けたい。 2) 手術を受けた病院に行くのに2日掛り。近くの病院に手術医が移動しており、その病院でもリハビリができれば、経済的、体力的にも楽なのだが。 3) 80歳代なので、近くの病院でリハビリを受けたいと手術病院に申し出たが許可されない。 4) 手術病院が遠方で加齢とともにリハビリに行くのが大変。近くの病院に替われないか。
1) STは、聾学校との連絡を密にし、指導法の違いなどを話し合って欲しい。 2) マップの管理は手術病院で、リハビリは難聴児通園施設でやっているが、双方のSTがもっと連携しあって欲しい。 3) もう少し、その子その子の性格や性質を把握して、的確なリハビリを考えて欲しい。 4) リハビリは、母も子も勉強の場となるので、回数を増やして欲しい。 5) 言語習得前の幼児に対する手術を積極的にサポートして欲しい。そのための啓蒙と、幼児専門のSTを養成して欲しい。 6) 子供(幼児)に口を隠してのリハビリは正しくないと思う。それより口を見せてていねいな聞き取りをやるべきではないか。 7) 手術病院はリハビリ施設に対し、装用児への注意や説明を緊密にして欲しい。 8) 小児のリハビリはとても難しい。子供の様子が一番わかっている聾学校の先生がSTと話し合ってしてくれるのがいいと思う。 9) 人工内耳専門のリハビリ施設の設立を望む。聾学校と違う方法でリハビリが受けられたらいいと思う。小さな子供は特に耳から聞く習慣が大事。手話をつけるとそれに頼って、せっかく聞こえても言葉より先に手話でとなってしまう。 10) 健聴の子の中での刺激も大切だし、自分が話さないと相手に通じないことがわかれば、話すようになる。 11) 待合室におもちゃがたくさんあり過ぎて、何をしに来たのかわからなくなる。 12) 幼児の場合、術後のリハビリが大切だが、病院に幼児まで扱えるSTが不足している。 13) 聾学校に"人工内耳クラス"を設置し、普通学校への橋渡しをして欲しい。
1) STが替わると、音の聞こえも違うので替わらないで欲しい。 2) STのヒステリックな対応は困る。 3) STの技術によってマッピングの結果が左右されるので、早期の技術確立を。 4) STの技術不足で適切なマップが得られないことがあるので、他病院でもマップを作れるようにして欲しい。 5) STは、人工内耳に関する情報開示を積極的にして欲しい。 6) STは多忙過ぎる。これではゆとりのないリハビリになる。 7) リハビリ施設は人工内耳をもっと勉強して理解し、指導に取り組んで欲しい。 8) 専属のSTがいない。リハビリの予約をとるのに1ヵ月先の状況。手術病院には人内耳外来を作るべき。STの必要性を耳鼻咽喉科医も病院もあまり理解していない。
1) スタッフは大勢の装用者を相手にしているが、装用者の中には遠地から来ている人もいるので、もう少ていねいに話を聞き、悩んでいる装用者に助言をして欲しい。 2) 手術前、すでに装用している方と意見交換の場が必要。 3) 術前にSTや主治医に人工内耳の疑問や質問をあるだけして随分答えて貰ったが、MRIの検査ができないなど、後になって知らないことが多く残念。 4) 人工内耳で聞こえるようになるなどのプラス面ばかりでなく、MRIや電気メスの種類に制限があることや、電話が難しいなどのマイナス面の説明も必要。
1) 人工内耳の効果を上げるには、家庭と病院とSTの協力がなければ無理だ。信頼できる先生方に出会えて本当に良かった。
1) マイクで早口の呼び出し方法を改善して欲しい(区役所では呼び出しに、手に振動器を持たせ知らせてくれる)。 2) 医師はSTに比べて難聴者に対する理解が低いと思う時がある。 3) 口の動き小さい医師がいて、話がよくわからない。医師も"話し方"を勉強して貰いたい。 4) 高い立場での物言いが多いので、装用者の人格尊重に意を払って欲しい。 5) 耳鼻咽喉科は聞こえない人も受診する科。聞こえない人はマイクで呼ばず、顔を見て合図をして欲しい。 6) 筆談は、ゆっくり書いて欲しい。 7) 要約筆記者や手話通訳を常時配置して欲しい。 8) 医療側は、家族よりも患者本人との対話を考えて欲しい。 9) 本人が大人の場合は、家族ではなく本人に話すべき。 10) 手術前、家族がいないと何も話してなかった。医師による説明が不十分。
1) 何の音を聞いても同じように聞こえる。人の声と、はっきりわかるようにはならないものか。 2) 耳掛け型と携帯型を併用しているが、聞こえ方が違って調節できない。 3) 手術して2年弱だが何も聞こえない。音だけでも聞こえて欲しい。
1) 合同リハビリは参加者の娯楽目的になっているので、不必要だと思う。
1) 手術不適格と判断され、他の病院で検査を受けると手術可になる者が多過ぎるので、医師の技術向上を求める。 2) 聞こえがおかしくなったと伝えても「そんなはずはない」と医師に言われるので、結局装用していない。医師やSTにわかって貰えず失望。 3) 入院期間をもっと短縮すべきだ。アメリカでは入院は1日だけという。日本でも1週間位に縮めることはできるはず。 4) 担当医が転勤。替わりの医者も決まっていない、STもどんどん替わり、その度に初めからやり直しで、練習台みたい。
1) リハビリは手術病院に限らず装用者が選べるようにして欲しい。 2) 手術病院以外でもリハビリできるよう、共通なシステムはできないものか。
1) リハビリ施設を充実して欲しい。欧米並みに専門の施設を作って欲しい。 2) 近隣に人工内耳専門のSTがいるリハビリ施設が欲しい。 3) 言語訓練施設をもっと増やして欲しい。病院が遠いため学校を1日休まないといけない。予約しても1〜2ヵ月先になってしまう。 4) 公設のリハビリ施設を作って欲しい。 5) 集中的にリハビリに取り組むには専門施設が必要。現在のように週1回や2〜3週間に1回と間隔が開くとリハビリにならない。
1) 副作用のことや、MRIなどが使用できないことは、手術直前に初めて聞かされた。もっと早く聞かされていれば手術を再考したと思う。
1) 検査時は、検査目的を知らせて欲しい。 2) 手術に当たって、副作用など説明は文章にすべき。 3) 聞こえないから人工内耳を考えているのに、医師達は手話も知らない人ばかり。筆談だけでは不安。 4) 病室近辺に、電話だけでなくファクスも設置して欲しい。 5) 病室のテレビは、文字放送アダプター内蔵のものを設置して欲しい。 6) マップのデータは、装用者本人に渡して欲しい。最近引っ越したため、病院を替えるのにデータのやりとりで苦労。 7) 居住地でも手術ができるようになったが、旧型機種のマップ調整はできないようだ。 8) 故障したらと思うと不安なので、部品は病院で買えるようにして貰いたい。 9) 聞こえが今以上に良くならないとの判断なら、装用者に説明すべきである。 10) 病院は条件の良い人のみ選抜している。誰でも平等に受けられるようにして欲しい。 おわりに 病院関係者も、人工内耳の手術予定者に数多く接し、人工内耳が導入された頃よりは難聴者との会話も上手くなり、筆談の文字も読みやすく、専門用語も少なくなり平易になったように思う。 しかし、1996年1月に行った2回目の結果と、2002年2月に行った3回目の実態調査の結果とを比較する時、言葉や表現の強さはやや違うものの、全体的な要望事項の内容はほとんど変化していないのが、大いに気がかり。 実態調査書の要望や苦情は種々雑多だが、早期に難聴者との会話方法などを定着させ、心を込めて会話をしていただきたいし、リハビリの進め方や施設の在り方などにも、一層のご配慮をいただくよう祈念する。 文献 1)実態調査の要望や苦情の出典: 人工内耳装用者の実態調査書V(人工内耳友の会ACITA発行) |