「障害者基本計画(第3次)」(平成25年9月閣議決定)の掲げる共生社会の実現を図るため、その理念の普及を図るとともに、障害及び障害のある人に関する国民の理解を促進し、併せて、障害のある人への配慮等について国民の協力を得るため、幅広い国民の参加による広報・啓発活動を推進することとしている。
「障害者基本計画(第2次)」(平成14年12月閣議決定)の後期の「重点施策実施5か年計画」においては、共生社会の周知度について、世代全体及び20代の若者に係る周知度を50%とする数値目標を掲げていた。内閣府が平成24年7月に実施した世論調査では、5年前の同調査よりいずれも増加しているが、世代全体が40.9%、20歳代が34.8%にとどまっており、より一層の理解促進を図ることが必要である。
障害及び障害のある人に対する国民の関心、理解を深めるとともに、障害のある人の社会参加意識の高揚を図るため、「障害者基本法」において、毎年12月3日から9日までの1週間を「障害者週間」とし、前後の期間も含め、全国で、官民にわたって多彩な行事を集中的に実施するなど、積極的な広報・啓発活動を実施している。
内閣府では、各都道府県・指定都市との共催により、将来を担う若者への広報・啓発活動の一環として、全国の小・中学生等から、障害のある人とのふれあい体験をつづった「心の輪を広げる体験作文」及び「障害者週間のポスター」の募集を「心の輪を広げる障害者理解促進事業」として実施している。平成28年度は、作文3,746編、ポスター1,468点の応募があり、この中から内閣総理大臣賞として作文3編及びポスター2点が選ばれ、表彰された。本事業では、ポスター部門の最優秀作品を原画とした「障害者週間のポスター」を作成し、全国の駅等に掲示するとともに、入賞作品集を作成し、全国の小・中・高等学校等に配布する等して、障害のある人への理解促進を図っている。入賞作品については内閣府ホームページに掲載している。
平成28年度の「障害者週間」行事については、内閣府を中心に、法務省、文部科学省、厚生労働省、国土交通省等の関係省庁、障害者関係団体、企業等の協力の下、「障害者週間」の期間を通じて東京を中心に各地において、多彩な行事を実施した。
東京では、12月2日に「障害者フォーラム2016」を開催した。第1部では「心の輪を広げる体験作文」及び「障害者週間のポスター」の最優秀作品の内閣総理大臣表彰、第2部の記念シンポジウムでは「真の共生社会とは何か、あらためて問う-全ての命と尊厳の尊重を」をテーマにパネルディスカッションを行った。(パネルディスカッションの概要については第1編第1節参照)
また、障害のある人に関する様々なテーマについて関係団体等が交替で連続して行う「障害者週間連続セミナー」を開催した。平成28年度のセミナーにおいては、障害者雇用、発達障害等について、講演やパネルディスカッション等を実施した。
このほか、「障害者週間のポスター」の優秀作品等の原画展を東京で開催した。
また、国、地方公共団体、民間の関係団体等において、地方運輸局等におけるバリアフリー教室等をはじめとして、それぞれ独自の行事や広報・啓発活動が積極的に行われた。
このほか各種の週間・月間等の活動の中でも、障害のある人への理解を深めるための広報・啓発活動が展開された。
9月1日から30日までの「障害者雇用支援月間」においては、障害のある人の雇用の促進と職業の安定を図ることを目的として、障害のある方々から募集した絵画や写真を原画とした啓発用ポスターが作成され、全国に掲示されたほか、障害者雇用優良事業所等表彰、障害者雇用支援月間ポスター原画表彰及び優秀勤労障害者表彰を始め、各都道府県においても、障害者雇用促進のための啓発活動が実施された。
10月10日から10月16日までの「第64回精神保健福祉普及運動」の期間においては、精神障害のある人に対する早期かつ適切な医療の提供及び社会復帰の促進等について、国民の理解を深めることを目的として、精神保健福祉全国大会をはじめとする諸行事が実施された。
12月4日から10日までの「人権週間」においては、障害のある人に対する偏見や差別を解消するため、「障害を理由とする偏見や差別をなくそう」を強調事項として掲げ、法務省の人権擁護機関である法務局・地方法務局及び人権擁護委員等により、全国各地で講演会の開催、ポスター・パンフレットの作成・配布等の広報・啓発活動が実施された。
平成19年12月、国連総会本会議において、毎年4月2日を「世界自閉症啓発デー」とする決議が採択されたことを受け、厚生労働省では、毎年、自閉症をはじめとする発達障害に関する正しい知識の浸透を図るためのシンポジウム等を開催している。平成29年4月8日には、「たいせつなことを あなたに きちんと伝えたい ~発達障害のこと~」をテーマとしたシンポジウムを開催した。
また、世界自閉症啓発デーを含む4月2日から8日までの「発達障害啓発週間」においては、全国の地方公共団体や関係団体等により様々な啓発活動が実施された。
高齢者、障害のある人、妊婦や子供連れの人を含む全ての人が安全で快適な社会生活を送ることができるよう、ハード、ソフト両面のバリアフリー・ユニバーサルデザインを効果的かつ総合的に推進する観点から、41その推進について顕著な功績又は功労のあった個人・団体に対して、内閣総理大臣及び高齢社会対策又は障害者施策を担当する大臣が、毎年度、表彰を行い、その優れた取組を広く普及させることとしている。平成28年度においては、6団体を表彰した。
株式会社ジェイ・ティー・アール
(埼玉県戸田市)
【厚生労働省推薦】
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株式会社静岡新聞社・
静岡放送株式会社
メディア・ユニバーサルデザインプロジェクトチーム
(静岡県静岡市)
【静岡県推薦】
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有限会社さいとう工房(東京都墨田区)
【東京都推薦】
| 誰もが入手しやすい市販機で、オーダーメイドに近い多機能電動車椅子を作ることを目指し、6年の歳月をかけて多機能選択型電動車椅子「レル・シリーズ」を開発した。「レル・シリーズ」は、まだ日本で普及していない*6輪型を採用し、直径96㎝での小さな旋回や大幅な軽量化を実現し、屋内外での傾斜がある場所においても同社開発の独自機構(平成25年4月特許取得)により、安心・安全を利用者に提供する段差越え機能を備える。また、座面の奥行、幅、高さ、座角を機械操作で簡単に調整できるようにし、寝ることを可能にしたティルト・リクライニング機能、食事や洗面時に必要な適度な姿勢をつくりだす座角変換機能等も備えている。 * 補装具費の支給制度を利用する際の額の算定基準に関係するJISの規格において、電動車椅子が「前2輪、後2輪の四輪で構成したもの」と定義されていることが原因の1つであると考えられる。社長は、JIS開発委員会及びその分科会の委員の一人として、平成28年度末までの改正JIS原案の作成にも尽力。 |
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なにわ一水
(島根県松江市)
【島根県推薦】
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ヤマハ株式会社新規事業開発部
SoundUDグループ(東京都港区)
【総務省、京都府推薦】
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座間キャラバン隊(神奈川県座間市)
【神奈川県推薦】
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平成28年度障害者週間行事
1.「障害者フォーラム2016」
障害のある人に対する理解を促進するため、全国から募集した「心の輪を広げる体験作文」及び「障害者週間のポスター」最優秀賞受賞者の表彰と受賞者による作文の朗読。
「心の輪を広げる体験作文」 | 小学生部門:益田 幸奈 |
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中学生部門:常盤 美海 | |
高校生・一般部門:山崎 嘉通 | |
「障害者週間のポスター」 | 小学生部門:岡本 彩佐 |
中学生部門:榎本 雛 |
第2部 「障害者週間」記念シンポジウム
「真の共生社会とは何か、あらためて問う-全ての命と尊厳の尊重を」をテーマに、障害者基本法等の趣旨を改めて再確認するとともに、多くの国民と全ての命と尊厳が尊重されることの大切さを広く共有し、共生社会の実現に揺るぎなく向かっていくことを確認する機会とするシンポジウムを開催。(シンポジウム概要については第1編第1節参照)
2.「障害者週間のポスター」原画展
日時:平成28年12月3日(土)~9日(金)
会場:有楽町駅前地下広場(東京都千代田区)
内容:全国の小・中学校等から公募した「心の輪を広げる体験作文」の最優秀作品及び「障害者週間のポスター」の推薦作品の原画を展示。
3.障害者週間連続セミナー
日時:平成28年12月6日(火)~7日(水)
会場:有楽町朝日スクエア(東京都千代田区)
内容:障害者週間行事の一環として、障害者週間の趣旨にふさわしいセミナーを主催する団体に会場を提供し、障害及び障害者に関する国民の理解を促進するため、連続してセミナーを実施。
4.障害者週間の広報
内閣府では、広報・啓発事業として、全国の小・中学生から募集した「障害者週間のポスター」の中から最優秀作品を図案化した啓発ポスターを作成、配布しており、平成28年度は、小・中学校、駅等に約27,000枚を掲示した。
また、政府広報等を活用した広報・啓発活動を行い「障害者週間」の周知を図るとともに、障害及び障害のある人に対する理解の促進を図った。
各種障害者施策の状況について積極的に情報提供していくことは、施策を進める上で欠くことのできないものである。
平成24年5月に設置された「障害者政策委員会」は、全国の障害のある人を始め関係者の関心が高く、会議運営に当たっても情報保障の観点から、平成28年度においても積極的な情報提供に配意している。
具体的には、毎回の会議の開始から終了までの全状況をインターネットによるオンデマンド配信として、動画、音声、手話及び要約筆記の文字情報により一定期間提供している。これに加え、会議資料を当日の会議開始と同時に内閣府のホームページに掲載するとともに、終了した会議については議事録を掲載している。また、障害者政策委員会の運営に当たっては、障害のある委員及び傍聴者の参画に資するため、視覚障害者のための資料の点字訳の提供、聴覚障害者のための手話通訳者の配置、要約筆記の提供、磁気ループの敷設などの配慮を講じている。
内閣府のホームページでは、上記に加えて「障害者白書」を始め、「障害者施策関係予算の概要」や「心の輪を広げる体験作文・障害者週間のポスター」作品集などを掲載している(http://www8.cao.go.jp/shougai/)。
また、「障害者白書」については、平成28年度からマルチメディアデイジー版を掲載し、様々な障害のある人も閲覧が可能となるようにしている。
障害者白書のマルチメディアデイジー化
障害者基本法第13条に基づき、障害者のために講じた施策の概況について、毎年、政府が国会に提出する年次報告書である「障害者白書」については、平成28年版障害者白書(平成27年度の障害者施策の概況)より、マルチメディアデイジー化し内閣府のホームページにおいて公表している。
デイジー(DAISY)とは、Digital Accessible Information SYstemの略であり、視覚障害者や普通の印刷物を読むことが困難な人々のためにカセット等に代わるデジタル録音図書の国際標準規格として、近年用いられている情報システムである。
我が国においては、近年、一般的に使用される文字や図形等を認識することが困難な発達障害等の児童生徒に対して、教科書の文字を音声で読み上げるとともに、読み上げ箇所がハイライトで表示される教材として製作され始めており、文部科学省においても、その普及促進に努めている。
マルチメディアデイジー図書は、音声にテキストおよび画像をシンクロ(同期)させることができるため、使用者は音声を聞きながらハイライトされたテキストを読み、同じ画面上で絵を見ることが可能である。マルチメディアデイジー図書は、ITを活用した一人一人のニーズに合った「読み」のスタイルを可能にするもの(デジタル録音図書)であり、視覚障害者のほか、学習障害、知的障害、精神障害等のある人にとっても、今後も有効なツールとなっていくものと考えられる。
障害のある幼児児童生徒と障害のない幼児児童生徒や地域の人々が活動を共にすることは、すべての幼児児童生徒の社会性や豊かな人間性を育成する上で大きな意義があり、同じ社会に生きる人間として、お互いを正しく理解し、共に助け合い、支え合って生きていくことの大切さを学ぶ重要な機会であると考えられる。
このため、幼稚園、小・中・高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等において、交流及び共同学習の機会を積極的に設ける旨が規定されているとともに、障害者基本法において交流及び共同学習の推進が明記されていること等も踏まえ、今後ともその一層の推進を図ることとしている。
障害のある幼児児童生徒が、自立し社会参加するためには、広く社会一般の人々が、その幼児児童生徒と教育に対する正しい理解と認識を深めることが不可欠である。
また、社会教育施設における学級・講座等においては、障害のある人に対する理解を深めることを重要な学習課題の一つと位置付け、青少年の学校外活動や成人一般、高齢者の学習活動が展開されている。
また、精神保健福祉センターや保健所では、精神障害のある人に対する正しい理解を促すため、住民に対する精神保健福祉知識の普及・啓発を行っている。
障害のある人が地域において安全に安心して生活していく上では、公務員を始め公共サービス従事者等が障害及び障害のある人について理解していることが重要である。障害者施策推進本部(旧本部)の下「公共サービス窓口における配慮マニュアル」を発行、内閣府ホームページにも掲載している。
警察では、警察学校や警察署等の職場において、新たに採用された警察職員に対する採用時教育の段階から、障害者施設への訪問実習、有識者による講話等、障害のある人の特性や障害に配慮したコミュニケーション等への理解を深めるための研修を行っている。
刑務所等矯正施設に勤務する職員に対しては、矯正研修所及び全国8か所の矯正研修所支所において、各種研修を行っているが、その中では、人権擁護、精神医学などの科目を設けて適切な対応の仕方について講義しているほか、社会福祉施設における介護等体験実習を実施するなどし、障害のある人に対する理解を促進している。
更生保護官署職員に対しては、各種研修において、職員の経験や業務内容に応じ、障害のある人や障害特性に対する理解を含む人権全般に関する知識等を深めるための講義や精神障害のある人等が入所する施設の見学を実施するなどし、障害のある人に対する理解の促進とその徹底を図っている。
法務省の人権擁護機関では、中央省庁等の職員を対象として、人権に関する国家公務員等の理解と認識を深めることを目的とした「人権に関する国家公務員等研修会」を、また、都道府県及び市区町村の人権啓発行政に携わる職員を対象として、49その指導者として必要な知識を習得させることを目的とする「人権啓発指導者養成研修会」を実施している。その中で、障害のある人をテーマとした人権問題も取り上げている。これらの取組を通して、障害のある人の人権問題を含む各種人権問題への理解と配慮の必要性を訴えている。このほか、検察職員、矯正施設職員、入国管理関係職員及び裁判官・家庭裁判所調査官に対する研修等に講師を派遣し、司法機関及び法執行機関の職員の人権問題に関する理解と認識を深めることに努めている。
日本司法支援センター(法テラス)では、全国の地方事務所で実施した高齢者・障害者疑似体験実習の成果をいかし、各地で取り組んでいる障害のある人への合理的な配慮を共有することで、職員の対応や事務所の環境の改善につなげている。また、法テラス本部においては、全国の職員が参加する研修で、外部講師を招き、障害のある人への支援の方法や、利用者の立場を理解した丁寧かつ適切な対応方法等の知識を習得させている。
学習指導要領において、道徳、総合的な学習の時間及び特別活動等において、思いやりの心や助け合いに関する指導、ボランティア活動の充実などを図っている。
また、高等学校等においては、生徒が行うボランティア活動などの学校外における学修について、校長が教育上有益と認めるときは合計36単位を上限として単位として認定することが可能となっている。
ボランティア活動の振興の基盤整備については、全国社会福祉協議会内の「全国ボランティア・市民活動振興センター」へ補助を実施している。「全国ボランティア・市民活動振興センター」では、「ボランティア全国フォーラム」の開催などのボランティア活動等に関する広報・啓発活動、情報提供、研修事業等を実施している。
内閣府では、地域における共生社会の実現に向けた課題解決に対応できる人材育成を目的とした「地域課題対応人材育成事業『地域コアリーダープログラム』」を実施した。
このプログラムは、平成27年度まで実施した「青年社会活動コアリーダー育成プログラム」の成果を活かしつつ、地域の共生社会の中核を担う人材の能力向上、地域の団体間での分野横断的ネットワーク形成等を目的としている。分野としては、障害者関連、高齢者関連、青少年関連のそれぞれの3分野において地域における社会活動に携わる日本の青年を海外に派遣するとともに、50海外の様々な組織で活動する青年リーダーを日本に招へいして地域における課題の共有や意見交換等を通じて相互に交流することにより、我が国の地域社会活動の中核を担う青年リーダーの非営利団体の運営、国・企業・地方公共団体等との連携及び人的ネットワーク形成の方法等の実務的な能力の向上および各国、各分野間のネットワークの形成を図るものである。
このうち障害者関連分野について、平成28年度は、10月に日本青年9名(団長含む)をフィンランドに派遣し、翌29年2月に英国、フィンランド及びドイツの青年リーダー計13名を日本に招へいした。
派遣プログラムでは、日本参加青年は「フィンランドの意思決定を保障する制度や取組を学び、当事者・支援者・地域住民がつながり続け、誰もがニーズを発信して自分らしく生きることができる地域づくりを実践する」をテーマにフィンランドを訪問した。社会保健省、全国障害者評議会及び在フィンランド日本国大使館においてフィンランドの障害者福祉制度の概要について講義を受けた。また、障害者人権支援団体にて、意思決定支援及び障害者の人権意識教育について説明を受け意見交換を行った。その後、アクセシビリティ支援団体にて様々なアクセシビリティの形態等の視察と理解促進について意見交換を行った。ヘルシンキ、レンパラ及びタンペレの3都市において、インクルーシブ教育推進、文化・余暇活動や就労・自立支援等、様々な活動を展開する障害者支援団体及び企業などを訪問・視察し、そこで活動する青年達との意見交換や活動への参加を通じて、障害のある人一人一人のニーズをかなえる自立支援のあり方と、日本の地域の状況に適した実践への活用方法についての考察を深めた。
招へいプログラムでは、外国参加青年は、東京で別途公募により参加した日本青年とともに「NPOマネジメントフォーラム(合宿型ディスカッション)」を行い、「地域活性化に向けた非営利団体の活動の事業展開と組織的強化」というテーマで討議した。
その後、大分県を訪問し、県の障害児・者施策の現状と取組についての説明を受けるとともに、「大分県自閉症協会」及び「大分県ダウン症連絡協議会 ひまわりの会」による説明や事例発表を踏まえた保護者との懇談、大分市中央保健所では1歳半検診見学後、意見交換を行った。また、「社会福祉法人とんとん こども発達支援センターもも・いちご保育園」では「インクルーシブ保育と療育~自己決定につなげるために~」というテーマで説明を受け、職員達とグループディスカッションを行い、「特定非営利活動法人おおいた子ども支援ネット 放課後等デイサービスなないろ」では、発達障害児のための学校と福祉施設の連携について学び、討議を行った。
大分県のプログラムの総括として「障がい児への早期支援システムと地域社会への啓発を通じた当事者の自己決定の発展」をテーマに、外国参加青年による各国の発表及び障害児・者支援に携わる人々と外国参加青年がディスカッションを行うセミナーを実施した。
障害者による人権及び基本的自由の享有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進するため、障害者の権利の実現に向けた措置などを規定した「障害者の権利に関する条約」(以下「障害者権利条約」という。)が、平成18年12月の第61回国連総会において採択され、平成20年5月に発効した。
我が国においては、この起草段階から積極的に参加するとともに、平成19年9月に署名して以来、締結に向けた国内法の整備と国会承認を経て、平成26年1月に批准書を国連に寄託し、同年2月から効力が発生している。
障害者権利条約は、障害に基づくあらゆる形態の差別の禁止について適切な措置を求めており、我が国においては、平成23年の障害者基本法の改正の際、障害者権利条約の趣旨を基本原則として取り込む形で、同法第4条に差別の禁止が規定された。
この規定を具体化するものが障害者差別解消法であり、障害を理由とする差別の解消を推進し、全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的として、平成25年6月に成立し、平成28年4月から施行された。
対象となる障害者は、障害者差別解消法第2条に規定された「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」である。
これは、障害者が日常生活又は社会生活において受ける制限は、心身の機能の障害(難病に起因する障害を含む。)のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるものとのいわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえている。したがって、対象となる障害者は、いわゆる障害者手帳の所持者に限られない。なお、高次脳機能障害は、精神障害に含まれる。
障害者差別解消法は、国や地方公共団体などの行政機関等のほか、事業者も対象に含まれる。対象となる事業者は、商業その他の事業を行う者(地方公共団体の経営する企業及び公営企業型地方独立行政法人を含む。)であり、個人事業者やボランティアなどの対価を得ない無報酬の事業を行う者、非営利事業を行う社会福祉法人や特定非営利活動法人なども、同種の行為を反復継続する意思をもって行っている場合は事業者として扱われる。
分野としては、教育、医療、福祉、公共交通、雇用など、障害者の自立と社会参加に関わるあらゆるものを対象にしているが、雇用分野についての差別の解消の具体的な措置(障害者差別解消法第7条から第12条までに該当する部分)に関しては、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(昭和35年法律123号)(以下「障害者雇用促進法」という。)の関係規定に委ねることとされている。
障害者差別解消法では、障害を理由とする差別について、「不当な差別的取扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」の二つに分けて整理している。
不当な差別的取扱いとは、例えば、正当な理由なく、障害を理由に、財・サービスや各種機会の提供を拒否したり、制限したり、条件を付けたりするような行為である。このような行為は、行政機関等であるか事業者であるかの別を問わず禁止される。
正当な理由となるのは、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否するなどの取扱いが、客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、その目的に照らしてやむを得ないと言える場合である。正当な理由に当たるか否かについては、個別の事案ごとに、障害者、事業者、第三者の権利利益(例:安全の確保、財産の保全、事業の目的・内容・機能の維持、損害発生の防止など)及び行政機関等の事務・事業の目的・内容・機能の維持などの観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である。
合理的配慮としては、障害者やその家族、介助者等、コミュニケーションを支援する人から何らかの配慮を求める意思の表明があった場合には、その実施に伴う負担が過重でない範囲で、社会的障壁(障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの)を取り除くために必要かつ合理的な配慮を行うことが求められる。
この典型的な例としては、車椅子を使う障害者が電車やバスなどに乗り降りするときに手助けをすることや、窓口で障害の特性に応じたコミュニケーション手段(筆談や読み上げなど)で対応すること、障害の特性に応じて休憩時間を調整することなどが挙げられる。こうした配慮を行わないことによって、障害者の権利利益が侵害される場合には、障害を理由とする差別に当たる。
過重な負担の有無については、行政機関等及び事業者において、個別の事案ごとに、事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)、実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)、費用・負担の程度、事務・事業規模、財政・財務状況といった要素などを考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である。
ただし、合理的配慮に関しては、一律に義務付けるのではなく、行政機関等には率先した取組を行うべき主体として義務を課す一方で、事業者に関しては努力義務とされている。これは、障害者差別解消法の対象範囲が幅広く、障害者と事業者との関係は具体的な場面などによって様々であり、それによって求められる配慮の内容や程度も多種多様であることを踏まえたものである。
障害者差別解消法第5条では、不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置(「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号)(以下「バリアフリー法」という。)に基づく公共施設や交通機関におけるバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・介助者等の人的支援、障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上など)については、個別の場面において、個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確に行うための「環境の整備」として実施に努めることとしている。(これには、ハード面のみならず、職員に対する研修などのソフト面の対応も含まれる。)
前述した合理的配慮は、こうした環境の整備を基礎として、個々の障害者に対して、53その状況に応じて個別に実施される措置である。したがって、各場面における環境の整備の状況により、合理的配慮の内容は異なることとなる。
また、障害者の状態などが変化することもあるため、合理的配慮を必要とする障害者が多数見込まれる場合や障害者との関係性が長期にわたる場合などには、その都度の合理的配慮の提供ではなく、環境の整備を考慮することにより、中・長期的なコストの削減・効率化につながる点は重要である。
政府は、障害者差別解消法第6条の規定に基づき、障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」(平成27年2月閣議決定)(以下「基本方針」という。)を定めることとされている。
基本方針の案の検討に当たっては、障害者政策委員会(障害者基本法第32条に基づき内閣府に置かれている機関。障害者や学識経験者などを委員として構成されている。)において障害者団体や事業者などの関係者からのヒアリングや審議が行われるとともに、30日間のパブリックコメントを行った上で、平成27年2月24日に閣議決定された。
国や地方公共団体などの行政機関等は、基本方針に即して、不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供に関し、その職員が適切に対応するために必要な「対応要領」を定めることとされている。(※地方公共団体の機関等の策定は努力義務)
各行政機関等の対応要領に共通して見られる記載事項は、次のとおり。
事業を所管する主務大臣は、基本方針に即して、不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供に関し、事業者が適切に対応するために必要な「対応指針」を定めることとされている。
各主務大臣の対応指針に共通して見られる記載事項は、次のとおり。
障害者差別解消法第17条において、国及び地方公共団体の機関は、相談事例等に係る情報の共有・協議を通じて、各自の役割に応じた事案解決のための取組や類似事案の発生防止などを行うネットワークとして、「障害者差別解消支援地域協議会」(以下「地域協議会」という。)を組織することができるとされた。
地域協議会は、全国一律の内容で組織されるものではなく、各地域の実情に応じた取組を主体的に行うものであることから、その設置を促進するために「障害者差別解消支援地域協議会体制整備事業」(以下「体制整備事業」という。)を内閣府で進めている。
具体的には、平成25年度に「障害者差別解消支援地域協議会体制整備事業の実施に係る同協議会の設置・運営暫定指針」(以下「暫定指針」という。)を内閣府政策統括官(共生社会政策担当)の「障害者差別解消支援地域協議会の在り方検討会」(以下「在り方検討会」という。)で示し、平成26年度からは、障害者差別解消に関する条例を既に制定している又は制定に向けて動いている地方公共団体と協力して取組を実施し、その効果や影響を在り方検討会において検証してきた。
また、平成26年度には4つの地方公共団体(岩手県、千葉県、埼玉県さいたま市、千葉県浦安市)、平成27年度には8つの地方公共団体(鹿児島県、神奈川県湘南西部圏域、新潟県新潟市、兵庫県明石市を追加)の協力のもと、各地域において地域協議会の「モデル会議」を開催し、相談体制の整備や機関連携の課題など、障害者差別の解消の推進に資する取組について協議を行った。
このモデル会議を開催した地方公共団体では体制整備事業の「中間報告会」を開催し、協議内容を関係機関と共有するとともに、内閣府において「最終報告会」を開催し、全国の地方公共団体及び関係団体に対してモデル会議の成果を報告した。
さらに、地域協議会の設置を検討する地方公共団体に対し、在り方検討会の構成員などを「アドバイザー」として派遣(平成28年度:全国23か所)し、設置に向けた課題整理などを支援することで設置を後押ししている。
こうした一連の取組を受け、より多くの地方公共団体で地域協議会の設置に向けた取組が進むよう暫定指針を改訂して「障害者差別解消支援地域協議会の設置・運営指針」(以下「設置・運営指針」という。)を策定するとともに、「障害者差別解消支援地域協議会設置の手引き」(以下「設置の手引き」という。)を作成した。
障害者差別解消法の施行から半年が経過した平成28年10月1日時点では、全ての都道府県及び政令指定都市で地域協議会を設置済み又は平成28年度内に設置予定となっている。一方、その他の市町村では、設置済み又は同年度内に設置予定の団体は3分の2程度であり、設置の方針が未定の団体も2割程度見られるなど、団体の規模によって設置の状況に差が見られるところである。
このため、内閣府政策統括官(共生社会政策担当)の下に、在り方検討会を発展させた「障害者差別解消支援地域協議会の設置等の推進に向けた検討会」(以下「設置等推進検討会」という。)を新たに開催し、8地方公共団体(三重県、大阪府、山口県、東京都八王子市、神奈川県湘南西部圏域、兵庫県明石市、岡山県総社市、福岡県北九州市)から、地域協議会の設置及び運営に当たっての工夫、課題等についてヒアリングを行った。55その後、設置等推進検討会における議論を経て、地域協議会の設置・運営等に係る課題等を整理し、設置・運営指針及び設置の手引きを一本化して、「障害者差別解消支援地域協議会の設置・運営等に関するガイドライン」を取りまとめた。
これらを活用して、各都道府県の協力を得つつ、引き続き、一般の市町村を中心に地域協議会の設置及び効果的な活用に向けた働きかけを行っていくこととしている。
内閣府では、障害者差別解消法の理解促進と円滑な施行を目指し、啓発活動を実施してきた。具体的には、「障害を理由とする差別の解消に向けた地域フォーラム」を平成28年度は全国15か所で開催し、神奈川県でのフォーラムには加藤勝信内閣府特命担当大臣が参加し、地域における取組の促進と気運の醸成を図った。この他、法の趣旨や内容について周知を図るためのリーフレットやポスターを作成している。
また、障害者差別解消法に基づく合理的配慮などの具体例を収集・整理し、データ集として「合理的配慮サーチ」を内閣府のホームページで公開している。この合理的配慮サーチでは、利用者の要望に応じた情報提供ができるよう、検索機能のほか、障害種別ごと、生活場面ごとに具体例を一覧できる仕組みを構築しており、今後も具体例を追加して内容の充実を図ることとしている。
さらに、障害者差別解消法附則第7条に定める検討等に資するため、障害を理由とする差別等について争われた裁判例について調査を行い、論点、判旨等を整理した上で内閣府のホームページで公表した。
障害を理由とする差別については、国民一人ひとりの障害に関する知識・理解の不足、意識の偏りに起因する面が大きいと考えられることから、障害者差別解消法の実効性ある施行のため、各種啓発活動に積極的に取り組む必要がある。国民各層の関心を高め、障害に関する理解と協力を促進することによって、建設的対話による相互理解を通じた合理的配慮の提供が、広く社会に浸透することが期待される。
事業者における障害者差別解消に向けた取組は、主務大臣の定める対応指針を参考にして、各事業者により自主的に取組が行われることが期待される。
しかしながら、事業者による自主的な取組のみによっては、その適切な履行が確保されず、例えば、事業者が法に反した取扱いを繰り返し、自主的な改善を期待することが困難である場合など、特に必要があると認められるときは、主務大臣又は地方公共団体の長等は、事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができるとされている(平成28年度は主務大臣等による行政措置の実績なし)。
平成18年 | 12月13日 | 第61回国連総会にて障害者権利条約 採択 |
平成19年 | 9月28日 | 日本による障害者権利条約 署名 |
平成20年 | 5月3日 | 障害者権利条約 発効 |
平成23年 | 8月5日 | 障害者基本法 改正 |
平成24年 | 9月14日 | 障害者政策委員会差別禁止部会意見取りまとめ |
平成25年 | 4月26日 | 障害者差別解消法案 閣議決定、国会提出 |
5月31日 | 〃 衆議院本会議にて可決 | |
6月19日 | 〃 参議院本会議にて可決 | |
6月26日 | 障害者差別解消法 公布 | |
9月27日 | 障害者基本計画(第3次)閣議決定 | |
11月19日 | 衆議院本会議にて障害者権利条約 承認 | |
12月4日 | 参議院本会議にて障害者権利条約 承認 | |
平成26年 | 1月20日 | 障害者権利条約締結(2月19日発効) |
平成27年 | 2月24日 | 障害者差別解消に関する基本方針 閣議決定 |
平成28年 | 4月1日 | 障害者差別解消法 施行 |
平成27年11月に閣議決定された「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本方針」において、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「東京大会」という。)を契機として、障害の有無等にかかわらず、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う「心のバリアフリー」を推進することや、全国展開を見据えつつ、東京においてユニバーサルデザインの街づくりを進めることで、共生社会を実現し、障害者等の活躍の機会を増やしていくことが位置づけられた。これを受けて、平成28年2月、東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当大臣を議長とする「ユニバーサルデザイン2020関係府省等連絡会議」を設置し、様々な障害者団体等の参画を得て、共生社会の実現に向けた施策の総合的な検討を開始した。同年12月までの間に、障害者団体(18団体)の参画する分科会を12回開催し、分野毎の専門的な議論を行った。
平成28年8月には、それまでの検討結果を踏まえ、共通の認識や施策の方向性を「中間とりまとめ」としてとりまとめた。その後も分科会における議論を継続し、平成29年2月、「ユニバーサルデザイン2020行動計画」(以下「行動計画」という。)を決定することとなった。なお、これら施策の重要性に鑑み、その決定に当たっては、同連絡会議を関係閣僚会議に格上げし、総理及び障害者団体の出席を得て、「ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議」を開催した。
今後、この行動計画をもとに、全国において、「心のバリアフリー」とユニバーサルデザインの街づくりを進め、東京大会の最大のレガシーとすべく、政府一丸となって取り組むこととしている。
行動計画で取り組む「心のバリアフリー」とは、様々な心身の特性や考え方を持つすべての人々が、相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合うことである。そのためには、一人一人が具体的な行動を起こし継続することが必要であり、そのために重要なポイントとして、以下の3点を挙げた。
「心のバリアフリー」を実現するための施策は、あらゆる年齢層において継続して取り組まれなければならない課題であるとともに、学校で、職場で、病院などの公共施設で、家庭で、買い物や食事の場で、スポーツ施設や文化施設など地域のあらゆる場において、また、日々の人々の移動においても、切れ目なく実現されなければならない。よって、以下の主な施策を含め、社会全般に渡って施策を展開することとした(図表3-1-4)。
我が国において、交通分野、建築・施設分野のバリアフリー化(情報にかかわる内容を含む)については、平成18年以降、バリアフリー法のもと、交通施設、建築物等の種類毎に目標を定め、個々の施設のバリアフリー化と地域における面的なバリアフリー化に全国的に取り組み、一定の水準まで整備が進んできた。東京大会は、こうした取組に加え、世界に誇ることのできるユニバーサルデザインの街づくりを目指して、更なる取組を行う好機である。
街づくりは極めて幅広い分野であり、かかわる施策も多岐にわたる。このため行動計画においては、大きく①東京大会に向けた重点的なバリアフリー化と②全国各地における高い水準のユニバーサルデザインの推進という2つの観点から、幅広い施策をとりまとめた(図表3-1-5)。
①東京大会に向けた重点的なバリアフリー化の取組としては、東京大会に向けてTokyo2020アクセシビリティ・ガイドラインのもと、確実に実現すべき競技会場及びアクセス経路のバリアフリー化のほか、競技会場周辺エリアや公共交通におけるバリアフリー化等に関する取組をまとめた。
また、②全国各地における取組については、各地のバリアフリー水準の向上のため、バリアフリー基準等の改正のほか、関心の高まっている観光地や都市部等における複合施設(大規模駅や地下街等)における面的なバリアフリー推進、公共交通機関におけるバリアフリー化、ICTを活用した情報発信、トイレの利用環境改善等についての取組をまとめている。主な施策としては以下が挙げられる。
なお、平成28年12月で施行後10年が経過したバリアフリー法を含む関係施策について、平成29年度中に検討等を行う等により、そのスパイラルアップを図ることとしている。