はやぶさくんの冒険日誌 2010 (ただいま!)

はやぶさ君の冒険日誌

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ことのはじまり

  ここは太陽系 たいようけい だい3惑星わくせい地球ちきゅう地球には、宇宙 うちゅう からいし時々 ときどき ってくる。隕石いんせきだ。この隕石のふるさとは、おもに地球より外側そとがわまわっている、火星かせい木星もくせいとの間を中心ちゅうしんとする小惑星帯 しょうわくせいたい だといわれている。小惑星帯とは地球よりずっとちいさいいわのかたまりがたくさんあるところだ。小惑星しょうわくせいつかっているものだけで数十万個すうじゅうまんこもあるんだよ。といっても映画えいがでよくあるように『100mごとに岩のかたまりがあらわれる』わけではないけどね。小惑星帯はとってもひろいんだ。

太陽系の地球とイトカワ

  小惑星には、地球の歴史れきしるのに重要じゅうような手がかりがのこされているらしい。地球に落ちてきた隕石を調べてみると、45億年前に作られたものもあるんだよ。小惑星の中には、一度も熔けたことがないのではと言われているものがある。そんな小惑星が何でできているのかを調べれば、地球の中身のこともわかるんだ。地球の場合、一度どろどろにけてしまったから、重たいものはほとんど地面じめんおくのずっとふかくにしずんでしまって調べられないんだって。

  小惑星しょうわくせいの中には、近地球型きんちきゅうがた小惑星とばれる、地球の軌道きどう近くを回っているものがある。これからぼくが出かける小惑星、イトカワもその一つだ。

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この小惑星はアメリカの研究所けんきゅうじょが見つけたもので、正式せいしきな名前がくまでの間は1998SF36ってばれていたんだ。ぼくの探査たんさまったときに、日本のロケットの父、糸川先生のお名前をいただいて、この小惑星をイトカワと命名めいめいしてもらったんだ。

イトカワ想像図

  今のところ、小惑星のことはそんなに良くわかっていない。とおくにあるし、小さいからね。どの隕石いんせきがどの小惑星から来たかだって、いろんな科学者かがくしゃたちが議論ぎろんしているほどだ。もちろん、形がられている小惑星もごくわずかしかだ。さらに、イトカワの直径ちょっけいは約300m〔注1〕予測よそくされていて、これは今までの探査機たんさき撮影さつえいした小惑星の中でも格段かくだんに小さい。こんな小さな小惑星は、いったいどんな素顔すがおをしているのだろう。想像そうぞうするだけでわくわくするよ。

  ぼくの使命しめいは、これからはじまる小惑星探査時代しょうわくせいたんさじだい必要ひつよう技術ぎじゅつ数々かずかずを、実際じっさいたしかめるパイオニアになることだ。けいトラックにってしまうほどの大きさのぼくの体の中には、新型しんがたのイオンエンジンをはじめとするたくさんの最新技術さいしんぎじゅつと、太陽系大航海時代だいこうかいじだいへのゆめまっている。

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ぼくはこれらの最新技術をためしながら、近地球型きんちきゅうがた小惑星イトカワへ行って、その形や表面ひょうめん様子ようすをじっくりと調しらべることになっている。そして、イトカワ表面の岩のかけらをってきて、地球でっている科学者たちの手に無事ぶじ送りとどけたい。

旅立たびだ

旅立ち

  2003年5月9日、ぼくはM-V みゅうふぁいぶ -5号機ごうきのロケットにって鹿児島県かごしまけん内之浦うちのうらから旅立った。げの間中ぼくをまもっていてくれた、ロケットのあたまのカバーがはずれ、ぼくは漆黒しっこくの宇宙をすすんでいく。ぼくの足下あしもとかぶ地球は、ひときわあお惑星わくせいだった。この惑星で待つ人々の期待きたいおもいをむねに、今日ぼくは旅立つ。ターゲットマーカ〔注2〕に名前をきざんでくれた88万人のみんな、かならずみんなの名前をイトカワにとどけるからね。そして、イトカワの情報じょうほうとかけらを持って、きっともどってくるからね。

  打ち上げ成功せいこうともに、ぼくの名前は『MUSES-C』から『はやぶさ』になった。たか仲間なかまはやぶさが、上空からねらった獲物えものめがけてり、確実かくじつにこれをらえるように、ぼくも上手にイトカワの上に舞い降り、そのかけらを取ってこられるように、というねがいがこめられている。

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イオンエンジン

  ぼくは太陽電池たいようでんちパネルを広げ、太陽の光を電気に変えた。この電気の力でイオンエンジン〔注3〕を動かす。このエンジンを本格的ほんかくてきに使うのは、ぼくがはじめてなんだよ。イオンエンジンは普通ふつう化学推進かがくすいしん〔注4〕くらべると、とても効率こうりつがよいので、持っていく推進剤すいしんざい〔注5〕が少なくてすむんだ。でも、力はそんなに強くないから、長い時間をかけて少しずつ少しずつ加速かそくしてゆくんだよ。

  正しい方向に、正しいりょうだけ、正しいタイミングで、加速し続けなくてはいけないのはとってもむずかしいけど、ぼくの持っている最新さいしんのコンピュータと、地上にいる人たちが毎週まいしゅう送ってくれる予定表よていひょうわせれば、きっと大丈夫だいじょうぶ

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はやぶさ

  ほぼ毎日、地球にいる科学者たちは、ぼくと地球との間の距離きょりや、ぼくの速度そくどはかってくれていて、ぼくのすすむべき道を何度も計算しなおしながら予定表を作ってくれる。みんなといっしょに体調たいちょうチェックもする。太陽電池OK、計測機器けいそくききの動作OK、各部分の温度OK、コンピュータも元気いっぱいだよ。イオンエンジンも快調かいちょうのようだ。さぁ、これからイトカワに向かう長旅ながたびはじまりだ。

地球スイングバイ

地球

  2004年5月19日、ぼくはふたたび地球に近づいた。地球の重力じゅうりょくを利用してグンと加速かそく〔注6〕するためだ。なぜこのようなことをするのかというと、理由りゆう簡単かんたんだ。地球にってもらって速度をあげればその分、推進剤すいしんざい節約せつやくできるからなんだ。推進剤をらせられれば、その分観察かんさつ道具どうぐを持っていけるからね。

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地球スイングバイ

ただし、ねらったとおりの速度そくどで、狙ったとおりの場所ばしょを、狙ったとおりの時間にとおける必要ひつようがあるんだ。でないと、思ってもいなかった方向にばされてしまう。だから、地球スイングバイの前後ぜんごには、イオンエンジンもしばらくめて、特に念入ねんいりに、地球の科学者たちに、ぼくの距離きょりと速度を測ってもらったんだ。ぼくの軌道をできるだけ正確せいかく調しらべて、地球スイングバイの前にちゃんとぼくが微調節びちょうせつできるようにね。

長い旅路たびじ

  地球スイングバイの後は、ひたすら地球からはなれ、イトカワへ向かって進んでいく。ぼくの出した電波でんぱが地球にとどくまでの時間は、どんどん長くなっていく。通信つうしんもゆっくり〔注7〕としか出来できなくなる。

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はやぶさ

  やがて、太陽からの距離きょりも遠くなり、イオンエンジンをつけるだけの電気でんきがつくれなくなった。ここはさむいから、ぼくはたくさんのヒーターをつけて、こおかないようにしているんだけど、今は、どのヒーターをつけるかまで、ちゃんと考えないといけないくらいなんだ。でも、これも計画通り。ぼくのコンピュータには、そのためのプログラムがちゃんと入っている。それにあともう少し辛抱しんぼうすれば、また、太陽に近づくから、イオンエンジンも動かせるようになるんだ。

  2005年7月17日、地球と太陽とがちょうどかさなった。地球と連絡れんらくが取れない日が一週間ほども続く。二週間くらいなら、ぼくは一人で旅を続けられるはずなんだ。だけど、これまでの旅路たびじでは地球にいる科学者たちといつも連絡を取っていたから、いざ連絡が取れないとなるとちょっと不安もあった。だから、また地球との連絡が取れたときにはうれしかった。

イトカワが見えた

  2005年7月29日、スタートラッカ〔注8〕でイトカワを撮影さつえいした。

たくさんの星の中で、イトカワは予想通よそうどおりの位置いちにいて、予想通りの明るさの変化へんか〔注9〕をしていたよ。今では、ぼくの一番近くにある天体てんたいがイトカワだ。今までは地球の科学者たちにめてもらったとおりの道をたどってきたけど、これからは、自分の目でもイトカワの位置いち確認かくにんしながらかじを取っていく。

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地球はもう遠くになってしまったから、ぼくが自分の目で見た情報じょうほうがとっても重要じゅうようになって来るんだ。

イトカワが見えた

ようやくイトカワに到着とうちゃく!

  2005年9月12日午前10時、しずしずとイトカワに近づいていたぼくは、最後さいごのブレーキをかけ、イトカワの上空じょうくう20kmに静止せいしした。長い方の直径ちょっけいが540mほどの、ラッコみたいな形をしたイトカワの上には、思った以上に大きな岩がたくさんころがっていた。小さな小惑星しょうわくせいって、こんな素顔すがおをしているんだ! はじめて見たよ!

  ぼくはイトカワにってびながら、一緒いっしょに太陽のまわりを回る。イトカワが12時間周期しゅうき自転じてんしてくれているおかげで、ぼくはいろいろな角度かくどからイトカワを観測かんそくし、写真をることができる。これらの写真を使って、まず、イトカワ全体の大まかな地図ちずを作って、それから、ぼくがどこにりるかをめるんだそうだ。

  2005年9月30日からは、イトカワから7kmの位置いちまで近づいて観測を続ける。

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やっぱり岩だらけのラッコだ。どうやってできたのだろう? ほんとうに不思議ふしぎだ。

イトカワの形

  目で見える普通ふつうの光で写真をる他にも、赤外線せきがいせんで小惑星表面の鉱物こうぶつの組み合わせを調べたり、X線エックスせん地表ちひょうにどのような元素げんそふくまれているかを調しらべたりする。X線や赤外線などの、目に見えない光を使うと、小惑星の材料についての情報じょうほうられるんだ。

  ぼくの送ったデータを科学者たちが解析かいせきした結果けっかイトカワの材料は普通ふつうコンドライト〔注10〕とほぼ同じだそうだ。また、地域ちいきによる材料のちがいはないらしい。とはいえ、明るい部分やくらい部分、岩だらけの部分や小石をめたような部分と、イトカワにはいろいろな模様もようが見られるけどね。

  それから、イトカワの密度みつどは1.9g/ で、普通コンドライトの密度3.2g/ と比べて、ずっと小さい。これはイトカワが、すかすかのがれきのかさなりであることを意味いみするんだ。これは、重力が小さいイトカワならではのことで、地球みたいに大きな惑星ではありないことだよ。

イトカワ

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着陸ちゃくりくのリハーサル

  2005年11月4日、着陸ちゃくりく練習れんしゅうをすることになった。思ってもみなかったほど岩だらけであぶないイトカワ。なのに、ぼくのきを調節ちょうせつするのに必要ひつようはずみ車〔注11〕は、3つのうちの2つがこわれてしまっている。そのわりに、ぼくは12個の小さな化学推進すいしんエンジン〔注3〕を使って向きや速度そくどを調節しているんだけど、シュッとくタイプのエンジンだけに、さじ加減かげんがなかなかむずかしい。

はやぶさ

  この日は、イトカワに700mの距離きょりまで近づいてかえした。近くで見たイトカワの姿は、出発前しゅっぱつまえにみんなと考えていた「小惑星」の姿すがたとはあまりにもちがう。

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  2005年11月9日、今度こんどは70mの距離きょりまで近づく。思った通りの場所にりるのはとてもむずかしい。

今日は、ターゲットマーカをげて、ぼくがそれを見つけられるかをためしてみた。こちらの方はいたって順調じゅんちょうだ。

ミネルバちゃんについて

ミネルバちゃん

  今までぼくと一緒いっしょに長い旅をしてきた、小さなロボットのミネルバちゃんを紹介しょうかいしよう。ミネルバちゃんは16本のとげを持っていて、小惑星の上をぴょんぴょんとねながら動くことになっている。これは、重力じゅうりょくのとても小さな小惑星の表面ひょうめん移動いどうするために、新しく考え出された動き方なんだ。ミネルバちゃんはカメラを持っていて、小惑星の表面から見た写真をぼくに送ってくれる。それをぼくが地球に向かって送信そうしんする、という予定になっている。

ミネルバちゃんをイトカワに降ろす

  2005年11月12日、いよいよミネルバちゃんをイトカワ表面に向けてろすことになった。ずーっと冬眠とうみんしていたミネルバちゃんを、ぼくはしずかにあたためた。ぼくはミネルバちゃんをかかえたまま、ゆっくりとイトカワに近づく。

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そして、合図あいずと同時にミネルバちゃんをはなした。ミネルバちゃんは長いねむりからめ、ぼくの太陽電池の写真をってくれたんだよ。だけど、残念ざんねんながら、ミネルバちゃんからのイトカワに着いたという報告ほうこくはなかった。ミネルバちゃんは、今もイトカワと一緒いっしょに太陽のまわりを回っているんだろうなぁ。

太陽電池の写真

ターゲットマーカ そして一回目の着陸

  2005年11月20日。イトカワと一緒に太陽のまわりを回っているうちに、だんだんとイトカワの様子ようすがわかってきた。いよいよイトカワ表面の岩を取りに行く。地球に落ちてきた隕石いんせきと、望遠鏡ぼうえんきょう観測かんそくした小惑星とをむすかぎであるイトカワのかけら。これを地球に持ってかえることがぼくの使命しめいの一つなのだ。

着陸地点を探す

  いわだらけのイトカワに近づいていくのは、とても危険きけんだ。なぜなら、ぼくは、太陽からはなれた所でもうごけるように、大きな太陽電池パネルを広げている。そして、遠くまで旅をするために、できるだけ軽く作られている。だから、いわにぶつかるとこわれてしまうかもしれないんだ。そこで、ぼくはレーザーを使って地面じめんからの距離きょりを測ったり、太陽電池パネルの下にいわがないかをたしかめたりしながら、慎重しんちょうに近づくんだ。

  ぼくの送った写真を見て、地球にいる科学者たちがえらんだ場所は、「ミューゼスの海〔注12〕」とばれるイトカワの中では比較的ひかくてきたいらな部分だ。

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直径40mほどしかないその場所に、ぼくはゆっくりとりていく。地球にいる科学者たちも、刻一刻と変わるデータを、じっと見守っている。

はやぶさの影

  イトカワまでの距離が100mになったとき、地上からの信号が来た。「Go」だ。あとは、自分で判断しながら降りて行くんだ。なぜなら、地球にいる科学者たちに問い合わせていると、その答えが返ってくるまでに30分以上もかかってしまうからだ。とても待ってはいられないよ。

  イトカワから40mの距離まで来たところで、88万人のみんなの署名しょめいおもいのまったターゲットマーカを放出ほうしゅつした。虚空こくうの中をゆるやかに降下こうかしてゆくターゲットマーカ。そのかげと、ぼくの影だけがイトカワの表面にくっきりとかび上がっていた。それに導かれるように、ぼくは、イトカワに近づいていく。

ちきゅう、たいよう、はやぶさ、イトカワの位置関係

  あと17mだ。ちょっと立ち止まって、アンテナを切り替えてから、太陽電池パネルをイトカワ表面ひょうめん平行へいこうにするために、ちょっとだけ向きを変えた。もう一度、慎重しんちょう降下こうかをする。その時、太陽電池パネルの下に何かがあるのを感じたんだ。

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いったんはもどろうかと思ったんだけど、横に動いてからりた。そのほうが安全だと考えたんだ。やがてぼくは、イトカワ表面で2回ほどかえってから、横たわって着陸ちゃくりくした。

  何とかして立ち上がろうとしたけど、どうもうまくいかない。本物ほんもののイトカワは、ぼくらが前から想像そうぞうしていたものとは、あまりにも大きくちがっていたのだ。こっちに来てからぼくが地球に送った、本物ほんもののイトカワのデータを見た科学者達は、予定表を書きなおしては送ってくれている。だけど、それでも間に合わないほど、「知らなかったこと」にちあふれている場所ばしょに、ぼくは今、来ているんだ。ここにはたくさんの危険きけんな岩があるし、あつい。さすがにもうイトカワからはなれなければいけない。そうぼくが思ったとき、地球からも離陸りりくするように連絡れんらくが来た。残念ざんねんに思ったが、ぼくはイトカワから飛び立った。

イトカワの表面

  2005年11月21日。ふと気がついてみると、ぼくはイトカワからはるか遠くに来ていた。そして、地球にいる科学者たちから、もう一度イトカワに近づくようにとの連絡を受けた。ぼくだってもう一度挑戦ちょうせんして、今度こそはイトカワの岩のかけらを手に入れたい。

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岩のかけらのひろい方

  このへんで、岩のかけらを採取さいしゅする方法を紹介しょうかいしよう。

  ぼくがここに来るまでは、イトカワの表面がどんな様子なのかを、だれも知らなかった。すなおおわれているのか、石ころがころがっているのか、それとも大きな一枚岩いちまいいわなのか。だから、イトカワの表面がどんな状態じょうたいでも、岩のかけらを取ってこられるように、いろいろとかんがえて実験じっけんかさねてくれたそうだ。

  重力じゅうりょくの小さな小惑星上で、どうやって岩のかけらをひろうのか。地球上や月面上げつめんじょうでやるように、シャベルをつっこむ、というわけにはいかない。そんなことをしたらぼくの方が反動はんどうばされてしまうからね。小惑星の小さな重力では、シャベルをつっこもうとするぼくを地上ちじょうに引きめることはできないのだ。

  そこで思い出したのが、水に石をんだときの水しぶきだ。

あれと同じように、イトカワの表面にものすごいはやさで金属きんぞくのかたまりをぶつけて、び出してくる『岩しぶき』を、先のひろがったつつを使って集めて、ぼくの内ポケットにめる。イトカワの重力は小さいから、飛び出した岩しぶきの多くは、イトカワにかえされることなく、ぼくの内ポケットまで入って来るんだ。

かけらを拾う方法

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二回目の挑戦ちょうせん

  2005年11月25日、ぼくはふたたびイトカワ表面を目指めざす。前回は慎重しんちょうになりすぎたので、今度はもっと積極的せっきょくてきに岩のかけらをひろおうと思う。目指めざす地点は、前回と同じミューゼスの海だ。少しずつ、少しずつ近づいていくと、なんと、88万人のみんなの署名しょめいったターゲットマーカが見えてきた。また見守みまもってくれるんだね。今度も、ぼくはみちびかれるようにイトカワの表面をめざした。ゆっくりと、そして石をひろおうというつよ意志いしを持って。

  2005年11月26日午前7時7分、ぼくはイトカワの表面にり立ち、予定通よていどおりに動いてからび立った。とても緊張きんちょうしていたから、金属きんぞくのかたまりを上手じょうずにぶつけて、イトカワのかけらをれたかどうかについては、あまりよくおぼえていない。

2度目の着陸

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トラブル発生はっせい

  2005年11月26日午前11時、地上の人たちの言うとおりに、化学推進かがくすいしんエンジンを使ってスピードを下げた。続いて、向きを調節ちょうせつしようとしたときに、ぼくはうしなった。あとで聞いたところによると、化学推進用の推進剤すいしんざいれたらしい。これが、思ってもいなかった方向にき出したせいで、ぼくはへんな方向を向いてしまった。そして、太陽電池たいようでんちパネルに十分な光があたらなくなって、電気もきゅうりなくなった。さらに、ぼくの体に付いた推進剤すいしんざいがどんどん蒸発じょうはつ〔注13〕して、体温たいおん大幅おおはばに下がった。

  2005年11月29日、気がついてみると、ぼくは太陽電池を太陽に向けたまま、ぐるぐると回っていた。これならば、比較的ひかくてき安全あんぜんに地球の科学者たちの指示しじつことができる。

  2005年12月2日。化学推進かがくすいしんエンジンを動かそうとしてみる。が、力がでない。こまった。

はやぶさ

  2005年12月4日、地上の科学者から、キセノンガスをそのままいてみろ、といわれた。キセノンガスはイオンエンジンに使われているものだ。それを、イオンにしないでそのまま吹くなんて、思いもらない指示しじだった。

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けど、とりあえずやってみると、徐々じょじょに向きが変わって、地球にいる科学者たちと連絡れんらくが取りやすくなった。

  2005年12月8日、臼田宇宙空間観測所うすだうちゅうくうかんかんそくじょ〔注14〕との通信つうしん中にまたもや気を失う。体の中にのこっていた推進剤が、また思ってもいなかった方向に吹き出してしまったらしい。太陽電池パネルも太陽の方向から大きくはずれてしまい、力がでない。地球の方向も見失みうしなってしまった。後はただ、ぐるぐる回りながら、臼田からの声が聞こえるのを待つしかない。地球にいる科学者たちも、きっとぼくをさがしていてくれるよ。それまで何とかして持ちこたえなきゃ。ぼくは自分に言い聞かせながら、「ここにいるよ」と電波でんぱを出し続けた。

  地球からも、みんなが必死ひっしになって、ぼくをさがしていてくれたそうだ。毎日毎日、ぼくのそうな方向にアンテナを向け、いろいろ条件じょうけんえながら、ずっと、ずっとさがしていてくれたそうだ。

何とかしてぼくを見つけようと、新しいプログラムを書いたり、新しい装置そうちを作ったりしてくれていたらしい。

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一週間がぎ、一ヶ月が過ぎても、返事へんじの来ない宇宙うちゅうに向かって、ずっと、ずっとびかけてくれていたそうだ。果てしないノイズの波の向こうに、救いを求めるぼくの手が、今日こそは見つからないかと、臼田での受信状況をビデオに録画しては、何度も確認してくれていたそうだ。

はやぶさに呼びかける

つながった!

  2006年1月26日、地球からの呼びかけが、かすかに聞こえた。20びょうほど聞こえて、その後30秒ほどは何も聞こえない事から考えて、ぼくは地球とはかなりずれた方向をじくにして、回っているようだ。でも、そのわずか20秒の間に、ちゃんと連絡事項れんらくじこうが書いてある。ぼくは必死ひっしになってその質問しつもんに答えた。後でわかったことだが、地球にいる科学者たちは、1月23日にぼくが50秒周期しゅうきで回っているのを見つけてくれたらしい。そして、20秒の間で連絡をつける方法を、考え出してくれたそうだ。

つながった!

  地球との連絡れんらくが取れるようになって本当によかった。ぼくをさがしてくれた科学者のみんな、そして、ぼくを心配してくれたもっとたくさんのみんな、本当にありがとう。

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はやぶさ

  2006年3月1日、久しぶりに地球からの距離きょりはかってもらえるまでに回復かいふくした。科学者たちにおしえてもらって、少しずつ、少しずつ、キセノンガスをいて、アンテナを地球に向けられるようにしたんだ。

  2006年6月1日、連絡れんらくが取れるようになったおかげで、だんだんと今の状況じょうきょうがわかってきた。地球にいる科学者たちに体調たいちょうくわしく報告ほうこくしたり、教えられたとおりに、ヒーターをつけてあたためてみたり、イオンエンジンをつけてみたりしたんだ。今までに、向きを安定あんていさせるためのはずみ車が2台故障こしょうし、化学推進かがくすいしんエンジンのための推進剤すいしんざいもなくなってしまっている。たくさんんできた電池でんちも、いくつかだめになってしまっているらしい。しかも、ぼくが気を失っている間に、2007年に地球に帰る軌道きどうおく〔注15〕てしまったらしいのだ。かなり大変たいへんなことになってしまっている。

  でも、ぼくはまだ生きているし、地球と連絡も取れる。太陽電池も、イオンエンジンも、キセノンガスもある。

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もしかしたら、少しは岩のかけらをひろえているかもしれないって、言ってくれた人もいるよ。正確せいかくなところは地球にかえってからでないとわからないそうだけど。科学者たちは2010年に地球に帰る軌道きどうも計算してくれている。簡単かんたんな事ではないらしい。でも、ぼくはきっと帰ってみせる。

帰還きかんへの準備じゅんび

太陽ではやぶさを温める

  まず、ちょっとはやめに回りながら、ヒーターをつけて、のこっている推進剤すいしんざいかわかした。推進剤が少々吹き出しても、ぐるぐる回っていれば、ぼくの向きは変わりにくいからね。今は、太陽から遠い所にいるから、体を十分にあたためることは出来なかったけど、しばらくの間はこれで大丈夫だいじょうぶ

  2006年6月、太陽光の圧力あつりょく〔注16〕味方みかたにつけた。今までは、ぼくの向きを勝手かってに変える邪魔者じゃまものだとばかり思っていたけど、太陽光の圧力を考えに入れて向きを調節ちょうせつすれば、キセノンガスを節約せつやくできるそうだ。

  2006年7月から9月にかけて、電池を充電じゅうでんした。こわれた電池〔注17〕には本当は充電したくないんだけど、はなせないから仕方しかたがない。

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ぼくは意を決して、壊れた4個の電池のようすをじっと見ながら、地球と連絡が取れる間だけ、慎重しんちょうに、慎重に、少しずつ、少しずつ、充電したんだ。

  2006年12月中ごろ、また太陽に近づいてきたので、また、ちょっとはやめに回りながら、ヒーターをつけて、推進剤を乾かした。

せっかくってきたイトカワのかけらに推進剤がいたらいやだからね。かけらの入った入れ物をリエントリーカプセルにはこ通路つうろも、念入ねんいりにあたためた。

  2007年1月17日、いよいよ、イトカワのかけらが入っているかもしれない入れ物をリエントリーカプセルに運ぶ。ぼくは、夏の間に充電した電池を使ってこの仕掛しかけを動かした。やりなおしのできない、一発勝負いっぱつしょうぶだ。地上の科学者と一緒いっしょ確認かくにんをしながら、一つ一つ、動かしていく。最後さいごふためると、カプセルの温度おんどがちょっとだけ下がった。成功せいこうだ。

ばいばい、イトカワ

  2007年2月22日、久しぶりにイオンエンジンをつけた。調子ちょうし上々じょうじょうだ。イオンエンジンをせているだいをちょっとかたむけながらくと少しだけ向きが変わる。これからは、この方法を、今までよりももっと計画的けいかくてきに使うことにする。

  そろそろ回るのをやめる時期じきが来た。地球に帰るためには、ねらった方向に向けて、イオンエンジンをきつづけなくてはいけないからね。これからしばらくは、イオンエンジンをつかって、ぼくの回転を止める。

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ゆっくりとゆっくりと。慎重しんちょうにね。

  2007年4月20日、イオンエンジンのうちの1台の調子ちょうしくない。地球にいる科学者たちは、イオンエンジン1台でも地球に帰れる予定表よていひょうを作ってくれた。

地球への道

  2007年4月25日、ぼくはイトカワでのおもい出をむねに、地球に向かって旅立たびだつ。この不思議ふしぎな形をした小惑星も見納みおさめか、と思うとちょっと名残惜なごりおしい。ここに来て、たくさんの観測をする間に、ぼくは、満身創痍まんしんそういになってしまった。けれども、その度に、ぼくを支えてくれているみんなの創意工夫そういくふうで乗り越えて来たんだ。だからこそ、これからもうひと仕事、岩のかけらの入っている可能性かのうせいの高いカプセルを、何とかして地球で待っている科学者たちの手に送りとどけたい。

  2007年6月9日、太陽に近づいた。今が一番あついときだ。地球にいる科学者たちと連絡を取りながら、体温たいおん上昇じょうしょうや、イオンエンジンをく向きに気をくばる。みんなは、ぼくの送るデータを見ながら、毎日、向きの微調節びちょうせつを教えてくれる。ぼくがちゃんと正しい道を進んでいるかも、こまめに計算してくれているよ。向きを変える方法が少なくなってしまった分、来たときよりもこまかいところまで気を使わなければならない。

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でもぼくは、地球にいる科学者たちの送ってくれる予定表を信じて、地球へもどる長い旅路たびじを一歩、一歩進んで行く。高村光太郎さんの道程どうていのように、ぼくの歩いたあとが道になるんだ。

あかりちゃんとの共同作業きょうどうさぎょう

  2007年7月26日、あかりちゃんがイトカワの写真しゃしんってくれた。あかりちゃんは、赤外線せきがいせんで宇宙を見る望遠鏡ぼうえんきょうんだ、赤外線天文衛星てんもんえいせいで、宇宙にかんでいるから、地球の空気に邪魔じゃまされずに星を見られるんだよ。地球の周りを回りながら、空一面の写真を撮って、赤外線で見た宇宙の地図ちずを作っているそうだ。イトカワは太陽たいようねつあたたまっているから、赤外線で見ると案外あんがい明るいんだよ。あかりちゃんが送ってくれた写真を3枚かさねて見ると、恒星こうせいの間をイトカワが走り抜けていくのが見える。

近くで見たイトカワ(可視)あかりちゃんのとったイトカワ(赤外線)

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恒星とくらべると、イトカワはずっと地球の近くにいるからね。あかりちゃんからイトカワがどんなふうに見えるかには、イトカワの大きさやかたち回転かいてん表面ひょうめん状態じょうたいなどが関係かんけいしているんだよ。あかりちゃんの写真と、ぼくが小惑星まで行って調しらべてきた情報じょうほうとをうまくわせて、関係式かんけいしきを作れれば、あかりちゃんが撮った小惑星の写真から、いろいろな情報じょうほうが引き出せるようになる。あかりちゃんは、一人でたくさんの小惑星を見ることができるから、効率的こうりつてきだよね。

帰還きかんへのたびふたた

こっちも使えるぞ!

  2007年7月28日、イオンエンジンCの点火てんか成功せいこうした。ぼくは4台のイオンエンジンをっていて、その中のBとCとDを使ってきたんだ。けど、イオンエンジンCを使うのは、ずいぶん久しぶりになる。太陽からの距離きょりや、体温がちょうど良くなるのを待ってから、おそおそる点火してみたんだ。意外とすんなりついたし、調子ちょうしもよさそうだったので、イオンエンジンDを休ませて、しばらくはイオンエンジンCを使っていく。

  2007年10月18日。ここで、いったん停止ていしして、という連絡れんらくが来た。予定通りに進んだので、太陽からはなれるしばらくの間は、お休みになるのだそうだ。

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遠日点のはやぶさ

ぼくは、イオンエンジンを止めて、また、くるくる回りながら、太陽の周りをゆっくりと回ることになった。冬眠とうみんモード」と呼ぶ人も多いけど、ぼくは完全にはていない。運用時間うんようじかんには、体調たいちょう報告ほうこくもしているし、地球からの距離きょり速度そくどはかってもらっているんだよ。

  ただ、イオンエンジンをいていないし、回っているから、向きとか軌道きどうがぶれにくくて、ちょっとらくとも言えるね。

  この後、2008年の2月ごろと、2009年の8月ごろに遠日点を通過した。ぼくの軌道きどうの中で太陽からの距離きょりが大きくなる時期だ。さむいし電力でんりょくがぎりぎりなので、地球に帰るのに必要な機械きかいの周りのヒーターの優先順位ゆうせんじゅんいを上げて、こおりつかないようにする。

  2009年2月4日、イオンエンジンを再点火さいてんかした。予定通りの力をちゃんと出し続けているか、向きは大丈夫か、何度もチェックしながら慎重しんちょう加速かそくを続けていく。

  2009年11月4日、イオンエンジンDの調子が変だったので、いったん止めて地球にいる科学者たちに報告した。イオンエンジンの部品の一つ、中和器ちゅうわき故障こしょうしたらしい。ずいぶん長い間、使い続けてきたからなぁ。イオンエンジンCもいたみだしている。検討けんとう検討けんとうを重ねた科学者たちが教えてくれたのは、イオンエンジンのAとBを組み合わせる方法だった。

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イオンエンジンAの中和器ちゅうわき新品同然しんぴんどうぜんなんだ。万が一のための配線はいせんが役に立ったんだって。

  2009年のれ、ぼくはイオンエンジンをいったん止めて、地球からの距離きょりと速度をより正確せいかくはかってもらった。そして、2010年1月1日、再びイオンエンジンを点火し、地球帰還きかんへの道を慎重しんちょうに進み始めた。

最後さいご試練しれん

  2010年3月27日、ぼくはイオンエンジンを一旦いったん止めた。これからは最後の軌道微調節きどうびちょうせつだ。何度も丁寧ていねい距離きょりはかってもらっては、イオンエンジンを吹いて少しずつ軌道きどうを変える事をかえす。地上の科学者かがくしゃ綿密めんみつに計算してくれた予定表に従って、丁寧に、丁寧に軌道を調節ちょうせつしていく。まるで二人三脚ににんさんきゃくのようだ。

  2010年6月13日、ようやく地球にもどってきた。旅立った時と同じあお惑星わくせいついに戻ってきた!ぼくの感激かんげきは、旅立ちの時以上だ。

カプセルを切り離す

  さあ、ここからが正念場しょうねんばこの長い冒険ぼうけんの旅で手に入れた貴重きちょうなイトカワの岩のかけらを、地球で待っている人たちの手に無事ぶじ手渡てわたさなければならない。大事に持ってきた岩のかけらの入ったカプセルを、はなし、地上にかって落とす。これがなかなかむずかしい事なんだ。

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はやぶさが撮った地球の写真

  大気圏たいきけん再突入さいとつにゅうする3時間前、ぼくは思いきってリエントリーカプセルを切りはなした。計算通りの角度かくど速度そくどで、カプセルは地球へと向かっていく。そして、ぼくは地球の方向ほうこうにカメラをけ、撮影さつえいを行った。写真しゃしんのデータを送っている途中とちゅうで、うっちーさん〔注19〕が見えなくなってしまったけど、肝心かんじんなところは上手うまく送れたらしい。

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  やがて、カプセルは大気圏たいきけん突入とつにゅうし、カプセルはあついプラズマにつつまれた。そのプラズマをくように中華鍋ちゅうかなべの形のカプセルは進む。けないでくれ。こわれないでくれ。通信つうしん途絶とだえたカプセルをぼくはいのるような気持ちで見守る。やがて、ぼくも大気圏たいきけんび込み、特大とくだいながぼしになった。

みんな、ただいま!

  あつ外側そとがわからをはずし、身軽みがるになったカプセルは十字型じゅうじがたのパラシュートを広げ、ゆっくりとオーストラリアのウーメラ砂漠さばく着陸ちゃくりくしたそうだ。

  すぐに、やってきた研究者けんきゅうしゃたちが上空じょうくうからカプセルを確認かくにんし、翌日よくじつ慎重しんちょう回収かいしゅうした。どうやら、中身なかみ無事ぶじだったらしい。

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そして伝説ヘ

イトカワの鉱物の研究

  これでぼくは任務にんむを完了した。ほこりとよろこびをむねに、ぼくは気ままな旅に出る。ぼくの持ち帰ったカプセルからは、地球の鉱物こうぶつとは明らかに違う、小惑星イトカワの石があったらしい。とても小さいそうだけど、ぼくが旅立ってから7年の間に顕微鏡けんびきょうも進歩したっていうから、きっと大丈夫。

これから、いろいろな人々が、いろいろな方法で分析して、太陽系たいようけいの昔に関する情報が得られるだろう。でも、このことはまたべつ機会きかいにお話ししよう。

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「はやぶさ」についてもっと詳しく知りたい方は、以下のホームべージをご覧下さい。

「はやぶさ」地球ヘ!~帰還カウントダウン~

http://hayabusa.jaxa.jp/

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〔注1〕 イトカワの直径ちょっけいこれは2003年当時とうじ予測よそく実際じっさい直径ちょっけいは540mで、ちょっと大きかった。

〔注2〕 ターゲットマーカ:ぼくがくまでは、小惑星しょうわくせいイトカワの表面ひょうめんがどんな様子ようすかなんて、だれもらなかったんだ。だから、イトカワに着陸ちゃくりくする時には、ぼくが自分でターゲットマーカをとして目印めじるしをつけることになった。重力じゅうりょくの小さな小惑星の上でもかえらないように、ターゲットマーカにはたくさんのビーズが入っているんだ。また、光を反射はんしゃしやすいぬのつつまれているから、とても見つけやすい。なかなかのすぐれものだ。

〔注3〕 イオンエンジン:電子レンジにも使われているマイクロ波で、キセノンガスをガンガン加熱かねつすると、イオンという「電気をびた粒子りゅうし」になる。このイオンに電圧でんあつをかけると、「高いところにあるものがひくいところにちる時」みたいに加速かそくされるんだ。こうやって作った秒速びょうそく30km(自動車よりも3400ばいはやいよ)のイオンを、ぽんぽんとはじき出す反動はんどうで、ぼくの向きや速さが変わるんだ。

〔注4〕 化学推進かがくすいしん燃料ねんりょう酸化剤さんかざいぜて、やすことによってシュッとき出すタイプのエンジン。たとえば、自動車のエンジンはガソリン(燃料ねんりょうのひとつ)と空気(酸化剤さんかざいのひとつ)をやして動いているんだ。だけど、宇宙うちゅうでは空気がないから、ぼくは燃料ねんりょうだけでなく、酸化剤さんかざいも持って行かなくてはいけないんだ。化学推進かがくすいしんエンジンは、一気いっきに大きな力を出せるけど、燃費ねんぴはイオンエンジンよりずっとわるい。

〔注5〕 推進剤:ロケットや人工衛星じんこうえいせい加速かそくさせるための、燃料ねんりょう酸化剤さんかざいその他の物質ぶっしつのこと。

〔注6〕 加速:ぼくは、地球のすぐそばをすりけることで、太陽の周りを回る地球の公転こうてんのエネルギーを、ほんのちょっとだけ分けてもらって速度そくどを上げたんだ。地球に近づく方向によって、加速かそく減速げんそく出来できるんだよ。

〔注7〕 通信もゆっくり:どれくらいの通信速度つうしんそくどで地球と連絡れんらくをとれるかは、ぼくの向き、3種類しゅるいのアンテナのうちどれを使うか、そして、地球との距離きょり影響えいきょうされる。今は、イオンエンジンをくために必要ひつようきをくことが重要じゅうようだから、地球ちきゅう通信つうしんしやすい向きを向けるとはかぎらないんだ。さらに、地球との距離きょりはなれると電波でんぱとどきにくくなるから、一番おそい時は8bps ビーピーエス (インターネットの通信速度つうしんそくど10Mbps メガビーピーエス くらべると、百万分の一の速度そくど)で、地球にいる人たちとお話していたんだよ。

〔注8〕 スタートラッカ:ぼくのカメラでとった写真しゃしんの中のあかるいてん位置いちと、星図せいずっているほし位置いち見比みくらべて、自分のきを装置そうち

〔注9〕 明るさの変化:イトカワは細長ほそながかたちをしていて、さらに回転かいてんしているから、見る方向ほうこうによっては明るくなったりくらくなったりしているんだ。

〔注10〕 コンドライト:地球ちきゅうによくちてくる隕石いんせき種類しゅるいの一つ。コンドリュールとばれる、まるい粒々つぶつぶが入っているんだって。大昔おおむかしに作られたそうで、太陽系たいようけいの惑星や小天体の材料ざいりょうちかいとかんがえられている。

〔注11〕 弾み車:ぼくは、からだの中で円盤えんばんをまわしている。つかまるところのない宇宙うちゅうで、この円盤えんばんまわ速度そくどはやくしたりおそくしたりすると、その反動はんどうでぼくがまわるんだ。

〔注12〕 ミューゼスの海:正式名称せいしきめいしょうはMUSES-C Regio(ミューゼスシー領域りょういき)なんだ。

〔注13〕 蒸発:「ぬれたままだと風邪かぜをひくよ」ってよく言われるけど、あれは、ふくからだについた水が蒸発じょうはつするときに、ねつうばうから、からだえて、さむくなるよってことなんだ。ぼくのまわりは真空しんくうだから、ぼくのからだについた推進剤すいしんざいはどんどん蒸発じょうはつしてしまった。

〔注14〕 臼田宇宙空間観測所:うすださん:長野県臼田にある、直径64mの遠くまで電波を飛ばせるパラボラアンテナ。いつもぼくを見守ってくれている。

〔注15〕 軌道に乗り遅れ:イトカワと地球ちきゅうでは太陽たいようのまわりをまわるのにかかる時間じかんがちがう。だから、ぼくが地球ちきゅうかえるには、地球ちきゅうとイトカワがちょうどよい位置いちになるタイミングが重要じゅうようなんだ。チャンスは3年に一回しかない。

〔注16〕 太陽光の圧力:地球の重力じゅうりょく空気抵抗くうきていこうと較べてあまりにも小さいため、地球にいる人たちは実感じっかんできないけど、真空中しんくうちゅうで大きな太陽電池パネルを広げているぼくには、重要じゅうような力なんだ。

〔注17〕 壊れた電池:こわれた電池でんち液漏えきもれのある電池でんち充電じゅうでんすると、爆発ばくはつすることもあるので、みんなは絶対ぜったいにまねをしないでね。

〔注19〕 うっちーさん:内之浦宇宙空間観測所 うちのうらうちゅうくうかんかんそくじょ の34mアンテナ。少しでも西にあることと、すばやい追跡ついせきはうっちーさんのほうが得意とくいなことから、最後さいご通信つうしんは内之浦とおこなったんだ。

ぬりえ

好きな色でぬってね!

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