障害保健福祉施策については、障害のある人の地域における自立した生活を支援する「地域生活支援」を主題に、身体に障害のある人、知的障害のある人及び精神障害のある人それぞれについて、住民に最も身近な市町村を中心にサービスを提供する体制の構築に向けて必要な改正を行ってきた。
平成18(2006)年4月1日に、障害者自立支援法(平成17年法律第123号)が施行され、福祉施設や事業体系の抜本的な見直しを行った。その後、障がい者制度改革推進会議の下の「総合福祉部会」にて取りまとめられた「骨格提言」を踏まえ、障害者自立支援法を障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(以下「障害者総合支援法」という。)とする内容を含む地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律(平成24年法律第51号)が成立した。
また、障害者総合支援法の附則で規定された施行後3年を目途とする見直しを行い、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉法の一部を改正する法律(平成28年法律第65号)が平成28(2016)年5月に成立した。今回の障害者総合支援法の改正では、「障害者の望む地域生活への支援」、「障害児支援のニーズのきめ細かな対応」、「サービスの質の確保・向上に向けた環境整備」を主な柱としている。
「支援費制度」では、身体に障害のある人、知的障害のある人に対し、障害の種類ごとにサービスが提供されており、精神障害のある人は「支援費制度」の対象外となっていたが、障害者自立支援法の施行により、障害の種類によって異なる各種福祉サービスを一元化し、これによって、障害の種類を超えた共通の場で、それぞれの障害特性などを踏まえたサービスを提供することができるようになった。
また、平成25(2013)年度の障害者総合支援法の施行により、障害福祉サービス等の対象となる障害者の範囲に難病患者等が含まれることとなった。制度の対象となる疾病(難病等)については、当面の措置として、難病患者等居宅生活支援事業の対象となっていた130疾病を対象としていたが、難病医療費助成の対象となる指定難病の検討状況等を踏まえ、対象疾病の検討を行い、平成27(2015)年1月1日より151疾病に、同年7月1日より332疾病に、平成29(2017)年4月1日より358疾病に拡大し、その後の指定難病の検討状況等を踏まえ平成30(2018)年4月1日より359疾病に拡大している。
平成30年度の障害福祉サービス等報酬改定(以下「報酬改定」という。)においては、障害種別によって訓練の類型が分かれていた自立訓練(機能訓練、生活訓練)を障害の区別なく利用できる仕組みに改め、利用者の障害特性に応じた訓練を身近な事業所で受けられるようにした。
「支援費制度」では、精神障害に係る一部のサービスなどの実施主体については、都道府県となっていたが、障害者自立支援法施行後は、市町村に実施主体を一元化し、都道府県はこれをバックアップする仕組みに改め、より利用者に身近な市町村が責任を持って、障害のある人たちにサービスを提供できるようになっている。
障害者が自らの望む地域生活を営むことができるよう、「生活」と「就労」に対する支援の一層の充実や高齢障害者による介護保険サービスの円滑な利用を促進するための見直しを行うとともに、障害児支援のニーズの多様化にきめ細かく対応するための支援の拡充を図るほか、サービスの質の確保・向上を図るための環境整備等を行う。
「支援費制度」では、障害種別ごとに複雑な施設・事業体系となっており、また、入所期間の長期化などにより、本来の施設目的と利用者の実態とが乖離している状況になっていた。
そこで、障害者自立支援法では、障害のある人が地域で普通に暮らすために必要な支援を効果的に提供することができるよう、33種類に分かれた施設体系を6つの事業に再編するとともに、「地域生活支援」、「就労支援」のための事業や重度の障害がある人を対象としたサービスを創設するなど、地域生活中心のサービス体系へと再編した。
また、平成22(2010)年12月の障害者自立支援法の一部改正により、平成24(2012)年4月1日から、地域移行支援及び地域定着支援を個別給付化し、障害のある人の地域移行を一層推し進めている。
なお、障害者総合支援法により、平成26(2014)年4月1日から、地域生活への移行のために支援を必要とする者を広く地域移行支援の対象とする観点から、障害者支援施設等に入所している障害のある人又は精神科病院に入院している精神障害のある人に加えて、保護施設、矯正施設等に入所している障害のある人を地域移行支援の対象とすることとした。また、障害のある人が身近な地域において生活するための様々なニーズに対応する観点から、重度の肢体不自由者に加え、行動障害を有する知的障害のある人又は精神障害のある人を重度訪問介護の対象とすることとした。
地域生活への移行を進めていくため、障害者自立支援法では、24時間同じ施設の中で過ごすのではなく、障害のある人が、日中活動と居住の支援を自分で組み合わせて利用できるよう、昼のサービス(日中活動支援)と夜のサービス(居住支援)に分け(昼夜分離)、障害のある人が自分の希望に応じて、複数のサービスを組み合わせて利用できるようにした。
また、この昼夜分離によって、入所施設に入所していない障害のある人も、入所施設が実施する日中活動支援のサービスを利用することができるようになった。
障害者自立支援法における日中活動支援については、以下のように再編され、現在の障害者総合支援法でも同じ体系をとっている。
平成28(2016)年の障害者総合支援法の一部改正では、地域生活に移行する際の受け皿となるグループホームを利用する障害者数や就労移行支援事業所又は就労継続支援事業所から一般就労に移行する障害者数の増加に伴い、新たなサービスを創設した(平成30(2018)年4月施行)。
障害のある人の身近なところにサービスの拠点を増やしていくためには、既存の限られた社会資源を活かし、地域の多様な状況に対応できるようにしていく必要がある。
このため、通所施設の民間の運営主体については、社会福祉法人に限られていたが、これを特定非営利活動法人、医療法人等、社会福祉法人以外の法人でも運営することができるように規制を緩和した。
障害のある人が地域で自立した生活を送るための基盤として、就労支援は重要であり、一般就労を希望する人には、できる限り一般就労が可能となるように支援を行い、一般就労が困難である人には、就労継続支援B型事業所等での工賃の水準が向上するように支援を行ってきている。就労系障害福祉サービスから一般就労への移行者数は10.5倍に増加(平成15(2003)年度1,288人→平成28(2016)年度13,517人)し、就労系障害福祉サービスの利用者は3.3倍に増加(平成15年度97,026人→平成28年度322,254人)している。
平成24(2012)年度からは「工賃向上計画」を策定することにより、工賃向上に向けた取組を進めている。この「工賃向上計画」では、コンサルタントによる企業経営手法の活用や共同受注の促進など、これまでの計画でも比較的効果のあった取組に重点を置いて取り組むとともに、個々の事業所ごとに「工賃向上計画」を作成することを原則とし、共同受注を進める観点から都道府県と関係団体の間の連携を強化するなど、取組の強化を図っている。また、特別な事情がない限り、個々の事業所における「工賃向上計画」を作成し、事業所責任者の意識向上、積極的な取組を促し、都道府県の計画では、官公需による発注促進についても、目標値を掲げて取り組んでいる。さらに、地域で障害のある人を支える仕組みを構築することが重要であることから、市町村においても工賃向上のための取組を積極的に支援するよう協力を依頼している。
「支援費制度」では、支給決定に際して全国共通の利用ルール(支援の必要度を判定する客観的基準)が定められていなかったことから、同じような障害状態にあっても市町村が決定するサービスの種類や量には、地域格差が生じているとの指摘がされていた。このため、障害者自立支援法では、支援の必要度を判定する障害程度区分を導入した。
また、知的障害のある人や精神障害のある人等の特性に応じて適切に支援の必要度を判定できるよう、障害者総合支援法では障害程度区分を障害の多様な特性その他の心身の状態に応じて必要とされる標準的な支援の度合いを総合的に示す「障害支援区分」に改め、平成26(2014)年4月から施行されている。
障害者総合支援法における介護給付費等の支給決定を行うに当たっては、まず市町村が事前に障害のある人の面接調査を行い、その調査を基に障害支援区分の一次判定が行われ、さらに障害保健福祉の有識者などで構成される審査会での審査(二次判定)を経て、障害支援区分の認定が行われる仕組みなどとなっており、支給決定に係るプロセスの透明化が図られている。
また、この支給決定に係るプロセスは、障害支援区分に加え、障害のある人一人一人の心身の状況、サービス利用の意向、家族の状況などを踏まえて相談支援専門員等が作成したサービス等利用計画案を勘案して、適切な支給決定が行われるようにしている。
「支援費制度」においては、居宅サービスに関する部分の費用については、国はその費用の一部を予算の範囲内で補助する仕組みとなっていたが、制度を安定的かつ継続的に運営するために、障害者自立支援法の施行以降は、国が義務的にその費用の一部を負担する仕組みとした。(具体的には、国は費用の2分の1、都道府県は費用の4分の1を義務的に負担。市町村は費用の4分の1を負担。)これにより、当初の予算の範囲を超えて居宅サービスの利用が急増したとしても、国及び都道府県は義務的に費用の一部負担を行うこととし、障害のある人が安心して制度を利用できるような形となった。
障害者自立支援法の施行以降は、サービスの利用者も含めて皆で制度を支え合うため、国の費用負担の義務づけと併せて、利用者については、所得階層ごとに設定された負担上限月額の範囲内で負担することとした。
また、これに加えて、所得の少ない人については、個別減免の仕組みを設けるなど利用者負担の軽減措置を講じた。
施設を利用した場合などにかかる食費・光熱水費などの実費負担については、在宅で生活をしていたとしてもこれらの実費負担は生じるものであることから、施設と在宅の費用負担の均衡を図るために、自己負担とした。ただし、所得の少ない人については、食費に係る実費負担額が食材料費のみの負担となるよう軽減措置を講じた。
その後、平成19(2007)年4月に行われた特別対策や、平成20(2008)年7月に行われた緊急措置において、低所得の障害のある人等を中心とした利用者負担の更なる軽減、障害のある子供のいる世帯における軽減対象範囲の拡大、負担上限月額を算定する際の所得段階区分の個人単位を基本とした見直し等の軽減措置を講じた。また、平成21(2009)年7月より、軽減措置を適用するために設けていた「資産要件」の廃止や、「心身障害者扶養共済給付金」の収入認定からの除外といった更なる軽減措置を講じた。
さらに、平成22(2010)年4月から低所得(市町村民税非課税)の障害のある人等につき、福祉サービス及び補装具にかかる利用者負担を無料としている。
平成22年の障害者自立支援法の一部改正では、障害のある人の地域移行を促進するため、障害のある人が安心して暮らせる「住まいの場」を積極的に確保していくことを目的に、グループホーム等の居住に要する費用を助成する制度を創設した(平成23(2011)年10月施行)。また、利用者負担について、応能負担を原則とすることを法律上も明確にするとともに、障害福祉サービス等と補装具の利用者負担額を合算し、負担を軽減する仕組みを導入した(平成24(2012)年4月施行)。
平成28(2016)年の障害者総合支援法の一部改正では、障害福祉サービスを利用してきた人が、65歳に達することにより介護保険サービスに移行することによって利用者負担が増加してしまうという事態を解消するため、一定の要件を満たした高齢障害者については、障害福祉サービスに相当する介護保険サービスを利用する場合の利用者負担(原則1割)をゼロにするという措置を講じた(平成30(2018)年4月施行)。
障害者総合支援法及び児童福祉法(昭和22年法律第164号)では、障害のある人に必要なサービスが提供されるよう、将来に向けた計画的なサービス提供体制の整備を進める観点から、障害福祉サービス及び相談支援並びに市町村及び都道府県の地域生活支援事業の提供体制の整備並びに自立支援給付及び地域生活支援事業の円滑な実施を確保するための基本的な指針(平成18年厚生労働省告示第395号)(以下「基本指針」という。)に即して、市町村及び都道府県は、数値目標と必要なサービス量の見込み等を記載した障害福祉計画及び障害児福祉計画を策定することになっている。
平成29(2017)年3月には、社会保障審議会障害者部会での議論を経て、平成30(2018)年度から平成32(2020)年度までの3年間の計画の策定のため、基本指針の改正を行ったところである。改正の主なポイントとしては、次のとおり。
地域のあらゆる住民が「支え手」と「受け手」に分かれるのではなく、地域、暮らし、生きがいをともに創り、高め合うことができる「地域共生社会」の実現に向けた取組等を計画的に推進することを定める。
精神障害のある人が、地域の一員として安心して自分らしい暮らしをすることができるよう、精神障害(発達障害及び高次脳機能障害を含む。)にも対応した地域包括ケアシステムの構築について定める。
児童福祉法に障害児福祉計画の策定が義務づけられたこと等を踏まえ、以下の柱を盛り込み、障害児支援の提供体制の確保に関する事項等を新たに定める。
発達障害者支援法の一部を改正する法律(平成28年法律第64号)の施行を踏まえ、発達障害のある人の支援の体制の整備を図るため、発達障害者支援地域協議会の設置の重要性等について定める。
施設入所者の高齢化、重度化を踏まえ、
「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」の議論を踏まえ、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築を目指して、成果目標を次のとおり設定する。
各市町村又は各都道府県が定める障害福祉圏域において、平成32(2020)年度末までに、障害のある人の地域での生活を支援する拠点等を少なくとも一つ整備することを基本とする。
※市町村単位での設置・確保が困難な場合には、圏域での設置・確保であっても差し支えない。
都道府県、市町村においては、この基本指針に即して、平成29年度中に、平成30年度からの計画を作成するとともに、計画に盛り込んだ事項について、定量的に調査、分析、評価を行い、障害福祉施策を総合的、計画的に行っていくことが求められる。
障害のある人や障害のある児童の親に対する一般的な相談支援については、障害者自立支援法により、平成18(2006)年10月から、障害種別にかかわらず、事業の実施主体を利用者に身近な市町村に一元化して実施している。また、市町村における相談支援事業の機能を充実・強化するため、平成18年10月から住宅入居等支援事業を、平成24(2012)年4月から基幹相談支援センター等機能強化事業を、それぞれ地域生活支援事業に位置づけている。
また、指定特定相談支援事業所及び指定障害児相談支援事業所に配置されている相談支援専門員がサービス等利用計画又は障害児支援利用計画を作成することにより、障害のある人や障害のある児童の親が障害福祉サービス等を適切に利用することができるよう支援を行っており、平成27(2015)年4月からは、支給決定前の全ての障害児者が、障害児支援利用計画又はサービス等利用計画を作成することとしている。
さらに、平成30(2018)年度の報酬改定では、利用状況の適切な把握と適正なサービス量の調整が可能となるよう、標準モニタリング期間の一部を見直してモニタリング頻度を高めることとしているほか、相談支援専門員が質の高い支援を実施した場合に、その専門性と業務負担を適切に評価する加算(「サービス提供モニタリング加算」等)を創設している。このほか、厚生労働省では、障害のある人の支援体制のさらなる充実を図るため、平成30年度から、地域における相談支援等の指導的な役割を担う主任相談支援専門員の養成等を行うこととしている。
広域・専門的な支援や人材育成については、都道府県の地域生活支援事業の中で、都道府県相談支援体制整備事業、高次脳機能障害及びその関連障害に対する支援普及事業、発達障害者支援センター運営事業、障害者就業・生活支援センター事業、障害児等療育支援事業、相談支援従事者研修事業等を実施し、市町村をバックアップしている。
都道府県においては、市町村に対する専門的な技術支援、情報提供の役割を担っている更生相談所等が設けられており、それぞれの施設が担う相談支援内容に合わせて、身体障害者相談員、知的障害者相談員、児童に関する相談員及び精神保健福祉相談員を配置している。設置状況は、身体障害者更生相談所(平成29(2017)年4月現在77か所)、知的障害者更生相談所(平成29年4月現在86か所)、児童相談所(平成29年4月現在210か所)、精神保健福祉センター(平成29年4月現在69か所)となっている。
国においては、市町村の区域で生活に関する相談、助言その他の援助を行う民生委員・児童委員を委嘱している。
全国の法務局・地方法務局及びその支局等において、人権擁護委員や法務局職員が障害のある人に対する差別、虐待等の人権問題について、面談・電話による相談に応じている。また、社会福祉施設や市役所などの公共施設・デパート等において特設の人権相談所を開設しているほか、法務省のホームページ上でも人権相談の受付を行っている。加えて、人権相談で虐待等人権侵害の疑いのある事案を認知した場合は、人権侵犯事件として調査を行い、事案に応じて、人権侵害による被害の救済・予防のための適切な措置を講じている。
保健所、医療機関、教育委員会、特別支援学校、ハローワーク、ボランティア団体等においても、相談支援が行われている。
障害等により自立が困難な矯正施設入所者について、出所後直ちに福祉サービスを受けられるようにするため、刑務所等の社会福祉士等を活用した相談支援体制を整備するとともに、「地域生活定着支援センター」を全国の各都道府県に整備している。同センターは、矯正施設、保護観察所並びに地域の関係機関及び団体と連携して、社会復帰の支援を行っている。
また、帰住先が確定しないなどの理由により出所後直ちに福祉による支援が困難な者について、更生保護施設への受入れを促進し、福祉への移行準備及び自立した日常生活のための訓練等を実施している。
認知症、知的障害又は精神障害などのため判断能力の十分でない人を保護し支援するための成年後見制度について、パンフレットの配布や法務省ホームページ上のQ&A掲載など、制度周知のための活動を行っている。また、障害福祉サービスを利用し又は利用しようとする重度の知的障害のある人又は精神障害のある人であり、助成を受けなければ成年後見制度の利用が困難であると認められる場合に、申立てに要する経費及び後見人等の報酬の全部又は一部について補助を行うため、成年後見制度利用支援事業を実施しており、平成24(2012)年度から市町村地域生活支援事業の必須事業に位置付けている。
平成29(2017)年4月1日現在で1,485市町村(85%)が実施しており、今後とも本事業の周知を図ることとしている。
また、障害者総合支援法では、平成25(2013)年度から、後見、保佐及び補助の業務を適正に行うことができる人材の育成及び活用を図るための研修を行う事業について、成年後見制度法人後見支援事業を地域生活支援事業として市町村の必須事業に位置づけたほか、指定障害福祉サービス事業者等の責務として、障害のある人等の意思決定の支援に配慮し、常に障害のある人の立場に立ってサービス等の提供を行うことを義務づけている。
日常生活自立支援事業は、認知症高齢者、知的障害のある人、精神障害のある人等のうち必ずしも判断能力が十分でない人が、地域において自立した生活を送ることを支援するため、福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理に関する援助等を行う事業として、都道府県・指定都市社会福祉協議会を実施主体とし、事業の一部を委託された市区町村社会福祉協議会等により実施されている。本人からの申請は少なく、周囲の専門職等が必要と判断して利用に至る場合が多いことが特徴である。利用者の判断能力の低下等により、成年後見制度へ移行する者が増加しており、単身世帯の増加により、成年後見制度への移行のための支援も必要とされている。108平成28(2016)年4月から平成29年3月までの実施状況は、本事業に関する相談件数が延べ1,904,734件、本事業の利用契約を締結した人が11,849人(平成29年3月末現在の本事業の実利用者数は51,828人)となっており、今後とも本事業の一層の定着を図ることとしている。
また、成年後見制度の利用の促進に関する法律(平成28年法律第29号)に基づき、「成年後見制度利用促進委員会」における議論を踏まえて策定された「成年後見制度利用促進基本計画」(平成29年3月24日閣議決定)に沿って、成年被後見人の財産管理のみならず意思決定支援・身上保護も重視した適切な支援に繋がるよう、利用者がメリットを実感できる制度・運用の改善や権利擁護支援の地域連携ネットワークづくりなどの成年後見制度の利用促進に関する施策を総合的・計画的に推進している。併せて、成年後見制度の利用の促進に関する法律に基づく措置として、成年被後見人及び被保佐人(以下「成年被後見人等」という。)の人権が尊重され、成年被後見人等であることを理由に不当に差別されないよう、成年被後見人等に係る欠格条項その他の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための措置を講ずる「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律案」を平成30(2018)年3月に閣議決定し、国会に提出した。
(なお、財産管理については、後述の「3.経済的自立の支援(2)個人財産の適切な管理の支援」を参照。)
高齢者及び障害者の消費者トラブルの防止等を目的とし、障害者団体のほか高齢者団体・福祉関係者団体・消費者団体、行政機関等を構成員とする「高齢消費者・障害消費者見守りネットワーク連絡協議会」を平成19(2007)年から開催し、109消費者トラブルに関して情報を共有するとともに、悪質商法の新たな手口や対処の方法などの情報提供等を行う仕組みの構築を図ってきた。
平成29(2017)年3月に開催した「第13回高齢消費者・障害消費者見守りネットワーク連絡協議会」では、「高齢者、障害者の消費者トラブル防止のため積極的な情報発信を行う」こと、「多様な主体が緊密に連携して、消費者トラブルの防止や「見守り」に取り組む」こと等を申し合わせた。国民生活センターでは、障害のある人やその周りの人々に悪質商法の手口やワンポイントアドバイス等をメールマガジンや同センターホームページで伝える「見守り新鮮情報」を発行するとともに、最新の消費生活情報をコンパクトにまとめた「2018年版くらしの豆知識」のデイジー版を作成し、全国の消費生活センター、消費者団体及び全国の点字図書館等に配布した。
なお、悪質な手口により消費者被害にあった等として、全国の消費生活センターや国民生活センターなどに寄せられた「認知症高齢者、障害のある人等の相談件数」は、平成20(2008)年度から平成25(2013)年度にかけ年々増加し、平成26(2014)年度以降も依然として高水準で推移している。
こうした状況のもと、国民生活センターでは、「消費生活センターにおける障がい者対応の現況調査」を実施し、平成30(2018)年1月に結果報告書を公表した。調査結果では、契約当事者や相談者の障害の種類として「精神障害」や「知的障害」が多く、相談内容の聞き取りや意思疎通などに関して相談対応上の課題があることが明らかになった。
また、消費者庁では、平成29年度に障害者の消費行動・消費者トラブルの実態を把握するため、徳島県及び岡山県の協力を得て、「障がい者の消費行動と消費者トラブルに関する調査」を実施し、平成30年3月に報告書を取りまとめ公表した。その結果、障害者は全体的に買物好きな人が多く、他方で比較的多くの消費者トラブルに直面している可能性が示唆された。
消費者トラブルの防止及び被害からの救済については、地方消費者行政推進交付金等を通じ、被害に遭うリスクの高い消費者(障害者、高齢者、被害経験者等)を効果的・重点的に地域で見守る体制を構築し、消費者トラブルの防止及び早期発見を図る取組等を支援するとともに、障害者の特性に配慮した消費生活相談体制整備を図る取組等を促進している。
加えて、平成28(2016)年4月から施行された平成26年改正消費者安全法では、地域社会における高齢者・障害者等の見守りネットワークの構築のため、地方公共団体において消費者安全確保地域協議会を設置できることが盛り込まれており、地方公共団体向けの説明会等を行った。また、消費者安全確保地域協議会を設置した地方公共団体の先進的事例を収集し、公表を行う等、各地域における見守りネットワークの設置が促進されるよう取り組んだ。
全体 | ||||||
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全体 | 件数 | 男性 | 件数 | 女性 | 件数 | |
1 | フリーローン・サラ金 | 2,678 | フリーローン・サラ金 | 1,521 | フリーローン・サラ金 | 1,103 |
2 | 新聞 | 1,397 | 電話情報提供サービス | 839 | 新聞 | 910 |
3 | 電話情報提供サービス | 1,256 | 新聞 | 444 | 商品一般 | 655 |
4 | 商品一般 | 1,097 | 移動電話サービス | 420 | 他の健康食品 | 502 |
5 | 移動電話サービス | 657 | 商品一般 | 383 | ふとん | 493 |
6 | 他の健康食品 | 644 | オンライン情報サービス | 247 | 浄水器 | 413 |
7 | ふとん | 612 | 会社生命保険 | 209 | 電話情報提供サービス | 393 |
8 | 浄水器 | 581 | 浄水器 | 154 | 健康食品(全般) | 372 |
9 | 健康食品(全般) | 506 | 普通・小型自動車 | 151 | 修理サービス | 234 |
10 | 会社生命保険 | 440 | 賃貸アパート | 146 | 移動電話サービス | 227 |
全体 | ||||||
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全体 | 件数 | 男性 | 件数 | 女性 | 件数 | |
1 | フリーローン・サラ金 | 7,259 | フリーローン・サラ金 | 4,412 | 新聞 | 3,903 |
2 | 新聞 | 5,968 | 新聞 | 1,911 | 健康食品(全般) | 3,860 |
3 | 商品一般 | 4,764 | 携帯電話サービス | 1,905 | 他の健康食品 | 3,277 |
4 | 健康食品(全般) | 4,682 | 商品一般 | 1,766 | 商品一般 | 2,818 |
5 | 他の健康食品 | 4,104 | 出会い系サイト | 1,592 | フリーローン・サラ金 | 2,748 |
6 | 携帯電話サービス | 3,216 | アダルト情報サイト | 1,407 | 出会い系サイト | 1,560 |
7 | 出会い系サイト | 3,173 | 賃貸アパート | 810 | 携帯電話サービス | 1,263 |
8 | アダルト情報サイト | 1,784 | 他の健康食品 | 786 | ファンド型投資商品 | 1,112 |
9 | 賃貸アパート | 1,658 | 健康食品(全般) | 744 | かに | 1,019 |
10 | ファンド型投資商品 | 1,624 | 携帯電話 | 688 | 修理サービス | 911 |
全体 | ||||||
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全体 | 件数 | 男性 | 件数 | 女性 | 件数 | |
1 | フリーローン・サラ金 | 3,369 | フリーローン・サラ金 | 2,107 | 新聞 | 1,847 |
2 | 新聞 | 2,853 | 携帯電話サービス | 1,238 | 他の健康食品 | 1,549 |
3 | 商品一般 | 2,760 | 商品一般 | 1,112 | 商品一般 | 1,544 |
4 | 携帯電話サービス | 2,130 | 新聞 | 931 | 健康食品(全般) | 1,437 |
5 | 他の健康食品 | 1,995 | 光ファイバー | 837 | フリーローン・サラ金 | 1,195 |
6 | 健康食品(全般) | 1,826 | アダルト情報サイト | 638 | 携帯電話サービス | 847 |
7 | 光ファイバー | 1,325 | 出会い系サイト | 599 | 賃貸アパート | 522 |
8 | 賃貸アパート | 1,117 | 賃貸アパート | 560 | 修理サービス | 469 |
9 | 出会い系サイト | 1,001 | 他の健康食品 | 425 | 光ファイバー | 462 |
10 | アダルト情報サイト | 816 | テレビ放送サービス(全般) | 362 | かに | 398 |
障害のある人の尊厳の保持のため障害のある人に対する虐待を防止することは極めて重要であることから、障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(平成23年法律第79号)が平成24(2012)年10月から施行されている。(法律の概要については図表4-10)
厚生労働省においては、障害者虐待の防止に向けた取組として、地域生活支援事業において、地域における関係機関等の協力体制の整備・充実を図るとともに、過去に虐待のあった障害のある人の家庭訪問、障害者虐待防止に関する研修、虐待事例の分析を行う都道府県や市町村を支援している。
さらに、障害のある人の虐待防止・権利擁護や強度行動障害のある人に対する支援のあり方に関して、各都道府県で指導的役割を担う者を養成するための研修を実施している。
障害者に対する虐待が障害者の尊厳を害する者であり、障害者の自立及び社会参加にとって障害者に対する虐待を防止することが極めて重要であること等に鑑み、障害者に対する虐待の禁止、国等の責務、障害者虐待を受けた障害者に対する保護及び自立の支援のための措置、養護者に対する支援のための措置等を定めることにより、障害者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって障害者の権利利益の擁護に資することを目的とする。
※虐待防止スキームについては、家庭の障害児には児童虐待防止法を、施設入所等障害者には施設等の種類(障害者施設等、児童養護施設等、養介護施設等)に応じてこの法律、児童福祉法又は高齢者虐待防止法を、家庭の高齢障害者にはこの法律及び高齢者虐待防止法を、それぞれ適用。
意思決定過程に障害のある人の参画を得て、その視点を施策に反映させる観点から、障害者政策委員会等において障害のある人や障害者団体が、情報保障その他の合理的配慮の提供を受けながら構成員として審議に参画している。
また、障害者総合支援法に基づく地域生活支援事業において、障害のある人等やその家族、地域住民等が自発的に行う活動に対する支援を行う「自発的活動支援事業」を実施している。
障害のある人が地域で普通に暮らしていくためには、在宅で必要な支援を受けられることが前提となる。このため、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)(以下「障害者総合支援法」という。)においては、利用者の実態に応じた支援を行う観点から、利用者像やサービスの提供形態に応じ、居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護及び重度障害者等包括支援を実施している。
居宅介護 …入浴等の介護や調理等の家事の援助等を短時間集中的に行うサービス
重度訪問介護 …常時介護を要する身体に重度の障害のある人、知的障害若しくは精神障害により、行動上著しい困難を有する障害のある人に対し、入浴等の介護や調理等の家事の援助等のほか、日常生活に生じる様々な介護の事態に対応するための見守り等の支援や外出時における移動中の介護を、長時間行うとともに、病院、診療所、助産所、介護老人保健施設又は介護医療院に入院又は入所している一定の要件を満たす障害のある人に対して、意思疎通の支援その他の必要な支援を行うサービス
同行援護 …重度の視覚障害のある人に対し、外出時において同行し、移動に必要な情報を提供するほか、移動に必要な支援等を行うサービス
行動援護 …知的障害又は精神障害により行動上著しい困難を有する障害のある人に対し、居宅内や外出時における危険を伴う行動を予防又は回避するために必要な支援等を行うサービス
重度障害者等包括支援 …著しく重度の障害のある人の様々なニーズに応えて、円滑にサービス利用が可能となるよう、利用者のその時々の心身の状態等に応じて必要となる複数の障害福祉サービスを組み合わせて、包括的に提供するサービス
これらのサービスに加え、自宅で介護する人が病気の場合などに、短時間、夜間も含めて施設において入浴等の介護を行うサービスである短期入所も行っている。
障害のある人が地域で安心して暮らすことができるよう、単身での生活が困難な障害のある人が共同して自立した生活を営む場として、共同生活援助(グループホーム)を位置づけているところである。グループホームでは、日常生活における家事や相談等の支援のほか、利用者の就労先又は日中活動サービス等との連絡調整や余暇活動等の社会生活上の援助を実施している。また、必要な利用者に対しては、食事や入浴等の介護を行うこととしている。なお、平成30(2018)年度の障害福祉サービス等報酬改定(以下「報酬改定」という。)では、常時の支援体制を確保することにより、利用者の重度化・高齢化に対応できるグループホームの新たな類型として「日中サービス支援型指定共同生活援助」を設けた(平成30年4月施行)。
地域生活支援事業における相談支援事業に住宅入居等支援事業(居住サポート事業)を位置づけ、公的賃貸住宅及び民間賃貸住宅への入居を希望する障害のある人に対して、不動産業者に対する物件のあっせん依頼及び家主等との入居契約手続等といった入居支援や、居住後のサポート体制の調整をしている。また、障害のある人が地域の中で生活することができるように、低額な料金で居室などを利用する福祉ホーム事業を実施している。
さらに、障害者支援施設や精神科病院等から地域生活への移行を希望する障害のある人に対して住居の確保等を支援する地域移行支援や、単身で地域生活している障害のある人に対して連絡体制の確保や緊急時の支援を行う地域定着支援を行っている。
障害のある人等の住宅の確保に特に配慮を要する人の居住の安定を確保することは、住生活基本法(平成18年法律第61号)の基本理念の一つであり、その理念にのっとり賃貸住宅の供給促進に関する基本事項等を定めた住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(平成19年法律第112号)に基づき、113以下のとおり公営住宅やそれを補完する公的賃貸住宅の的確な供給及び民間賃貸住宅への円滑な入居の支援等の各種施策を一体的に推進している。
また、住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律(平成29年法律第24号)(以下「改正住宅セーフティネット法」という。)(平成29(2017)年4月26日公布、同年10月25日施行)により、民間賃貸住宅や空き家を活用した住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度等を内容とする新たな住宅セーフティネット制度を創設した。
公的賃貸住宅は、障害のある人の心身の状況、その他の配慮を必要とする事情を勘案し、以下のように供給されている。
公営住宅においては、入居者の募集・選考に際し、障害のある人を含む世帯は特に住宅困窮度が高いものとして、地方公共団体の裁量により一定の上限の下、入居者の収入基準を緩和するとともに、当選率の優遇、別枠選考等の措置を講じている。
地域優良賃貸住宅制度においては、民間事業者等に対し、整備費及び家賃減額のための助成を行い、障害のある人を含む世帯等を対象とした良質な賃貸住宅の供給を促進している。本制度においては、障害のある人を含む世帯について地方公共団体の裁量により別枠選考等の措置ができるものとしている。
また、独立行政法人都市再生機構賃貸住宅においては、障害のある人を含む世帯に対して、入居者の収入基準の緩和、1階又はエレベーター停止階への住宅変更、新規賃貸住宅募集時の当選倍率の優遇等の措置を講じている。
障害のある人を含む世帯等の民間賃貸住宅への円滑な入居を促進するため、地方公共団体、不動産関係団体、居住支援団体等が組織する居住支援協議会や改正住宅セーフティネット法に基づいた居住支援法人が相談・情報提供等、地域の実情に応じた活動を行っているところであり、これらの取組に対する支援を実施している。
また、一般財団法人高齢者住宅財団が実施する家賃債務保証制度の活用を推進し、障害のある人を含む世帯等の民間賃貸住宅への円滑な入居を支援している。なお、家賃債務に加え、原状回復や訴訟に要する費用も保証の対象にしている。
公的賃貸住宅の整備に際して、障害のある人の生活に関連したサービスを備えた住宅を整備するため、障害者福祉施設との一体的な整備を推進するとともに、障害のある人を対象とした住まいづくり・まちづくりに関する先導的な取組についても支援している。
公営住宅については、障害のある人の共同生活を支援することを目的とするグループホーム事業へ活用することができることとしており、公営住宅等を障害のある人向けのグループホームとして利用するための改良工事費について支援している。
また、生活支援サービス付き公営住宅(シルバーハウジング)については、住宅施策と福祉施策の密接な連携の下に供給されているところであり、地方公共団体の長が特に必要と認める場合に、障害のある人を含む世帯の入居を可能とし、その居住の安定を図っている。
さらに、平成30(2018)年度から、既存の公営住宅や改良住宅の大規模な改修と併せて、障害者福祉施設等の生活支援施設の導入を図る取組に対しても支援を行う。
民間賃貸住宅については、居住支援協議会や居住支援法人を活用し、障害のある人を含む世帯等の民間賃貸住宅への円滑な入居を支援している。
また、住宅市街地総合整備事業、優良建築物等整備事業、市街地再開発事業等において、デイサービスセンター、保育所等の社会福祉施設等を整備する場合、一定の条件を満たすものに対し建築主体工事費の一部を補助対象とし、障害のある人等の生活しやすい市街地環境の形成を図っている。(住宅については、第5章第1節も参照)
障害のある人が社会の構成員として地域で共に生活することができるようにするとともに、その生活の質的向上が図られるよう、生活訓練、コミュニケーション手段の確保等の施策を行っている。
平成18(2006)年10月から、市町村及び都道府県が創意工夫によって地域の特性や利用者の状況に応じて柔軟に事業を行う地域生活支援事業を実施し、障害のある人の社会参加と自立支援を推進している。
なお、身体障害者補助犬法(平成14年法律第49号)により、身体に障害のある人が公共的施設や不特定かつ多数の者が利用する施設等を利用する場合において、身体障害者補助犬(盲導犬、介助犬及び聴導犬)の同伴が可能となった。さらに、平成19(2007)年度に身体障害者補助犬法の一部を改正する法律(平成19年法律第126号)が成立し、平成20(2008)年4月から、都道府県等が苦情の申し出等に関する対応をすることが明確化され、同年10月から、一定規模以上の事業所や事務所において、勤務する身体に障害のある人が身体障害者補助犬を使用することを拒んではならないこととされている。
また、都道府県地域生活支援事業において、身体障害者補助犬育成促進事業が実施されている。
国立障害者リハビリテーションセンター自立支援局においては、身体に障害のある人に対して、より充実した社会生活を円滑に送ることを目的とした自立訓練(機能訓練)を実施している。視覚に障害のある人に対しては、歩行、点字、パソコン、調理、ロービジョン(保有視覚機能を最大限に活用するための訓練)等、日常生活や社会生活に必要な訓練を実施している。また、重度の肢体不自由のある人に対しては、医学的管理の下に日常生活に必要な機能回復訓練、日常生活動作訓練、職能訓練等を実施している。
また、同自立支援局においては、高次脳機能障害のある人に対して、自己の障害の理解を深めながら生活能力を高めることを目的とした自立訓練(生活訓練)も実施している。そこでは、個々の生活状況に応じて日常生活訓練やメモリーノート、手順書等を活用した代償手段獲得のための訓練等を行っている。
さらに、同自立支援局秩父学園においては、知的障害があり、行動障害や愛着障害が重複する児童に対して、基本的生活習慣の確立等を目的とした施設支援を実施している。また、在宅の発達障害を有する又は発達が気になる児童・幼児に対する「通園療育事業」を実施するとともに、発達障害の疑いのある3歳までの幼児と家族に対する「地域子育て支援拠点型事業」を実施している。
発達障害者支援法(平成16年法律第167号)において、「発達障害」は、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの等と定義されている。
厚生労働省においては、乳幼児期から高齢期までの一貫した発達障害に係る支援体制の整備、困難ケースへの対応や適切な医療の提供を図るため、地域生活支援事業の「発達障害者支援体制整備事業」の中で、都道府県等が地域支援の中核である発達障害者支援センター等に発達障害者地域支援マネジャーを配置し、市町村、事業所等への支援や医療機関との連携を強化することを推進している。また、厚生労働省では、発達障害者支援法の一部改正を受け、平成29(2017)年度から発達障害のある人やその家族等をきめ細かく支援するために、都道府県等が「発達障害者支援地域協議会」を設置し、市町村又は障害保健福祉圏域ごとの支援体制の整備の状況や発達障害者支援センターの活動状況を検証することを支援している。
発達障害者支援法の一部改正により、発達障害のある人の家族が互いに支え合う活動の支援を促進するため、平成30(2018)年度からは、地域生活支援事業の「発達障害児者及び家族支援等事業」として、115従来から実施しているペアレントメンターの養成やペアレントトレーニング等の実施に加え、発達障害児者の家族同士の支援を推進するため、同じ悩みを持つ本人同士や発達障害児者の家族に対するピアサポート等の支援を新たに盛り込んだ。
①ペアレントメンター養成等事業
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②家族のスキル向上支援事業
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③ピアサポート推進事業
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④その他の本人・家族支援事業
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厚生労働省においては、発達障害のある人及びその家族等に対して相談支援、発達支援、就労支援及び情報提供などを行う「発達障害者支援センター」の整備を図ってきたところであり、現在全ての都道府県・指定都市に設置されている。
厚生労働省においては、発達障害児者を支援するための支援手法の開発、関係する分野との協働による支援や切れ目のない支援等を整備するための「発達障害児者地域生活支援モデル事業」を実施している。平成29(2017)年度は、
ア)地域で暮らす発達障害児者に課題や困り事が生じた際に、発達障害児者の特性を理解した上で、地域や関係機関において適切な対応を行うための支援手法の開発
イ)発達障害児者の社会生活等の安定を目的として、当事者同士の活動や当事者、その家族、地域住民が共同で行う活動に対する効果的な支援手法の開発
ウ)ライフステージを通じて、切れ目なく発達障害児者の支援を効果的に行うため、医療、保健、福祉、教育、労働等の分野間で連携した支援手法の開発
をテーマに行った。
また、発達障害のある人は、「どのような能力に障害があるのか」「どの程度の障害なのか」「どのような支援があれば能力が発揮できるのか」等が周りから見て理解されにくく、誤った情報によって不適切な対応を受けることがあること等から、社会参加について様々な困難さを抱えており、このような状況を踏まえて、厚生労働省では、全国の発達障害者支援センターの中核として、国立障害者リハビリテーションセンターに「発達障害情報・支援センター」を設置し、WEBサイトを通して、発達障害に関して一般の方への啓発を行うとともに、発達障害児者支援に必要な国内外の情報や最新の研究成果等を集約し、発達障害のある人やその家族、支援関係者等に役立つ情報を収集・分析し、ホームページなどを通じて発信している。(http://www.rehab.go.jp/ddis/)
厚生労働省においては、平成23(2011)年度から、発達障害等に関して知識を有する専門員が保育所や放課後児童クラブ等を巡回し、施設の職員や親に対し、障害の早期発見・早期対応のための助言などの支援を行う「巡回支援専門員」の派遣に対し財政支援を行い、地域における発達障害児者に対する支援体制の充実を図っている。
都道府県等においては、新たに平成28(2016)年度から、発達障害における早期発見・早期支援の重要性に鑑み、最初に相談を受け、又は診療することの多い小児科医などのかかりつけ医等の医療従事者に対して、発達障害に関する国の研修内容を踏まえ、発達障害に対する対応力を向上させるための研修を実施し、どの地域においても一定水準の発達障害の診療及び対応が可能となるよう医療従事者の育成に取り組んでいる。
さらに厚生労働省では、平成30(2018)年度から「発達障害専門医療機関ネットワーク構築事業」において、都道府県等が、発達障害に関する医療機関のネットワークを構築し、発達障害の診療や支援を行う医師等を養成するための実地研修等を実施することを支援することとした。
盲ろう者とは、「視覚と聴覚に障害がある者」であり、全盲ろう、盲難聴、弱視ろう、弱視難聴の4つのタイプがある。社会福祉法人全国盲ろう者協会の「盲ろう者に関する実態調査(平成25(2013)年3月)」によると、盲ろう者は、約1万4,000人と推計されている。
盲ろう者は、その障害の程度や生育歴等により、コミュニケーション方法も触手話、指文字、118指点字、手書き文字など多様な方法があり、コミュニケーションの保障や情報入手、移動の支援が重要である。
平成25年度から、障害者総合支援法の地域生活支援事業においては、盲ろう者の自立と社会参加を図るため、コミュニケーションや移動の支援を行う「盲ろう者向け通訳・介助員養成研修事業」及び「盲ろう者向け通訳・介助員派遣事業」を、都道府県の必須事業として実施している。
平成27(2015)年度からは「盲ろう者向けパソコン指導者養成研修事業」等を実施するなど、盲ろう者に対するコミュニケーション支援等の充実を図っている。
また、盲ろう者にとって、コミュニケーション手段の確保、外出のための移動支援など、社会参加を促進するためのサービス支援の人材確保や派遣事業等を引き続き充実していくことが必要であり、国立障害者リハビリテーションセンター学院では、盲ろう者向け通訳・介助員の養成事業に係る企画立案を担う者や、派遣事業に係るコーディネーターに対する研修を実施するほか、視覚障害学科において盲ろう者支援に係るカリキュラムの充実を図るなど人材育成に努めている。
さらに、「盲ろう者のための支援マニュアル」(盲ろう者宿泊型生活訓練等モデル事業(平成22(2010)~23(2011)年度)成果物)を基に地域の施設において訓練等を実施している。
強度行動障害とは、周囲の不適切な対応や環境の影響等により、自分の体を叩く、食べられないものを口に入れる、危険につながる道路上での飛び出しなど本人の身体又は生命を損ねる行動や、他人を叩く、物を壊す、何時間も大泣きを続けるなどの行動が、高い頻度で起こるため、著しく支援が困難な状態のことをいい、行動障害の軽減を目的として障害児入所施設等の指定施設において適切な支援と環境の提供を行うために「強度行動障害児特別支援加算」等による支援が行われている。
さらに、平成25(2013)年度から強度行動障害のある人に対する支援を適切に行う者を養成する「強度行動障害支援者養成研修」を創設するとともに、平成27(2015)年度の報酬改定において「重度障害者支援加算」の見直しを行い、強度行動障害支援者養成研修修了者を報酬上評価すること、及び行動援護従業者に対して、行動援護従業者養成研修の受講を必須化すること等により、強度行動障害のある人に対する支援の充実を図っている。
また、平成30(2018)年度の報酬改定において、強度行動障害のある子供への適切な支援を推進するため、児童発達支援又は放課後等デイサービスを提供する事業所が、強度行動障害支援者養成研修(基礎研修)を修了した職員を配置し、強度行動障害のある子供を支援する場合の加算を創設している。
平成24(2012)年度までは、難病患者等の居宅における療養生活を支援するため、要介護の状況にありながら障害者自立支援法(平成17年法律第123号)等の施策の対象とならない等の要件を満たす難病患者等を対象として、市町村等を事業主体として、難病患者等居宅生活支援事業を実施していた。
また、平成25(2013)年4月から施行された障害者総合支援法においては、障害者の定義に難病患者等を追加して障害福祉サービス等の対象とし、新たに対象となる難病患者等は、身体障害者手帳の所持の有無にかかわらず、必要に応じて障害程度区分(平成26(2014)年4月からは障害支援区分)の認定などの手続を経た上で、市区町村において必要と認められた障害福祉サービス等(障害児にあっては、児童福祉法に基づく障害児支援)が利用できることとなった。また、障害者総合支援法における対象疾病(難病等)の範囲については、当面の措置として、難病患者等居宅生活支援事業の対象となっていた130疾病を対象としていたが、難病医療費助成の対象となる指定難病の検討状況等を踏まえ、対象疾病の検討を行い、平成27(2015)年1月1日より151疾病に、同年7月1日より332疾病に、平成29(2017)年4月1日より358疾病に拡大し、その後の指定難病の検討状況等を踏まえ平成30(2018)年4月1日より359疾病に拡大している。
障害のある人に対する所得保障は、障害のある人の経済的自立を図る上で極めて重要な役割を果たしており、障害基礎年金や障害厚生年金の制度と、障害による特別の負担に着目し、その負担の軽減を図るために支給される各種手当制度がある。
我が国は、国民皆年金体制が確立され、原則として全ての国民がいずれかの年金制度に加入することとされている。これによって、被保険者期間中の障害については障害基礎年金や障害厚生年金が支給されるほか、国民年金に加入する20歳より前に発した障害についても障害基礎年金が支給されることから、原則として全ての障害のある成人が年金を受給できることになり、年金は障害のある人の所得保障において重要な役割を果たしている。
年金制度は、全国民共通の基礎年金とサラリーマンや公務員に対し基礎年金の上乗せとして厚生年金が支給されるという、いわゆる2階建ての体系がとられている。
年金制度による障害のある人の所得保障については、昭和60(1985)年改正の際の障害福祉年金から障害基礎年金への移行による大幅な年金額の引上げや支給要件の改善など、これまで着実にその充実が図られてきた。
近年では、平成16(2004)年改正の際、障害を有しながら働いたことを年金制度上評価する仕組みとして障害基礎年金と老齢厚生年金等の併給を可能とする障害年金の改善等が行われているほか、平成23(2011)年4月からは、障害年金受給者に対する、子や配偶者がいる場合の加算の対象範囲が拡大されている。
平成24(2012)年には、社会保障・税一体改革の一環として、年金制度の枠外で、障害基礎年金受給者等に対して、福祉的な給付金を支給する年金生活者支援給付金の支給に関する法律(平成24年法律第102号)が成立し、消費税率の引上げと合わせて、平成31(2019)年10月に実施される予定である。また、平成25(2013)年には、障害基礎年金等の支給要件の特例措置(直近1年間において保険料の滞納がないこと)の延長が行われている。
昭和60年の年金制度の改革に伴い、それまで重度の障害のある人に対して支給されていた福祉手当についても見直しが行われ、特に重度の障害のある人を対象とする特別障害者手当と、障害基礎年金が支給されない重度の障害のある児童に支給される障害児福祉手当とに改編された。同時に、特別障害者手当の支給額が福祉手当と比較してほぼ倍額に引き上げられた。このほか、障害のある児童の父母等に対しては、従来より、特別児童扶養手当を支給している。
これらの年金及び手当については、毎年物価の変動等に合わせて支給額の改定が行われている。
また、特定障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律(平成16年法律第166号)により、平成3(1991)年度より前に国民年金任意加入対象であった学生や、昭和61(1986)年度より前に国民年金任意加入対象であった被用者の配偶者のうち任意加入していなかった間に障害を負ったことにより障害基礎年金を受給していない者について、上記に述べたような国民年金制度の発展過程において生じた特別な事情を踏まえ、特別障害給付金の支給が行われている。
その他、都道府県・指定都市において、保護者が生存中掛金を納付することで、保護者が死亡した場合等に、障害のある人に生涯年金を支給する障害者扶養共済制度(任意加入)が実施されている。
平成11~14年度 | 平成15年度 | 平成16年度 | 平成17年度 | 平成18年度 | 平成19年度 | 平成20年度 | 平成21年度 | 平成22年度 | 平成23年度 | 平成24年度 | 平成25年度 | 平成26年度 | 平成27年度 | 平成28年度 | 平成29年度 | 平成30年度 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
障害基礎年金 | (1級) | 83,775 | 83,025 | 82,758 | 82,758 | 82,508 | 82,508 | 82,508 | 82,508 | 82,508 | 82,175 | 81,925 | 81,925 | 80,500 | 81,258 | 81,260 | 81,177 | 81,177 |
(2級) | 67,017 | 66,417 | 66,208 | 66,208 | 66,008 | 66,008 | 66,008 | 66,008 | 66,008 | 65,741 | 65,541 | 65,541 | 64,400 | 65,008 | 65,008 | 64,941 | 64,941 | |
特別児童扶養手当 | (1級) | 51,550 | 51,100 | 50,900 | 50,900 | 50,750 | 50,750 | 50,750 | 50,750 | 50,750 | 50,550 | 50,400 | 50,400 | 49,900 | 51,100 | 51,500 | 51,450 | 51,700 |
(2級) | 34,330 | 34,030 | 33,900 | 33,900 | 33,800 | 33,800 | 33,800 | 33,800 | 33,800 | 33,670 | 33,570 | 33,570 | 33,230 | 34,030 | 34,300 | 34,270 | 34,430 | |
特別障害者手当 | 26,860 | 26,620 | 26,520 | 26,520 | 26,440 | 26,440 | 26,440 | 26,440 | 26,440 | 26,340 | 26,260 | 26,260 | 26,000 | 26,620 | 26,830 | 26,810 | 26,940 | |
障害児福祉手当 | 14,610 | 14,480 | 14,430 | 14,430 | 14,380 | 14,380 | 14,380 | 14,380 | 14,380 | 14,330 | 14,280 | 14,280 | 14,140 | 14,480 | 14,600 | 14,580 | 14,650 | |
特別障害給付金 | (1級) | 50,000 | 50,000 | 49,850 | 50,000 | 50,700 | 50,000 | 49,650 | 49,500 | 49,500 | 49,700 | 51,050 | 51,450 | 51,400 | 51,650 | |||
(2級) | 40,000 | 40,000 | 39,880 | 40,000 | 40,560 | 40,000 | 39,720 | 39,600 | 39,600 | 39,760 | 40,840 | 41,160 | 41,120 | 41,320 |
認知症の人、知的障害のある人、精神障害のある人など、判断能力の不十分な人々の財産管理の支援等に資する成年後見制度及び成年後見登記制度について周知を図っている。
また、都道府県・指定都市社会福祉協議会等では、認知症高齢者、知的障害のある人、精神障害のある人等のうち判断能力が必ずしも十分でない人の自立を支援するため、日常生活自立支援事業において、福祉サービスの利用に伴う預金の払い戻しや預け入れの手続等、利用者の日常的な金銭管理に関する援助を行っている。
「障害者扶養共済制度(愛称:しょうがい共済)」は、障害のある人を育てている保護者が毎月掛金を納めることで、その保護者が亡くなったときなどに、障害のある人に一定額の年金を一生涯お支払いする制度である。
この制度は、保護者に万一のことがあっても、遺された障害のある人が安定した生活を送れるように、また、障害のある人の将来の生活に対して保護者が感じている不安を軽減できるようにという関係者の想いから、一部の地方自治体独自の制度として始まった。それが、昭和45(1970)年に、社会福祉事業振興会(現:独立行政法人福祉医療機構)が地方自治体独自の制度を保険することにより、全国規模の制度へ発展したものである。現在は、全ての都道府県・政令指定都市で実施されている。
● 制度の仕組み
障害者扶養共済制度への加入を希望する保護者は、都道府県・政令指定都市の担当窓口に申し込み、審査により加入要件(※1)を満たしている場合に、制度に加入することができる。加入者は、毎月一定の掛金を支払い、支払われた掛金は、地方自治体から(独)福祉医療機構に納められ、さらにそれが生命保険契約を締結している生命保険会社へ保険料として支払われている。
そして、加入者が亡くなられた場合などに、生命保険会社から(独)福祉医療機構に保険金が支払われ、(独)福祉医療機構は、その保険金を信託銀行に信託して運用しながら、障害のある人に毎月年金を支払うという仕組みになっている。
※1:保護者の年齢が65歳未満で健康であることや、一定程度の障害がある人を扶養していることなど、保護者と障害のある人、それぞれの要件がある。
● 障害のある人を支えるための様々なメリット
障害者扶養共済制度には、 ①一般的に生命保険における保険料が、「純保険料」と「付加保険料」(※2)から成り立っているのに対し、その掛金(保険料)は「純保険料」のみで設定されているため、低く抑えられていること、 ②各種の税制優遇措置(※3)があることなど様々なメリットがある。
また、公的年金や生活保護を受給していても、この制度の年金を受け取ることができることから、公的年金等の上乗せとしての役割も果たしている。
※2:純保険料……保険金等の給付を行うための原資付加保険料…保険事業の運営に必要な事業費
※3:税制優遇掛金の全額が所得控除の対象となる。年金を受け取る際も、所得税、住民税、相続税、贈与税がかからない。
● 掛金と年金額
掛金の月額は、加入時の年度の4月1日時点の保護者の年齢に応じて決まる。
次の2つの要件を両方とも満たした以後の加入月から、掛金は免除される。
① 年度初日(4月1日)の保護者の年齢が、65歳となったとき
② 加入期間が20年以上となったとき
障害のある人1人に対し、2口まで加入することができる。
保護者が死亡し、又は重度障害になったときから、障害のある人に対して、生涯にわたり毎月2万円(2口の場合は毎月4万円)の年金が支給される。
注1:加入資格、掛金(保険料)、年金額等の詳細については、お住まいの地方公共団体(都道府県・政令指定都市)の「障害者扶養共済制度担当」へお問い合わせください。
注2:制度の概要については、独立行政法人福祉医療機構ホームページ「心身障害者扶養保険事業」をご覧ください。
障害のある人の意向を尊重し、施設入所者の地域生活への移行を促進するため、地域での生活を念頭に置いた社会生活の技能を高めることを目指し、障害福祉サービス及び相談支援並びに市町村及び都道府県の地域生活支援事業の提供体制の整備並びに自立支援給付及び地域生活支援事業の円滑な実施を確保するための基本的な指針(平成18年厚生労働省告示第395号)に基づき、施設等から地域生活への移行を促進するとともに、地域生活を支える拠点として、施設の専門的機能を地域に開放する「地域化」を進めることとしている。
このため、グループホームを計画的に整備するなど、障害のある人の地域移行を促進する一方、障害のある人が利用する施設については、地域の重要な資源として位置づけ、積極的にその活用を図ることとしている。
施設に対しては、従来のように、入所者を対象にするだけではなく、施設が蓄えてきた知識や経験を活用し、あるいは施設の持っている様々な機能を地域で生活している障害のある人が利用できるように、支援を行うことが求められており、今後、障害者施設は、各種在宅サービスを提供する在宅支援の拠点として地域の重要な資源として位置づけ、その活用を図ることが重要であり、こうした取組の一層の充実を図ることとしている。
このため、第5期障害福祉計画において、障害者の地域生活を支援する機能を持った拠点等を各市町村、又は各圏域に少なくとも1つ整備することとなっている。
平成29(2017)年度「障害者のスポーツ参加促進に関する調査研究」によると、障害のある人(成人)の週1回以上のスポーツ・レクリエーション実施率は20.8%(成人全般の実施率は51.5%(平成29年度「スポーツの実施状況に関する世論調査」))にとどまっており、地域における障害者スポーツの一層の普及促進に取り組む必要がある。
このため、平成27(2015)年度から、一部の都道府県・政令指定都市において、スポーツ関係者と障害福祉関係者が連携・協働体制を構築し、相互に一体となり障害者スポーツを推進する事業を実施している。
また、平成32(2020)年に全国の特別支援学校でスポーツ・文化・教育の祭典が実施されるための「Specialプロジェクト2020」や、特別支援学校を地域の障害者スポーツの拠点として活用する取組を実施している。
さらに、平成30(2018)年度からは、地域における障害者スポーツの振興体制の強化、身近な場所でスポーツを実施できる環境の整備を図る取組や、障害者スポーツ団体と民間企業とのマッチング等により障害者スポーツ団体の体制の強化を図り、他団体や民間企業等と連携した活動の充実につなげる取組を実施することとしている。
平成30(2018)年3月、平昌パラリンピック競技大会が開催され、日本選手団は3個の金メダルを獲得し、また、総メダル数では前回大会を上回る10個のメダルを獲得した。
スポーツ庁では、「競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)」(平成28(2016)年10月)や「スポーツ基本計画」(平成29(2017)年3月)に基づき、パラリンピックの競技特性や環境等に十分配慮しつつ、オリンピック競技とパラリンピック競技の支援内容に差を設けない一体的な競技力強化支援に取り組んでいる。
具体的には、障害者スポーツの競技団体を含む各競技団体が行う強化活動に必要な経費等を支援する「競技力向上事業」を実施している。
また、「ハイパフォーマンス・サポート事業」により、パラリンピック競技大会でメダル獲得が期待される競技をターゲットとして、多方面からの専門的かつ高度な支援を戦略的・包括的に実施している。さらに、平昌パラリンピック競技大会に際して、同事業においてパラリンピック冬季競技大会では初めて、競技直前の準備のためにアスリート、コーチ、サポートスタッフが必要とする機能を備えた現地拠点であるハイパフォーマンス・サポートセンターを設置した。
さらに、平成29年度から「ハイパフォーマンスセンターの基盤整備」において、2020年東京大会等に向けた我が国アスリートのメダル獲得の優位性を確実に向上させるため、競技用具の機能等を向上させる取組を実施している。
加えて、トップアスリートにおける強化・研究活動拠点の在り方についての調査研究に関する有識者会議「最終報告」(平成27(2015)年1月)を踏まえ、オリンピック競技とパラリンピック競技の一体的な拠点としてナショナルトレーニングセンターの拡充整備に取り組んでおり、平成31(2019)年6月末の完成を目指して整備工事を実施している。
◯全国障害者スポーツ大会
平成13(2001)年度から、それまで別々に開催されていた身体に障害のある人と知的障害のある人の全国スポーツ大会が統合され、「全国障害者スポーツ大会」として開催されている。平成20(2008)年度から、精神障害者のバレーボール競技が正式種目に加わり、全国の身体、知的、精神に障害のある方々が一堂に会して開催される大会となっている。本大会は、障害のある選手が、競技等を通じ、スポーツの楽しさを体験するとともに、国民の障害に対する理解を深め、障害のある人の社会参加の推進に寄与することを目的として、国民体育大会の直後に、当該開催都道府県で行われている。平成29(2017)年度の第17回大会は、愛媛県において開催された。なお、平成30(2018)年度の第18回大会については、福井県で開催される。
◯全国ろうあ者体育大会
本大会は、聴覚に障害のある人が、スポーツを通じて技を競い、健康な心と体を養い、自立と社会参加を促進することを目的として、昭和42(1967)年度から開催されている。
平成29(2017)年度は、第51回となる夏季大会が静岡県で、4年に一度行われる冬季大会が岩手県で開催された。今回の夏季大会では10競技が行われ、選手・役員合わせて約1,500人が参加した。
◯デフリンピック
4年に一度行われる、聴覚に障害のある人の国際スポーツ大会であり、夏季大会と冬季大会が開催されている。夏季大会は1924年を第1回としており、2017年には、トルコのサムスンにおいて開催された。日本選手団として選手・役員合わせて177名が参加し、金メダル6個、銀メダル9個、銅メダル12個を獲得した。冬季大会は1949年を第1回としており、2015年3月28日~4月7日にはロシアのハンティ・マンシースクにおいて第18回大会が開催された。日本選手団として選手・役員合わせて48名が参加し、金メダル3個、銀メダル1個、銅メダル1個を獲得した。
◯スペシャルオリンピックス世界大会
4年に一度行われる、知的障害のある人のスポーツの世界大会であり、夏季大会と冬季大会が開催されている。順位は決定されるものの最後まで競技をやり遂げた選手全員が表彰される、といった特徴がある大会である。
夏季大会は1968年を第1回(米国・シカゴ)としており、次回は、2019年にアラブ首長国連邦のアブダビにおいて第15回大会の開催が予定されている。冬季大会は1977年を第1回(米国・コロラド州)としており、2017年にはオーストリアのシュラートミンクにおいて第11回大会が開催された。
また、スペシャルオリンピックスでは、知的障害のある人とない人が共にチームを組みスポーツを楽しむ取組も進めており、世界大会の種目にも採用されている。
◯パラリンピック競技大会
オリンピックの直後に当該開催地で行われる、障害者スポーツの最高峰の大会であり、夏季大会と冬季大会が開催されている。夏季大会は、1960年にイタリアのローマで第1回大会が開催され、オリンピック同様4年に一度開催されている。2016年には、ブラジルのリオデジャネイロにおいて第15回大会が開催された。次回は、2020年、東京において開催が予定されている。冬季大会は、1976年にスウェーデンのエンシェルツヴィークで第1回大会が開催されて以降、オリンピック冬季大会の開催年に開催されている。2018年3月には、韓国の平昌(ピョンチャン)において第12回大会が開催された。次回は、2022年に中国の北京で開催が予定されている。
平成25(2013)年9月に開催された国際オリンピック委員会(IOC)総会(アルゼンチン/ブエノスアイレス)において、2020年オリンピック・パラリンピックの開催都市が東京都に決定した。これにより、東京都は史上初めて、2度目のパラリンピック夏季競技大会を開催する都市となった。
パラリンピック競技大会は、世界のトップアスリートが参加し、スポーツを通じて、障害のある人の自立や社会参加を促すとともに、様々な障害への理解を深めることにつながるものである。また、アクセシビリティに配慮した会場やインフラの整備により、東京のまち全体を障害のある人を始めとする全ての人々が安全で快適に移動できるようになり、ユニバーサルデザイン都市、東京の実現が促進されるものである。
2020年パラリンピック競技大会は、8月25日の開会式に始まり、9月6日の閉会式まで13日間、オリンピックと共に30日間の1つの祭典として開催される。大会の新規実施競技については、平成26(2014)年10月の国際パラリンピック委員会(IPC)理事会でバドミントンの実施を、平成27(2015)年1月のIPC理事会でテコンドーの実施を決定し、全22競技が決定した。また、平成29(2017)年9月にはIPC理事会で22競技537種目、選手数の上限を4,400名とすることを決定した。
「全員が自己ベスト」、「多様性と調和」、「未来への継承」を3つの基本コンセプトとし、大会組織委員会が中心となり、東京都、日本オリンピック委員会(JOC)や日本パラリンピック委員会(JPC)、政府が一丸となって大会準備を進めている。平成28(2016)年4月25日には、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会のエンブレムが決定し、平成30(2018)年2月28日には同大会のマスコットが全国16,769校の小学生による学級単位での投票により決定した。
オリンピック・パラリンピック競技大会を始めとする国際競技大会における日本代表選手の活躍は、国民に誇りと喜び、夢と感動を与えるものであり、我が国の国際競技力向上に向けた取組を進めていくことは重要である。このため、スポーツ庁では、「競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)」(平成28年10月)や「スポーツ基本計画」(平成29年3月)に基づき、パラリンピックの競技特性や環境等に十分配慮しつつ、オリンピック競技とパラリンピック競技の支援内容に差を設けない一体的な競技力強化支援に取り組んでいる。(第4章第1節5.(1)イを参照)。
また、2020年東京パラリンピック競技大会を成功に導くためには、将来のパラリンピアンを始め一人でも多くの障害者がスポーツを楽しめる環境を整備することにより、障害者スポーツの裾野を広げていくことが重要である。このため、地方自治体における障害者スポーツ推進体制の整備を推進するとともに、全国の特別支援学校でスポーツ・文化・教育の祭典を開催することとし、この開催に向けた取組を進めていくこととしている。
平成30(2018)年3月9日~18日において、韓国・平昌で開催された平昌2018パラリンピック競技大会では、6競技80種目が行われ、日本からは38名の選手が参加した。
日本代表選手団は、金メダル3個、銀メダル4個、銅メダル3個の計10個のメダルを獲得するとともに、4位から8位の入賞数は、計13に上り、日本パラリンピック委員会が目標としていた前回大会を超えるメダル数を達成した。日本の選手が大舞台で活躍する姿に日本中が沸き返り、国民に感動と希望をもたらしてくれた。
2年後は、いよいよ2020年東京大会が開催される。同大会を契機に、スポーツを通じた健康意識の向上や、心のバリアフリーなど、国民全体に及ぶ「レガシー」を創出するとともに、日本全体に夢や感動を届けられる大会となるよう、国としてもしっかりと取り組んでいく。
写真:上記全て©フォート・キシモト
スポーツ庁では、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「東京大会」という。)を契機として共生社会を実現するため、スポーツを通じて心のバリアフリーの理解を促す取組や、スポーツ施設のバリアフリー化を進めている。
心のバリアフリーの取組として、パラリンピック教育を全国で実施し、パラリンピックの価値やスポーツの価値の学びを通して、障害のある方や共生社会への理解等の促進を図るとともに、学校や市民向けのパラリンピックの競技体験等を実施することで、パラリンピックや障害者スポーツへの興味・関心を高め、より多くの方に実際にパラリンピックを観戦していただきたいと考えている。
また、東京大会のレガシーとして共生社会を実現するため、2020年に全国の特別支援学校でスポーツ・文化・教育の全国的な祭典の開催に向けた取組を行っており、特別支援学校の児童生徒とパラリンピアンとの交流や、特別支援学校を活用した地域の障害者スポーツの拠点づくり、特別支援学校を対象としたスポーツの全国大会などを実施している。
スポーツ施設のバリアフリー化については、ナショナルトレーニングセンターをオリンピック・パラリンピックのトップアスリートの共同利用強化活動拠点として拡充整備し、パラリンピック選手の競技力向上とそれに伴う障害者スポーツへの関心の高まりにつなげるとともに、新国立競技場のユニバーサルデザインを推進し、全ての人が安心して快適に観戦できるスタジアムを整備する。
引き続き、東京大会の開催に向け、上記の取組を推進し、共生社会の実現に向け取り組んで行く。
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を見据え、関係者相互の情報共有やネットワークの構築を図るとともに、障害のある人の芸術文化の振興に資する取組について、広く関係者による意見交換を行う「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた障害者の芸術文化振興に関する懇談会」を平成27(2015)年度から文化庁と厚生労働省が共同で開催するなど、障害のある人の芸術文化活動の振興を深める取組を行っている。
厚生労働省では、平成25(2013)年に開催された「障害者の芸術活動への支援を推進するための懇談会」中間とりまとめを受け、平成26(2014)年度からは芸術活動を行う障害のある人やその家族、福祉事業所等で障害のある人の芸術活動の支援を行う者を支援するモデル事業を実施し、事業で培った支援ノウハウを全国展開すべく、平成29(2017)年度からは障害者芸術文化活動普及支援事業を実施し、障害のある人の芸術文化活動(美術、演劇、音楽等)の更なる振興を図っている。
また、障害のある人の生活を豊かにするとともに、国民の障害への理解と認識を深め、障害のある人の自立と社会参加の促進に寄与することを目的として、「第17回全国障害者芸術・文化祭なら大会」(平成29年度)を、国民一般の行っている文化活動を全国規模で発表し、競演し、交流する場である「第32回国民文化祭・なら2017」(平成29年度)と初めて一体的に開催し、障害のある人もない人も共に楽しめる祭典の開催が実現した。
さらに、文化庁では、障害のある人の優れた文化芸術活動の国内外での公演・展示の実施や助成採択した映画作品のバリアフリー字幕及び音声ガイド制作への支援等、障害のある人の文化芸術活動を推進している。このほか、国立美術館、国立博物館においては、展覧会の入場料の無料を実施しているほか、全国各地の劇場、コンサートホール、美術館、博物館などにおいて、車いす使用者も利用ができるトイレやエレベーターの設置等障害のある人に対する環境改善も進められている。
オリンピック・パラリンピックはスポーツの祭典のみならず文化の祭典でもあり、「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本方針」(平成27年11月27日閣議決定)において、日本文化の魅力を発信していくこととしている。平成28(2016)年3月に、関係府省庁、東京都、大会組織委員会を構成員とする「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた文化を通じた機運醸成策に関する関係府省庁等連絡・連携会議」を開催した。その中で2020年以降を見据え、日本の強みである地域性豊かで多様性に富んだ文化を活かし、障害のある人にとってのバリアを取り除く取組等成熟社会にふさわしい次世代に誇れるレガシー創出に資する文化プログラムを「beyond2020プログラム」として認証するとともに、日本全国へ展開することを決定した。平成30(2018)年3月末時点で約4,000件の事業を認証した。
2020年は、文化プログラムを通じて日本の文化を世界に発信する絶好の機会である。
大相撲では、現状、外国人や障害のある人へ十分な観戦機会の提供がなされていない。こうした現状を踏まえ、2020年に向けて、大相撲の国際発信力の向上や、障害のある人のアクセス性の強化等、共生社会実現に向けた課題解決につながる具体的な取組として、「平成29年度大相撲beyond2020場所」を開催した。
「平成29年度大相撲beyond2020場所」は平成29(2017)年10月に一日特設イベントとして、両国国技館で開催され、外国人や障害のある人を中心に約4,000名が参加した。土俵周りの溜席エリアへの車椅子席の設置、聴覚障害のある人向けの手話通訳の実施や解説用モニターの設置、視覚障害のある人向けの点字プログラムの配布など、障害のある人が観覧しやすいよう配慮した。また、英語対応が可能なスタッフの配置、日英2か国語による場内放送等、外国人への対応を強化した。このように、普段、観戦機会の提供が十分ではない外国人や障害のある人に向けた様々な対応を実施した。
2020年に向けて同様の取組が全国で展開されることにより、日本文化の国内外への発信や、共生社会の実現に繋げていく。
文化庁では、我が国の障害のある方々による優れた文化芸術活動の成果を世界に向けて発信し、国内外への普及を促進することを目的として、平成29(2017)年10月にフランスのナント市において、「2017 ジャパン×ナント プロジェクト」を実施した。プロジェクトでは、障害のある方々による優れた芸術作品の展覧会や、和太鼓、石見神楽、ダンス及び演劇の公演、バリアフリー映画の上映等を行った。このように障害のある方々による複数分野の優れた文化芸術活動の成果を、海外から発信することは初めての試みだった。
展覧会「KOMOREBI」展は、42名の作家による約900点の作品を出展し、3か月で約5万5千人が観覧した。来場者からは、「これだけ多くの日本の障害者による芸術作品を見ることは初めてでとても驚いている」、という声が聞かれた。また、日本の文化、美意識に感心する声なども聞かれた。
このほか、「芸術とケアと市民権」についての国際研究フォーラムも開催し、日仏等の専門家や実演家が各セッションで講演や討論を行った。フォーラムを通して、日本における障害のある方々による文化芸術活動の支援策等を紹介し、多くの方の関心を集めた。
このように、本プロジェクトを通じて、日本の文化芸術への理解を深め、日本文化の評価の向上に繋がる取組を行った。
厚生労働省では、平成29(2017)年度から「障害者芸術文化活動普及支援事業」を実施している。これは、平成26(2014)年度~28(2016)年度に行った「障害者の芸術活動支援モデル事業」の成果を全国に普及するためのもので、都道府県に障害のある人の芸術活動を支援する支援センターを設置し、相談支援や人材育成、ネットワークづくりなどの必要な支援を行う事業である。また、より多くの障害者の自立と社会参加を促すため、これまで支援してきた美術分野に加え、舞台芸術分野への支援体制づくりにも取り組んでいる。
舞台芸術分野は、ジャンルも幅広く、作品づくりに様々な専門知識や多くの人の時間と労力がかかる点で、「福祉施設では取り組みにくいのではないか」という声がある。しかし、この事業を実施する全国の支援センターは、舞台芸術活動のもつ可能性を探り続け、普及のために必要な支援、課題の解決などを試みている。
また、地域のニーズを把握し、資源やネットワークを活用した、様々な好事例も報告されているので、このうちのいくつかを紹介する。
大阪の支援センターでは、障害のある人もない人も一緒に参加する舞台作品づくりのプロジェクトが行われた。81名の一般参加者のうち、60名に障害があり、その特性も視覚、聴覚、知的、精神、肢体、内部、難病と様々であった。障害のない若手ダンサーらも参加し、障害のある人との作品づくりの経験がある舞台の専門家やスタッフと一緒に稽古を重ね、創造・表現活動のノウハウを身につけた。舞台作品を創るプロセスの中で参加者・関係者がみんなで共に学び表現する体験となった。
滋賀の支援センターでは、県内6地域で障害のある人を対象とした「うた」「打楽器演奏」「ダンス・身体表現」の専門家によるワークショップが、月2回程度開催されている。その成果は毎年の音楽祭を通じて発表され、地域の人と共有されてきた。この企画がきっかけとなり、地域の各事業所でも主体的に身体表現活動のワークショップが行われるようになり、障害のある人の日常生活がより豊かになっている。本番にはプロの音楽家やダンサーも一緒に出演するようになったり、海外で公演する機会も生まれたりするなど、広がりを見せている。
本事業をきっかけに、障害のある人の舞台芸術活動の取組を始めた新潟の支援センターでは、まず、ニーズの把握も兼ねて、障害の有無にかかわらず参加できる「のど自慢大会」のような企画が行われた。出演者の年齢は10歳~78歳までと幅広く、統合失調症、自閉症、脳性麻痺、うつ、ダウン症、全盲、聴覚過敏、発達障害など多様な人が参加し会場一体となって楽しい時間を共有した。披露された芸も歌、ダンス、身体表現、コントなど様々で、応募された中には、手刀で豆腐を切るという、その人の日常生活や障害の特性から生まれたものもあり、表現における新たな気づきや発見をもたらした。
これらの支援センターが共通して指摘するのが、舞台芸術活動を通じて、お互いを尊重し合う関係が生まれるということ、また、障害のある人の日常生活が豊かになり、その表現や行動の価値が見直されるということである。このことは、美術活動においても共通する点であり、厚生労働省では、このような芸術文化のもつ力で、さらに多くの障害のある人が地域社会に参加し、多様な人と喜びや感動をともにできる機会を作っていく予定である。
文化庁では、「文化財建造物を活用した地域活性化事業」、「歴史活き活き!史跡等総合活用整備事業」を実施しており、所有者等の要望に応じて、文化財の活用のため、バリアフリー化を含む施設・設備の改修等への補助を実施している。具体的には、「重要文化財 旧前田家本邸洋館」について、車椅子対応のエレベーター、スロープ、トイレの整備等の改修を平成27(2015)年度から行っており、平成30(2018)年度に完成予定である。また、文化財の活用のためのバリアフリー化の事例集に掲載する候補の選定を実施している。
さらに、国民が障害の有無にかかわらず文化芸術に親しむ環境を整備するため、障害者等に対応して建築物移動等円滑化誘導基準に適合するバリアフリー改修を行う劇場・音楽堂等に対し、平成30年度より固定資産税・都市計画税の税制優遇措置を創設した。
福祉用具の公的給付としては、補装具費の支給と日常生活用具の給付(貸与)がある。
補装具費の支給は、身体に障害のある人の日常生活や社会生活の向上を図るために、身体機能を補完又は代替するものとして、義肢、装具、車椅子、盲人安全つえ、補聴器等の補装具の購入又は修理に要した費用の一部について公費を支給するものである。なお、平成30(2018)年度より、購入を基本とする原則は維持した上で、障害のある人の利便に照らして「借受け」が適切と考えられる場合に限り、新たに補装具費の支給の対象となった。
日常生活用具の給付(貸与)は、日常生活を営むのに著しく支障のある障害のある人に対して、日常生活の便宜を図るため、特殊寝台、特殊マット、入浴補助用具等を給付又は貸与するものであり、地域生活支援事業の一事業として位置付けられ、実施主体である市町村が地域の障害のある人のニーズを勘案の上、柔軟な運用を行っている。
平成25(2013)年度から、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)の対象となる難病患者等も、補装具費や日常生活用具給付等事業の対象となった。
なお、身体に障害のある人の使用に供するための特殊な性状、構造又は機能を有する一定の物品の譲渡等については、消費税は非課税とされている。
福祉用具の情報については、公益財団法人テクノエイド協会において、福祉用具の製造・販売企業の情報や福祉用具の個別情報にかかるデータベース(福祉用具情報システム:TAIS)を構築しており、インターネットを通じてこれらの情報を提供している。
(公益財団法人テクノエイド協会:http://www.techno-aids.or.jp)
少子高齢化が進展する中、福祉用具に対するニーズは高まっており、利用者への十分な選択肢の提供や費用対効果等がより重要な課題となっている。このため、研究開発の推進、標準化や評価基盤の整備等、産業の基盤整備を進め、福祉用具産業の健全な発展を支援することを通じて、良質で安価な福祉用具の供給による利用者の利便性の向上を図っている。身体に障害のある人が使用する福祉機器の開発普及等については、真に役立つ福祉機器の開発・普及に繋がるよう、公益財団法人テクノエイド協会に委託して、「福祉用具ニーズ情報収集・提供システム」を運用し、福祉機器のニーズと技術のシーズの適切な情報連携に努めている。
また、平成22(2010)年度より「障害者自立支援機器等開発促進事業」の下、障害当事者側の要望を反映したテーマ募集を行い、各種専門職による評価体制と障害当事者の試験評価を組み込み、試作機器等を実用的製品化するための開発費用の助成を行っている。
さらに、平成26(2014)年度より、個別具体的な障害のある人のニーズを的確に反映した機器開発をスタートさせる機会を設けるとともに、開発中の機器について、実証実験の場を紹介すること等により、適切な価格で障害のある人が使いやすい機器の製品化・普及を図ることを目的として、「シーズ・ニーズマッチング強化事業」を実施している。
国立障害者リハビリテーションセンター研究所では「障害者の自立と社会参加ならびに生活の質の向上」のために、障害のある人に対する総合的リハビリテーション技術や、福祉機器等に関する研究開発及び評価法の研究開発を行っている。脳からの信号を利用して意思伝達や運動補助などを行うブレインマシン・インターフェース(BMI)技術を用いた自立支援機器等を開発し、実証評価にて完全閉じ込め状態の重度障害のある人からの意図抽出を可能とするなど研究(AMED障害者対策総合研究開発事業)を推進している。また、平成22年度から、認知機能の低下した高齢者の自立を支援するロボットシステムの研究開発(JST研究成果最適展開支援プログラム)を行うとともに、頸髄損傷等により体温調節が困難な障害のある人を対象として、スポーツ活動への参加や夏季の外出を可能とする、体温調整システムの開発(AMED障害者対策総合研究開発事業)も行っている。
さらに、支援機器の効果的活用や支援手法等に関する情報基盤整備に関する研究や補装具費支給制度の種目や価格に関する研究(いずれも厚生労働科学研究費補助金障害者政策総合研究事業)を実施し、福祉用具の利活用や普及促進にも取り組んでいる。
平成5(1993)年度より福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律(平成5年法律第38号)に基づいて、福祉用具の実用化開発事業を推進している。本事業では、高齢者や障害のある人、介護者の生活の質の向上を目的として優れた技術や創意工夫のある福祉用具の実用化開発を行う民間企業等に対し、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を通じて研究開発費用の助成を行っている。制度発足以来、平成29(2017)年度までに226件のテーマを採択している。
障害のある人を含め誰にとっても、より安心・安全で、また識別・操作等もしやすく、快適な生活用品、生活基盤、システム等の開発を支援する観点から、個々の人間のレベルでの様々な行動を計測し、理解・蓄積することにより、人間と製品・環境の適合性を客観的に解析し、個々の人間の行動特性に製品・環境を適合させる基盤技術の研究開発を実施している。
また、「新健康フロンティア戦略」においては、障害のある人の社会参加を容易にする技術や身体機能の補完・強化技術等の開発を進めることとしている。
〈平成29年度新規採択テーマ例〉
① QRコードで世界中の印刷物を音声化するシステムの開発
視覚に障害のある人の使いやすさ(読み取り時の振動や音声での伝達機能)に特化したQRコードリーダーと多言語対応のQRコード発行システムの開発により、手持ちのスマートフォンからQRコードを簡単に読み取り、その端末の設定に応じた言語で文章を音声で読み上げる仕組みを提供する。この仕組みによって、通常の印刷物にQRコードを印刷するだけで、視覚に障害があっても、そこに書かれたテキスト情報を翻訳された音声データで受け取ることができる。
② 歩行器用自動抑制ブレーキの実用化開発
歩行器の移動速度が一定以上になった場合に自動でブレーキが掛かることにより、歩行に障害のある方や高齢者の方が、歩行中にバランスを崩した際などに歩行器が先に進んでしまい、足が追いつかずに転倒に至るケース等を防止できる。
資料:経済産業省
厚生労働省では、障害のある人の自立や社会参加を支援する機器の実用的製品化を促すため、「障害者自立支援機器等開発促進事業」を実施している。この事業では、支援機器の開発を行う企業等に対する助成や、支援機器に対する障害のある人のニーズ(要望)と企業等がもつシーズ(技術)とのマッチングを行っている。
【支援機器の開発に対する助成採択例】
物体の形状に合わせて把持することができる多指機構を有し、軽量で極めて装飾性に優れた量産型筋電義手の開発
筋電義手とは、筋肉を収縮する時に発生する微弱な電流をスイッチ信号として利用して、電動ハンド(手先具)を開閉することができる義手のことである。
この採択により開発される筋電義手は、軽量で装飾性に優れるため自然な見た目であるとともに、これを装着することで物体に指を沿わせて掴むことができる。また、量産が可能な構造にすることにより、より多くの義手を必要とする人にとって筋電義手を利用しやすくなることを目的としている。
【シーズ・ニーズマッチング交流会】
シーズとニーズのマッチングを図る機会を設けるため、平成29(2017)年度は東京、大阪、福岡の3会場でマッチング交流会を開催した。ニーズを持つ障害のある人やその支援者と、シーズを持ち開発に取り組む企業や研究者などが集まり、「こんな支援機器があるといいな」といった支援機器に求める機能についてや、「こんな機器の開発をしているが操作性はどうか」といった企業等の開発技術に関してなど、様々な立場の方による意見交換がなされた。また、企業や障害者団体などによるブース出展のほか、支援機器に関するシンポジウムや開発助成の成果報告会も行われ、開発中の機器を実際に用いてアドバイスが行われるなど交流が深められた。
より優れた福祉用具の開発・普及を推進するためには、安全性を含めた品質向上、互換性の確保による生産の合理化、購入者への適切な情報提供に資する観点から、客観的な評価方法・基準の策定と標準化が不可欠である。このため、図表4-17のとおり平成16(2004)年度から平成29(2017)年度までに日本工業規格(JIS)を活用した福祉用具の標準化を推進した。これにより、介護保険対象の主要な品目についてはおおむね標準化が進んでいる。
一方、高齢者や障害のある人等日常生活に何らかの不便さを感じている人々にも使いやすい設計とするためのアクセシブルデザインについて、様々な分野で関心が高まっており、これに関連するJISの作成も進めている。
平成29年度までに、JIS Z8071(規格におけるアクセシビリティ配慮のための指針)を含めて40規格を制定しアクセシブルデザインに関する横断的な評価基準等の作成に向けた検討を行っている。また、JIS Z8071の対応国際規格であるISO/IECガイド71が平成26(2014)年に改正されたことを受け、これを反映する形で平成29年1月に改正した。この改正により、対象者を従来の「高齢者及び障害のある人々」から「日常生活に何らかの不便さを感じているより多くの人々」へと拡大した。
また、平成26年5月には、JIS S0021(包装-アクセシブルデザイン-一般要求事項)を改正し、既存の規定である「ぎざぎざ状の触覚記号」による洗髪料(シャンプー)の容器の識別に加え、「一直線状の触覚記号」による身体用洗浄料(ボディソープ)の容器の識別を規定した。平成29年度には、JIS S0021-2 (包装-アクセシブルデザイン-開封性)を制定するなど、体系的な規格整備を継続している。
さらに、国際規格作成への貢献も積極的に行っており、国際標準化機構(ISO)の福祉用具技術委員会(ISO/TC173)、義肢装具技術委員会(ISO/TC168)、人間工学技術委員会(ISO/TC159)及び包装技術委員会(ISO/TC122)での活動に参加し、ISO/TC173/SC2(用語と分類)では幹事国を、TC173/SC7(アクセシブルデザイン)では議長国及び幹事国を担っている。福祉用具では、歩行支援用具、座位変換形車いす、体位変換用具等について、各国の意見調整、規格原案検討を進めている。
アクセシブルデザインについては、平成26年度に、ISO 17069(アクセシブルデザイン-アクセシブル会議の留意事項及び支援製品)と、ISO 24504(人間工学-アクセシブルデザイン-製品及び構内放送設備の音声放送の音圧レベル)が、また平成27(2015)年度にはISO 19026(アクセシブルデザイン-公共トイレの壁面の洗浄ボタン、呼出しボタンの形状及び色並びに紙巻器を含めた配置)、ISO 19027(絵記号を使用したコミュニケーション支援用ボードのためのデザイン原則)と、ISO 19029(アクセシブルデザイン-公共施設における聴覚的誘導信号)が、いずれも日本からの提案で新たに発行された。
施策年度 | 施策内容 |
---|---|
平成20年度 | 移動・移乗支援用リフト関係5規格(JIS T9241-1~5)
【制定
】
車いす用可搬形スロープ(JIS T9207)
【制定
】
在宅用電動介護用ベッド(JIS T9254)
【改正
】
|
平成21年度 | 入浴用製品3規格(JIS T9257~59)
【制定
】
ハンドル形電動車いす(JIS T9208)
【制定
】
|
平成22年度 | 福祉用具―ポータブルトイレ(JIS T9261)
【制定
】
福祉用具―和式洋式変換便座(JIS T9262)
【制定
】
福祉関連機器用語[支援機器部門](JIS T0102)
【改正
】
|
平成23年度 | 福祉用具―入浴用いす(JIS T9260)
【制定
】
福祉用具―歩行補助具―歩行器(JIS T9264)
【制定
】
福祉用具―歩行補助具―エルボークラッチ(JIS T9266)
【制定
】
|
平成24年度 | 福祉用具―歩行補助具―歩行車(JIS T9265)
【制定
】
福祉用具―補高便座(JIS T9268)
【制定
】
福祉用具―ベッド用テーブル(JIS T9269)
【制定
】
|
平成27年度 | 福祉関連機器用語[義肢・装具部門](JIS T0101)
【改正
】
車いす用可搬形スロープ(JIS T9207)
【改正
】
移動・移乗支援用リフト2規格(JIS T9241-1,4)
【廃止
】
移動・移乗支援用リフト3規格(JIS T9241-2,3,5)
【改正
】
移動・移乗支援用リフト2規格(JIS T9241-6,7)
【制定
】
福祉用具―車いすクッション(JIS T9271)
【制定
】
福祉用具―車いす用テーブル(JIS T9272)
【制定
】
福祉用具―体位変換用具(JIS T9275)
【制定
】
在宅用電動介護用ベッド(JIS T9254)
【改正
】
|
平成28年度 | 在宅用床ずれ防止用具3規格(JIS T9256-1,2,3)
【改正
】
福祉用具-据置形手すり(JIS T9281)
【制定
】
ハンドル形電動車椅子(JIS T9208)
【改正
】
在宅用電動介護ベッド(JIS T9254)
【改正
】
病院用ベッド(JIS T9205)
【改正
】
手動車椅子(JIS T9201)
【改正
】
電動車椅子(JIS T9203)
【改正
】
福祉用具-歩行補助具-シルバーカー(JIS T9263)
【制定
】
|
平成29年度 | 福祉用具-固定形手すり(JIS T9282)
【制定
】
福祉用具-留置形手すり(JIS T9283)
【制定
】
電動6輪車椅子の試験方法(JIS T9209)
【制定
】
|
障害福祉サービス等利用者の障害種別ごとの特性や、重度化・高齢化に応じたきめ細かな支援が可能となるよう、障害特性に応じた専門性を持った人材の確保策を講じていく必要がある。
このため、これまでも平成24(2012)年度の障害福祉サービス等報酬改定(以下「報酬改定」という。)において、「福祉・介護職員処遇改善加算」を創設したことに加え、平成27(2015)年度の報酬改定においてこの加算を拡充し、職員1人当たり月額平均2.7万円相当の処遇改善を行うなどの取組を行ってきたところである。
また、更なる処遇改善に取り組むべく、平成28(2016)年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」等に基づき、平成29(2017)年4月には、競合他産業との賃金差がなくなるよう、職員のキャリアアップの仕組みを構築した事業所について職員1人当たり、月額平均1万円相当の改善を行うための臨時の報酬改定を行った。
利用者に質の高いサービスを提供する取組を継続的に行うための目安として、平成12(2000)年6月に「障害者・児施設のサービス共通評価基準」を作成し、障害者・児施設等による自己評価を実施している。
第三者評価事業については、事業の更なる普及・定着を図るため、平成16(2004)年5月に、福祉サービス共通の第三者評価基準ガイドライン、第三者評価事業推進体制等について示した指針を各都道府県に通知し、平成26(2014)年4月に更なる質の向上のため見直したところである。これを受け、平成29(2017)年2月には、障害者・児福祉サービス固有の状況を踏まえた評価が円滑に実施されるよう、障害者・児福祉サービスに係る共通評価基準及び内容評価基準等についても、見直しを行っている。
障害福祉サービス等を提供する事業所数が大幅に増加する中、利用者が個々のニーズに応じて良質なサービスを選択できるようにするとともに、事業者によるサービスの質の向上が重要な課題となっている。
このため、平成28(2016)年の障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)及び児童福祉法(昭和22年法律第164号)の一部改正に伴い、施設や事業者が事業の内容等を都道府県知事へ報告し、報告を受けた都道府県知事がこれを公表する仕組みである「障害福祉サービス等情報公表制度」を創設した(平成30(2018)年4月施行)。
福祉専門職の養成確保については、社会福祉法(昭和26年法律第45号)に基づき、社会福祉事業等従事者に対する研修や無料職業紹介事業等を実施する都道府県福祉人材センター及び社会福祉関係職員の福利厚生の充実を図る福利厚生センターが設置されるなど、総合的な社会福祉事業等従事者確保の対策が進められている。
身体上、精神上の障害等により日常生活を営むのに支障がある人に対して、専門的知識及び技術を持って福祉に関する相談援助を行う社会福祉士については、資格登録者数221,251人(平成30(2018)年3月末)、専門的知識及び技術を持って心身の状況に応じた介護(喀痰吸引等を含む。)や介護指導を行う介護福祉士については、資格登録者数1,558,897人(平成30年3月末)を数えることとなった。
精神障害のある人の社会復帰に関する相談・援助を行う精神保健福祉士を国家資格化する精神保健福祉士法(平成9年法律第131号)が平成9(1997)年12月に成立し、平成10(1998)年4月から施行された。同年以降、精神保健福祉士は着実に養成されており、資格登録者数は80,891人(平成30(2018)年3月末)を数えることとなった。
社会福祉士 | 介護福祉士 | 精神保健福祉士 | ||
---|---|---|---|---|
全体 | 国家試験 | 養成施設卒業者 | ||
221,251人 | 1,558,897人 | 1,216,609人 | 342,288人 | 80,891人 |
高齢化の進展、疾病構造の変化等に伴い、リハビリテーション等の必要性、重要性が一層増してきている。そのため、専門的な技術及び知識を有する人材の確保と資質の向上を図っていくことが重要である。
理学療法士及び作業療法士は、身体や精神に障害のある人々に対し、基本的動作能力・応用的動作能力又は社会的適応能力の回復を図るための理学療法、作業療法を行う専門職である。平成29(2017)年12月現在の資格登録者数は、理学療法士は151,588人、作業療法士は85,107人となっている。
視能訓練士は、両眼視機能の回復のための矯正訓練及びこれに必要な検査を行う専門職であり、義肢装具士は、義肢・装具の装着部位の採型並びに製作及び身体への適合を行う専門職である。平成29(2017)年12月現在の資格登録者数は、視能訓練士は14,469人、義肢装具士は5,091人となっている。
音声機能、言語機能及び聴覚に関するリハビリテーション等を行う言語聴覚士が平成10(1998)年に国家資格化され、平成29(2017)年12月現在の資格登録者数は29,198人となっている。
保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって、心理に関する支援を要する者に対し、その心理に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助等を行う国家資格「公認心理師」に関して定める公認心理師法(平成27年法律第68号)が平成27(2015)年9月に成立し、平成29(2017)年9月から施行された。平成30(2018)年9月に第1回国家試験が実施される。
理学療法士 | 作業療法士 | 視能訓練士 | 義肢装具士 | 言語聴覚士 |
---|---|---|---|---|
151,588人 | 85,107人 | 14,469人 | 5,091人 | 29,198人 |
国立障害者リハビリテーションセンター学院において、障害のある人のリハビリテーション・福祉に従事する専門職を養成する6学科を設置するとともに、現に従事している各種専門職に対して、知識・技術向上のための研修を実施している。
養成部門では、聴覚障害、音声機能障害、言語機能障害及び摂食嚥下障害のリハビリテーションを専門とする言語聴覚士を養成する言語聴覚学科、義肢装具の製作適合に従事する義肢装具士を養成する義肢装具学科、視覚障害のある人の生活訓練を専門とする技術者を養成する視覚障害学科、聴覚障害のある人のコミュニケーションにかかわる手話通訳士を養成する手話通訳学科、障害のある人々の健康づくりのための運動・スポーツ及び体育の指導を専門とする技術者を養成するリハビリテーション体育学科、医療・福祉・教育現場において、知的障害や発達障害のある児(者)の支援に携わる専門職を養成する児童指導員科を設置している。
また、研修部門では、地方公共団体や民間福祉施設等でリハビリテーション等の業務に従事する専門職に対し、最新の情報、事例の実証的研究に基づく年間30を超える研修会を実施し、社会的ニーズに対応した人材育成、各専門職のリーダー等の指導的役割を担う人材を育成している。
このほか、国立障害者リハビリテーションセンター自立支援局において、地域ボランティアや住民を対象として、また、福祉教育の一環として教員や小中学生を対象に、障害のある人に対する正しい理解と知識や援助方法の習得を目的とした研修会等を実施している。
健康診査は、リスクの早期発見による疾病等の発症予防、疾病の早期発見による重症化予防の機会として重要であり、必要に応じて保健指導に結び付ける機会でもある。
フェニルケトン尿症等の先天性代謝異常や先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)などの早期発見・早期治療のため、新生児を対象としたマススクリーニング検査の実施及び聴覚障害の早期発見・早期療育を目的とした新生児聴覚検査の実施を推進している。
また、幼児期において、身体発育及び精神発達の面から最も重要な時期である1歳6か月児及び3歳児の全てに対し、総合的な健康診査を実施しており、その結果に基づいて適切な指導を行っている。
学校においては、就学時や毎学年定期に児童生徒の健康診断を行っており、疾病の早期発見や早期治療に役立っている。
職場においては、労働者の健康確保のため、労働者を雇い入れた時及び定期に健康診断を実施することを事業者に義務づけている。
妊産婦や新生児・未熟児等に対して、障害の原因となる疾病等を予防し、健康の保持増進を図るために、家庭訪問等の個別指導による保健指導が行われている。
身体の機能に障害のある児童又は機能障害を招来する児童を早期に発見し、療育の指導等を実施するため、保健所及び市町村において早期に適切な治療上の指導を行い、その障害の治癒又は軽減に努めている。身体に障害のある児童については、障害の状態及び療育の状況を随時把握し、その状況に応じて適切な福祉の措置を行っている。
急速な人口の高齢化の進展に伴い、疾病構造が変化し、疾病全体に占める、がん、心疾患、脳血管疾患、糖尿病等の生活習慣病の割合が増加している中、健康寿命の更なる延伸、生活の質の向上を実現し、元気で明るい社会を築くためには、若いうちから生活習慣の見直しなどを通じて積極的に健康を増進し、疾病の「予防」に重点を置いた対策の推進が急務である。
このため、がん、糖尿病等のNCDs(非感染性疾患)の予防等の具体的な目標等を明記した「健康日本21(第二次)」(厚生労働省告示)に基づく国民健康づくり運動を平成25(2013)年度より開始している。
また、平成20(2008)年度から「適度な運動」、「適切な食生活」、「禁煙」に焦点を当てた新たな国民運動として「すこやか生活習慣国民運動」を展開するなど、生活習慣病対策の一層の推進を図ってきたが、平成22(2010)年度からはこの運動をさらに普及、発展させた「スマート・ライフ・プロジェクト」を開始し、幅広い企業連携を主体とした取組等を通じて、生活習慣病対策の一層の推進を図っている。
リスクの高い妊産婦や新生児などに高度な医療が適切に提供されるよう、各都道府県において、周産期医療の中核となる総合周産期母子医療センター及び地域周産期母子医療センターを整備し、地域の分娩施設との連携体制の確保などを行っている。
また、平成27(2015)年1月1日に施行された難病の患者に対する医療等に関する法律(平成26年法律第50号)に基づく医療費助成の対象疾病について、これまでに331疾病を指定している。さらに、難病の患者に対する医療等の総合的な推進を図るための基本的な方針(平成27年9月15日厚生労働省告示375号)に基づき、国及び地方公共団体等が取り組むべき方向性を示すことにより、難病の患者に対する良質かつ適切な医療の確保及び難病の患者の療養生活の質の維持向上などを図っている。平成28(2016)年度においては、厚生科学審議会疾病対策部会難病対策委員会で「難病の医療提供体制の在り方について(報告書)」が取りまとめられた。この報告書を踏まえ、都道府県において必要な医療提供体制が構築されるよう、平成29(2017)年4月に都道府県に対して、難病の医療提供体制の構築に係る手引きを通知した。これを受けて、今後、各都道府県において順次医療提供体制が整備されることとなっている。
学校安全の充実
学校においては、児童生徒等の安全を確保するための環境を整える安全管理を行っている。また、児童生徒等が自他の生命を尊重し、日常生活全般における安全に必要な事柄を実践的に理解し、安全な生活ができるような態度や能力を養うことが大切であるため、体育科、保健体育科、特別活動など学校の教育活動全体を通じて安全教育を行っている。
独立行政法人教職員支援機構(平成29(2017)年4月に「独立行政法人教員研修センター」から名称変更)においても、学校安全の充実を図るため、各都道府県において指導的な役割を果たしている小・中・高等学校・特別支援学校の教員等を対象とした「学校安全指導者養成研修」を開催し、指導者の学校安全に関する資質の向上を図っている。また、文部科学省においても、都道府県において実施される学校安全教室の講師となる教職員等に対する講習会や、教職員等向けの事件事故発生時の初期対応能力等向上のための講習会に対して支援している。
障害のある人のための医療・リハビリテーション医療の充実は、障害の軽減を図り、障害のある人の自立を促進するために不可欠である。
障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)に基づき、身体障害の状態を軽減するための医療(更生医療及び育成医療)及び精神疾患に対する継続的な治療(精神通院医療)を自立支援医療と位置づけ、その医療費の自己負担の一部又は全部を公費負担している。
また、平成30(2018)年度の診療報酬改定において、医療と障害福祉との切れ目ない支援を推進する観点から、入退院支援や退院時の指導等の要件に障害福祉サービスにおける相談支援事業者との連携を追加するとともに、自宅等で暮らす重症精神疾患患者に対する多職種共同の訪問支援等について評価の充実や継続的な支援を可能とする見直しを行った。さらに、医療的ケアが必要な児に対する長時間の訪問看護について評価の充実を行った。
国立障害者リハビリテーションセンター病院では、早期退院・社会復帰に向けて、各障害に対応した機能回復訓練を行うとともに、医療相談及び心理支援を行っている。また、障害のある人の健康増進、機能維持についても必要なサービス及び情報の提供を行っている。
交通事故や病気等により脳に損傷を受け、その後遺症等として記憶、注意、遂行機能、社会的行動といった認知機能(高次脳機能)が低下した状態を高次脳機能障害という。高次脳機能障害は日常生活の中で現れ、外見からは障害があると分かりにくく、「見えない障害」や「隠れた障害」などと言われている。このため、都道府県に高次脳機能障害のある人への支援を行うための支援拠点機関を置き、〈1〉相談支援コーディネーターによる高次脳機能障害のある人に対する専門的な相談支援、〈2〉関係機関との地域支援ネットワークの充実、〈3〉高次脳機能障害の支援手法等に関する研修等を行う「高次脳機能障害及びその関連障害に対する支援普及事業」を開始し、全国で高次脳機能障害に対する適切な対応が行われるよう取り組んでいる。
また、国立障害者リハビリテーションセンターに「高次脳機能障害情報・支援センター」を設置し、高次脳機能障害について一般の方への啓発を行うとともに、高次脳機能障害者支援に必要な最新の国内外の情報や研究成果等を集約し、高次脳機能障害のある人やその家族及び支援関係者等に役立つ情報についてホームページ等を通じて発信している。
(http://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/)
さらに、国立障害者リハビリテーションセンター学院において、「高次脳機能障害支援事業関係職員研修会」等、現に高次脳機能障害のある人に対する支援を行っている専門職を対象とした研修会を実施している。
障害のある人の健康増進については、国立障害者リハビリテーションセンターに「障害者健康増進・運動医科学支援センター」を設置し、健康の維持・増進及び活動機能の維持と低下予防、総合検診(人間ドック)及び運動と栄養の介入による生活習慣病の予防等に取り組むとともに、障害のある人の運動医科学支援と運動活動環境の支援を実施している。
刑事施設においては、医療刑務所等にリハビリテーション機器を整備し、受刑者のうち、運動機能に障害を有する者や長期療養等で運動機能が低下した者に対して、機能回復訓練を行っている。
早期に正しい難病の診断ができる体制、診断後はより身近な医療機関で適切な医療を受けることができる体制が整備できるよう、都道府県ごとの難病診療連携拠点病院、分野別拠点病院整備、難病医療協力病院の整備、保健所を中心とした在宅難病患者に対する地域での支援の強化など、地域における保健医療福祉サービスの提供を推進している。
難病患者への情報提供について、難病情報センターによりインターネットを活用して最新の医学や医療の情報等を提供している。難病患者のもつ様々なニーズに対応したきめ細やかな相談や支援が行えるよう、「難病相談支援センター」を都道府県、指定都市に設置し、地域における難病患者支援を推進している。
うつ病は、だれもがかかりうる病気であり、早期発見・早期治療が可能であるにもかかわらず、本人や周囲の者からも気づかれにくく、その対策の必要性が指摘されている。
厚生労働省では、「自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム」において、自殺の実態の把握や、より実効性の高い自殺対策について検討を行い、平成22(2010)年5月に、悩みがある人を支援につなぐゲートキーパー機能の充実や、職場におけるメンタルヘルス対策など、厚生労働分野において今後重点的に講ずべき対策をとりまとめ、それらに基づく施策を推進している。
うつ病に対する効果が明らかとなっている認知行動療法については、「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」(こころの健康科学研究事業)において実施マニュアルを作成し、厚生労働省のウェブサイトにて公開している。
平成20(2008)年度からは、うつ病の患者を最初に診療することが多い一般内科等のかかりつけ医のうつ病診断技術等の向上を図るため、146各都道府県・政令指定都市において、専門的な研修を実施しており、一般かかりつけ医の受講者数は、研修事業開始以降平成23(2011)年度までに2万人を超えている。さらに、平成23年度からは、研修対象を看護師、ケースワーカー、スクールカウンセラー等医師以外のコメディカルスタッフまで拡大した。
精神疾患についての情報提供として、こころの不調・病気に関する説明や、各種支援サービスの紹介など、治療や生活に役立つ情報を分かりやすくまとめた「みんなのメンタルヘルス総合サイト(http://www.mhlw.go.jp/kokoro/)」、10代・20代とそれを取り巻く人々(家族・教育職)を対象に、本人や周囲が心の不調に気づいたときにどうするかなど分かりやすく紹介する「こころもメンテしよう~若者を支えるメンタルヘルスサイト~(http://www.mhlw.go.jp/kokoro/youth/)」の2つのウェブサイトを、厚生労働省ホームページ内に開設している。
幼年期の児童虐待、不登校、家庭内暴力など、心の問題が社会問題化し、思春期児童への対応が急がれている。また、災害等の心的外傷体験により生じるPTSD(心的外傷後ストレス障害)は、長期間の療養期間を要するものとして、非常に注目されている。そこで、思春期精神保健の専門家の養成のために、医師、コメディカルスタッフを対象に思春期精神保健対策専門研修を行い、PTSDの専門家の養成のために、医師、コメディカルスタッフ等を対象にPTSD対策に係る専門家の養成研修会を行っている。さらに、精神保健福祉センター等で児童思春期やPTSDの専門相談等を取り入れている。
我が国における年間の自殺者数は平成10(1998)年から14年連続して3万人を超えて推移していたが、近年は減少傾向にあり、平成24(2012)年に15年ぶりに3万人を下回り、平成29(2017)年の年間自殺者数は、21,321人(男性14,826人、女性6,495人)となった。政府においては、自殺対策基本法(平成18年法律第85号)及び同法に基づく「自殺総合対策大綱」(平成19年6月閣議決定)の下、自殺対策を総合的に推進している。大綱は5年を目途に見直すこととなっており、平成24年8月、平成29年7月に大綱の見直しを行った。
平成29年に見直された大綱では、「心の健康を支援する環境の整備と心の健康づくりを推進する」「適切な精神保健医療福祉サービスを受けられるようにする」などを含む12項目について87(再掲含む)の施策を当面の重点施策としている。平成30(2018)年度は、平成29年10月に座間市で発覚した9名の方々が亡くなられた事件を受け、インターネットを通じて自殺願望を発信する若者の心のケア対策の充実を図るため、大綱に基づく施策を具体化し、ICTを活用した相談窓口への誘導、SNSによる相談、若者の居場所づくり支援に取り組む。
地域における自殺対策については、地域自殺対策強化交付金により、地域の実情に応じた実践的な自殺対策の取組を支援している。
また、生きにくさ、暮らしにくさを抱える人からの相談を24時間365日無料で受け、具体的な問題解決につなげるための電話相談事業(よりそいホットライン)を補助事業(厚生労働省から全国的な民間支援団体に補助)として実施し、地域の支援組織等と連携しつつ、自殺防止に関する相談を含む様々な相談に対応している。
アルコール・薬物・ギャンブル等の依存症は、適切な治療とその後の支援によって、回復が可能な疾患である。一方で、依存症の特性(否認や医療機関の不足等)や、依存症に関する正しい知識と理解が進んでいないことにより、依存症者や家族が適切な治療や支援に結びついていないという課題がある。
これらの課題に対応するため、これまでモデル事業として、依存症者への専門的な治療や相談支援、依存症者の家族等への相談支援などの体制整備を行ってきた。これらの取組を踏まえ、平成29(2017)年度より全国の都道府県・指定都市において依存症の専門医療機関・治療拠点機関・相談拠点の選定・設置等を行っている。さらに依存症の問題に取り組んでいる自助グループ等の民間団体への支援などを行っている。
また、平成28(2016)年度より、依存症に関する正しい知識と理解を広めるための普及啓発事業に取り組んでいる。
1.依存症とは何か
「依存症」とは、特定の何かに心を奪われ、やめたくてもやめられない病気のことであり、その対象として代表的なものに、アルコール・薬物といった「特定の物質」やギャンブルなどの「行動」があげられる。
では、依存症になるとどういったことが生じるのか。
例えば、「アルコール依存症」になった場合では、時間や場所を選ばずにお酒を飲みたくなり、いったん飲み始めると簡単にやめることが難しくなる。更に症状が進むと、健康や精神状態に悪影響を与えるだけでなく、日常生活に支障が生じ、仕事や家庭でもトラブルが起きるようになり、最悪の場合、自殺に至る場合もある。
これは、「アルコール依存症」特有の問題ではなく、「薬物依存症」や「ギャンブル等依存症」でも同様である。
依存症による悪影響は、本人だけでなく、家族や友人などにも生じ、本人以上に心身が衰弱するケースが多く見られている。この背景としては、依存症が「否認の病気」とも言われており、依存症者本人が自分の置かれている状況や問題を認めようとしにくく、また、世間の誤解や偏見により正しい支援等へつなげることが難しいことがあげられる。
2.なぜ依存症になるのか
人は、不安や緊張を和らげたり嫌なことを忘れたりするために、ある特定の行為をすることがある。こうした特定の行為を繰り返しているうちに、その行動をコントロールする脳の機能が弱くなってしまうことから、自分の意思ではやめられない状態、つまり依存症になるとされている。そのため、「根性がない人」や「意思が弱い人」だけが依存症になるといった誤解や偏見は誤りであり、他のいろいろな病気と同じように、誰でも依存症になる可能性がある。依存症を正しく理解した上で、本人に接することが大切である。
3.依存症は治るのか
依存症は、完治は難しいが、回復することが可能な病気である。そのためには適切な治療と支援を受け続けることが大切である。依存症は、自分の意思では特定の物質や行動をやめられない状態になっているため、依存症者一人だけの力で回復をすることは難しいと言われている。また、依存症者の大半は本人に自覚がなく、そのため、自ら進んで相談機関や医療機関等を訪れることはほとんど見られない。
また、依存症の問題は、依存症者本人だけでなく、その家族など周りの人にも影響を与えてしまうため、本人だけでなく周りの人に対しても支援が必要である。
4.依存症かも、と思った場合には
もしも、周りに依存症かも、と思われる人がいた場合、まずは最寄りの保健所や精神保健福祉センターに相談することが、依存症者やその家族など周囲の人を適切な支援につなげる上で重要である。また、依存症者本人又は家族同士が体験を共有しながら回復を目指していく自助グループや相談等を行っている支援団体などの仲間と繋がることも回復に向けた支えになるため、問題を家族等だけで抱え込まず、そういったグループ等へ連絡をしてみることも大切である。
精神障害のある人の人権に配慮した適正な医療及び保護の実施、精神障害のある人の社会復帰の促進、国民の精神的健康の保持・増進を図るための精神保健施策の一層の推進を図っている。
平成29(2017)年6月末現在、我が国の精神科病院数は約1,600か所、その病床数は約33万床となっており、全病院の病床数の約2割を占めている。また、平成29年6月末現在精神科病院の入院患者数は約28万4千人であり、このうち、約15万人が任意入院、約13万人が医療保護入院、約1,600人が措置入院となっており、措置入院による入院者については、公費による医療費負担制度を設けている。
このほか、夜間や土日曜でも安心して精神科の救急医療が受けられるよう精神科救急医療体制の整備をしている。
地域精神保健施策については、地域の保健所や都道府県の精神保健福祉センターを中心に取り組んでいるが、入院医療中心の施策から、社会復帰や福祉施策にその幅が広がるにつれ、身近な市町村の役割が大きくなってきている。
都道府県及び市町村は、精神保健福祉センター及び保健所等に、精神保健及び精神障害のある人の福祉に関する相談に応じ、また、精神障害のある人及びその家族等を訪問して必要な指導を行うための職員(精神保健福祉相談員)を置くことができる。
保健所においては、精神保健福祉センターや医療機関、障害福祉サービス事業者等との連携の下に、精神保健福祉相談や訪問指導等を実施している。
精神保健福祉センターにおいては、精神保健福祉に関する相談指導や技術援助、知識の普及等の業務を行っているほか、アルコール関連問題に関する相談指導、思春期精神保健対策、心の健康づくり等の事業を実施している。また、市町村は、精神障害のある人及びその家族等からの精神障害福祉に関する相談に応じ、助言を行うほか、精神保健に関しても相談に応じ、助言を行うよう努めることとされている。さらに、市町村は、精神障害のある人からの相談に応じ、必要な助言を行い、その際、必要に応じて、そのサービスの利用についてあっせん又は調整を実施している。
医科診療医療費(300,461億円) | ![]() |
精神科医療費(19,242億円) | ![]() |
精神保健医療福祉に関しては、平成16(2004)年9月に、厚生労働大臣を本部長とし、省内の関係部局長を本部員として発足した精神保健福祉対策本部において、精神保健福祉施策の改革ビジョンを決定し、「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本理念を示した。その後、平成21(2009)年9月の「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」報告書では、精神保健医療福祉体系の再構築や精神医療の質の向上などに関する様々な提言がなされたところである。
さらに、現状と課題を踏まえ、精神障害者の医療の提供を確保するための指針の策定、保護者に関する規定の削除、医療保護入院の見直し等を盛り込んだ精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)(以下「精神保健福祉法」という。)の一部を改正する法律が平成25(2013)年6月13日に成立し、同月19日に公布された。
同法においては、医療保護入院者の退院を促進するため、精神科病院の管理者に対し、 ①医療保護入院者の退院後の生活環境に関する相談及び指導を行う者(精神保健福祉士等)の設置、 ②地域援助事業者(入院者本人や家族からの相談に応じ必要な情報提供等を行う相談支援事業者等)との連携、 ③退院促進のための体制整備(医療保護入院者退院支援委員会の設置)を義務付けることとした ( ②については努力義務)。
また、同法の平成26(2014)年4月の施行を見据え、平成25年7月より「精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会」を開催し、良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針(平成26年厚生労働省告示第65号)を平成26年3月に公布した。
この指針において、長期入院精神障害者のさらなる地域移行が引き続きの検討課題とされ、平成26年3月から7月まで「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会」で検討が行われ、今後の方向性が取りまとめられた。
検討会の取りまとめでは、長期入院患者の実態を踏まえ、退院意欲の喚起や本人の意向に沿った移行支援といった退院に向けた支援と、居住の場の確保などの地域生活の支援に分け、それぞれの段階に応じた具体的な支援を徹底して実施することが盛り込まれた。
また、長期入院患者の地域生活への移行が進むと、病院においても外来治療はもとより、精神科救急、急性期医療など、退院後の地域生活を維持・継続するための医療ニーズが高まっていくことから、マンパワー等の医療資源を地域医療や救急医療等にシフトするなど、病院の構造改革を行っていくことが必要とされた。これらの方向性を踏まえ、その具体化に向けた検討を進めており、直ちに着手できるものについては着実に実行・検討するとともに、中長期的にも長期入院精神障害者の地域移行及び病院の構造改革に係る取組を総合的に実施している。
平成28(2016)年1月からは、平成30(2018)年度からの新たな医療計画等の作成に向けて地域精神保健医療のあり方について検討するとともに、平成25年に改正された精神保健福祉法の施行後3年(平成29(2017)年4月)を目途とした検討規定を踏まえた検討を行うため、有識者で構成される「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」を開催し、議論を行ってきた。これらの課題に加え、同検討会では、措置入院者の退院後の医療等の継続支援のあり方や、不正なケースレポートにより指定された精神保健指定医の指定取消処分を踏まえた指定医に関する制度の見直しについても議論を行い、報告書をとりまとめた。
この報告書の内容を踏まえ、精神保健福祉法の一部改正法案が平成29年2月28日に閣議決定され、第193回国会に提出された。同法案は平成29年9月の衆議院の解散に伴い廃案となった。
平成30年3月には、精神障害のある人が退院後に円滑に地域生活に移行できるよう「地方公共団体による精神障害者の退院後支援に関するガイドライン」を作成するとともに、152全国の地方公共団体で、措置入院の運用が適切に行われるよう、「措置入院の運用に関するガイドライン」を作成し都道府県知事等宛に通知した。
心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対しては、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(平成15年法律第110号)に基づき、適切な医療の提供及び精神保健観察等による支援が行われている。一方で、同法及び同法対象者に対する理解は十分ではなく、必要な福祉サービスが受けられないなど、社会復帰の促進が円滑に進まないこともあるという状況がみられる。
このことを踏まえ、平成30(2018)年3月に策定した障害者基本計画(第4次)において、新たに「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律の対象者の社会復帰の促進を図るため、同法対象者に対する差別の解消を進めること」を盛り込み、同法に基づく関係機関から障害福祉サービス事業者等に対し、セミナー・研修等を通じた普及啓発活動を行い、同法対象者への理解と社会復帰の促進に取り組むこととしている。
障害の原因となる疾病等の予防や根本的治療法等を確立するため、これまで障害の原因、予防、早期発見、治療及び療育に関する研究が行われてきた。これは、障害児施策の基本である障害の予防や早期治療を確立し、有機的かつ総合的に施策を推進させるための基礎となるものである。この研究の成果を踏まえ、1歳6か月児健康診査、3歳児健康診査、先天性代謝異常等検査、新生児聴覚検査等が実施されている。
厚生労働科学研究の「障害者政策総合研究事業」においては、障害を招く疾患等についての病因・病態の解明、効果的な予防、診断、治療法等の研究開発を推進している。国立障害者リハビリテーションセンターでは、失語症患者の障害者認定に必要な日常生活制限の実態調査及び実数調査等に関する研究を進めている。
また、難病に関する研究については、これまで、患者数が少なく、原因が不明で、根本的な治療方法が確立されておらず、かつ、後遺症を残すおそれが少なくない難治性疾患について、厚生労働科学研究の「難治性疾患克服研究事業」において、難治性疾患の画期的な診断法及び治療法の研究開発を推進してきた。
平成29(2017)年度は、前年度に引き続き、診療体制の構築や普及啓発、難病の治療法の確立のため、診療ガイドラインの作成等、診療の質の向上に政策に直結する研究を行う「難治性疾患政策研究事業」と、病態解明や創薬に関する研究を行う「難治性疾患実用化研究事業」を実施しており、互いに連携しながら、治療方法の開発に向けた難病研究の推進に取り組んでいる。なお、「難治性疾患実用化研究事業」については、医療分野の研究開発及びその環境の整備の実施や助成等を行う国立研究開発法人日本医療研究開発機構にて実施しており、引き続き、難病の患者に対する医療等に関する法律(平成26年法律第50号)において定義されている発病の機構が明らかでなく、治療方法が確立していない希少な疾病や、小児慢性特定疾病等であって、長期にわたり療養が必要な疾病についての研究の推進を行う方針である。
経済産業省においては、優れた基礎研究の成果による革新的な医薬品・医療機器の開発を促進するため、「再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業」「未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業」を実施し、日本が強みを有する優れた技術を応用した、日本発の革新的な医薬品・医療機器の開発を推進している。
①注視点検出による発達障害診断システム
発達障害(自閉症スペクトラム症、注意欠陥多動症)の診断において、注視点検出技術と診断プログラムを活用した機器を開発することにより、医師の客観的・定量的な診断を支援することが可能になる。
②精神症状の客観的評価デバイス
AIを用いた診断デバイス・システムで患者の表情や音声を解析することにより、うつ病・躁うつ病・認知症の重症度を定量的に評価することが可能となる。
医師については、卒前教育として、各医科大学(医学部)において、リハビリテーションに関する講座の設置や授業科目を開設するなどのほか、整形外科学、内科学等の授業科目の中でリハビリテーションに関する内容も含める等の教育を行っている。卒後教育においては、医師臨床研修制度において、研修医が達成すべき「臨床研修の到達目標」として、保健・医療・福祉の各側面に配慮しつつ、診療計画を作成し、評価するために、QOLを考慮にいれた総合的な管理計画(リハビリテーション、社会復帰、在宅医療、介護を含む)へ参画することを掲げ、また、経験が求められる疾患・病態として、一般的な診療において、頻繁にかかわる負傷又は疾病(認知症疾患・関節リウマチなど)を定めるなど、資質の向上のための方策を講じている。さらに、様々な子供の心の問題に対応するため、都道府県等における拠点病院を中核とし、各医療機関や保健福祉機関等と連携した支援体制の構築を図るための事業を実施している。
看護職員の卒前教育においては、求められる実践能力と卒業時の到達目標において、保健師は、「保健・医療・福祉サービスが公平・円滑に提供されるよう継続的に評価・改善する」、助産師は、「保健・医療・福祉関係者と連携する」、看護師は、保健・医療・福祉チームにおける多職種との協働として「対象者をとりまく保健・医療・福祉関係者間の協働の必要性について理解する」等を掲げ、様々な場面や対象者に対応できる質の高い看護職員の養成に努めている。また、卒後教育においては、都道府県が行う看護職員の実務研修などに対し、地域医療介護総合確保基金を通じ、財政支援を行い、リハビリテーションに関わる看護職員の資質向上を推進している。さらに、看護職員の確保のため、復職支援、定着促進・離職防止対策等の施策を講じているところである。