あたり前に生きたい 国は「基本合意」を やぶらないで! 障害者自立支援法訴訟の 基本合意の完全実現をめざす会 --- わたしたちの願い= 国は基本合意をやぶらないで!  障害者自立支援法(以下「自立支援法」)は、多くの障害者、関係者の反対の声を押し切って、2005年10月31日、政府が強行可決し、スタートさせたものです。応益負担を原則とするこの法律は、これまでの障害施策の考え方を根底から変えるもので、憲法および障害者権利条約に明記されている、人間としての尊厳や地域生活の権利を否定するものでした。  2008年〜2009年、全国の障害者ら71名が原告となり、障害を障害者個人の責任とする自立支援法は、基本的人権を侵害し、憲法に違反するとして、法律を制定した国を被告とした違憲訴訟を全国14地裁で起こしました。  2009年秋、総選挙で政権交代があり、政府・民主党から、訴訟団に対して和解の申し入れがありました。訴訟団は何度も何度も話し合い、「自立支援法を廃止し、新法をつくる」という基本合意文書を2010年1月7日に国と交わし、同年4月この違憲訴訟は和解により終結しました。私たちはその後の「制度改革」「総合福祉法」実現に大きな期待を寄せたのです。  そして、2012年2月8日、「制度改革推進本部(本部長・野田総理大臣)」の下の「総合福祉部会」第19回会議に、厚労省が新しい法案を示し、翌9日、訴訟団に対して厚労省政務官から説明がありました。  しかし、厚労省案は、自立支援法を廃止することなく、一部を「改正」するというもので、自立支援法そのものを延命させ、恒久化させるものです。これは、国と訴訟団とが公文書で交わした「基本合意」に明確に反するものです。 また、総合福祉部会の構成員55名が一つになって昨年8月にまとめ上げた「骨格提言」を「棚上げ」「先送り」するものです。  こうした動きに対して、多くの地方紙は、社説などで与党民主党や厚労省の動向をきびしく批判しています。さらに、各自治体の議会では、骨格提言にもとづいた総合福祉法の実現を求める決議があいついで採択されています。  公約も制度改革の閣議決定も「基本合意」も裁判所に対する約束さえも全て反故にしようとする、こんなことが国の名の下に許されるならば、国のありようまでもゆるぎかねない異常事態です。  私たちは、国(厚生労働省)、国会に対して、以下のことを強く要求しています。  多くのみなさんのご理解とご協力を、お願いいたします。 1)障害者自立支援法は、国が「基本合意」で交わしたように、2013年8月までに廃止すること。その際、「障害者自立支援法廃止条項」を明記すること。 2)新法は、総合福祉部会でまとめた「骨格提言」を反映させたものとすることこと。 --- ◆意見 その1  厚労省案は、  障害者自立支援法の 「廃止」ではなく、 「一部改正」=継続です! ---  厚労省案は、障害者自立支援法を維持したまま、「法の目的や名称を含めて変えていくので、事実上、自立支援法は廃止と考える」(小宮山厚労大臣)というものです。到底理解できません。  与党民主党障がい者WT(ワーキングチーム)の検討をふまえ、原案は一部「修正」されましたが、自立支援法のほとんどの条文はそのまま維持されています。修正は「一部」どころか「ごくごく一部の微修正」程度に過ぎません。  国が約束した、「基本合意」は、「速やかに応益負担(定率負担)制度を廃止し、遅くとも平成25年8月までに、障害者自立支援法を廃止し新たな総合的な福祉法制を実施する。そこにおいては、障害福祉施策の充実は、憲法等に基づく障害者の基本的人権の行使を支援するものであることを基本とする」と明記しています。厚労省案は、「基本合意」を破るものです。  介護保険法を模して制定された、自立支援法が維持、延命されることは、障害者制度改革の否定でもあります。 ---  基本合意を交わす調印式で、原告代表として署名しました。  「本当に裁判をやめていいんだろうか」とみんな悩み、不安を抱えながらも「自立支援法を廃止して新しい制度をつくっていく」といわれる新政権を信じ、合意したのです。  現場を混乱させているのは「自立支援法」の仕組みです。「障害程度区分」「利用者負担」「日払い報酬」「新事業体制」「地域格差」こんな項目一つ一つが現場を困惑させているのです。だから、自立支援法廃止を訴え続けているのです。  厚労省案では、こんな問題を解決できるとは誰も思いません。  秋保喜美子(広島 元原告) --- ◆意見 その2  「尊厳を深く傷つけた」応益負担は  なくなっていません。  収入認定は、  家族の収入を除外し、  障害児者本人だけで認定すべき ---  2010年12月成立の「つなぎ法(障がい者制度改革推進本部等における検討を踏まえて障害保健福祉施策を見直すまでの間において障害者等の地域生活 を支援するための関係法律の整備に関する法律)」により、「応益負担から応能負担に変更され、問題は解決済み」と政府関係者はいいます。  「基本合意」をふまえ、市町村民税非課税世帯は、予算措置で無料になりました。しかし、利用者負担額は「つなぎ法」では「家計の負担能力その他の事情をしん酌し」とされました。配偶者などの家族の収入を理由にして、多額の利用者負担が強要され、自立が阻害されている障害者は少なくありません。障害と負担を結びつける「応益負担」はなくなっていません。  「骨格提言」は、「障害者支援を自己責任・家族責任としてこれまで一貫して採用されてきた政策の基本的スタンスを、社会的・公的な責任に切り替える」としていますが、法案にはこの制度改革の基本理念が反映されていません。  「基本合意」の「論点」にある、「収入認定は、配偶者を含む家族の収入を除外し、障害児者本人だけで認定すること」を実現してください。 ---  利用者負担に配偶者が含まれる理由は、法律が「家計の負担能力を  しん酌し、になっているから」と言われました。  しかし、「家計の負担能力」という表現が法律に明記されたのは、「つなぎ法」のときです。家計を理由に、配偶者(=妻)にまで負担を強いる法制度の問題が解決されないのであれば、つなぎ法の成立は、これまで以上に家族負担を強いるものになったといえます。  この方向では、障害者を一人の個人として扱わない施策が、今後も続くことになります。  障害者が権利の主体となる法律を強く求めます。   家平悟(東京 元原告) --- ◆意見 その3  障害程度区分と支給システムの 「棚上げ」「先のばし」は  やめてください! ---  「基本合意」の「論点」では、 「どんなに重い障害を持っていても障害者が安心して暮らせる支給量を保障し、個々の支援の必要性に即した決定がなされるように、支給決定の過程に障害者が参画する協議の場を設置するなど、その意向が十分に反映される制度とすること。  そのために国庫負担基準制度、障害程度区分制度の廃止を含めた抜本的な検討を行うこと」としています。これらはなんら法定化されていません。  それどころか、支給決定の枠組みに絶大な影響をもつ「障害程度区分」について、厚労省案は「法の施行後3年を目途として検討」と「先のばし」です。  自立支援法が強行成立した2005年から3年目に違憲訴訟がおこり、2年後、国は「尊厳を深く傷つけた」と反省し、基本合意を交わして「和解」。それは、遅くても2013年8月までに自立支援法を廃止し、「新たな総合的な福祉法制を実施する」と約束したからです。厚労省案は、それを反故にして「先のばし」です。しかも、「目途に」「検討」です。「実施する」ではありません。これは、まさに現状維持・改革凍結に等しい約束違反です。 ---  障害者が地域で生きるためには介護が必要不可欠です。人それぞれに障害は違います。それぞれに介護の必要度も違います。一日24時間必要な人もいれば、月10時間でいい人もいるように支給量も違うのが当たり前だと思います。  介護が必要な人に必要な量だけ認めてもらいたい。どんなに重い障害があっても地域で生活できなければならないと考えます。  大谷真之(和歌山 元原告) --- ◆意見 その4  障害の範囲は、  障害者権利条約の  批准要件をみたしていません ---  厚労省政務官は訴訟団との面談のなかで、「権利というものは今回の法律には入れられません」と断言しています。しかし、いま、障害者権利条約批准の実現のための国内法整備をしている以上、障害者の権利を保障する法体系に変えるべきです。  「基本合意」は、「本訴訟を提起した目的・意義に照らし、国(厚生労働省)がその趣旨を理解し、今後の障害福祉施策を、障害のある当事者が社会の対等な一員として安心して暮らすことのできるものとするために最善を尽くすことを約束した」ため結ばれたのです。  また、障害者の範囲は、障害者権利条約、昨年改正された障害者基本法の規定を踏まえ、「骨格提言」の趣旨にそって、新たな谷間を生むことがないように改めるべきです。 ---  障害程度区分認定の106項目の調査項目に、「できない」「できない」 「できない」「できない」・・・と回答するうちに、生きていることを阻害されているように思い、それはやはりおかしいと訴訟にふみきり「基本合意」を実現しました。  どうか、初心に立ち戻ってください。どうかマニフェストの立場に立ち戻ってください。  そして、民主党が政権与党として実現した、国と私たちとの「基本合意」を守ってください。障害者と家族・関係者を、今もって苦しめ続けている「障害者自立支援法」は、きっぱりと廃止してください。  娘・育代と私の心からの願いです。       新井たかね(埼玉 原告補佐人) --- ◆意見 その5  自立支援医療は  当面の重要課題です。  誠実な実行を ---  コミュニケーション支援や移動支援など、障害者が生きていくための基幹的な支援が「地域生活支援事業」という自治体の自由裁量事業に委ねられている構造を根本的に改め「全国共通の仕組みで提供される支援」を「骨格提言」は求めました。  ところが、厚労省案は地域生活支援事業の枠組みをそのまま温存し、追加しています。  また、「基本合意」「骨格提言」は憲法25条等の生存権保障として地域生活支援が行われるべきことを求めているにも関わらず、その反対に公的責任を後退させ、家族、地域住民等の自発的活動で賄おうとするなど、改革の方向と逆行する内容になっています。 *  「自立支援医療」は、「基本合意」で「当面の重要課題」とされました。  しかし、2010年や翌年4月からの自立支援医療の低所得者無償化が実現されると期待しましたが、その後も期待は裏切られ続けています。  これまで3回開かれた政府との検証会議の場で何度も確認してきました。ところが、「どのように財源を捻出するのかが大きな課題であり、大変難しい検討となっております」(津田政務官)などきわめて不誠実な対応です。 --- ◆意見 その6  当事者が参加し、  55人の構成員がまとめあげた 「骨格提言」が軽んじられています ---  総合福祉部会構成員55人は特命大臣から任命された政府委員であり、法案骨子答申の諮問を受けた事務方はそれを基礎として法案を作成する義務があります。しかし、政府案は現行の自立支援法の範囲を出ていません。  「骨格提言」の掲げた60項目のうち不十分ながら取り入れているとされる項目が3項目に過ぎないと佐藤久夫部会長が指摘しています。  骨格提言には60項目の中に、法の条項を意識した167事項の「結論」がありますが、この案で実現していると評価できるものは皆無です。  いままで政府の審議会法案答申がここまで否定された例があるでしょうか。 --- ◆総合福祉部会での福島智委員の発言から  みなさん、思い出してください。  2009年の政権交代時の衆議院選挙で、民主党はマニフェストにおいて、「障害者自立支援法を廃止し、新たに障がい者総合福祉法を制定する」と明言したことを。  そして、政権交代が実現し、2009年12月には、鳩山総理を本部長とする「障がい者制度改革推進本部」が設置されたことを。  その翌月、2010年1月には、先に提訴されていた、「自立支援法違憲訴訟」において、政府・民主党は自立支援法の問題点を認め、原告・弁護団と「和解」にむけての「基本合意」を取り交わし、当時の長妻厚生労働大臣が合意文書に署名したことを。   (略)  マニフェストに掲げただけでなく、裁判所という公正な場での議論をとおして、「和解」が成立し、公式の文書に大臣が署名したことまでもが、もし、ないがしろにされてしまうのであれば、私たち国民は、いったい何を信じればよいのでしょうか。 --- ◆意見 その7  厚労大臣の国会答弁=  企画課長の「不適切発言」  ”自治体混乱論”はごまかしです ---  厚労省・中島企画課長は第19回総合福祉部会でつぎの発言をしました。「法律の廃止とは、新旧の法律の継続性を考慮する必要がない、または考慮してはいけない場合。いままでの法的効果を全て無くしますという場合に思い切って廃止を行うものです。その法律の持っている法的効果を全て一旦無くしますという場合に行うものです。  そうすると今の事業所指定が6万弱、支給決定を受けられている方が確か80万弱いらっしゃる。その支給決定の効力が一旦消えるわけです。それを新たな新法に基づいて指定や支給決定をする。これはたいへんな混乱が生じるだろうと」「しかし正直言ってこう言ったことは、本気でやらないといかんということにはならない」  施行の際の円滑実施はいくらでも可能です。支援費制度から障害者自立支援法に移行したときに用いた、附則に新法移行経過期間を設定したり、みなし規定の活用などの工夫で可能です。それは多くの自治体関係者の声でもあります。そもそも欠陥だらけの法律を強行したのは厚労省なのです。  小宮山厚労大臣は国会で「その発言は不適切」と答弁しました。しかし、厚労省案はその反省もなく、「自治体の混乱」を理由にして、「廃止」ではなく「一部改正」のままです。 --- ◆小宮山厚労大臣答弁  衆議院予算委員会 2012年2月16日  「(中島企画課長の部会での発言は) その発言は不適切だと思いますので、 私のほうからも注意します」 --- ◆意見 その8 骨格提言は、 「段階的・計画的に実現」 って本当!? ---  2011年8月30日に開催された第18回総合福祉部会で、「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言(骨格提言)」が55人の委員全員の一致によりまとめられました。  骨格提言について小宮山厚労大臣は、国会答弁で「段階的、計画的に、なるべく多くの思いを実現したいというふうには思っております(2011年10月26日)」とのべました。 *  ところが、厚労省案が示された第19回総合福祉部会(2月8日)では、骨格提言をいったいどうやって「段階的・計画的に実現」していくのかまったく示されず、部会の委員からは「これでいったいどのように実現していくのか」などの批判が噴出しました。  民主党WTにおいても、厚労省に対して「工程表を示すべき」との意見が出されました。  骨格提言は、そもそも、自立支援法を廃止してそれに替わる新法をつくるために検討されたものです。自立支援法をベースとした厚労省案とは目的や理念とは相反するもので両立し難いものです。 *  厚労省はこうした批判や意見を受けて、「障害保健福祉施策の推進に係る工程表(案)」を、後日示しました。  しかし、驚くことにその工程表は、骨格提言を「段階的・計画的に実現」するというものではなくて、自立支援法を「一部改正」するとした厚労省案「障害者総合支援法」を実施していく工程表なのです。  これでは、「厚労省は骨格提言を実現していく気などもともとないのでは」と批判されてもしかたありません。  それを了承した与党民主党の責任も重大です。 --- ◆意見 その9  国が約束した「基本合意」  が破られるならば、  障害者だけでなく、日本国民は、  なにを信じればいいのですか! ---  国が「基本合意」を破ることは、障害分野に限らない、あらゆる政策分野に悪影響のある暴挙であり絶対に許されないことです。  日弁連は、2月15日、「障害者自立支援法の確実な廃止を求める会長声明」を発表し、「訴訟上の和解において確約した内容とは相いれない」と厳しく批判しています。総合福祉法の実現を求める地方議会の意見書は5県56市町村(2月29日現在)で採択されています。  また、自立支援法違憲訴訟を含む13の訴訟団が共同抗議声明を発表しています。  政府は、事態の重大さに気づいてください!  「基本合意」は、国が約束したものです。政権や政治情勢の変動如何に関わらず国家として遵守すべき法的文書です。  「一部改正」法案では、「基本合意」は実現できません。 --- ◆薬害肝炎全国原告団・弁護団/ハンセン病違憲国家賠償訴訟全国弁護団連絡会/原爆症認定集団訴訟全国弁護団連絡会/全国生存権訴訟弁護団/全国B型肝炎訴訟弁護団/中国「残留孤児」国家賠償訴訟弁護団全国連絡会/東京HIV訴訟弁護団/大阪HIV訴訟弁護団/ノーモア・ミナマタ国賠等請求訴訟弁護団/ノーモア・ミナマタ国賠等請求訴訟東京弁護団/ノーモア・ミナマタ国賠等請求訴訟近畿弁護団/薬害イレッサ訴訟統一弁護団 --- 障害者自立支援法違憲訴訟原告団・弁護団と 国(厚生労働省)との基本合意文書    平成22年1月7日  障害者自立支援法違憲訴訟の原告ら71名は、国(厚生労働省)による話し合い解決の呼びかけに応じ、これまで協議を重ねてきたが、今般、本訴訟を提起した目的・意義に照らし、国(厚生労働省)がその趣旨を理解し、今後の障害福祉施策を、障害のある当事者が社会の対等な一員として安心して暮らすことのできるものとするために最善を尽くすことを約束したため、次のとおり、国(厚生労働省)と本基本合意に至ったものである。 一 障害者自立支援法廃止の確約と新法の制定  国(厚生労働省)は、速やかに応益負担(定率負担)制度を廃止し、遅くとも平成25年8月までに、障害者自立支援法を廃止し新たな総合的な福祉法制を実施する。そこにおいては、障害福祉施策の充実は、憲法等に基づく障害者の基本的人権の行使を支援するものであることを基本とする。 二 障害者自立支援法制定の総括と反省 1 国(厚生労働省)は、憲法第13条、第14条、第25条、ノーマライゼーションの理念等に基づき、違憲訴訟を提訴した原告らの思いに共感し、これを真摯に受け止める。 2 国(厚生労働省)は、障害者自立支援法を、立法過程において十分な実態調査の実施や、障害者の意見を十分に踏まえることなく、拙速に制度を施行するとともに、応益負担(定率負担)の導入等を行ったことにより、障害者、家族、関係者に対する多大な混乱と生活への悪影響を招き、障害者の人間としての尊厳を深く傷つけたことに対し、原告らをはじめとする障害者及びその家族に心から反省の意を表明するとともに、この反省を踏まえ、今後の施策の立案・実施に当たる。 3 今後の新たな障害者制度全般の改革のため、障害者を中心とした「障がい者制度改革推進本部」を速やかに設置し、そこにおいて新たな総合的福祉制度を策定することとしたことを、原告らは評価するとともに、新たな総合的福祉制度を制定するに当たって、国(厚生労働省)は、今後推進本部において、上記の反省に立ち、原告団・弁護団提出の本日付要望書を考慮の上、障害者の参画の下に十分な議論を行う。 三 新法制定に当たっての論点  原告団・弁護団からは、利用者負担のあり方等に関して、以下の指摘がされた。 @ 支援費制度の時点及び現在の障害者自立支援法の軽減措置が講じられた時点の負担額を上回らないこと。 A 少なくとも市町村民税非課税世帯には利用者負担をさせないこと。 B 収入認定は、配偶者を含む家族の収入を除外し、障害児者本人だけで認定すること。 C 介護保険優先原則(障害者自立支援法第7条)を廃止し、障害の特性を配慮した選択制等の導入をはかること。 D 実費負担については、厚生労働省実施の「障害者自立支援法の施行前後における利用者の負担等に係る実態調査結果について」(平成21年11月26日公表)の結果を踏まえ、早急に見直すこと。 E どんなに重い障害を持っていても障害者が安心して暮らせる支給量を保障し、個々の支援の必要性に即した決定がなされるように、支給決定の過程に障害者が参画する協議の場を設置するなど、その意向が十分に反映される制度とすること。   そのために国庫負担基準制度、障害程度区分制度の廃止を含めた抜本的な検討を行うこと。  国(厚生労働省)は、「障がい者制度改革推進本部」の下に設置された「障がい者制度改革推進会議」や「部会」における新たな福祉制度の構築に当たっては、現行の介護保険制度との統合を前提とはせず、上記に示した本訴訟における原告らから指摘された障害者自立支援法の問題点を踏まえ、次の事項について、障害者の現在の生活実態やニーズなどに十分配慮した上で、権利条約の批准に向けた障害者の権利に関する議論や、「障害者自立支援法の施行前後における利用者の負担等に係る実態調査結果について」(平成21年11月26日公表)の結果も考慮し、しっかり検討を行い、対応していく。 @ 利用者負担のあり方 A 支給決定のあり方 B 報酬支払い方式 C 制度の谷間のない「障害」の範囲  D 権利条約批准の実現のための国内法整備と同権利条約批准 E 障害関係予算の国際水準に見合う額への増額 四 利用者負担における当面の措置  国(厚生労働省)は、障害者自立支援法廃止までの間、応益負担(定率負担)制度の速やかな廃止のため、平成22年4月から、低所得(市町村民税非課税)の障害者及び障害児の保護者につき、障害者自立支援法及び児童福祉法による障害福祉サービス及び補装具に係る利用者負担を無料とする措置を講じる。  なお、自立支援医療に係る利用者負担の措置については、当面の重要な課題とする。 五 履行確保のための検証  以上の基本合意につき、今後の適正な履行状況等の確認のため、原告団・弁護団と国(厚生労働省)との定期協議を実施する。  以上 --- 要望書 内閣総理大臣 鳩山 由紀夫 殿 厚生労働大臣 長妻  昭  殿        障害者自立支援法訴訟団  2010年1月7日  私たち原告は、生きるために必要不可欠な支援を「益」とみなし「障害」を自己責任とする仕組みを導入する障害者自立支援法(以下「自立支援法」)等を廃止させるため訴訟を提起しました。  国は自立支援法の廃止を約束し、訴訟における私たちの主張を今後の障害福祉施策に生かすことを約束し、私たちと基本合意を締結しましたが、同基本合意文書に明記した事項に付随する障害福祉施策における課題は多く存在します。  次に挙げる広い意味で本訴訟に関連する課題について、国として議論を尽くし、責任をもってその解決のため万全を尽くしていただくよう、私たちは強く求めます。 1 障害福祉制度の根本問題 (1)契約制度のもつ根本的問題の解消    契約制度について、次のような批判があります。「公的責任が後退した」、「契約にたどり着く前に福祉から排除される」、「利用料の滞納により支援を打ち切られる」、「協働関係に立つべき福祉事業所と利用者に対立構造をもたらした」、「福祉が商品化した」。このような障害者の声に耳を傾け、障害者の権利行使としての公的支援制度を構築し、福祉を市場原理に委ねる「商品」と考えず、人権としての福祉はあくまで公的責任で実施されるという理念に立つ根本的な制度改革を望みます。 (2) 介護保険優先原則(障害者自立支援法第第7条)の廃止に向けた抜本的見直し    障害福祉施策において応益負担を廃止しても障害者が65歳になると介護保険により1割負担を強いられる矛盾を国は直視し、介護保険優先原則(障害者自立支援法第7条)及び厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課長、障害福祉課長通知「障害者自立支援法に基づく自立支援給付と介護保険制度との適用関係等について」(平成19年3月28日)(障企発第0328002号・障障発第0328002号)における  「@ 優先される介護保険サービス   自立支援給付に優先する介護保険法の規定による保険給付は、介護給付、予防給付及び市町村特別給付とされている(障害者自立支援法施行令(平成18年政令第10号)第2条)。したがって、これらの給付対象となる介護保険サービスが利用できる場合は、当該介護保険サービスの利用が優先される」との規定を廃止して下さい。 (3) 扶養義務の見直し    障害者支援は公的責任で行なわれるべきであり、家族責任を強いてはなりません。    民法の扶養義務を根拠に障害児者支援のための費用を家族に負担させる制度の根本的な制度改革を実施して下さい。 (4) 障害者福祉の社会資源の充実、基盤整備    障害福祉事業は報酬単価が低廉であり、全国各地において、事業所、有資格ヘルパー等が著しく不足しており、結果として、障害福祉施策を利用できない障害者が多数存在します。    「サービス契約」方式が許されるのは、国が憲法に基づくナショナルミニマム保障義務として、全国で社会基盤整備を尽くすことが前提です。    障害福祉施策を利用できない障害者が生まれないように、事業者、ヘルパー等の基盤整備を尽くしてください。 (5) 障害者の所得保障    障害者が地域社会で当たり前に生きていけるように、障害基礎年金の増額や手当の給付など所得保障制度を確立してください。 (6) 社会参加支援の充実    乳幼児や学齢期の障害児の支援、働く障害者への支援、障害者の子育て支援、障害児を持った親の支援など、すべてのライフステージのニーズに即した社会参加に制限のない支援を充実してください。 (7) 障害者のニーズにあった補装具支給制度の抜本的見直し  障害者の日常生活・社会生活支援のための補装具につき、必要性や規格の認定、支給額の決定などについて、各障害者のニーズにふさわしいものとなるように、現在の認定制度や基準を抜本的に見直すこと。 2 利用者負担の問題 (1) 障害福祉施策は人権保障として実施されるべきことに鑑みれば、障害があることを理由とする利用者負担をするべきではありません。     現状を前提としては、緊急に非課税世帯での無償化が実施されることとともに、課税世帯においても、法の下の平等に反しない利用者負担が緊急に検討されるべきです。     また、利用者負担について、次の要望をします。 1.自立支援医療、補そう具の自己負担について、無償として下さい。 2.子どもの権利条約第23条第3項に基づき、障害児の支援は無償として下さい。 3.児童福祉法における応益負担を直ちに廃止してください。 4.「働きに行くのになぜ利用料を取られるのか」との声を真摯に受け止め、就労支援施策においては無償として下さい。 (2) 収入認定の見直し    「利用者負担」の収入認定において、障害者年金、障害者手当等、就労、就労支援による所得、工賃等は全て除外して下さい。 3 緊急課題 (1) 実費自己負担の廃止    厚生労働省が新政権下において2009年11月に実施した実態調査でも、自立支援法導入に伴い「食費・光熱水費」等の実費の負担が障害者の生活を苦しめた事実が確認できます。    新法制定においてはもちろん、新法制定前の政省令改正等の暫定措置により、「食費、人件費等のホテルコスト」名目の自立支援法の福祉施設及び児童福祉法に基づく障害児者施設での実費自己負担を緊急に廃止して下さい。 (2) 報酬支払い    自立支援法の日払い制度が福祉を破壊したとの原告らの声を真摯に受け止め、事業所報酬の支払いを原則月払いに早急に戻してください。 (3) 就労移行支援の期限の廃止   就労移行支援が2年間の期限付き支援であるため、期間内に就労出来なかった利用者の行き場がない現実があり、「自立」を阻害しています。直ちに就労移行支援の期限を撤廃してください。 (4) 地域生活支援事業の地域間格差の解消   地域生活支援事業は、自立支援法上、市町村・都道府県が行うものとされているため、事業の質、量、負担の程度について、大きな地域間格差があるのが実情です。この地域間格差を解消し、自己負担を廃止するために、根本的な制度的・財政的な改革を行ってください。 4 当事者参加と検証 (1) 利用者負担を理由に退所していった利用者の実態調査     厚生労働省の2007年2月21日公表の自立支援法の利用者負担により退所、利用抑制を強いられた人の調査結果があります。その結果によれば、利用者負担を理由に退所した人が1625名認められるにも関わらず、これについて何らの救済をしていないことは国が非難されて然るべきことです。     これらの人の実態調査をすみやかに行い、必要な支援を行い、その権利と生活の安定を復活させてください。 (2) 新法制定過程の障害当事者の参画 新法制定過程の障害当事者の参画においては、障害当事者はもちろんのこと、最重度の障害者など意向を表現することが難しい人についても、その意向を反映できる関係者が参画することを望みます。 (3) 新法制定過程での私たちの参画 「障がい者制度改革推進本部改革推進会議」の下の自立支援法に替わる総合的な法制度を議論するための「専門部会」に私たち訴訟団が推薦する者を選任して下さい。 (4) 検証会議の立ち上げ  自立支援法に関し「なぜ誤った法律が制定されたのか」を調査、確認するための「検証会議」を設けて真相を解明して下さい。二度と同じ過ちを繰り返さないために不可欠です。                                              以 上  なお、「障害者自立支援法訴訟団」とは@原告団、A弁護団、B「障害者自立支援法訴訟の勝利をめざす会」の3者で構成されます。@は障害者自立支援法違憲訴訟を福岡、広島、岡山、神戸、京都、大阪、和歌山、奈良、滋賀、名古屋、東京、さいたま、盛岡、旭川の14地方裁判所に提起している原告70名(厳密には東京地裁での損害賠償請求訴訟を提起している障害児の父親1名を加えると71名)を指します。Aは上記訴訟の原告訴訟代理人団170余名です。Bは上記訴訟支援団体であり、詳細はHP「http://www.normanet.ne.jp/~ictjd/suit」にて公開しております。 ◆地方紙の社説 ○神戸新聞 障害者支援法/到底納得できない内容だ 2月27日  これでは、障害者団体や元原告らから「和解時の基本合意と相いれない」などと批判や抗議が相次ぐのも当然だ。  提言は当事者らが何度も議論を重ねてまとめた。全てに沿う新法は財源などから難しいとしても、もっと反映させる努力が要る。無理な項目についてはその理由を丁寧に説明するべきだ。  厚労省は、支援法を廃止すると全ての事業者を指定し直す必要があり、自治体などの負担が増す上、新法制定には野党の協力が得られないとして、改正手続きで対応したい考えだ。改正案は支援法の「事実上の廃止」ともいう。  名前を変え、共生社会の実現や社会的障壁の除去を理念に掲げたところで、肝心の中身がほぼ同じでは到底納得できない。提言にもう一度立ち返り、中身の再考を求めたい。 ○信濃毎日新聞 障害者支援法 廃止と新法制定が筋だ 2月23日  厚労省は改正案を「事実上の廃止」とするが、苦しい言い訳だ。現行法の枠組みを出ていない。  支援法は廃止し、障害者の権利を保障する新たな法律をつくる。  これは司法の場で取り交わされた約束でもある。政府は守らなくてはいけない。 ○中国新聞 障害者支援の行方 公約違反 繰り返すのか 3月5日 ○北海道新聞 障害者支援法 「改正」では約束が違う 3月4日 ○山陽新聞 自立支援法 見直しに政治は責任持て 2月20日 ○中日新聞・東京新聞 障害者の新法 現場の声を忘れるな 2月16日 ○神奈川新聞 提言の無視は許されぬ 2月16日  ○京都新聞 障害者自立支援 みあたらぬ政治の反省 2月9日 --- 発行日 2012年3月5日 発行  障害者自立支援法訴訟の基本合意の完全実現をめざす会   〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1     日本障害者協議会内   TEL 03-5287-2346  FAX 03-5287-2347   E-mail office@jdnet.gr.jp http://www.normanet.ne.jp/~ictjd/suit/index.html