は が き 通 信 Number.1
POST CARD CORRESPONDENCE 1990.2.1


《ごあいさつ》

寒中お見舞い申し上げます。
昨年末に向坊弘道氏の「よびかけ」をお送りしてから約2カ月経ちました。よびかけ人の向坊氏は現在フィリピンに滞在中です。3月の帰国では間隔があきすぎますので、僭越ながら私が向坊氏の代行として第1号を発行させていただきます。
「よびかけ」を郵送後、数人の方から私の研究室に賛同のお手紙やお電話をいただきました。なかには呼びかけたからには続けて発行してほしいという注文もありました。1号で中断せず、定期的に発行できるようにしたいと思いますが、そのためにも最初から欲張らず、継続できるような方法を工夫しながら、この通信を高位頚損者の情報網の1つにしていければと願っています。

1990年2月1日 松井


向坊氏の年賀状


あけましておあでとうございます。いまフィリピンのほうには私と高松さんと韓国人の身障者がおります。・・・政治的な混乱による危険はありません。のんびりと平和です。日本からのお客さんが入れ替わりたちかわり来ています。

現地のスタッフもやっと少しづつ仕事ができるようになりました。採用しているデ・メサファミリーの酋長が病気のために今年は長期滞在希望者を断わっています。
さて同封の写真は私が考案した簡易リフターで、GLIP製作、費用は1万円余りかかりました。現在2台作り供用中です。ロープと滑車の原理で身障者の体重が4分の1の引っ張り力に変わるのがミソで、どこかに情報提供できれば、こうゆうものもあることを広く知らせて下さい。スタッフの男性2名が脱腸になったのですが、このリフターで事故は防げる見通しです。では冬の間お身体を大切に。


F氏の自己紹介


昭和40年8月26日生まれ 24歳 男。
受傷 昭和58年12月30日交通事故(自動車) 現在沢渡温泉病院入院中。私は頚髄損傷のなかでも、生活をするという中では最も重度の頚損です。
肩から下の働きや感覚を失い、ほとんど介助者にたよる毎日です。

受傷時は高校在学中でもあり、身体障害者という言葉を聞いたときのショックはとても大きいものでした。頸髄固定手術を受けた後、リハビリテーションを目的として、現在の沢渡温泉病院に転院してきました。時のたつにつれ、働きはもどらないものの発熱、褥瘡、起立性低血圧、尿路管理などの基本的な自己生活管理は順調にいきました。リハビリテーションといっても私の場合、症状が固定した今は、現在の体調を維持する事が主で、ROM訓練、マウスティックを使用したパソコン訓練くらいです。

受傷後6年がたちますが、自分の障害を受容することは皆さん経験済みでしょうが、本当に大変なことです。私が、一人の障害者として生きていけるのも勿論、家族を始め沢渡温泉病院の職員の方や色々アドバイスをしてくれた障害者の皆さん、その外大勢の皆さんのお力のおかげだと思っています。そしてワープロで自分の思いを活字にし、手紙を書いたり日記を書いたり、電動車椅子で自分の思うところに動けるということも、頚損になった私にとって素晴らしいことのひとつです。

最近は外出に心がけ、頸損連絡会の総会に出席したり、ピア・カウンセリング集中講義に参加したり、昨年は電話級アマチュア無線技士の免許を取得しました。私は退院後、療護施設へ入所が決まっていますが家で生活している皆さんから見れば何故?と思われると思います。確かに家族と生活することも大切です。でも18歳で受傷した私は家には帰らず介助者に頼りながらも親から独立した生活をしたいのです。

施設で生活していても障害者運動をしたり、サークル活動や、その地域で立派に生活している人もたくさんいるようです。そして施設退所後もバークレイのように、完全な四肢麻痺者が、一人もしくは障害者どうしでの生活を日本で実現するという事が私の大きすぎる夢です。

自分の考えばかり書いてしまいましたが、90年代に入り、福祉や福祉機器などもいままで以上に進歩する事と思いますが、時代が進むにつれ、交通事故や労働災害などで頚髄損傷、とくに高位の頚髄損傷者が増えることは確実です。私たち高位頚損者は、これから増える高位頚損者が、生き生きと人間らしい生活をおくれる社会を作っていくことが、これからの役割だと思います。

まだまだ寒い日が続きます。風邪など引かれませんようお身体を気をつけて、お過ごし下さい。

JMITTE

ニュース1


中枢神経の再生 ラット使い成功


「切断された中枢神経を再生させることにスイス・チューリッヒ大の研究グループがラットの実験で成功し、18日発行の英科学誌『ネイチャー』に発表した。
ほ乳類の傷ついた中枢神経は再生しない、という常識を覆す成果で、神経の損傷を修復する新しい治療法に道を開くものだ。
研究グループはまず、神経成長阻害物質の働きを止めるように作用するモノクローナル抗体を、生物工学の手法でつくった。この抗体をラットに与えると、切断された神経が脊髄の中で11ミリ伸長した。通常、中枢神経繊維は切れると1ミリ以上伸びない。投与した抗体は、成熟神経細胞を取り巻く“さや”に存在するタンバタ質と反応して,神経の再生を可能にするという」(朝日新聞1月19日、なお文献は研究室にあります。)


ニュース2


高位頚髄損傷者に関するリハビリテーション医学書が米国で出版(1989年)


高位頚髄損傷者の専門書はこの本が最初だと思います。
この本によりますと、脊髄損傷の治療は過去40年間に飛躍的に進歩し、受傷者の寿命を伸ばしていますが、高位頚損者にその変化が目立ってきたのは80年代以降だそうです。高位頚損者とは頚髄1番から4番までの完全損傷者であり、1980年の調査によると、米国の年間発生数は頚髄1番から3番までの受傷者が166人、頚髄4番が540人ということです。
内容は第1章 急性期の治療、第2章 リハビリテーション、第3章 退院後の計画、第4章 現実の世界となっています。
そのうち皆さんの関心は「第4章 現実の世界」だと思いますので、次号から紹介する予定です。



あとがき



堅苦しい通信にならないようにと工夫したつもりですが、いかがでしょうか。感想をおよせ下さい。隔月くらいの間隔で通信を出せればと考えています。次号は3月下旬を予定しています。なお私どもの研究室で通信を出させていただく間、当研究室の若手の研究員、渡辺さんが参加してくださることになりました。大学院を終え神経研に来て5年目の、まだまだ修行中の身です。私自身の勉強も兼ね、最近出た本や論文の中から、ちょっとおもしろいデータやトピックスを紹介していきたいと思います。どうぞよろしく。(渡辺)

東京都神経科学総合研究所 社会学研究室 松井+渡辺



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