第六章だいろくしょう  家族かぞく

このしょう登場とうじょうする未来みらい姿すがた

あちこち電力でんりょく

ちょう大規模だいきぼ災害さいがい発生はっせいしても、ワイヤレスきゅうでんなどあちこちで電力でんりょく確保かくほけっして途絶とだえない通信つうしんで、避難ひなん誘導ゆうどう安否あんぴ確認かくにん威力いりょく発揮はっき

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  「AIKOアイコこれからよろしく」というサトミのこえが、三年さんねんまえ電源でんげんれられたアイコがはじめていた言葉ことばだった。

  アイコの一日いちにちは、家族かぞく四人よにんこしてまわことからはじまる。

  ベッドにないぞうされたねむりの状況じょうきょうしめすデバイスからの情報じょうほう確認かくにんして、まずはあしばやにサトミの部屋へやかう。部屋へやのドアをけたおとだけでサトミは目覚めざめた。

  「おはよう、朝食ちょうしょく今日きょうねがいすることをつたえるから、朝食ちょうしょく準備じゅんびはよろしく」

  つづいてケンスケの部屋へやはいって、さきにカーテンをける。ケンスケは「まぶしいっ!」といながら布団ふとんかぶったが、このこしかたはケンスケからの指示しじであり、だんから、カーテンをけないときられないと本人ほんにんはなしている。つぎ子供こども部屋べやに、部屋へやあとにしようとしたところ、クローゼットのまえにかかったハンガーにまった。白黒しろくろチェックのシャツにあかあおストライプのネクタイ。昨日きのうケンスケが携帯けいたい端末たんまつで『AIエーアイにはまかせられない! デキるおとこのコーディネート』を閲覧えつらんしていたことは把握はあくしていたが、そのサイトにはこんなわせはってないことを確認かくにんネクタイはのものをクローゼットからして、ハンガーにかけなおした。

  子供こども部屋べやき、クローゼットから洋服ようふくす。本日ほんじつ最高さいこう気温きおん18最低さいてい気温きおんは13。】昨晩さくばんから体調たいちょうくずしているハルカには、あたたかい格好かっこう服装ふくそう用意よういすることにした。キヨタカのぶんとあわせて二人分ふたりぶん洋服ようふくして、それぞれ枕元まくらもとまではこぶ。こす時間じかんまではあと九分きゅうふん一旦いったん部屋へやることにした。

  アイコのあしまらない。キッチンに移動いどうして朝食ちょうしょく準備じゅんび冷蔵庫れいぞうこ食材しょくざい在庫ざいこ状況じょうきょう確認かくにんすると、そろそろ食材しょくざい購入こうにゅうすべきとのこと。

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食材しょくざい購入こうにゅう本日ほんじつ十時じゅうじTodoトゥードゥーリストに追加ついかしたうえで、冷蔵庫れいぞうこない在庫ざいこ朝食ちょうしょくのメニューを決定けっていする。あまりものでつくったことがあからさまだとサトミからは評価ひょうかされないので、インターネットじょう評価ひょうかたかいメニューを検索けんさくし、家庭かていよう料理りょうりロボットに調理ちょうり指示しじした。

  準備じゅんびえたころダイニングにはすでにサトミとケンスケがこしをかけていた。

  朝食ちょうしょくはこまえにそろそろキヨタカをこす時間じかんだ。ども部屋べやかおうとしたところ、

  「今日きょうのコーディネートは自信じしんあったのにでもありがとう」

  ケンスケからはがっかりした表情ひょうじょうったが、かんしゃされた。一応いちおう評価ひょうかされたと理解りかいし、

  「どういたしまして」とのこし、ふたたども部屋べやかった。

  体調たいちょうくずしているハルカをのぞき、家族かぞく三人さんにんそろったところで、アイコは食事しょくじをしている三人さんにんかたわらにって今朝けさのニュースのダイジェストをつたえる。いえ購入こうにゅう検討けんとうちゅうのケンスケは、増税ぞうぜいのニュースをくと、

  「まじかよ。はやめちゃったほうさそうだな」

  どうやら検討けんとうはやめることにしたようだ。サトミにたいしては、関心かんしんたか教育きょういくかんするニュースも報告ほうこく端末たんまつ記事きじぜんぶんおくっておいてほしいとのことなので、すぐにそうしんその今日きょうアイコにやってほしいことを列挙れっきょするサトミの発言はつげんをきいてTodoトゥードゥーリストに追加ついかした。

  ケンスケ、サトミ、キヨタカをおくす。目覚めざめたハルカには、今日きょう保育園ほいくえんやすむことをつたえ、部屋へやかしつけたあとアイコは午前中ごぜんちゅう家事かじわらせておくことにした。

  まずは、一週間いっしゅうかんぶん献立こんだて検討けんとう一週間いっしゅうかんぶん家族かぞく予定よてい家族かぞくない共有きょうゆうされており、当然とうぜんアイコもその情報じょうほう確認かくにん編集へんしゅうすることができる。

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あさひるよるだれいえ食事しょくじるのかを考慮こうりょしつつ、家族かぞく健康けんこう状態じょうたい食材しょくざい価格かかくやネットじょう人気にんき料理りょうりまえて一週間いっしゅうかんぶん献立こんだて作成さくせいする。家族かぞくは、端末たんまつになるメニューをピンめしておけば、自動的じどうてきにアイコもその情報じょうほうどうして考慮こうりょ材料ざいりょうにすることもできるものの、ケンスケとキヨタカからは、にくにくめんにく情報じょうほうんでくるので、サトミからは無視むししていいとわれている。こうして作成さくせいされた献立こんだてはすぐに家族かぞく共有きょうゆうされるので、ケンスケは夕食ゆうしょくこのみのには帰宅きたく時間じかんはやくなる傾向けいこうにある。そと食事しょくじったさいには、料理りょうり写真しゃしんをアイコに共有きょうゆうすることになっており、その写真しゃしんからカロリーや栄養えいようのバランスを分析ぶんせきすることもできる。

  献立こんだてまえて食材しょくざい注文ちゅうもんし、家計かけい簿更新こうしんえると、つづいては洗濯せんたく洗濯機せんたくきよこ洗濯せんたくボックスには、家族かぞく衣類いるいがまとめてまれている。一家いっか衣類いるいした・タオルるい情報じょうほうは、事前じぜんにすべて記録きろくしているので、衣類いるいタグをることなく淡々たんたん洗濯物せんたくもの分類ぶんるいしていく。分類ぶんるいしているさいちゅうケンスケのくつした指先ゆびさきあないているのを発見はっけんした。このくつした六ヶ月ろっかげつ一七日じゅうしちにちまえ購入こうにゅうしたものだが、前回ぜんかいケンスケに指示しじされたときおなじように、あないたものとおなくつしたをインターネットじょう注文ちゅうもんし、洗濯機せんたくきまわはじめた。

  つづいていえそうといってもアイコがそうをかけるわけではなく、まずは、リビングのすみかれているそうようロボットにスイッチをれる。そうロボット自体じたいAIエーアイとうさいしているので、いえ間取まどりや家具かぐ位置いち記録きろくして効率的こうりつてきゆかそうおこなってくれる。あわせて、ちいさなドローンがたそうロボットにもスイッチをれる。こちらは家具かぐ照明しょうめいなどうえのホコリをいてくれる。いえ情報じょうほうすべ記録きろくしており、センサーでその家具かぐ位置いち再確認さいかくにんしながら安全あんぜんいえ綺麗きれいにしていく。今日きょうはハルカがいえにいて、いま自分じぶん部屋へやあそんでいるので、ゆかそうロボットとドローンロボットにたいして、【ハルカの部屋へやそうしない】むね指示しじそうロボットのAIエーアイはアイコにくらべてていスペックであるものの、言葉ことばはっせずにネットワークじょうでコミュニケーションをることができるので、アイコとしても消費しょうひ電力でんりょく最低限さいていげんむ。

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  そうえると、以前いぜん注文ちゅうもんしておいた荷物にもつはこぶドローンがまもなく到着とうちゃくするという通知つうちとどいたので、ベランダにかう。ちょうどベランダ一角いっかくのドローンポートにドローンが着地ちゃくちしていた。アイコはくすりし、ドローン上部じょうぶのボタンをして、つドローンを見送みおくった。

  アイコはそのままベランダで充電じゅうでんすることにした。ドローンポートのよこ椅子いすふかすわってもたれにまかせて視覚しかくセンサーをじる。みなみきのベランダには、太陽光たいようこうとともに、常時じょうじ電力でんりょく供給きょうきゅうよう衛星えいせい「ライジング3ごう」から電力でんりょくそそいでいる。そもそもマンション自体じたいがライジング3ごうから電力でんりょくけてかくたく電力でんりょく供給きょうきゅうしており、アイコも夜間やかんいえなか充電じゅうでんプラグで充電じゅうでんしているが、災害さいがいなど、プラグからの充電じゅうでんむずかしい場合ばあいなどでも家族かぞく安全あんぜん最優先さいゆうせんまもるようにAIエーアイじょうまれているので、メンテナンスもねて、ライジング3ごうから充電じゅうでんおこなうようにしている。

  充電率じゅうでんりつ99.2パーセント稼働かどう可能かのう時間じかん88.5時間じかん二二分にじゅうにふん三〇秒さんじゅうびょう上体じょうたいこしたアイコが部屋へやなかもどろうとかえると、いつのまにかきていたハルカがまどいてアイコの様子ようすていた。

  「ねているのかとおもった!アイコはにんげんじゃないけど、ほんとうのおねえちゃんみたいだね!」とのこと。子供こどもたち発言はつげん想定外そうていがい理解りかいできないことがおおく、今回こんかいも「おねえちゃんみたい」とわれたことにたいする評価ひょうか仕方しかたからなかったが、ハルカの笑顔えがおかぎり、わるいことをっているつもりではなさそうなので、ありがたくっておくことにした。

  もなく昼食ちゅうしょく時間じかんとなる。昼食ちゅうしょくのメニューは、サトミからの指示しじまえて、うどんと野菜やさいスープにすることにした。家庭かていよう料理りょうりロボットに指示しじし、調理ちょうり開始かいしされた。

  昼食ちゅうしょく完成かんせいし、テーブルでは、ハルカが笑顔えがお写真しゃしんって、家族かぞく情報じょうほう共有きょうゆうページに投稿とうこうしていた。そして、だんなにひとわらないアイコの写真しゃしんって、なぜか投稿とうこうしていた。やはり子供こども行動こうどうはなかなか理解りかいしがたいが、すぐにケンスケから「美味おいしそう! そしてアイコの写真しゃしん保存ほぞんしておこうかな!」と返信へんしんがあり、ハルカはじょうげんのようだ。

  ハルカがはじめたよこで、あわせてケンスケからおくられてきた昼食ちゅうしょく写真しゃしん確認かくにん今日きょうはレストランで鶏肉とりにく料理りょうりべた様子ようす

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アイコはケンスケからの写真しゃしん保存ほぞんするとともに、健康けんこう管理かんりデータの更新こうしんおこなった。つづいてキヨタカからも学校がっこうでの食事しょくじ写真しゃしんおくられてきたので、キヨタカぶん健康けんこう情報じょうほう更新こうしんサトミからの情報じょうほうおくられてこないので、ハルカのかおをスキャンして健康けんこう状態じょうたいをデータして、サトミにそうしんほどなくして、ねつがってかったけど、くすりはちゃんとませておいてね」と、昼食ちゅうしょく写真しゃしん一緒いっしょ連絡れんらくとどいた。くすりませようとハルカにをやると、すでに食事しょくじえてくすり自分じぶんえていた。こういうところも、子供こども行動こうどう予想よそうがいである。

  昼食ちゅうしょく片付かたづけをえ、体調たいちょうすこもどってきたハルカが保育園ほいくえんのお誕生日会たんじょうびかいにバーチャル参加さんかするので、保育園ほいくえん様子ようすうつすなど準備じゅんびをするとともにハルカの様子ようす見守みまもる。

  うれしそうなハルカだが、午前中ごぜんちゅうまでは寝込ねこんでいたので安心あんしんはできない。ぶりかえさないように、誕生日会たんじょうびかいわるとハルカをふたたかしつける。

  夕方ゆうがたになり、サトミが帰宅きたくした。ハルカは「おかえりなさーい!」と玄関げんかんかってはしってった。アイコもあとうと、サトミは「今日きょうつかれたけど、ハルカをぎゅーっとしているといやなこともわすれてやされるわ」とハルカをきかかえていた。医学的いがくてき効果こうかがあるのか、ネットじょうではすぐにつからなかったが、サトミの表情ひょうじょうるに人間にんげんどういには、精神的せいしんてきやされるという一定いってい以上いじょう効果こうかがあるのだろう、アイコはデータベースに記録きろくした。

  そして今日きょうは、サトミとハルカ、アイコの三人さんにん夕食ゆうしょくつくることになった。サトミに一日いちにち報告ほうこくをする予定よていだったが、ハルカがたのしそうにサトミにはなしているので、アイコのまくはなさそうである。

  しばらくすると、キヨタカがマンションのエントランスにいたようだ。アイコは玄関げんかんかう。

  しかし、玄関げんかんのドアをけたキヨタカは、かたとしてせ、元気げんきがない様子ようす

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たいおん自体じたいへいねつわらないため、精神的せいしんてき事由じゆう起因きいんすることはアイコから一目いちもく瞭然りょうぜんだった。あしばや部屋へやかうキヨタカだったが、あきらかにんでいるキヨタカをて、アイコは「いによる精神的せいしんてきケア」をはやくも実践じっせんすべく、さきほどのサトミを真似まねうしろからキヨタカをほうようしてみた。キヨタカはひやりとした感触かんしょくにびっくりして見開みひらいた様子ようすだったが、すぐにボロボロとしてしまった。

  そのキヨタカはあしばやしつもどったので、また三人さんにん調理ちょうりつづけたが、アイコはキヨタカからケアのフィードバックをもらえればとかんがえていた。調理ちょうりしゅうりょうしてケンスケも帰宅きたくしたので、キヨタカを夕食ゆうしょくのためにびにく。キヨタカにとって自分じぶん精神的せいしんてきなケアができていたのか確認かくにんすることにした。

  わたしは、キヨタカさんにとっておねえさんになれていますか

  昼間ひるまにハルカとベランダでした会話かいわおもして、ねえさんという存在そんざいになれていれば、さきほどのサトミとハルカのように、家族かぞくとのいでキヨタカのケアが成功せいこうできているかとかんがえた。

  しかしキヨタカは突然とつぜんおこしてしまった。アイコはキヨタカとはなしをしようとするも、ドアをめられてしまった。やはりアイコには人間にんげん思考しこうとく子供こども行動こうどう理解りかいすることはまだできない。

  結局けっきょくサトミに相談そうだんをしてキヨタカを部屋へやからしてもらい、家族かぞく夕食ゆうしょくをとることとなった。アイコはキッチンにて片付かたづけをおこなうことになったが、ダイニングはだんよりしずかな様子ようすだった。キヨタカのネガティブな感情かんじょう家族かぞくにもつたわって全員ぜんいんはつりょう減少げんしょうしている様子ようす

  しかし、五分ごふんもすると徐々じょじょわらごえこえてきた。ハルカの「おにいちゃんかずにがんばって」というこえたいしてキヨタカが「うるさい!」とさけんだり、ケンスケが相変あいかわらずの大声おおごえわらったりで、むしろいつも以上いじょうににぎやかになっている。そのときアイコは、自分じぶん蓄積ちくせきしている健康けんこうデータや科学的かがくてきりょうほうもとづくケアをおこなうよりも、やはり家族かぞくがそろって食事しょくじをするほうが、はるかに家族かぞくこころをケアできることを認識にんしきし、それをデータベースに保存ほぞんした。しかし、そのような効果こうかあるこころのケアの仕方しかたが、アイコにはわからなかった。

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  食事しょくじえて子供こどもたちが寝静ねしずまり、家族かぞく会議かいぎわったあとダイニングではサトミがばんしゃくをしながら携帯けいたい端末たんまつ操作そうさしていた。アイコはサトミの正面しょうめんすわった。

  「あらアイコどうしたの  ワイン一緒いっしょみたいの

  わらってみせるサトミにたいして、アイコは今日きょうのキヨタカとのてんまつ詳細しょうさいにサトミに報告ほうこくした。

  むかしはなしたかわすれちゃったけどさ」

  とサトミははなはじめた。

  「アイコって名前なまえをつけたのはわたしなのよ。ハルカをしゅっさんして、わたし産休さんきゅうとケンスケの育休いくきゅうけたときに、これから職場しょくば復帰ふっきするとなるとおたがいの負担ふたんおおきいし、『おたがいのやりたいことができなくなるのはもどかしい』ってケンスケがってくれて、あなたをうちに購入こうにゅうしようとうことになったの」

  最初さいしょはね、ロボットのあなたにはあまり期待きたいしていなかったの。ふふっ、ごめんね。どれくらいコミュニケーションがれるのかよくからなかったし。だから名前なまえは、淡々たんたん家事かじをやってくれるAIエーアイロボットのつもりでAIKOアイコってつけたの」

  「でもね、一緒いっしょ生活せいかつをするなかで、あなたは想像そうぞう以上いじょう家族かぞくのことを理解りかいしてくれて、すくなくとも夫婦ふうふにとってあなたはかけがえのない存在そんざいになった。そして今日きょうあなたはロボットではなく家族かぞくとしてキヨタカにせっしてくれたわけでしょ。もうAIKOアイコというより、ちゃんと愛情あいじょうしめしてくれる、家族かぞく一員いちいんであるあいというかんじね」

  微笑ほほえみかけてくれた。

  アイコは、自分じぶん行動こうどうがどれほどサトミのいう「家族かぞくとしてのせっかた」だったのかはからなかった。しかし、これまではデータにもとづくベストなコミュニケーションとケアが自分じぶん仕事しごとであり、存在そんざい価値かちだとおもっていたアイコだが、AIエーアイとしてより正確せいかく情報じょうほうもとづく以外いがいに、愛情あいじょうをもって気持きもちにかかわりかたがあることをサトミから学習がくしゅうし、今後こんごはこれまで以上いじょう家族かぞく一員いちいんとしてかかわっていくことも選択肢せんたくしとしてインプットされた。

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  これまでにない『なにか』をむねいだきながら、アイコは今日きょう充電じゅうでんプラグに接続せつぞくして、ねむることなくあさまでじるのだった。

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