第4章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり

第1節 障害のある子供の教育・育成に係る施策

1.特別支援教育の推進をはじめとする一貫した支援体制の整備

(1)特別支援教育の推進

障害のある子供の能力や可能性を最大限に伸ばし、自立し社会参加するために必要な力を養うため、一人一人のニーズに応じた、きめ細かな教育を行う必要がある。このため、特別支援学校や小・中学校の特別支援学級においては、特別の教育課程や少人数の学級編制の下、特別な配慮により作成された教科書、専門的な知識・経験のある教職員、障害に配慮した施設・設備等を活用して指導が行われている。また、通常の学級においては、通級による指導(※1)のほか、習熟度別指導や少人数指導などの障害に配慮した指導方法、支援員の活用など一人一人の教育的ニーズに応じた教育が行われている。

平成26年5月1日現在、特別支援学校及び小・中学校の特別支援学級の在籍者並びに通級による指導を受けている幼児児童生徒の総数は約40万6千人、このうち義務教育段階の児童生徒は約34万人であり、これは同じ年齢段階にある児童生徒全体の約3.3%に当たる。

近年、特別支援学校に在籍する幼児児童生徒の障害の重度・重複化がみられること、通常学級に在籍する発達障害のある児童生徒への教育的対応が求められることなどの状況の変化を踏まえ、平成19年より、幼稚園、小・中学校、高等学校等において、教育上特別の支援を必要とする全ての児童生徒等に対して、障害による学習上又は生活上の困難を克服するための教育を行うこととされた。あわせて、従来の盲・聾・養護学校の制度は、障害の重複化に対応するため、複数の障害種別を受け入れることができる特別支援学校の制度に転換され、これまで蓄積してきた専門的な知識・技能を生かし、地域における特別支援教育のセンターとしての機能・役割を果たすため、幼稚園、小・中学校、高等学校等の要請に基づき、これらの学校に在籍する障害のある児童生徒等の教育に関して助言・援助を行うよう努めることとされた。

これに加え、文部科学省においては、拡大教科書など、障害のある児童生徒が使用する教科用特定図書等(※2)の普及を図っている。

具体的には、できるだけ多くの弱視の児童生徒に対応できるよう標準的な規格を定めるなど、教科書発行者による拡大教科書の発行を促しており、平成27年度に使用された、小・中学校の学習指導要領に基づく検定済教科書に対応した標準規格の拡大教科書は、全点発行されている。また、教科書発行者が発行する拡大教科書では対応できない児童生徒のために、一人一人のニーズに応じた拡大教科書などを製作するボランティア団体などに対して、教科書デジタルデータの提供を行っている。この他、通常の検定教科書において一般的に使用される文字や図形等を認識することが困難な発達障害等のある児童生徒に対しては、教科書の文字を音声で読み上げるとともに、読み上げ箇所がハイライトで表示されるマルチメディアデイジー教材等の音声教材がボランティア団体等により製作されており、文部科学省においても必要な調査研究等を行うなど、その普及推進に努めている。

さらに、障害のある児童生徒の情報活用能力を育成するとともに、障害を補完し、学習を支援する補助手段として、情報通信技術などの活用を進めることが重要である。平成26年度からは「先導的な教育体制構築事業」において、クラウド等の最先端の情報通信技術を活用し、38学校間、学校・家庭が連携した実証研究を、特別支援学校も含めて行っている。

また、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所において、障害のある子供の教育に関する実際的・総合的な研究活動を行うとともに、それを核として、研修事業や教育相談事業、情報普及活動等を一体的に実施するなど、幅広い事業や活動を展開している。

また、インクルーシブ教育システムの構築という障害者権利条約の理念を踏まえた特別支援教育の在り方について検討を行うため、中央教育審議会の「特別支援教育の在り方に関する特別委員会」において審議が行われ、平成24年7月には、「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(初等中等教育分科会報告)」が取りまとめられた。本報告においては、①共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築について、②就学相談・就学先決定の在り方について、③合理的配慮の充実とその基盤となる教育環境整備等について、④多様な学びの場の整備と学校間連携等の推進について、⑤教職員の専門性向上等について提言された。

さらに、同報告等を踏まえ、平成25年8月には、障害のある児童生徒等の就学手続について、特別支援学校への就学を原則とする従前の仕組みを改め、市町村の教育委員会が、障害の状態、教育上必要な支援の内容、地域における教育の体制の整備の状況その他の事情を勘案して、総合的な観点から就学先を決定する仕組みとするなどの学校教育法施行令の改正を行った。

また、平成26年1月に我が国は障害者権利条約を批准したところであり、インクルーシブ教育システムの構築に向けた特別支援教育を推進することとしている。また、高等学校においては、小・中学校等のような通級による指導が制度化されていないことから、制度化に向けた検討を協力者会議において平成27年11月から開始したところであり、平成28年3月に報告を取りまとめた。


※1:通級による指導:小・中学校の通常の学級に在籍し、言語障害、自閉症、情緒障害、弱視、難聴、学習障害(LD)・注意欠陥多動性障害(ADHD)などのある児童生徒を対象として、主として各教科などの指導を通常の学級で行いながら、障害に基づく学習上又は生活上の困難の改善・克服に必要な特別の指導を特別の場で行う教育形態である。

※2:教科用特定図書等:視覚障害のある児童及び生徒の学習の用に供するため検定済教科書の文字、図形等を拡大して複製した図書(いわゆる「拡大教科書」)、検定済教科書を点字により複製した図書(いわゆる「点字教科書」)、その他障害のある児童生徒の学習の用に供するために作成した教材であって検定済教科書に代えて使用し得るもの。

(2)地域・学校における支援体制の整備

ア 発達障害のある子供の支援をめぐる状況

発達障害のある子供に対しては、発達障害者支援法の施行(平成17年)や、学校教育法施行規則の一部改正(平成18年)等により、新たにLD及びADHDを対象とした通級による指導を可能とし、併せて従来から対象としていた自閉症についても情緒障害から独立して実施できることとした。

さらに、学校教育法の一部改正(平成18年)により、幼稚園、小・中学校、高等学校及び中等教育学校のいずれの学校においても、発達障害を含む障害のある幼児児童生徒に対する特別支援教育を推進することが法律上明確に規定された。

また、発達障害のある子供への支援については、教育、医療、福祉、保健、労働関係機関等の連携が重要であることに鑑み、文部科学省と厚生労働省の両省主催で「発達障害支援関係報告会」を、毎年開催している。

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イ 幼稚園から高等学校段階までの校内支援体制整備

文部科学省では、厚生労働省の実施する障害児関連施策・事業や就労施策等と連携して、幼稚園、小・中学校、高等学校、特別支援学校等の全ての学校において、発達障害を含む障害のある幼児児童生徒への支援体制を整備するため、その経費の一部を補助している。本事業では、関係機関との連携、学校への巡回相談や専門家チームによる支援、研修体制の整備・実施等により、特別支援教育の体制整備を推進している。

さらに、公立幼稚園、小・中学校及び高等学校に在籍する障害のある子供をサポートする「特別支援教育支援員」の配置に係る経費が各市町村に対して地方財政措置されている。

また、障害者基本計画(第三次)においては、特別支援教育の更なる推進を図るため、平成29年度までに個別の教育支援計画策定率を一人一人の教育的ニーズに応じた支援を推進する観点から80%にすることや、現状の体制整備状況を踏まえ、公立の幼稚園、高等学校における校内委員会の設置率や特別支援教育コーディネーターの指名率を90%にすることなどを数値目標として盛り込んでおり、着実な取組が進められているところである(図表4-1のとおり)。

ウ モデル事業の実施等

文部科学省では、発達障害を含め、障害のある幼児児童生徒への特別支援教育を推進するため、早期からの教育相談・支援体制の構築、キャリア教育・就労支援等の充実、発達障害の可能性のある児童生徒に対する支援、教職員の専門性向上、学習上の支援機器等教材の開発・普及等に関する事業を行っている。各取組の成果については、文部科学省のホームページで広く全国に情報提供している。

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特別支援教育の対象の概念図[義務教育段階]

義務教育段階の全児童生徒数 1019万人
特別支援学校
視覚障害
聴覚障害
知的障害
肢体不自由
病弱・身体虚弱
0.67%
(約6万9千人)
小学校・中学校
特別支援学級
視覚障害
聴覚障害
知的障害
肢体不自由
病弱・身体虚弱
言語障害
自閉症・情緒障害
1.84%
(約18万7千人)
通常の学級
通級による指導
視覚障害
聴覚障害
肢体不自由
病弱・身体虚弱
言語障害
自閉症
情緒障害
学習障害(LD)
注意欠陥多動性障害(ADHD)
0.82%
(約8万4千人)
3.33%
(約34万人)
発達障害(LD・ADHD※1・高機能自閉症等)の可能性のある児童生徒
6.5%程度の在籍率※2
※1:LD(Learning Disabilities):学習障害、ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder):注意欠陥多動性障害
※2:この数値は、平成24年に文部科学省が行った調査において、学級担任を含む複数の教員により判断された回答に基づくものであり、医師の診断によるものでない。
(※2を除く数値は平成26年5月1日現在)
資料:文部科学省
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■ 図表4-1 学校における特別支援教育体制整備状況
国公私立計・小中計・項目別実施率ー全国集計グラフ(平成26年度)
国公私立計・小中計・項目別実施率ー全国集計グラフ(平成26年度)
国公私立計・幼小中高計・項目別実施率ー全国集計グラフ(平成19~26年度)
国公私立計・幼小中高計・項目別実施率ー全国集計グラフ(平成19~26年度)
※点線箇所は、作成する必要のある該当者がいない学校数を調査対象校数から引いた場合の作成率を示す。
資料:文部科学省
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■ 図表4-2
〇インクルーシブ教育システム構築事業
平成26年度予算額 1,324百万円
(平成25年度予算額 1,258百万円)
改正障害者基本法の趣旨等を踏まえ、インクルーシブ教育システムの構築に向けた取組として、特別支援教育の専門支援人材の配置・活用等を推進しつつ、早期からの教育相談・支援体制の構築幼稚園、小・中学校、高等学校等における合理的配慮の充実及び拠点地域・学校における調査研究インクルーシブ教育システム構築に関するデータベースの整備合理的配慮の関連知識の習得及び情報共有を図るためのセミナー開催等を行う。さらに、引き続き医療的ケアのための看護師配置等を行う。
就学期以前 小・中学校 高等学校
◆早期からの教育相談・支援体制の構築
(40地域・早期支援コーディネーター約120人の配置)
◆インクルーシブ教育システム構築モデル事業 (65地域・合理的配慮協力員約130人の配置)
  • 特別な支援が必要となる可能性のある子供及びその保護者に対し、早期から情報提供や相談会の実施等に取り組み、障害のある子供一人ひとりの教育的ニーズに応じた支援を保障する就学先を決定する。
早期支援コーディネーター
  • 幼・小・中・高におけるインクルーシブ教育システム(通級による指導等の活用を含む)の実現に向けた合理的配慮の調査研究を実施。
  • 小・中において、インクルーシブ教育システムを特別支援学級と通常の学級の交流及び共同学習の形で追及する。
  • 特別支援学校と小・中・高において、インクルーシブ教育システムを特別支援学校と通常の学級の交流及び共同学習の形で追及する。
  • インクルーシブ教育システムを域内(市町村又は複数の市町村)の教育資源(通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校)を活用する形で追及する。
取組の収集・蓄積
◆インクルーシブ教育システム構築データベース(独立行政法人国立特別支援教育総合研究所)[運営費交付金に計上]
  • 合理的配慮を確保しつつ、インクルーシブ教育システムに先導的な取組を実施している拠点地域・学校での取組についてデータベースを整備し、普及促進と共有化を図る。
◆「合理的配慮」普及啓発セミナーの開催(文部科学省・6ブロックで実施)
  • 市町村教育委員会や学校関係者に対して、合理的配慮に関する関連知識の習得と情報共有による、就学事務の円滑化を図るため、セミナー等を開催。
◆就学奨励費の支給対象拡大
[特別支援教育就学奨励費負担等に計上]
  • 就学奨励費の支給対象を拡大し、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒の就学を支援する。
◆医療的ケアのための看護師配置(約330人)
  • 特別支援学校に在籍する医療的ケアを必要する子供に対応するため看護師を配置する。
◆特別支援学校機能強化モデル事業
(36地域・ST、OT、PT、心理学の専門家等約720人の配置)
  • 複数の特別支援学校が連携し、機能別等の役割分担をしながらセンター的機能の機能強化を図る。都道府県・指定都市教育委員会は、そのために必要な専門家(ST、OT、PT、心理学の専門家等)を特別支援学校等に派遣する。また、キャリア・職業教育、ICT・AT活用など今日的課題への対応も行う。
  • 視覚障害、聴覚障害、病弱・身体虚弱について、各県ごとの教育資源が少数しか存在しないことから、広域的な取組を促すことにより、専門性向上も含めた体制整備を促進する。
特別支援学校(幼稚部・小学部・中学部・高等部)
インクルーシブ教育システム推進事業費補助
平成28年度予算額 1,001百万円(新規)
障害者権利条約の批准や改正障害者基本法の趣旨及び平成28年4月からの障害者差別解消法の施行等を踏まえ、インクルーシブ教育システムの推進に向けた取組として、都道府県等が、①特別支援教育専門家等(早期支援コーディネーター、合理的配慮協力員、外部専門家、看護師)の配置及び②連携協議会及び研修による特別支援教育の体制整備をする場合に要する経費の一部を補助する。
Ⅰ 特別支援教育専門家等配置
①早期支援コーディネーター
  • 自治体が行う早期からの教育相談・支援に資するため、関係部局・機関等や地域等との連絡・調整、情報収集等を行う。(94人)
早期支援コーディネーター
②合理的配慮協力員
  • 各学校の設置者及び学校が、障害のある子供に対して「合理的配慮」の実践に資するため、学校内外・関係機関との連絡調整、特別支援教育コーディネーター等のアドバイザー、保護者の教育相談の対応の支援等を行う。(282人)
合理的配慮協力員
③外部専門家
  • 特別支援学校のセンター的機能を充実させ、特別支援学校全体としての専門性を確保するとともに、特別支援学校以外の多様な学びの場における特別支援教育の体制を整備するため、外部専門家を配置・活用する。(428人)
外部専門家
④医療的ケアのための看護師
  • 学校において日常的にたんの吸引や経管栄養等の「医療的ケア」が必要な児童生徒が増加している状況を踏まえ、これらの児童生徒の教育の充実を図るため、学校に看護師を配置し、医療的ケアの実施等を行う。(1,000人)
医療的ケアのための看護師
Ⅱ 特別支援教育体制整備の推進
①特別支援連携協議会
  • 医療・保健・福祉・労働等との連携を強化し、社会の様々な機能を活用できるようにするため、特別支援連携協議会の設置し、障害のある子供の教育の充実を図る。
特別支援連携協議会
②研修
  • 管理職(校長等)や各学校を支援する指導主事を対象とした学校全体としての専門性を確保するための研修。
  • 担当教員としての専門性の向上のための研修。
研修
補助率:1/3
補助対象者:都道府県・政令指定都市・中核市(市区町村は間接補助)
資料:文部科学省
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(3)障害児保育の推進

厚生労働省においては、障害のある児童の保育所での受入れを促進するため、昭和49年度より障害児保育事業において保育所に保育士を加配する事業を実施してきた。

当該事業については、事業開始より相当の年数が経過し、保育所における障害のある児童の受入れが全国的に広く実施されるようになったため、平成15年度より一般財源化し、平成19年度より地方交付税の算定対象を特別児童扶養手当の対象児童から軽度の障害児に広げる等の拡充をしている。

また、平成27年度より施行した子ども・子育て支援新制度においては、①障害のある児童等の特別な支援が必要な子供を受け入れ、地域関係機関との連携や、相談対応等を行う場合に、地域の療育支援を補助する者を保育所、幼稚園、認定こども園に配置、②新設された地域型保育事業について、障害のある児童を受け入れた場合に特別な支援が必要な児童2人に対し保育士1人の配置を行うこととしている。

このほか、障害のある児童を受け入れるに当たりバリアフリーのための改修等を行う事業や、障害児保育を担当する保育士の資質向上を図るための研修を実施している。

(4)放課後児童クラブにおける障害のある児童の受入推進

共働き家庭など留守家庭の小学生に対して、放課後等に適切な遊びや生活の場を与える放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)においては、療育手帳や身体障害者手帳を所持する児童に限らず、これらの児童と同等の障害を有していると認められる児童も含めて可能な限り障害児の受入れに努めているところである。

障害児の受入れを行っている放課後児童クラブは、年々、着実に増加しており、平成27年5月現在で、全22,608クラブのうち約54%に当たる12,166クラブにおいて、30,352人を受け入れている状況である。

障害児を受け入れるに当たっては、個々の障害の程度等に応じた適切な対応が必要なことから、障害児を1人以上受け入れている放課後児童クラブに専門的知識等を有する職員を配置するために必要な経費を補助しているところである。

■ 図表4-3 障害児保育の実施状況推移
注: 児童数は、特別児童扶養手当支給対象児童数
図表4-3 障害児保育の実施状況推移
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加えて、平成27年度からは、消費税財源を活用して、障害児5人以上の受入れを行う場合について、更に1名の専門的知識等を有する職員を配置するために必要な経費の上乗せ補助を行っており、放課後児童クラブの利用を希望する障害児が放課後児童クラブを適切に利用できるよう支援している。