平成29年度を中心とした障害者施策の取組

三浦 聖弥さんの作品「みんなでおうえん、すてきなランナー」
平成29年度 障害者週間のポスター最優秀賞(内閣総理大臣賞)受賞
千葉県・千葉ちば県立君津きみつ特別支援学校中学部2年 三浦みうら 聖弥せいやさんの作品
「みんなでおうえん、すてきなランナー」
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第1章 障害者施策の総合的かつ計画的な推進-新たな障害者基本計画(第4次)の策定-

第1節 第4次基本計画の策定の経緯

1.第4次基本計画の検討開始までの主な取組

障害者施策に関する基本法としての位置付けを有する我が国初の法律として、昭和45(1970)年に心身障害者対策基本法(昭和45年法律第84号)が制定された。同法は、心身障害者対策の総合的推進を図ることを目的として、心身障害者の福祉に関する施策の基本となる事項等を定めており、心身障害があるため長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者を「心身障害者」と位置付けていた。

平成5(1993)年、同法は障害者基本法に改正され、従来の心身障害者に加え、精神障害により長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者についても、新たに「障害者」と位置付けられることとなった。さらに、法の目的も、障害者の自立とあらゆる分野の活動への参加の促進に改められた。

その後、平成16(2004)年の改正では、障害者差別等をしてはならない旨が基本的理念として新たに規定されるとともに、中央障害者施策推進協議会が創設された。さらに、平成23(2011)年の改正では、障害者権利条約の批准に向けた国内法整備の一環として、いわゆる「社会モデル」の考え方や「合理的配慮」の概念が新たに取り入れられるとともに、国内において障害者基本計画の実施状況を監視し、勧告を行う機関として、障害者政策委員会が新たに設置された。

この障害者基本法に基づき、平成25(2013)年9月に「障害者基本計画(第3次)」(以下「第3次基本計画」という。)が閣議決定された。第3次基本計画では、各分野に共通する横断的視点として、「障害者の自己決定の尊重及び意思決定の支援」、「当事者本位の総合的な支援」、「障害特性等に配慮した支援」、「アクセシビリティ(※1)の向上」及び「総合的かつ計画的な取組の推進」の5点が掲げられるとともに、10の分野ごとに基本的考え方や具体的な取組が示されており、障害者政策委員会における実施状況の監視を経ながら、それぞれの分野において、同計画に基づき着実に取組が進められた。

※1:アクセシビリティ
施設・設備、サービス、情報、制度等の利用しやすさのこと。

2.障害者政策委員会における検討

第3次基本計画の計画期間が平成29(2017)年度をもって満了することを踏まえ、障害者政策委員会において、平成28(2016)年10月以降、「障害者基本計画(第4次)」(以下「第4次基本計画」という。)の策定に向けた精力的な調査審議が行われた。

我が国の障害者施策の分野においては、2020年東京パラリンピックの開催決定、障害者権利条約の批准、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)(以下「障害者差別解消法」という。)の施行等の大きな動きがあり、障害者政策委員会における調査審議においては、こうした動向も踏まえつつ、第4次基本計画が第3次基本計画から質的な深化を遂げたものとなるよう、3障害者施策の大きな方向性や取り組むべき政策課題等について、大局的・俯瞰的見地より議論が行われた。

その結果、計11回にわたる審議を経て、平成30(2018)年2月、「障害者基本計画(第4次)の策定に向けた障害者政策委員会意見」が取りまとめられた。

3.第4次基本計画の策定

政府においては、障害者政策委員会の意見に即して第4次基本計画の案を作成し、パブリックコメントを経て、平成30(2018)年3月30日に第4次基本計画を閣議決定した。

第2節 第4次基本計画の位置付け及び構成

1.第4次基本計画の位置付け

第4次基本計画は、障害者基本法(昭和45年法律第84号)第11条第1項の規定に基づき、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策の総合的かつ計画的な推進を図るために策定されるものであり、政府が講ずる障害者のための施策の最も基本的な計画として位置付けられている。

2.第4次基本計画の対象期間

第4次基本計画は、平成30(2018)年度からの5年間を対象としている。

3.第4次基本計画の構成

第4次基本計画は、 Ⅰ 障害者基本計画(第4次)について」、 Ⅱ 基本的な考え方」及び「 Ⅲ 各分野における障害者施策の基本的な方向」で構成されている。

Ⅱ 基本的な考え方」では、計画全体の基本理念及び基本原則を示すとともに、各分野に共通する横断的視点や、施策の円滑な推進に向けた考え方を示している。

Ⅲ 各分野における障害者施策の基本的な方向」では、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を11の分野に整理し、それぞれの分野について、第4次基本計画の対象期間に政府が講ずる施策の基本的な方向を示すとともに、関連する様々な施策を記載している。

第4次基本計画の概要については、図表1-1のとおりである。

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■図表1-1 第4次障害者基本計画 概要
第4次障害者基本計画 概要
Ⅰ 第4次障害者基本計画とは
Ⅱ 基本理念(計画の目的)
共生社会の実現に向け、障害者が、自らの決定に基づき社会のあらゆる活動に参加し、その能力を最大限発揮して自己実現できるよう支援
Ⅲ 基本的方向
1.2020年東京パラリンピックも契機として、社会のバリア(社会的障壁)除去をより強力に推進
2.障害者権利条約の理念を尊重し、整合性を確保
(※)障害者権利条約:我が国は平成26年に批准。障害当事者の主体的な参画等を理念とする。
3.障害者差別の解消に向けた取組を着実に推進
4.着実かつ効果的な実施のための成果目標を充実
Ⅳ 総論の主な内容
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Ⅴ 各論の主な内容
1.安全・安心な生活環境の整備
2.情報アクセシビリティの向上及び意思疎通支援の充実
3.防災、防犯等の推進
4.差別の解消、権利擁護の推進及び虐待の防止
5.自立した生活の支援・意思決定支援の推進
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6.保健・医療の推進
7.行政等における配慮の充実
8.雇用・就業、経済的自立の支援
9.教育の振興
10.文化芸術活動・スポーツ等の振興
11.国際社会での協力・連携の推進
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第3節 第4次基本計画の基本的方向

1.2020年東京パラリンピックも契機とした社会的障壁の除去の強力な推進

第4次基本計画の計画期間中には、2020年東京オリンピック・パラリンピックが開催される。とりわけ、障害の有無にかかわらず、世界中からあらゆる人が集い、障害のある選手が繰り広げる圧倒的なパフォーマンスを直に目にすることのできるパラリンピック競技大会は、共生社会の実現に向けて社会の在り方を大きく変える絶好の機会となると考えられる。

このため、第4次基本計画では、2020年東京パラリンピックも契機として、障害者にとっての社会のバリア(社会的障壁)の除去に向けた取組を社会全体で強力に推進していくこととした。

具体的には、各分野に共通する横断的視点として「社会のあらゆる場面におけるアクセシビリティの向上」を掲げ、社会のあらゆる場面でアクセシビリティ向上の視点を取り入れていくこととした。また、社会全体でICTが浸透しつつあることを踏まえ、社会的障壁の除去の観点から、様々な場面でアクセシビリティに配慮したICT等の新技術の積極的な導入を進めていくこととした。

2.障害者権利条約の理念の尊重及び整合性の確保

第4次基本計画は、我が国の障害者権利条約の批准(平成26(2014)年)以降、初めて策定される障害者基本計画であり、同条約の理念を尊重するとともに、整合性を確保することとした。

具体的には、各分野に共通する横断的視点として「条約の理念の尊重及び整合性の確保」を掲げ、障害者を、施策の客体ではなく、必要な支援を受けながら自らの決定に基づき社会に参加する主体として捉えるとともに、障害者施策の検討及び評価に当たり、障害者が意思決定過程に参画し、障害者の視点を施策に反映させることが求められる旨を明記した。その上で、障害者の政策決定過程への参画の促進や、当該政策決定過程において障害特性に応じた適切な情報保障その他の合理的配慮を行うことを盛り込んだ。

3.障害者差別の解消に向けた取組の着実な推進

第4次基本計画は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律 (平成25年法律第65号)(以下「障害者差別解消法」という。)の施行(平成28(2016)年度)以降、初めて策定される障害者基本計画であり、同法の実効性ある施行を図るため、ハード・ソフトの両面から、各分野で障害者差別の解消に向けた環境の整備を着実に推進することとした。

具体的には、各分野における指針等の策定・改正等を通じて、同法に規定する環境の整備に係る具体的な考え方等を具体化するなど、障害者にも配慮した施設の整備やサービス・情報の提供等の一層の促進を図るとともに、地域において障害者差別の解消を推進するため、障害者差別解消支援地域協議会の設置を促進していくこととした。

4.成果目標の充実等

第4次基本計画を着実かつ効果的に実施していくため、全ての分野において成果目標を設定するとともに、8成果目標数を大幅に充実させた (第3次基本計画は計45、第4次基本計画は計112)。主な成果目標は、図表1-2のとおりである。

さらに、各分野に共通する横断的視点として「PDCAサイクル等を通じた実効性のある取組の推進」を掲げ、成果目標も活用しながら、各分野において障害者施策のPDCAサイクルを構築し、着実に実行するとともに、当該サイクル等を通じて施策の不断の見直しを行っていくこととした。

5.障害のある女性、子供、高齢者の複合的な困難等への配慮

障害のある女性を始め、複合的に困難な状況に置かれた障害者に対するきめ細かい配慮が求められていることを踏まえ、各分野に共通する横断的視点として「障害のある女性、子供及び高齢者の複合的困難に配慮したきめ細かい支援」を掲げた。

とりわけ、障害のある女性については、それぞれの障害種別ごとの特性、状態により様々な支援が必要であることに加え、女性であることにより更に複合的に困難な状況に置かれている場合があることから、こうした点も念頭に置いて障害者施策を策定・実施する重要性についても明記した。

6.「命の大切さ」等に関する理解の促進

平成28(2016)年7月に発生した障害者施設における殺傷事件を踏まえ、「命の重さは障害の有無によって少しも変わることはない」という当たり前の価値観を社会全体で共有し、障害のある者と障害のない者が、お互いに、障害の有無にとらわれることなく、支え合いながら社会で共に暮らしていくことが日常となるように、国民の理解促進に努めることとした。

■図表1-2 第4次障害者基本計画 主な成果目標
第4次障害者基本計画 主な成果目標
<安全・安心な生活環境の整備>
指標 現状値(直近値) 目標値
一定の旅客施設のバリアフリー化率(注1) 87.2%(段差解消)(2016年度) 約100%(同左) (2020年度)
ノンステップバスの導入率(注2) 53.3%(2016年度) 約70% (2020年度)
福祉タクシーの導入台数 15,128台(2016年度) 約28,000台 (2020年度)
注1:1日当たりの平均的な利用客数が3000人以上である全ての旅客施設のうち、バリアフリー法に基づく公共交通移動等円滑化基準に適合するものの割合
注2:公共交通移動等円滑化基準の適用除外の認定を受けた車両は母数から除外
<情報アクセシビリティの向上及び意思疎通支援の充実>
指標 現状値(直近値) 目標値
対象番組の放送時間に占める字幕放送時間の割合
97.4%(NHK総合)
99.5%(民放キー5局)(2016年度)
100% (注3) (NHK総合・民放キー5局) (2022年度)
注3:対象時間を1日当たり17時間から18時間に拡大した上で100%
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<差別の解消、権利擁護の推進及び虐待の防止>
指標 現状値(直近値) 目標値
障害者差別解消法の地域協議会の組織率 37.8%(一般市町村)(2017年4月) 70%以上(同左) (2022年度)
<自立した生活の支援・意思決定支援の推進>
指標 現状値(直近値) 目標値
発達障害者支援地域
協議会の設置率
87%(都道府県・政令市)(2016年度) 100%(同左) (2022年度)
地域生活支援拠点(注4)を整備している市町村又は障害福祉圏域の数 37市町村9圏域(2017年4月) 全ての地域 (2020年度)
注4:居住支援のための機能(相談、緊急時の受入等)を担う拠点
<保健・医療の推進>
指標 現状値(直近値) 目標値
精神病棟での1年以上の長期入院患者数 約18.5万人(2014年度) 14.6~15.7万人 (2020年度)
都道府県の難病診療
連携拠点病院の設置率
2018年4月から新たな医療提供体制を整備
100% (2022年度)
<雇用・就業・経済的自立の支援>
指標 現状値(直近値) 目標値
一定規模以上の企業で雇用される障害者数 49.6万人(50人以上)(2017年6月) 58.5万人(43.5人以上) (2022年度)
障害者就労施設等の物品等優先購入実績 171億円(2016年度) 前年度比増 (~2022年度)
<教育の振興>
指標 現状値(直近値) 目標値
個別の指導計画等の作成を必要とする児童等のうち、実際に個別の指導計画等が作成されている児童等の割合
81.9%(指導計画)
75.7%(教育支援計画)(2016年度)
おおむね100% (2022年度)
障害学生の就職先開拓、就職活動支援を行う大学等の割合 21%(2016年度) おおむね100% (2022年度)
<文化芸術活動・スポーツ等の振興>
指標 現状値(直近値) 目標値
障害者の週1回以上のスポーツ実施率
19.2% (成人)
31.5% (若年層)(2015年度)
40%程度 (成人)
50%程度 (若年層) (2021年度)
パラリンピック競技大会における金メダル数
0個 (夏季) (2016年)
3個 (冬季) (2018年)
過去最高の金メダル数
(夏季2020年, 冬季2022年)
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第4節 第4次基本計画の各分野における基本的考え方及び主な施策

各分野で掲げている基本的考え方及び主な関連施策は、それぞれ次のとおりである。

1.安全・安心な生活環境の整備

【基本的考え方】
【主な具体的施策】
※2:ユニバーサルデザイン化
施設や製品等について、誰にとっても利用しやすいデザインにするという考え方。
※3:パーキングパーミット制度
障害者等用駐車スペースを利用できる対象者の範囲を設定し、条件に該当する希望者に地域の協力施設で共通に利用できる利用証を交付する制度。

2.情報アクセシビリティの向上及び意思疎通支援の充実

【基本的考え方】
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【主な具体的施策】

3.防災、防犯等の推進

【基本的考え方】
【主な具体的施策】
※4:福祉避難所
一般の避難所では生活することが困難な要配慮者のために特別な配慮がなされた避難所。

4.差別の解消、権利擁護の推進及び虐待の防止

【基本的考え方】
【主な具体的施策】
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5.自立した生活の支援・意思決定支援の推進

【基本的考え方】
【主な具体的施策】
※5:ピアサポート
ピア(peer)は「仲間、同輩、対等者」の意。同じ課題や環境を体験する者がその体験から来る感情を共有することにより、専門職による支援では得がたい安心感や自己肯定感を得ることなどを目的とする。

6.保健・医療の推進

【基本的考え方】
【主な具体的施策】

7.行政等における配慮の充実

【基本的考え方】
【主な具体的施策】
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8.雇用・就業、経済的自立の支援

【基本的考え方】
【主な具体的施策】
※6:トライアル雇用
障害者を短期の試行雇用の形で受け入れることにより、その後の常用雇用への移行の促進を図ることを目的とする。

9.教育の振興

【基本的考え方】
【主な具体的施策】
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10.文化芸術活動・スポーツ等の振興

【基本的考え方】
【主な具体的施策】

11.国際社会での協力・連携の推進

【基本的考え方】
【主な具体的施策】
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