月のいい晩でした。ごんは、ぶらぶらあそびに出かけました。中山さまのお城の下を通ってすこしいくと、細い道の向うから、だれか来るようです。話声が聞えます。チンチロリン、チンチロリンと松虫が鳴いています。

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 ごんは、道の片がわにかくれて、じっとしていました。話声はだんだん近くなりました。それは、兵十と加助かすけというお百姓でした。
「そうそう、なあ加助」と、兵十がいいました。
「ああん?」
「おれあ、このごろ、とてもふしぎなことがあるんだ」
「何が?」
「おっ母が死んでからは、だれだか知らんが、おれに栗やまつたけなんかを、まいにちまいにちくれるんだよ」
「ふうん、だれが?」
「それがわからんのだよ。おれの知らんうちに、おいていくんだ」
 ごんは、ふたりのあとをつけていきました。
「ほんとかい?」
「ほんとだとも。うそと思うなら、あした見にいよ。その栗を見せてやるよ」
「へえ、へんなこともあるもんだなア」
 それなり、二人はだまって歩いていきました。
 加助がひょいと、うしろを見ました。ごんはびくっとして、小さくなってたちどまりました。加助は、ごんには気がつかないで、そのままさっさとあるきました。吉兵衛きちべえというお百姓の家まで来ると、二人はそこへはいっていきました。ポンポンポンポンと木魚もくぎょの音がしています。窓の障子しょうじにあかりがさしていて、大きな坊主頭ぼうずあたまがうつって動いていました。ごんは、
「おねんぶつがあるんだな」と思いながら井戸のそばにしゃがんでいました。
しばらくすると、また三人ほど、人がつれだって吉兵衛の家へはいっていきました。お経を読む声がきこえて来ました。

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