トップページ > 障害者権利条約 コミュニケーション、アクセシビリティ、情報へのアクセスをめぐっての意見書(案)


障害者権利条約 コミュニケーション、
アクセシビリティ、情報へのアクセス
をめぐっての意見書(案)
        V2.1
 
                               
          日本障害者協議会(JD)情報通信委員会


◆はじめに

 障害者権利条約は、すべての人のために不可欠な権利としてアクセシビリティの保障とICT(Information and Communication Technology、情報コミュニケーション技術)の利活用を位置づけています(第2条「コミュニケーション」、第9条「アクセシビリティ」、第21条「情報へのアクセス」など)。障害のある人にとってICTは無が有になる希望の道具です。その利活用によって社会参加と自己表現が可能になることはさまざまな分野で活躍する障害当事者の姿が物語っています。
 しかし、この10年ほどの間に、わが国のパソコンやインターネット、携帯電話などICT環境は激変し、障害のある人の利活用の格差も広がっています。JDが行った調査では、「困ったことがある」の問いに、パソコンでは72.1%、インターネットで68.6%、携帯電話でも55.5%の障害のある人たちがYESと回答しています。
 アメリカでは差別禁止法としてのADAのもとで、「リハビリテーション法508条」によって連邦政府はアクセシブルなICTの調達を義務づけられており、ICT全般のアクセシビリティの底上げに大きな力を発揮しています。同様の動きは、欧州でも「Mandate 376」などにより進められています。わが国は、「JIS X8341」など世界をリードする技術基準をいち早く整備し、ユニバーサルデザインによるすぐれた携帯電話やデジタルTV放送の字幕対応、また障害者のための支援機器も多数開発されています。しかし、政府調達においても、障害者の差別禁止という点でも、強制力のある法制度や施策がなく、「技術」はあっても普及せず「利用」できない状態です。
 「障害のある私にも利用することができる!というだけの情報にまで、たどり着くのに何年もかかった。もっと早く知っていれば・・・」など喜びとため息が入り交じった感想を現場では聞きます。
 私たちは、政府が、障害者権利条約に基づき、障害のある人を社会から排除しないとするインクルージョンの理念(考え)を基本にしながら、現時点で実現性の高い平等な権利を実現できる「reasonable accommodation」を位置づけ、実質的な平等を確保するためにICT分野の利活用に関する国内法の根本的な見直しを要請するものです。


(1)アメリカやヨーロッパのように、差別禁止法制のもとで、アクセシブルなICTの調達の義務づけをはかる法律をつくってください。



(2)障害者権利条約の以下の条項はわが国のどの法制度や施策に該当するのでしょうか。
いくつかの省庁に重なることとは思いますが、政府として、各条項の実現をどうはかろうとされているのか、お考えをお聞かせください。

前文
(v)障害者がすべての人権及び基本的自由を完全に享有することを可能とするに当たっては、物理的、社会的、経済的及び文化的な環境、健康及び教育並びに情報及び通信についての機会が提供されることが重要であることを認め、
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 ●障害者基本法 3条(基本的理念)、4条(国などの責務)、19条(情報の利用におけるバリアフリー化)       障害者が利用しやすい電子計算機及びその関連装置その他情報通信機器の普及、電気通信及び放送の役務の利用に関する障害者の利便の増進、障害者に対して情報を提供する施設の整備等が図られるよう必要な施策を講じなければならない。
 行政の情報化及び公共分野における情報通信技術の活用の推進に当たっては、障害者の利用の便宜が図られるよう特に配慮しなければならない。

 ●IT基本法(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法) 
(すべての国民が情報通信技術の恵沢を享受できる社会の実現)
 第3条 すべての国民が、インターネットその他の高度情報通信ネットワークを容易にかつ主体的に利用する機会を有し、その利用の機会を通じて個々の能力を創造的かつ最大限に発揮することが可能となり、もって情報通信技術の恵沢をあまねく享受できる社会が実現されることを旨として、行われなければならない。
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第4条 一般的義務
(f)ユニバーサルデザインを促進するため、研究及び開発を約束し、又は促進する
(g)新たな技術(情報通信技術、移動補助具、装置及び支援技術を含む)であって、研究及び開発を約束し、又は促進し、並びにその新たな技術の利用可能性及び使用を促進する
(h)移動補助具、装置及び支援技術(新たな技術を含む)、障害者にとって利用可能なものを提供
(i)障害者と共に行動する専門家及び職員に対する研修を促進すること。

第9条 アクセシビリティ
1 他の者と平等に、自然環境、輸送機関、情報通信(情報通信技術及び情報通信システムを含む)並びに公衆に開放され、又は提供される他の施設及びサービスを利用することができることを確保するための適当な措置
(b)情報、通信その他のサービス(電子サービス及び緊急事態に係るサービスを含む)

(a)最低基準及び指針の実施を発展させ、公表し、及び監視すること。
(c)研修
(d)点字の標識及び読みやすく、かつ、理解しやすい形式の標識
(e)生活支援及び仲介する者(案内者、朗読者及び専門の手話通訳を含む)
(f)障害者に対する他の適当な形態の援助及び支援を促進
(g)新たな情報通信技術及び情報通信システム(インターネットを含む)の利用

第21条 表現、意見表明、情報アクセス
 障害者が、第二条に定めるあらゆる形態の意思疎通(略)の権利を行使することができることを確保するためのすべての適当な措置をとる。
(a)適時に、かつ、追加の費用を伴わず、一般公衆向けの情報を提供すること。
(b)手話、点字、補助的及び代替的な意思疎通並びに障害者が自ら選択する他のすべての利用可能な意思疎通の手段、形態及び様式を用いることを受け入れ、及び容易にすること。
(c)民間の団体が情報及びサービスを障害者にとって利用可能又は使用可能な様式で提供するよう要請すること。
(d)マスメディア(インターネットを通じて情報を提供する者を含む)がそのサービスを障害者にとって利用可能なものとするよう奨励する。

第24条 教育
1 締約国は、 あらゆる段階における障害者を包容する教育制度及び生涯学習を確保する。
(a)点字、代替的な文字、意思疎通の補助的及び代替的な形態、手段及び様式並びに適応及び移動のための技能習得
(c)視覚障害若しくは聴覚障害又はこれらの重複障害のある者(特に児童)の教育が、その個人にとって最も適当な言語並びに意思疎通の形態及び手段で、かつ、学問的及び社会的な発達を最大にする環境において行われることを確保。
4 研修には、適当な意思疎通の補助的及び代替的な形態、手段及び様式の使用並びに障害者を支援するための教育技法及び教材の使用を組み入れる
5 合理的配慮が障害者に提供されることを確保する

第29条 政治参加
 締約国は、障害者に対して政治的権利を保障し、及び他の者と平等にこの権利を享受する機会を保障する
(i)投票の手続、設備及び資料が適当であり、利用可能であり、並びにその理解及び使用が容易であること
(ii)適当な場合には技術支援及び新たな技術の使用を容易にすることにより、障害者が、選挙及び国民投票において脅迫を受けることなく秘密投票によって投票する権利並びに選挙に立候補する権利並びに政府のあらゆる段階において効果的に在職し、及びあらゆる公務を遂行する権利を保護すること。

第30条 文化・レクレーション・余暇・スポーツ
  締約国は、障害者が他の者と平等に文化的な生活に参加する権利を認める
  創造的、芸術的及び知的な潜在能力を開発し、及び活用する機会
  知的財産権を保護する法律が、障害者が文化的な作品を享受する機会を妨げる不当な又は差別的な障壁とならないことを確保



(3)つぎのような実態や意見が当事者から寄せられています。障害者権利条約に反することと思われますが、政府として、どのように改善されようとしているのか、お考えをお聞かせください。

1)「地域差」「支援差」は差別ではないか

○めぐりめぐってICT支援と出会い、そこから人生の喜び、可能性が広がった。就労の可能性も広がった。でも、どうして「めぐりめぐらないと」そういったICT支援に出会えないのか。同じ日本に生まれながら地域差、支援差が歴然と存在する。それは権利条約に反する差別ではないか。
○言語が話せない人たちのコミュニケーションは、ST(言語聴覚士)、PT(理学療法士)、OT(作業療法士)が現場で支えている。しかし、各専門職の内部努力はあるものの、施策が未確定のため、支援は質・量ともにバラバラであり、統一されていない。

2)「技術」はあっても「利用」できない
○「音声合成」は、視覚障害者だけでなく、言語障害のある人の発言にも有用だが制度がない。
○情報アクセスと著作権法はどのように整合性が保たれるのか。一般図書(書籍)を読むのと同等程度に電子図書データへのアクセスや入手が確保されていない。
○裁判員制度が実施されるが、障害者の情報アクセス、意見表明権は、具体的にどう担保されるのか。

3)「情報アクセス」は、政府のどの機関が責任持つのか
○毎日の日常の小さな情報の積み重ねが保障されていない
○総務省情報通信利用促進課はなにをしているのか。「情報の利用におけるバリアフリー」の具体化を本格的に推進すべきだ。
○字幕、解説、手話放送はだいじょうぶか
○デジタル放送では、「すべての障害者」が対象にされているか
○災害時の情報対策は万全か
○電子投票のアクセシビリティは確保されたのか。その後、事例を聞かない。

4)学校での情報アクセスはだいじょうぶか
○「研修には、適当な意思疎通の補助的及び代替的な形態、手段及び様式の使用並びに障害者を支援するための教育技法及び教材の使用を組み入れる」という内容にまで踏み込んでいない。教える側の研修機会が少なすぎる。
○盲学校でのパソコン教育は高等部からであり、遅すぎる。
○障害があっても高等教育への進学が望ましいと考えるが、受け入れる側である教育機関(大学や専門学校など)への格差是正に向けた支援や教職員の研修制度(FDやSD)などが未整備であり、障害学生支援を専門とする職員などの養成も不可欠。対策はとられないのか。
○「中途失明で8年たった。見えなくなったとき、それでもなんとなくなんでもできるとおもっていた。が、本当にたいへん。ともかく理解するのに時間がとてもかかる。それを一生懸命やらざる得ない」。卒業後の学びが保障されていない。条約に反する。
○加齢による盲、ろうの状態に対して適切な支援施策がない。施策をつくるべきだ。

5)文化・レクレーション・余暇・スポーツは軽視してはならない
○読書をする権利は人間の根本的な権利だ。過去の英知が入手できないことは、大きな不利益だ。にもかかわらず、「活字読書機」さえも、ある自治体とない自治体がある。 
○肢体不自由にとって「ページめくり機」はたいへん役立つが、補助が無く、30万円では手がでない。EUでは補助があり普及している。なんとかならないか。

6)福祉用具の研究開発、普及の促進を
○日常生活用具では「パーソナルコンピューター」は価格の低下・保有率の上昇などの理由から自立支援法以前に給付は廃止された。パソコン周辺機器は、日常生活用具の「情報・意思疎通支援用具」に位置づけられたものの、自治体(市区町村)に委ねられているため、給付にかなり地域差が出ている。
○入出力機器の本人へのきめこまかい適合を提供するためのしくみができていないため、自立支援法で「補装具」となった「重度障害者用意思伝達装置」の給付も含め、「判定」の前の機能評価や用具選択など専門的な支援の養成が急務となっている。
○いまのような「提案公募型」助成事業(=既存技術の市場拡大)では、社会全体を見渡した視点での「産業技術の向上」にはなり得ない。
○補装具の購入又は修理に要した費用だけを対象とするだけでなく、適合(フィッティング)という視点で、より適したもの、より目的にかなうもの、より「各個人が自らの人生を変革していくための手段(WHO 1982 世界行動計画におけるリハビリテーションの定義)」を提供する、ということから考えるならば、「調整、適合、継続利用への支援」をも保障すべきだ。

 *JD情報通信委員会は、この意見書(案)へのご意見を募集しています。
  12月20日をめどに、つぎのメールにお寄せください。 
  電子メール jdict@nginet.or.jp
  

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