第五章だいごしょう  過去かこ

このしょう登場とうじょうする未来みらい姿すがた

えらべる配達はいたつ

ドローンがそらから、ライドシェアのくるま玄関げんかんに、スーパーがまるごと近所きんじょに。いろいろ無人むじん配達はいたつをネットでえらべて、もの難民なんみん解消かいしょう

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健康けんこう100ねんボディ

ハイキングにあつまったのはやく80~100さいみな元気げんき一杯いっぱいだが、身体しんたい一部いちぶ補助ほじょアームやARエーアールグラスなどを装備そうび

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手元てもとにマイ工場こうじょう

にち用品ようひん雑貨ざっかなど、データをって自分じぶんでプリント。ごろまなんだプログラミングで世界せかいひとつだけのデザインに加工かこう

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クルマヒコーキ

自動じどう運転うんてんくうりくりょうようタクシーがきん中距離ちゅうきょり輸送ゆそう手段しゅだん成長せいちょう過疎かそ高齢者こうれいしゃ障害者しょうがいしゃあしとなり、事故じこ渋滞じゅうたい大幅おおはば解消かいしょう

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時空じくうメガネ

歴史れきしのある観光かんこう名所めいしょなど、ARエーアールきな時代じだい風景ふうけい再現さいげんおとかおりなども再現さいげんすることで、より感動的かんどうてき体験たいけんに。

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  本日ほんじつかいせいです。あめ心配しんぱいはありません」

  かったわ。まさにハイキング日和びよりね」

  御年おんとし一〇〇ひゃくさいユキヨは都市としからはとおはなれた農村部のうそんぶ一人ひとりらしをしている。そんなユキヨのらしをささえているのが家庭かていようロボットのタダだ。一人ひとりらしの高齢者こうれいしゃ」という若干じゃっかんさびしさをびた言葉ことばいま時代じだいにはてはまらない。いまでは、まごのケンスケ一家いっかのような世帯せたいよりも、若者わかもの高齢者こうれいしゃの「おひとりさま」世帯せたいがメジャーになっており、家庭かていようロボットのラインナップもたんしん世帯せたい前提ぜんていとしたものが充実じゅうじつしている。

  充実じゅうじつしているのはロボットだけではない。農村部のうそんぶでは、目的地もくてきちへの移動いどうやちょっとしたもの一苦労ひとくろうで、とくにユキヨのような高齢者こうれいしゃにとっては、ちょっとした外出がいしゅつちょうほうするくうりくりょうようの「クルマヒコーキ」や、にち用品ようひんくすりなどをとどけてくれる「はいそうドローン」、食料しょくりょうひんなどをりにてくれる「無人むじんスーパー」など、「えらべる配達はいたつ」サービスがとてもちょうほうしている。

  また、人生じんせい100ねん時代じだいわれてひさしいが、もっとかせないのは健康けんこうケンスケからそつ寿じゅのおいわいにもらった補助ほじょレッグのおかげで、健康けんこう100ねんボディ」となり、一〇〇ひゃくさいむかえたいまでも、簡単かんたんなハイキングコースをあるくことができている。今日きょうは、仲間なかまたちとのハイキングのである。

  登山とざんようつえわすれずにおちください」

  タダがつえゆびした。

  「あたりまえよ、わたし自慢じまんまごたちと一緒いっしょかんがえた世界一せかいいちつえなのよ」

  ユキヨはまんめんみをかべながら、手元てもとにマイ工場こうじょう』でつくったそれをり、遠方えんぽうにいるいとしいまごたちのことをおもかべた。

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デザインはユキヨ、キヨタカ、ハルカの三人さんにんかんがえた。最後さいごは、ユキヨが使つか勝手がって安全性あんぜんせい考慮こうりょしてデザインを調整ちょうせいし、3Dスリーディープリンタでつくったのだ。つえのようなかたちまっているものは自宅じたくつくるのが主流しゅりゅうになりつつあるが、もうすこ複雑ふくざつ家庭かてい用品ようひんは、通常つうじょう設計せっけいデータをネットで購入こうにゅうし、いろやサイズをカスタマイズして注文ちゅうもんすると、数日後すうじつごには自宅じたくまではいそうしてくれる。

  つぎはいついにてくれるのかしら

  ふとユキヨがつぶやくと、

  「ハルカさまと来週らいしゅう海底かいてい探検たんけん予定よていはいっていますよ」

  と、すかさずタダがおしえてくれた。

  わたしがハルカのことをわすれていたとでもいたいの?」

  ユキヨはみをかべながらそうった。

  おっとのケンジをくしたあとはな相手あいてにもこまったものなのに、タダがてからというもの、くちうるさくなったものだと反省はんせいしながらも、ロボットにすらちょっと意地悪いじわるってしまう自分じぶんが、ユキヨはなぜか可笑おかしかった。

  しかし、ケンジのかおおもかべた瞬間しゅんかんなんともいえない不思議ふしぎ感覚かんかくがした。なにかをわすれているような、うまい言葉ことばつからないが、どうにもかない不安ふあんおもい。

  「ゆっくりお食事しょくじしていただきたいところですが、そろそろ出発しゅっぱつしないといませんよ

そうタダにかされたユキヨは、『クルマヒコーキ』にった。

  ハイキングコースの出発しゅっぱつとなるやまふもと到着とうちゃくすると、すでにメンバーがあつまっていた。

  「あーらユキヨちゃん、おそいわよ」

  「ちょっとロボちゃんとはなしこんじゃって。ごめんなさい」

  ユキヨにこえをかけたのはナオコ。ユキヨよりふたとしうえである。ほかにも八〇歳はちじゅっさいから一〇〇ひゃくさいだい参加者さんかしゃあつまり、今日きょうのハイキングがおこなわれる。

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みなユキヨとおなじように補助ほじょレッグをそうちゃくしており、簡単かんたんやまのハイキングはたのしむことが可能かのうとなった。

  補助ほじょレッグがあるとはえ、きんもつ各々おのおのかる体操たいそうをはじめる。この補助ほじょレッグ、着地ちゃくちさいのアシストまでついているすぐれもので、まんいちよろけたときにもりがくようになっている。

  「それではまいりましょうかね」

  準備じゅんび体操たいそうえ、ナオコの先導せんどうでハイキングがスタートした。

  ユキヨもナオコにならび、とも仲間なかまたちひきいてハイキングコースをすすむ。みしめるつち感覚かんかくあるくほどんでいく空気くうき心地ここちよい。

  かえってえる家々いえいえがだいぶちいさくなってきたころみちばたにあるいしすわってしょうきゅうり、じんわりとかいてきたあせぬぐう。

  だが、ナオコはすわることもなく、がんひろがる景色けしきながめながら「気持きもちいいわー! ね、ユキヨちゃん!」とかたりかける。

  それなりの距離きょりあるいてきたが、再生さいせい医療いりょう技術ぎじゅつ進歩しんぽによってしんぱい機能きのう改善かいぜんされたナオコにとってはこの程度ていどなんてこといらしい。

  「ええ。本当ほんとうまごたちとも一緒いっしょたいわね」

  ったつえをやるとかおおもかぶ。わたしにとっては、このつえある元気げんきをくれるようながした。休憩きゅうけいわってふたたあるはじめても、それぞれ休憩きゅうけいちゅう会話かいわつづいているようだ。ユキヨのうしろでおしゃべりしているのは、参加者さんかしゃなかでは若者わかものにあたる八十歳はちじゅっさいえたばかりのミホとヒトミだ。

  「このまえデートした相手あいて最悪さいあくでさぁ、ARエーアールデートにこくしてくるのよ」

  ぎゃくにリアリティがあっていんじゃないの」ミホのはなしわらってかえすヒトミ。

  ユキヨはミホのARエーアールという言葉ことばっかかった。なにか、それもとても大事だいじなことをわすれているような、そんな感覚かんかくおちいったのだ。

  「ミホさん、そのはなしもうすこかせて」

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  いきなりはなしいついてきたユキヨにミホは戸惑とまどいの表情ひょうじょうかくせない。

  つづきのはなしかせてもらったが、そのなに大事だいじなことの正体しょうたいめられなかった。

  順調じゅんちょうすすめ、全員ぜんいん無事ぶじ頂上ちょうじょう辿たどいた。

  「はぁぁ。いたわね。苦労くろうしてあるいて目的地もくてきち辿たどくと、やっぱり達成たっせいかんがあるわね」

  そう仲間なかまはなしながら、頂上ちょうじょうから景色けしき見渡みわたす。

  ユキヨはなつかしい感覚かんかくおぼえた。むかしよくせてもらった景色けしきだ。

  山頂さんちょうからの景色けしきて、ようやく大事だいじなにかの正体しょうたいにたどりいた。今日きょうくなったおっとケンジとの結婚けっこん記念日きねんびだったこと。そして、毎年まいとし結婚けっこん記念日きねんびには、ARエーアール技術ぎじゅつ利用りようして、ケンジとおものレストランに食事しょくじをする予定よていだったこと。

  技術ぎじゅつ進歩しんぽし、くなったひと生前せいぜんのデータにもとづき、ARエーアールデートをたのしむことが出来できるようになっているのだ。アイウェアをかけると、リアルな空間くうかんにバーチャルな相手あいてあらわれる。その相手あいては、生前せいぜんのデータをAIエーアイ学習がくしゅうすることにより、人格じんかく性格せいかく忠実ちゅうじつ再現さいげんされているだけではなく、過去かこ記憶きおく現在げんざい状況じょうきょう反映はんえいし、まるでそのひといま実在じつざいするかのようにってくれる。

  予定よてい時刻じこくおくれると、むかしおなじようにおっとはきっとげんになるだろう。

  大変たいへん!!」

  「ど、どうかしたのユキヨちゃん

  突然とつぜんさけごえおどろくナオコ。

  あるききった達成たっせいかんときれいな景色けしきたのしむのもそこそこに、ユキヨはさき下山げざんはじめた。このあと仲間なかまたちとのかいけないのは残念ざんねんだが、今日きょうだけは参加さんかするわけにはいかない。

  いそいでふもともどると、うんくクルマヒコーキがちかくをんでいたので、すかさずつかまえた。

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クルマヒコーキは、タクシー事業じぎょうにもひろもちいられるようになり、あちこちあそびにきたい活発かっぱつなユキヨにはぴったりのものだ。座席ざせきこしけ、

  第二公園だいにこうえんまでおねがい。いそいでよろしく」

  音声おんせい認識にんしきソフトがさき特定とくていし、適切てきせつなルートが設定せっていされ、

  目的地もくてきちまで二〇分にじゅっぷんです」

  そうナビがうと、すぐにはっしんした。ユキヨはおおあわてでメイクをなおし、かみがたととのえる。本当ほんとうはもっとおしゃれな格好かっこうをしたかったが、いまさらやんでも仕方しかたない。ハイキングであせをかいたけれど、二〇分間にじゅっぷんかん大人おとなしくしていればある程度ていどくだろう。

  わせは、二人ふたりがよくあそびにいった公園こうえん噴水ふんすいまえである。

  「ケンジさん!!」

  アイウェアしに、噴水ふんすいふちこしけるケンジの姿すがたはいり、おもわず名前なまえんでいた。ケンジはんでいたほんからかおげ、ユキヨの姿すがたつけるとほそめた。やはり何度なんどARエーアールデートを体験たいけんしても、この瞬間しゅんかんばかりはきそうになる。非常ひじょうこまかなぐさまでもが、すべてユキヨの記憶きおく一致いっちしているのだ。

  「やれやれ、こんなまでこくかい」

  おこったようにわらかおも、よくとおこえも、本当ほんとうにケンジそのままである。

  「ごめんなさい! ちょっとハイキングってて

  「なんだ、そうだったのか。きれいな景色けしきれたかい

  「ええ、あなたにせてもらった写真しゃしんまでとはいかないけどね」

  「はは! そうか!」

  げんくしたケンジのとなりならび、一緒いっしょあるす。かれくなったときには、もう二度にどとこうしてとなりあるくことなんてできないとおもっていた。ARエーアールデートについてはじめていたときに、どれだけこころたかぶったことか。

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  最近さいきんどんなことがあったんだい? 一年いちねんぶりにうんだし、いろいろかせてくれよ」

  「うん、たくさんはなしたいことがあるわ。まず、ハルカが今年ことし五歳ごさい誕生日たんじょうびむかえたの」

  「ああ、ぼくたちのまごだったね。このまえ写真しゃしんせてもらった。何度なんどうけど、きているうちにちゃんとえなかったのが残念ざんねんでならないな」

  本当ほんとうよ、とっても元気げんき可愛かわいいんだから。さかなきってまえっていたから、誕生日たんじょうびのおいわいに、おもってバーチャル探検たんけん一緒いっしょにチャレンジしたの。そしたらすごくってくれてね、来週らいしゅうもまたくことになったのよ」

  ユキヨはうきうきとはなすが、なんだかケンジが不思議ふしぎそうなかおをしている。なぜだろうと一瞬いっしゅんかんがえ、すぐに合点がてんがいった。

  「ああ、VRブイアール海中かいちゅう探検たんけんなんて最近さいきんはなしケンジさんはらないわね。ごめんごめん」

  「まったく、年寄としよあつかいするなよ。それで、バーチャル探検たんけんってのはなんなんだ

  くちをとがらせながらケンジがう。

  「そののとおり、VRブイアールでダイビングをたのしめるの。専用せんようのゴーグルをけると、たちまちまわりが海中かいちゅうわっていくの。しかも、ゴーグルのチャンネルを事前じぜんわせておけば、とおはなれたひととでも簡単かんたんおなうみもぐれるのよ! もっとうと、最近さいきんではきな時代じだいにタイムスリップできる『時空じくうメガネ』ってのもてきてて、わたし使つかったことはないんだけど、観光かんこうくときな時代じだい風景ふうけいARエーアールうつされるらしいのよ。これがとく外国がいこくひと人気にんきで、近所きんじょ城跡しろあとなんか外国人がいこくじん観光客かんこうきゃくでいっぱいなのよ」

  ついこころがはやって早口はやくちになってしまうユキヨを、ケンジは終始しゅうしおだやかなひとみつめていた。

  そうして会話かいわはずませているうちに、二人ふたり目的地もくてきちいた。結婚けっこんまえから二人ふたり何度なんどあしはこんでいる、かぞれないほどのおもまったレストランである。いまではこのレストランでもAIエーアイコックが料理りょうりっている。美味おいしいだけではない。ユキヨのような高齢者こうれいしゃにも健康けんこう状態じょうたいわせた食事しょくじ提供ていきょうしてくれることもあり、いまでもこんにしている。

  今夜こんやせきやくしているむねつたえると、ウェイトレスロボットは手慣てなれた様子ようすでユキヨたちを案内あんないしてくれた。ARエーアール映像えいぞうであるケンジにもしっかりせき用意よういしてくれるあたり、ユキヨ以外いがいにもARエーアールデートでこのレストランを使つかきゃくがいるのだろう。

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ARエーアールデートがずいぶん世間せけん浸透しんとうしていることがうかがえる。

  「ここのAIエーアイコックもわたしたちの健康けんこう状態じょうたいをよく気遣きづかってくれてるけど、最近さいきんわたしがお世話せわになっているちかくのケアセンターにもおなじようなAIエーアイコックが料理りょうりしてくれてるみたいで、いつもヘルシーで、それでいてきないように献立こんだてえてしてくれるのよ。」

  そういながら、ケンジとかいってこしけると、ユキヨはすぐにつぎはなしはじめた。

  「そうそう! ハイキング仲間なかまのナオコさんのまごさんのアンナちゃんが、ずっとっている同級生どうきゅうせいおんなと、来月らいげつ一緒いっしょはじめるんですって。今度こんどじゃしようとおもってるの」

  「アンナちゃん? ああ、二〇歳はたちぐらいのだっけ。百年ひゃくねんきてきてあんなに上手うまうたいままでいたことがない、去年きょねんぜっさんしていたね」

  「あら! そのこと、あなたにってたかしら。ケンジさんは本当ほんとうなんでもよくおぼえてるわね。……わたしとはおおちがい」

  ARエーアールになっても相変あいかわらずものおぼえのいいかれえ、一年いちねん一度いちど大事だいじ結婚けっこん記念日きねんびさえわすれてしまう自分じぶんはいったいなんなのだ、とユキヨはひとれずかたとした。

  「にしても、同性どうせいカップルもいまではめずらしくなくなったものだね。今日きょうまちあるいていても、そうとかるひとたちがたくさんいた」

  たしかにそうね。われてみれば、いまではなに特別とくべつあつかいされることじゃないわねえ」

  このように、一年いちねん一度いちどケンジとって言葉ことばわすことで、ユキヨはケンジがけんざいだった時代じだい現代げんだいのギャップにづかされることがある。それはなんだかとても不思議ふしぎな、けれど心地ここちよい感覚かんかくだった。

  夢中むちゅうはなんでいるとあっというときぎ、デートのわりの時刻じこくがやってきた。もちろんおさけなどんでいないのに、なぜだかすこったようにもえるケンジは、うれしそうにほそめてつぶやいた。

  きみ毎日まいにちたのしくごしているようで、本当ほんとうによかった」

  「ありがとう、ケンジさん」

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  来年らいねんのこのたのしみだ。活発かっぱつなのはいいが、くれぐれもちゃをしないように、元気げんきでいてくれよ」

  たりまえでしょ。まだまだ人生じんせいながいんだから」

  「ああ、きみ未来みらいはまだまだあかるい」

  どこか自分じぶんかせるようなくちぶりで、ケンジはよろこびをみしめるようにった。

  名残なごりしみながらもケンジとわかれ、クルマヒコーキで自宅じたくかう途中とちゅうユキヨは今日きょう一日いちにちのことをおもかべて、そっとじる。

  わすれっぽいのはむかしからだけど、結婚けっこん記念日きねんびのデートのことを直前ちょくぜんまでわすれていたのは、われながらおどろいたわ……いい加減かげんのうメモリにたよらないとだめかしら

  だれこたえをもとめるでもなく、けれども親友しんゆう真剣しんけんなやみを相談そうだんするような声音こわねで、ひとごとうのだった。

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